「……では、例の件はどうかね？……」
闇の中に浮かび上がるキールの顔。
人類補完委員会……キールを含む、５人の男が、その場にいた……ゲンドウの姿は無い。
「あれほどの圧倒的な強さ、信じられようか？」
「自己再生、ＡＴフィールドの使い方……あれでは、使徒と変わらないよ」
「碇め、あれほど、勝手なことをするなと言っておいたのに……」
「我等のシナリオから、大きく逸脱しているではないか」
男達が、初号機とゲンドウに対する不満を述べる。
キールが最後の締めを行う。
「可能な限り修正しよう……全ては、シナリオに沿って進めねばならぬ」
男達が姿を消し、キール１人が闇の中に残る。
「ＥＶＡシリーズ、量産を始めるんだね」
「君か……そうだ。我等の手によるＥＶＡだ」
「上手くいくといいけどね」
若い声……まだ、少年のようだ。
キールは、その声を発する人物の方を見ることなく話を続ける。
「上手くいかせる。その為のネルフだったのだし、その為の君だ」
「そうだったね……忘れるところだったよ」
「協力、頼む」
少年は、笑っている。
あちこちが壊れたネルフ本部。
「こりゃ、暫くは使えそうにないですね」
青葉が、呆れたように言う。
「そうね……まさか第一発令所がこの有様なんてね……」
リツコが溜息をつく。
無理矢理に出撃した初号機のせいで、本部の施設の一部が壊れてしまっていた。
この第一発令所も、その破壊から逃れてはいなかった。
「修理完了までの１ヶ月、第二発令所を使うしかないわね」
「それじゃ、そのように手続きします、先輩」
マヤが軽やかに応えて、無線機で連絡する。
「弐号機は３週間は修理に掛かるってのに、初号機は簡単なメンテナンスで終わり、か……」
「仕方ないですよ。弐号機の自己修復能力は高くはありませんからね」
ミサトの呟きが聞こえたのか、日向は軽い口調で言った。
「……日向君、悪いんだけど、これ、調べといてくれる？」
ミサトは、小さく折り畳んだ紙片を渡す。
日向は、黙ってポケットにしまうと、足早に去っていった。
そこへ、リツコがやってくる。
「何を熱心に見てるの、ミサト」
「リツコ……ＥＶＡって何なの？」
ミサトは、振り返ることなく、リツコに尋ねる。
「人が造り出した、人に近い形をした物体」
「あの時、南極で拾ったモノをコピーしただけじゃないの？」
リツコは答えない。
数時間後、ミサトは司令室にいた。
「碇司令、もう一度再考願えませんでしょうか」
「何をだ？」
「サード・チルドレン無期限拘禁の停止です」
「その件は、認められない……そう言った筈だが？」
ゲンドウは、全く意に介さない。
ミサトは、しつこく迫った。
「本部内でも、彼女に対する司令の処置に対して、不満の声が挙がっています。その影響を鑑みても、このまま彼女を拘束し続けるのは得策ではないと思われますが……停止がダメでしたら、せめて、期間の縮小だけでも……」
「葛城三佐、君に心配して貰う必要は無い。他の用件が無いなら、下がりたまえ」
「……失礼しました」
ミサトが司令室を出るのと入れ替えに、冬月が入ってくる。
「葛城君は、何の用だったんだ？」
「……大した事では無い。それより、何だ？」
「うむ、今の状況はあまり良くないな……ユウカ君の件、何か手を講じた方がいいぞ」
「……お前もか」
うんざりしたように、ゲンドウが口を開く。
「……葛城君もか……どうするんだ、碇」
「黙らせるわけにはいかんのか？」
「お前の考えているより、遙かに多いぞ」
「どのくらいだ？」
「ストライキを起こされたら、ここの機能が成り立たないくらいだな」
冬月は、手に持ったメモを見ながら言った。
ゲンドウは、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「そんな気配はあるのか？」
「今はまだだが……おそらく、２週間は保たんな」
「……１週間後に、拘禁は解除しよう。だが、初号機の凍結は続ける」
「いい判断だと思うよ……」
冬月は、取りなすような言い方をした。
第弐拾伍話 影達の行進
３日後、初号機ケイジ・ブリッジ。
リツコが、いつもの様に、データシートを挟んだボードを手に、初号機の修復作業を見ていた。
「リツコ、どんな状況？」
未だにギプスを填めたままのミサトが、軽い口調で尋ねる。
「左手の装甲板を張り替えるだけだもの、直に終わるわ。その後はすぐに凍結作業だけどね」
リツコは、興味なさそうに答える。
ミサトは、初号機を見つめた。
「松代の時のヤツ、見た？……ＥＶＡって、あんな事出来るの？」
「使徒に乗っ取られた参号機を、傷一つつけずに使徒だけ殲滅……いえ、あれは浄化とか、昇華と言った方が相応しいわね……兵器には出来ない事よ」
「それとも、あれがユウカちゃんの能力ってヤツ？アンタが言ってた……」
「でしょうね。その直前に起きた、光の翼……あれも、不思議だけどね」
「リツコの口から、不思議なんて出てくるとは思ってなかったわ」
ミサトが、溜息と共に言う。
リツコは、それ以上言わなかった。
冬月は、自室で、昔のことを思い出していた……
１９９９年……まだ、大学で教鞭を執っていた頃、冬月は２人の人物と出会った。
１人は、生物工学を専攻する学生……碇ユイ。
１人は、冬月を警察の拘留から逃れるために身元引受人に指名した男……六分儀ゲンドウ。
その後、２人は付き合いだした。
……暫くして、再びゲンドウと会ったのは２００２年、南極での事……ゲンドウとユイが結婚したのを知った。
翌年、冬月は箱根にあった国連直轄の機関・人口進化研究所にゲンドウを訪ねた。
そこで、赤木ナオコ博士と出会い、『ＭＡＧＩ』の基礎理論と、『アダム』より造られしモノ……ＥＶＡを見せられた。
そして、悪魔の誘いに乗ってしまった……
ゲンドウの言葉が思い出される。
『冬月……俺と一緒に人類の新たな歴史をつくらないか……』
そして……２００４年、ユイが……２０１０年、ナオコが死んだ……
ユイの死の原因は、ＥＶＡの実験中の事故だった。
ナオコは、『ＭＡＧＩ』の完成した日に、謎の自殺を遂げた。
残った、『ゲヒルン』のスタッフは、そのまま『特務機関ネルフ』へと転属させられた。
「もう、５年前か……今更、思い出すとは……やはり……」
そう呟いた冬月は、手にした写真に、ふと考えさせられる。
（ユウカ君を見ていると、ユイ君を思いだしてしまう……碇、お前はどうなんだ？）
冬月は顔を上げ、外がとっくに暗くなっているのに気付いた。
ミサトは、ユウカの監禁されている部屋のドアの前に、膝を抱えて座っていた。
ユウカも、ドアを挟んで同じように座っている。
「ミサトさん、今日はどうしたんですか？」
「ん……チョッチ、お姉さんのお話に付き合って欲しいのよ、いい？」
「どうぞ……」
ミサトは、ゆっくりと話し始めた。
「アタシが、南極でセカンド・インパクトにあったって話は知ってる？」
「……一応、聞いてます」
「それから、数年の間、失語症だったんだけど……想像できないでしょ。ま、大学に行くまでには直ったんだけどね」
「……大変だったんですね」
ユウカは、まるで自分の事のように、悲しげに言った。
「ま、ね。で、そん時にリツコや加持と出会ったの。加持とは……暫く付き合ってた」
黙り込むミサト。
ユウカが声をかけようかと思ったとき、ミサトは再び口を開いた。
「大学出てから、アタシは国連軍に入った。訓練は厳しかったけど、それなりに充実した日々を過ごしたつもり……」
「それから、どうしたんですか？」
「２年前くらいに、ネルフに誘われたの……ううん、本当は、とっくに決まってたらしいわ……職務はともかく、南極の唯一の生き残りは、手元に置きたかったらしいわね」
「……あの人の好きそうな事です」
「アタシは、渡りに船とばかりに喜んだ……だって、父の敵である、『使徒』を殲滅するのが仕事だって言うんだもの……精神的には、ガキだったって事よね」
「普通の親子なら、当たり前だと思いますよ」
ユウカは、その話を聞きながら、『彼』の記憶の中のミサトと較べていた。
そして、そんなことをしている自分が恥ずかしくなった。
（私、イヤな事してる……ミサトさんの事、詮索してどうするのよ……）
「ありがと……でもね、敵討ちなんて、結局は自己満足でしかなかったわ……あなた達を危険な目に遭わせて、そんな上に成り立つ事になんて、何の意味も無いって……あなた達に教えられたのかもね」
「ミサトさん、私……」
「……アタシの話はこれでおしまい……ユウカちゃんの話は、あなたが帰ってきてから聞いてあげる」
「私、あそこに帰っていいんですか？」
「何言ってるの。あなたの家なのよ……当たり前じゃない」
ミサトの言葉に、ユウカは涙が止まらなかった。
ミサトは、その場を離れながら思う。
（アタシは、彼女にあんな事言える立場なんだろうか……どこかで、彼女のことを恐れてるんじゃ……だから、最後に取り繕うようなこと、言ったんじゃないの？）
ミサトは、自分を責めるようなことしか、頭の中に浮かんでこなかった。
ミサトが去って、ユウカは１人、暗い部屋に取り残される。
気を抜いた途端に襲いかかる痛み……日に一回はこれを押さえる努力をしている。
「……クッ……まだ、終われないのに……『彼』の分まで、頑張らなきゃいけないのに……」
苦しそうに息を吐くユウカ。
ただ、想いを果たすためだけに……自らの命さえもすり減らしていく……
「なあ、トウジ……ユウカちゃん、どうしたんだろうな……」
昼休み、屋上で一緒に昼食を取っていたトウジとケンスケ……
トウジが、ヒカリの作った手弁当なのに対して、ケンスケはパンをかじっていた。
「何で、ワシに聞くんや？」
「……俺に黙ってパイロットになったくせに」
「選んだんは偉いさんや、ワシが頼んだ訳やない」
２人は、それきり黙って空を見上げていた。
同じ頃、教室の一画で、アスカは外の景色を眺めていた。
レイは、黙ってその様子を見ている。
マナとマユミは、２人に声がかけられないでいた。
トウジから弁当箱を回収してきたヒカリが近付いてくるが、アスカとレイは無反応だ。
「アスカ、綾波さん、どうしたのよ？」
ヒカリが声をかける。
が、２人とも聞こえていないようだ。
「ここんとこ、ずーっとこんな感じよね」
「そうですね……ユウカさんが休んでからですから、もう、１０日くらいでしょうか？」
マナとマユミがその様子を見ながら話している。
「でも、ユウカさんが休んでるのって、何でかな？アスカや綾波さんに聞いても分からないみたいだし……霧島さん、聞いてない？」
「え？私？うーん、知らないなぁ……山岸さんは？」
「私も、聞いてませんよ」
ヒカリは理由が分からないのを訝り、マユミも本当に知らない。
マナは、理由を知りつつ知らない振りをするのを本当に辛く思っていた。
（みんな、ゴメンね……本当のこと、言えないの……辛いな、ここにいるの……）
ＥＰＩＳＯＤＥ：２５ ＩＮＴＥＲＬＵＤＥ
ユウカは、部屋の外に人の気配を感じて眼を覚ました。
（……何をしに来たの……）
外にいる人物が、ユウカに問いかける。
「何故、お前は私に逆らうのだ？」
ゲンドウは静かに問いかける。
「今更、何の御用ですか？”碇司令”……」
「……お前は、もう一度ユイに会いたくないのか？」
「泣き落としですか。似合いませんよ」
ユウカは、冷たく突き放したように言う。
「はぐらかさずに、真面目に答えろ」
「……お母さんは、もういないもの……会えるわけ無いじゃない」
「……いや、会える……」
「人類補完計画ですか？一瞬だけ会っても、切ないだけでしょうに……それとも、初号機から、記憶情報を元にしたサルベージ？混ざったジュースは、果物には戻せませんよ」
「どこまで知ってる？」
狼狽した声で問い続けるゲンドウ。
「さあ？どこまででしょうね？拷問でもして調べてみます？」
「くっ……どうせ、そんなことをしても言うつもりは無いんだろう？」
「もちろん、その通りです……現実を見つめ直したらいかがです？」
「現実……だと？」
「ええ……貴方には何も残ってない事をね……さ、てと、他に用が無いなら、私、眠りますから」
ドアの向こうのゲンドウから、憎しみの気配を感じながらも、ユウカはベッドに戻って眠ってしまった。
足音が、強い響きを残して去っていく。
それから６日後……
「出てきたまえ、ユウカ君」
ドアを開けて、冬月が声をかける。
「出て、いいんですか？……無期限の拘禁じゃ無かったんですか？」
「立前と言うか、見せしめのような物なんでな……君が大人しく従ってくれて助かったよ」
「……あの人以外に迷惑は掛けたくないですから……帰っていいんですよね？」
ユウカは、押さえがちに尋ねる。
冬月は、苦笑しながら答える。
「ああ、ここを出る以上は、家に帰っても構わんよ」
「ありがとうございます！」
ユウカは、冬月に頭を下げて、嬉しそうに走り去っていく。
その背中を、冬月は優しげに見送った。
「碇では押さえが効かなくなったか……」
「全くだね、自分の娘さえ言うことを聞かせられない……」
「ネルフ自体も、最低限の機能しかしないように要員を組んだにもかかわらず、十二分な成果を上げているのも問題だな……」
「うむ、人的損害が零に等しいとはな……」
「左様、いくら碇が”アレ”を読んでいたとしてもね……」
「では、そろそろ押さえつけるべきかね？……」
「いや、もう少し様子を見よう……」
「そうだな、予定されている使徒は後３体いるのだし……」
「槍の所在も確認せねばならんしな……」
「全くだ。あれだけのモノ……あの本部のどこにしまったやら……」
闇の中に、人類補完委員会の男達の声が響く。
キールは、何も語らずに、他の意見を吟味しているようだった。
ユウカは、ミサトのマンションのドアを前にして、悩んでいた。
（……私、本当にここに帰ってきて良かったのかな？……）
ジッと立ちすくんでいると、後ろからポンと肩を叩かれる。
ビクッと身を震わせて、ユウカは恐る恐る振り向こうとすると、肩を叩いた相手は、優しく抱きしめてくれた。
「何してるの、ユウカちゃん。早く入りましょ」
「み、ミサトさん……」
ミサトは、ユウカを抱きしめたまま、ドアを開ける。
「さ、ユウカちゃん……」
ミサトは優しくユウカを促す。
「……た……ただいま……」
「お帰り……アスカ、レイ、ユウカちゃん帰ってきたよ！」
ドタドタと走る音が聞こえ、アスカとレイが玄関に顔を見せる。
２人は、一瞬驚いた顔をして……アスカは最高の笑顔でユウカに飛びつき、レイは、頬を伝う涙を止められなかった。
「お帰り、ユウカ！」
「ユウカさん……お帰りなさい……」
溢れる涙をそのままに、ユウカはアスカとレイにしがみついた。
それから数日が過ぎた……
久々に登校した日こそ、多くの友人に囲まれ困っていたが、今は静かなものだ……
ユウカは、すでに指定席となった屋上に居る。
愛用のビデオカメラを手入れしているケンスケに、ユウカが尋ねる。
「ねぇ、ケンスケ君……それ、私でも使える？」
「ん？簡単だよ。最近のは、自動で照準が合わせられるからね」
「そうなんだ……今度、私も買おうかな」
「だったら、新湯本まで行けば、安いのが売ってるよ」
「ありがと。それじゃ、土曜にでも行って来るかな」
「ま、分からない事があったら俺に聞いてよ」
「うん」
「何をコソコソ話してんねや？」
トウジが、２人の間に割ってはいる。
「大したことじゃないって、ね、ケンスケ君」
「そうそう。コイツの話をしてただけさ」
そう言ってケンスケは、手にしていたビデオカメラを見せる。
トウジは、呆気にとられた顔をして……
「かーっ、お前ら色気無い話しとるのう」
「放っとけよ」
トウジとケンスケが漫才のように話を始めたのを、ユウカは楽しそうに眺めていた。
大きな換気扇。
その前で、加持は人を待っていた。
カツン……カツン……カツン……
固い靴音が近付いてくる。
加持は、その相手の方を見て、声をかけた。
「よう、遅かったじゃないか」
相手は何も言わずに懐から拳銃を取り出す。
「おいおい、何の真似だ、これは？」
軽い口調で、両手を挙げながら加持は尋ねた。
「……動きすぎたな。”上”の方はかなりのご立腹だ」
一見、どこにでもいそうな風体の男が、銃口を加持の眉間に合わせた。
パスッ……
パン……
微かな音に続いて、乾いた音がする。
咄嗟に身を伏せた加持は、起き上がりつつ、男の後ろに立っていた影に目を凝らす。
「……悪いな、助けて貰って」
「いいんスよ……こっちも、コレが仕事ッスから」
拳銃を片手に、青葉が加持の方に近付く。
「で、今度は俺か？」
「いいえ、加持さんには手出ししないってのが命令ですんでね」
そう言いながら、青葉は撃った男に近付いて生死を確認する。
加持は、警戒の様子を見せながら、戯けたように口を開く。
「いいのか、スパイを放って置いても」
「……伝言があります。暫く、隠れた方がいいぞって事ッス……後、コレは土産だそうですけど？」
青葉は、ズボンのポケットから出したデータディスクを、加持に投げる。
受け取った加持は、それを胸のポケットにしまうと、軽く答えた。
「分かった……暫く姿を眩ますとしよう……冬月さんによろしくな」
「了解ッス……お元気で」
その場に残る青葉と、立ち去っていく加持。
加持の姿が消えると、青葉は無線機で通信をする。
銃の弾数を確認しながら……
「青葉です……ええ、とりあえず、始末しました。はい、対外的な責任は全部コイツに被って貰います」
通信を終えると、青葉は男を爪先で転がして、背中から撃った場所に正確にポイントして２発の弾丸を撃ち込んだ。
パスッ、パスッ……
消音器付きの拳銃の静かで乾いた音だけが、そこに響いた。
リツコの研究室。
リツコは、端末と睨めっこしながら、何かを打ち込んでいた。
「先輩、失礼します」
マヤが、両手にファイルを抱えて入ってきた。
「頼まれてた、Ｄ−３７８１からＫ−１０５５までの、資料をまとめた物です」
「ありがと。そこに置いといて」
端末から眼を離すことなく、リツコは言いつけた。
マヤは、素直にファイルを机の上に置くと、リツコの使っている端末の画面を横目で覗いた。
そこには、かなり複雑なプログラムが打ち込まれ続けていた。
「先輩……何のプログラムですか？」
「これ？ハッキング対策用のちょっとしたプロテクトソフトよ。完成したら見せてあげるわ……だから、誰にも言わないように。いいわね、マヤ」
リツコが念を押すように言う。
マヤは、黙って頷いた。
作戦部・第一作戦室。
ミサトは、机の上の書類を読み終わったところだった。
そこに、日向が近付いてくる。
「葛城さん、これに目を通してくれますか？」
日向が、一冊のファイルを持ってきた。
「何、コレ？」
「追加された予算で組んだ、ネルフ本部の対人防御設備の一覧と説明用の資料です」
「……いつ作ったの、コレ？」
キツネにつままれたような顔で、ミサトが日向に尋ねる。
「……葛城さんが、僕達に作っておけって言ったじゃないですか」
「……そういや、そうか。ここんとこ、忙しくて忘れてたわ。じゃ、見とくわね」
そう言って、ミサトはファイルを膝の上に載せた。
「碇、最近のお前の様子、おかしいぞ……何があった？」
パチン……
将棋の駒を置きながら、冬月がゲンドウに尋ねる。
「……気にするな。大した事じゃない」
「……ユウカ君に何か言われたのか？」
ゲンドウが緊張するのが、冬月には分かった。
（図星か……）
「お前が落ち込むなら、かなりの事を言われたんだろうな……」
「アレは、人類補完計画の事も、サルベージの事も知っていた……全てを『リリス』から聞いたと言ったんだ……」
「ほう、面白い話だな」
本来、研究者である冬月には、興味をそそられる話だった。
ＥＶＡの中に残る、『リリス』の魂……それと同調して情報を得る……ＥＶＡに携わる研究者にとっては夢のような話だ。
「ユイをあの中からサルベージする事は出来ない……人類補完計画も達成させない……アレはそう言った……今までの事から、あながち嘘とは言えない……」
「だろうな……どうするんだ？」
「……何をすればいいのか分からない……」
弱気なゲンドウの態度……冬月には珍しく感じた。
「とりあえず、余計な事はしない方が懸命だろうな」
「余計な……事？」
「つまりは、あの子は親離れをしたから、放っておけ……と言うことさ」
「……」
黙り込むゲンドウを後目に、冬月は次の一手を置いた……
あとがき
冬月の過去の回想……ＴＶ第弐拾壱話『ネルフ、誕生』を短くまとめたようなモノです。あんまり、長々と書きたい部分でも無かったし、無くても話はある程度は通るので……
ミサトの独白……他の話で出来なかったことですんで、ここでやらせて貰いました。それにしても、今回のミサト、自虐的ですね。
ゲンドウの思惑、ユウカは全てを否定します。二度と交わること無い、悲しい親子ですね。
遙か衛星軌道上から地上を伺う使徒。
ネルフは、どのような対策を取ろうと言うのか……
次回、『終局への前奏曲』。
いよいよ、終局に向かって、収束していきます。
作成日付：２００１／０２／０１
改稿日付：２００１／０２／０５
感謝の言葉：
ゲンドウ・・・哀れ。（＾＾；）
上部組織（ゼーレ）からは文句を言われ、能力を疑われ・・・
部下達は彼に不満を持ち、娘には希望を砕かれていく。
そうなって当然の人生を歩んできた人ですけど、
引導を渡さなくちゃならない、そんな現実が悲しいでしょうね。
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第２６話「終局への前奏曲」に進む。
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読者からの反響は作者のやる気を湧き出させます。
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