モノクロの思い出……
幼い頃のアスカの姿……喪服を着て、男性に連れられ、墓場に立っている。
（ママはアタシを見てくれなかった……一所懸命ガンバったのに……）
アスカの脳裏に浮かぶのは、病院のベッドの上で人形に話しかけている母の姿。
参列者の声に、アスカは現実に帰る。
彼等は口々に、ある実験の結果を嘲るように小声で話していた。
「偉いのね、アスカちゃん。いいのよ、我慢しなくても」
１人の中年女性が、涙声で言う。
「いいの、アタシは泣かない。アタシは自分で考えるの」
アスカは、冷めた表情で答える。
『……聞こえる、アスカ？』
リツコの声がする。
アスカは、ハーモニクステストの最中であることを思い出した。
『シンクロ率が下がってるわよ。余計なことは考えないで』
「……分かってる、やってるわよ」
そう言いながらも、思い出してしまった事は、なかなか脳裏から消えなかった。
「アスカ、大丈夫でしょうか？」
モニターチェックしていたマヤは、心配げにリツコに尋ねる。
「……今の状況では一番の要なのに、困ったわね」
リツコは、冷たく呟く。
「それより、マヤ……鈴原君の方はどうなの？」
「はい、こちらは順調です。先日より、かなり伸びがいいですよ」
「そう……結果だけを追い求めた者と、未来を求める者との違いって事かしらね」
マヤは、リツコの言葉に疑問を持って聞き返す。
「先輩、それ、どんな意味なんですか？」
「アスカは、幼い頃から結果だけを求められて、本人もそれを望んでいた……それが、自分よりも優れた能力を持つ者を見せつけられたため、気が緩んでしまったのね……自分だけが頑張らなくてもいいって」
「はぁ……それじゃ、鈴原君は？」
「彼は、妹さんの治療のために引き受けたの……治ることを、妹さんの未来を期待して、ね」
「違う物なんですか？」
「全く違うわ……私と、ミサトの違いくらいにね」
マヤは、なんとなく納得したようだった。
その頃、ミサトは本部外の遊歩道にあるベンチに腰掛けていた。
ポツリと、思い出したように呟く。
「あの『アダム』より生まれしモノ……ＥＶＡシリーズ。セカンド・インパクトを起こした原因たるモノまで使わなければ、私達人類は使徒には勝てない……生き残るためには、自分達を滅ぼそうとしたモノまで利用する。それが人間……業が深いわね」
「葛城さん」
日向が声をかける。
缶コーヒーを持ってきた日向に、ミサトが口を開く。
「何？日向君」
「先日、調べておくよう頼まれた件、終わりました」
「そう、それで？」
「これを見て下さい」
日向は一枚の紙片を渡す。
それを見たミサトは、驚きの声を挙げた。
「ＥＶＡ拾参号機までの建造を開始？」
「そうです。複数の使徒が現れた時に対する備えですかね？」
「そうね。でも、非公式に行う必要が無いわ……何か、別の目的があるわね……悪いけど……」
「分かってます。引き続き、調査進めておきます」
そう言って、日向は歩いていってしまった。
ミサトは、渋い顔を戻せなかった。
そして……思い出したように呟く。
「加持のバカ……連絡一つ寄越さずにいなくなるなんて……バカ……」
いつもと違い、静かな食卓。
アスカが、全く口を開かないのが原因だった。
「ねぇ、アスカ……今日の料理、気に入らなかった？」
ユウカは、アスカに尋ねた。
「ん？……そうじゃないわよ。ちょっと考え事してただけ」
そう言って、アスカは席を立って部屋に引っ込んでしまった。
「どうしたんだろ……レイさん、何か知ってる？」
「……さぁ」
黙々と箸を進めるレイ。
ユウカは、仕方無しに席に座って食事を続けた。
アスカは、自分の部屋でベッドに俯せになる。
枕に顔を押し付けて、１人呟く。
「どうして、あんなこと思い出したんだろ……」
アスカの、幼い頃の思い出が、次々と溢れてくる。
「アタシは、一番じゃない……アタシは、いらないんだろうか？……ユウカの強さは認めるけど……アタシ、何やってるんだろ？」
アスカの思考は、次々と渦巻いていった。
第弐拾六話 終局への前奏曲
今日は、アスカとレイだけがテストを受けている。
レイのシンクロ値は６０％程で安定を保っていたが、アスカはここ数回のテストでは、あまりいい結果を出していない。
『２人とも、上がっていいわ』
ミサトの声が聞こえた。
アスカは憂鬱な気持ちでシャワールームに向かった。
エレベーターホール。
アスカとレイは、エレベーターに一緒に乗り合わせた。
「アスカ……」
突然、レイがアスカに声をかける。
「何よ、レイ……言いたいことあるなら、ハッキリ言いなさいよ」
「あなた、何の為にＥＶＡに乗ってるの？」
「唐突ね……アタシは、ＥＶＡに乗るために育てられたの。アタシの存在意義は、ＥＶＡに乗ることよ」
「そう……」
レイの態度にムッとしたアスカは、逆に聞き返す。
「そう言うアンタはどうなのよ？」
「私は……大事な人との絆のため」
「誰よそれ？……まさか、ユウカの事？」
「そうよ」
毅然とした態度で答えるレイに、アスカの方がたじろいでしまう。
エレベーターが到着し、レイはまるで何もなかったかのように歩いていってしまう。
『総員、第一種戦闘配置！対空迎撃準備！』
その時、ミサトの声が本部全体に響いた。
第二発令所のメインモニターに、衛星軌道上の映像が流れる。
光り輝く、翼を広げた鳥のような姿が映し出されていた。
「衛星軌道上に目標を確認、パターン”青”、使徒です」
マヤが測定結果を報告する。
「こりゃ、こっちからは迂闊に動けませんね」
日向が溜息をつく。
「どうするの、ミサト？」
「……そうねぇ、超長距離砲で撃ってみましょうか」
リツコの問いかけに、ミサトが答える。
そして、徐に命令を下した。
「零号機には大出力ポジトロンライフル改、弐号機にはポジトロン２０Ｘライフルを装備！参号機はポジトロンライフルを持って、バックアップさせて！」
そう言ったミサトは、司令席の方に眼をやる。
ゲンドウの態度は全く変わっていない。
ミサトは、それを承認と受け取った。
「リツコ、狙撃ポイントを２箇所選出して」
「同時に狙撃するの？」
「いいえ、使徒の手前で反応させるの。陽電子のエネルギーで打撃を与えるのよ」
「……即席にしてはましな作戦みたいね」
ミサトは、モニターを見つめたまま答えなかった。
零号機、弐号機、参号機が発進する。
アスカが、ふと思いついたように、誰とも無しに聞いた。
「コレ、届くの？」
『理論上は、使徒の手前までは届くわ。そこで、大出力ポジトロンライフル改のエネルギーとぶつけて、相互干渉によるエネルギー爆発を起こすの』
「ふーん、そう……」
リツコの説明に、今一つ乗り気ではないが、アスカは頷いた。
『狙撃準備に入ります』
レイが、零号機の指定位置へと移動を開始した。
アスカも、慌てて指定の場所へと弐号機を動かす。
『参号機、配置完了ですわ』
『零号機、狙撃姿勢に入ります』
「弐号機、攻撃準備完了！」
３人のパイロットの声が、作戦準備を終えたことを意味した。
初号機のケイジ。
ブリッジから初号機を見つめる、プラグスーツ姿のユウカ。
「いざとなったら……いいよね」
気を抜くと頽れそうなほどに痛んだ体を押して、彼女はそこで呟く……その瞳に暗い影を宿して……
発令所では、使徒が全く動かないのを気にしていた。
「目標は依然行動しません！」
「まさか、ここに落ちてくるんじゃないでしょうね？」
ミサトがウンザリしたように言う。
「どうかしら。質量がイメージ出来ないわ、あの使徒からは……」
リツコは、気にしない感じで言う。
『ミサト、まだ?』
焦れたアスカの声がした。
ミサトは、攻撃を指示した。
「いいわ、アスカ、レイ、攻撃！」
２機のＥＶＡが放った光が、使徒の目前で巨大な爆発を生み出す。
しかし、使徒の姿には何の変わりもない。
「目標、ＡＴフィールドを発生、爆発のエネルギーを完全に無効化！」
「目標の側にエネルギー波の発生を確認！」
「あっちから攻撃?」
使徒は、美しい光のヴェールを放った。
オーロラのように、大気を切り裂いて光が地表に届く。
光は、突然に弐号機を包み込んだ。
「光線の分析、急いで！」
「可視波長のエネルギー波です。ＡＴフィールドに近いものですが、詳細は不明です！」
日向の報告に次いで、マヤが叫ぶ。
「弐号機パイロット、心理グラフが乱れてます！精神汚染が始まります！」
「使徒の心理攻撃?人間の心を知ろうと言うの?」
『いやぁぁぁぁ！やめてぇぇぇぇ！』
アスカの悲痛な叫びが、発令所を支配した。
ＥＰＩＳＯＤＥ：２６ Ｐｒｏｐｈｅｓｙ
弐号機は悶え苦しむように見える。
「心理グラフ、シグナル微弱！」
「精神汚染Ｙに突入！」
発令所で流れる報告は、アスカの状態が最悪であることだけを意味していた。
「アスカ、下がりなさい！」
『アタシの中に入ってこないでぇ！』
「クッ……聞こえてないの?」
ミサトが下す撤退の指示も、アスカの耳には届かない。
「レイ、撃って！」
「ダメよ！単発ではＡＴフィールドは貫通出来ないわ！」
ミサトの命令に、リツコが異議を唱える。
「いいのよ、届けば！アスカへの攻撃の手が緩めばいいの！」
『了解、発射態勢に入ります』
零号機の構える大出力ポジトロンライフル改から、光が使徒に伸びる。
ビームの光は使徒の眼前で拡散してしまった。
「全く効果有りません！」
「少しは動揺くらいしなさいよ！」
「使徒に常識が通用する訳無いでしょうに」
ミサトが理不尽な怒りを使徒にぶつけるのを、リツコは呆れていた。
「目標、エネルギー波を更にもう一つ放出しました！」
「「何ですって?」」
ミサトとリツコがハモって驚きの声を挙げた。
弐号機と同じように、零号機も光に包まれる。
『……レイ、あなただけでも下がって！』
『アタシの心を覗かないで！』
ミサトの撤退の指示と、アスカの悲鳴が、レイの心を締め付ける。
使徒の光は、レイの心の中から、様々な想いを引きずり出そうとしている。
……ゲンドウへの不信……ユウカへの思慕……ダミー実験……相互換テスト……葛城家での生活……１人の部屋……水……月……
「……私……私は……」
レイは、混乱する記憶に、呆然と立ちすくんでしまった。
『……一緒に死んで頂戴……』
「ママ、ママ！お願いだからアタシを殺さないで！アタシは、ママの人形じゃない！アタシは、自分で考え、自分で生きるの！」
アスカは、過去の記憶に対して反論する。
母親に殺されそうになった……最も忌まわしい記憶……
「アタシはいらないの？アタシを見て！アタシはここにいるのに！独りはイヤ……イヤなのぉ！」
アスカは、心の奥からの絶叫を響かせた。
「ミサトさん、どないすればええんや？」
トウジは、胎児のような姿勢になった弐号機と、直立したままの零号機を前に、何をすればいいのか分からなくなっていた。
『弐号機と零号機を回収……といきたいけど、トウジ君まで巻き込まれたら話にならないから、一回光を避けて位置取りして』
「はいな」
参号機は、ビルの影に隠れた。
「全システムを生命維持に回して！」
リツコが、緊急処置を指示する。
『私が、初号機で出ます』
コックピットからユウカが言う。
「……ダメだ。初号機は凍結中だ」
『なら、勝手に出ます……いいですね』
「……どうするんだ、碇？」
問答を始めたゲンドウとユウカに割ってはいるように、冬月が問いかける。
「……ユウカ、出るなら槍を使え。初号機の凍結を現時刻をもって一時解除！ドグマへのルートを開け！」
「?……司令、『アダム』とＥＶＡの接触はサード・インパクトを起こす可能性が……危険です！止めさせてください！」
ゲンドウの発言に、ミサトは異議を唱えた。
だが、ゲンドウはそれには答えずに、沈黙を保っている。
「……嘘、欺瞞なのね……セカンド・インパクトは使徒の接触が原因ではないのね……ただ近付く、そんなことではサード・インパクトは起きないと言う訳ね……だったら、セカンド・インパクトの原因って何？」
ミサトは、苦々しげに呟いた。
その間にも、初号機はドグマの底に下りていく。
「碇、本当に槍を使う気か？」
「他に方法はない……ゼーレの老人共が動く前に済ませればいい」
「後が面倒だぞ」
「理由があるのだ。それでいい……」
「理由？口実ではないのか？」
初号機が十字架から槍を抜く。
ＬＣＬの海に、波が立つ。
『初号機、ルート２より地上に出ます！』
ユウカは、ＥＶＡの倍はある槍を携えて現れた。
「トウジ、お待たせ」
『お待たせはええけど、どないするんや？』
「……まずは使徒を殲滅する。そうすれば、アスカとレイさんも大丈夫なはず……」
『……それ、投げるんか？』
「そうよ……これなら、使徒のＡＴフィールドを貫通出来るし、この距離でも届くわ」
『そうか……せやったら早よせい』
「オッケー。初号機、投擲体勢入ります！」
初号機が槍を担ぎ上げる。
二股に別れていた槍の先が、捻れて一本になる。
ユウカの意識が、ロンギヌスの槍に染み込んでいく。
（当たる……いいえ、当てる！）
助走をつけて、槍を天空に向けて投げる！
槍は、物理法則を無視して、雲を切り裂き、使徒へと真っ直ぐに進む。
使徒の張ったＡＴフィールドも、存在していないかのように突き抜け、使徒を貫いた。
モニターから光が消えるのを見ながら、ミサトが呟く。
「使徒の反応は？」
「ありません。目標、完全に消滅しました」
日向がモニターを見ながら答える。
「ロンギヌスの槍は？」
「現在、月軌道に向けて移動中」
「……回収は不可能だな」
冬月が呟く。
「あの大質量は、持って帰れんさ」
ゲンドウは、淡々と言う。
その間、零号機と弐号機の回収で発令所は騒々しかった。
「ミサトさん、リツコさん……２人の様態は？」
ユウカは、病院に駆け込むなり、ミサトとリツコの姿を見つけ問いかけた。
「ユウカちゃん、落ち着いて」
「２人とも、気を失ってるわ……現在、精密検査中だけど、身体的には損傷がないから、後は……精神汚染の方ね」
「それって？」
途中で言葉を切るリツコにユウカは食い下がる。
リツコは、いつもと違って、柔らかな対応をした。
「まだ、何とも言えないわ。明日、お昼には目が覚めると思うから、その頃にまたいらっしゃい」
「分かりました……」
ユウカを見送る、ミサトとリツコ。
暫くして、ミサトが話し始める。
「アンタらしく無い対応ね……何かあったの？」
「ここで暴れさせたりしても意味無いでしょ」
「そうなの？」
「そうよ……ミサトこそ、仕事はいいの？」
「……今は、仕事より２人の方が心配よ。いけない？それに、ウチのスタッフは優秀だもの。アタシがいなくても資料はまとまるわ」
リツコは、溜息をつく。
「ミサトらしいけどね……」
憮然とするミサトを後目に、リツコは病室へ入っていった。
翌日、ユウカはトウジを伴って病院にやってきた。
自分の経験から、レイが入っていた病室を真っ先に訪ねる。
それは、間違っていなかった。
「お邪魔します……あ、いた」
「……ユウカさん？それに、鈴原君」
「結構、元気そうやな」
レイは、ベッドの上に半身を起こした。
「大丈夫？無理しなくていいよ」
「好きなようにさせたれや」
「もう、自分の事じゃないからって」
ユウカとトウジが言い争う様は、まるで漫才のようで、レイは思わず吹き出してしまう。
「あ、笑った」
「ほぉ〜、結構ええ顔で笑うんやな」
それから暫くの間話をして、ユウカとトウジはレイの病室を出ようとする。
「じゃ、明日迎えに来るから」
コクンと頷くレイに手を振って、ユウカは病室を出た。
その外で、ユウカが口を開く。
「トウジ……悪いけど、アスカの所へは１人で行きたいの……いいかな？」
「……ワシは、妹のとこにおる。早く済んだら顔出しいや」
「うん……」
トウジは、別の病棟へ向かった。
その背中を見送ってから、ユウカはアスカの病室を捜し始めた……
３０分ほど病院内をウロウロした後、ユウカはアスカの病室を見つけた。
「……疲れた……アスカ、どんな様子だろうな……」
ドアをソッと開けて中を覗く。
真っ白い部屋、点滴を受けながら、ベッドに横たわったままのアスカ。
その傍らに立つリツコが、ユウカに気が付いて声をかけた。
「ユウカさん、お見舞いに来たの？」
「え、あ……はい、そうなんですけど……アスカ、まだ起きないんですか？」
「ええ……自分の殻に閉じこもってしまったわ……私、席を外すけど、声をかけていってあげて」
「はい」
リツコは、散らばっていた資料をまとめると、抱えて部屋を出ていった。
２人きりになると、ユウカはアスカに近付いて右手を握る。
ピクッと僅かに反応するも、結局は何も動かない。
「アスカ……帰ってきて……」
そう言うと、ユウカはアスカの右手を包み込むように、両手で握った。
新しい母親がくれた縫いぐるみ……
それを踏みつけながら、アスカは幼い頃の自分を見つめる。
『ママ、私を見て……お願いだから、ママをやめないで！』
「誰の助けもいらない……アタシは、１人でやっていける！」
『私、選ばれたの！人類を守るエリート・パイロットなのよ！世界一なのよ！だから見て！私を見て！』
「アタシは選ばれたの！誰にも負けられないの！だから、アタシを頼って！アタシを信じて！アタシを見て！」
『「アタシ（私）を独りにしないで！」』
２人のアスカは、同時に悲痛な叫びを挙げた。
『独りじゃないよ……』
優しい声が、アスカの耳に届く。
顔を上げるアスカ……幼いアスカの前に、女性の影が浮かぶ。
『ママ！』
『私は、ずっと傍で見ていたわ……頑張ったわね、アスカ』
『ママァ……』
幼いアスカが、その女性の胸に飛び込む。
あまりにも幸せそうな顔に、アスカは嫉妬を感じた。
影の女性は、アスカの方に顔を向けて言う。
『本当に、よく頑張ったわ、アスカ……でもね、独りで淋しいなら、自分から心を開かないとダメよ』
「……ママ？本当にママなの？」
『もっと素直になりなさい……あなたなら出来るわ。私の娘なのだもの……』
影の女性は、幸せそうに眠ってしまった幼いアスカを抱えて、次第に遠ざかっていく。
「待って、ママ！もっと話したいの！聞いて欲しいことがあるの！」
『……アスカ、ずっと見守ってるからね……』
「ママ！」
眼を空けて、飛び起きるアスカ。
「きゃっ」
その勢いで倒れてしまうユウカに、アスカは気付いた。
「ゆ、ユウカ……アンタ、何時からそこにいたの？」
「痛たたたたた……あ、アスカが眠ってる間だよ……」
腰をさすりながら立ち上がるユウカ。
真っ赤になって、アスカはベッドの中に潜り込む。
「あ、アンタ、何か聞いた？」
「……うん。アスカ、魘されるようにママ、ママ、って言ってた」
「……誰にも、言わないでよ……」
「……アスカがそう言うんなら」
そのまま、２人は何も話さない。
沈黙を破るように、アスカが口を開く。
「アタシ、ユウカに嫉妬してた……ユウカは、アタシが何したって勝てないほど強くて、みんなと仲良くって、いつでも素直に自分を見せてる。すごく羨ましい……」
「……あの時みたいに、みんなにももっと本音を見せればいいんだよ」
「あの時？」
「そう、公園で、私にすがって泣いた……」
「あ、あれは……ううん、そうだね……そうすれば、みんな、アタシのこと見てくれるかな？」
「安心していいよ……みんな、アスカのこと、好きだよ……」
そう言って、ユウカは布団から見えているアスカの頭を撫でた。
アスカは声も出さずに、泣いた……
「ああ、これか……かの”聖人を貫きし者”の名を持つ槍……分かってはいたけど、随分大きいね」
ロンギヌスの槍の傍に浮かぶ少年。
彼が槍に手を触れると、槍は何処へともなく消え失せる。
「さて、これで満足してくれるかな？」
そして、少年は地上を見下ろして、姿を眩ませた。
あとがき
レイの方が、一時的な記憶の混乱に留まったのに対して、アスカは、トラウマになっている母親への思いと、孤独感に苛まれ、自分の世界にこもってしまいます。
ユウカは、包み込むような『力』で、弐号機のコアに眠るアスカの母、キョウコのイメージでアスカの心を癒します。
最後に、ロンギヌスの槍を回収する少年。
えー、もう、いい加減、謎（笑）とか言ってるのも飽きましたので、今後は名前で呼びます（次回以降）。
ＥＶＡと融合して、内面を探ろうとする使徒。
使徒に融合されたレイは、その手がユウカに伸びる前に、自爆を決意する……
次回、『生きるモノ、滅ぶモノ』。
想いは流れていく……
作成日付：２００１／０２／０３
改稿日付：２００１／０２／０５
感謝の言葉：
時折、感じられるユウカの身体への不安。
ロンギヌスの槍も月軌道に到達し、アスカは母の姿を感じることで満たされたと
いうのに・・・。
・・・って、これこれ、そこな少年。笑顔を浮かべながらなんということを。（−−；）
なんだか、どんどん不安要素が増えてきてて目が離せませんね。
さ、読んだ人は感想メールを送りましょー♪
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第２７話「生きるモノ、滅ぶモノ」に進む。
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