サードインパクトは起こった。

世界に存在する者は、シンジとアスカの２人だけ。

「アスカ……」

「…………」

「ねえ、アスカ……」

「…………ひとりは、イヤ」

「アスカ！大丈夫！？」

「……でも……」

「………アスカ？」

「アンタとだけは、絶対に、イヤ！！」

「！！」

パシャッ。

「アスカ！」

「ねえ、僕を一人にしないでよ！ また僕をバカにしてよ！！」



「……アスカ……」



そして、地球上にはシンジだけが残された。





宇術マスター・シンジ

第１話　衝撃の果ての出会い





それでもシンジは生きた。

死にたくなかったから。

死ぬのが恐かったから。

ＬＣＬをすすり、食べ物を探し、必死に「生」にしがみついていた。

生きても何も無いのに……。

そう思いながら。



しかし、サードインパクトから約１年経ったある日、誰にも予想し得ないことが起きた。

（あれは……！？）

空を見上げたシンジは、驚愕に目を大きく見開いた。

「ユ……ＵＦＯ！？」

そう、空にはＵＦＯが飛んでいた。

「こ……こっちに来る！」

しかもそれは、事もあろうにシンジの方へと近付いてくる。

そして……

シュゥゥゥゥゥゥゥン……

「あ……ああ………」

シンジのすぐ側へと静かに着地。

シンジは「グレイに怪しい金属をインプラントされる自分」の姿を想像し、ガタガタとその場で震えていた。

ヒュゥゥゥゥゥン。

そして、中からゆっくりと２人の宇宙人が出てきた。

「えっ！？」

その姿を見た瞬間、シンジは素っ頓狂な叫び声をあげた。

なぜなら、そこにいたのはシンジの想像したようなグレイでは無く、シンジより少し年上くらいの美少女２人が立っていたからだ。

「うっひゃーーーーっ！！すんごくヒドイ有り様だねー、ココ！！」

「ホント。２年前来た時とは大違いね」

「ねぇキミ、なんでこんなコトになったのか分かる！？」

「えっ！？」

シンジは突然目の前の宇宙人らしき少女に話し掛けられ、戸惑っていた。

「ハァ。ルーミ、この子ビビッてるじゃないの。突然話し掛けちゃダメじゃない」

「あ、そーか。自己紹介がまだだったね。わたしはルーミ。いわゆる宇宙人ってヤツぅ？」

「私はジュリ。アンドロメダから派遣された調査官ってトコね。アンタは？」

「え………っと、シ、シンジ。碇シンジ」

アンドロメダなどと言われ混乱の極みにいるシンジだが、なんとかジュリの質問に答える。

「で、シンジくん、ココさぁ、一体ナニが起こったの？……ってシンジくん？」

「泣いてるのかい？」

２人は怪訝そうな顔でシンジの顔を見る。

すると……

「うぅっ……クッ、ウッ、ウッ……うぁぁぁぁぁっ……」

「シンジくん！？」

シンジはただただ号泣した。

嬉しかったのだ。

ヒトに会えた事が。



「どう？落ち着いたかい？」

「はい、すみませんでした…」

「別に構わないさ。で、教えてくれるかい？何があったのか」

「はい。それは……」

シンジは話した。

エヴァの事、使徒の事、ネルフの事、ゼーレの事、レイの事、そしてサードインパクトの事を。

シンジの知識はサードインパクトが起こった時にＬＣＬから流れ込んできたらしく、ほぼ全ての事実を網羅していた。

それを聞いた２人は、顔を見合わせた。

「うっわー………。そりゃ泣きたくもなるよねぇ………」

「サードインパクトねぇ……。バカな事考える連中もいたもんだ」

そして、２人はシンジに聞こえないようになにやらゴニョゴニョと相談し始めた。

「それ、いーかも！！」

「だろ？我ながらナイスアイディアだね！」

そんな２人の様子を不思議に思ったシンジが、声をかけようとした瞬間、

「シンジくん！！」

「な、なんですか！？」

「過去に戻してあげる！！」

「ええっ！？」



「……というワケで、私らのチカラを使って、アンタを過去に戻すってワケ」

「どう？コレで万事解決でしょ？」

２人は満足そうにウンウンと肯く。

しかし、シンジは浮かない顔をしていた。

「……でも、どうせ過去に戻ってもこうなるんだし……」

「シンジくん？」

「また恐い思いしてエヴァに乗って、使徒と戦っても……最後にはみんな消えちゃうんだ」

「……それで？」

ジュリの口調にはわずかな怒りが込められていた。

「それなら、初めから何もしない方が良いんだ……。僕は、またトウジが大怪我したり、綾波が自爆したり、カヲル君が死ぬのなんて、見たくないんだ……」

「シ、シンジくん……」

先程、シンジのつらい人生を聞いたルーミは少し同情気味。

だが、ジュリはというと……、

「あぁぁぁぁ、イライラするねぇ！！何もしないうちから無理だとか言うな！！自分が世界を変えてやる、くらいに思わないのかい！？」

「無理だよ、そんなの！！僕は確かに色々な事を知ったけど、それだけなんだ！！父さんやゼーレを止める力も無いし、世界を変えるなんて……出来るわけ無いよ！！」

「……んじゃ、力を付ければいーんじゃないの？」

「え？」

「そうか！宇術をマスターすればもう向かうところ敵無しだからねぇ！！よし、アンタにこれから宇術を叩き込んでやるよ！！」

「え？え？」

宇術という聞きなれない言葉に、訳の分からないシンジ。

「じゃ、わたしたち、予定通りココにいるコトになるの？」

「そうなるね。まぁ、世界崩壊の生き残りと接触してたって言えば、上も納得するだろうしねぇ」

「ちょっと待ってよ！その、ウジュツって……？」

勝手に話を進める２人に、シンジが横から口を挟む。

「ああ、宇術ってのは宇宙魔術の略で、宇宙の力を使っていろんな事をするんだよ」

「たとえば、こんなのとか！」

ルーミは何やらボソッと魔法らしきモノを唱えた。

直後、ルーミの体が宙へと浮きあがる。

「分かったかい？宇術を使うと、ルーミの様に空を飛んだり、その他にもいろんな事が出来るようになる」

「これからシンジくんに教えるから、その力を使って世界を救うんだよ」

「そんな事……僕に出来るわけ無いよ！！」

シンジはその可能性を根拠なくアッサリ否定。

だが、ルーミは笑顔で返す。

「ううん、結構カンタンなんだよ。ジュリも言ってたじゃない、何もしないうちから無理だって言うな、って」

「そうそう。ま、騙されたと思って教わってみなよ。２年も経てばそこそこのチカラはつくと思うよ」

「２年……？」

２年という時間が長いのか短いのか判断に苦しみ、思わず怪訝そうな声を出すシンジ。

「わたしたちの調査期間……まぁ、地球にいていい時間が２年なの。で、２年経ったら、わたしたちが２人がかりの宇術で過去に戻したげるから。心だけだけど」

「さぁて、早速特訓開始だ！！」

てな具合で、シンジは宇術の特訓を開始した。



筋が良かったのか、シンジは２人の予想以上のスピードで力をつけていく。

そして２年後には、もはや教える立場である２人の力をも大きく抜いていた。

そして、シンジが過去へと戻る日が来た。



別れの日。

「じゃ、２人とも今までありがとう。楽しかったよ」

２年前と比べ、シンジは前向きに成長していた。

多少お調子者になり、常に心に余裕を持っていた。

「ああ、シンジ、私も楽しかったよ。もう２度と会えないかと思うと、寂しいな……」

いつも気丈なジュリも、この時ばかりは本当に寂しそうであった。

「シンジ……ほんとに行っちゃうの？」

ルーミは、目に涙を溜めている。

「うん、もう決めた事だし。２人には世話になったよ。そして、今日が一番お世話になる日かな」

「そうだね……。精神を過去に戻すなんて事、さすがのシンジにも無理だからねぇ……。よし、ルーミ、やろうか！」

「………………イヤ」

「ルーミ？」

怪訝そうな顔でジュリがルーミの顔を見た瞬間、ルーミが叫んだ。

「イヤ！わたし、シンジを過去になんて戻したくない！シンジと離れたくなんか無い！シンジと……ずっといっしょにいたい！！」

「ルーミ……」

ルーミの言葉を聞いたシンジは、密かに驚いていた。

２年間ルーミとずっと一緒にいたが、ここまで自分に対して強い想いを抱いていたとは全く気付かなかったのだ。

「ねぇシンジ、過去になんか行かないでよ！ずっとわたしといっしょにいようよ！！ねえ！！わたしの星でいっしょに住もうよ！！」

「気持ちはありがたいけど……もう決めた事なんだ。過去に戻る事は……」

「そうだよ、ワガママ言っちゃいけないよルーミ。その為に私らはこの２年、何のためにシンジにつきっきりで宇術を教えてきたか……分かるだろ？」

「わかってる……けど……けど……！！」

「ホラ、涙を拭きな。ルーミも分かってるんだろ？シンジの気持ちが。今更過去には戻さないだなんて、それはシンジに対する裏切りだよ！」

「う……うん………」

ルーミは涙を拭くと、シンジの目をジッと見つめた。

「シンジ……」

「……何？」

「ごめんね、取り乱しちゃって。わたし、シンジと離れたくなかったの」

「そう言ってくれると嬉しいよ」

「それじゃあ、準備はいいね？よし、ルーミ行くよ！」

「待って！」

ジュリがシンジを過去へ送ろうとするも、またもやルーミからストップがかかる。

「……今度は何なの？」

「その……シンジ…………キス、して………」

「え！？………で、でも……」

「お願い……」

「……わ、分かった……」

「……ま、最後だもんね」

ジュリがクスリと笑う。

そして……



「………ん………」



「……随分と長いキスだったねぇ。見てるこっちがドキドキしたよ」

「だ、だって、もう会えないんだよ！？そのくらい大目に見てくれても……」

「誰も悪いだなんて言ってないさ。それよりルーミ、今度こそ行くよ！！」

「うん、ジュリ！！」

そして２人はシンジを囲み、なにやら魔法を唱え始めた。

シンジの体が徐々に発光していく。

「「心よ、過去へと戻れ！！」」

２人が叫んだ瞬間、シンジの発光はさらに激しいモノとなる。

「シンジ、元気でね…」

「シンジ、わたし、ずっと忘れないから！！」

「ルーミ、ジュリ、今までありがとう！！」

そして、発光が収まったとき、そこにシンジの姿は無かった。



「さ、私らも帰るか、ジュリ」

「…うん」

２人は名残惜しそうに辺りを見回すと、宇宙船の中へと戻っていった。

そしてゆっくりと地球を離れていく宇宙船。

「さーてと、この星についてのレポートでも書くかい？」

「わたし、シンジについて書きたい」

「はぁ、分かった分かった」

２人を乗せた宇宙船は、星空の中へと消えていった。





第１話　おわり


あとがき？

はじめまして、ＢＥＥめーだという者です。
ＥＯＥの後こんな展開になるのってあんまり無いと思うのですがどうでしょう。
シンジ君、激強になってます。ちょっと強すぎかもしれません。
で、二人の宇宙人少女ですが、名前の元ネタは某宇宙格闘ゲームのキャラです。
知らなくても問題は全くありません。もう出ないと思いますし、忘れても全然ＯＫです。
でも、要望が多ければ再登場の可能性もあるかもしれません。
それでは！

トップページに戻る。
第０２話「使徒、襲来……だったの？」に進む。
作者の ＢＥＥめーだ さんへの感想メールはこちら（beemeda@mail.goo.ne.jp）まで。
読者からの反響は作者のやる気を湧き出させます。
続きが読みたい人は、感想メールを送りましょうね。