「ここは……」
シンジはあたりを見回した。
そこは、紛れも無くかつての……２０１５年の第３新東京市。
振り向くと、懐かしい使徒と戦闘機が戦っている。
もっとも、使徒に攻撃が効いている様子は無いのだが。
「まさか、一日たりとも間違わずにこの日に戻せるなんて……恐れ入ったね」
そう呟くシンジの元に、使徒にやられた戦闘機が高速で突っ込んできた。
しかし、シンジは動こうとしない。
次の瞬間、シンジの立っている位置に戦闘機が見事に命中、大爆発。
しかし、舞い上がる炎と煙の中から出てきたのは無傷のシンジであった。
「自動防御……役に立つね」
そう呟いたシンジが振り向くと、ボーゼンとした表情の葛城ミサトが立っていた。
「い、い、い、碇シンジ君、ね？」
「はい。行きましょうか」
サラッと言うと、シンジはミサトの車に乗り込んだ。
宇術マスター・シンジ
第２話 使徒、襲来……だったの？
車の中。
「あの…、シンジ君？」
ミサトがおそるおそると言った口調で尋ねる。
「何でしょうか、葛城さん」
シンジはというと目を閉じ、微笑を浮かべ、まさにリラックス状態。
「さっき、戦闘機がシンジ君を直撃したように見えたんだけど……」
「気のせいです」
シンジ、即答。
「そ、そうよね？いくらなんでもあの状況で生きてるなんて有り得ないもんね？アハ、ハ、ハハ……」
ミサトは汗をダラダラ流しながらぎこちなく笑っていた。
その時、
ドゴォォォォォォォォォォォン！！
Ｎ２地雷、大爆発。
シンジの事に気を取られていたミサトはその兆候に全く気付かず、まさに寝耳に水の不意打ちアタックを受けた。
しかし。
「………………アレ？」
車の１台や２台など、あっさりフッ飛ばすであろうＮ２地雷の爆発の衝撃は、全く伝わって来なかった。
「葛城さん、ボケッとしてないで早く行きましょう」
「え？あ、うん、そーね。よく分かんないけど運が良かったみたいね」
シンジの自動防御のお陰だとは夢にも思わないミサト。
「それと……私の事はミサトでいいわ」
「はい、ミサトさん」
そのまま二人はネルフへと向かうのだった。
その頃、某所では。
「そのためのネルフです」
以上、某所からでした☆
その後ジオフロントに到着した二人は、そこで勤務しているハズのミサトが何故か道に迷うという予想外にも程があるハプニングがあったものの、無事赤木リツコ博士の手により無事初号機の前まで到着していた。
しかしそこは真っ暗。
おそらく演出のためだけであろうが。
その時、バッ！と突如ライトアップされる。
リツコが「人類最後の切り札」だとか「エヴァンゲリオン初号機」だとか誇らしげに説明しているが、シンジは全く聞いちゃいねぇ。
そんなシンジの態度にこめかみをヒクつかせるリツコであったが、
「久しぶりだな」
突然異様なまでに高圧的っぽい雰囲気を漂わせ、ヒゲメガネでありシンジの父親であるネルフ司令・碇ゲンドウ登場。
ちなみに、さっきの「某所」とはココである。
「ふ、出げ「断る！」
シンジ、即答。
「座っていればいい。それ以上は望まん」
「コレに僕が乗らなきゃ人類が滅ぶとでもいうの？」
「そうだ」
「ふぅん……。でも、僕は乗らないよ」
「人類の存亡を賭けた戦いに臆病者は無用だ。乗るなら早くしろ、でなければ帰れ」
「だーかーらー、乗らないって言ってんじゃん。もう耳が遠くなったの？」
「……冬月、レイを起こせ」
「使えるのかね？」
「構わん、死んでいるわけでは無い」
そして、ゲンドウはレイに通信で出撃命令を出す。
傷だらけのレイが運ばれてきた。
「う……」
シンジは苦痛のあまりうめき声をあげるレイにダッシュで近付くと、耳元で囁いた。
「綾波、後で面白いモノを見せてあげる……」
その囁きに気付いたものはレイ以外にいなかった。
「シンジ君」
ミサトがシンジの背後から声をかけてきた。
「何ですか？ミサトさん」
「……乗りなさい、エヴァに」
「僕は乗りませんよ」
「あなた、あんなに傷だらけのレイを乗せて平気だっていうの！？」
「まさか。乗せるわけ無いじゃないですか」
「え！？じゃあ、乗ってくれるの！？」
「いえ、乗りません」
「どういう意味よ！」
シンジの意味不明な説明にキレかかるミサト。
「頭悪いですね。僕はエヴァに乗らない、彼女もエヴァに乗らない。それだけの事ですよ」
「なっ！？そ、それじゃあ使徒はどうするのよ！！」
「え？アレを倒さなきゃ人類は滅亡でしょ？放っておくワケにはいかないじゃないですか」
「だから、使徒を倒すにはエヴァでなければ……」
「ストップ。エヴァでしか使徒を倒せない、それは単なる思い込みです」
「！？ど、どういう…」
その時、激しい揺れが発令所を襲った。
「奴め、ここに気付いたか」
揺れの衝撃で、シンジとレイ目掛けてにライトが落下する。
ガゴン！！
しかし、初号機の右腕が勝手に動き、シンジとレイの上で止まる。
それによって弾かれるライト。
ミサトとリツコは騒然としていた。
「ありえないわ、動くはずないわ！！」
「護ったの！？彼を…いける！」
などと騒いでいたが、シンジは気にせずレイの身体の上に手を掲げる。
「『治癒』」
シンジがそう言うと、水色の光がレイを覆った。
「シ、シンジ君！？」
「落ち着いてくださいミサトさん。治しているだけですから」
「治しているって……ええっ！？」
光が消えると、レイは不思議そうな顔でムックリと起き上がり、身体を動かし始めた。
「傷が癒えた………。なぜ………？」
「僕が治したからさ、綾波」
「………あなた、誰？」
「僕はシンジ、碇シンジ。綾波と幸せになるために来たんだ」
「『碇』……？私と……幸せ……？」
「ああ、僕はあそこに立ってるヒゲメガネ、碇ゲンドウの息子さ。まあ、そんな事はどうでも良いんだ。これから面白いモノを見せてあげるよ、綾波」
シンジはニッコリと微笑んだ。
ドキン。
その笑みを見た瞬間、レイの心臓が大きく鳴る。
（っ！？何、今のは……？）
しかし、そんな動揺を表情には出さず、冷静な態度でシンジに応える。
「面白いモノ………？」
「そう。じゃ、一緒に行こうか」
シンジは後ろを振り向くと、ミサトに笑顔で伝えた。
「それじゃあミサトさん、ちょっと僕、これから使徒を倒してくるんで……綾波連れて行ってきます」
シンジは驚くミサトを気にせずレイの手を握ると、『移動』と呟いた。
「えええっ！？ちょっと、どういう……ええぇぇぇぇぇぇぇぇっ！？」
直後、シンジとレイの姿は消えていた。
「リツコ、何が起こったの……？」
「さぁ、まだ判断材料が少なすぎるわ……」
その時、オペレーター嬢の伊吹マヤが、シンジを発見した。
「あ！ビ、ビルの上です！使徒の正面のビルの上に立っています！」
「「なんですって！？」」
映し出されたモニターには、使徒を笑顔で見るシンジと、珍しく困惑した様子のレイが移っていた。
「ここは……？私、さっきまで発令所にいたのに……なぜ？」
「ああ、ちょっと瞬間移動したんだよ。それより、綾波は僕が張ったバリアが護ってるから、安心して僕を見てて」
「瞬間移動……バリア……？」
「じゃ、ちょっと行ってくるから見ててね。『飛翔』」
そう言った直後、シンジの身体はフワッと宙に浮いた。
そして、使徒の眼前にまで近寄る。
使徒はシンジを見つけるが、そのサイズの小ささからかまるで無視。
「油断大敵だよ。じゃ、またね」
シンジはそう言うと、使徒に向かって掌を突き出した。
そして、
「『原始に戻れ』」
そう呟いた瞬間、誰もが目を疑う光景が視界に広がった。
パシャッ。
そんな何かが弾けるような音と共に、使徒の身体は一瞬にしてオレンジ色の液体と化した。
紅く輝き続ける光球だけを残して……。
「な……な……」
「何者なの？あの子……」
「し、使徒、完全に沈黙しました……」
「碇、これはシナリオには無いぞ？」
「何事にもイレギュラーは存在する。……問題無い。」
「本当にそう思うのか？」
「…………」
発令所は騒然となっていた。
「さて、綾波。実はまだ続きがあるんだ」
レイのいる屋上へ戻ったシンジは、必要以上にレイに顔を近付けながら囁く。
「使徒は倒したわ……」
そう言うレイの頬はわずかに赤く染まっている。
「まあまあ、何のためにコアだけを残しておいたのか、すぐに分かるから」
シンジはレイと一緒に再び瞬間移動。
その際シンジに手を握られたレイは、大きくなった自分の心臓の鼓動に再び動揺していた。
コアの前に二人は立っていた。
「さて、ここにあるのはただの使徒のコア……、種も仕掛けもありません」
「…………」
レイ、無反応。
だが、顔はほんのり赤い。
それに気付かずちょっとだけ寂しそうなシンジだったが、とりあえず続ける。
「じゃ、これから予行演習をするから、成功したら拍手して」
「予行演習……何の？拍手……なぜ？」
「まあ、成功したら言うから、見てて」
「………わかったわ」
シンジはコアに両手を押し付け、小声で呟く。
「『透過』」
そして、まるでコアの表面と内部が液体であるかのように、シンジの両手がズブズブと中に入っていく。
レイも発令所の人々も、固唾を飲んでその光景を見守っていた。
肩から先の両腕が完全にコアの中へ入った時、再びシンジは小声で呟いた。
「『収束』」
直後、コアの中で何かが揺らめく。
その揺らめきは徐々にハッキリした物に変化し、ヒトの形となっていく。
シンジは真剣な表情でそれを見つめていた。
「『創造』」
コアの中の半透明だったヒトの形が、濃くなっていき、完全にヒトの姿となる。
「よし……成功。コレなら本番でもバッチリ！」
そう言うと、シンジはコアの中のヒトを掴み、一気にコアの外へ出した。
一気に輝きを失っていくコア。
「ふぅ。綾波、成功したよ」
ぱちぱちぱち。
レイは驚愕した感じな無表情で拍手。
「碇君……今のは、何……？」
「ああ、コアの中のエネルギーを人間の形に変えて、使徒の魂をその中に入れたんだよ。だから、この人は使徒人間……うわぁぁぁっ！？」
「碇君？」
レイは「使徒人間」の姿を見るなり叫んだシンジを不思議そうな目で見る。
「あ、綾波、ちょっとこのコを持ってて！」
「………わかったわ」
シンジはレイに「使徒人間」を渡すと、後ろを向いて自分の胸に手を当てていた。
（そっかー、裸で出てくるんだよなー……。でも、まさかサキエルがあんな女のコだなんて……もう、うっかり見ちゃったよ……全然生えてなかった……）
レイはシンジから渡されたヒトを見る。
（青い髪……私と同じ……使徒……私と同じ……あなた、誰？あなた、だれ？アナタ、ダレ？）
レイの腕の中で眠る少女は、レイよりも濃い色をしたショートカットの青い髪、レイよりも頭一つ分小さい身長、レイよりも子供っぽい体型……、な、美少女であった。
「とにかく、一旦戻ろう」
「ええ……」
シンジとレイと少女は、瞬間移動により発令所まで戻った。
「はい、使徒は倒しましたよ、ミサトさん。エヴァを使わずに、ね」
「あうあうあう……」
ミサトは次々と（モニター越しに）目の前で起こった光景に、混乱中であった。
代わりに、リツコの質問攻め。
「シンジ君……あなた、何をしたの？コアから取り出した少女は何なの？あなたは一体何者なの？」
「リツコさん、そんなに質問しないでくださいよ……、まあ、僕は人間ですよ、心も身体も完全に」
「あなたが次々と起こしてみせた力……アレは何なの？」
「『宇宙魔術』です。略して『宇術』。信じないのだったら信じなくても構いませんよ、別にそれで支障があるわけではありませんから」
「……そ、そう。それじゃあ、次の質問、いいかしら？あなたが使徒のコアから取り出した少女……アレは何なの？」
リツコは、薄地の服をとりあえず着せられて眠っている少女をチラッと見ながら言う。
「『アレ』呼ばわりはヒドイですね……。彼女は『使徒の魂を持った人間』です。まあ、話してみないと詳しい事は分かりませんけど」
「『使徒の魂を持った人間』……興味深いわね……」
「おっと、あのコはネルフには渡しませんよ。僕が倒した使徒から僕の力で産み出した一人のヒトなんですから。第一、ネルフに引き取られたら日にはどんな目に会うか分かったモンじゃありませんからね」
「あら、随分と信用無いのね」
「そりゃあ無いですよ。トップからして『アレ』ですから」
シンジはさっきのお返しとばかりにゲンドウを「アレ」呼ばわりする。
「シ、シンジ君、それであなたはこれからどうするの……？」
ようやく復活したミサトがシンジに尋ねる。
「まあ、あのコが目覚めてからですね。でも、希望としては綾波と同棲がしたいんですけど」
「「なっ！！」」
「…不潔」
驚きの声を上げるミサトとリツコ、そして視線が冷たいマヤ。
（同棲……主に恋人の関係の男女が同じ家に住む事……恋人……「同棲」の定義に当てはめると碇君と私は恋人……碇君と私は恋人……イヤじゃない、なぜ……？）
「まあ、たぶん３人暮らしになると思いますよ。僕と綾波とあのコの」
「私が保護者を……」
「ミサトさん、気持ちは嬉しいですが断ります。僕、家事なら一通りできますし、それに……間違っても無理矢理襲ったりはしませんよ」
「そんな保証どこにも無いわ！第一、レイの気持ちもあるでしょう！」
（私の気持ち……碇君を見てると心が温かくなる……碇君は私と幸せになると言った……なぜ碇君は私と幸せになろうとするの？……わからない……けど……イヤじゃない……これが私の気持ち……）
「そう声を荒げなくても……なら、司令直々の命令で僕たちの同棲が認められればミサトさんも許可せざるを得ないでしょう？僕、父さんに会ってきます。行こう、綾波」
「あ、ちょっとシンジ君！」
「それと……今のところ、僕の目的は『綾波を幸せにする事』ですから。それを覚えといて下さい。使徒を倒さないと人類と一緒に綾波も滅びるかもしれませんからね」
「それは、人類を救う事はタダのオマケって事？」
「ココに……人類を救う事、ただそれだけの為に働いている人って………何人いるんでしょうか……？」
そう言い残すと、シンジとレイと共に、少女を抱えて消えた。
コンコン。
「父さん、入るよ」
「……シンジか。入れ」
司令室の前に瞬間移動したシンジ達は、ゲンドウの許可を得て司令室に入っていく。
「父さん、単刀直入に言うよ。僕と綾波、あとこのコ…この３人だけで暮らしたい」
「その必要は無い」
「あるってば、十分に。一体誰のせいで綾波の心が育ってないと思ってるの？」
「……何を知っている？」
「さぁね。でも、一つだけ教えておくよ。僕がその気になれば、綾波を強引に拉致って二人だけの甘い生活を送る事だって、国連や戦自に使徒撃退のスペシャリストとして雇われる事だって、今すぐ母さんを初号機から取り出す事だって出来るんだよ？」
「「何っ！？」」
シンジがアッサリと言ってのけた「ユイの復活」に、思わず大声を上げるゲンドウと冬月。
「だーかーらー、あんまり僕の機嫌を損ねないほうが良いんじゃないかなーって思ってるワケ」
「碇……」
「……ファーストチルドレン及びサードチルドレンの同居を許可する」
ゲンドウの口元が微妙にムズムズと動いている。嬉しくてたまらないのだろう。
更に、サングラスの奥の目が妙に機嫌が良さそうである。ハッキリ言って気持ち悪い。
「父さん、現金だね……てゆーか、僕はいつの間にサードチルドレンになってたんだろう…？ま、いいけどね」
「シンジ、それでユイの事なんだが……ハッ！！」
「父さん、どうしたの？浮気がバレたような顔をして」
シンジがニヤニヤしながら言う。
シンジは知っている。父とリツコの関係を。
ユイを戻すに当たって清算しなければならない事の一つである。
そして、レイから注がれるゲンドウへの刺すような冷たい視線。
レイがゆっくりと口を開く。
「……今まで、私を見ていたのでは……無かったのね」
シンジと出会って以来、シンジの求愛な態度と熱烈な視線を浴び続けてきたレイは、他人の態度に対して敏感になっており、ゲンドウの態度で全てを理解してしまっていた。
そしてゲンドウはリツコの事を思い出すと同時に、レイの絶対零度な視線を浴び、思わず声を出してしまった。
「そう。このヒゲメガネは綾波が母さんに似てるからって、綾波の中に母さんを見てたのさ。こんなに綾波は可愛いのに、綾波に綾波を見ていないなんてね……」
「な、何を言うのよ……」
「綾波、僕は綾波に綾波だけを見ているから。そして、僕が世界で一番好きなのも綾波。だから、綾波と一緒に暮らしたいんだ……どうかな？」
「か、かまわないわ……」
もはや耳まで真っ赤なレイ。この短時間で彼女の心は急成長したようである。
「まあ、僕が産み出したという責任もあるから、このコも一緒に暮らすけど……これも構わないよね？」
「碇君がそう言うのなら……かまわないわ……」
「ありがとう、綾波。愛してるよ……」
「な、な、何を言うのよ……」
もはや真っ赤っ赤なレイ。顔から湯気が出てきそうな勢いである。
「……シンジ君、もう良いかね？」
「あ、副司令、すみません。そうそう、母さんの事ですけど、さっきも行った通り、やろうと思えば今からでも取り出せますよ。でも……」
「何か不安要素でも？」
「いや、母さんに綾波との同棲を反対されたらどうしようと思って……」
「まあ、それはあるだろうな……碇」
「な、なんだ冬月」
「しばらくの間シンジ君達に同居生活を味あわせてからでも良いだろう？シンジ君の機嫌を損ねたら帰ってくるのも帰ってこないぞ？」
「ぬぅ……わかった、シンジ、ユイのサルベージの時期はお前に任せる」
「あ、そうだ！ゼーレどうする？あのウザったい老人たち。消しちゃって不都合とかある？資金面とか……」
ゲンドウと冬月はシンジの口から「ゼーレ」という言葉が出てきた事にピクッと反応するが、今までの不自然すぎる行動から比べれば取るに足らない事だと判断し、すぐに平静になる。
「……ユイさえいればそれで良い。あんな老人達など何の役にも立たん」
「そうだね。てゆーか、僕が使徒を一瞬で片付けられるから、エヴァや街に被害なんてほとんど出ないはず。だから、ネルフもそうそう資金に困る事もないだろうし」
「しかしシンジ君、何故君はそこまで詳しいのだ？極秘中の極秘の様な事まで知っているではないか」
「副司令、それは企業秘密ですよ」
シンジはにこやかに言った。
その数分後、シンジはレイと未だ熟睡中の少女と共に瞬間移動でレイの済む部屋の前まで来ていた。
「と、ココが綾波の部屋だね」
「……なぜ、知っているの？」
「前にとある人から教えてもらったからさ」
そして、レイが部屋に入ると、ごく簡単な荷物だけを持って戻ってきた。
「さあ、行こうか。僕らの愛の巣へ……」
「な、何を言うのよ……」
３人は再び一瞬で姿を消した。
＜う、うぅん……。えーと、ボクは何をしてたんだっけ？えーと、えーと……＞
（このコ、目を覚まさないね）
（ええ……）
＜あ、そーだ！たしか、気が付いたら海のあたりにいて、そこからよく分かんないケドどっかに向かって泳いで、それから歩き出したんだっけ＞
（大丈夫かな……）
（呼吸・脈拍、ともに正常……異常はどこにも感じられないわ）
＜しばらくしたら、なんかいろいろこっちに向かってきたんだよね……。うっとーしーから払いのけたけど＞
（綾波は……このコをどう思う？）
（どうって……どういう意味？）
＜で、しばらく歩いてたらワケ分かんない大爆発が起きて……もう、ボクがナニをしたってゆーのさ！＞
（使徒の心を持つ人間、って事について……）
（……私は……）
＜アレは痛かったな〜。その後、なんとなく気になるトコロがあったから、ちょっと蹴ったり、撃ったりしてみたんだっけ……＞
（……分からない……）
（僕は、こう思うんだ）
＜で、遊んでたら、すんごくちっちゃいヒトが空飛んでたんだよね〜＞
（心がどうであろうが、見た目が人間みたいで、心も人間と同じ考えを持っているのだったら、何も変わらない、そう思うんだ……）
（ヒトと……使徒は……変わらないの？）
＜アレにはちょっとビックリしたよね、うん。でも、敵意の無いヒトを攻撃するワケにはいかないから放っておいたんだよね＞
（ま、人間だって一応１８番目の使徒なんだし……要は考え方さ。心や身体が違ったって、お互いに分かり合えれば、そんなの関係ないんだよ）
（碇……君……）
＜そしたら、そのヒトがこっちに近付いてきて……しばらく無視してたら……＞
（まぁ結論から言えば、僕は使徒であろうがヒトであろうが地球外生命体であろうが、僕と分かり合えれば、仲が良ければ、それで良し。差別はしないよ）
（碇君！！）
ガバッ！！
＜……意識が急に途切れたんだよね。そして今に至る……と＞
ドサッ！
（あ、綾波……）
（碇君、碇君、碇君、碇君、碇君、碇君！！）
＜ん……ボク、ひょっとして寝てるの？……起きなきゃ……＞
（碇君、碇君、碇君、碇君、碇くぅん……）
ギュッ。
（ちょ、ちょっと落ち着いて、落ち着いてよ綾波……）
「…………ふにゃ？」
少女は目を覚ました。
そしてそこにあった光景は、少年を押し倒しあらん限りの力で抱き着く少女の姿であった。
ボーゼンとする少女だが、とりあえず目の前のラブラブカップルに声をかけてみる。
「…………あ、あの……」
「碇くぅん……」
「あ、綾波……、ホラ、目を覚ましたみたいなんだけど……」
「……え？」
しばしの沈黙。
「………………」
「………………」
「………………」
「えーと、えーと……は、はじめまして」
「「は、はじめまして……」」
「………………」
「………………」
「………………」
「ボク、何をすればいーんでしょーか……」
「と、とりあえず自己紹介から……」
「……そうね」
「………………」
「………ねぇ、名前は何かな？」
とりあえずシンジが名前を尋ねる。
「………あ、ありません」
「………そうなの？」
使徒の魂を持つ少女に興味を持ったレイは、（レイにしては）積極的に会話を開始する。
「うん。ボク、さっき生まれたばっかりだと思うから」
「………なぜ、それなら喋れるの？」
「あ、それはたぶん僕がこのコの身体を作ったとき、脳内の記憶に基本的な事がインプットされてたからだと思うよ」
「え？あ、あれ？ボク、さっきまでこんなにちっちゃいカラダだったっけ？」
「………碇君が作ったの」
「いかりくん？」
「ああ、僕だよ。僕は碇シンジ。もしかして、迷惑だった？」
「ううん、この方がいろんなコトができそうだから。ありがとう！」
「どうしたしまして。そして、隣の可愛いコが綾波レイ。僕たちは３人で住む事になるけど、２人とも構わないかな？」
「うん！」
「かまわないわ……」
「それじゃ、僕はリツコさんに電話をかけるから、２人で話してて」
そう言うと、シンジは隣の部屋へと出ていった。
「もしもし，リツコさんですか？僕です、シンジです」
「あ、ハイ。起きましたよ。何も敵意も悪意も無い、純粋な少女です」
「え？ダメですよ、それじゃあのコが実験動物みたいじゃないですか。あのコはもう人間です」
「ダメといったらダメです。それより、聞きたい事があって電話をしたんです」
「あのコが使徒だった時、ネルフでは何て呼んでましたっけ？」
「そうですか。サキエル、水の天使……わかりました、ありがとうございます」
「だーかーらー、ダメです！彼女を使徒扱いするのはやめてください。切りますよ？」
ピッ。
「ふぅ。リツコさんにも困ったモンだ。それより、綾波とうまく行ってるか……な………？」
……ポトッ。
そう言いながらレイとサキエルの部屋に入った瞬間、シンジは思わず持っている携帯電話を落とした。
そこでシンジの目にした光景とは……
「レイお姉サマぁ……☆」
「ダ、ダメ……」
トロンとした目でレイに抱き着くサキエルの姿であった。
レイはどうすればいいのかと困惑顔。
「あ、綾波……一体、何が……？」
「ダメ、離れて……」
「レイお姉サマ……」
意外すぎるその光景に、シンジはただボーゼンと立ち尽くしていた。
「なるほど、そういう訳で……」
トリップ中のサキエルを無視して、シンジはなんとかレイから事情を聞き出した。
レイの話をまとめると、レイに優しくされたサキエルがアッサリとレイに一目惚れしてしまったらしい。
似た魂同士、という事もこの原因となっていた。
「ま、まあ、綾波、これからこのコの名前を決めようと思うんだけど……」
「……わ、分かったわ……お願い、離れて……」
「イヤ……ずっとこーしてたい……」
なかなか離れないサキエルに、シンジが冷静に一言。
「綾波の言う通りにしないと、嫌われちゃうよ？」
ピタッ。
サキエルが一瞬にして凍り付いた。
そして、ぎこちなくレイの体に巻きつけていた腕を離していく。
「あ……あの……ボクのコト、キライに………なっ……た……？」
恐怖でガタガタと震えるサキエル。
「いいえ、嫌いになんかなっていないわ……。それより碇君、名前を決めるのね……」
レイの言葉にサキエルはホッとして、また笑顔に戻る。
「そうそう。リツコさんに電話して聞いたんだけど、ネルフでは『水の天使サキエル』って読んでたんだって」
「じゃあ、ボクはサキエルってゆーの？うーん、あんまりイイ名前じゃないなー……」
「僕もそう思ってさっき考えたんだけど、縮めて『サキ』でいいんじゃないかな？女の子っぽいし」
「うん！じゃあ、ボクは今日からサキだね☆」
「……碇君、名字は？」
「あ、そっか。考えてなかったな……じゃあ……」
シンジ、少し考えて……
「まあ、そのまま『水野』でいいかな？分かりやすいし」
別に分かりやすくする必要は無いのだが。
「水野サキ……それがこの子の名前ね……」
「わーい、ボクは今日から水野サキー！！」
無邪気に喜ぶサキエル改めサキ。
シンジの２度目の第３新東京市での生活は、こうしてスタートを切ったのであった……。
あとがき？
またまたＢＥＥめーだです。
レイがいとも簡単にシンジに惚れちゃった気もしますが、コミカルな路線で行くつもりなのであまり気にしないでくださいネ。
シンジが強すぎるので、使徒はハッキリいってザコです。エヴァなんていりません。ああ、ネルフの存在意義って一体（笑）。
さあ、コレでアスカがどんな反応を見せるのか……自分で書いときながら楽しみです。あまり先の展開は決まっていませんが。
ちなみに、コレはＬＲＳメインの予定です。少なくともＬＡＳにはなりません。
それでは！
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感謝の言葉：
サキエル、コアから引っ張り出してみたら幼い美少女♪
なんとも不思議な展開になってきましたね〜。
人になりたてのサキちゃんがどのような波乱を巻き起こすのか楽しみです。
さ、読んだ方は感想を送って、ＢＥＥめーだ さんに気力充填しましょー♪
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第０３話「見知らぬ、ジャージ」に進む。
作者の ＢＥＥめーだ さんへの感想メールはこちら（beemeda@mail.goo.ne.jp）まで。
読者からの反響は作者のやる気を湧き出させます。
続きが読みたい人は、感想メールを送りましょうね。