「なに、してるの？」
ジャムが来た翌朝の７時頃。
レイは眠気を我慢しつつ目を覚ますと、シンジの側で不穏な動きをしているジャムへ声を掛けた。
「あら、レイ。おはよう」
「……なに、してるの？」
何故かジャムは、熟睡中のシンジのズボンを降ろそうとしている真っ最中。
「ふふ、御主人様に気持ちよい朝の目覚めをプレゼントして差し上げようと思ってね」
「……碇君に手を出さないで」
もはやレイの眠気は完全に吹っ飛び、ただ目の前の恋敵への怒りに燃えている。
「手を出す？私はただ御主人様への奉仕をしようと思っただけよ」
「……やはりあなた……消すわ」
「なら、家を壊さないように外に出ない？」
「ええ……」
レイとジャムが愛の巣を出てから数秒後、
ガイィィィィィィィン！
バキ、バキ、バキ、バキッ！！
ドガァァァァァァン！！
愛の巣周辺一帯に激しい衝撃音が響き渡った。
宇術マスター・シンジ
第５話 使徒っ娘、心のむこうに
「碇くん、碇くん、起きて！」
「うん……？サキさん、どうしたんだい？」
寝ボケ気味なシンジが起き上がって目をこすると、激しい音が聞こえてきた。
「な、なんだ？」
「レイお姉サマとジャムが、外で……外でっ！」
「えぇっ！？」
慌ててシンジが家の外へ瞬間移動すると、激しい空中戦を繰り広げる２人の姿が。
「アはははははは！私のムチの速さは音速以上、いつまで耐えれるかしら？この私の勝利は時間の問題ね！」
妙な高笑いをしつつ、レイに向かって光る触手を激しく振るうジャム。
レイはＡＴフィールドで防御している。
「いえ、勝つのは私」
しかしそう言うと、両手を前に突き出して防御用に展開していたＡＴフィールドをジャムに向かって高速で飛ばした。
「なにっ！？」
ドガッ！！
突然ＡＴフィールドをぶつけられたジャムは地面まで吹き飛ばされ、攻撃の手を止められる。
「アブソリュート・ディスク……」
レイが両手にそれぞれレコード盤大のＡＴフィールドを展開すると、フリスビーのようにジャムに投げつけた。
ちなみに必殺技名を呟くのは、最近見ている熱血なアニメの影響である。
「さよなら」
無防備なジャムに飛んでいく２枚のＡＴフィールド。
１枚は首、もう１枚は胴を狙っている。
「くっ！」
触手を出して防御を試みるジャム。
「無駄よ」
レイが呟くが、次の瞬間驚きに目を大きく見開く。
バシン、バシン！！
レイの放ったＡＴフィールドは、ジャムの触手にも届くことなく光の膜に遮られて消滅した。
「「どうして…？」」
勝利を確信していたレイも、死を覚悟していたジャムも不思議顔。
「全くもう、朝っぱらから殺し合いかい？２人とも」
「碇君！」
いつのまにかジャムの側に立っていたシンジを見て、レイが驚きの声を上げる。
「御主人、様……」
「危ない所だったね、ジャムさん」
「御主人様ぁっ！！」
ジャムは起き上がると、押し倒しかねない勢いでシンジに抱き着いた。
「御主人様が私の命を救ってくださったのですね！御主人様、大好きです！」
その様子を見たレイが、超高速でシンジとジャムの元へ飛んでくる。
「碇君、どうして！？」
レイがいかにも不満そうな顔でシンジに尋ねた。
「綾波、ジャムさん…こんな危険なケンカはダメだよ」
「そーだよ、仲良くしないとダメ！でも、なんでケンカしてたの？」
サキの疑問に、ジャムが口を開く。
「私が御主人様へ奉仕しようとしたら、目を覚ましたレイが……」
「碇君に手を出した昼田さんが悪いの」
「いえ、悪いのはレイ、あなたよ」
「何を言うのよ。昼田さんよ」
「レイよ」
「昼田さんよ」
「レイよ」
「昼田さんよ」
「レイよ」
「昼田さんよ」
「………」
「………」
「「勝負！」」
「えぇっ！？第２ラウンドぉー！？」
「綾波、ジャムさん！」
サキとシンジの声も、怒りの２人には届かない。
「アブソリュート・ディスク……」
レイは再びＡＴフィールドを両手にそれぞれ展開。
「シャイニング・ウイップ！」
ジャムは光る触手をブンブン振るっている。
そして、２人の視線が火花を散らし、再び戦いのゴングが鳴らされようとしたまさにその時。
「２人とも、いい加減にしないとお仕置きしちゃうよ」
ピタッ。
シンジの声に、２人が固まった。
そして、ゆっくりとシンジの方を振り向く。
「「お仕置き……？」」
「そう、お仕置き」
そう言うと、シンジがレイの方を見る。
「まず、綾波」
ビクッと震えるレイ。
「これ以上危険なケンカを続けたり、またいつかこんな事をしたら……」
「したら……？」
「その日から３日間、キス以上の事をしてあげない」
シンジの宣告にレイは顔面蒼白。
「イ、イヤ……」
「なら、大人しくしててね」
「分かった……分かったからお願い、許して碇君……」
「大丈夫、今回は特別に許してあげるよ」
「碇君……ありがとう……」
レイは半泣きで微笑んだ。
「で、ジャムさん」
「はい、御主人様！」
「ジャムさんへのお仕置きは……」
「お仕置きは……？」
「その日から３日間、ジャムさんの事を『昼田さん』って呼ぶから」
シンジの宣告に顔を大きく引き攣らせるジャム。
「御主人様、それは……」
「イヤなら大人しくしててね」
「は、はい、承知しました！」
ジャムはホッとしたように返事をする。
「じゃ、朝ゴハンを作ろうか」
こうして、朝の騒動は一応完結した。
「昼田さん」
朝食終了後、レイがジャムに話し掛ける。
「レイ、私の事はジャムと呼びなさい」
「……なぜ？」
「聞いて驚きなさい、私は昨晩御主人様から『ラ・ズ・ベリー・ジャム』という第２の名前を授かったのよ！」
「そう、よかったわね昼田さん」
「……ケンカ売ってるの？」
「あなたが勝手に怒っているだけ」
「……まあ、御主人様に免じて許してあげる。御主人様のお仕置きはイヤだから」
「……私も」
「それで何の用？」
「私達、学校へ行くから……留守番をお願い」
「学校……」
「あなたは行けないわ。中学生じゃないもの」
ジャムの外見は２０歳前後、どう見ても中学生ではない。
「でも、それは…ヒマね。御主人様にも会えないし……」
ジャムが憂鬱そうな顔をしたとき、シンジが現れた。
「やぁ２人とも、学校について話してるんだね？」
「御主人様、私はどうすれば良いのでしょうか？」
「ん〜、じゃあ、そうだねぇ〜……」
シンジは何やら考えると、別の部屋からサイフを持ってきて、ジャムへと手渡す。
「とりあえず今日はコレでショッピングでもしてきなよ。そのうちジャムさんの今後の生活について考えるからさ」
「分かりました、御主人様」
「レイお姉サマ、碇くーん！！そろそろ行こー！！」
玄関の方から聞こえてくるサキの元気な声。
「サキさんが呼んでるね。それじゃあ行こうか、綾波」
「ええ、碇君」
「いってらっしゃいませ、御主人様」
「じゃ、行ってくるよ、ジャムさん」
そして、３人は学校へと向かった。
「……ヒマね」
やはりジャムはヒマだった。
テレビを見たり部屋の片付けをしたりと、それなりにヒマを潰してみたのだが、限界がある。
家事はシンジが殆どやっているので、皿洗いも洗濯もする必要が無い。
「それじゃあ、そろそろ御主人様のご厚意に甘えるとしましょうか」
朝９時５０分、ジャムは街へと旅立った。
「水野さん、おはようございます！」
「ジャージくん、おはよー！遅かったね」
「ハイ！思わず２度寝をしてしまいました！」
「アハハ、ジャージくんらしいや」
こんな何気ない日常会話でも、サキと喋られることにトウジは幸せを感じていた。
「す、鈴原！間違えて多くお弁当作ってきちゃったんだけど、食べない？」
委員長洞木ヒカリは、サキとトウジの接近っぷりに危機感を感じ、「弁当作戦」をついに発動。
「おお、スマンなイインチョ」
トウジはヒカリの弁当を快く受け取る。
笑顔のトウジとヒカリ。
これで２人の距離は少し縮まったかというと、
（でも、それだけじゃあトウジって、洞木さんの事を「お弁当屋さん」くらいにしか思わないんじゃないかなぁ？）
悲しい事に、シンジの考えはドンピシャの正解であった。
昼休みになり、いよいよお食事タイム。
屋上でトウジは、ヒカリから貰った弁当を美味しそうに食べていた。
ちなみに隣にはケンスケもいる。
そしてトウジ達から少し離れたところにいる３人組。
シンジ、レイ、サキである。
ヒカリの弁当を頬張りつつ、トウジはサキを見つめていた。
そして、聞こえてくる楽しげな会話。
「レイお姉サマ、碇くん、はい、コレ☆」
サキはカバンからタッパを取り出すと、中から３つのおにぎりを取り出す。
「ああ、今朝僕が朝食を作ってるときに作ってたんだっけ」
「うん！はじめてだから全然ヘタだけど、食べて！」
「サキさん、ありがとう」
「サキ、頑張ったわね」
「えへへ……」
２人に誉められ、照れるサキ。
そして、３人はおにぎりを食べ始めた。
「わわっ、結構くずれちゃうね」
サキがおにぎりを一口食べると、ポロポロと形が崩れていく。
「初めてなんだからしょうがないよ」
「ええ、それに……おいしいもの」
「ありがと、レイお姉サマ、碇くん！」
サキは崩れかけたおにぎりを両手で持ちながら、満面の笑みを浮かべて食べていた。
その時、３人のもとに全力で走ってくる少年の姿が。
「あ、トウジ」
そう、それはヒカリの作った弁当を食べるのを中断したトウジであった。
ちなみに、後ろにはさりげなくケンスケもいる。
「碇、綾波！ワ、ワシにもそれをくれへんか！？」
トウジの欲する物、それは「サキちゃんお手製おにぎり」。
そう、サキが丹精込めて握ったおにぎり。
トウジが欲しがるのも当然である。
「え？でもジャージくん、委員長からお弁当をもらったんじゃ？」
サキが首を傾げる。
「確かに、イインチョの弁当で腹が膨れますが、水野さんのニギリ飯では心が膨れるのです！」
（洞木さんが聞いたら泣くよ……）
シンジは、トウジの熱いセリフにタラ〜と汗を流していた。
「じゃ、あげるよ、コレ！」
トウジの言葉を聞いたサキが、少し崩れたおにぎりを差し出す。
「み、水野さん！エエんですか！？」
いかに鈍感なトウジといえど、わざわざサキから貰うのは遠慮があったのだが、予想外にも本人から差し出され驚愕。
「うん。ボク、碇くんの作ったお弁当があるから！……食べかけで量が少なくなっちゃってるけど、だいじょーぶ？」
残り３分の２くらいになったサキのおにぎり。
言葉通り、サキの食べかけである。
つまり、かなり豪快な間接キスなのだ。
トウジは凄まじい勢いで首を縦に振る。
「はい、コレ」
サキから手渡されるおにぎり。
好きな少女と手と手が触れ合い、トウジはかなり嬉しそうである。
そして、涙を流しながら食べ始める。
「ウマイ！ウマイです、水野さん！ワシの心は満腹度１２０％ですっ！！」
「うわぁ、うれしーっ！なんなら、また今度作ろっか？」
涙を流すほどトウジに喜ばれ、サキはかなり上機嫌。
「ハ、ハイ！ぜひ！」
異様に盛り上がるサキとトウジ。
そんな２人を見て、シンジとケンスケはヒカリに深く同情したという……。
「碇君の作ったお弁当……おいしいの……」
余談だが、レイはあくまでマイペースを貫いていた。
「鈴原、その、お弁当……どうだった？」
教室に戻ったトウジはに、ヒカリがススッと近寄る。
「おお、ウマかったで」
「！ そ、そう…」
心の中はルンルン気分なヒカリ。
トウジの表情もにこやかである。
そんなトウジに、ヒカリは「弁当作戦」の成功を確信。
屋上で起こった出来事など何も知らずに……。
（知らない事って、幸せだよな〜）
嬉しそうなヒカリを見ながら、ケンスケはそう思っていた。
「じゃーね、ジャージくん」
「水野さん、また明日！」
放課後、３人は愛の巣へと帰る。
ちなみに瞬間移動は使わず、徒歩でゆっくりとムダ話をしながら帰るのだ。
「ジャージくん、いいヒトだね☆」
とてもじゃないが、少し前まで「レイお姉サマに近寄らないで」と冷たい態度を取り、あまつさえ「目からビーム」で焼いた事があるとは思えない発言である。
よほどおにぎりの喜び様が嬉しかったらしい。
「サキ、よかったわね」
「うん！」
レイも、サキの幸せそうな顔に微笑みを浮かべる。
ほのぼのとした雰囲気で、３人は愛の巣へと到着した。
「「「ただいま」」」
「おかえりなさいませ、御主人様！」
玄関で３人を迎えるジャム。
「ジャム…さ……ん？」
「本日、私、ラ･ズ･ベリー･ジャムは、御主人様のために午後１時にデパートでこの服を買ってまいりました！あの、似合いますでしょうか？」
シンジはなかなか二の句を継げなかった。
なぜなら、目の前のジャムの服装はメイド服＋首輪。
服装についての知識が薄いレイとサキは、シンジの反応にハテナマークを浮かべている。
「えっと……似合う、よ……」
シンジはそれだけ言うのが精一杯であった。
「ねー、ジャムぅー、その首輪はなに？」
居間でくつろいでいたサキが、ジャムの首輪を触る。
「コレは、御主人様への服従の証……」
何故か誇らしげなジャム。
「ふくじゅう？」
「そう、服従。私は心も体も御主人様だけのモノだから……」
「うーん、よく分かんないや……あれ？」
サキがジャムのメイド服に何かを発見した。
「コレ……ネルフのロゴ……？」
「えっ！？」
それに驚いたのはシンジである。
「ちょ、ちょっとジャムさん、見せて！」
「はい、お望みのままにどうぞ…」
シンジがジャムの左胸より少し上部をよく見ると、確かにネルフマークがあった。
「まさか、ネルフ製……？ネルフって、非公開組織じゃあ……。てゆーか、なんでメイド服なんか……？」
「碇君」
困惑しているシンジに、レイが声を掛けてくる。
「ネルフは少しでも資金を得るために、様々な商品を製造・販売しているの」
「そのためには、えーと…ひこーかい組織でもなりふりかまってらんない、ってコト？」
「そうよ」
「……だからって、なにもメイド服を作らなくても……」
シンジはネルフマークを見ながらタラ〜と汗を流す。
「メイド服の他に、看護婦用制服や巫女装束など、様々なマニア向け商品も製造・販売されているの」
あくまで淡々と無表情で話すレイ。
訂正。レイは服装についての知識が薄いのではなく、単に興味が無いだけらしい。
（ネルフって、一体……）
自分の知らなかったネルフの特殊な一面を知ったシンジは、複雑な顔をした。
「じゃあ、夕飯でも作ろうかな」
夕方、シンジがいつもの様にキッチンへ向かおうとする。
その時、ジャムが近付いてきた。
「御主人様、私に料理を教えて頂けませんでしょうか？料理などの家事を、一通りこなせる様になりたいので……」
「うん、いいよ別に」
快諾するシンジ。
その光景を見たレイが大急ぎでシンジへと走った。
「碇君、私も！」
「ボクも！ボクもお料理したい！」
サキもやる気マンマンである。
「レイ、あなたは何のために料理を学ぶの？」
「私は……私が作った料理を碇君に食べてもらいたい」
「あなたがしなくても、御主人様の分は私が作るわ。だからレイは休んでなさい」
「イヤ。私と碇君は恋人同士だもの」
「それを言うなら、私は御主人様に仕えているのよ。御主人様のために尽くす事は当然の事……」
「「………………」」
無言で睨み合う２人。
オロオロしてるサキを見て、シンジが苦笑する。
「ハハハ、まあまあ…。それじゃあみんなでしようか」
結局、この時間はシンジ主導による料理教室になった。
「サ、サキさん、手付きが危なっかしいよ…」
「サキ、指を切ってしまうわ……」
「ちょっとサキ！包丁の扱いが豪快すぎない！？」
レイとジャムはなかなか飲み込みが早かったのだが、サキだけは違い、少々ぎこちない。
まあ、コレが普通なのだという説もあるが。
ザクン！！
「ふー、なんとか切れたよー」
（（（見てるこっちが怖い……）））
「ねー、碇くん、つぎは？」
「そ、それじゃあ、タマネギを炒めてみようか……」
いつの間にか、キッチンはサキ中心に動いていた……。
「フーンフフーン、フーフフフフフフーン、フフフフーフフフーフーフフーン♪」
食後、ジャムが笑顔で歌いながら皿洗いをしていた。
「終わりっ！さ、次は……」
「ジャムさん……」
「何でしょうか？御主人様」
「悪いよ、ジャムさん……そんなに何でもかんでも……」
次々に家事をこなすジャムに、シンジが心配そうに声を掛ける。
「いいえ、気になさらないで下さい。私は御主人様のために働ける事が幸せなのですから……」
「ジャムさん……」
シンジは「１度目」の同居人にこき使われまくった生活を思い出し、ジャムの言葉に感激。
そんな２人を見たレイはなにやら危機感を感じ、急いでシンジの元へと駆け寄る。
「碇君、一緒にお風呂に入るの……」
レイがシンジの袖をクイクイと引っ張る。
「え？ でも、綾波はいつもサキさんと……」
「一緒に入りたいの……」
「待ちなさいレイ！私が御主人様の体を洗うわ！」
「イヤ…」
「いえ、コレは御主人様に仕える者として当然の事！」
「私は碇君の恋人なの」
「それに、サキはどうなるのよ？レイはサキの一途な想いを無視する気！？」
この発言にはレイも困った顔をする。
「それなら、私と碇君とサキの３人で……」
「そんなに広くないわよ、浴室は」
言葉に詰まるレイ。
「レーイお姉ーサマー！！」
その時、３人の元へサキが登場。
「レイお姉サマ、おフロ入ろー！！」
満面の笑みを浮かべるサキを、レイが拒む事など出来なかった。
「サキ、私と御主人様は先に入るから、レイとテレビでも見て待ってなさい」
「うん！」
そして、ルンルン顔のジャムは、半ば強引にシンジを連れて行く。
「碇君……」
「どーしたの？レイお姉サマ……」
「……なんでもないわ……」
レイは肩を落とすと、トボトボと居間へと歩いていった。
「え、えっと、ジャムさん…？」
浴室では、腰にタオルを巻いたシンジが、一糸纏わぬジャムに妖しげな瞳で迫られていた。
「そ、その、体、隠した方が……」
「……御主人様は、女の裸を見るのはお嫌いなのですか？」
「い、いや、そうじゃないけど、ホラ、綾波が……」
年上のナイスバディな女性に迫られた経験など無いシンジは、いつものマイペースを崩し、しどろもどろ。
「私の心と体は御主人様だけのモノ。好きなように弄んで構いません……」
（ど、どうしよう…。逃げたり拒んだりしたら、ジャムさん絶対傷付いちゃうよ……。でも、綾波が……）
シンジ、葛藤中。
「やはりダメ。昼田さんを碇君と２人きりにするのは危険なの」
「レイお姉サマ？」
サキとテレビを見ていたレイは、急に浴室のほうを向く。
そして立ち上がると、浴室に向かって走り出した。
「あ、待ってよー！」
その後を付いていくサキ。
レイは浴室のドアの前に立つと、勢いよく開け放つ。
「昼田さん……あなた、やはり……」
怒りに震えるレイの声。
「碇くん……ジャム……」
その光景を見たサキの顔は真っ赤。
まず、ジャムがシンジの唇を奪っていた。
レイを見ながら、ゆっくりと唇を放すジャム。
「あ、綾波……」
口が自由になったシンジが、レイの名を紡ぐ。
次に、ジャムの大きな胸に思いっきり押し付けられているシンジの左手。
「ジャム……おっきー……」
ジャムの胸を見て、サキが一言。
……どうやら、羨ましいらしい。
シンジの右手はジャムの肩の上、ジャムの左腕はシンジの首に回されている。
そして、ジャムの右手。
それは、シンジの熱膨張した某物体をタオル越しに触っていた。
「御主人様……邪魔が入ってしまいました……」
残念そうに呟くジャム。
レイは「ゴゴゴゴゴゴ……」という効果音をバックにジャムを見ている。
そして、紅い瞳でギンッ！と睨み付けると、
「アブソリュート・ディスク……」
両手にそれぞれＡＴフィールド展開。
「……やる気なのね？シャイニング・ウイップ！」
ジャムもシンジから離れると、両手から光る触手を出現させた。
「あわわわわわ……」
サキはひたすらオロオロしている。
「「………………」」
まさに一触即発デンジャー状態。
しかしシンジはジャムから解放され、冷静さを取り戻す。
「『移動』」
シンジは瞬間移動でレイの背後に回ると、後ろから抱きしめた。
「あ・や・な・み……」
「い、碇君……」
頬をピンク色に染めたレイは、両手のフィールドを閉じる。
「綾波……今朝、ケンカしないでって……言ったよね？」
そう囁きながら、シンジの右手がレイの左胸を掴んだ。
「っ！！…う、うん……」
「じゃあ、落ち着いてくれないかな？僕は綾波の事が好きなんだから……」
さりげなく、シンジの右手はふにふにと動いている。
呼吸を荒くしながらコクコクと頷くレイ。
「ご、御主人様、私にも……」
その様子を見ているジャムが、シンジに懇願。
「綾波、ジャムさんがああ言ってるけど、綾波はどう思う？僕としては綾波にもジャムさんにも幸せになってほしいんだけど……」
昨晩、シンジが迷っていた事を尋ねてみる。
「…………わ、私は……、碇君が、信じる道、を、い、行けば……、いい……と、思うの……。碇君は、私を、好きだって……、言って、くれているから……」
いくらか迷ったレイだったが、シンジの「みんなを幸せにしたい」という意思に気付き、心に渦巻くシンジへの独占欲をなんとか妥協。
「それじゃあ、僕はジャムさんにも幸せになってほしいから、ジャムさんの求めを拒まないよ？綾波はそれでもいいの？」
「だ、だって……、私は、碇君の……恋人、だもの……。それは、揺るがない、確かな、事実……あぁっ！！」
レイは大きく叫ぶと力無く座り込む。
ちなみに、途中からシンジが左手をレイの下腹部へと伸ばしていったのは公然の秘密。
「じゃあ、綾波の許可も出たし……ジャムさん？」
「御主人様、よろしいのですか！？」
「だって、その方がジャムさん幸せでしょ？」
「御主人様ぁっ！！」
「あ、一線はまだ超えないよ？まだ綾波ともしてないからね」
自分のペースを取り戻せたシンジは、笑顔で明るくジャムへ言った。
「ボク、ココにいてもいいのかなぁ……」
サキは、目の前で繰り広げられるジャムの愛情表現を、真っ赤な顔でボーゼンと眺めていた……。
翌日の朝、キッチンでは４人がお料理中。
「御主人様、私は今日はどのように過ごせばよろしいのでしょうか？」
「あ、ゴメン！まだ何も考えてないんだ。また街にでも出掛けててくれる？」
「はい……ってサキ！包丁を扱うときは指を曲げる！」
「あぁっ、忘れてた！」
「……ところで、サキは何を作っているの？」
昨晩の会議の結果により、シンジはレイとジャムの弁当を、レイはシンジとサキの弁当を、ジャムは全員の朝食をそれぞれ担当している。
つまり、サキは何も作らなくても良い筈なのである。
しかし、サキは料理の手を休めずに、
「お弁当！」
と、笑顔で答えた。
３人が学校に到着してから数分後、トウジが教室へ現れた。
「お、おはようございます、水野さん！」
「あ、ジャージくん！おはよー☆」
トウジの姿を確認したヒカリの目がキラーンと光る。
そう、「弁当作戦」を再び発動させるのだ。
そしてヒカリがカバンから弁当箱を出そうとしたその時、
「ねージャージくん、お弁当作ってきたんだけど、食べる？」
サキが笑顔でトウジに弁当を差し出した。
「ほ、ホンマでっか！？ワシのために！？」
「うん！昨日委員長が間違えて多く作っちゃったお弁当をジャージくんに渡してたでしょ？アレ見てさ、ジャージくんにお弁当を作ったら喜ぶかなー、って」
「あ、ありがとうございます！ワシは……最高に嬉しいです！！」
「うわー、そこまで喜んでもらえるなんて、ボクうれしい！じゃあ、なんなら毎日作ってこよっか？」
次の瞬間、２−Ａにトウジの歓喜の絶叫が響き渡った。
（洞木さん……、サキさんはトウジをただの友達だと思ってるから、あんなに積極的に振舞えるんだと思うけど……分かってるのかな？）
シンジは、カバンの中に手を入れたまま真っ白な灰になって固まっているヒカリを見て、心の中で苦笑していた。
あとがき？
第５話でした。タイトルの「使徒っ娘」にはジャムを含みます。ええ、「娘」ですとも。設定では２０才です。
そして、やはり彼女にはメイド服を着てもらいました。だってメイドさんですし。１８禁ゲームに出てきそうな感じですが。
……僕の趣味や願望ではありませんよ、この話。一応言っときます。
そしてシンジ、来るものは拒まず主義？に転向です。よく見かける「優柔不断シンジ」とどっちが良いでしょうか？
まあなんにせよ、これで「三角関係に悩むシンジ」を排除できました。
彼にはアホなくらい明るい性格になって欲しいですからね。目指せ、悩みゼロ！
しっかし、今回はジャムのせいで結構アレな内容でしたな。
次回、おそらくラミエル登場！どうなるヤシマ作戦！？
それでは！
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感謝の言葉：
「さぁ、ボクの胸に飛び込んでおいで〜」と宣言するシンジ君というのも
新鮮ですね。やはり自信があると、人は変われるものなんでしょー。
ますます報われないヒカリと、勝手に盛り上がるトウジ。
友達としてだけ見ているサキちゃんの関係も要注目♪
次はラミエルですけどぉ・・・やっぱり人化の法の実行でしょーか？（笑）
楽しみですね。
えっと、今回で転載分はお終いになります。
さ、読んだ方は感想を送って、ＢＥＥめーだ さんに「続きが読みたい」
想いを伝えましょー♪
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第０６話「決戦、第三使徒を巡り」に進む。
作者の ＢＥＥめーだ さんへの感想メールはこちら（beemeda@mail.goo.ne.jp）まで。
読者からの反響は作者のやる気を湧き出させます。
続きが読みたい人は、感想メールを送りましょうね。