ジャムは目がテンになっていた。

驚きのあまり言葉を発することもできない。

彼女の目の前にある光景は、深い口付けを交わす２人の少女。

１人は青い髪の少女、サキ。

もう１人はレイ、では無く……、

「え……えっと……ラミ？」

ようやくジャムはその少女の名を口にする。

肩くらいまで伸びたセミロングの金髪、シンジやレイと同じ年齢くらいの外見。

今日愛の巣へとやってきた新しき同居人、第五使徒ラミエルであった。





宇術マスター・シンジ

第６話　決戦、第三使徒を巡り





遡る事数時間前、零号機の再起動実験が成功した直後にラミエル襲来が伝えられた。

超絶な威力を誇る「加粒子砲」の存在を知るシンジは、いきなり宇術でラミエルの真上に瞬間移動、即殲滅。

サキとジャムの希望により、例によって残されたコアから使徒を人間化したのだ。

そしてその少女は、話し合いの結果「迅雷ラミ」と名付けられる。

ジャムが来た事で一人一部屋が与えられ、ラミは２階にあるサキの部屋で眠っていた。

そして時は経ち、夕方になる。

４人はラミを見ていたが、１階に備え付けられている電話が鳴り出す。

シンジは１階へと降り、レイとジャムはシンジに付いていき、サキとラミだけが部屋へと残されていた。

１０分くらい経過した後、ジャムが何気にラミの様子を見にサキの部屋へと戻ったら……。



「ビ、ビックリしたぁ……」

唇が離れた後、サキはボーゼンと呟いた。

「あ……あの、何がどうなってるのか教えてくれない？」

動揺をなるべく隠しつつ、ジャムは２人へと尋ねる。

「えっと……オレが起きたら、その、サキがいて……」

その質問に答え始めるラミ。

どうやら彼女は男言葉を使うようだ。

「サキにここでの事を色々教えられてたんだけど……」

サキが教えた事とは、家族の紹介など、愛の巣に関わる事である。

「そんなサキがもう、かわいくてかわいくて！」

ギュッ！！

「わわわっ！」

笑顔でサキを抱きしめるラミ。

サキは真っ赤な顔でラミの胸に顔をうずめる。

「あなたねぇ、だからって女同士でキスする事も無いでしょうに……」

「いいじゃねーか、サキに聞いたらもう経験済みだって言ってたし、男にやられるよりは女にやられたほうがマシだろ？」

気にする風も無く、あっけらかんと言い放つラミ。

「ま、御主人様に手を出さなきゃ、それでいいんだけどね……」

ヤレヤレといった感じでジャムは溜め息をついた。



「それで、サキの気持ちはどうなの？」

いつものようにレイとサキが入浴中。

サキはレイに悩み相談をしていた。

当然、ラミについてである。

「ボク、レイお姉サマが一番好きだよ」

「そう……。それで、ラミの事は？」

「えっと……」

顔を真っ赤にし、目から下を湯船に沈めるサキ。

「わからないの？」

「……んん」

レイの問いに肯定したサキは、口を湯船から出す。

「だって、ラミとは今日はじめて会ったばかりなのに、そんなコト……」

「あなたは、私と初めて会った日に私を好きになっていたわ」

「そ、そーなんだけど……」

「その気持ちはラミも同じよ」

「そーだね……」

数秒の静寂。

「レイお姉サマ……」

「なに？」

「ゴメンなさい……」

「どうして謝るの？」

「だって、レイお姉サマ以外のヒトと、キス、しちゃったから……」

レイから顔を背けながら、申し訳無さそうにサキが言う。

「かまわないわ。『した』のではなくて、『された』のだから」

「うん……」

「それに、サキは私のモノでは無いから……」

「………」

レイのセリフに、どこか寂しさを覚えるサキ。

「碇君は、私達みんなに幸せになって欲しいと言っていたわ。だから、碇君は昼田さんを拒絶したりしないの。そして、ラミにも幸せになってほしいと願っているはず。だから、サキ……」

「？」

「ラミを、嫌いになったりしてはダメ」

「そんなコトしないよ！ボク、ラミのコト友達だと思ってるもん！」

それを聞いたレイはニッコリと微笑むと、

「ありがとう、サキ。碇君も喜ぶわ」

と言った。

「うん！それで、レイお姉サマ……」

再び顔を赤く染めたサキが、ススッとレイに近付く。

「わかってるわ……して欲しいのね」

さらに顔を赤く染めたサキが、コクンと頷いた。

「うふふ……可愛い娘……」

「あっ、レイお姉サマぁ……んんっ…！」

なにやら妖しげな行為を始める２人であるが、シンジ公認なので問題は無いであろう。多分。



「碇くん、どーしたの？」

風呂上がりのサキがリビングへ行くと、珍しく難しい顔をしたシンジがいた。

「さっき、リツコさんから電話があったよね？」

「ええ」

「それでそれで？」

「で、その電話の内容なんだけど……」

「私に『ネルフに来ないか』、だって」

「ジャムに？」

サキが首を傾げる。

「ネルフって、シンとレイの働いてる所だろ？」

「まあね。表向きは使徒をやっつける為の非公開組織。裏ではかなりヤバイんだけどね」

「そこの総司令が碇君の父親なの」

「もうあんなヒゲ、どうでもいいんだけどね」

かなりゲンドウを小馬鹿にするシンジ。

しかも実際その通りである。

現時点で最強なのはネルフでもゼーレでもなく、シンジなのだから。

もっとも、その事を知る者は少ないのだが。

「それでさ、リツコさんったら失礼なんだよ？ジャムさんをネルフに呼ぶ目的が、『使徒としての力を調査したいから』だってさ」

シンジの言葉に、レイの目付きが鋭くなる。

（赤木博士……碇君を怒らせた……ばーさんは用済み……）

この時レイの中で、もともと大して無かったリツコへの評価が大幅にダウンした。

「まったく、あれほど使徒扱いするのは止めろって言ってるのに……」

リツコへの不満を露にするシンジ。

しかし、それを聞いたサキ、ジャム、ラミはキョトンとする。

「え？碇くん、ボクって使徒じゃないの？」

「私たちは、ただ単に体が人間になっただけなのでは……？」

「オレだって、この体でもビーム撃てるぜ？」

あっさり自分たちが使徒であることを受け止めている３人に、シンジとレイはポカンとする。

「ちょ、ちょっと待ってよ３人とも！何でそんなに平然としてられるの！？」

「……怖くないの？ヒトと違うという事が……」

２人の言葉に、３人は少し考えるが、

「でも、そんなにボクってヒトと違うかなぁ？」

「私は……御主人様が見て下されば、それだけで幸せですから……」

「よくわかんねーけど、別に支障は無ぇだろ？」

と、やはり全然気にしちゃいない様子。

「………綾波は、どう思ってるの？」

「私は……全て知っていた碇君が、私を受け入れてくれたから……もう大丈夫……」

自分たちとの考えとのギャップに、少々精神が不安定な二人。

「まぁ、考え方は人それぞれですから」

とりあえず、ジャムは笑顔でフォローを入れておくのであった。



「はい、新たな同居人、ラミさんを祝して……乾杯！」

「「「「「かんぱーい！」」」」」

この日の夜、ラミの歓迎会が行われた。

ちなみに乾杯したのはジュースであり、アルコールではない。

「へぇ、人間の飲み物ってウマいんだな」

「ラミ、ボクのオススメはアップルジュースだよ☆」

「どこだ？アップルはどこだ！？」

「慌てないの、ハイ、リンゴ」

クスクスと笑いながらアップルジュースを手渡すジャム。

かなり和やかな雰囲気である。

「ところで、この家の人間関係がよく分からねーんだけど」

ラミが目を覚ました時からずっと疑問に感じていた事を尋ねる。

「御主人様とかお姉サマとか、いくらオレでも普通じゃない事くらいは分かるぜ？」

「じゃあ、１人づつ自己紹介でもしようか」

シンジがパンを食べながら提案する。

どうやら、レイたちも賛成のようだ。

「僕からいくね。僕は碇シンジ、１４歳。綾波とは恋人関係なんだ」

そのセリフに頬を染めるレイと、少し頬を膨らますジャム。

「レイと恋人……ふーん……そんな感じだな、確かに」

ラミがシンジとレイの顔を交互に見て言う。

「じゃあ、次は綾波の番だよ」

「分かったわ。……私は綾波レイ、碇君が好きなの」

「レイお姉サマ、ボクは？」

不安と期待が入り混じった視線でレイを見つめるサキ。

「ええ、サキも好きよ」

「ボクも☆」

微笑み合う２人の少女。

そこはかとなく妖しい雰囲気である。

（い、いいな……）

ラミは、レイを羨ましそうにジッと見ていた。

「じゃ、次はボクが言うね」

サキの言葉に即座に反応し、超スピードでサキの方を向くラミ。

ラミから発せられる熱い視線に、サキも少し苦笑したりする。

「ボクの名前は水野サキ！レイお姉サマのコトが大好きで、目からビーム、手からパイルが出せるんだ！」

「オ、オレもビーム撃てるぜ」

「ホント！？じゃあ、ボクたちって同じだね☆」

やたら盛り上がるサキとラミ。

ただ、その会話の内容が常人とは何か違うのだが。

ラミの表情は本当に嬉しそうである。

「コホン、次は私よ」

ジャムがドサクサ紛れにサキに抱き着いているラミの肩を叩く。

「あ、ああ」

ラミはサキから離れ、ジャムの方を向いた。

「私の名前はラ・ズ・ベリー・ジャム。この家では家事を担当しているわ。そして、私は心も体も御主人様だけのモノ……」

「そ、そうか……」

ウットリとしているジャムを見て、タラ〜と汗を流すラミ。

「まぁ、なんとなく分かった……気がする……」

そう言うと、ラミはサキを見ながら料理を食べ始めたのであった。



「仲がいいね、あの２人」

「私にはラミが一方的に、という風に見えるのですが……」

「別にサキは嫌がってはいないわ」

シンジ、ジャム、レイの視線の先には、仲良く会話するサキとラミの姿が。

ラミは事あるごとにサキに抱き着いたりしている。

「ラミ、明日から学校なのよね…」

シンジによる超高速の手続きにより、ラミはもう第壱中への転入が決定していた。

「学校でもあの調子なのかな？」

「……きっとそうよ」

そして、シンジとレイの予想が当たることは、次の日にアッサリと証明されるのである。



翌朝。

「おはよ、ジャムさん」

「昼田さん、おはようなの」

朝食の支度をしているジャムの元へとやってくるシンジとレイ。

「おはようございます、御主人様。……レイ、ジャムって呼べって言ってるでしょう！？」

「……私には関係無いもの」

「はぁ、このコは……」

すっかりお姉さんっぷりが板についてきたジャムであった。

「あれ？サキさんは？」

シンジは、いつも自分より早く起きるはずの少女の姿が無い事に気付く。

「珍しいわね、まだ起きないだなんて。レイ、起こしてきなさい」

「分かったわ……」

ジャムに頼まれたレイは、サキの部屋へと向かった。



「サキ、起きてる？」

レイがサキの部屋の前で呼びかける。

……が、返事は無い。

（寝てるのね……）

そう判断したレイは、サキの部屋のドアを開け、中へと入っていった。

「…………」

サキは、隣に寝ているラミの胸に顔をうずめて寝ていた。

「……サキ、ラミ、時間なの」

２人を揺さぶるレイ。

「「うぅん……」」

そして２人は同時に目覚めた。

「レイお姉サマ、おはよぉ……」

「おはよ、レイ……」

目を擦りながら上体を起こす２人。

「もうみんな起きているわ」

「え？いま何時？」

そう言ったサキが時計を探すためにキョロキョロするが、

「７時１５分なの」

それより先にレイが答えた。

「え？もうそんな時間かぁ……」

「珍しいわね」

「んー、ちょっと昨日ラミがなかなか寝かせてくれなくて……」

「ラミが？」

レイはサキからラミに視線を移す。

「あ、ああ、ちょっとサキがかわいくて、つい、な」

顔を赤くしながら答えるラミ。

そんなラミを見て、なぜか顔を赤らめるサキ。

「…………」

とりあえず、レイはそれ以上昨晩何があったのかは聞かなかった。

単純に興味が無かっただけなのだが。



「水野さん、おはようございます！」

「おはよー、ジャージくん。その……ゴメン」

「ど、どないしたのですか？」

会うなり突然謝り出すサキに、トウジは少々慌てる。

「今日ね、寝坊しちゃって……作れなかったんだ、お弁当……」

「そ、そうですか…。しかし、ワシはいつもわざわざ作ってもらっている身！怒る事なぞコレっぽっちもあらへんです！」

「よかったぁ、ありがとネ☆」

ホンワカとした雰囲気の２人。

その光景を見て、ヒカリは泣いているのか怒っているのか笑っているのかよく分からない微妙な顔をする。

「………………」

「委員長、怖いぞ……」

ケンスケは何やらオーラを発しているようなヒカリの姿に戦慄を覚えたとか。



「えー、今日は新しいお友達を紹介します」

担任の言葉にザワつく２−Ａ。

「では、入ってきてください」

ガラガラッ。

ドアを開けて入ってきたのは金髪の美少女。

その少女は黒板の前に立つと、簡単な自己紹介を始めた。

「オレの名前は迅雷ラミ、いわゆる使徒ってヤツだ」

あまりにも衝撃的過ぎる発言に、一気に静まり返る教室。

彼らにとって使徒とは、第３新東京市の一部を破壊したサキエルの印象が強い。

まあ、他の使徒は破壊活動をする暇も無く倒されたのだから仕方がないのだが。

ちなみに、「使徒」という名称などの情報は、大抵がケンスケによるものである。

「イヤ、隠しておこうかとも思ったんだけどよ、それだとどうにも悪ィ事をしてるような気がしてな」

あっけらかんと言うラミに、一同はボーゼン。

（ハハハ、ラミさんらしいや）

シンジは平然としていたが。

「ま、別に人間と敵対するつもりも何にも無いから、仲良くしてくれ。何か質問はあるか？」

相変わらず硬直している生徒達は、質問も何もあったモンでは無かった。



そして休み時間になり、生徒達も大分落ち着いてきた。

だが、やはり「使徒」という事で、ラミには近付かなかったのだが……

「よぉ、サキ、シン、レイ！」

「ラミ、おはよー！」

「いや〜、ブッ飛んだ自己紹介をするね…」

「あなた、命知らずなの……」

「いいじゃねーか。それに、このくらいで差別するようなちっぽけなヤツとなんか、こっちから付き合いを辞退するぜ」

やはり、ラミは自分が使徒であることを気にしていないようだ。

「あぁ、なるほど〜」

「一理あるね」

「そう……」

レイは、ラミの考え方に困惑していた。

自分がずっと悩んでいた事を、目の前の少女はまるで気にしていないのだ。

「ま、考え方は人それぞれだからね」

そんなレイの気持ちを察したのか、シンジはフォローを入れる。

「それよりさ……」

そう言うと、ラミはサキに歩み寄り、

「サキぃぃぃッ！！」

ギュッ！！

「わ、わわっ！？」

いきなり抱き着いた。

「あぁぁ、なんっっって、カワイイんだっ！！」

「あ、ありがと……」

ラミの抱擁とセリフに、サキは真っ赤になる。

そして、それを黙って見ていられない１人の少年がいた。

「くぉらっ、水野さんから離れんかいっ！！」

「あ？何だよいきなり！？」

そう、サキちゃんラブなジャージ少年、鈴原トウジである。

「水野さんがイヤがっとるやないかっ！！」

「イヤがってる！？ンなわきゃ無ぇだろ！！」

シンジ達を除く一同は、使徒の少女といきなり口ゲンカを始めるトウジに驚愕。

「オ、オイ、トウジ、相手は使徒だぞ……？」

「鈴原、危ないわよ！」

ケンスケとヒカリがトウジに忠告するが、

「外野っ！！勝手にオレを危険人物扱いすんなっ！！」

と、ラミの一喝で沈黙。

「構うかいっ！！使徒やろうと何やろうと、水野さんに手を出すヤツはこのワシがパチキかましたる！」

「うっさい、このストーカージャージ！加粒子砲浴びてーのか！？」

睨み合うトウジとラミ。

「まあまあ、２人とも」

「「シン（碇）？」」

シンジがそんな２人に、笑顔で割って入った。

「いやー、トウジって偉いね」

「はぁ？いきなり何を言い出すんや」

「ラミさんが使徒だって分かってても、まるで差別しない事さ。トウジの後ろの２人とは大違いだね」

そう言うと、シンジはケンスケとヒカリを一瞥する。

「「…………」」

言葉に詰まる２人。

「使徒も何も、コイツは人間とまるで同じやないか」

「そうそう、トウジの言う通り。そんな事で差別するなんて馬鹿げてるとしか言いようが無いね」

シンジはそう言うと、トウジに右手を差し出した。

「気に入ったよ、トウジ。友達になろう」

「その前に……碇、オノレは水野さんの事を……」

「サキさんは……大事な大事な家族だよ。僕の恋人は綾波さ」

その言葉を聞くと、トウジは安心したようにシンジの右手を握る。

「よろしゅうな、碇」

「こちらこそ」



「いや〜、一時はどうなることかと思ったけど、適応力の高いクラスだね、ここは」

色々あったが、結局ラミはクラスに溶け込んでいた。

多少の距離を置きながらも実際に話してみると、彼女が人間と変わらない事に気付かされるのである。

そして、彼女のサキにも劣らない活発さは、人気者にさせる素質十分であった。

「ねぇねぇ迅雷さん、使徒って一体なんなの？」

「さあ、オレにもよく分からねーんだ。なんせ、気が付いたら使徒だったからな」

「なんで使徒ってココにばかり来るの？」

「んー、何か惹かれるっていうか、使命感っていうか……まぁ、本能だと思うぜ？もっとも、今は別に何とも思わねーんだけど」

などなど、ラミはやはり使徒がらみの質問を多く聞かれている。

他にも、シンジやサキとの関係についても聞かれる。

「碇君やサキちゃんとは知り合いなの？今朝真っ先に話してたけど……」

「ああ、オレがこの体になってから一番初めに出来た友達なんだ」

「ねーねー、水野さんとはどんな関係なの？」

「え！？…………か、片想い、かな……」

頬を赤く染めつつ言うラミに、盛り上がる２−Ａ。

そんなラミに、「ボーイッシュな少女が照れると可愛い」という事で、男子生徒の間でラミの人気が急上昇。

そして、やはりトウジは心中穏やかでなかった。

「アカン！おなご同士でそないな事、アカン！」

「フン、勝手に言ってろ、ジャージ野郎！好きなモンは好きなんだよ！」

そう言うと、ラミは真っ赤になって立っているサキを抱き締める。

「ラ、ラミ……」

「サキ、大好きだぜ……」

なかなか衝撃的な光景に、２−Ａのボルテージは上がる上がる。

「不潔、不潔よぉぉぉぉぉぉ！！」

「売れる、これは売れるぞぉぉぉぉぉ！！」

「水野さんから離れんかぁぁぁぁぁい！！」

こうして、２−Ａに新たな騒動の種がまかれたのであった。



その頃の愛の巣。

「もしもし、ラ・ズ・ベリー・ジャムよ」

『私、赤木リツコよ。で、返事は決まった？』

「収入も入るんでしょう？実験くらい協力するわ」

『じゃあ、これから迎えをよこさせるから』

「晩御飯を作ったりしなきゃいけないから、５時までに終わるように頼むわよ」

『……家庭的な使徒ね、あなた』

「関係ないわよ、使徒かどうかなんて」

『とにかく、迎えが来るまで待っていてね』

「分かったわ。それじゃ」

ガチャ。

電話を切ったジャムは、楽しそうに呟いた。

「コレで、御主人様だけの収入だけに頼って暮らす、なんて事も無いわね」

大人な彼女には、主であるシンジだけの収入に頼って暮らす事が気掛かりだったのである。

「さてと、お姉さんは働きに行きますからねー」

と、誰もいない家で言うと、殆ど袖を通していなかった普通の服へと着替え始めた。

「あーあ、家事の時間……減っちゃうわね」

早くも家庭と仕事の両立の難しさを感じるジャムであった。



「御主人様、ただいま帰りました！」

「ああ、ジャムさん、お帰り」

ジャムがネルフから戻ると、リビングではシンジ達がくつろいでいた。

「ジャムさん、本当に働くの？」

「はい、少しでも御主人様の助けになればと思いまして……」

「ありがとう。……でも、別に財政は苦しくないし……」

「もう決めた事ですから。ですが……」

「ジャムぅ、何かあったの？」

ラミに抱き着かれているサキがジャムに尋ねる。

「１人……イヤな女がいてね……」

疲れた顔でサキに語り始めるジャム。

「イヤな女？」

「やたらと突っ掛かってきたり、何もしてないのに睨んできたり……腹が立つわ！」

「あ、ジャムさん、それってもしかしてミサトさん？」

「……そう言えば、そんな名前だったような……」

「あの人、使徒が嫌いなんだよ。それに……」

「「それに……？」」

サキとジャムの声がハモった。

「年齢の事を気にしてるみたいだから、若くて美人なジャムさんを妬んでるんじゃないかな？」

「ご、御主人様……」

シンジの誉め言葉に、ジャムの顔がたちまち真っ赤になる。

そして、感極まったジャムはそのまま唇をシンジへと差し出した。

ジャムの事は拒まないと決めたシンジは、戸惑う事無くジャムの求めに応じようとする。

しかし……

「碇君、ダメ！」

サキの隣に座っていたレイが、器用にもシンジとジャムの間にＡＴフィールドを展開。

「あ、フィールドだ」

シンジは突如目の前に出現したＡＴフィールドをコンコンと叩く。

「レイ、あなたねぇ……」

大好きな人とのキスを邪魔され、ジャムがレイを睨みつけた。

「忘れたの？私と御主人様の関係を認めた事を！」

「そ、それとこれとは話が別なの」

レイはジャムから目を逸らしつつ、あくまで冷静を装い反論。

「どこがよ！思いっきりメインの話題じゃない！」

「……あなたが碇君とキスをするのは許せないの」

「む、開き直ったわね？そんな事言ったら、私だってそうよ！でも、御主人様の気持ちを汲み取って、敢えて黙ってあげているのに……」

「はいはいはい、そこまで」

このままヒートアップして戦いかねない２人を、シンジが仲裁する。

「ま、しょうがないか。綾波はまだまだジャムさんに比べると心が未発達な部分もあるからね……そうだ！」

その時、シンジが何かを思い付いた。

「碇君？」

頭上にハテナマークを浮かべるレイに近付き、シンジが耳元で何かを囁く。

「え！？な……何を言うのよ……か、かまわないわ……それはとてもとても気持ちのいいこと……」

何を言われたのかは不明だが、シンジの言葉にレイは真っ赤になる。

「で……いいかな？」

レイの耳元から口を離すと、シンジはレイに最終確認。

恥ずかしそうにコクンと頷くレイ。

「じゃあ今夜、綾波の部屋で……ね」

そう言い残すと、シンジはリビングでテレビを見始めた。

惚けた様な表情のレイに、ジャムは怪訝そうな顔をする。

「御主人様、レイに何とおっしゃったのでしょうか？」

「んー、ちょっと今夜あたりにでも一つになりたいなー、ってね」

「えぇっ！？」

サラッととんでもない事を言ってのけるシンジに、ジャムは驚愕。

「ジャムさん、邪魔しないでね？」

「しょ、承知しております……」

余談だが、その光景を見ていたサキによると、

「ジャムの顔から『いーなー、いーなー、うらやましーなーオーラ』が出てた」

らしい。



「やっぱこの家……どっか変じゃねーか？」

その後、事情を知ったラミの弁であるのだが、

「……初めて会った同性相手に、その日に夜這いするあなたも立派に変よ」

と、冷ややかにジャムにツッコまれた。

「う、うっさい！第一、なんでジャムが知ってんだよ！」

「純真無垢なサキちゃんにちょっとしつこく聞いてみただけよ。……全く、あなたって人は……」

「いいじゃねーか！女同士なんだから！」

「ある意味、もっと問題よ……。とにかく、サキを壊しちゃダメよ！」

「こ、壊すって……そ、そんなに激しくは……たぶん……きっと……」

「……もしかして、図星？」

「………………」



とにもかくにも、この夜、とあるラブラブカップルが一線を超えたらしい。

……中２同士のカップルが。





第６話　おわり


あとがき？

第６話でした。ヤシマ作戦？何それ。
で、ラミちゃん登場です。ポジション的にはトウジのライバルです、今のところ。
サキとの関係では圧倒的に優位のようですが。つーか不健全。
そろそろ使徒人間化シリーズも終わりです。近いうちにあの少女が襲来するので……。
「え？全員人間にしないの？」と思ったアナタ。
……さすがにそれはキツイですよ、うん。一人当たりの活躍量も減っちゃいますし。
で、シンジとレイがようやく……これについては多くを語るまい。
それでは！

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