（そろそろアスカが来る日か……）
授業中、シンジはそんな事を考えていた。
（という事は、……よし、そろそろやるか）
シンジは何かを決心すると、授業を無視して眠り始めた。
宇術マスター・シンジ
第８話 サルベージ決行！…あとアスカも来日
シンジは１人でネルフ総司令官公務室……司令室へ来ていた。
そして、突然こんな事を言い放つ。
「じゃ、そろそろ母さんを戻すよ」
「本当かね！？」
「あ、その前にちょっと確認。……ドイツから弐号機とそのパイロットって、いつ来るの？」
「明日到着予定だが……なぜ知っているのかね？……いや、君にそんな質問は無意味か」
「ええ、結構知ってることは多いですから。……で、明日ミサトさんが行くわけですね？」
「ああ、レイを連れてな」
無表情を崩さずに答えるゲンドウ。
ちなみに、シンジでは無くレイが行く理由は、ミサトがシンジの事を快く思っていないからである。
しかも、シンジがいれば使徒は脅威ではない。
レイの不在に本部が襲われても、シンジが何とかするというミサトの判断からでもあるのだ。
「無理は体に良くないぞ、碇」
あくまで無表情を通すゲンドウに、冬月がツッコむ。
「ふっ、問題無い」
ゲンドウがニヤリと笑うが、いつもとは違い、嬉しくて笑った様な感じである。
「で、明日は僕も綾波に付いてくよ。こっちで何かあった時、連絡くれれば一瞬で戻れるから」
「うむ、分かった」
「それじゃあ、２人とも初号機ケイジまで来て」
いよいよサルベージが開始されようとしていた。
初号機ケイジでは、ほんの一握りのスタッフだけがそこにいた。
リツコがイヤそうな目でシンジと初号機を睨んでいるが、完全無視。
シンジは宇術で装甲版を強引に外し、コアを露出させる。
そして、剥き出しのコアにシンジは手を触れると、いつもの様にコアの中へと入れていった。
余裕といった雰囲気丸出しのシンジ。
彼は今まで３度同じ様なことをしているのだ、無理も無い。
……シンジは油断していた。
（こんなの楽勝でしょ）
気楽に作業を進めるシンジであったが、突然表情が驚愕へと変わる。
「し…しまった！」
「「「「「！？」」」」」
珍しく焦るシンジに、何事かと騒がしくなる。
「シンジ君、何があったのかね！？」
「どうした、シンジ！」
冬月とゲンドウも焦ったようにシンジに声を掛けるが、
「くっ……そうか、その可能性を忘れてた……！」
と、シンジはまるで聞いちゃいない。
（何とかなるはずだ、何とか……）
自分に言い聞かせるシンジ。
その甲斐があったのか、コアの中にうっすらとシルエットが浮かび上がった。
そして、ハッキリとした形になったとき、シンジは一気にコアから取り出す。
「よし、なんとか成功……ぅっ！？」
シンジは目の前の母の姿を見てボーゼンとなった。
「「シンジ（君）！？」」
何事かとシンジの（というかユイの）元へと駆け寄る冬月とゲンドウ。
「……あちゃ〜、失敗しちゃったよ……」
「「何！？」」
シンジは、気まずそうな顔で取り出したユイの姿を見せる。
「「こ、これは！？」」
それを見た２人はまさに驚愕。
「油断してたよ……ごめん、父さん、副司令」
すまなさそうに頭を垂れるシンジだが、
「何を言うのだ、シンジ君。君は立派にやり遂げたじゃないか」
「そうだ。よくやったな、シンジ」
２人はグッ！とガッツポーズをする。
「で、でもコレは……」
シンジが腕の中の母を見る。
それはまるで茶髪のレイ……そう、外見年齢約１４才の碇ユイ。
（こ、このロリコン司令が……！）
喜ぶゲンドウを見て、リツコはそうツッコミたい気分でいっぱいだった。
「しかしシンジ君、なぜユイ君は若返って出てきたのかね？」
ユイの病室で、冬月がもっともな疑問を口にする。
「今までの使徒とは違って、初号機のコアには２つの魂があったんだ。だから、今までと勝手が大きく違って……」
「２つの魂？１つはユイ君、となるともう１つは……」
「「初号機……」」
綺麗にハモるシンジとゲンドウの声。
「まぁ、母さんは数時間くらいじゃ目覚めないと思うから、早く持ち場に戻った方がいいんじゃない？」
「「うむ……」」
そしてネルフ総司令と副司令は、名残惜しそうに病室を後にした。
（オーバー・ザ・レインボーかぁ……。興味無いけどね）
翌日、シンジは空母の上にいた。
隣には普段着のレイ、珍しくＴシャツにジーパンというラフな格好のジャム、例のＪＡ服を着たポニーテールのジェル、いつも通りのミサトがいる。
サキとラミは２人仲良くお留守番。
そして、１人の少女が颯爽と現れた。
「ヘロゥ、ミサト！元気してた？」
「まぁね〜、あなたも背が伸びたんじゃない？」
「そ！他のところもちゃ〜んと女らしくなってるわよ？」
そして、ミサトがシンジ達に少女の紹介を始める。
「紹介するわ。エヴァンゲリオン弐号機の専属パイロット、セカンドチルドレン。惣流・アスカ・ラングレーよ」
その時、勢い良く吹き抜ける一陣の風。
それは見事なまでにアスカのスカートを捲り上がらせた。
ちなみにレイとジェルもスカートが捲れたのだが、まるで気にした様子は無い。
次の瞬間アスカのビンタがシンジに向かって飛んできた。
バシバシバシッ！
しかし、その右手はシンジに届く前に、何やら３連続の音によって止められる。
レイ、ジャム、ジェルの３人が、それぞれアスカの手首、肘、二の腕を掴んでいた。
ギンッ！！
そんな効果音が聞こえてきそうな勢いでアスカを睨みつける３人。
「碇君に何するの……」
「あなた……殺されたいの……？」
「私はこれよりセカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーをマイ・マスターの敵と判別します」
３人の殺気に気圧されるアスカだが、ココで退くほど彼女は大人しくない。
「な、何よ！見物料よ、安いもんじゃないっ！！」
それを聞いたシンジが呆れたように呟く。
「はぁ〜〜、ヤダねぇ。僕はそんなモンに見物料を払うほど安い男じゃないよ」
「な、な、な、なんですってぇぇぇ〜〜〜〜！？」
「あ、３人ともありがとう。もう離してもいいよ。あとジェルさん、敵とまで判別しなくても大丈夫だから」
「分かりました、マイ・マスター。私はこれよりセカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーを殲滅対象より外します」
シンジの言葉にパッとアスカから手を離す３人。
だが、相変わらず視線はアスカを貫いている。
「アンタ、このアタシを侮辱したわね〜〜！？」
「ふふっ、好みの問題もあるけどさ、僕としては君の下着なんかより綾波の後ろ姿の方が何十倍も魅力的だと思うけどね？」
レイを抱き寄せながら誇らしげに語るシンジ。
それを聞いたレイは頬を赤く染め、ジャムはその様子を羨ましそうに見ている。
ジェルは無表情でシンジの姿を見ていた。
「まぁまぁまぁまぁまぁ、それよりアスカ、こっちからも紹介するわ、ホラ、２人とも自己紹介して」
なんとなく険悪になった雰囲気をなんとかしようと、ミサトが今度は日本のチルドレンをアスカに紹介する。
「……ファーストチルドレン、綾波レイ」
レイがアスカを睨みながらそっけなく自己紹介。
「僕はサードチルドレン、碇シンジ。綾波とは恋人同士なのさ」
「あら、恋人同士なの。そりゃあアバタもエクボっていうしねぇ、それなら納得だわ」
嫌味たらしくシンジとレイに向かって言い放つアスカだが、
「ふふ、何とでも言いなよ、ランちゃん？」
「ラ、ランちゃん〜〜！？」
と、シンジから意外な反撃を受ける。
「あっはっはっはっは、なんならグレちゃんって呼ぼうか？」
「むき〜〜〜〜、腹立つ〜〜〜〜〜！！」
ちなみに、この後アスカがシンジに殴りかかるたびに３人に止められたらしい。
それから、ミサトと艦長が言い争ったり、ミサトの元恋人加持の出現にミサトがイヤな顔をしたり、加持に対するアスカの態度の豹変にジェルが天然でツッコんだりと、騒がしい時間が過ぎた。
「何であんたがここにいんのよ！」
「彼女の随伴でね、ドイツから出張さ」
「迂闊だわ…充分考えられる事態だったのに…」
エレベーターにはミサト・加持・アスカの３人が乗り込んでいた。
シンジ達など残りのメンバーは、さすがに７人乗りはキツイだろうということで、３人を先に行かせたのだ。
そして、エレベーターが到着すると、そこには……
「ちょ、ちょっとなんでアンタたちが先に着いてんのよ！？」
楽しく談笑しているシンジ達の姿が。
アスカはその一行にビシッと人差し指を向ける。
「ああ、ちょっと瞬間移動してね」
「……はぁ！？」
予想外の回答に、アスカはシンジ達を指差したまま固まった。
食堂で、彼らはお茶を飲んでいた。
「なぁ、シンジ君」
「なんですか？」
突然加持から声を掛けられるシンジ。
「君の事について……詳しく教えて欲しいんだけどね」
飄々とした口調とは裏腹に、その目は真剣そのものである。
「加持さん、こんなヤツがどうかしたの？」
アスカがそう加持に言った瞬間、３人分の鋭い眼光がアスカを襲った。
「うっ……」
明らかに殺気の混じっている視線に、アスカも言葉に詰まらせる。
「本部から知らされてないんですか？」
とりあえず静かに戦う女性達を後目に、加持と話を続けるシンジ。
「本部からは『サードチルドレン碇シンジが３体の使徒に圧勝した』としか伝えられてなくてね。どんな戦いぶりだったのか、興味が出てきたのさ」
アスカが「圧勝」という言葉にピクリと反応する。
「そうですね、エヴァは一切使わず、この身体一つで戦いました」
サラッと真実を話すシンジ。
「「………………」」
その奇想天外極まりない返答に、アスカと加持の時が止まる。
「加持君、嘘だと思ってるでしょ……？」
硬直中の加持に、ミサトが複雑な顔で呟く。
「ま、まさか……」
「……本当の本当よ。シンジ君、超能力で使徒と戦ったのよ」
「「………………」」
口をポカンと開けてさらに固まる２人。
「しかも、一瞬でケリがついたわ……３回ともね……。シンジ君のデータが無いのは、一度もテストとかをしてないからよ……」
もはや真っ白な灰になったと言っても過言ではない二人をよそに、ジャムは１人赤い顔をしていた。
（アレが……私と御主人様の運命的な出会い……）
この後時が動き出すまで、かなりの時間を要したらしい。
その後、２人きりになったアスカと加持。
「な、なんなの、あのサードって……」
「さぁ……俺にも分からないな……」
まだボーゼンとしている２人。
先に正常状態に戻ったアスカは、とりあえずエヴァパイロットの「先輩」としての自慢を始めようとする。
そしてその結果出てきた言葉が、
「サードチルドレン！ちょっと付き合って！」
であるが、
「やだ」
あえなく却下された。
結局、シンジの他にレイ、ジャム、ジェルの３人を連れ、アスカは自慢の弐号機のお披露目をしていた。
そして、弐号機の特長を説明しようとした瞬間、
「エヴァンゲリオン弐号機…零号機・初号機とは異なる、量産型エヴァンゲリオンの第一号」
ジェルに先を越された。
「ア、アンタよく知ってるわね……」
まさか一番目立ってなかった少女に言われるとは思わなかったアスカ。
ボーゼンとするともに、セリフを取られて結構悔しいらしい。
その時、
ドォォォォーーーーーーーンッ！！
爆発音が一行を襲った。
「水中衝撃波！？」
そう叫んだアスカの視界に入ってきた光景は、
「大丈夫かい？綾波……」
「碇君、ありがとうなの……」
「「（御主人様、）（マイ・マスター、レイ様、ジャム様、）お怪我はありませんか？」」
シンジがレイを庇い、ジャムがシンジを庇い、ジェルが３人を庇い、結局４人で密着している姿であった。
「あ、アンタらねぇ……」
呆れるアスカだが、そんな状況ではない。
オーバー・ザー・レインボーは、第六使徒と遭遇した。
「あ、使徒だ」
「第六使徒ガギエルです、マイ・マスター」
「碇君、どうするの？」
その会話を耳にしたアスカが、物凄い勢いでシンジを制す。
「サードチルドレン、アンタは手出し無用よ！このアタシの華麗なる操縦で、使徒なんか一瞬で倒してみせるわ！！」
「でも、使徒を倒すなら僕が一番適任だよ？」
「いいから黙って見てりゃあいいの！」
そう言うと、アスカはプラグスーツに着替えるべく走り去る。
……が、少し走ったところで振り返り、
「いい！？アンタは絶対に手出しするんじゃないわよ！！」
とまた言い、今度こそ走り去った。
「というワケだから、今回は僕の出番は無しだね」
「御主人様、よろしいのですか？」
「まぁ、ここで僕が目の前で倒しちゃったら、精神崩壊されるかもしれないしね」
というワケで、初のエヴァ対使徒の戦闘が行われる事となった。
加持はゲンドウと怪しい内容の電話をしている。
そして、使徒の対処法について艦長と言い争いしていたミサトの元に、突如弐号機起動が伝えられた。
「よっしゃあ！！アスカ、エヴァで見事使徒を殲滅してやりなさい！！」
『分かってるわよ、ミサト！！あのバカサードが邪魔しないように見張ってなさいよ！！』
初めて自分の指揮下で使徒殲滅が可能になったミサトは、これ以上無いくらい張り切っていた。
ちょうどその時、ミサトの元へシンジたちが瞬間移動で帰還。
「今回は僕、手出ししませんよ」
それを聞いたミサトは、さらに元気よく叫ぶ。
「アスカ、シンジ君はここで黙っているから、思う存分やっちゃいなさい！！」
『ええ！』
しかしその時燃えるミサトの元に、副艦長から鋭い指摘が飛んできた。
「し、しかし本気ですか？弐号機はＢ型装備のままです」
「えっ！？」
さっきの勢いはどこへやら、一瞬にして凍りつくミサト。
「Ｂ型装備……陸上での近接戦闘を想定した、プログレッシブ・ナイフのみを装備した状態です」
なんとなく静かになった雰囲気の艦上に、ジェルの機械的な解説が木霊する。
「ねぇ、あの娘勝てるの？」
「……さぁ？クスクス……」
ジャムとレイは、跳びまわり、艦隊をブチ壊しまくる弐号機を眺めながら静かに呟いた。
「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ！！」
アスカが叫びながら戦う中、
「はい、お弁当よ」
「昼田さん、ありがとうなの」
「…本当にそう思ってるのなら、その呼び方いい加減やめなさい！」
「ジャムさん、この卵焼きすごくおいしいよ」
「う、嬉しいです、感激ですっ！！」
「弐号機と使徒がこちらへ接近中です、皆様」
シンジ達は、のんびりとジャムお手製弁当をみんなで食べていた。
ちなみに加持はデカいトランクと共に、飛行機に乗ってとっとと去っていった。
その時、
ザバァァァァァァァァァン！！
目の前の海から、使徒が飛び出してきた。
「あぁっ！もう、あとちょっとでお弁当に水飛沫がかかるトコだったじゃない！」
「……危険です。目標、迎撃します」
ジェルが無表情で使徒に向かって両手を真っ直ぐに突き出すと、
「ジェット・フィスト」
手首辺りから先を虹色に発光させ、
ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ！！
超高速で両腕を使徒に向かって飛ばした。
「な、ロケットパンチ！？」
それを見たアスカが思わず叫んだ次の瞬間、
ドゴドゴンッ！！
虹色の光の矢となったジェルの腕は、ＡＴフィールドごと使徒の体を貫く。
「い、今ね！」
ズシャァァァァァァァァッ！！
直径２ｍ程の穴を２つ開けた使徒の動きが鈍ったのをアスカは見逃さず、そのままプログ・ナイフで切り裂いた。
カシャン、カシャン！
ジェルの腕が引き寄せられるように戻ってきて、そのまま元の位置へと収まる。
「へぇ、あなたそんな事も出来たの」
「はい、ジャム様。その通りです」
「他にどんな事が出来るんだい？」
「攻撃系の技は今お見せした『ジェット・フィスト』、防御系の技は『スター・フィールド』、特殊系の技は『オーバーライト・ウイング』などがあります、マイ・マスター」
淡々と必殺技解説をするジェルを、アスカは困惑の視線で見つめていた。
「な、なんなのよ、アイツ……？」
「いやはや、波乱に満ちた船旅でしたよ。やはりコレのせいですか？」
司令室では、加持が例のデカいトランクから謎の物体Ａを取り出した。
「既にここまで復元されています。硬化ベークライトで固めてありますが……生きています、間違いなく。人類補完計画の要ですね」
そして、そのセリフにゲンドウはニヤリと笑い、キメ台詞を言う。
「そうだ。最初の人間……」
Ｐｐｐｐｐｐｐ．．．
その時、電話が鳴り響いた。
「……何だ？…何！？本当か！？分かった、今すぐ行く！！」
そしてゲンドウは電話を切ると、加持を置いて猛スピードで走り出す。
「い、碇！？どうした！？」
突然の司令の全力疾走に、ボーゼンとする冬月。
「ユイが目覚めたそうだ！」
「何だと！？」
それを聞くや否や、冬月はゲンドウの後をやはり全力疾走で追いかける。
一人残された加持は意味不明の事態にボーゼンとしつつ、とりあえず呟いた。
「最初の人間、アダムですよ……」
……別に意味は無いのだが。
「ユイ〜〜〜〜〜〜〜ッ！！」
「ユイ君！！」
周囲の迷惑も顧みず、大声でユイの病室へ突撃する２人。
「ゲンドウさん、冬月先生……」
ユイ（外見年齢１４歳）は、ムクリと起き上がった。
「一体、これは…？」
初号機の中に入っていた自分がなぜ外の世界にいるのか、と聞こうとしても、
「ユイ、ユイ、ユイ、ユイ〜〜〜〜ッ！！」
「ユイ君、ユイ君、ユイくぅぅぅんっ！！」
「え、えっと…？」
と、興奮状態の２人の耳には届かなかった。
「さっき、副司令から電話があって、母さんが目覚めたってさ」
愛の巣へと戻り、のんびりしていたシンジに突如鳴った電話。
それは、母の目覚めを知らせるものであった。
「行くの？お母さんのところへ……」
「んー、なんか母さんが『会いたいから来て』って言ってたみたい」
「碇君、私は……」
自分の「オリジナル」のユイが目覚めた事で、少々落ち着かないレイ。
「綾波も来る？将来的には綾波の母さんにもなるんだから」
レイはシンジの言葉の意味がわからず、キョトンとする。
しかし、冷静に考えてその言葉の意味に辿り着くと、たちまち顔を真っ赤に染めた。
「い、い、い、い、碇君、それって、私と碇君が……」
「さ、行こうか」
「うん……」
ちなみに他のメンバーはというと、サキとラミはシンジ達が戻ってきた時から、一つのベッドで熟睡中。
２人の着衣が大幅に乱れていた事が少々気になりはしたが。
ジャムはジェルに料理特訓の真っ最中。
さすがはコンピューターと言うべきか、ジェルは飲み込みが早いらしい。
そんな訳で、シンジはレイを連れてネルフへと瞬間移動した。
「ここかぁ…」
ユイの名前が書かれた病室の前に立つシンジとレイ。
「それじゃあ入ろうか、綾波」
シンジの言葉にレイがコクンと頷く。
「おじゃましま〜す」
そして、２人は病室へと入った。
ちなみに、ゲンドウと冬月はとっとと司令室に戻されたらしい。
「「………………」」
無言で見つめ合うシンジとユイ。
その時、レイがシンジの背後からぴょこんと顔を出した。
「……同じ？」
ユイの顔を見たレイが、自分との酷似っぷりに思わず声を出す。
その声がきっかけとなったのか、ユイがシンジに喋り始めた。
「……シンジ？」
「母さん……」
「シンジなの？」
「そうだよ、母さん」
ユイは目を潤ませると、ベッドから飛び出しシンジに抱き付いた。
「シンジ……シンちゃぁぁぁぁんっ！！」
だきっ！！
「か、母さん……」
母とはいえ、レイと瓜二つな少女に突然抱かれては、いくらシンジでも戸惑うというもの。
「シンちゃん、ありがとう！」
「そう？少し怒られるかなー、と思ってたんだけど……」
ユイは望んで初号機に入ったのである。
それをムリヤリ取り出したのだから、シンジも少々心配していた。
「だってだって、この姿ならもう一度青春を謳歌できるじゃない！」
「へ？」
ユイのセリフに目がテンとなるシンジ。
「私、中学生活は周りから良い人に見られようとしてたから、自然の私を出せなかったの。それを後悔してたから、今度はありのままの私で学校生活を送るんだから！」
右手をグッと握り締め、ユイはなにやら燃え上がっている。
「それって……母さん、中学生になるってこと？」
「当然よ！まさかこの体で高校生になるわけにも行かないじゃない」
「あ……うん、そりゃそうだけど……」
復活したばかりの母のハイテンションっぷりに、シンジはタラ〜と冷や汗を流す。
（母さん……こんな性格だったんだ）
自分の記憶との母とのギャップに、シンジは少々困惑気味。
「そうそう、レイちゃん！」
「は、はい」
「レイちゃんの事情は大体知ったわ。ゴメンね、あのヒゲのせいで随分とツラい思いをしたでしょ…」
ゲンドウの事をヒゲと斬って捨てるユイ。
どうやら、悪行の数々にほとほと愛想が尽きたらしい。
「はぁ……」
ツラい思いをしたというのは嘘ではないので、レイはとりあえず返事をする。
「だから、私にレイちゃんの姉にならせて！」
「「え！？」」
「だって、遺伝子上はそんな感じでしょ？それとも、イヤ？」
「そ、そんなことはありません」
「じゃ、決まりね！シンちゃん、今日から私は綾波ユイ！母さんって呼んじゃダメだからね♪」
「う、うん……」
母は強し。
本来の意味とは違えど、そんな言葉が思い浮かぶシンジであった。
「じゃあ、レイちゃんと一緒に住みたいわ。レイちゃん、大丈夫？」
その言葉にピクピクッと反応するシンジ。
「か……じゃなくてユイさん、綾波は僕と一緒に住んでるんだよ」
「シンちゃんと？……あぁ、同じチルドレンだもんね！」
ユイは納得したようにポンと手を打つが、レイがフルフルと首を横に振る。
「私は碇君の恋人だから……」
ポポッと頬を染め呟くレイに、ユイは目がテン。
「じゃ、じゃあ……シンちゃんとレイちゃんって……いわゆる、同棲？」
「あ、僕の家は６人暮らしなんだよ」
「６人！？シンちゃん、レイちゃん、あと…リッちゃん、ミサちゃん、冬月先生、ヒゲ…？」
とてつもなくイヤな家族構成を口にするユイ。
「違うよ、僕と綾波と、あとヒトになった使徒が３人、アンドロイドが１人」
シンジのセリフを理解するまで、ユイはかなりの時間を要した。
「……え？」
「まぁ、騒がしいけど明るい我が家だよ。母さん、今度来てみる？」
「来てみるも何も、レイちゃんが住んでる以上、私も住むわよ」
キッパリと言い放つユイ。
この瞬間、愛の巣７人目の住人が決定した。
「というワケでぇ、私の戸籍をレイちゃんの姉というコトにしてね♪」
「う、うむ」
あれから数十分後、シンジの宇術によって完全回復したユイは、司令室まで来ていた。
その言葉遣いは、ゲンドウに対する思慕のカケラも見当たらない。
「住所はレイちゃんと同じ所だから♪」
「う、うむ」
「じゃあ、後は頼みますよ、碇司令♪」
「ま、待ってくれユイ！」
「……なに？」
踵を返してスタスタと外に出ようとしたユイを、ゲンドウは大声で引き止めた。
ユイは顔こそ笑っているが、目は笑っていない。
「す、すまなかった、ユイ」
「赤木親子のコト？いいわよ、別に。今更あなたが……碇司令が何をしようともね。私には関係無いし〜」
ニヤリと笑って冷たく言い放つユイ。
そして真っ白な灰となるゲンドウを後目に、とっとと出て行く。
「……無様だな、碇」
「ユイィィィィィ……」
オンオンと泣くネルフ総司令の姿には、威厳のいの字も見つからなかった。
「母さ……じゃなくてユイさん、ココが僕らの家だよ」
「ふ〜ん、広いのね……」
ユイを愛の巣へと連れてきたシンジ。
「ただいま〜」
「……ただいまなの」
「ふふ、たっだいま〜」
そして順番に家へと入るシンジ、レイ、ユイ。
この後、ユイはここの家族の異常な日常に何度もボーゼンとするのだが、それはまた別の話。
なんだかんだ言って、結局ユイはすんなりと愛の巣に溶け込んだらしい。
あとがき？
第８話でした。アスカよりユイ、アスカよりユイ。
ユイさんにはリナレイになってもらいました。ふふふ、哀れなヒゲ。
しっかし、御都合主義万歳ですね、この話は（笑）。
どうしてこうもユイさん、１４歳の姿になるかなぁ。
とにかく、次は「ユイｉｎ第壱中」でしょうか？
碇ユイ改め綾波ユイ、これからどうなる事やら。
それでは！
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感謝の言葉：
まさか、愛の巣の新たな住人が、ユイ（リナレイ）さんとは！（笑）
想像を越える展開にただ、ただ、笑わせてもらいました。
「髭」扱いされていて、すっかり愛想を尽かされた碇のゲンちゃんも
哀れですが、身から出た錆、ということで仕方なしでしょう。（＾＾；）
さ、読んだ方は感想を送って、ＢＥＥめーだ さんに「続きが読みたい」
想いを伝えましょー♪
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第０９話「初号機、心、重ねて」へ進む。
作者の ＢＥＥめーだ さんへの感想メールはこちら（beemeda@mail.goo.ne.jp）まで。
読者からの反響は作者のやる気を湧き出させます。
続きが読みたい人は、感想メールを送りましょうね。