「えー、今日は転校生を２人紹介します。それでは、入ってきてください」
そう言われて２−Ａへとやってきた２人の少女。
その姿を見て､教室にどよめきが走る。
「惣流・アスカ・ラングレーです、よろしく」
「綾波ユイです、よろしくぅー♪あ、そこにいるレイちゃんの姉でーす」
もはや第壱中２−Ａは、美少女転校生の巣窟と化していた。
ホームルームが終わり、休み時間になった直後。
「シンちゃ〜〜〜ん！！」
だきっ！！
「か……じゃなくてユイさん、どうしたんだよ」
「ん〜〜、だってだって、大好きなシンちゃんとはずっとこーしていたいんだもん！」
ゴロニャ〜ンとばかりにシンジに抱きつくユイ。
クラス中の視線がシンジに集中するが、シンジは別に気にしていない。
「………………」
そんな中、レイが複雑な表情で２人を見つめていた。
（親子……そう、２人は親子だから当然なの……）
レイは昨晩の家でのユイの様子を思い出す。
〜レイ回想〜
「レイ、その人……誰？双子の姉か妹？」
ジャムがユイを見るなり、首を傾げてレイに尋ねる。
「私、シンちゃんの母親のユイです♪ちょっとワケありで、今はレイちゃんの姉になってま〜す」
「御主人様の……お母様！？」
「碇ユイ……約１０年前、エヴァ初号機に取り込まれ、死亡扱いになっています」
「あら、よく知ってるわね。だから、私は今は綾波ユイなワケ。あなた、名前は？」
「……ジェット・エンジェルです。皆様にはジェルと呼ばれています、ユイ様」
「ユイ様……ねえ。そーいえば、そこのメイド服の人」
「はい」
「さっき、シンちゃんのコトを『御主人様』って……呼んでなかった？」
「……はい。御主人様は……私の恩人ですから……」
「うぅぅ、なんか不思議な家ね、ココ……」
「まだまだこんなモンじゃないけどね、か……じゃなくてユイさん」
「へ？」
「うわわ、レイお姉サマにそっくり〜〜！！」
「レ、レイお姉サマ…？」
一瞬、ユイの目がテンになる。
「サキ、好きだぁぁぁぁぁっ！！」
「わわっ、ちょっと、ラミぃ…」
「なぁ、今度はサキの方から……ダメか？」
「だ、だってボク、レイお姉サマが……」
「ちょ、ちょっと、女同士でそんな！」
熱烈な光景に、顔を赤くして戸惑うユイ。
「御主人様、そろそろ入浴しましょう……」
「あ、そうだね」
「シ、シンちゃん、そんなにアッサリ……」
ジャムと共に浴室へ向かうシンジを、ユイはボーゼンと見送る。
「私も……負けてらんないわね」
ユイの呟きは、レイの耳にかろうじて届いていた。
その後。
「シンちゃぁ〜〜〜ん！」
だきっ！
「か…ユイさん？」
「ユイさん、離れてください……」
レイが遠慮がちに言うが、
「イイじゃないの、親子なんだし♪あと、私のコトは姉さんって呼んでね♪」
「……分かりました、お姉さん」
〜回想終了〜
「そう、そうなのね」
ハッと何かを悟るレイ。
（お姉さんは……碇君を取られたくないのね）
シンジを見ると、相変わらず笑顔のユイに抱きつかれている。
「あ〜ん、シンちゃん大好きっ！！」
「お姉さん……碇君から離れて」
「い・や♪」
無表情のレイと、笑顔のユイの視線が静かにぶつかり合う。
（あ〜あ、嫁姑戦争ってヤツ？）
そんな２人を見て、シンジは溜め息をついた。
「裏切り者〜〜〜！！」
次の休み時間、ケンスケがシンジに大声で言い放った。
「……一応聞くけど、何が？」
「あんな家に住んでてっ！しかも今度は綾波姉か！？お前なんか男の敵かつ女の敵だ〜〜〜ッ！」
「というか、別に僕は初めからケンスケと同盟組んでたわけじゃないし」
「うっ…」
「それに、僕から口説いたのは綾波だけなんだけど？」
「それは自慢かぁぁぁっ！！」
「まあまあ、それよりあっちに座ってるもう１人の転校生の惣流さんは？」
「そ、そうだ！あんな美少女を逃せるものか！」
ケンスケはシンジからアスカへと標的を変えたようだ。
「知らぬが仏、いつまで学校でネコ被ってるつもりなんだろ？」
シンジはいつもと全然態度の違うアスカを見て、そう呟いた。
第七使徒、襲来。
『シンジ！分かってるわね！？』
弐号機の中からアスカが叫んでいる。
「へぇへぇ、僕は手を出すな、ってことだね？」
『そうよ！このアタシのデビュー戦、ジャマしたらタダじゃおかないわよ！！』
「「あなたには無理（よ）（です、アスカ）」」
しかし、ジャムとジェルの厳しいツッコミが冷たい視線というオマケ付きで飛んできた。
ちなみにジェルが「様」を付けない辺り、アスカに対する負の感情がうかがえる。
「うっさいわねぇ！そんなのやってみなきゃ分からないじゃないの！！」
宇術マスターに普通の人間が勝てる訳がないのだが、どうもアスカはイマイチ理解していないらしい。
「綾波」
『なに？碇君』
「危ないと思ったら、すぐに退くんだよ」
『うん』
「攻撃開始！」
ミサトの号令で、零号機＆弐号機対第七使徒イスラフェルが始まった。
『じゃ、アタシから行くわ！援護してね！』
『…そう』
使徒に向かって斬りつける弐号機。
ズバッ！！
歴史通り、アッサリ一刀両断した。
「綾波」
『碇君？』
「油断はいけないからね」
『ええ』
シンジとレイが話している間に、
「ぬわんてインチキッ！？」
ミサトの大声が聞こえる。
どうやら、使徒が分裂・再生したようだ。
『な、何よコレ〜〜〜〜！？』
『再生してる！？』
零号機と弐号機の攻撃を受けても、片っ端から再生する使徒。
そして、一方の使徒が零号機を、もう一方が弐号機を掴み、放り投げた。
ゴスゥゥゥン！！
頭から地面にぶつかり、上半身がメリ込んでいる弐号機。
ハッキリ言って、滑稽である。
で、零号機はというと……
『浮いてる？』
空中で静止していた。
「御主人様？」
ジャムが隣にいたはずのシンジの姿がいつの間にか消えていた事に気付く。
「マイ・マスターは零号機の真下にいます、ジャム様」
「えっ！？」
ジェルの言葉に驚くミサト。
モニターの映像を拡大させると、零号機の真下で片手を挙げて浮いているシンジの姿があった。
「危なかったね、綾波」
『碇君、ありがとうなの』
結局、国連軍がＮ２爆雷を投下することにより、使徒の足止めには成功した。
ネルフ本部にて、反省会。
逆さになって下半身だけを出しているマヌケな弐号機の姿が大きく映し出される。
「危なかったね、あと少しで零号機もああなるところだったかもしれないよ」
「碇君、本当にありがとうなの…」
ラブラブな２人と弐号機の醜態に、アスカは拳をプルプルと震わせている。
零号機は、シンジによってすぐに回収されていた。
そして冬月が言う。
ちなみに現在、ゲンドウは不在である。
「君達の仕事は何だ？」
「エヴァの操「使徒の殲滅です」
アスカのセリフを遮り、シンジが言い放った。
「だから、僕が今からアレを……」
「い、いかん！」
大慌てでシンジを止める冬月。
「え？何でです？使徒の殲滅じゃないんですか？それなら、僕にまかせてくれればチョチョイのチョイと……」
「な、な、何を言うのかね！？そ、そう、アスカ君の言う通り、君達の仕事はエヴァの操縦！そう、あくまでエヴァの操縦なのだよ！」
ここでシンジに出られては、またもやネルフの面目丸つぶれ間違い無し。
冬月はかなり強引にシンジを止めた。
「分かりました、なら綾波に非は無いですね？エヴァの操縦をしていたんですから」
「う、うむ」
その時のシンジの表情は、正に「してやったり」だったという。
「……じーさんは用済み」
レイの辛辣な一言が、冬月の心へと刺さった。
「うっわ〜、やっぱり……」
「碇君、この家、異臭がするの……」
「ヒトの住むトコじゃないよね……」
「サキ、オレと２人でとっとと帰らねーか？」
「さすが、葛城ミサトの家ね……」
「ここは危険です、皆様」
「ミサちゃん、だからまだ独身なのよ……」
シンジ、レイ、サキ、ラミ、ジャム、ジェル、ユイは皆でミサトのマンションへと来ていた。
その理由は、レイとシンジが呼ばれたからなのだが、やはりと言うか何と言うか、全員付いてきた。
「でしょ！？何でアタシがこの家に住まなきゃならないのよ！？」
その声に反応したのか、奥から出てくるアスカ。
「僕達だってミサトさんの命令じゃなきゃ来たくなかったけどね」
「……てゆーか、何でそんなにゾロゾロと来るワケ！？ファーストとバカシンジで充分じゃない！」
目の前の７人組を指差し、アスカは大声で怒鳴っていた。
ミサトが帰ってきて、作戦の概要を伝える。
（やっぱり、ユニゾンか）
そう、例のツイスターゲームであった。
「そ・こ・で！アスカとレイにはここでしばらく暮らしてもらうわ」
「ええ〜〜？この女と〜〜！？」
アスカがイヤそうな目でレイを見る。
ここで、レイが挙手。
「葛城一尉」
「ん？どしたの？」
「碇君はどうなるんですか？」
「シンジ君？シンジ君はエヴァに乗る気が無いから、特訓しても意味が無いし……、レイだけよ」
「それなら、使徒が自己修復中の間に碇君に倒してもらう事を提案します」
「そうだねぇ、そうすれば綾波と離れることも無いし……」
シンジが頷くのを見て、ミサトが猛烈に反対する。
「ダメダメダメダメッ！レイ、その案は却下！！」
「何故ですか…？」
「レイ、これは命令よ！」
権力でゴマかすミサト。
「碇君……」
レイの縋るような視線に、シンジはビシッと親指を立てる。
「じゃあ、今から倒してくるよ。綾波のために…」
スッと立ち上がるシンジ。
「スススススストォォォォップ！！分かった、シンジ君も一緒に住んでいいから、ね！ね！ね！」
結局、レイとアスカの特訓に、シンジが居座ることとなった。
ジャム、ユイ、サキ辺りは不満そうであったが。
３日後。
トウジとケンスケは愛の巣へと来ていた。
数日間学校を休むシンジ達を「ケガをした」と思い込んでいるので、シンジ達のお見舞いという名目だが、トウジはサキ、ケンスケはほぼ全員の女性陣が目当てである。
しかし玄関でジェルに、
「マイ・マスターはネルフ作戦部長の家に滞在中です、お客様」
と言われ、その言葉を発端に、
「ねー、今日で３日目だよね？もー行ってもイイんじゃない？」
「そうよ！あの葛城ミサト、特訓のジャマになるからって来るなとか言ってたけど」
「３日くらい経ったら良い、と言っていました、ジャム様」
「じゃ、シンちゃんの元へ行くわよ！」
「サキが行くならオレも行くぜ」
となり、全員でミサトのマンションまで様子を見に行くこととなった。
一行はミサトのマンションで「アスカのお見舞い」というヒカリと合流。
８人の代表としてサキがインターホンを押すと、ペアルックのレイとアスカが出てきた。
「ペアルック！？」
大袈裟に驚くケンスケ。
「レイお姉サマ、ボクよりもそのヒトを選んだの！？」
「サキ、それはいろいろな意味で誤りなの…」
「それよりレイ、御主人様は！？」
「碇君は「バカシンジなら中にいるわよ！」
アスカ、立腹中。
なぜなら…
「あのバカ、口出しするだけ口出しして、自分は何もしないのよ！」
しかも決まって非難の対象はアスカである。
「どうして、こんなヤツにこのアタシが合わせなきゃなんないのよ！」
ビシッとレイを指差しながら怒鳴り散らすアスカ。
「それが特訓の主旨だもの。碇君がそう言っていたわ」
「で、どんな特訓なんだよ？」
ひたすら怒鳴るアスカに、ラミは少々イラつき気味。
「「コレ」」
目の前にあるのは、２つのツイスターゲーム。
「御主人様！」
「マイ・マスター…」
「シンちゃん！」
しかしそれに目もくれず、そこに座っていたシンジにジャム、ジェル、ユイは走っていった。
「御主人様、寂しかったです！」
「…マイ・マスター、私は…私、は……」
「シンちゃ〜ん、電話くらいくれてもイイのにぃ…」
「ごめんごめん」
確かにそうだと思いながら、３人に謝るシンジ。
「御主人様に捨てられたのかと心配で心配で……」
「マイ・マスター……私は『寂しい』という感情が理解できました……」
「ジャムさん、そんなことしないって。ジェルさん、もう大丈夫だから」
「そ、そうですよね」
「本当、ですよね？マイ・マスター…」
「当たり前だろ？家族じゃないか」
「御主人様、私はとても幸せです……」
「マイ・マスター……私は…『嬉しい』と感じています……」
「シンちゃぁぁぁんっ！！」
アスカの存在はすっかり忘れ、４人は感動の再会をしていた。
「……なぁ、イインチョ」
「何？鈴原」
「あの３人、センセとたった３日会えへんかっただけやで……」
「依存過剰じゃないかしら……」
もっともであった。
「で、特訓の成果はどうなんだよ？」
変な空気の葛城家を、ラミがとりあえず仕切りなおす。
「それが……まあ見てよ」
そして、レイとアスカのユニゾンが開始される……が。
「全然……ダメじゃねーか」
その言葉に大きく肯く一同。
「ファースト！もっとキビキビ動きなさいよ！」
「あなたが私に合わせようとしないのがいけないの」
「当ったり前じゃない！優秀な私がアンタなんかに合わせてレベル下げるなんて、上手くいくワケないわ！どだい、無理な話なのよ！」
レイをけなし続けるアスカに、冷たいオーラを背負ったサキがゆっくりと近付く。
「レイお姉サマをバカにするな……」
「フン、バカにするも何も、このアタシがこの女に劣ってる部分なんて何一つ無いじゃない！顔だって、スタイルだって、運動能力だって、エヴァの操縦だって！」
それを聞いたサキが、ジェルの如く抑揚の無い声でポツリと呟いた。
「……人間性」
「な、なんですってぇぇぇ！？」
「人間として、明らかにレイお姉サマの方が上」
「むきぃぃぃぃぃっ！そんなのアンタの主観でしょうが！」
アスカの叫びに、シンジとその家族は一斉に首を横に振る。
「アンタたち、揃いも揃ってこの女のどこが……」
再びアスカが何かを叫ぼうとした時、
「必殺！手からパァァァァイルっ！！」
シュッ！！
「ひっ！？」
一瞬、アスカの顔の隣を紫色の光線らしきモノがかすめた。
どうやら、サキの突き出した右手から出たらしい。
「あんまりボクを怒らせないで」
サキはそう言い放つと、スタスタとレイの隣へと歩いていった。
「ああ、ワイルドなサキさんも素敵や……」
トウジの呟きは、隣にいたヒカリを石化させかけたらしい。
「じゃ…じゃあ、やめとく？」
妙に静かな雰囲気になった場を盛り上げるため、ミサトがアスカにそう促してみる。
「ほ、他に人、いないんでしょ！」
「僕がやってみます」
「シンジ君？まぁ、レイとなら上手く行きそうよね……」
そして、ユニゾン特訓シンジ＆レイバージョンが開始された。
「うわー、すごーい……」
サキの言葉に大きく肯く一同。
「すごいわ、パーフェクトじゃない！シンジ君が初号機に乗ってたら、即座に作戦変更するのに……」
「もうイヤッ！やってらんないわ！！」
シンジとレイの動きに揺さぶられ、ミサトの言葉でトドメを刺されたアスカは、家を飛び出していった。
「碇君！追いかけて！」
ヒカリが激昂するが、
「やだ」
と、アッサリ拒否。
「女の子泣かせたのよ、責任取りなさいよ！」
「大丈夫、そのうち帰って来るって。もしこのまま逃げ出すような精神じゃ、戦いの中でこのままツブれちゃうさ」
「で、でも……！」
「そして、ミサトさん」
「な、何？」
ヒカリはああ言うが、アスカが出て行った原因が自分にあると分かっているミサトは、シンジがこれから何と言うかドキドキ。
「ミサトさんの案、乗ってあげます」
「へ？」
「初号機に……乗りますよ、僕」
「「えぇぇぇぇっ！？」」
驚きのあまり絶叫するミサトとユイ。
「へ？なんでユイちゃんも？」
「え？そ、それは、シンちゃんが戦うなんて、危ないな〜って……アハハハ……」
ユイの正体を知らないミサトは、その反応を見て頭上にハテナマークを浮かべる。
「シ、シンちゃん、ちょっと！」
「わ！」
ユイはシンジを別の部屋へと引っ張って行った。
「シンちゃん、分かってるでしょ！？今の初号機にに乗ったらどうなるか！」
「母さんがいないから動かない、でしょ？」
コアからユイを引きずり出したことにより、シンジの近親者の魂とのシンクロは不可能なのである。
「それだけじゃないわよ！シンちゃんがエヴァに取り込まれちゃうわ！」
これは正にユイの体験談であった。
「大丈夫、説得してみるから」
「説得？」
「初号機に、僕を乗せてくれってね」
「で、出来るの？」
「さあ、実際に話してみないとなんとも言えないけどね」
「とにかく…危険なコトはしないでよ」
「分かってるよ、母さん」
「もー、違うでしょ？」
「そうだった、ユイさん」
「そうそう♪」
一同の元へ戻ってくる２人。
「ミサトさん、これからネルフへ行って、初号機の起動実験できませんか？」
「え！？よっしゃあ、リツコを説得してやってみせるわ！」
「じゃ、みんなで行きましょうか」
「あ、民間人はちょっち…」
「そうですね。トウジ、ケンスケ、洞木さん、すまないけど、僕たちネルフに行くから帰ってもらえるかな？」
「…まぁ、そういう理由ならしゃーないな、行こか、ケンスケ、イインチョ」
「そうね」
「ああ、俺も行きたいなあ、ネルフ本部…」
そして一行は外に出た後、クラスメートの３人を残して瞬間移動した。
「シンジ君の初号機起動実験！？」
その事を聞かされた時、ユイと同じ事を考えるリツコだが、ユイとシンジにアイコンタクトをされ、納得したようだ。
「……分かったわ。じゃあ準備をしましょうか」
こうして、急遽初号機起動実験が行われることとなった。
それから約一時間後。
『こっちは準備ＯＫですよ』
初号機の中では、プラグスーツに着替えたシンジがスタンバイしている。
そして、初号機との接続が開始された。
「シンクロ率、１００％を突破しました！なおも急上昇していきます！」
「このまま続けて」
「は、はい」
リツコとマヤのやりとりを後目に、ユイはシンジの家族を集める。
「みんな、これからシンちゃんが溶けるけど、驚かないで待っててね」
「「「「「！？」」」」」
その言葉ですでに驚く一同。
そして、
「シンクロ率、４００％！」
マヤの声が響く。
シンジは、ＬＣＬの中へ溶けていった。
「へぇ、ココが初号機のコアの中？」
シンジは光の中にいた。
「おーい、初号機ー？」
辺りを見回すと、１人の人影を発見。
「あ、いたいた」
シンジはそこへと近付いていった。
「ねぇ、初号機だよね？」
シンジが目の前の紫色のマントを羽織った、体育座りをしている人間の肩をポンポンとたたく。
振り向いた初号機はそっけなく応える。
＜なにしにきた？＞
初号機の姿。
それは、紫色のマントとフードで全身を覆った、幼い……見た目だけならサキよりも幼い少女。
露出させている皮膚は顔の部分だけ。
前髪から判断するに、髪の色は緑。
そして、目の色も同じ緑である。
「ちょっと相談があってね」
そう言うと、シンジは初号機の隣に座った。
＜…わたしにかまうな＞
プイッとシンジと反対側を向く初号機。
「何をそんなに怒っているんだい？」
＜…………＞
初号機は答えない。
長い孤独で神経がささくれ立っている様だ。
「そんな顔してると、可愛い顔が台無しだよ」
ピクッと反応する初号機。
ちなみに、シンジは計算ではなく本心でサラッと言ってのけている。
マントとフードのせいで、目しか見えてないのだが。
＜わ、わたしはかわいくなどない＞
「まぁ、ココは鏡が無いからね。そう思い込むのも仕方ないか」
＜…………＞
黙り込む初号機。
心なしか、頬が赤い。
「とりあえず、一方的だけど用件を言うね」
＜…………＞
「僕に協力して欲しい」
＜……きょうりょく？＞
「そう。エヴァを動かしたいんだ。そのためには、初号機の、君の協力が不可欠なんだ」
＜うごかす……なんのために？＞
「使徒を倒すため……って言いたいところだけどね、ちょっと違うかな」
＜……しとをたおすため、ではないのか？＞
初号機は再びシンジの方を振り向く。
「僕と、あと僕の親しい人たちを幸せにしたいんだ。使徒を倒すことは、その過程の中の一つさ」
＜しあわせ……か＞
「そう。ねぇ、初号機は……幸せ？」
＜……さあな。ながいあいだ、ずっとこのままだがな＞
遠くを見つめる初号機。
その瞳が捜し求めているものは、自身にも分からない。
「それって、退屈じゃない？」
＜いままで……きにしたこともなかった＞
「ココってさ、自由だけど……それだけだよね」
＜そう、だな＞
「なんだか、初号機も幸せにしたくなっちゃったな」
ポンと初号機の頭の上に手を乗せるシンジ。
＜や、やめろ＞
初号機の言葉を意に介さず、シンジはそのまま頭をなでる。
なでなでなでなで。
＜…………＞
されるがままの初号機。
＜な、なまえはなんだ？＞
顔を赤くしながらも、あくまで偉そうな口調でシンジへと尋ねる。
「僕の？」
＜ほかにだれがいる＞
「僕はシンジ。碇シンジ」
＜……シンジ、か＞
「そう」
＜…………＞
無言の初号機を前に、シンジはスッと立ち上がる。
＜どうしたのだ？＞
「そろそろ行かなきゃ。待ってる人がいるから。……だから」
＜だから？＞
「答えを聞かせて欲しい。僕に協力してくれるか、しないか」
＜もし……しない、といったら？＞
「さぁ、どうなるかな。少なくとも…」
＜すくなくとも？＞
「そのことで君を嫌いになったりはしないから」
＜……！＞
一瞬、全身を大きく震わせる初号機。
「だってそうじゃないか。僕は無理言って君に相談してるんだ。それを拒否されたところで、君に非が無いのは当然だろ？」
＜…………＞
「まぁ、あんまりしつこくするのも嫌われるだろうから、コレでラストにするよ。……僕に、協力してくれないかな？」
しばらく黙った後、初号機は口を開いた。
＜きょうりょく、してやってもいい…＞
「ありがとう！」
＜ただし、じょうけんがある＞
「条件？とりあえず言ってみて」
＜おまえがさきほどいったとおり…わたしも…しあわせにしてほしい＞
シンジの目を見つめ、真剣な表情で言う初号機。
「そんなの、当たり前じゃないか」
＜え？＞
「だって、僕たちはもう友達だろ？」
＜ともだち……＞
「また会いに来るよ、近いうちに」
そう言って、シンジがその場を立ち去ろうとする。
＜ま、まて！＞
「？」
しかし初号機は立ち上がり、そんなシンジを呼び止めた。
＜わたしにはなまえがない＞
「初号機、じゃないの？」
＜それはおまえたちがかってにつけたコードネームだ＞
「あ、そうだね」
＜だから、わたしになまえをつけてくれ＞
「いいよ。えぇと……」
目を閉じて考えるシンジ。
「初号機で、福音で、神様だから……決めた！」
＜きかせてくれ＞
「ハツネ。神楽ハツネ。これでどう？」
＜かぐら、ハツネ……きにいった＞
ニコリと微笑む初号機改めハツネ。
「じゃ、またね」
＜ま、ま、まて！＞
去ろうとするシンジを、ハツネは再び呼び止めた。
「今度は？」
ハツネの意図が掴めないシンジは頭上にハテナマークを浮かべる。
＜そ、その、だな＞
顔を赤くし、なにやらモジモジし始めるハツネ。
＜わたしと……ゴニョゴニョゴニョ＞
「へ？聞こえないんだけど……」
＜だ、だからだな…＞
赤い顔のハツネが、シンジの耳元へ口を寄せる。
「そんなことしなくても、大声で言えばいいのに」
＜う、うるさい。それができるのならばしている＞
そして、ハツネは小声で何かを囁いた。
その内容に、目がテンとなるシンジ。
「ふ、ふふふふ……」
そして、笑い出した。
＜わ、わらうな！＞
「ゴ、ゴメン。でもさ、なんか口調に似合わず初々しいなっ、て……」
＜ぅぅ……＞
顔を真っ赤に染めて、ハツネは俯く。
「じゃあ、行くよ」
＜あ、ああ……＞
ハツネは一度頷くと、シンジへと歩み寄った。
シンジもハツネの方へと歩み寄る。
そして、
ギュッ。
抱きしめた。
「……もういい？」
＜…………もっとだ＞
数分後、ようやくハツネの許可が下りた。
＜もういいぞ＞
そう言われ、シンジは抱きしめていたハツネの体を離す。
寂しそうな表情のハツネ。
「じゃあ、みんな心配してると思うから、僕はもう行くよ」
＜……わかった＞
「また来るから」
＜ああ、ぜったいだぞ＞
「じゃ、またね、ハツネちゃん」
＜またな……＞
そして、シンジはそこから消えていった。
１人になったハツネは誰に言うでもなく呟く。
＜ぬくもり、か。あんなにあたたかいのは……はじめてだったな……＞
そこに不機嫌そうな表情は……もう、無かった。
「シンクロ率、下がっていきます！２００％を切りました！」
マヤの声に大きく反応する一同。
そして、モニターにはシンジの姿が写っていた。
「碇君！」
「碇くん！」
「御主人様！」
「シン！」
「マイ・マスター…」
「シンちゃん！」
嬉しそうな家族に向かって、シンジはビシッと親指を立てた。
『大丈夫、ハツ……初号機は僕に協力してくれるってさ』
「すっごーい！さっすがシンちゃん！」
はしゃぐユイ。
そんな中、ミサトは事態を把握できないでいた。
（な、何？何が起こってたの？初号機？協力？消えたシンジ君が戻ってきて……えーと…？）
しかし、混乱中のミサトはシンジの声で現実へと引き戻される。
『ミサトさん、今から零号機と一緒に出撃できますよ』
「！！ そうね、今なら使徒も自己修復中で動けないし……レイ！」
「はい」
そして、プラグスーツに着替えたレイが零号機へと乗り込む。
地上へと射出される２機のエヴァ。
『さあ、綾波……行くよ！』
『ええ、碇君』
そしてスキだらけの使徒に、それぞれ同時に膝蹴り→正拳×３→サマーソルトキック→ソバット→急降下キックを浴びせ、無事殲滅。
第七使徒へのリベンジ戦は、エヴァの圧勝で幕を閉じた。
ちなみに、その頃の葛城家玄関。
「あ〜い〜つ〜ら〜、このアタシを置いて一体ドコに行ったのよ！」
家の中に入ろうとも鍵が掛かっていて入れず、この格好のまま遠くまで歩いていく訳にもいかず、すっかり忘れ去られたアスカは１人葛城家の前で体育座りをしていた。
その後、帰ってきたシンジ達に零号機＆初号機による使徒殲滅を聞かされたアスカが、激怒してシンジに掴みかかるも、
「あの時逃げ出したのが悪いんだよ、ランちゃん」
「どうせあなたとなら作戦は失敗していたわ」
「レイお姉サマのゆうとーり」
「その手を離さなければ……殺すわ……」
「細けぇ事にいちいちこだわんな！」
「１０秒以内にマイ・マスターから手を離さなければ強制排除します、アスカ」
「シンちゃんから離れてっ！！」
と、誰の支持も得られず、オマケに一部の殺気も感じ取り、
「フ、フン、今日は特別に許してあげるわ！」
負け惜しみにしか聞こえない捨てゼリフを残して退場。
「レイお姉サマ、いつまでもこんな家にいるコトないよ」
「そうね。戻りましょう」
という訳で、７人は再び愛の巣へと戻っていった。
帰った後も色々と話をしたが、やはり誰一人としてアスカ擁護派はいなかったらしい…。
あとがき？
第９話でした。
新キャラ登場、タイプは「偉そうな子供」。
ハツネは「初音」です。初号機の「初」に福音の「音」。
名字が迷いましたね。結局「神楽」になりましたが。
「神城」とか、とりあえず「神」の付くカッコ良さそうなヤツの中からチョイスして見ました。
実は「マントの下は何も着けてない」という設定なのですが、生かされる日は来るのでしょうか？（笑）
そして、アスカ。
やってみたかったんですよね、「飛び出したアスカを放っておく」というシチュエーション。
そしてそのまま忘れ去られる。
アスカ、今後もいい役どころがあるかどうか、かなり怪しいです……。
それでは！
|
感謝の言葉：
初号機・・・人化の法で化けるのも時間の問題ですね♪
・・・それにしても、飛び出したアスカ・・・哀れ（笑）
なんだか、今後も寂しい境遇を送りそう。
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想いを伝えましょー♪
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