シンジ達は、修学旅行のための水着を買いに出掛けていた。
と言っても、シンジはあまり興味無さそうに見ているだけなのだが。
「サキ、コレなんか似合うんじゃね−か？」
「えへへ、そーかな？」
「シンちゃ〜ん、コレは？似合う？」
「ユイさん、嬉しそうだね……」
「碇君、選んで……」
ハシャぐ女子中学生達と付き合わされているシンジを、ジャムとジェルがジッと見ていた。
「はぁ、４日間も御主人様がいないなんて……」
「私は『寂しい』のを、再び感じたくないと思っています……」
そんな２人に、まさに天の声とも言えるシンジの発言が。
「なら、自由時間になったら瞬間移動で戻って、２人を沖縄に連れて行くよ」
「「！！」」
ハッとした表情でシンジの方を向く２人。
そして、
「御主人様、ありがとうございます！」
「『嬉しい』です、マイ・マスター……」
そのまま抱きついた。
その光景は、周囲の人々の注目を集めるのに充分過ぎたとか。
「えーっ！？修学旅行に行っちゃダメ−！？」
葛城家では、アスカの叫び声が響いていた。
その事にブツブツと反対意見を口にするアスカだが、結局はミサトに言いくるめられる。
「で、この事をアイツらは知ってるワケ？」
「まだ知らせてないけど、これから電話で伝えるわ」
そして、シンジへと電話を掛けるミサト。
『はい、碇です』
「あ、シンジ君？実はね……」
こうして、ミサトはシンジへと用件を伝えた。
それに対しシンジは、
『あ、でも僕は行きますから』
と、一蹴。
「ちょ、ちょっとォ！！」
『ミサトさん、誰がそんな事を決めたんですか？』
「作戦部長である、この私が決めました」
『じゃあ、ミサトさんって……能無しですね』
「な！？」
『少し考えれば分かるでしょう。僕がどこへ行っても、連絡さえつけば一瞬で戻れることくらい……』
「あ」
『……忘れてましたね？』
「だ、だってシンジ君が非常識すぎるから！」
必殺・責任転嫁炸裂。
『とにかく、連絡さえくれれば一瞬で戻りますから、修学旅行へは行きますよ』
「わ、分かったわ……」
こうしてシンジ達は、ネルフ公認で修学旅行へ行ける事となった。
碇家の夕食の風景。
１つの大きなテーブルで、７人が少々キツめに座っている。
「それはミサちゃん……作戦部長失格って感じよね〜……」
シンジの話を聞くなり、ユイがバッサリと斬って捨てた。
「ねぇ、なんで葛城ミサトはあんな偉そうなポジションなワケ？」
ジャムが、ふとした疑問をジェルへと尋ねる。
「彼女はセカンドインパクトからの唯一の生存者だからです、ジャム様」
「そ…それだけの理由で！？」
呆れてフォークを握ったままボーゼンとするジャム。
「それだけ、ってワケでも無いんだケド……それが理由の一つなのは確かよ」
ユイがフォークでチョイチョイとジャムの方を指しながら付け加える。
「ところでサキ、泳ぐのって簡単なのか？」
ピーマンを避けて野菜炒めを食べるサキに向かい、隣の席のラミが尋ねる。
サキは使徒時代、気が付いたら水中を泳いでいたという過去があるのだ。
「カンタンだよ。浮いて手足を動かせば勝手に進むもん」
「じゃあ、オレでも出来るか？」
「ラミって空を飛べるから、だいじょーぶだと思うよ」
「ああ、あの要領か！」
（ど、どんな要領よ……）
使徒同士の非常識な会話を聞き、ユイはタラ〜と大粒の汗を流していた。
「うわー、ボク、飛行機って乗るのはじめて！」
翌日、沖縄へと向かう飛行機の中で、サキは窓側の席で目を輝かせていた。
「あのさ、サキ……」
その時、隣に座っているラミから声を掛けられる。
「なに？」
「あの、今度さ、オレの背中に乗って……一緒に空を飛ばね−か？」
さりげなくラミはサキをデートに誘う。
「え？いいの！？」
「サキのためなら、オレは何だってしてやるぜ……」
「え、あ……」
ラミのセリフに顔をピンクに染めるサキ。
なんとなくいい感じな雰囲気になったその時、
「アカン！おなご同士でそないな事アカァァァン！！」
「「ジャージ（くん）！」」
サキの後ろの席に座っていたトウジが叫んだ。
「テメェ、折角の雰囲気をジャマすんな！」
「み、水野さん、沖縄でワシと２人で泳ぎまへんか！？」
「ジャージ！沖縄でサキはオレと過ごすんだ！横からでしゃばんな！」
「え、その、ボク、レイお姉サマと過ごしたいって……」
「綾波は碇と過ごすだろ、どうせ」
トウジの隣に座っていたケンスケがボソリと呟く。
「わ、わかってるよ……でも……でもぉ……」
それを聞き、たちまち潤んでいくサキの瞳。
「ケンスケ！水野さんに謝らんかい！」
「このメガネ！よくもサキを！」
トウジがケンスケに掴みかかり、ラミはなにやら加粒子砲を撃とうと構える。
「う、うわぁぁぁっ！！水野、俺が悪かった、悪かったから、な、な、な！？」
「ひっく……うぇぇん……うっ……」
必死に謝罪するケンスケだが、サキはポロポロ涙を溢れさせていく。
そんなサキを見て、トウジとラミは怒り頂点。
「ケンスケェェェ！！」
「くらえ！加粒子砲ッ！」
「うわぁぁぁぁぁぁっ！？」
飛行機内の一スペースは、てんやわんやの大騒ぎであった。
「あーあ、サキたん泣いちゃった」
「サキ……」
そこより数メートル後ろの座席では、ユイとレイがサキ周辺の騒ぎを眺めていた。
「ラミさん、飛行機を落とさなきゃいいけど」
レイの後ろの席で、さりげなく怖い事を呟くシンジ。
その時、シンジの後ろの席のヒカリがおずおずと尋ねてきた。
「碇君、迅雷さんがあんな事を出来るのって、やっぱり使徒だから？」
「ブッ！！」
そのセリフにヒカリの隣のアスカが飲んでいたジュースを吹き出す。
「ちょ、ちょっとヒカリ、それってどういう事よ！？」
「それはね、アスカが転校してくる前に、迅雷さんが転校してきたのよ。その時、自己紹介で自分の事を使徒だって言ってたのよ」
「マジ……？」
あまりの衝撃的事実にボーゼンとするアスカ。
「……って、なんで使徒があんなにクラスに馴染んでるのよ！？絶対おかしいじゃない！！」
「おかしいのはキミの方だよ、ランちゃん」
「な、な、なんですってぇぇ〜〜〜！？」
「要は心だろ？例え使徒だろうと宇宙人だろうと、普通に意思疎通が出来て普通に一緒に生活出来るのならそれでいいじゃないか」
「アンタ、よくそんなに割り切って考えられるわね……」
「このクラスの空気がそれを証明しているからね。みんな、ラミさんが使徒だって知ってるけど、すっかり人気者だよ」
「ぜ、絶対ヘンよ……」
「なら慣れるまでさ」
シンジとアスカが話している最中、ラミの放った加粒子砲の影響で飛行機が何度か揺れたとか揺れてないとか。
その後沖縄に着いた一行は、バスに乗り、宿泊先のホテルへと到着。
カードキーを渡され、それぞれの部屋へと入っていった。
「あ〜あ、トウジとケンスケと同じ部屋なんて……。綾波と一緒だったらなぁ……」
部屋へ荷物を置くシンジが、ボソリと呟く。
「そないな事言うんやったら、ワシかて水野さんと……」
「俺だって惣流と……」
と、トウジとケンスケがここまで言って、ハッとシンジの方を向く。
「…って、シンジ、お前は綾波と一緒に住んどるやないか！」
「裏切り者〜〜〜！！」
「あっはっは、まぁコレも運命だと思って、ね♪」
「「なぁにが『ね♪』（だ）（や）〜〜〜！！」」
２人掛かりで襟首を掴まれるシンジだが、笑って話題転換。
「まあまあ、でも、サキさんとラミさんが同部屋っていうのはアブないかもね」
「はっ！！」
サッと血の気が引くトウジ。
「いや、綾波も同部屋なんだし、平気だろ？」
ケンスケが冷静に呟くも、
「アカン！おなごオンリーの３人プレイやなんて、そないな事アカァァァァァン！！」
と、謎のセリフを叫びながらトウジは走り去る。
「いやぁ、僕はそういうのもアリだと思うけど？」
「……トウジには悪いけど、むしろ見てみたいな」
直後、ケンスケは妄想の世界へと旅立っていった。
レイ、サキ、ラミの部屋。
「レイお姉サマ、今日のこれからの予定ってナニ？」
「３０分後に昼食、それ以降は１７時まで自由行動なの」
「サキ、自由行動はどう過ごすんだ？」
「んーと……」
サキが考え始めたその時、部屋のノブがガチャガチャと激しく音を立て始めた。
さらに、ドアを乱暴に叩く音がする始末。
「水野さん！水野さんッ！！」
「ジャージくん？」
サキがトテトテとドアへ向かうが、それより早くラミがダッシュでドアに接近、一気に開けた。
「何の用だ、ジャージ！」
「迅雷！ワシと部屋を替われ！オノレがおると水野さんが危険や！」
「あぁ！？何言ってやがる！テメーなんぞとサキを同部屋にしたら、サキにとって取り返しのつかねー事になるに決まってんだろ！」
「そないな事言うて、今晩水野さんをどないする気や！？」
「ンな事、テメーにゃ関係無ぇ！」
ギャーギャーと言い争うトウジとラミ。
「……騒がしい…迷惑なの…」
「そーだね……」
レイの微妙に迷惑そうな顔を見て、サキの中でトウジに対する印象がダウンした。
それから約１時間後。
愛の巣では、ジャムがシンジの写真に語りかけていた。
「ああ、御主人様ぁ……早く……早くお会いしたいです……」
スリスリとそのまま写真に頬擦りをするジャム。
その表情はとても切なそうだ。
「何をしているのですか？ジャム様」
「あ、ジェル」
その様子を不思議そうに見ていたジェルが、ジャムに声を掛ける。
「何って、予定通りだともうすぐ御主人様が私達を迎えに来て下さるのよ？それが待ち遠しくって……」
ほぅ、と悩ましげな溜め息をつきながら答えるジャム。
「私もそう思います、ジャム様」
「でしょ？それで、ジェルもしたい？」
そう言って、ジャムはジェルへとシンジの写真を渡す。
「…………」
無表情ですりすりとシンジの写真に頬擦りするジェル。
「私は、本物のマイ・マスターにこうしたいと思っています、ジャム様」
そしてやはり無表情で、ジャムに向かって呟いた。
「それを言っちゃあ……てゆーかジェル、それは実行しちゃダメよ」
「何故でしょうか、ジャム様」
「……これ以上ライバルを増やしたくないからよ」
「ライバル、ですか？」
頭上にハテナマークを浮かべるジェルに、ジャムがボソッと呟く。
「タダでさえレイの存在が大きすぎるのに……」
「？」
相変わらずハテナマークを浮かべるジェルだが、再び写真に視線を戻す。
「マイ・マスター……」
「呼んだ？」
「「！！」」
いつの間にか背後にいたシンジに答えられ、２人は驚愕。
「さ、行こうか……って、ジェルさん、それ……」
「あっ！？」
写真を見ている事をシンジに指摘されたジェルが、思わず叫び声を上げた。
そして無表情に戻った後、顔がどんどん赤くなっていく。
「私は……何故叫んでしまったのでしょう？」
キョトンとした声で呟くジェル。
「さぁ、僕には何とも……」
この場に来たばかりのシンジは、展開が分からず首を傾げているが、
（人間らしくなるのはいいけど、よりによって御主人様に惚れなくても……）
ジャムは１人、ライバル候補の増加に心の中でうな垂れていた。
「なんか、この前のショッピングと大して変わらないような……」
沖縄で買い物をするシンジが、ポツリと呟く。
ちなみにそのメンバーは、シンジ、レイ、サキ、ラミ、ユイに加え、ジャムとジェル、それにサキ目当てのトウジ、女性に囲まれたい＋写真を撮りたいケンスケの９人である。
「いやぁ、まさかジャムさんとジェルさんに沖縄で会えるなんて……」
パシャパシャとシャッターを切るのに忙しいケンスケが、満面の笑みで言う。
「あぁ！コレいいなー！！」
なにやら沖縄名物料理を見て目をキラキラと輝かせるサキ。
「サキ、オレが買ってやる！」
「イヤ、このワシが！」
と、たちまち争い始めるラミとトウジ。
「この２人って、いつもこんな感じよね〜」
ユイがそんな２人を呆れたように見ている。
「お姉さん、ラミが転校した初日から２人はこの調子なの」
「へぇ、サキたんも大変よね〜、コレじゃあ」
サキは争う２人にひたすらオロオロしていた。
「じゃあ……私はコレでも買っちゃおうかな〜？」
その時、ユイが１枚のディスクを手に取る。
パッケージに漢字と英語しか書かれていないあたり、日本製と思えるような代物ではなかった。
「ユイさん、何も沖縄まで来てゲームソフトを買わなくても……」
軽くツッコむシンジ。
「だってコレ、たくさんの昔の名作ソフトが１枚のディスクに入ってるのよ？マジでお得って感じじゃない！」
「それは外国製の違法商品です、ユイ様」
「イイのイイの♪おじさん、コレくださーい！」
「じゃあ、私はコレでも買おうかな？」
ユイに続き、ジャムも１枚のディスクを手に取る。
「昼田さん、それは？」
「アははははは！ほぉら、なんとあの亀を踏み潰して歩く伝説のヒゲオヤジと、クールな青い音速ハリネズミが８等身の姿で血みどろのファイトをするという格闘ゲームよ！」
高笑いをしながらレイにパッケージを見せつけるジャム。
「そう、確か……キノコで巨大化するのね」
「よく考えたら、随分と非常識な設定だよね」
「しかも一気に身長が２倍なのよ！？」
例のヒゲオヤジ（ヒゲ司令ではない）の話題で盛り上がるレイ、シンジ、ユイ。
「それも外国製の違法商品です、ジャム様」
「イイってイイって♪おじさん、コレ買うわ」
そして、ジャムもゲームを購入。
「美少女と美女が違法ゲームを購入する図！コレは売れるぞぉぉぉぉ！！」
相変わらずシャッターを切るのに忙しいケンスケの発言に、
「……そう…かなぁ？」
シンジは首を傾げて呟くのであった。
ブルルルルルルン。
「あ、ネルフ？」
それからしばらくした後、突如シンジの携帯電話が振動した。
「はい、碇です」
そう応答しつつ、マグマの中の使徒が見つかったのかと考えるシンジ。
『シンジ君？今からネルフに来て』
「え？僕だけですか？」
『ええ、今回はシンジ君だけよ』
「綾波やランちゃんは連れて行かなくていいんですね？」
『そうよ』
ミサトの答にシンジは少々不思議顔。
なぜなら、使徒捕獲はＤ型装備の規格に合う弐号機にしか出来ないはずなのだ。
それなのにアスカを連れて行かなくて良いとミサトは言う。
（あ、もしかして……）
シンジはなにやら１つの結論に達し、納得した表情になる。
「分かりました、これから行きます」
そして電話を切るシンジ。
「じゃ、僕はこれからネルフに行ってくるよ」
「使徒が出たのか！？」
誰よりも早く、ケンスケが反応した。
……沖縄だから良いものの、そういう事は人前で叫ぶモンではない。
「おそらくね。ジャムさんとジェルさんはどうする？他のみんなは修学旅行を続けるだろうけど……」
「もしよろしければ、私もネルフへ御一緒したいのですが……」
「私も連れて行って下さい、マイ・マスター」
「分かった。じゃあ、２人とも行こうか」
シンジが２人を連れて瞬間移動しようとしたその時、
「碇君、私も……」
レイがネルフ行きへ立候補。
その姿を寂しそうにジッと見つめるサキ。
ここで、ラミとトウジの脳裏にとある考えが浮かぶ。
（もしレイが行けば……今夜はサキと２人きり！）
（もし綾波が行けば……水野さんが危険や！）
そう判断した後の２人の行動は迅速であった。
「レイ、シンと一緒にいてーんだろ？遠慮する事無ぇよ、連れてってもらえ！」
「綾波！見ぃ、水野さんがこないな悲しげな目をしとる！お前はそないな水野さんを置いてくんか？」
「テメェ、ジャージ！もしレイがシンと離れてる間に、シンがジャムとラブラブになりでもしたら、その時テメェは責任とれんのかよ！」
「迅雷！そないな言葉にワシはゴマカされへんで！オノレこそ、綾波がおらへん間に水野さんを襲う気やろ！！」
そして、またまた始まる２人の口喧嘩。
このまま何十分も続くかと思われたが、結論は意外なところから出た。
「とりあえず、レイも来れば？」
「昼田さん……？」
まさかシンジラブなジャムがそんな事を言うとは思わず、レイを始めとしたほとんどの人間がボーゼンとする。
「……あなた達、そんなに私の発言が意外？」
ポカンと口を開けて自分を見る一同に、少し呆れたような口調で呟くジャム。
「ジャム、お前の事だからてっきり『レイ、あなたが御主人様と私の中をジャマする事は目に見えてるから来ないで』って言うと思ったんだけど……」
ラミのモノマネ付きのセリフにウンウンと肯く一同。
「……失ッ礼ねぇ。最近、私がそういう発言した？」
「そういえば……してねーな……」
「でしょ？少しは心に余裕が出てきたのよ、私も。例え相手がライバルでも、思いやる心を持てるくらいにね」
風のように透き通った大人の笑みを浮かべ、遠くを見つめて語るジャム。
「たしか、前に碇くんをめぐってレイお姉サマとはげしいケンカをしてたっけ」
「「マジぃ！？」」
その時、サキの懐かしき思い出暴露に、ラミとユイが思わず驚愕。
トウジとケンスケもその光景を想像しようと頑張っている。
ただ、さすがに空中での使徒能力全開な戦いまでは想像できなかったようだが。
「うっ……む、昔の話よ」
先程の美しい笑みはどこへやら、ジャムはヒクヒクと引き攣らせた表情に変わる。
さすがにあの時の暴れっぷりは、思い出すと少々恥ずかしいらしい。
「まぁ、今のジャムさんは『面倒見のいいお姉さん』って感じだからね」
「あ、ありがとうございます……」
「碇君、昔の昼田さんは？」
「ちょっぴり怖い女王様かな」
「ご、御主人様ぁ……」
情けないジャムの声にドッと笑いが巻き起こり、その後いろいろな過去暴露談義に花が咲いた。
そして、盛り上がり絶好調な頃、
ブルルルルルルン。
シンジの携帯電話が震えた。
「はい、碇です」
『ちょっとシンジ君！？すぐ来れるとか言っといて何してんのよ！？』
電話の相手は、一向に来ないシンジに我慢の限界が来たミサトであった。
「あ、何分経ちましたっけ？」
『もう１０分は経ったわ！とっとと来なさい！』
という訳で、シンジはレイ、ジャム、ジェルと共に、ネルフへと瞬間移動した。
「あら、レイは別に……」
レイの姿を見るなりミサトがその事を指摘するが、
「作戦に入れなきゃ良いだけでしょう。それより、作戦を説明してください」
シンジはアッサリと受け流す。
「ええ、そうね。さっき、浅間山の火口で使徒の幼体が発見されたわ。それを捕獲するのが今回の作戦ってワケ」
「で、それをエヴァでなく、僕の宇術を使って実行する、と……」
「そうよん♪」
明るく笑顔で言うミサトに、ジャムが疑問の声をあげる。
「葛城ミサト、あなた、いつもの作戦時と態度が違わない？」
「あら？使徒のあなたには人間の感情の変化は理解できないワケ？」
バチバチバチッ！！
ジャムとミサトの間で火花が散っている。
「彼女の異なる態度の原因は、作戦内容の違いなのですか？マイ・マスター」
「多分そうだよ。今回は『殲滅』じゃなく『捕獲』だからね」
「分かりました、マイ・マスター」
ジェルとの短い会話を終えたシンジは、火花を散らし続けているジャムとミサトの間に入る。
「それより、とっとと作戦開始しちゃいましょう」
「碇君の言うとおりなの」
「そうね。それじゃあいっちょ浅間山へ行きますか！」
そして、シンジとレイの言葉に冷静さを取り戻したミサトが、元気よく仕切った。
「いい歳して、何をそんなにハシャいでんだか……」
ジャムはそんなミサトに小声で呟いたのだが、どうやらミサトには聞こえたらしい。
「……こんっの使徒女がァ！アンタを生きた使徒のサンプルにするわよ！？」
「何よ、要らない作戦部長さん。お生憎だけど私の体は１００％ヒトと同じなのよ」
またもや火花を散らし始める２人に、ジェルがツッコんだ。
「……いい加減にして下さい、ジャム様、葛城一尉。それ以上の個人的な喧騒は作戦に支障をきたす可能性があります」
「「……ハイ」」
なにやら背中から黒く放電しているような翼を広げ、怒っている感じがしないでもない表情で呟くジェルに、２人はコクコクと肯いた。
そして大勢の人間と共に、シンジは浅間山まで瞬間移動した。
「要するに、この火口深くに沈む使徒を地上まで出せばいいんですね」
『そ。シンジ君なら楽勝でしょ？』
「……ま、やってみます」
シンジには羽化の懸念もあったが、羽化したらしたで使徒の動きを止れば良いのである。
少々離れたところから、レイ達がシンジを見つめていた。
「んじゃ、いっきまーす」
シンジは火口に向かって両手を突き出し、その手を一気に空へと向ける。
次の瞬間、ゴゴゴゴという地響きと共に、胎児のような使徒が火口から飛び出した。
「『静止』」
空中で静止する使徒。
「で、どうします？もしかしたら、静止解除と同時に圧力の関係で自滅か羽化をするかもしれませんけど」
『そぉねぇ〜……。リツコ、どうする？』
『それならシンジ君、使徒の動きを止めたままネルフの実験場へ跳べる？』
「出来ますよ。なら、皆さんも一緒に帰りましょうか」
という訳で、なんら浅間山で楽しむ事なく一行はネルフへと戻るのであった。
ネルフ実験場にて、使徒を拘束するための準備が行われていた。
「はぁ、ヒマな上に疲れるし……思ったより大変だよ」
その間、シンジはずっと使徒を静止させ続けている。
「碇君、汗が出てるの」
「いやぁ、さすがにこんなにずっと止めっぱなしだと疲れるからね」
「御主人様、タオルを持ってまいりました」
タオルをどこからか持ってきたジャムが、シンジの顔から汗を拭き取り始める。
ふきふき。
「昼田さん、私もやりたいの……」
「しょうがないわね。ハイ」
レイはジャムからタオルを受け取ると、微笑みながらシンジの顔を拭き始めた。
ふきふき。
「マイ・マスターの額に発汗が見られます、レイ様」
「わかったわ、額なのね」
そんなこんなで時は過ぎてゆく。
「さぁ、後はベークライトで固めて終わりね」
「マイ・マスターの疲労は蓄積しています。早く終わらせて下さい、赤木博士」
「分かってるわ。すまないわね、シンジ君」
そしてリツコが指示すると、使徒に向かってベークライトが噴射されていった。
使徒の体の６割程度がベークライトで固められた。
「リツコさん、もういいですか？」
「ありがとう、もういいわ」
「ふぅ〜、さすがに疲れたぁ……」
シンジはそう呟くと、後方に立っているレイの方へと倒れた。
「碇君！」
「御主人様！」
「マイ・マスター！」
心配そうに叫ぶ３人に向かって、シンジは目を閉じて呟く。
「大丈夫だよ。ちょっと、宇術の使いすぎで眠くなっただけだから……。数時間、寝させて……」
そう言い終わると、シンジはレイに体を預けたまま眠り始めた。
「まったく、御主人様にこんなに無茶をさせるなんて……」
プンプンと怒って言うジャム。
そんなジャムと、眠っているシンジを微笑を浮かべて見つめるジェルであったが、突如表情が硬くなった。
「ジェル、どうかしたの？」
「音がしました、ジャム様」
そう言って、ジェルは固められた使徒の方を振り向く。
「「音？」」
尋ねたジャムと、話を聞いていたレイが、同じく使徒の方を振り向くが、２人には何も聞こえない。
「……危険です。ここからの避難を推奨します、皆様」
「「「「「「「「「「？」」」」」」」」」」
その場にいた作業員の全員が、何事かと声の主であるジェルの方を一斉に向く。
ピシッ！
「「「「「「「「「「！？」」」」」」」」」」
その時、実験場に音が響いた。
「亀裂！？」
ジェルが使徒を固めているベークライトの一部分を指差して叫ぶ。
そこには、亀裂が走っていた。
その亀裂はどんどん広がっていく。
「まさか……羽化！？」
リツコも驚愕の表情で叫ぶと、ジェルが使徒に向かって構え、その場にいる作業員達へと警告した。
「危険です。ここから避難して下さい、皆様」
直後、使徒の体が震えだした。
「どうやらジェルの言う通りのようね」
ジャムの険しい表情での一言に、リツコが反応した。
「総員、緊急退避よ！使徒が羽化するわ！」
その声に、駆け足で出口へと向かう作業員達。
使徒の周辺に人間がいなくなった事を確認したジェルが、両腕を発光させる。
「ジェット・フィスト」
ドゥゥゥゥゥゥゥゥンッ！！
使徒へと高速で飛んで行く２本の虹色の光の矢。
しかし、
バゴァァァァッ！！
使徒はついにベークライトを突き破って羽化し、空中へと飛び、ジェルの攻撃をかわした。
「なんてスピード！」
その使徒の速さに驚愕の声をあげるジャム。
「……碇君が危険なの」
レイは抱きかかえたシンジを心配そうに見つめている。
「御主人様が休息なされている今、私達で御主人様をお守りするのよ！」
「わかったわ、昼田さん！」
「マイ・マスターを連れて避難して下さい、赤木博士」
ジェルは後方で使徒の様子を眺めているリツコへと言う。
「分かったわ！レイ、急いでケイジへ……」
リツコがそう指示した瞬間、高速で使徒が突進してきた。
「！！」
思わず目を大きく見開くリツコだが、
「ＡＴフィールド」
「スター・フィールド」
ガィィィィィィィィィン！！
レイの展開したオレンジ色の８角形の光の壁と、ジェルの展開した金色の星型の光の壁に阻まれた。
「エヴァに乗りに行くヒマなんて無いみたいね。レイ、生身でケリをつけるわ！」
「ええ」
「マイ・マスターを安全な所へ避難させて下さい、赤木博士」
「わ、分かったわ！」
そして、リツコはシンジを抱えて実験場を後にした。
「レイ、ジェル、何か作戦は？」
「私が目標のフィールドを中和するわ。２人はその時に目標に接近して直接攻撃して」
「分かりました、レイ様」
「それで行くわ」
作戦が決まった３人は、一旦フィールドで使徒をはじき、間合いを離した。
「行くわよ！」
「オーバーライト・ウイング」
両手にシャイニング・ウイップを出現させたジャムと、背中に漆黒の天使ようなオーラの翼を開いたジェルが、同時に使徒へ向かって翔んで行く。
２人が使徒の目の前に一気に接近した後、レイが遠距離からＡＴフィールドを中和させた。
「シャイニング・ウイップ！」
「ジェット・フィスト」
バガァァァァァァァァン！！
その隙を逃さず、２人は全力で攻撃を浴びせる。
しかし……
「なんか、あまり効いてないみたいね……」
「目標の防御力は予想よりも高いようです、ジャム様」
さすがにマグマの底で眠っていただけあり、フィールドを中和しても使徒に大したダメージを与えられなかった。
ブォンッ！！
その時使徒が体をスイングさせ、尾で２人を攻撃してきた。
「きゃぁっ！」
「うっ……」
ドタドタン！
２人は吹き飛ばされ、レイのいる周辺の床へと叩きつけられる。
「昼田さん！ジェル！」
レイが心配そうに２人の名を叫ぶと、２人はゆっくりと起き上がった。
「いったったぁ……普通の人間なら死んでるわよ……」
腕を打ったのか、ジャムは腕をスリスリとさすっている。
「オーバーライト・ウイングによる衝撃吸収が発動、損傷率は０％です、レイ様」
一方、翼に守られるように地面へと叩きつけられていたジェルは、何事も無かったかのように平然と起き上がる。
「でもどうする？あんなに硬いんじゃ、倒せないわよ？」
「私が目標をリライトします、ジャム様」
「リライト？」
「説明可能な時間が不足。目標をリライトします」
そして、ジェルは再び使徒へと向かって翔んで行った。
ジェルが動くのを見て、即座に突撃してくる使徒。
「「ジェル、危ない！」」
２人が叫ぶも、ジェルは無表情でフィールドを展開する。
ガィィィィィィィン！！
突撃をフィールドに阻まれる使徒だが、徐々にその力でフィールドを破り始めてきた。
ピシ、ピシピシ……
破っているフィールドの部分から、体を少しジェル側に出している使徒。
ジェルはその部分に乗ると、そこへ翼を下方向へ向かって大きく広げ、突き刺した。
ガッ！
使徒の体は硬く、わずかに翼が刺さったに過ぎない。
しかしそれは計算済みであったらしく、ジェルは俯き表情を変えずにポツリと呟いた。
「リライト・スタート」
直後、様々な色に輝くジェルの翼。
そして、使徒の表面にどんどん亀裂が走っていく。
使徒の全身に亀裂が走ると、ジェルは翼を元の形に戻し、目を開いた。
「リライト・エンド、これより攻撃します」
そしてジェルは使徒へ両腕を突き出し、
「ジェット・フィスト」
ドガァァァァァァァァンン！！
一撃で使徒を粉砕。
同時に、星型のフィールドも閉じられた。
「目標を殲滅しました」
２人のもとへと翔んで行き、ジェルが無表情で報告する。
「すごいじゃない、ジェル！で、さっきのリライトってのは何なの？」
「目標の皮膚の成分を変化させました、ジャム様」
サラッととんでもない事を言ってのけるジェル。
「ははぁ、それで皮膚をモロく変えて、防御力を低下させたってワケね」
「ジェル、すごいの……」
「ありがとうございます、レイ様」
ジェルは２人に誉められ、嬉しそうにニッコリと微笑んだ。
しかし、翼を消しながらその場にペタリと座り込んでしまう。
「ジェル、どうしたの！？」
慌ててジェルの顔を覗き込むジャムと、心配そうに見つめるレイ。
「エネルギーを大量消耗……して、しまいましたので……」
ジェット・フィスト、スター・フィールド、オーバーライト・ウイングの「ジェル３大必殺技」を連続使用し、トドメとばかりに「リライト」までしたジェルは、ヘトヘトに疲れきっていた。
そんなジェルの姿に、ジャムの胸がキュンと鳴る。
「ごめん、ジェル。私の力が足りなかったから……」
ジェルはジャムを抱きしめた。
「ココロが……『暖かい』気がします、ジャム様……」
２人の友情が深まったのを見ているレイは、雰囲気を壊さないようにただ黙って眺めていた。
第八使徒戦が与えたもの……それは、２人の深い絆……。
時間は少々さかのぼり、自由行動が終了した辺りの時刻の沖縄。
「ちょっと、どういう事よ、それ！！」
ホテルの一室で、アスカの怒鳴り声が響き渡っていた。
「へ？何が？」
怒鳴られたユイは、何のコト？という表情で首を傾げる。
「聞いたわよ！アンタ今、ファーストとバカシンジがネルフに行ったとか言ってたじゃない！」
「ありゃ、独り言だったんだケド……。聞こえちゃった？」
「だから聞こえたって言ってるでしょ！説明しなさいよ！」
「むぅ……イ・ヤ。やっぱりな〜んかエラそうなんだもん。人にモノを尋ねる態度じゃないって感じよね〜」
ちょっと怒った表情でアスカを見るユイ。
「いちいちウルサイわね！いいから教えりゃイイのよっ！」
「ぶー、やっぱエラそう。私、キゲン損ねちゃったもんね。サキたんの部屋に行ってくる」
全然態度を改めようとしないアスカに、ユイは部屋を出て、隣のサキ＆ラミの部屋へと向かった。
「何よ、偉そうに！」
そう言うと、部屋の壁を数回殴るアスカ。
「偉そうなのはアスカだと思う……」
ハラハラと成り行きを見ていたヒカリは、ヒビの入った壁を見てポツリと呟くのであった。
「せやから、ホンマはシンジだけの予定やったんやけど……」
「綾波が碇目当てで一緒に付いて行ったんだよな」
ホテルの食堂で、アスカはトウジとケンスケを発見し事情を聞き出した。
「ミサトのヤツ、このアタシを呼ばないなんて何考えてんのよ！」
「そんなコト言うんなら、はじめから修学旅行に来なきゃよかったのに」
いつの間にか後ろに立っていたユイがポツリと呟く。
「アンタに何が分かるってのよ！」
「ん〜、アスカがワガママだってコト」
ユイの言葉にカッとなったアスカが、すかさず右手をユイの頬へと飛ばす。
しかしそこは綾波ユイ、難なくアスカの右手首を掴むと、そのまま素早くオレンジジュースをゴクゴクと一気飲み。
「あ〜、おいし♪で、アスカ？ぶっちゃけた話、あなたプライド高すぎ」
「！！」
キッとユイを睨みつけるアスカ。
周囲の人間はその光景を何事かと見ている。
「そでしょ？たかがエヴァに乗れるくらいで、自分がまるで選ばれた人間のように思い込んじゃって……バカみたい」
今度はモグモグとソーセージを食べながら言い放つユイ。
「たかが……ですってぇ！？」
一段と激しい憎悪の視線でユイを睨みつけるアスカだが、別にユイは気にしない。
「うん。詳しくは機密だから言わないけど、エヴァに乗るのに才能なんてほとんどいらないもん」
この発言には、さすがにアスカも……そして、周囲の野次馬も目を丸くした。
「き、機密って……なんでアンタがそんな事……！！」
「こう見えても私、実はホニャララだし〜♪」
笑顔で言うユイに、アスカがツッコむ。
「何よ、ホニャララって！」
「おっしえな〜い♪」
そしてユイは料理をを食べる事に専念し始めた。
この時、「アスカの恐ろしい本性」と「ユイのミステリアスな素性」が２年生の間に広まったらしい。
夜１０時頃、ユイの部屋には数人の女子生徒達がお邪魔していた。
「ねぇねぇ、ユイさんってタダの中学生じゃないの？」
「今はタダの中学生かな〜？昔は……コレ以上はヒミツ♪」
「もぅ、ケチぃ〜」
などと、楽しげに会話するのを後目に、アスカはヒカリに愚痴っていた。
「何よ何よ、ちょっと謎があるからってチヤホヤされちゃってさ！」
ただ、さすがのヒカリもアスカへのフォローがあまり浮かばず、聞き役に徹している。
「ちなみに、コレはアスカが殴った壁」
「ちょ、ちょっとアンタ、何言ってんのよ！」
ユイの発言にアスカが思わず詰め寄る。
「スゴかったわよ〜。私、隣のサキたんの部屋にいたけど、アスカの叫び声と同時に部屋の壁が震えてたもん」
「「「マジぃ〜！？」」」
嬉しそうに騒ぐユイと生徒達。
「うわ、マジでヘコんでる、この壁……ん？」
その時、壁のヒビに顔を近付けていた１人の女子生徒が何かを発見した。
「どしたの？」
不思議そうに尋ねるユイに、女子生徒は怪訝そうな顔をして答えた。
「向こうの声が聞こえる……けど、この声って……」
男子生徒の反応に顔を見合わせたユイ達は、一斉に壁に耳をつける。
「隣、誰だっけ？」
「レイちゃんがいないから、サキたんとラミちゃんだケド……」
「ねぇ、この声ってまさか……」
「うそ〜、本当に〜！？」
顔を赤くして騒ぐ一同に、アスカとヒカリも何事かと加わり始めた。
２人の耳に入ってきたのは、明らかに妖しい行為をしていると思われるサキとラミの甘い声。
「な…何してんのよ、沖縄まで来て……」
「ふ、不潔……」
そう呟きながらも、２人は耳を壁から離そうとはしなかった。
ちなみにその頃、トウジとケンスケはというと……
「うおりゃぁぁぁぁぁっ！」
「せいやぁぁぁぁぁぁっ！」
ホテルの別の階に置いてあったゲームで対戦していた。
「まだまだぁぁぁぁっ！！」
「なんやとぉぉぉぉっ！？」
ユイ達の部屋での騒ぎなど何も知らずに。
さらにちなみにその頃、シンジ達はというと……
「「「「スー、スー……」」」」
レイ、ジャム、ジェルの３人でシンジを愛の巣まで運び、いつもとは違い、４人でまとまるようにして眠っていた。
「いい？サキたんが泣いちゃうから、このコトは決して口外しないよーに！」
隣の部屋が完全に静かになった後、盗み聞きしていた全員にユイが警告する。
コクコクと肯く一同を見て、ユイは満足そうに微笑んだ。
「んじゃ、解散してイイわよ♪」
という訳で、幸か不幸かトウジとケンスケがこの出来事を知る事は無かった。
翌朝、ラミが目覚めた。
「んっ……よっく寝たぁ……」
ググッと伸びをするラミ。
隣を見ると、かわいい寝顔のサキが熟睡中。
それを見て嬉しそうにラミは口元を緩ませると、サキの体を揺さぶる。
「サキ、朝だぜ……」
「あ…さ……」
サキの目覚めを確認したラミは、ニヤリと笑うとその顔を眠そうなサキの顔へと近付けた。
「ラミ……？」
「……おはようの、キ・ス♪」
「え？……んっ……！！」
２人の少女の修学旅行２日目は、このようにして始まった。
「じゃ、行ってくるよ」
「昼田さん、またいつかなの」
「それでは、しばしのお別れですね……」
愛の巣では、シンジとレイがジャムに別れを告げている。
「ジェルさんにも言っておいて。ありがとう、そしてご苦労様ってね」
「はい」
ジャムは力の使い過ぎで未だに眠っているジェルを見ると、シンジへ笑顔で答えた。
「碇君、沖縄へ行きましょう」
「そうだね。それじゃあジャムさん、また自由時間になったら来るから」
「はい！」
そして、シンジとレイは沖縄へと跳んだ。
「おうシンジ、帰ってきたんか」
レイと歩いているシンジを発見したトイレ帰りのトウジが、ホテルの廊下で話し掛けてきた。
「うん。昨日はちょっと大変だったよ」
「大変って、使徒か？」
笑顔で答えるシンジに、同じくトイレ帰りのケンスケが尋ねる。
「そう。生け捕りする予定だったんだけど、結局無理で倒してきたんだ」
シンジが倒した訳ではないのだが、レイ・ジャム・ジェルの３人が倒した事を説明すると更にややこしくなりそうなので、シンジは黙っていた。
ちなみに、この事がのちにアスカの耳に入り、またもや彼女が激怒したりもするのだが、それはまた別の話。
シンジ達は残りの修学旅行を存分に楽しんだのであった。
あとがき？
第１０話でした。ジェルさん、結構成長しました。
顔色を赤く変えたり、ミサトについての無駄話をしたり。
どうですか？人間っぽくない方が好きですか？
で、サンダルフォン。
厄介な事に、羽化後バージョンが空を飛んじゃいます。
それを３人の友情パワーで撃破！
ジェルさんがいなかったらかなりヤバかったような……。 それでは！
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感謝の言葉：
ふふ、やっぱりアスカってば、哀れ♪
でも楽しみにしていた修学旅行を満喫できたわけだし、
ほんとなら、問題なし・・・なのかも。（笑）
いつもと違って仲良く４人で寝ている、というのは
新鮮な感じがして心が和みますね〜。
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想いを伝えましょー♪
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第１１話「静止した闇の愛の巣」へ進む。
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