暁の守護天使

第０２話「使徒殲滅」

「（ようやく始まるのね、私の復讐が）エヴァ初号機、発進！！」

ミサトの号令と共に射出されるカタパルト。

「くうっ」

襲い掛かる物凄いＧに、ユウリは顔をしかめつつ耐える。

「エヴァ初号機、リフトオフ！」

地上に到達すると共に最後の拘束を解かれた初号機は、初めて自力で大地に立ち、使徒と相対した。

「いいこと、ユウリ。先程説明した様に、エヴァはあなたのイメージした通りに動きます。とりあえず、歩いてみてちょうだい」

「了解です。（歩く、歩く、と）」

のろのろと歩き出した初号機の姿に、発令所では歓声があがっていた。

（何、動くかどうかもわかんないモノに乗せたの？でも、これなら何とかなりそう）

初号機に接近してくる使徒に対して意識を向けたユウリは、初号機を走らせた。

「いっけぇーー！」

気合を込めて繰り出されたパンチは、使徒の目前で赤い壁のようなものに阻まれた。

「なにこれ！」

「ＡＴフィールド！」

「やはり、使徒も持っていたのね。あれが在る限り、使徒にはダメージを与えられないわ。」

焦るミサトに対して冷静なリツコ。

「そう言う事は先に言って…きゃあ！」

次の一撃を繰り出そうとした左腕を掴まれる初号機。

「う、うぁぁぁーーーーー！！！！！」

ゴキッ！

いやな音がして、初号機の左腕が折れ曲がる。

痛みを懸命に堪えて蹴りを入れ、ユウリはどうにか初号機を使徒から離した。

しかし、安心したのも束の間、使徒の光線が初号機を襲う。

咄嗟に庇おうとするが、間に合う筈もなく直撃する光線。

弾き飛ばされた初号機は、背後のビルを破壊しつつ倒れる。

そこへ、手から光る槍を出した使徒が接近、それを初号機に向けて繰り出した。

「！！」

驚異的な反射神経でそれを避けるユウリだったが、痛みで思うようには動けない。

更に追い討ちの光線を受けた初号機は、またしてもビルを破壊して倒れた。

動かない初号機に向け、二度、三度と光線を叩きつける使徒。

やがて、使徒はゆっくりと初号機に近付き、その頭部を掴んだ。

掴んだ手から、再び光る槍が飛び出す。

右の眼窩から、後頭部へと貫通する光の槍。

「うあぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーー！！！！！！」

先程よりも大きな悲鳴があがる。

「初号機パイロットの生命維持に支障！」

ロンゲのオペレーターが叫ぶ。

「初号機活動停止！」

今度は眼鏡のオペレーターが叫ぶ。

「ここまでかしらね」

リツコが冷静にコメントする。

そのリツコを睨みつけたミサトが、指示を出した。

「作戦中止！パイロットの回収、急いで！！」

「駄目です、信号を受け付けません！」

悲鳴のようなマヤの報告が、発令所に響いた。

自分を襲った凄まじい痛みに、ユウリの頭は真っ白になっていた。

そこへ、搭乗前に聞いた『人類滅亡』というリツコの言葉が蘇る。

自分を見送ってくれた孤児院の子供達の顔が、浮かんでは消えてゆく。

「………させない…させない…絶対に、させないからぁーーーー！！！」

ユウリの叫びが、発令所に響いた。

「しょ、初号機、再起動しました！」

マヤが叫ぶ。

「強力なリビドー反応検出！」

続いてロンゲが叫ぶ。

「初号機左腕部復元！」

さらに眼鏡が叫ぶ。

「先輩！初号機のシンクロ率がマイナス方向に増大していきます！！」

「バカな…人の自我が、エヴァを凌駕するとでも言うの……。」

『ウォォーーーーーーーー！！！！！！！』

初号機の咆哮が響き渡った。

「顎部ジョイント破損！」

復活した初号機は、己の頭部に槍を打ち込んでいた使徒の左腕を握り潰すと、腹部に蹴りをいれて弾き飛ばし、立ちあがった。

「どうなってんのよ、リツコ！まさか、暴走！？」

「いいえ、違うわ。彼女の意思で操縦しているのよ」

「でも、あれはどうみたって…」

「間違い無く彼女の意思よ、数値がそれを証明してる。あえて言うなら、彼女自身が暴走している、と言うところかしら」

そうこうしているうちに、間合いを詰めた初号機がパンチを繰り出した。

またしてもＡＴフィールドで防がれるが、今度はそれで終わらなかった。

「初号機からＡＴフィールド発生、出力増大していきます！」

「使徒のＡＴフィールド消滅！」

「初号機のＡＴフィールド、いまだ出力増大中！」

ゆっくりと、使徒の顔のような部分に手を伸ばす初号機。

使徒が光線を放つが、初号機のＡＴフィールドに阻まれて全く効果が無い。

使徒の顔を握り潰した初号機は、そのまま使徒を地面に押し付け、マウントポジションをとってメチャクチャに殴り始めた。

しばらく殴り続けて抵抗が無くなると、ようやくそこに気がついたかのように光球を殴り始める初号機。

光球にヒビが入ると、使徒は最後の抵抗とばかりに初号機に抱きつき自爆した。

凄まじい爆音が響き、辺り一面の閃光と煙で視界が塞がれてしまった。

「エヴァはどうなったの！！」

「モニターできません！」

焦るミサトの質問に対して、返ってきたのは同じく焦ったマヤの声だった。

しばらくすると、ようやく視界が回復し始めた。

そこには、装甲に多大な損傷を受けつつも、静かに佇む初号機の姿。

「パイロットの生命反応確認、無事です！」

マヤの声が発令所に響き渡る。

「パターン青、消失。使徒、完全に沈黙しました」

ロンゲの報告に頷くと、ミサトは最後の指示を出した。

「現時刻をもって作戦を終了します。救護班はパイロットの回収を急いで！」

「勝ったな、碇」

「ああ、全てはシナリオ通りだ」

「だが、初号機のあの力、異常ではないか？暴走ではなかったのだろう？」

「問題無い」

「だといいのだがな。まあ、老人共の相手はお前の仕事だ、私の知った事ではないが」

初勝利にわく発令所とは裏腹に、怪しい会話をする中年二人組であった。

「で、ユウリちゃんの様子はどうなの？」

赤木リツコ研究室に入ってきたミサトは、開口一番そう尋ねた。

「そうね、高シンクロ率の影響で、負傷した左腕と右目の機能が低下しているわ。問題はそれくらいね。一時的なものだからすぐに回復するでしょうけど」

「左腕と右目の機能低下ってどう言う事？」

「例えば催眠術で、『これは熱く焼けた鉄です』と言う暗示をかけて木の板を押し付けたら、火傷するっていうのと同じようなものね」

「じゃあ、これからも……」

「そう、戦闘の度に同じ目にあうと言う事よ。こればっかりはどうしようもないわね」

「どうにかなんないの？」

「高出力のＡＴフィールドと装甲でフォローして、としかいえないわ」

「ふむ………難しいわね、痛みを感じるだけでも厄介だってのに」

「そうね、でもそれを考えるのもあなたの仕事じゃないの？それより、再起動した後の初号機の力、そっちの方が気になるわね」

「確かに気になるけど、あれホントにユウリちゃんだったのかしら？」

「どう言う事？」

「だって、あの時のユウリちゃん普通じゃなかったでしょ？」

「あれは間違い無く彼女よ。ただ、自己防衛本能とかそういったモノが過度に作用していたのかも…」

「自己防衛というより…あの『させない』って言葉から察するに、孤児院の子供達を守る為…って感じじゃない？」

「そうかもね…それよりミサト、そろそろ彼女の診察が終わる頃よ。会って話しでもしてきたらどう？」

「そうさせてもらうわ、サンキュ、リツコ」

そう言って、ミサトは出ていった。

「ありがとうございました」

ユウリは目の前の医者にそう言うと診察室を出ていった。

「さて、暇になっちゃったな、どうしよう」

そう呟き考え込むユウリの耳に、ミサトの声が飛び込んだ。

「暇だったらオネエサンとデートしない？」

「ミサトさん」

「これからいろんな事務手続きとかあるし、その前に腹ごしらえしましょ」

「了解です」

二人は、ミサトの案内で食堂へと向かった。

「さぁってと、遠慮無くたべてね！」

「了解です。ところでミサトさん、エヴァって何機あるんですか？パイロットも、私がサードって事は最低あと二人いるって事ですよね？」

「エヴァは現在三機、その内ここにあるのは零号機と初号機の二機よ。そして弐号機は、パイロットと共にドイツにあるわ」

「零号機はどうなってるんですか？あそこにはありませんでしたけど」

「零号機は実験中の事故で現在凍結中、パイロットはその時の怪我で入院中よ」

「そうですか、じゃあ、その人に面会できますか？何か参考になる話が聞けるかもしれませんし」

「いいわよ、じゃあ、食事が終わったら行きましょうか」

「了解です」

「レイ、入るわよ」

ミサトと共に病室に入ると、そこには蒼銀色の髪と真紅の瞳を持った包帯だらけの少女が横たわっていた。

「ユウリ、この娘がファーストチルドレン、綾波レイよ。レイ、気分はどう？」

「…問題ありません」

（わぁ、綺麗な人。アルビノっていうんだっけ、こういうの）

「レイ、紹介しておくわ。彼女がサードチルドレン、碇ユウリよ」

「碇…？」

「そう、碇司令の娘さんよ」

「始めまして、碇ユウリです。これからよろしくね、綾波さん」

「そう…」

「（む、無口な人ね…）そ、そうだ、綾波さん。レイさんって呼んでもいい？私もユウリって呼んでくれたらいいから」

「問題無いわ…」

「そう、それじゃあね………」

と、こんな調子で小一時間も喋り続けた頃、ミサトが口をはさんだ。

「ユウリちゃん、そろそろ行かないと手続きが今日中に終わらなくなっちゃうわよ」

「了解です。それじゃあレイさん、また明日ね」

そう言って出て行くユウリの背中を、レイはじっと見つめていた。

（ユウリさん…、不思議な人…暖かい人…碇司令の娘だから？わからない…でも違う気がする…。ユウリさんの傍に居ると…とても心地よい…何故…）

「えぇーーーーっ！中学生の女の子に一人暮しさせようってえの！！」

「上からの指示ですので…」

絶叫するミサトに、係員は額に脂汗をうかべて応対している。

「いいわ、私が引き取るから！」

そう啖呵をきったミサトは、どこかへ電話をかけ始めた。

「あ、リツコ。ユウリちゃんだけど、私が引き取る事になったから。そういう事で、上の許可取っといてくれる？じゃあね」

一方的にまくしたてると、ユウリを連れて立ち去るミサト。

切られた電話の向こうでは、リツコが額に青筋をたてていた。

「ということでユウリちゃん、あなたはウチで私と同居する事になりました」

「強引ですね…まあ、上官の人となりを知るのも仕事の内ですかね……了解です」

「なんかひっかかるわね……。まあいいわ、行くわよ！」

ミサトの豪快な運転に揺られること暫し、二人はミサトの住居であるコンフォート１７マンションにたどり着いていた。

「さあここよ、遠慮無く入ってちょうだい」

「じゃあ、おじゃまします」

「ちょっと、ちがうでしょ。ここは今日からあなたの家でもあるのよ！」

「え、えと…ただいま」

「お帰りなさい、ユウリちゃん」

ミサトの言葉に招かれて足を踏み入れると、そこにはゴミの山が広がっていた。

（………なにこれ。もしかして、選択を誤ったかな………）

いきなり後悔しているユウリであった。

＜後書き＞

第２話です。

今回の修正箇所、戦闘シーンが中心です。

色々といじくりまわしてみましたが、サキエル戦は長くしてもしょうがないかな、と割りきってそこそこに抑えてみました。

どうですか？

無事に使徒を殲滅し、ミサトと同居する事になったユウリ。

次回はいよいよ登校です。

果たしてユウリに友達はできるのか？

それでは、次回も広い心でお読みください。

守りたい人たちのために戦おうという心に応えたエヴァ・・・というか
エヴァを支配下に置いたユウリ、というべきでしょうか。
単純にシンクロ率が高い、というだけではなさそうですけど、何はともあれ
サキエル戦、勝利おめでとー、なのです。
ミサトと同居するに至る経緯も、心理的に一線を画している感があって
シンジ君の時とは随分、雰囲気が違いますね〜。
レイとの関係はいい方向に進展しそうで今後が楽しみ♪

さて、読まれた人は Ｔ．Ｈ さんに感想と一緒に気力を送って、執筆活動を
がんばってもらいましょー♪