暁の守護天使
第０８話「紅の戦士」
「碇、先の戦闘における醜態、一体どういう事だ？」
不機嫌さを隠そうともしないキールの声が、室内に響いた。
「使徒には、勝利しております。問題は無いと思われますが？」
「本気で言っているのかね？一歩間違えれば、初号機を失っていたかもしれんのだよ？」
「さよう。初号機は、われらの計画における要の一つ。万一にも、失うような事があってはならんのだよ？」
「それは承知しております。ですが、使徒との戦いは、常に死と隣り合わせです。危険にさらされるのは、やむを得ない事ですよ。使徒に勝たねば、計画自体が水泡に帰すのですから」
「君は簡単に言うがね？勝てばいい、というモノではないのだよ？」
「全くだよ。結果的には装甲を換装するだけで済んだ初号機はともかく、大破した零号機の修復にいくらかかると思っておるのかね？」
「さよう。装甲ばかりか、素体にまで大ダメージを受けておるのだよ？これでは、一から造るよりもなおタチが悪いよ」
「われらの資金とて、無限ではないのだよ？壊れたら直せばいい、などと簡単に考えてもらっては困るのだよ」
「それだけではないよ？大規模停電によって、日本の経済がどれ程の打撃を受けた事か。われらにはどうという事もないが、君にとってはそうではないだろう？」
「『砂上の楼閣』、という言葉もある。足元をおろそかにしては、ＮＥＲＶそのものが傾く事にもなりかねないのだよ？」
「そうは仰いますが、使徒を倒さねば全てが終わるのですよ？いちいち手段を選んでいては、取り返しがつかなくなります」
「モノには限度があるよ、もう少し考えてはどうかね？」
「碇君、まさかＮＥＲＶを食い潰すつもりではなかろうね？」
「そのような事…何を根拠に仰っているのです？」
「…その件については、まあいいだろう。だが碇、使徒の能力をコピーしてみせた初号機のあの力、何なのだ？」
「それについては、報告書の通りです。赤木博士とＭＡＧＩの分析ですから、間違いは無いと思われますが？」
「使徒が己の肉体を粒子加速場として使用していたのに対し、ＡＴフィールドによって同様の場を形成した、か…確かに正解なのかもしれん。だが、何故そのような事が出来るのだ？」
「それについても、報告書の通りですよ」
「『咄嗟に思いついた』かね？咄嗟の思いつきで、このような事が出来る筈が無いではないか！この場での偽証は死に値する、忘れた訳ではあるまいね！？」
「勿論、承知しております。ですが、本人がそうとしか言わない以上、追求のしようがありませんよ。まさか、子供を拷問にかける訳にもいかんでしょう。組織としての体面、という物もありますからね」
「……計画遂行の障害となる要素は、いかなる手段をもってしても排除せねばならん。それを忘れぬ事だ、碇」
「心得ております。それより、予定通りの弐号機配備、有難う御座います」
「駒は揃いつつある。サードの扱い、考えた方が良いのではないかね？」
「使徒との戦いは、これからさらに激しさを増すでしょう。初号機は、勝利の為には欠かせぬ要素です。それを動かせるのがサードのみである以上、迂闊な事は出来ませんよ」
「おやおや、どうやら碇君も自分の娘はかわいいらしいね？」
「何を仰っているのか、解りませんな」
「まあよい。碇、計画の遂行こそが貴様の任務。くれぐれも忘れぬようにな」
「心得ております、全てはゼーレのシナリオのままに」
次々に消える老人達。
全ての老人達が消えると、ゲンドウはニヤリと笑った。
「駒は揃いつつある、か。確かに揃いつつあるさ、私の為の駒がな」
ある週末の午後、ミサトは司令室へ呼び出しを受けた。
「弐号機、ですか？」
「そうだ、現在ＵＮの第７艦隊が輸送している弐号機を、洋上でパイロット共々引き取ってきてくれたまえ。その際、非常用電源ソケットを持参するように」
「何故、電源ソケットを？」
「余裕があれば、洋上での起動試験を行うのが目的だ。それから、サードチルドレンを同行し、セカンドと対面させておきたまえ」
「り、了解しました。葛城一尉、エヴァ弐号機の引き取りに向かいます！」
敬礼をしたミサトは、司令室を出ていった。
（洋上での起動試験、てのはいいとして、わざわざユウリちゃんを連れていく理由は何…？）
思案するミサトだったが、面倒になったのか、すぐに止めてしまう。
「…ま、いっか。行きゃ解るってモンよね！」
どこまでもお気楽なミサトであった。
「わあ、いい眺めですねぇ…」
ユウリは、ヘリの窓から海を見ていた。
「まあ、たまにはこんなのも良いでしょ？息抜きになって」
「そうですね、ミサトさん。でも、どうせなら操縦させて欲しかったですね」
「あれ、ユウリちゃんてばヘリの操縦も出来たんだっけ？」
「ええ、ちなみに戦闘機の操縦も出来ますよ。空母の甲板からの発着は、さすがにやったこと無いですけどね」
「えー！ユウリってばそんな事できるの、凄い！！」
いきなり会話に入ってきたのは、マナであった。
「ホントに凄いですね、ユウリさんて。私達と同い年とは思えませんよ」
マユミがそれに続く。
「もう、そんな事ないのに…。あ、見えてきましたよ、ミサトさん。あれじゃないですか？ＵＮ第７艦隊」
「そ、あの真中にいる『空母オーバー・ザ・レインボー』が目的地よん！」
「もう着いちゃったか。じゃあ、そろそろお仕事モードに入らないとね、マユミ」
「そうですね、マナさん。今日の私達は、ユウリさんのボディガードですから」
そう言い合うと、マナとマユミは銃を取り出して点検し始めた。
ユウリも、それに倣って銃を取り出す。
「あらら、アンタ達。そんな物騒なモノ、用意しなくたって大丈夫よ。なにも、敵地の中に飛び込もうって訳じゃないんだから」
「念には念を、です葛城一尉。本日、ワタクシ霧島一曹及び山岸一曹の二名は、霧島保安部長直々にサードチルドレン警護の任を仰せつかっています。万一にも、間違いが有ってはならないのです！」
敬礼をしつつ大真面目に言うマナに、ミサトの顔がひきつる。
「どうやら、着艦するようですね。それでは皆さん、参りましょうか」
マユミの声に、ミサトの顔も軍人モードになる。
ヘリが着艦すると、まずはマナとマユミが降り、二人が周囲を確認した後ミサトとユウリが降りる。
ユウリが周囲を見渡すと、沢山の海兵達が並んでいるその中心に、紅茶色の髪の美少年が立っていた。
「よう、ミサト。久しぶりだな！」
「あらあ、そう言うアスカも、ちょっと見ない間に随分立派になったじゃないの。『男子三日会わざれば剋目して見よ』ってホントよね」
ミサトの顔が、また通常モードに戻った。
「そりゃどうも。で、どれがサードチルドレンなんだ？日本人の女としか聞いてないんだけど」
そう言って、アスカはユウリ達を見た。
ちなみに、三人共ミサトと同様のＮＥＲＶのロゴ入りジャケットを着ていて、いかにもＮＥＲＶの関係者です、と主張している。
余談ではあるが、マナとマユミは脇のホルスターに銃、腰にはコンバットナイフを忍ばせている。
ユウリの方は、脇と腰に銃。
ナイフは、銃とは逆側の脇に吊るしてあった。
「ユウリちゃん、いらっしゃい。紹介するわ、このコが弐号機専属操縦者、セカンドチルドレンの惣流・アスカ・ラングレー、この年で大学卒業してる天才少年よ」
「よろしく、惣流さん」
そう言って、ニッコリ笑うユウリ。
だが、アスカの表情には変化がなかった。
「で、アスカ。このコが初号機専属操縦者、サードチルドレンの碇ユウリよ」
「ふ〜ん、冴えねぇな…」
ポツリと漏れたアスカの言葉に、ユウリではなくマナがキレかかる。
「あら、そんな事ないわ。ユウリちゃんてば、コレでも凄いのよ」
ミサトがフォローを入れるが、それが気に入らないのか、益々臍を曲げるアスカだった。
「へっ、何がそんなに凄いのか知らないが、俺が来たからにはもう出番は無いぜ。使徒は全部、俺が倒してやるからな！」
そんなアスカの態度に、マナばかりかマユミまでムッとする。
（…何だか子供みたい、ちょっとカワイイかも）
と、一人全く違う感想を抱いていたユウリの頭の中には、孤児院のやんちゃ坊主達の姿が浮かんでいた。
その後、一行は本来の任務を果たすべく、ブリッジへとやって来た。
「フン、ガールスカウトの引率のお姉さんかと思ったが…どうやら違ったようだな！」
「ご理解頂けて幸いです、艦長」
いきなり険悪な雰囲気のミサトと艦長。
そのまま舌戦に突入か、と思われたその時。
ブリッジへと入ってきた一人の軍人が、艦長へ声を掛けた。
「その辺にしておかんかね？艦長」
「て、提督！」
いきなり直立不動になる艦長。
そこへ、ユウリの場違いな声が響いた。
「あぁっ、ヒューストン大将！お久しぶりです」
「おお、君は東郷君のトコロにいたお嬢さんか、元気そうで何よりだね。だが、何故君がここに居るのかね？」
「実は、私もエヴァのパイロットなんですよ」
ユウリと提督は、そのまま世間話に突入していった。
それから、暫くの間世間話は続く。
そして、一向に終わる気配の無い世間話にしびれをきらしたミサトが割って入った。
「あの、提督？エヴァとパイロットを引渡して頂きたいのですが…」
「ん？おお、そうだったな。残念だが、それはできん」
「何故ですか、提督！」
「エヴァとパイロットは、新横須賀に陸揚するまで我々が責任をもって管理する、というのがＮＥＲＶドイツ支部との契約だからだ」
「しかし、これは…」
「いかなる理由があろうとも、それを違える訳にはいかんのだよ。我々も、プロだからな。もっとも、非常事態の折には話も違ってくるだろうがね」
「………了解しました」
提督の言葉に、納得がいかないながらもなんとか矛を収めるミサト。
ＮＥＲＶの権限が如何程のものであろうと、自分が尉官であるのに対して相手は将官、階級が違いすぎる。
先程の艦長にしても、階級は大佐。
現在一尉、つまりは大尉でしかないミサトにとっては遥か上の相手である。
階級の厚い壁に歯噛みするミサトに、入口付近から声がかかった。
「よう、話は終わったかい？葛城」
そこに立っていたのは、髪の毛を後ろで束ね、不精髭をはやした男だった。
「か、加持ぃーー！！なんであんたがここにいるのよ！！」
「アスカの随伴でね、ドイツから出張さ」
いきなり叫ぶミサトに、不精髭の男はニヤリと笑いつつ答える。
「う、迂闊だったわ。充分考えられる事態だったのに…」
ガックリと肩を落とすミサト。
「加持君、君をブリッジに招待した覚えはないぞ」
そんな二人のやり取りを聞いていた提督が、やや不機嫌そうに言った。
「すみませんね、提督。彼女達を、休憩できる場所へ案内しようかとおもいましてね」
「そうか。まあいい、葛城君だったかな？新横須賀到着までまだ時間がある、それまで休憩していたまえ」
キッパリと言いきる提督。
「では、そうさせて頂きます」
これ以上は何を話しても無駄だ、と判断したミサトは、素直にその言葉に従った。
不精髭の男、加持リョウジの案内で士官食堂へと移動した一行は、一つのテーブルを囲んでコーヒーを飲んでいた。
「久しぶりだな、葛城。今付き合ってるヤツ、いるのか？」
「そんなの、アンタにゃ関係無いでしょ！」
「あれ？随分つれないなぁ。ところで君、葛城と同居してるんだって？彼女の寝相の悪さ、直ってる？」
「「「ええぇぇーーーーー！！」」」
ミサトからユウリへと話の矛先をかえた加持の発言に、驚きの声があがる。
「か、か、加持ぃーー！何て事言うのよ、アンタ！！」
「そりゃもう、スゴイですよ。百年の恋もさめるでしょうね、あれじゃ」
ユウリは、加持の胸倉をつかんで文句を言うミサトにかまわず、さらりと答えた。
その言葉に撃沈されるミサト。
「ははは、相変わらずかい？碇ユウリちゃん」
「私の名前、ご存知なんですか？」
「君はこの世界じゃ有名だよ。何の訓練もなしにエヴァを動かした、サードチルドレン。しかも、すでに３体の使徒を殲滅している」
加持のその言葉に、アスカの機嫌がとたんに悪くなる。
「運が良かったんですよ、きっと」
「いや、運も実力のうちさ。どんなに実力のある兵士だろうと、運が無けりゃ生き残れない。戦場ってのは、そういうモンだろ？」
弱気な返答のユウリに、加持がフォローをいれる。
「……それもそうですね」
ユウリが返事をしたその時、勢い良く立ちあがったアスカが休憩所を出ていった。
「おやおや、王子様はご機嫌ナナメか。しょうがない、ちょいと行って来るかな。じゃあな、葛城」
アスカを追って歩いていく加持の背中を見送る一同。
加持の姿が見えなくなると、マナがポツリと感想をもらした。
「なんかヤバそうね、あの人。気さくな人ぶってたけど、絶対に裏の世界の住人ね」
「そう言えば、父から聞いた事があります。裏の世界では『シェイド』とか呼ばれてる、凄腕の工作員ですよ、確か」
「へえ、あの人が噂の『シェイド』か。なるほどねぇ…ねえ、ユウリはどう思った？」
「どうもなにも…ずっと視線が纏わりついてて、居心地悪かったよ」
ユウリに話を振るマナに対し、肩をすくめて答えるユウリ。
「変態ね！」
「変態ですね！」
本人がいないのをいいことに、結構ひどいことを言うマナとマユミであった。
一方アスカは、自分を追ってきた加持と話していた。
「どうだいアスカ、サードチルドレンと会った感想は？」
「どうもこうも、冴えねぇな。何で、あんなのがチルドレンなんだよ」
「そうは言うが、彼女の初戦でのシンクロ率は９０を超えているぞ。しかも、プラグスーツも無しでね」
「何だって！！」
長い間チルドレンとして訓練を受けてきたアスカには、それがいかに凄いのかが解った。
「そして、第４使徒戦ではノイズ源となる民間人二人をプラグに入れた状態で１００を超え、第５使徒戦では瞬間的に２００を超えたそうだ」
アスカは驚愕していた。
長い訓練で、ようやく７０台まで伸ばした自分の記録をたった一回の搭乗で超えたのだ。
しかも、すでに自分とは比較にならない程高いレベルにまでなっているという。
「チクショウ！」
アスカはあまりの悔しさに、走り出していた。
加持が出ていった後、ユウリ達は海兵に誘われてトレーニングルームで組み手をしていた。
自分達の半分にも満たないウェイトの少女達が、その体からは想像も出来ない程の威力とキレを持った技を繰り出す。
その技量に、ウデ自慢の海兵達も惜しみない賞賛を浴びせる。
ちなみにファイトスタイルは、マユミが古流柔術、マナがマーシャルアーツを使う。
そしてユウリは、古流柔術、琉球空手などの流れをくむ、九十九式と呼ばれる東郷直伝の格闘技で戦っていた。
「ハッ！」
短い気合の声とともに、体を捌くマユミ。
その日本舞踊のような華麗な体捌きによって、彼女の対戦相手は空中で一回転した後、マットに叩きつけられた。
さらに、すかさず腕の関節を極め、身動きを封じるマユミ。
完全に極まっている為、どれ程筋力の差があろうとどうしようもない。
対戦相手は、苦悶の表情でマットをタップし、試合が終わる。
沸き起こる歓声。
その隣では、相手のパワーに押されていたマナが一瞬の隙を突いて密着。
相手の水月へ、カウンターの肘を叩き込んでいた。
倍以上のウェイト差の為ＫＯには至らなかったが、それでも相手の動きが目に見えて鈍る。
一気に攻勢に出たマナは、上半身への攻撃で注意を上に向けさせ、その隙を突いて足を刈った。
倒れた相手に馬乗りになって首を極めると、相手はマットをタップする。
またしても沸き起こる歓声。
残るユウリは、大苦戦していた。
それもその筈、ユウリの対戦相手は、この艦隊で最強を誇る男なのだ。
打撃に関しては相手に、組んでの攻防ではユウリに分がある。
一度関節を極められてしまえば、いかな大男といえど、その力を封じられてしまうのだ。
その為、相手はユウリの間合いの外での打撃戦に持ち込んだ。
隙を覗うユウリだったが、相手は巧みな責めで隙を作らない。
ユウリは、狙いを変えた。
ワザとガードをあけ、隙を作って攻撃を誘い込んだのだ。
ユウリの狙い通り、そこへ飛び込むミドルキック。
その蹴りを、ユウリは肘と膝を使って挟み込んだ。
いわゆる、交差法というヤツである。
バランスを崩す相手。
そこへ、凄まじい震脚の音とともに、ユウリの掌打が打ち込まれた。
全身を衝撃が掛け抜けた相手は、ゆっくりと倒れていく。
一瞬の静寂の後、先程までとは比べ物にならない歓声が沸き起こった。
海兵達の握手攻めからようやく解放された頃、険しい顔つきのアスカが現れた。
「サードチルドレン！ちょっとつきあってもらうぜ！」
素直に従ったユウリが連れていかれたのは、輸送艦の弐号機のところだった。
弐号機の上に立ったアスカは、弐号機の自慢を始める。
そこに、凄まじい轟音と揺れが襲ってきた。
「水中衝撃波！…近いな」
そう呟いたアスカは、器用に弐号機から駆け下りると甲板へ飛び出した。
「何だ、ありゃ？」
「使徒だよ、きっと！」
追いついたユウリがアスカに告げる。
「あれが本物の使徒…へっ、チャ〜ンス！！」
後にユウリが語った処によれば、この時のアスカの顔は悪戯を思いついた悪ガキのようだったという。
そして、ユウリはアスカと一緒にエントリープラグの中に居た。
「ねえ、プラグスーツ着なくていいの？」
「そんなモンいらねぇ！お前に出来たことが、この俺に出来ない筈がねぇからな。お前は黙って、俺の華麗な操縦をみてな！」
そう言い放つと、起動シーケンスを始めるアスカ。
だが、突然『ＥＲＲＯＲ』の文字が表示される。
「思考ノイズ！？お前、日本語で考えてるだろう。ちゃんとドイツ語で考えろよ！」
「了解」
今度は無事に起動する弐号機。
この時、エヴァのコアに何が存在するのかを知るユウリは、弐号機のコアにそっと語り掛けていた。
「よし！エヴァ弐号機、発進するぜ！」
こうして、エヴァ弐号機は大海原へ飛び出した。
同時刻、加持は何者かと通信していた。
「こんな所で使徒襲来とは、話が違うんじゃないですか？」
『その為のサードだ。君はソレを持って速やかに脱出したまえ』
「了解しました（スマンな、葛城。死ぬんじゃないぞ）」
加持は、銀色のジュラルミンケースを持つと、素早くその場を後にした。
その時、オーバー・ザ・レインボーのブリッジでは、艦長とミサトが指揮権でもめていた。
そんな二人のやり取りを、一人の通信士がさえぎる。
「『輸送艦オセロー』より入電、エヴァ弐号機が起動しています！」
「なんだと！発進許可なぞ出してはおらんぞ！」
吼える艦長を尻目に、マイクにかじりつくミサト。
「ナイス、アスカ！そのままいっちゃいなさい！」
「ミサトさん、電源ソケットを準備して下さい！」
「へ、ユウリちゃんも居るの？」
「はい、拉致されました」
「てめぇ、人聞きの悪いこと言ってんじゃねぇよ！」
「喧嘩は後よ、出撃して、アスカ！」
「よし！エヴァ弐号機、発進するぜ！」
「やめんか！」
あくまでも譲らない気の艦長に、提督が声を掛けた。
「その辺にしておきたまえ艦長、今は非常時だぞ。…葛城君だったね、相手は確かに使徒のようだ。使徒との戦闘中に限り、君達ＮＥＲＶに当艦隊の指揮権を譲渡する」
「ご協力感謝します、提督」
敬礼するミサトに対し、提督はニヤリと笑って見せた。
その間にも、弐号機は周囲の艦を踏み台にして空母へと接近していく。
その際、アスカの邪魔をせずにシンクロすることに成功したユウリが、足元にフィールドを展開して艦の損傷を防いでいた。
もちろん、アスカには知られないようにだが。
弐号機が空母に向かっているその時、空母の甲板から一機のＶＴＯＬ機が飛び立った。
「お〜い、葛城。俺、他に用事があるから先に行くわ」
「加持！アイツ、逃げたわね！！！」
激怒するミサトの耳に、アスカの声が飛び込んできた。
「エヴァ弐号機、着艦するぜ！」
その声に、衝撃に備える一同だったが、一向に衝撃が来ない。
不審に思ったミサトが着艦した弐号機の方を見ると、足元に赤い光が存在している。
（アスカ…じゃないわよね、ユウリちゃんがやってるの？まさかフィールドを床代わりにして立ってるなんて…しかも他人が操縦してる機体で…）
悩むミサトを他所に、アスカは電源ソケットを弐号機にセットする。
「よし、来い！」
気合を入れてプログナイフを構える弐号機に向かって、既に何隻もの艦を沈めている使徒が飛び込む。
激突する、使徒と弐号機。
「後ろへいなして！」
ユウリの指示に反射的に従うアスカ。
「うるさい、俺に指図するな！」
アスカは、離れていく使徒の方を見ながらユウリに怒鳴りつけた。
「コアは口の中だったよ。今度飛んできたら、プログナイフで思いきり切りつけて。それで倒せる筈だよ」
「指図するなって言っただろ！まあいい、丁度俺もそう考えてたトコだ。来やがれ使徒、次で決めるぜ！！」
吼えるアスカがナイフを上段に構えると、使徒が再び接近してきた。
「食らえーーーーー！！！」
（よし、今だ！）
ユウリは、ナイフが振り下ろされるのに合わせて、足元に展開中のＡＴフィールドを全てナイフに集中させる。
真っ二つに裂かれた使徒は、そのまま弐号機の後方へ飛んでいき、海の藻屑となった。
「よっしゃ、やったぜ！見たか、俺様の実力！！」
「うん、スゴイね。私じゃ、あんなにキレイには動かせないよ」
思わずガッツポーズをするアスカの操縦技術に、ユウリは素直に感心した。
そして、はしゃぐアスカの姿に、やっぱりカワイイ、などと考えていた。
その後、空母から脱出した加持は、ＮＥＲＶ本部の司令室にいた。
「いやはや、波乱に満ちた船旅でしたよ」
そう言いつつジュラルミンケースを開ける加持。
その中には、透明なモノで固められた胎児のような何かがいた。
「特殊ベークライトで固めてありますが、生きています。…使徒の第７艦隊襲撃、やはりコイツのせいですかね？」
「アダムより生まれしモノは、アダムに還る。そういうコトだ、加持君」
ゲンドウが、いつものポーズを崩さぬまま、加持に答えた。
翌月曜日、ユウリ達はアスカの話題で盛り上がっていた。
「それにしても、ホントにヤな奴だったわね〜アイツ。マユミもそう思うでしょ？」
「そうですよねぇ、マナさん。あれじゃ、今後の作戦行動にも支障があるんじゃないでしょうか」
「まあまあ、二人とも。いいじゃない、もう済んだコトでしょ？」
ユウリが二人を宥めようとするが、それでもおさまらない。
「何言ってるの、ユウリ。アイツにあの調子で勝手なコトされたら、困るのはユウリとレイでしょ？同じパイロットなんだから」
「その通りですよ、ユウリさん。共同作戦が出来ないなんて、プロ失格ですよ」
なおも続く二人の愚痴。
二人とも、生え抜きの軍人である父親から様々な訓練・教育を受けている為か、パイロットとしてのアスカへの評価が異様に辛辣である。
「セカンドチルドレン…異例のスピードでスキップし、大学を卒業。各種訓練においても、優秀な成績を収めていると聞いているわ。何がいけないの？」
レイの呟きに、ガックリと肩を落とすマナとマユミ。
そこへ、担任教師が入ってきた為、ヒカリが号令をかけた。
「え〜、今日は転校生を紹介します」
その声に呼ばれて入ってきたのは、紅茶色の髪の美少年だった。
「惣流・アスカ・ラングレーです、よろしく！」
「「ああーーー！！」
マナとマユミの声が、教室内に響いた。
＜後書き＞
前回の後書きに書いた通り、ＪＡの話はとばします。
ミサトの見せ場が減ってしまいましたね。
ミサトには、いずれ別の見せ場を…用意できるかなぁ…。
という訳で？アスカが来日しました。
本作でのアスカは男ですが、やはり男であの性格はちょっとイヤですね。
ガギエルの倒し方は、あっさりめにしてみましたがどうですか？
ちなみにユウリ達がナイフや銃を腰につけている、と書いてますが、横ではなくて後ろにつけているという事で。
また、メーカー等については特に決めません。
コルトでも、Ｓ＆Ｗでも、ワルサーでも、好きなヤツをイメージして下さい。
ところで、ゼーレの老人達のセリフなんですが、語尾が「だ」とか「ぬ」とかで偉そうなのがキール。
他は、名も無き人々です。
あと、初号機の加粒子砲発射についてですが、ＡＴフィールドでラミエルの体と同様の空間を形成して発射しています。
視覚的には、初号機の目の前の空間から発射されている、といった感じでしょうか。
さて、次回は分裂君です。
それでは、次回も広い心でお読み下さい。
ユウリが精神的にちょっと大人でよかったですね。
「協調できない、わがまま、自意過剰・・・」な特徴も、ユウリにかかれば
「やんちゃな子供」。（笑）
それにしても、アスカが男の子っていうのは驚きました。
歪み方は本編同様のようですけど、さてさて、どうなることやら？
ユウリ、マナ、マユミ、の３人、誰もが軍事系スペシャリストなせいか、
アスカの問題点をグサグサと指摘してる感じからして、今後はちょっと
波乱含みかも。（＾＾；）
さて、読まれた人は Ｔ．Ｈ さんに感想と一緒に気力を送って、執筆活動を
がんばってもらいましょー♪