暁の守護天使

　

　

第０９話「戦士のプライド」

　

　

「碇、使徒は何故ＵＮの艦隊を襲ったのだ？貴様、何を隠している」

「報告書の通りですよ。使徒は第三新東京市へ向かう途中、エヴァの存在に引き寄せられたのです。あれもまた、アダムより生まれしモノですから」

「非常用電源ソケットを持参していたそうだね？随分用意のいいことだ。しかも、そこに都合良くサードが居た…出来すぎではないかね？」

「電源ソケットを持参したのは、洋上で起動試験を行っても良いかと判断したからです。サードを同行したのは、セカンドと対面させる為ですよ」

「本部を留守にしてかね？」

「留守ではありませんよ、ファーストが待機しておりました」

「乗る機体の無いパイロットなど、居ても居なくても同じではないかね？第一、パイロットの対面など本部に着いてからで充分なのではないかと思うのだが、間違っているかね？」

「確かに、軽率だったかもしれませんな。しかし、今回はそれがプラスに働いたのですから、問題無いではありませんか」

「そうもいかんよ？君も常々言っておるではないか。ほんの些細な事が、最悪の結果に繋がる事とて無いとは言えん。それを、『軽率だった』の一言で済ませてもらっては困るのだよ」

「さよう。それに、エヴァだけ無事なら良い、という訳でもない。ＵＮ第７艦隊が被った損害、バカにならんよ？」

「あれは、不測の事態というヤツですよ。使徒があの場に現れるなど、全く考えておりませんでしたから。もし事前に知っていれば、違った対応が出来たでしょう」

「本当にそうかね？」

「…何を仰りたいのでしょうか？」

「いいだろう、この件にはもう言及しない。碇、ＮＥＲＶの使命は使徒の殲滅だけではないのだぞ。それを忘れるな」

「全てはゼーレのシナリオのままに」

　

　

アスカが転入してきて以来、一中名物美少女５人組の昼食会は８人の大所帯となっていた。

もちろん、トウジ、ケンスケにアスカが加わった為である。

アスカはユウリ、トウジはヒカリのお手製弁当を食べている。

ちなみにケンスケは、最近パンからコンビニ弁当に乗り換えたようだ。

やはり、他の人間が全て弁当を食べる中、ただ一人パンというのは精神衛生上よろしくないらしい。

我が強く人付き合いの下手なアスカは、当初クラスの中では浮いた存在だった。

しかし、昼食会が縁でトウジ、ケンスケとは仲良くしていた。

同じく我が強いトウジとは反発することもあるが、精神的には一番大人なケンスケが、間に入ってうまくまとめているようだ。

その為、アスカはパイロットに選ばれて以来、初めて年齢相応に振舞えるようになりつつあった。

その変化により、アスカは徐々にではあるが、クラスに馴染んでいく。

その事に一番喜んでいるのは、上司であるミサトだったかもしれない。

ただ、プライドの高さは相変わらずだったので、マナとマユミはアスカへの評価を改めていなかったが。

そして、クラスに馴染み始めるのとは対照的に、ＮＥＲＶにおいてのアスカは孤高を貫いていた。

育った環境故であろうか。

アスカはエヴァに乗る事に、そして常にトップであり続ける事にしか己の存在意義を見出せなかった。

そんな不器用な生き方をしてきたアスカにとって、自分がトップではないという今の状況は、自分自身を見失いかねない事態だったのだ。

しかし、ただトップではないというだけで、アスカ自身が思う程に彼の評価は低くなかった。

初の洋上戦闘で披露した華麗な操縦は、技術部でも作戦部でもむしろ高評価だったのだ。

だが、ドイツ支部において自分に与えられていた、『エース』という称号。

それが他人の物だという事実が、アスカの目を曇らせていた。

そんなアスカに止めをさしたのが、ユウリのみが参加して行われたＡＴフィールドの応用実験である。

アスカの目の前で、様々に変化していくＡＴフィールド。

それは、自分の使う防御フィールドとは明らかに違って見えた。

その光景が、アスカの心を打ちのめす。

ミサトにしてみれば今後の参考の為に見学させたのだが、それが仇になってしまったようだ。

そんなミサトの苦悩をよそに、第７の使徒が現れた。

　

　

「第三新東京市の迎撃システムは、現在実戦における稼働率が３割を切っています。その為、今回は上陸間際を狙って迎撃します。いいわね、二人とも」

「了解です」

「解ってらぁ、そんなこと」

ミサトの指示に、二者二様な返答をするユウリとアスカ。

零号機は現在修復・改装中の為、初号機と弐号機のみの出撃である。

「あ〜あ…せっかくの日本デビュー戦だってのに、何で一人でやらせてくれねぇんだよ…」

「何言ってるの、アスカ。勝つ為には手段を選んでられないのよ、人類は」

アスカの発言を叱るミサト。

「チッ、２対１なんて趣味じゃねぇのに…。まあいい、俺がフォワード、お前がバックアップだ。いくぜ！」

叫ぶが早いか、ソニックグレイブを構えて弐号機を走らせるアスカ。

ユウリも素早く反応し、パレットライフルを構える。

「気を付けて！あいつ、コアが二つあるよ！」

ユウリが忠告するが、構わず走って行くアスカ。

「食らえぇぇぇーーーー！！！」

ライフルの援護によって動きを止めた使徒に対し、弐号機は高々とジャンプして勢い良くグレイブを振り下ろす。

一撃で両断される使徒。

「ナイスよ、アスカ！」

ミサトのコメントに、鼻高々のアスカ。

「どうだ！戦いは、常に無駄なく美しく、だ！」

ユウリは、アスカの方を見ずにじっと使徒を見ている。

ユウリのモノか、あるいは初号機のモノか。

冴え渡る勘が、まだ終わりではないと告げている。

それ故に、一番早く異変に気付いたのはユウリだった。

「離れて！まだ生きてるよ！！」

ライフルを撃ちながら、ユウリが叫んだ。

その声に振り返ったアスカの目に飛び込んだのは、両断された身体がそれぞれに再生し、２体になった使徒の姿だった。

「ぬわ〜んてインチキ！」

ミサトの絶叫が、発令所に響く。

「下がって！体制を立て直さないと…」

「フザケんな！ンなコトできっか！！」

ユウリの提案に反し、グレイブを使った接近戦を継続するアスカ。

やむなく初号機を前に出したユウリは、弐号機が２対１にならないように援護を開始した。

「クッ、何なんだよコイツら！切っても切っても…」

いくら攻撃してもすぐに回復してしまう使徒に、アスカの焦りは募っていく。

（マズイな…彼、焦りで自分を見失ってる。この間の戦闘を見た限りじゃ、もう少し的確に状況判断出来るタイプだと思ったんだけど…）

さすがのユウリも、まさか自分の存在がアスカの焦りを誘発しているなどとは思っていないようだ。

そのユウリの目の前で、弐号機は不用意な一撃で出来た隙を突かれ、戦闘不能に陥ってしまう。

弐号機が戦線離脱した為、ユウリは接近戦に切り替えながらリツコにアドバイスを求めた。

「リツコさん、何か解りました？コアが二つあったんで、おかしいとは思ってたんですけど。分裂した上にこの回復力、どう考えても異常ですよ」

「ええ、どうやらこの２体の使徒は、お互いに補完しあっているようね」

「補完しあってる？どういう事ですか？」

「つまり、一方がダメージを受けても、もう一方の同じ部位が無事なら瞬時に再生してしまう、という事よ」

「なる程。ハナから防御は捨てて、異常な回復力で身を守ってる訳か。…どうします？できれば、一度下がって作戦を練りなおしたいトコロなんですけど」

冷静なリツコに対して、こちらも冷静に状況を判断するユウリ。

ユウリは今、一方をＡＴフィールドで食い止め、もう一方をやはりＡＴフィールドで攻撃している。

「ユウリ、とりあえず使徒を押し返して！ＵＮにＮ２爆雷で爆撃させるわ！！」

「了解です！」

ミサトの指示に返答したユウリは、強力なＡＴフィールドを張って使徒を押し返していった。

さらに、倒れた弐号機に駆け寄って後ろに庇い、使徒に向けて加粒子砲を放つ。

放たれた光の束は、何故か第５使徒戦の時程の威力は無いようだが、使徒には命中する。

その一撃によって一瞬動きを止めた使徒に対し、ＵＮが爆撃を敢行。

Ｎ２爆雷の攻撃にさらされた使徒は自己修復を開始し、侵攻を停止した。

こうして、対使徒戦における、ＮＥＲＶ初の敗北が決定した。

　

　

ブリーフィングルームに、先刻の戦闘の模様が映し出されていた。

「無様ね…」

弐号機が倒された場面で、リツコがポツリと漏らした。

その言葉にムッとするアスカだったが、事実であった為に何も言えなかった。

そのアスカの目に、２体の使徒に対してＡＴフィールドを駆使して戦う初号機の姿が映る。

さらに、加粒子砲を撃った場面でアスカの目が驚愕に開かれる。

そして、使徒がＮ２爆雷で焼かれる場面で映像は終了した。

「Ｎ２爆雷により、構成物質の２８％を焼却することに成功しました」

静寂に満たされた室内に、マヤのナレーションが流れる。

「あれ、死んでるのか？」

「足止めにすぎん、再侵攻は時間の問題だよ」

アスカの問いに答えたのは、冬月の苦々しい声だった。

その声に、室内の空気が重さを増す。

「ま、再戦の機会があるだけマシってもんでしょ？」

加持のおどけたセリフも、その場の空気を変えるには至らなかった。

「パイロット両名」

「「はい」」

「君達の仕事はなんだ？」

「エヴァの操縦？」

「……」

冬月の問いに、恐る恐る返答するアスカと、無言のユウリ。

「違う、使徒に勝つ事だ。決してこの様な醜態をさらす事ではない！特にセカンド！君はこの戦いを…」

「何で俺だけ！！」

冬月の言葉を遮ってアスカが叫ぶ。

「！！……もういい」

冬月は、怒りに震える声でそう呟くと、アスカを一睨みして出て行った。

「……私の仕事は、あくまでも操縦する事。勝つのは、私の仕事じゃない」

「…どういう意味だい？」

ユウリの小さな呟きに、加持が尋ねた。

「ただの独り言ですから、気にしないで下さい」

「そうかい？ま、君の言いたい事は解るよ。エヴァは、言わばチェスの駒。その駒を動かし、勝利に導くのはプレーヤー。この場合は、ＮＥＲＶの首脳陣な訳だ」

肩をすくめて言う、加持。

加持の言葉に、その場に居たスタッフは言葉を失う。

しかし、いち早く我に返ったリツコが、ユウリと加持を見比べながら言った。

「…確かに、有効な策を提示できなかった私達の落ち度は認めるわ。でも、上官批判は良くないわよ？正規の軍隊なら、懲罰モノだわ」

「…私は別に、そんなつもりで言った訳ではありません」

「でも、加持君が言ったような意味にとられても仕方が無い発言だったわよ」

「そうですね、すみませんでした。以後、気を付けます」

リツコの言葉に、割と素直に頭を下げるユウリ。

「そうしてくれると、助かるわ。沢山の人間があなた達をバックアップしている、その事実を忘れないでね」

「勿論です。私に出来る事は、エヴァの操縦だけですから」

「ま、ユウリちゃんもリッちゃんも、その辺でいいだろ？俺達は生きてる、今はそれで充分な筈だ」

「…そうですね、今回は運が良かった」

自分で煽っておいて自分で収めようとする加持の言葉に、ユウリが答える。

「ド・コ・が！運が良かったんだよ！負けたんだぞ、せっかくの日本デビュー戦だってのによぉ！どーしてくれんだよ！！！」

それを聞き、怒髪天を衝くかの如く怒るアスカの言葉に、ユウリが冷静に切り返す。

「私達がやってるのは、殺し合いなんだよ？負けたら、死んじゃうの。なのに、今回は再戦のチャンスがあるの」

「正確には今回も、ね。第５使徒戦の時は何かする前だったから、公式には今回が初の敗北だけど」

「そういえばそうですね。冷静に考えれば、あの時よりもマシな状況ですよね。今回は、時間もたっぷりあるし」

リツコの冷静な指摘に、素直に納得するユウリ。

「そうよ、ユウリ。あの時は、アナタの心臓は止まるわ、時間は半日も無いわでホントに大変だったんだから」

いかにも苦労しました、といった感じのリツコ。

確かに、あの時一番苦労したのは技術部だろうが。

リツコの言葉、その中の心臓が止まった、という一言にアスカの肩がピクリと震える。

「使徒の再侵攻までは、ＭＡＧＩの計算によれば６日程あるわ。作戦案が決定するまで自宅待機、いいわね」

「了解です、リツコさん。ところで、ミサトさんはどうしたんですか？」

「ああ、葛城なら今頃自分の執務室で書類と格闘中さ。責任者は、責任をとる為にいるんだからな」

ユウリの質問に答えたのは、加持だった。

「ありがとうございます、加持さん。それじゃ、私帰ります」

そう挨拶して退出していくユウリに対し、アスカは無言で、肩を落として出て行った。

　

　

その日の夕方、買い物を終えたユウリが葛城邸のドアを開けると、ダンボールの山が築かれていた。

「何やってんだ、お前。ここには今日から俺が住むんだ、お前はお払い箱だぜ！」

ダンボールの山を前に戸惑うユウリに声をかけたのは、アスカだった。

「そう…（出て行くかどうかはともかく、彼がここに住むのは間違いないようね）」

最終的な判断を保留したユウリは、とりあえず夕飯の支度を始めた。

「たっだいま〜！」

能天気な声が響き、ミサトが帰宅。

「お帰りなさい、ミサトさん。とりあえず、説明して頂けますか？」

ミサトを出迎えたユウリは、開口一番そう切り出した。

「ＯＫ、ＯＫ、ちゃんと説明するわ」

リビングに集まったユウリとアスカに、ミサトの説明が始まった。

「えぇーーーー、同居ぉーーー！！」

アスカが叫ぶ。

「そ、同居。あなた達には再出撃までの間、本作戦に必要なユニゾンを完成させる為にここで共同生活をしてもらいます」

「何でコイツと！」

アスカがなおも噛み付く。

「出撃できるエヴァが２機しか無い以上、そのパイロットであるあなた達にやってもらうしかないでしょ？」

「で、でも！」

「アスカ…悪いけど、命令拒否は認めないわよ。大体、女の子のユウリが何も言わないのに、男のあなたがどうしてそこまで嫌がるの？」

「クッ、お前は何か言う事無いのかよ！」

形成不利とみたのか、ユウリに話を振るアスカ。

アスカとしては、己の立場を脅かす存在のユウリとの同居は、納得しかねるモノだったのだ。

「私には、反対する理由は何も無いけど？作戦の内容を考えれば、当然の処置だよ」

ユウリの言葉に、絶句するアスカ。

「決まりね。じゃあ二人とも、明日から特訓よ」

ミサトの笑顔で、話が締めくくられた。

その後、部屋割りで若干モメたが、荷物の少ないユウリが物置となっていた部屋を使うことで落ち着いた。

　

　

敗戦より３日、登校してこないユウリ達を心配したヒカリは、マナとマユミを連れて葛城邸へと向かった。

途中トウジとケンスケを加えて５人となった一行は、葛城邸の呼び鈴を押す。

ドアが開くと、レオタードの上に音符マークのＴシャツを着たユウリとアスカが出てきた。

「「い、いまどきペアルック！？イヤ〜ンなカンジ！！」」

見事なユニゾンのトウジとケンスケ。

「ふ、不潔よ、二人とも！」

叫びながら、妄想を爆発させるヒカリ。

「「ご、誤解だよ、ヒカリ（委員長）！」」

これまたユニゾンで弁解する、ユウリとアスカ。

「５階も６階もないわ！！」

妄想モード全開のヒカリには、二人の言葉も届かないようだ。

「あらあ、みんなどうしたの？」

「「「「「ミ、ミサトさん！」」」」」

そこには、レイを連れたミサトがいた。

　

　

葛城邸に通された一同は、ミサトから事の次第を説明されていた。

「なんだ、そういうコトだったんですか」

先程一番騒いでいたヒカリが、ホッと胸を撫で下ろした。

「もう、ヒカリってば妄想ひどすぎ！」

「あ、ヒドイわマナ！ちょっと勘違いしただけじゃない」

マナのツッコミに、赤面しつつヒカリが反論。

「ところでミサトさん、そのユニゾンとやらはうまくいっているのでしょうか？」

なおも騒ぐマナとヒカリをよそに、マユミが尋ねる。

「う〜ん、それがねえ…。ま、見てもらえば解るでしょ。ユウリ、アスカ、もう一回やって頂戴」

そう言いながらミサトが音楽を流すと、ユウリとアスカは踊り始めた。

始めのうちはなんとか揃っていた二人だったが、後半になると徐々にズレが見え始める。

終わる頃には、もうメチャクチャである。

「…と、まあこの通りなのよ」

ミサトが苦い顔で呟く。

「おい、お前マジメにやれよ！いつまでたっても、全然ダメじゃねえかよ！」

うまく行かない訓練に、アスカがキレる。

そんなアスカを、ユウリは悲しそうな顔で見詰めた。

「何も解ってないんだね……この訓練の意味……。ミサトさん、少し頭を冷やしてきていいですか？」

「え…ああ、いいけど、その前にレイとやってみてくれる？」

「了解です。レイ、踊り覚えてる？」

「ええ、問題ないわ」

曲とともに、踊り始める二人。

それは、完璧なユニゾンだった。

その一挙手一投足はもとより、かすかな呼吸のタイミングまで完璧に同調している。

見物人達も、その素晴らしさに声も出ない。

そして曲が終了したとたん、割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

「レイとならうまく行くと思ってたけど、これは予想以上ね」

ミサトのコメントに、アスカが噛み付いた。

「ファーストとならうまく行くと思ってたって、どう言う意味だよ！」

「どうって、そのままの意味よ」

ミもフタもないミサトの言葉に、怒りの矛先をユウリに変えてアスカが怒鳴る。

「お前、俺とやってる時は手ぇ抜いてるんじゃねぇだろな！ふざけんなよ、このバカ！！」

アスカの怒声を背に、無言で出て行くユウリ。

そのユウリの背中を、レイは心配そうに見送った。

「バカはアンタよ」

突然浴びせ掛けられた冷たい声に振り向くと、そこには珍しく怒りを顕わにしたマナがいた。

「どういう意味だよ！何で俺がバカなんだよ！」

「アンタが、この訓練の意味をカケラも理解してないからよ」

「何だと！」

マナに向かって吼えるアスカに、今度はマユミが冷たく言い放つ。

「この訓練は、踊りを完璧に踊る為の訓練では無いんですよ？互いの動きを感じ合い、そして互いに動きを合わせる。そこに、本当のユニゾンが生まれるんです」

マユミの言葉に黙るアスカ。

「なのにアンタは、自分勝手に突っ走るだけで協調性のカケラも無いわ。意味が解ってない、てのはそういうコトよ」

「他者との協調がとれない…共同作戦が行えない…単独で仕事をこなす工作員ならともかく、軍人としては致命的な欠点ですよ？」

「俺は別に軍人じゃねぇ！」

マナとマユミの容赦無い口撃に、アスカが吼える。

「何いってんのよ。ＮＥＲＶは使徒と戦う為の軍事組織、そしてアンタは決戦兵器のパイロット、立派な軍人じゃないの。階級だって、持ってるんでしょ？」

吼えるアスカに、マナは全くとりあわない。

そんなマナの態度に歯噛みするアスカに、マユミが止めをさした。

「ＮＥＲＶにとっては、あなたのちっぽけで薄っぺらなプライドなんてどうでもいいんです。使えない部品は切り捨てる、組織とはそういうモノなんですよ」

キッパリと言いきるマユミ。

「俺が、俺が使えない部品だってのかよ…」

そう言ったアスカの声には、もはやいつもの勢いは無かった。

「ようはアンタ、プライドの持ち方間違ってるのよ。アンタのはただの見栄、自分を良く見せたいと思ってるだけなの。そんなモノ、中身が伴わなきゃ何の意味も無いのよ」

さすがに言い過ぎたと思ったのか、マナがフォローを入れる。

「やるべきコトはやる、それが最低条件です。そして、その上で自分にとって決して譲れないモノ、それがホントのプライドなんじゃないですか？ねえ、『シェイド』さん」

突然振り向くマユミ。

マユミの視線の先を一斉に見る一同。

そこには、いつの間に現れたのか、加持リョウジが立っていた。

「か、加持！アンタいつの間に…いや、それより何しに来たのよ！」

「あれ、つれないなぁ、葛城。発案者として、特訓の様子を見に来たんじゃないか」

いつもの笑みを崩さずに答える加持に、アスカが尋ねた。

「加持さん…」

「ん？何だ、アスカ」

「加持さんにとって譲れないモノって……何？」

「ソイツは言えないね。そんなの、軽々しく人に話すモンじゃないからな」

「そう、か…」

「これだけは言っておくぞ、アスカ。まずは使徒に勝つ事、全てはそれからだ」

アスカは、無言で頷いた。

それ以後、アスカは変った。

積極的にユウリとの協調を図り、変化に戸惑うユウリを引っ張っていったのだ。

そうして、訓練の日々は終わった。

　

　

いよいよ決戦の当日。

エヴァに搭乗して命令を待っていた二人の耳に、ミサトの命令が飛び込む。

「作戦スタート！！」

「よし、一気にケリつけるぜ！！」

「了解！」

ミサトの声と同時に飛び出したエヴァ両機は、完璧なユニゾンを見せる。

まるで鏡で映したように、完璧に同調した動き。

「気持ちイイ…これが、ユニゾンなんだな…」

呟くアスカ。

そして、作戦開始から６２秒が過ぎた頃。

華麗な空中からの蹴りが、２体の使徒のコアに決まった。

爆発して消える、使徒。

歓声に包まれる発令所に、ユウリとアスカの会話が聞こえてきた。

「勝ったな！」

「うん、今回も何とかなったね」

「今日から俺を、ファースト・ネームで呼べ」

「へ？」

「今日から俺を、アスカと呼べと言ってる！」

「了解、アスカ君」

「君はナシだ」

「了解、アスカ」

一見微笑ましい会話の裏で、アスカの心に刺さった小さなトゲは、本人も気付かぬ所で傷を広げていた。

　

　

作戦終了後、ミサトとリツコは冬月の執務室に呼び出された。

「どうにかセカンドも使える様になったな、葛城君」

「はい、以後は共同作戦も問題無く行えるモノと思われます」

「それならいい。ところで、先程出張中の碇から連絡があってな。アメリカで建造中だった参号機が、こちらへ配備されるそうだ」

「参号機、ですか？しかし、アメリカにチルドレンはいないハズですが…」

ミサトが首をかしげる。

「パイロットは、現在選考中だ。近日中に回答が来るので、君達は受入準備を進めてくれたまえ」

「「了解しました」」

揃って返答し、退出する二人。

「弐号機が着いたばかりでもう参号機、か。随分性急じゃない、リツコ」

「第５使徒戦に続いて今回の敗戦、それだけ上も焦ってるってコトじゃないの？」

「まあいいか。万能型のユウリ、後方支援型のレイ、どちらかといえば接近戦型のアスカ。今度のパイロットは、どうなのかしら。それによっては、基本のフォーメーションなんかも考え直さなきゃ。メンドくさいわね、全く」

「何言ってるの、偶には作戦部長らしいコトしなさい。私の方も、人員の割り振りとかで頭が痛いわよ、全く」

二人の愚痴が、人気の無い廊下にこだましていた。

　

　

　

　

　

　

＜後書き＞

アスカの試練その一、終了です。

ユウリが上官批判めいた発言…。

ゲンドウがいたら、営倉入りだったかもしれませんね。

あの「使徒に勝つ事だ」というセリフ、チルドレンに全ての責任を押し付けているような気がしたので、ユウリにあんな事を言わせてみました。

しかし、通して読むと、ユウリが増長しているような印象も受けます。

ちょっと失敗しましたかね？

あと、試練という事で、今回アスカが随分へこまされてます…。

マナとマユミも、随分厳しいコトをアスカに言ってます。

作中ではあんなこと書いてますが、本当のプライドって何でしょうね？

それにしても、肝心のユニゾン戦闘のシーンが短い…。

思いきり省略してしまいました。

さて、次回では原作より早く参号機が登場しますが、パイロットは？

それでは、次回も広い心でお読み下さい。

感謝の言葉

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