暁の守護天使

　

　

第１０話「男の決断」

　

　

「碇、弐号機を配備したにも関わらず、とんだ醜態であったな。どういう事だ？」

「全くだよ、とんだ醜態を晒してくれたものだね？」

「ＮＥＲＶの存在意義が、根底から覆されるところだよ。君は、一体何をやっているのかね？」

「この責任、どう取るつもりかね？世間に対するＮＥＲＶの優位性、失われてしまっては取り返しがつかんよ？」

「そうなってしまっては、計画の遂行に支障が出る事は必至だよ？」

「その席がいらないのなら、何時でも言い給え。すぐに望みを叶えてあげよう」

「……使徒の能力は、実に多岐に渡っています。数による力押しだけでは、勝てないという事です。事実、同じ戦力で再戦には勝利しています。問題などありませんよ」

「数だけではない、か。その割には、参号機の本部配備を強硬に主張していたね？予定より、随分と早いのではないかね？」

「何事も備えが必要、という事ですよ。常に全機を稼動出来る訳ではないでしょうから、予備は幾らあってもいいぐらいです」

「そのような事、簡単に言ってもらっては困るね。くどいようだが、エヴァを建造するのにどれ程の予算と時間が必要か、君が知らぬ筈はあるまい？」

「全くだよ。つい先日修理が完了した零号機にしても、国が一つ傾く程度では済んでおらんのだよ？」

「さよう。この調子で毎回壊されては、使徒ではなくＮＥＲＶによって人類が滅んでしまうよ」

「そんな事になってしまったら、君はどう責任を取るつもりかね？」

「君にはもう少し、気を付けて欲しいものだね」

「国連議会の中でも、随分と問題になっているのだよ？莫大な予算を、ＮＥＲＶが独占しているのだからね」

「常任理事国の中にも、ＮＥＲＶの存在を疑問視し始める動きがあるのだよ？知っていたかね？」

「自国の領土内に度々Ｎ２爆雷をばら撒かれる日本にしてみれば、たまったものではなかろうね？先日の停電の件も、議会で声高に訴えていたよ」

「他の国にしても、次は我が身と思えば同情したくもなろう」

「このまま事が大きくなれば、厄介な事になるよ？」

「われらとて、いつまでも世論を黙らせておける訳ではない。それを理解しているかね？」

「勿論、充分承知しておりますよ。ですが、全ての使徒を倒す為には、戦力の増強は急務であるとも思っております」

「まだそのような事を言っておるのかね？これでは、他の部分で帳尻を合わせねばならなくなるよ？」

「…ＮＥＲＶは、ギリギリの予算で運営されているのですよ？帳尻を合わせるにしても、削れるところなどどこにもありませんよ」

「…まあよい、戦力増強に関しては、われらの方で一考しよう。碇、これ以上醜態を晒す事は、許されんぞ」

「全てはゼーレのシナリオのままに」

　

　

技術部技術三課課長、鈴原ハルアキは、人を待っていた。

タバコの吸殻が携帯灰皿に一杯になった頃、その人物が視界に現れる。

「おう、ハルアキやないか。久し振りやのう、生きとったか？」

「父さんも、元気そうでなによりやないですか。ほな、行きましょか。赤木博士も待ってはりますし」

「さよか、ほな案内頼むわ。」

二人は、リツコの研究室へやって来た。

「お元気そうで何よりです、鈴原トウキチ博士」

「赤木博士も、お元気そうで何よりですな。で、これが参号機の仕様書ですわ」

「ありがとうございます。それで、鈴原博士はいつまでこちらに？」

「とりあえず、参号機が実戦投入できるようになるまでですわ。弐号機と違て、まだ一回もパイロット乗せてまへんよってな」

「そうですか。ところで、四号機の進行状況はどうでしょう？」

「ネバダの方は、まだまだですな。上が基地施設の完成を優先させよったんで、着工が遅れてしもたんですわ」

「そうですか。では、今日のところはゆっくりお休み下さい」

「そうさしてもらいますわ。久し振りに、孫の顔も見んとあきまへんしな」

トウキチとハルアキは、連れ立って出ていった。

　

　

その頃、ユウリはナツミのお見舞を終えて帰宅するところだった。

ナースステーションに挨拶しようとしたその時、ハルアキが見なれぬ老人を連れて通りすぎる。

振り返ると、ハルアキは自分に気付かずに歩いていく。

声をかけようと追いかけると、二人の会話が耳に入った。

「ほなら、やっぱり参号機はトウジに？」

「せや、それしかないやろな。アキエさんは喜ばんやろが、アキエさんがあないなった時に全ては決まっとったんや」

話の内容に驚いたユウリは、それを確かめるべく二人に声をかけた。

「鈴原課長！」

「「！！」」

いきなりのことに驚く二人だったが、いち早く復活したハルアキが返事をした。

「お、おお、ユウリちゃんか。まさか、今の話……」

「はい、立ち聞きするつもりは無かったんですけど…。あの、トウジがパイロットって、ホントですか？」

「その予定や。決定になるかどうかは、本人次第やけどな」

「父さん！！」

「知られてもたもんはしゃあないやろ、ハルアキ。ところで、お嬢ちゃんはサードチルドレンやな？」

「はい、碇ユウリといいます」

「さよか、ワシは鈴原トウキチ。この男のオヤジや」

「え、じゃあ、トウジとナツミちゃんのお祖父さん？」

「まあ、そういうこっちゃ。せや、お嬢ちゃん、ワシらとお茶でも飲まへんか？」

トウキチの提案で病院内の喫茶店に移動した一行は、参号機の話をしていた。

「……で、最後に一つ聞きたいんですけど」

「何や、お嬢ちゃん」

「トウジがパイロットってコトは、やっぱり参号機にはトウジのお母さんが…？」

「！！…なんやお嬢ちゃん、知っとったんかいな」

「はい、シンクロする時に感じるんです、母さんを…。誰にも言ってないんですけど……」

「まあ、言わん方がええやろな、お嬢ちゃん。赤木博士は、イマイチ信用でけんしのう…」

「ユウリちゃん、トウジには今夜にでも、父としてワシから言うつもりや。その結果、トウジがどんな答えを出しても、今まで通りに接してやってくれるやろか？」

「それはもちろんです」

「おおきに、ユウリちゃん。ほな、ワシらはこれからナツミの見舞に行ってくるわ」

「それじゃ、さようなら」

二人と別れたユウリは、トウジは一体どうするんだろう、と考えながら帰宅した。

　

　

その日の夜、鈴原邸の前に、黒塗りのリムジンが止まった。

その中から、二人の男と金髪の女性が出てくる。

二人の男は、鈴原トウキチ・ハルアキ親子。

金髪の女性は、勿論リツコである。

「トウジ、帰ったで〜！」

そう言いつつ、自宅へと入って行くハルアキ。

実に、３週間ぶりの帰宅である。

その時、トウジは食事を終えてテレビを見ていた。

「お父ん、久し振りやないか。ようやく家に帰る時間が出来たんか？」

何でも無い事のように言うトウジ。

純粋に、ハルアキの体を心配しているようだ。

妹が寂しげにしていた為か、家に帰ってこないハルアキに対してかつては恨み言らしきモノを口にした事もある。

しかし、ユウリと知り合ったせいか、今のトウジはハルアキの仕事を見直していた。

そんなトウジの心に気付いたのか、ハルアキは一瞬表情を綻ばせた後、無表情の仮面を被って口を開く。

「いや、これからまたＮＥＲＶに戻らなアカンのや。せやけど、どうしてもお前に言うとかなアカン事があってな」

「何や、せわしないのう」

ハルアキの表情の変化を訝しく思うトウジに、ハルアキの後ろから声が掛かる。

「まあ、そう言うてやるな。コイツも、偶には親らしい事したいんや」

勿論、トウキチである。

「お爺！いつアメリカから帰ってきたんや！！」

「今日や。ナツミの見舞には、もう行ってきたで」

「さよか…で、話て何や？」

「とても大事な話よ、あなたの人生を左右するような、ね」

トウジの疑問に答えたのは、二人の後ろで待っていたリツコであった。

「あの…どちらさんでっか？」

「私は、ＮＥＲＶ技術部長の赤木リツコ。あなたのお父さんの、直接の上司にあたるわ」

「そのお父んの上司はんが、何の用なんでっしゃろか？」

「それは、ワシから話す」

そう言うと、ハルアキはトウジの正面に腰を下ろした。

トウキチとリツコは、その両脇に座る。

そしてとうとう、ハルアキの口からその言葉が紡ぎ出された。

驚き、戸惑うトウジ。

その夜、トウジは一晩中自分の右手を見詰めていたという。

　

　

翌日の放課後、ＮＥＲＶへ行こうと席を立ったユウリを呼び止める声があった。

「なあ、碇。話があるんやけど、ちょっと付き合うてくれへんか？」

「別に構わないけど…どうしたの、トウジ。（やっぱり、あの話だよね）」

「いや、ここではちょっと…」

「わかった、じゃあ行こうか？」

二人は、通学路の途中にある人気の無い公園へとやってきた。

無言で歩くトウジを見ながら、ユウリは自分達の後をつける三つの気配に意識を向ける。

（これは…マナにマユミに……ヒカリ、よね）

トウジがブランコに座ると、ユウリはその隣に座った。

一瞬の沈黙の後、トウジが口を開く。

「なあ、碇。お前は何でエヴァに乗るんや？痛い思いして、怖い思いして、何でそれでもエヴァに乗るんや？」

「どうしてそんな事聞くの？」

「それは…それはやな……」

「それは、トウジが新しいパイロットだから？」

「！…知っとったんか？」

「昨日ね…。トウジのお祖父さんさんにも会ったよ。アメリカで、エヴァの建造に関わってたんだって？」

「おう、そうらしいのう。お父んに聞いたところによると、死んだお母んも参号機に関わっとったらしいわ」

「そうなんだ。で、どうするの？乗る？乗らない？」

「乗るで。その代わり、ナツミをＮＥＲＶの技術で治してもらう。昨日、お父んと一緒に来た赤木さんいうヒトに聞いたんや。ＮＥＲＶやったら治せるか、てな」

「それで？」

「現代医学では無理でも、ＮＥＲＶの保有する技術やったら治る可能性は高いそうや」

「それが、トウジがエヴァに乗る理由？」

「それだけやないで。ワシは…いや、ワシ等はいつもお前等に助けられっぱなしや。同い年のお前等が戦っとるっちゅうのに、ワシ等はシェルターで震えるコトしかでけん」

「そんな事…」

「いや、事実や。せっかくその借りを返せるっちゅうのに、乗らへんワケにはいかんやろ。これからよろしゅう頼むわ、先輩！」

トウジは、ようやく笑顔を見せた。

「何かくすぐったいな、先輩なんて。それに、レイやアスカの方がずっと先輩だよ？」

「アイツ等には、また改めて挨拶するわ」

「そう、じゃあ早速先輩としてアドバイスしちゃおうかな」

「何や、一体」

「ヒカリの事、どう思ってる？」

「な、何やイキナリ。全然関係無いやないか！」

「正直に答えて。私達がやってるのは、使徒対人類の殺し合いなの。いつ死んでもおかしくないんだよ？だから、思い残すコトが無いようにしとかなきゃ」

「いつ死んでもおかしない、か…」

ユウリの口から出た重い言葉を、トウジが繰り返す。

話を自分のペースに持ち込めたことに内心安堵しつつ、ユウリは話を続ける。

「そうだよ。守る相手が増えれば、それだけ意気込みが違ってくるかもしれないでしょ？それに、どうせなら片思いより両思いの方がいいだろうし。で、どうなの？」

あくまでもシリアスを装って、強引に話を進めるユウリ。

物陰から覗いている３人には、どう聞いても単なるこじつけにしか思えなかったが。

「イインチョの事は………その…す、好きや…。でもな…ホンマにそういう『好き』なんかが、ワシにはよう判らんのや」

「どういう事？」

「別に珍しゅうないけど、ワシもお母んを小さい時に亡くしとる。せやから、イインチョにそういうんを求めとるだけやないんか、てな」

「別に、最初はそれでもいいんじゃないの？基本的に、男はみんなマザコンだって話聞いた事あるし。付き合ってけば、もっとイロイロ見えてくるよ」

「そういうモンなんか？」

「そうそう、だから思い切って告白しちゃいなよ。ヒカリだったら、きっとＯＫしてくれるよ」

ヒカリの気持ちを知っているだけに、自信たっぷりのユウリ。

「せやけどな…」

なおも渋るトウジに対し、焦れたユウリがハッパをかける。

「往生際が悪いよ、トウジ！告白しなかったら、仲間だって認めてあげないんだから！」

「そ、そら殺生やで、碇」

「ほら、さっさとハラをくくる！決行は明日よ、昼休みはあんな状態だから…放課後ね！」

「ちょ、ちょう待ってくれや！明日は昼からＮＥＲＶなんや」

勝手に話を進めていくユウリに、トウジが情けない顔で待ったをかけた。

「じゃあ、朝ね。今日の夜、電話で呼び出すのよ。明日の朝…そうね、８時に屋上でどう？」

それなら、とばかりに一気にまくし立て、トウジに向き直るユウリ。

その目には、一切の反論を許さない強い光が宿っていた。

「よ、よっしゃ！ワシも男や、思い切ってやったるわ！」

そう叫ぶと、トウジは走っていく。

それを見送ったユウリは、背後へ声をかけた。

「ヒカリ！そういう事だから、明日は頑張ってね！それじゃ、私これからＮＥＲＶだから」

ユウリが声をかけた物陰では、ヒカリが真っ赤な顔で固まっていた。

　

　

訓練終了後、３人のチルドレンはミサトの執務室に集合していた。

「あなた達に言っておくことがあるの。今日、アメリカから参号機が届いたのは知ってるわよね？そのパイロットが決定したの」

「フン、新入りか…足手まといにならなきゃいいけどね。で、どこの誰なんだ？ミサト」

アスカの問いに、ミサトが得意そうに答える。

「フフン、それはねぇ…」

「トウジ、でしょ」

そのミサトの言葉を、ユウリが遮って答える。

「！…知ってたの？ユウリちゃん」

「ええ、昨日偶然に、鈴原課長の話を聞いてしまいまして」

「ちょ、ちょっと待てよ！なんであんなのがパイロットなんだよ！」

アスカは叫んだ。

アスカの認識においては、エヴァのパイロットはエリートであるハズだった。

最近、ユウリの事をようやく認められるようになりかけたところなのだ。

だがそれは、ユウリが自分と互角以上の特殊な訓練を受けている事が解ったからである。

そこへ、なんの訓練もしていないド素人が加わる。

それは、アスカの価値観においては到底許容できない事態だった。

さらに何か言いかけたアスカに、ミサトの叱責が飛ぶ。

「それぐらいにしておきなさい、アスカ。あなたはこれから、先輩として彼を指導してあげなくちゃいけないのよ」

『先輩』、『指導』、という二つの単語に反応し、おとなしくなるアスカ。

どうやら、ミサトもアスカの扱いがわかってきたようだ。

「チッ、しょうがねえな。この俺がビシビシ指導して、一人前にしてやるぜ！」

「そういう訳で、みんなよろしくね。正式なご対面は明日よ」

と、ミサトが締めくくった。

そこへ、ユウリが質問する。

「ミサトさん、参号機の起動実験は何時からですか？本人は、午後からＮＥＲＶだと言っていましたが」

「そうね、実際に乗る前に色々とレクチャーを受けてもらうから、起動実験は夕方からね」

「じゃあ、実験は私達との対面が済んでからにしてもらえませんか？その方が、トウジもリラックスできるでしょうし」

「そうね、そうするわ。じゃあ今日はこれで解散よ、みんなご苦労様」

「「「はい」」」

３人のチルドレンは、声を揃えて出ていった。

　

　

翌朝、ヒカリはトウジに指定された屋上に向かっていた。

ちなみに、ヒカリの後ろにはユウリ、マナ、マユミ、ケンスケの姿がある。

もちろん、ヒカリに気付かれないようにだが。

約束の５分前、ヒカリが屋上に着くと、そこにはすでにトウジがいた。

ケンスケが、ビデオカメラで撮影し始める。

「……あの、話って…なに？…鈴原…」

勿論知っているのだが、そんな事は言えない。

「お、おう……実はな……その………」

（もう、トウジったら。昨日の『ワシも男や』てのはドコいったのよ）

ユウリが焦れる。

「イ、イインチョ…ワシは、ワシは、ワシはイインチョが好きや！ワシと付き合うてくれ！！」

そう叫びながら、トウジが頭を下げる。

一方のヒカリは、待ち焦がれた言葉を本人の口から聞いて、嬉しさのあまり硬直していた。

「イインチョ…その…返事をくれんやろか…」

トウジの不安そうな声で再起動したヒカリが、真っ赤な顔で言葉を搾り出す。

「あ、あの…その…私で良かったら…喜んで…」

「ホ、ホンマか！？おおきに、イインチョ！」

トウジの顔がパッと明るくなる。

「う、うん…。でも、せっかくだから…そのイインチョっていう呼び方、変えてくれると嬉しいな…」

「お、おう、それもそうやな…でも、なんて呼んだらええんや…？」

「じゃあ……ヒカリって…呼んでくれる？」

「う…そやな、わかったわ…。そしたら、ワシの事はトウジて呼んだってくれや」

「うん、わかった」

恥ずかしそうなトウジに、これまた恥ずかしそうな、幸せそうなヒカリ。

「ほ、ほな改めて…ワシと付き合うてくれるやろか、ヒカリ」

もう一度問い掛けるトウジ。

「私で良ければ喜んで…トウジ」

問いに答えながら、ヒカリがトウジに抱きついた瞬間。

「「「「二人とも、オメデトウ！！！」」」」

という声と共に、クラッカーの音が鳴り響いた。

突然の事に固まる二人に構わず、それぞれが祝福の言葉を投げかけていく。

「やったね、トウジ！これでめでたくパイロットの仲間入りだね！」

「ジャージ！ヒカリを泣かせたら、ぶっとばすわよ！！」

「お二人とも、おめでとうございます」

「フッフッフ…裏切り者め、この映像は大事に保管しておくからな」

四者四様な祝辞が終わると、風のように去っていくユウリ達。

後には、突然の事に呆然とする二人だけが残される。

この後、抱き合ったまま硬直していた二人が再起動したのは、１時間目が始まる直前だった。

これを境に、互いの呼び方が『イインチョ・鈴原』から『ヒカリ・トウジ』に変わった為、クラスでも公認カップルとなった二人。

ちなみに、この時ケンスケが撮影したビデオは、何故かＮＥＲＶを通じて洞木・鈴原両家の人間の手に渡る事となる。

　

　

放課後、ＮＥＲＶにやって来たユウリ、レイ、アスカの３人は、ブリーフィングルームに呼び出された。

そこには、笑顔のミサトと、緊張でガチガチのトウジの姿があった。

「お、来たわねみんな。改めて紹介するわ、参号機専属操縦者、フォースチルドレンの鈴原トウジ君よ」

ミサトの言葉に続いて、トウジが頭を下げる。

「皆さん、よろしゅうお願いします！」

しばしの沈黙の後、室内が爆笑に包まれる。

そんな中、一人レイだけがいつもと変わらぬままだったが。

それから、それぞれが挨拶し合った後、チルドレンはプラグスーツに着替えてケイジに集合。

ケイジには、リツコ、トウキチ、ハルアキ等が待っていた。

「参号機の起動実験は、ジオフロント内で行うわ。参号機の周囲を他の３機で囲み、緊急時には３機がかりで抑える。いいわね？」

リツコの指示に返事をすると、４人のチルドレンはエヴァへ搭乗した。

ちなみに、これはユウリの提案をうけたミサトが、作戦部長の名で技術部に申し入れた布陣である。

ジオフロント内へと射出された、４機のエヴァ

紫、青、紅の巨人が、黒の巨人を囲むように配置される。

いよいよ始まる起動実験に緊張するトウジに、ユウリから通信が入った。

「みんながついてるから、気楽にね。それから、トウジのお母さんもきっと見守ってくれてるハズだよ。だから、頑張ってね」

さりげなく、エヴァの中に眠る母の存在を示唆するユウリ。

「せやな、ワシはやるで！」

ユウリの言葉に気合を入れなおしたトウジは、インダクションレバーを握り締めた。

「それでは、参号機の起動実験を開始します」

リツコの宣言により、起動シーケンスがスタートする。

流れるように進んでいく、起動シーケンス。

そして、ついに黒い巨人の目に光が灯った。

「エヴァ参号機、起動！シンクロ率は、３８．１％です」

「初めてにしては、いい数値ね。（ユウリの母親発言のおかげかしらね。）」

マヤの報告に、冷静なコメントを返すリツコ。

「凄いじゃない、これなら実戦もいけるわね」

ミサトが嬉しそうな顔で、作戦部長らしいコメントをする。

「では、引き続き連動試験を開始します」

リツコの宣言により、開始される連動試験。

歩く、から始まり、走る、殴る、蹴る等の動作を行う参号機。

最後には、音楽にのってラジオ体操までやってみせる。

そして、参号機のトウジに、各チルドレンから通信がはいった。

「これでやっとスタートラインだな。ビシビシ指導するから覚悟しな、鈴原！」

「お、おう。よろしゅう頼むで、惣流」

「問題ないわ…」

「なんやそりゃ、綾波」

「これから一緒に頑張ろうね、トウジ！」

「おう、こっちこそよろしゅうな、碇！」

こうして、参号機の初起動実験は無事終了した。

　

　

簡単なブリーフィングの後、ようやく解放されたトウジは、ナツミの見舞に来ていた。

エヴァの事、ＮＥＲＶの特別病棟へ移る事などを話し終えてトウジは帰宅。

トウジが出ていったドアをナツミが見詰めていると、ユウリが入ってきた。

「ナツミちゃん、具合はどう？」

「ユウリ姉ちゃん、いらっしゃい！」

満面の笑顔でユウリを迎えるナツミ。

「フッフッフ…ナツミちゃん、今日はビッグニュースがあるのよ！」

お土産の手作りケーキをベッドの脇に置きながら、ゲンドウばりのニヤリ笑いを見せるユウリ。

「お兄が、エヴァのパイロットになったっちゅう話やったら、聞いたけど？」

首を傾げるナツミに対し、ユウリの爆弾発言が飛び出した。

「ち・が・う・の・よ。実はね…なんと！トウジに彼女が出来たのよ〜！！」

「ええーーー！あのお兄に彼女ぉーーー！ホ、ホンマなん？ユウリ姉ちゃん！！」

あまりにも意外な話に、驚愕するナツミ。

「うん、マジもマジ、大マジよ！」

「で、相手はどんなヒト？」

その意外な話を肯定するユウリに対し、ナツミは興味津々な表情で尋ねた。

「そうね、料理が上手で、面倒見が良くて、しかもカワイイ！『良妻賢母』って言葉がピッタリくるような、言う事無しの上玉よ！」

ヒカリを褒めちぎるユウリ。

ヒカリに対し、ユウリもまた亡き母の姿を見ているのかもしれない。

「マジかいな！なんでそないな上玉がお兄なんか…」

ため息をつきつつ呟くナツミ。

「ナツミちゃん、トウジはあれで結構イイ奴だよ？」

ユウリのフォローの言葉を聞いたナツミは、フッと表情を和らげると、普段は決して口にしない、兄への想いを口にした。

「せやな、お兄は…アホで、ガサツで、女心のわからん朴念仁やけど、ホンマは義理人情に厚うて優しいヤツなんや」

「そういえば、彼女になんで好きになったのか聞いたら、『優しいトコ』って言ってたかな」

「お兄のエエ所、ちゃんと理解してくれるヒトがこの世の中におったんやなぁ。一遍会うてみたいわ」

ユウリが褒めちぎる、兄の彼女だという人物に対して想いを馳せるナツミ。

そんなナツミに対して、ユウリは胸を張って約束の言葉を口にした。

「了解、了解。トウジは恥ずかしがって絶対連れてこないだろうから、今度私が連れてくるわ」

「うん、絶対やで、ユウリ姉ちゃん！」

期待に満ちたナツミの視線を背に、ユウリは帰宅した。

　

　

帰宅後、ヒカリに連絡して手土産のお菓子を作らせたユウリは、翌日にナツミとの約束を果たした。

ヒカリを一目で気に入ったナツミは、この後ヒカリを実の姉のように慕うこととなる。

そしてトウジは、ナツミと結託したヒカリに、益々頭が上がらなくなってしまったという。

　

　

　

　

　

　

＜後書き＞

今回、使徒を出さずにフォースチルドレンの話だけに絞ってみました。

フォースを誰にするかは散々迷ったのですが、結局トウジに決定。

ある意味素人ではないマナやマユミの方が、適任だったかもしれません。

しかし、一般人の感覚を持った人間も必要かな、と思いまして。

で、男女比率の問題もあったのでトウジになりました。

ところで、書き終わってみればややＬＨＴなお話。

苦悩するトウジの姿を書くつもりだったのに、何でこうなったんでしょうか？

ついでに、鈴原一家登場ＰＡＲＴ２になりました。

お祖父さんがトウキチ、お母さんがアキエです。

トウキチは昔、京大の教授をしており、アキエとハルアキは碇ユイと同じゼミに所属していたという設定になっています。

ハルアキは、トウキチに招かれてゲヒルンに入り、赤木ナオコの下でＭＡＧＩの研究を手伝っていました。

まあ、あくまでも設定だけですが…。

あと、ナツミちゃんはトウジとは４つ違いの１０歳ということになっています。

オフィシャルな設定では、小２でしたっけ？

最後にもう一つ、トウキチがハルアキに言った「生きとったか？」という台詞。

これは、「元気だったか？」という意味合いで使っています。

親しい相手に対する挨拶ですので、深読みしないで下さいね？

それでは、次回も広い心でお読み下さい。

感謝の言葉

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