暁の守護天使

　

　

第１１話「極限での戦い」

　

　

「碇よ、フォースチルドレンに関する報告書、読ませてもらった」

「碇君、これは一体何なのかね？」

「何か、不都合でも？」

「不都合極まりないよ。これは、ただの素人ではないか！」

「われらが必要としているのは、サード抜きでも使徒殲滅に充分な戦力なのだよ？」

「なればこそ、君の強硬な主張を聞き入れ、参号機配備の予定を繰り上げたのだよ？」

「その参号機のパイロットがこれでは、お話にならんよ？」

「これでは、何の為に参号機を配備したのか解らないではないか」

「お言葉ですが、参号機のコアには既に魂が宿っていたのですよ？選択の余地など、ありませんでした」

「何を言うかと思えば…そんなモノ、コアを変換してしまえば良いではないか」

「それに気付かなかったなどとは言わせないよ？碇君」

「全くだよ。これでは、戦力として計算出来るようになるまでに時間が掛かり過ぎる」

「折角配備した戦力、わざわざ遊ばせておくなど、到底許されん事だよ？」

「まさか、囮だの捨て駒だの、そういった事に使うつもりではなかろうね？」

「もしそうなら、こちらとしても考えねばならんよ？」

「…そのような事、全く考えておりませんよ。とにかく、フォースの育成プログラムは順調に進んでいます。問題などありませんよ」

「だといいのだがね」

「碇よ、配備した戦力は有効に活用せよ。無駄にする事は、決して許されん。肝に命じておけ」

「全てはゼーレのシナリオのままに」

　

　

一中の昼休みに、新しい名物が加わった。

トウジＶＳ美少女軍団の、格闘訓練である。

自分一人が全くの素人であることを痛感したトウジが、ユウリに頼み込んだのだ。

ユウリ、マナ、マユミのいずれか一人と対戦し、それを見ている残りの二人から講評を受けるという形式で、それは行われた。

このことはユウリから作戦部へ上申され、ＮＥＲＶでの訓練に格闘技は組み込まれなくなった。

つまり、格闘技の訓練は全て学校で行い、ＮＥＲＶではそれ以外の専門的な訓練を行おう、というのである。

ちなみにアスカはといえば、ケンスケと組んで、ケンスケの撮影した写真やビデオを販売して小遣いを稼いでいた。

特に、以外な売り上げを誇っているのが格闘訓練の模様を撮影したモノである。

高度な訓練を受けているユウリ達の戦う姿は、格闘技マニアを中心に高い評価を受けていたのだ。

そして、極一部の人間のみに販売された幻の逸品が存在した。

ユウリＶＳマナ、ユウリＶＳマユミ、ユウリＶＳミサト、マナＶＳマユミの４種類のビデオがそうである。

レイの入った組み合わせが無いのは、ユウリ達程高いレベルではない為だ。

ちなみに撮影場所はＮＥＲＶ、撮影者はもちろんアスカ。

アスカが何故こんなことをしているのかというと、それは本人の浪費癖のせいである。

パイロットは、当然ＮＥＲＶから給料をもらっており、それはかなりの高額となっている。

しかし、中学生ということで、使用額に制限がもうけられていた。

そして、アスカは毎月その限度額一杯に使いきってしまうのだ。

そこで、ケンスケの入れないＮＥＲＶ内部でのユウリ達を撮影してその利益を得、小遣いのタシにしているのだ。

当然ＮＥＲＶもそれを知っていたが、撮影場所が機密に触れない場所なので黙認されていた。

と、その時ギャラリーから歓声が上がった。

勝負がついたのだろう、と思いアスカが様子を見ると、いつもの通りトウジが講評を受けていた。

　

　

その日の放課後、訓練を終えたチルドレンに対し、ミサトから爆弾が落とされた。

「えぇーーー！修学旅行に行くなだってぇ！」

叫んだのは、もちろんアスカである。

現在、一中の２年生は修学旅行を２日後に控えており、クラス中その話題で盛り上がっていたのだ。

当然アスカも楽しみにしており、トウジ、ケンスケ等と買い物に行くなど、準備に余念が無かった。

今までずっとＮＥＲＶのドイツ支部で過ごしてきたアスカにとって、友人達との旅行というのは、生まれて初めての経験なのだ。

したがって、当然のごとく不満が爆発した。

「何でだよ！」

「戦闘待機だからよ」

「そんなの聞いてねーよ！」

「今言ったわ」

「誰が決めたんだよ！」

「作戦部長である私が決めました」

アスカの文句に全く取り合わないミサト。

このままでは埒があかないと判断したアスカは、他のチルドレンに話を振った。

「お前等もなんとか言えよ！修学旅行、行きたくねえのか！？」

「…任務じゃしょうがないよ、アスカ」

残念そうな顔で言うユウリ。

「任務が優先されるのは当然の事だわ」

いつもと変わらないレイ。

ため息をついたアスカは、最後の砦であるトウジに話を振った。

「おい鈴原、お前はどうなんだ！？」

「せやな、まあ行きたない言うたら嘘になるけど、この場合しゃあないやろ。それに妹の事もあるさかい、あんまり遠出はしたないんや」

「何言ってんだよ！お前、委員長と二人であれこれ楽しそうに相談してたじゃねぇかよ！それが全部パーになるんだぞ！！」

「ヒカリには、スマンと思う。しかし、それはそれ、これはこれや」

そう言いきったトウジではあったが、その顔は悔しそうに歪んでいる。

そしてその脳裏には、ガイドブック片手にあれこれ計画を練る、楽しそうなヒカリの顔が浮かんでいた。

誰からの援護も得られなかったアスカは、その場にへたり込んでしまう。

「私も個人的には行かせてあげたいんだけど、その間に使徒が来たら困るでしょ？かといって、誰かを行かせて誰かを行かせないなんて、不公平だし」

「そりゃそうかもしれねぇケド…」

申し訳なさそうなミサトの声も耳に入らず、ついにはイジケるアスカ。

そんなアスカに、ミサトからさらなる爆弾が投下された。

「それに、アスカとトウジ君にはやる事があるでしょ？」

ニヤリと笑ったミサトが取り出したのは、『成績表　２−Ａ』と書かれたフロッピーだった。

「「ゲッ！！」」

アスカとトウジの声がハモる。

「フフン、黙ってればバレないなんて、甘いわよ。この程度の情報なんて、筒抜けなんだから」

あまり自慢にならない事を堂々と言うミサト。

確かにこの街はＭＡＧＩの管理下にあるが、そんなプライベートな情報が筒抜けである事を堂々とバラしていいのだろうか？

「ヘッ、俺は大学卒業してるんだぜ！そんなモン、今更関係ないね！」

「フ〜ン、じゃあ何で大学出てるのに成績悪いの？」

「そ、それは…問題が読めなかったんだよ！！」

恥ずかしい事を大声で言うアスカに、ミサトは止めをさす。

「そんなこったろうと思った。アスカには、コレをやってもらうわ」

そう言ってミサトが取り出した本の表紙には、『漢字ドリル』と書かれていた。

それが、小１から中１までズラリと揃っている。

「それから、トウジ君にはこれよ」

今度は、主要五教科の問題集を取り出すミサト。

「二人は、修学旅行の間にソレを終わらせるコト。いいわね？」

「コイツ等はどうなんだよ！」

アスカが、ユウリとレイを指差して叫ぶ。

「あら、ユウリとレイは学年で一番と二番よ。全く問題無いわ」

「フン、やりゃあいいんだろ、やりゃあ！」

ドリルをひったくって出て行くアスカ。

問題集を受け取ると、肩を落として出て行くトウジ。

対照的な反応を見せた二人を見送ると、ミサトは残る二人に向き直った。

「ま、そういうコトだから、あの二人にはしっかり目を光らせておいてね」

「了解です」

「問題ありません」

簡潔に返事をして出て行く二人。

一人になったミサトは、自分の仕事に取り掛かった。

頼みの綱の日向が、体調を悪くしてダウンしていたからである。

その原因は、ミサトの押しつけた余分な仕事による軽度の過労。

その事は、もはや公然の秘密であるが、当のミサトは全く知らん顔。

というより、誰も面と向かってそれを言わないので知らなかったのだが。

哀れなメガネの下僕は、今も夢の中で書類の山に埋もれていた。

　

　

修学旅行へと旅立った級友達を見送ったユウリとトウジは、ＮＥＲＶへと向かった。

アスカの提案により、ＮＥＲＶ内のプールで泳ぐ為である。

プールに着くと、アスカとレイはすでに来ていて他には誰も居ない。

もちろん、アスカの強硬な主張により、貸しきりになっているからだ。

ユウリが着替え終わって更衣室から出ると、トウジもすでに泳いでいた。

ユウリも、皆に倣ってプールに飛び込む。

それから４人は、とにかく遊んだ。

スクーバの真似事をしたり、競泳をしたり、体力の続く限り泳ぎ続けた。

そして今、４人はプールサイドで水着のままユウリの弁当を食べていた。

全くの余談ではあるが、四人の水着はアスカが赤、トウジが黒のトランクス。

ユウリが薄い紫に白いラインのワンピース、レイが青に白い縁取りのセパレーツである。

レイの水着はボトムがショートパンツのようになっており、中は強力なサポーターでガッチリ固定。

その為、下半身は全く目立っていない。

ちなみに、これはユウリの見たてである。

学校の水泳の授業には、全く参加していないレイ。

そして、学校指定の物ではない水着着用のユウリ。

その二人の水着姿に対し、これは売れるだろうな、と考える男二人。

実際、この時こっそりと撮影された写真は高値で取引され、アスカ、ケンスケ、トウジの懐を長い間潤した。

その収入のおかげで、ケンスケはずっと高嶺の花だったプロ用の機材を購入したという。

「それにしてもよう泳いだのう、さすがに疲れたで」

「全くだ、遊びでこんなに疲れたのは久し振りだぜ」

疲れたなどと言いつつ、まだまだ余裕のありそうな男二人。

「私も疲れたよ…レイは？」

「問題無いわ」

そうユウリに答えたレイは、全くいつもと変わらなかった。

「みんなタフだね……私はもういいよ、暫く昼寝でもしようかな」

いかにも疲れた、といった様子のユウリに対し、アスカがつっこむ。

「チッ、だらしねぇな。鍛え方が足らねぇんじゃねぇか？」

「そんなコトないよ、私は普通……そうだ、思い出した！アスカにトウジ、ミサトさんからの宿題はどうしたの？」

形勢不利と判断したユウリは、ミサトの依頼を思い出し、話題の転換を図った。

「フン、あんなモンすぐ終わるさ！夜にでもやるよ。」

「せ、せや、遊ぶ時は遊ばなあかん、それが健全な中学生ちゅうモンや！」

どうやら、二人ともやる気は無いようだ。

渋るアスカとトウジに、なんとか勉強を始めさせたユウリ。

アスカは漢字ドリルと格闘し、トウジは問題集と睨めっこ。

そしてユウリは、トウジの質問に答えつつその様子を眺めていた。

「なあ碇、ちょっとここ教えてくれへんか？」

「うん、いいよ…どこ？」

「おう、ここや、ここ」

「…ああ、熱膨張の問題ね。ここはねぇ…」

「熱膨張？何だ、幼稚な問題やってるじゃねぇか。ようするに、物は暖めりゃ大きくなって、冷やしゃ小さくなるんだよ」

説明しようとしたユウリの声を遮ったのは、アスカだった。

「…そりゃそうかもしれないけど…それだけじゃ勉強にならないの！将来役に立とうが立つまいが、やるべき事はやっておかなくちゃ」

ユウリの言葉にアスカが反論しようとしたその時、全員の携帯に非常召集のコールがあった。

　

　

それよりも少し前、ゲンドウはゼーレの老人達と会議をしていた。

「Ａ−１７を発令するだと？本気なのか、碇」

「こちらから打って出るというのかね！？」

「危険すぎる、１５年前を忘れた訳ではあるまい！？」

「生きた使徒のサンプル、その重要性は説明するまでもないと思いますが？」

「それは否定せん。だが碇、勝算はあるのか？」

「問題ありません」

「何を根拠にそのような…」

「全くだよ。君のその自信、一体どこからきているのかね？」

「Ａ−１７の発令、それが何を意味するのか知らぬ君ではあるまい？」

「さよう。しかも、一歩間違えれば１５年前の再現なのだよ？」

「確かにハイリスク・ハイリターンとは言うが、あまりにもリスクが大きすぎる！」

「根拠の無い自信ごときが理由では、とても『Ａ−１７』の発令は許可出来んよ」

「何と仰られようと、方針は変わりません」

「…よかろう、Ａ−１７の発令を許可する。関係各所への根回しは、こちらで行おう」

「有難う御座います、キール議長」

「だが、失敗は許されんぞ、碇」

「勿論、心得ております。それから万一の場合の保険として、ＵＮの爆撃機に待機させておきましょう」

「作戦が失敗したら、Ｎ２爆雷で焼却するという事かね？」

「その通りです」

「その場合でも、初号機の機体だけは失ってはならんぞ。解っているな、碇」

「全てはゼーレのシナリオのままに」

　

　

４人揃ってブリーフィングルームに行くと、ミサトとリツコが待っていた。

「使徒なのか！？」

アスカの問いに、ミサトがモニターをＯＮにする。

「まずはコレを見て頂戴、浅間山の火口の中で発見されたモノよ。私は、コレを調べる為に浅間山に行ってたの」

モニターには、人間の胎児のような形状のシルエットが映っていた。

「あの…コレが使徒なんでっか？」

トウジは、目の前で見た第４使徒と、市街地に転がっていた第５使徒の残骸の姿を思い浮かべながら尋ねた。

「ええ、但しまだ孵化していない、サナギのような状態と推測されるわ」

トウジの質問に、リツコが答えた。

「ふ〜ん、これを見ると、９９．８９％てのも納得できますね」

「ええ、この映像を見る限りでは、人間の胎児とそっくりね」

ユウリが映像についての感想を漏らすと、リツコがそれに応じる。

「おい、９９．８９％って何がだ？」

アスカが疑問を口にした。

「使徒の固有波形パターンと、人間の遺伝子構造の一致率が、よ」

リツコがサラリと答える。

「何だって！じゃあ使徒は……」

「地球上で最も人間に近い生物、と言うコトになるわね」

衝撃の事実に声も出ない、アスカとトウジ。

そこへ、ミサトの声が掛けられた。

「それでは、今回の作戦を伝えます」

その一声で、ミサトに注目が集まる。

「最初に言っておきますが、今回は目標の捕獲を最優先事項とします」

「殲滅、ではないんですね？」

ユウリが確認する。

「ええ、殲滅ではなく、捕獲よ。これは、生きたサンプルを入手することで使徒の生態を調査し、今後の闘いに役立てる為なの。その為に、非常事態宣言『Ａ−１７』が発令されたわ」

「『Ａ−１７』ですか！？あれって確か、現有資産の全凍結や最低限のライフライン確保以外のあらゆる経済活動停止を含んだ、最重要の宣言ですよね？」

「その通りよ、随分詳しいわね」

ユウリの言葉に、感心したような声を出すミサト。

「でもミサトさん。『Ａ−１７』の発令には、国連事務総長と全常任理事国の承認が必要だった筈じゃ…」

「勿論、承認は得ているわ。だから、発令は正式なモノよ。そして発令された以上、作戦は迅速に遂行されなければならないわ」

「了解です」

ユウリが納得したところで、ミサトは一同を見渡した。

「では、続きを。まず、２名を待機要員として本部に残し、残る２名に浅間山へ行ってもらいます」

「俺が行くぜ！」

叫ぶアスカをチラリと見ると、ミサトは説明を続ける。

「浅間山へ行く２名の内、１名が耐圧耐熱仕様のＤ型装備で火口に潜行、捕獲装置にて目標を捕獲してもらいます」

「じゃあ、俺が潜るぜ！いいだろ？」

一歩前に出て、激しく自己主張するアスカ。

「いいわ、捕獲はアスカにやってもらいます。他の配置は…ユウリをバックアップに、残る２名を待機とします」

「ヘッ、悪いな。今回は、このアスカ様に任せてもらうぜ！」

一番重要なポジションを任され、得意満面なアスカ。

「それでは、浅間山班はプラグスーツ着用の上、全員でケイジに集合。いいわね！」

「「「「了解」」」」

返事をして出て行く４人。

そこを、リツコがアスカだけ呼び止めた。

「待ちなさい、アスカ。あなたには、この耐熱仕様のプラグスーツを着てもらうわ」

「了解」

アスカは、差し出されたスーツをひったくるようにして出ていった。

おそらく、アスカは気付いていないであろう。

この布陣が、全くの予定通りである事を。

　

　

「なあ、コレいつもと違う様に見えるか？」

耐熱仕様のスーツを着てケイジに集合したアスカは、他のチルドレンに尋ねた。

「…別に、変わった所は無さそうだけど？」

「……わからないわ…」

「いつもと変わっとるようには、見えへんで」

しかし、誰にもその違いは判別できなかった。

「集まったわね。アスカ、まずはコレをかぶって頂戴」

リツコから渡されたのは、プラグスーツと同じ色のヘルメットだった。

「何なんだ、コレ？」

素直にかぶりながら尋ねるアスカ。

「それは、インターフェイス・ヘッドセットと同様の機能を持った、耐熱仕様のヘルメットよ」

「ヘルメット？呼吸はどうするんだよ、呼吸は！？」

リツコの説明に、アスカが当然の疑問を発する。

「通常は、各部のスリットからＬＣＬが循環するわ。ＬＣＬの温度が一定のレベルを超えるとスリットが閉じ、ヘルメットからその内部のＬＣＬへ酸素が供給されるの」

「酸素はどれぐらい持つんだ？」

「３０分は持つわ。もっとも、そんなに長時間ヘルメットのお世話になるとは思えないけどね。解ったら、左手首のボタンを押して」

これまた素直にボタンを押すアスカ。

すると、今までアスカにピタリとフィットしていたスーツが、風船の様に膨らんでいった。

「げぇーーー！何だよこれ！！」

叫ぶアスカの耳に、周囲から小さな笑い声が聞こえてきた。

「イヤだ！こんなのカッコ悪すぎるじゃねえか！」

駄々をこねるアスカを、ミサトがたしなめる。

「ダメよ、アスカ。自分で志願したんでしょ？それに、もう弐号機にＤ型装備を装着してしまったわ」

と、そこへタイミングよくＤ型装備の弐号機が、クレーンに吊られて運ばれてきた。

「お、俺の弐号機がぁーーーーー！！！」

情けない顔で叫ぶアスカ。

その目は、弐号機に釘付けである。

Ｄ型装備、それはまるで大昔の潜水服のようだった。

なおも駄々をこね続けるアスカを横目に、レイが志願する。

「私がやります」

レイは、焦りを感じていた。

今回の使徒が６体目であるが、自分が出撃したのは第５使徒戦のみ。

ユウリはその全てと交戦し、後から来たアスカでさえ２体と交戦している。

自分には、実戦経験が足りない。

零号機の再起動実験の時、自分はユウリの力になると誓った。

これでは、力になるどころか、足手まとい。

その強い思いが、レイに志願させたのだ。

「悪いけど、プロトタイプの零号機とテストタイプの初号機には、こういった特殊装備は規格外なのよ」

リツコが、レイの意見を却下する。

「では、私が弐号機で出ます」

なおも食い下がるレイ。

そのレイに、今度はアスカが反応した。

「冗談じゃねぇ、俺の弐号機に他のヤツを乗せてたまるか！俺がやる、お前は引っ込んでろよ！！」

その一言で、布陣が決まった。

　

　

初号機と弐号機は、ウィングキャリアーで浅間山まで運搬された。

作戦を目前に控え、移動指揮車の前で最終確認をする一同。

「いいわね、アスカ。今回は、あくまでも捕獲が目的よ」

「任せとけって、ミサト。ようは、あの『使徒キャッチャー』とやらで捕まえりゃいいんだろ？」

「そうよ。でも、油断しないでね。ヘタすりゃセカンド・インパクトの再現よ。捕獲が優先、でも、ヤバくなったら殲滅に移行。いいわね？」

「ああ、もちろんだ。このアスカ様に任せて、大船に乗った気でいろよ！」

胸を張るアスカ。

その時、ふと空を見上げたユウリの目に、ＵＮの爆撃機の姿が映った。

「ＵＮ……でも何故？」

「それはね、ユウリ。作戦が失敗した時の後始末の為よ」

「ミサトさん…後始末って、もしかして私達ごとＮ２でドカン、て事ですか？」

まっすぐにミサトを見詰めて、ユウリが問う。

「…その通りよ、ユウリ」

「何だって！誰だよ、そんな命令出してやがんのは！！」

「碇司令でしょうね、多分………」

アスカの声に、再び空を見上げながらポツリと答えるユウリ。

『父』という単語は、あえて使用しない。

ユウリの中では、ゲンドウはもはや『父』ではなく、『他人』として、あるいは『上司』として認識されていた。

「アスカ、ユウリ、エヴァに搭乗して！作戦を開始するわ」

重い空気を振り払うように、大声でミサトが命令する。

エヴァに搭乗するアスカとユウリ。

指揮車の中が、とたんに慌ただしくなる。

「アスカ、準備はいいわね？」

「いつでもＯＫだぜ、ミサト！」

「それでは、作戦開始！」

ミサトの号令で、マグマの中に下ろされていく弐号機。

初号機は、火口の淵で待機している。

弐号機は、すぐにユウリの目に映らなくなった。

「現在、深度２００、各部問題ありません」

マヤが報告する。

「やれやれ、これじゃ何も見えやしねえ」

アスカの呟きと共に、モニターが通常モードからＣＴに切り替わる。

そして、弐号機はさらに深く沈んでいった。

「深度１３００、目標深度に達しました」

「使徒は…いないわね。目標の現在位置を再計算、弐号機の沈降も継続」

ミサトが指示を出すと、さらに緊張が高まっていく。

すでに安全深度はオーバーしており、しかも無人探査機ではないのだ。

アスカの耳に一際大きな軋みが聞こえ、冷や汗が流れる。

「各部異常なし、単なる軋みのようです。…あっ、ナイフの固定具が融解、プログナイフをロストしました！」

マヤの報告に、焦りの色が混じる。

「ん？これは…初号機、プログナイフを装備」

日向が報告する。

「どうしたの、ユウリ」

ミサトが問う。

「念のためです、ミサトさん」

そう答えると、初号機はナイフを火口に放り投げた。

「初号機、ナイフを火口に投擲しました」

またも日向が報告する。

「初号機、ＡＴフィールドを展開！右手に収束していきます！」

今度は青葉が報告する。

「どういうつもりなの、ユウリ！」

ＡＴフィールドの制御に集中しているのか、ユウリからの返事は無かった。

「作戦が変更になった時の為ね、きっと」

ユウリに代わって、リツコが答えた。

「殲滅の為の用意、て事か…」

ミサトが呟くと、マヤの報告がはいった。

「使徒、発見！目標、予想移動進路に乗りました」

「よし、準備はいい？アスカ」

「いつでもＯＫだ。いくぜ、ミサト！」

気合を入れると、キャッチャーを構えるアスカ。

「よ〜し、こいこい…。もうちょっと……そこだ！」

アスカがボタンを押すと、キャッチャーの先から光が伸びて箱を形成し、使徒を囲む。

「捕獲成功！」

マヤの報告に、指揮車の空気が軽くなる。

「どうにか成功したわね、ミサト」

リツコの表情も、若干和らいでいる。

「ええ、なんたって、セカンド・インパクトの二の舞だけはゴメンだもの」

ミサトの表情からも、幾分緊張が取れてきていた。

しかし、マヤの報告に、再び緊張するスタッフ達。

「使徒に変化、孵化が始まってます！！」

「マズイ、計算より早いわ！」

リツコが焦る。

モニターでは、使徒がキャッチャーの中で暴れている。

「このままでは、キャッチャーがもたないわ。どうするの、ミサト！」

リツコの問いに、ミサトは素早く反応した。

「アスカ！キャッチャーを放して。現時刻をもって作戦を変更、使徒を殲滅します！」

ミサトの指示に反応し、アスカはキャッチャーを捨てる。

「マヤちゃん、初号機のナイフは？」

先程の事を思い出したミサトは、マヤに確認を取った。

「はい…まもなく届きます」

「そう。アスカ、聞こえる？もうすぐ初号機のナイフが届くわ。ナイフを掴んだらバラストを放出して！」

「了解だ、ミサト。…これか？よし、バラスト放出、急速浮上！」

弐号機は、先程までより早いスピードで浮上し始める。

その下方で使徒は完全に孵化し、キャッチャーを中から破壊。

その姿は、遥か太古の生物『アノマロカリス』のようであった。

マグマの中を器用に、かつ素早く泳ぎ、弐号機に襲いかかる使徒。

アスカは、ナイフで使徒を捌き、どうにか攻撃をかわし続けた。

しかし、使徒は素早く反転して何度も襲い掛かってくる。

スピードが速い為に、火口に居るユウリもその動きを捉えきれない。

しつこく何度も襲ってくる使徒。

攻撃手段が体当たりと噛み付きしかないのが、せめてもの救いだろう。

もっとも、マグマの中で口を開けられるという事自体が驚嘆に値するだろうが。

「クソッ、ナイフじゃ歯が立たねえ！どうすりゃいいんだ！？」

マグマの高温高圧に耐える使徒の前には、ナイフなど全く役には立たない。

「こんな時…アイツなら、ＡＴフィールドでパパッとやっちまうんだろうな……」

珍しく、弱気な発言をするアスカ。

その時、アスカの脳裏に、昼間トウジがやっていた勉強の内容が浮かんだ。

「そうだ、熱膨張！！」

そこからのアスカは、素早かった。

冷却材の循環パイプの内一本を切断、再度襲いかかる使徒の口へと差し込む。

使徒の体内で、急激に膨張していく冷却材。

その圧力に耐え切れず、使徒の肉体は内側から崩壊を始めた。

最後のあがきで暴れる使徒の体が、弐号機のライフラインを切断していく。

その最中、アスカの目に上方より飛来した何かが使徒のコアを貫くのが見えた。

その一撃によって動きを止めた使徒は、ボロボロと崩れながら沈んでいく。

そして、地上まであと少しというところで、最後のワイヤーが切れる。

弐号機は、奈落の底へと落ち始めた。

「ここまで…なのか……」

諦めるアスカの目に、Ｂ型装備のままで弐号機の手を掴む初号機の姿が映る。

「大丈夫！？アスカ」

初号機からの通信が入る。

モニターには、凄まじい熱さに耐えつつアスカの事を心配するユウリの姿が映っていた。

「バカが…無理しやがって」

苦笑しつつ呟くアスカ。

一瞬で閉じた、通信ウィンドウ。

その向こうで、ユウリの全身に火傷が出来ていた事に、アスカは気付いていなかった。

引き上げられた弐号機からアスカが出ると、担架に乗るユウリの姿が目に入る。

「ミサト、アイツどうしちまったんだ？」

アスカは、自分の様子を見に来たミサトに尋ねた。

「火傷よ、高シンクロ率の影響でね」

「シンクロの影響って、どう言う事だ？」

「あなたも、エヴァがダメージを受ければ痛みを感じるでしょ？あのコはそれだけじゃなく、自分自身にも傷を負ってしまうのよ」

「アイツは、当然それを解ってる訳だよな…。（それでもアイツは飛び込んだのか、マグマの中に…）」

アスカは、ギュッと拳を握り締め、立ち尽くしていた。

　

　

　

　

　

　

＜後書き＞

サンダルフォン戦が終了しました。

ユウリが火傷をしたので、温泉には行きません。

ちなみに、作中でアスカにヘルメットをかぶせてみました。

これは、やはり頭をガードしておかないと意味が無いのでは？と思ったからです。

あまり気にしないで下さい。

あと、Ａ−１７の内容も適当です。

それでは、次回も広い心でお読み下さい。

感謝の言葉

トップページに戻る。
第１２話「忍び寄る影」に進む。
作者の Ｔ．Ｈ さんへの感想メールはこちら（t-h@tcn.zaq.ne.jp）まで。
読者からの反響は作者のやる気を湧き出させます。
続きが読みたい人は、感想メールを送りましょうね。