暁の守護天使

　

　

第２１話「暁の守護天使」

　

　

暗い部屋の中、ゼーレのメンバーが一同に会した。

「全ての使徒は、倒れた。機は熟せり…今こそ、約束の刻だ」

キールの声が響く。

「全ての準備は、整った」

「『生命の実』を携えし、われらの僕。今こそ羽ばたく刻」

「『ロンギヌスの槍』も、その手にある」

「あとは、ＮＥＲＶを贄に捧げるのみ」

「『人類補完計画』、ようやく実現するのだ」

「永きに渡って待ち続けたわれらの願い、今こそ成就せん」

「全ての命、今、一つに」

「神へと至る道、今こそ開かん」

「「「「「「「「「全てはゼーレのシナリオのままに」」」」」」」」」

全員が唱和し、彼等は消えた。

　

　

第１７使徒戦後、保護されたユウリは病院へと収容された。

カヲルの亡骸に縋りついて離れず、そこから動こうとしないユウリ。

そんなユウリに対し、ミサトは鎮静剤を投与して収容するよう指示した。

診察等が終了して暫し、鎮静剤の効果が切れる。

だが、ユウリは目覚めなかった。

病院のベッドに眠るユウリは、完全に心を閉ざしていたのだ。

皮肉にも、同居人である赤毛の少年と同様に。

エースパイロットである、ユウリのリタイア。

その事実は、ＮＥＲＶ職員の間に罪悪感と絶望感とをもたらした。

「最悪の状況ね」

リツコが苦々しげに呟く。

「９対１か…しかもパイロットがトウジ君じゃねぇ…」

ミサトの声にも同じ響きが混じっている。

「フォースの努力は認めるが、サードや絶頂期のセカンドには遠く及ばないからな…」

冬月も同様である。

３人がほぼ同時にため息をついた時、司令席の電話が鳴った。

「私だ。…何だと！？…解った、葛城君と赤木君を向かわせよう」

「司令代行、一体何があったんですか！？」

受話器を置いた冬月に、ミサトが尋ねた。

「フォースが、セカンドの病室に殴りこんだそうだ」

「「は？」」

同時に間抜けな声を出すミサトとリツコ。

「とにかく、急いでセカンドの病室へ向かってくれ給え」

「「了解しました」」

ミサトとリツコは、慌てて司令室を出て行った。

　

　

アスカの病室へとやってきたトウジは、いきなり寝ているアスカの胸倉を掴んで上体を起こした。

「アスカ、オノレいつまで寝とるんや！！」

大声で怒鳴るトウジ。

しかし、アスカは全くの無反応だった。

「負けたから何や！一番やのうなったから何や！そんなくだらんことが、一体ナンボのモンなんや！」

トウジの鉄拳が、アスカの頬にヒットした。

それでもアスカに反応は無い。

「オノレはワシより強い筈やろ！戦う力がある筈やろ！そのオノレが何で、こんな所で寝とるんや！ええ加減目ぇ覚ませや！！」

トウジの鉄拳が、再びアスカにヒットした。

「オナゴに全部押し付けて、オノレはそれで満足なんか！このまま一生寝て過ごして、オノレはホンマにそれでええんか！答えてみい、アスカ！！」

さらに鉄拳をお見舞いしようとしたトウジの耳に、アスカの声が届いた。

「……お前に…何が…解る……」

トウジの顔が、一瞬綻ぶ。

しかし、再び顔を引き締めると更に言葉を投げつけていく。

「フン、尻尾巻いて逃げ出した奴の事なんぞ、ワシには理解でけへんな！」

その言葉に、アスカの瞳が光を取り戻した。

「お前こそ、結局やられてばっかじゃねえかよ！」

「ああ、そうや！せやけど、ワシはオノレみたいに諦めたり逃げたりはせえへんで！何遍やられようと、生きとる限り諦めへんで！男やからな！！」

「ヘッ、お前なんか一生かかったって俺には追いつけねぇよ！」

「前のオノレにやったら、そうかもしれん。せやけどな、今のオノレには絶対に負けへんで！負け犬に成り下がった今のオノレには、絶対に負けへん！！」

「うるせえ、このド素人が！！」

立ち上がったアスカの拳が、トウジに向かう。

しかし、トウジの顔面を捉えたその拳は、トウジには全くダメージを与えていなかった。

「そんなモンが効くかい！パンチっちゅうのはなぁ…こうやるんや！！」

トウジの鉄拳が、またしてもアスカを捉える。

立った姿勢で手加減無しに放たれた拳は、アスカを吹き飛ばした。

「さあ、立たんかい！それで終わりなんか！その程度の奴なんか！立ってみせんかい、アスカ！！」

「コノヤローーー！！」

立ち上がってパンチを乱打するアスカ。

その全てがトウジを捉えているが、全く効いている様子は無い。

再び吹き飛ばされるアスカ。

だが、アスカは再び立ち上がるとトウジに殴りかかる。

そこへ、ミサトとリツコが現れた。

「止めなさ……！！」

トウジを止めようとしたミサトだったが、アスカが目覚めているという事実に気付き、絶句した。

ミサトとリツコに気付いたトウジは、二人に向かって言い放つ。

「止めんといて下さい！これは、ワシとあいつの問題なんです！」

そう言いつつアスカを殴り倒すトウジ。

しかしアスカは怯む事なく、再び立ち上がるとトウジへ殴りかかった。

殴り倒され、また立ち上がり殴りかかる、そんな光景が何度も繰り返される。

「コンチクショーーーーー！！！！」

そして、叫ぶアスカの会心の一撃が、トウジの頬を捉えた。

「ようやく目ぇ覚めたみたいやな、アスカ。今の、ええパンチやったで」

ニヤリと笑うトウジ。

「ハ〜イ、そこまで！もういいでしょ、二人とも」

ミサトが割ってはいり、アスカの拳にそっと触れる。

そして、ニッコリ笑うと陽気に言った。

「丁度いい時間だし、ゴハンにしましょ！」

そのいきなりな発言に、気勢を削がれるアスカ。

「ミサト…今のアスカに与えてもいいのは、流動食だけなのよ。ちゃんと解ってるんでしょうね？」

こめかみを押さえてそう告げるリツコ。

「へ？…そうだっけ？」

「そうだっけ？じゃないわよ！今のアスカは、一週間以上何も口にしてないのよ。そんな状態で、普通の食事を与えていい訳ないでしょ！」

「それもそうね。じゃぁ、スープか何かを出してもらいましょ。とにかく、今は腹ごしらえが最優先よ。昔から『腹が減っては戦はできぬ』って言うでしょ」

「…そうだったわね。アスカ、トウジ君、行きましょうか」

ミサトが持ち出した格言に現在の状況を思い出し、リツコは歩き出す。

そして、食堂へと移動した一行は、まずアスカへの状況説明を行った。

「ふぅん…俺が寝てる間に、そんな事があったのか…」

スープを啜りながら話を聞いていたアスカは、最後の一滴まで飲み尽くすとそう呟いた。

「そう、そしてユウリちゃんは心を閉ざしてしまったわ。ついさっきまでの、アスカと同じようにね」

口惜しさが滲む口調でミサトが言う。

「したがって、最後の戦いは、あなた達二人で戦ってもらう事になるわ」

「最後？次の使徒が最後だってのか？」

リツコの言葉に対して、問い返すアスカ。

「いいえ、渚カヲルが最後の使徒よ。次の相手は人間、そしてエヴァ…」

リツコの発言によって、一同に一瞬の沈黙が訪れる。

「ちょ、ちょっと待ってくれ！エヴァが敵って、一体どういう事だよ！」

「せや！リツコはん、何でエヴァが敵になるんでっか！？」

リツコの言葉をようやく理解した二人が、リツコに詰め寄った。

「詳しい事は、私の研究室で話すわ。食事も終わったようだし、行きましょうか」

そう言って立ち上がるリツコとミサトに、アスカとトウジは付いて行った。

リツコの研究室に着くと、そこにはマヤの姿。

「先輩、準備完了で…ア、アスカ！あなた、目が覚めたの！」

「ああ、ついさっきな」

そう答えるアスカに抱きつき、マヤは泣き始めた。

潔癖症であるが故に、また様々な機密に触れていたが故に、彼女は子供達を戦場へ送り出すことに、人一倍強い罪悪感を抱いていたのだ。

しばらく泣き続けた彼女に、リツコの声がかかった。

「マヤ、泣くのは後よ。今やるべき事は、他にあるでしょう？」

「わ、わかりました！」

アスカから離れたマヤがキーボードを操作すると、研究室中央の大きなモニターに映像が映し出される。

「今から、あなた達に全ての真実を明かすわ。その結果、私達を恨むかもしれない。でも、全てを知った上で最後の戦いに挑んで欲しいの」

そう前置きした上で、リツコは全てを語り始めた。

リツコの口から語られる驚愕の真実、それは二人の少年に重く圧し掛かった。

「……ママが、ママが弐号機の中に居るって本当なのか？」

いち早く復活したアスカが、声を絞り出すように尋ねた。

「本当よ」

簡潔に答えるリツコ。

「でも、俺のママは！」

「惣流博士は、エヴァとの接触によって魂を取り込まれてしまった。自殺したのは、その抜け殻よ。惣流博士の魂は、弐号機の中で今もあなたを見守っているわ」

今度は優しく、諭すように答えるリツコ。

「ほな、ワシのお母んも…？」

「ええ、あなたのお母様、鈴原博士も同じように参号機に取り込まれてしまったわ」

リツコの言葉は、あくまでも優しい。

二人の少年は、涙を止める事が出来なかった。

「あいつは、ユウリは知ってるのか？」

「ええ、知ってるわ。あのコは、初号機の中のお母様から全てを聞いたのよ。そして、それを一人で抱えて戦っていたの」

アスカの問いに、今度はミサトが答える。

「馬鹿が、無理しやがって…。で、俺たちがやらなきゃいけないのは、そのゼーレとかいう連中を倒す事なのか？」

「あなた達の役目は、ゼーレの切り札であるエヴァ量産機を倒す事。そうすれば、サードインパクトは回避できる。後は、大人の仕事よ」

重ねて問うアスカに、軍人の顔でミサトが答える。

「という訳で、大至急あなた達のシンクロテストを行いたいのだけれど、いいかしら？」

「「了解！」」

リツコの問いに、二人は敬礼して答えた。

　

　

「す、凄い！弐号機、シンクロ率１００％。参号機、シンクロ率９８％です！どちらも、ハーモニクスの誤差は全くありません！」

マヤの声が、管制室に響いた。

スタッフの顔にも、希望の光が灯る。

「リツコ、これなら勝てるかもしれないわね」

「確かに、今の二人のシンクロ率なら今までとは比較にならない動きが可能よ。でも、電源の問題が残っているわ。Ｓ２機関によって無限の稼動時間を得ている量産機を相手に、どこまでやれるかしら」

「消耗戦になったらアウト、て事？」

「そうね。ついでに言えば、ダミーシステムは疲れ知らずでもあるわ」

「短期決戦で一気に決着をつけるしかない、て事ね」

「その通りよ。…二人とも、もういいわよ。あとはゆっくり英気を養って、決戦に備えて頂戴」

「「了解！」」

こうして二人は、いつもの生活パターンからは考えられない程早い時間に就寝した。

そして翌朝、人類の命運を賭けた最後の戦いが幕を開ける。

　

　

マヤの報告が、全ての始まりだった。

「来ました、各ＮＥＲＶ支部からのハッキングです！！」

マヤ達メインのスタッフ以外に、動揺がはしる。

だが、自信に満ちたリツコの声が、それを蹴散らした。

「心配無用！こんなこともあろうかと仕掛けておいた、私のエージェントがすぐに起動するわ！そうすれば、支部のＭＡＧＩレプリカは全てオリジナルの支配下よ！」

得意満面のリツコ。

やはり、『こんなこともあろうかと』というセリフは彼女にとって特別な思い入れでもあるらしい。

「素敵です、先輩！」

そんなリツコに、マヤが見とれている。

そうこうする間にも、オリジナル対レプリカの戦いは続く。

そして、ついにオリジナルが勝利した。

「フッ、勝った。これで、全てのレプリカはオリジナルの端末機と化したわ！」

ニヤリと笑うリツコに、冬月からの指示が下された。

「赤木博士、全てのレプリカを発信源にして、例の計画を始めたまえ」

「了解しました。マヤ、例のプログラムを起動して。真実を、世間に公表するのよ」

ＭＡＧＩを通して、ゼーレの存在やその野望、セカンドインパクトの真実等のデータが流れていく。

だが、あと一歩遅かった。

死神の鎌は、既にＮＥＲＶの喉元へ突き付けられていたのだ。

複数のレーダーサイトが一瞬にして破壊され、今まで身を潜めていた戦略自衛隊が侵攻を開始する。

それに対し、普段は発令所に居ない保安部長の霧島タケシから指示がとぶ。

ミサトは対使徒戦の為に抜擢された指揮官であり、対人戦に関しては、歴戦の勇者である霧島の方が圧倒的に上なのだ。

余談ではあるが、これもミサトが保安部、諜報部から良く思われていない原因の一つであった。

『霧島タケシ』、『山岸ヨシハル』の両二佐は、豊富な経験と高い能力を持つ生え抜きの軍人である。

その二人を差し置いて作戦部長の椅子に座るミサトは、彼等の部下にとっては許し難い存在なのだ。

だから、自分の出る幕ではないと感じたミサトは、霧島に下駄を預けて静観していた。

『子供達に人殺しはさせたくないので、エヴァを出撃させないでくれ』という霧島からの依頼があったので、エヴァは出撃させていない。

戦いは激しさを増し、質、量ともに劣るＮＥＲＶは徐々に押され始めている。

エヴァを投入しなければならないのか、ミサトがそう判断した時、傍受していた戦自の無線から驚くべき言葉が流れた。

『私は、第６６６特務機甲師団団長の東郷である！展開する全ての部隊に告ぐ。直ちに停戦、撤退せよ！正義は貴公らには無い。この勧告を聞き入れぬ者は、実力をもって排除する！！』

それから暫くの間、スピーカーからは、東郷と戦自の各部隊長との喧嘩腰のやり取りが流れ続けた。

戸惑うＮＥＲＶのスタッフ達。

そんな彼等をよそに、６６６師団対戦自の戦いが始まる。

戦自の各部隊を、一方的に蹂躙していく６６６師団。

元々実力差がある上、ほぼ後方からの不意打ちに近い状況の為、戦自の各部隊は成す術無く倒されていく。

そして、後方の部隊が撤退、さらに本部内への侵入を果たした部隊が殲滅された頃、発令所に通信が入った。

「ＮＥＲＶの皆さん初めまして、６６６師団団長の東郷です。我々６６６師団は現時刻をもってＮＥＲＶに投降、以後ＮＥＲＶの指揮下に入ります」

「私は、ＮＥＲＶ司令代行の冬月だ。貴公らの協力に感謝する。だが、何故かね？何故貴公らは、ＮＥＲＶの味方をする気になったのかね？」

「かわいい娘の為、ではいけませんか？」

「…結構、では幹部の方々だけでも発令所に来て頂けますかな？」

「了解しました。今そちらの加持一尉が迎えに来てくれましたので、彼に案内してもらう事にしましょう」

通信が切れると、発令所に安堵の空気が漂う。

それから数分後、発令所に、加持に案内されて東郷達が現れた。

互いに自己紹介を済ませると、即ミーティングに入る一同。

そしてミーティング終了後、東郷の発した質問がＮＥＲＶのスタッフに動揺を与えた。

「ところで、ユウリは今どうしていますか？出来れば、会わせて頂きたいのですが」

押し黙るＮＥＲＶのスタッフ達。

その様子に何かを感じた東郷が、さらに尋ねる。

「まさか、ユウリに何かあったのですか？」

「ユウリちゃんは…心を…閉ざして…しまいました…」

保護者の義務とでも思ったのか、ミサトが重い口を開いた。

「心を？…そうですか…。あのコは、戦いに身を投じるには優しすぎるコでしたからね…。で、会わせて頂けますか？」

「マヤ、あなたが案内してあげて。私達は、発令所に戻るわ。いつ次が来てもおかしくない状況だから」

東郷の問いにリツコが答え、ＮＥＲＶのスタッフ一同が席を立つ。

そして、東郷は自分の部下に指示を出した。

「お前達は、工作員等の侵入に備えて警戒を続けろ。指揮は、霧島君に任せるといい。地理に不慣れな私よりも、的確な指示を出してくれるだろう」

「「「「了解しました！」」」」

部かの敬礼に頷くと、東郷は立ち上がってマヤに向き直った。

「お嬢さん、ユウリの所へ案内していただけますか？」

　

　

東郷をユウリの所へ案内したマヤが発令所へ戻って間もなく、量産機を搭載していると思しき大型輸送機の機影を捕捉した。

「おいでなすったわね…エヴァ弐号機、参号機、発進！」

ミサトの号令で射出される、紅と黒の巨人。

どちらも、飛び道具の類は装備していない。

エヴァを仕留めるには接近戦しかない、との判断からである。

「よっしゃ！いつでも来い、返り討ちにしてやるぜ！！」

お気に入りの、ソニックグレイブを構える弐号機。

ちなみに、今回は弐号機にもプログレッシブナックルが装備されている。

「やったるで！負けられへん、負ける訳にはいかんのや！！」

こちらは両手にスマッシュホークを構える参号機。

やがて、空から９体の純白の巨人が舞い降りてきた。

「量産機ってのは、飛べるのか！？…だが、お互い飛び道具は持ってねぇ。さっさと降りてきやがれ！」

叫ぶアスカ。

あるいは、そうする事で恐怖を振り払っているのだろうか。

地上に降り立った量産機は、翼を畳むと両刃の巨大な剣を構えた。

「なんや、気色悪いのう。何であないなデザインなんやろな、アスカ」

「そんなの、俺が知る訳無いだろ。でも、いいじゃねぇかよ。コイツは、いかにも悪役らしい面構えだぜ！」

トウジの場違いとも言える疑問にアスカが答える。

確かに、量産機の顔は悪役っぽかった。

まるで蛇の頭でもくっつけたかのように細長く、のっぺりとしている。

そして何故か目が無く、口が不自然な程に大きいのだ。

更には、弐号機、参号機が直立であるのに対し、量産機は猫背。

はっきり言って、不気味な事この上ない。

頭部のデザインが違うだけなのだが、弐号機、参号機と量産機とは、まるで別物のようにさえ思えてくる。

その量産機が、何故か一斉に笑った。

「クッ、笑ってられんのも今の内だ！トウジ、行くぜ！！」

アスカの声を合図に、戦いが始まる。

高いシンクロ率を誇る２体のエヴァは、全く量産機を寄せ付けなかった。

しかし、全ての量産機が倒れ、皆が勝利を確信したその時、マヤの報告が発令所に響く。

「量産機、再起動します！」

「どうなってんだよ、コイツら！！」

「こんだけやられて、何で動けるんや！！」

焦るアスカとトウジ。

二人の目の前で、量産機はどんどん再生していく。

「二人とも、よく聞いて。どうやら量産機には、Ｓ２機間を搭載しているおかげで高い再生能力があるようなの。だから、コアかプラグを破壊して。そうすれば、再生は出来ない筈よ」

「聞いたか、トウジ」

「聞いたで、アスカ」

「「よっしゃ、行くぜ（で）！！」」

リツコのアドバイスを聞いた二人は、再び量産機に向かっていく。

だが、今度はそう簡単にはいかなかった。

量産機が、学習していたからだ。

量産機は、アスカの陽動にも引っ掛る事なく、常に他対一の状態をキープし続けた。

それでもどうにか撃退し続ける二人であったが、さすがに無傷とはいかない。

「…なぁアスカ、エヴァの操縦っちゅうのは、痛いモンやったんやのう…」

「バカ、泣き言なんか言ってんじゃねぇよ！アイツはなぁ、これ以上の痛みにずっと耐えてきたんだ！これしきで根を上げたら、アイツに笑われるぜ！！」

「そうやな…その通りや！いくで、アスカ！」

「おうよ！やってやるぜ！！」

戦いは、膠着状態のまま続く。

やがて、量産機は戦術を変えた。

宙に舞い、手にしていた大剣を投擲したのだ。

数が多い為に避けきれず、ＡＴフィールドで食い止める二人。

その目の前で、剣が変形し始めた。

二重螺旋を描く二又の槍へと変形していく、量産機の剣。

剣から槍へと変形を終えた瞬間、今まで持ちこたえていたＡＴフィールドが破られた。

「まさか、ロンギヌスの槍！？いけない、二人共逃げて！！」

リツコが叫ぶ。

だが、時既に遅し。

フィールドを破った槍は、弐号機と参号機を貫いた。

「「うあぁぁぁーーーーーー！！！！」」

二人の絶叫が響く。

機能を停止する、２体の巨人。

「チクショウ！負けられねぇのに、負ける訳にはいかねぇのに！動け、動け、動いてくれよ、ママ！！」

「ワシらは負けられへんのや…動いてくれ、頼む！ワシの為やのうてええ、ナツミの為に動いてくれ！」

アスカの、そしてトウジの叫びが届いたのか、再び動こうとする２体の巨人。

そこへ、量産機が一斉に襲いかかった。

２体の巨人は、一方的に蹂躙されていく。

量産機が離れた後には、装甲が剥がれ落ち、所々を食い散らかされた２体の巨人の姿があった。

　

　

東郷は、ずっとユウリを眺めていた。

そんな彼の傍らのモニターは、戦況を映し出している。

東郷をここに案内したマヤが、気を利かせて病室のモニターを発令所にリンクしていったのだ。

「ユウリ、このままでいいのか？お前の戦友達は今、戦っているぞ。お前に殺された渚君とやらは、お前のこのような姿は望んでいないのではないか？お前の生を願ったからこそ、自ら死を選んだのではないのか？」

マヤに事情を説明された東郷の呼びかけにも、ユウリは反応しなかった。

そのまま時が流れる。

しかし、弐号機と参号機が槍に貫かれた瞬間、ユウリの口が開いた。

「アスカ……トウジ……行かなきゃ……母さん……」

呟きながらゆっくりと置きあがるユウリ。

「ユウリ、私がわかるか？ユウリ！」

東郷に肩を掴まれ、前後に激しく揺られたユウリの目に光が戻った。

「センセイ…？」

「そうだ、私だ。とにかくコレを見ろ、ユウリ！」

そう言ってモニターを指差す東郷。

それにつられてモニターを見たユウリの目が、驚愕に開かれた。

「アスカ！トウジ！」

「行きなさい、ユウリ。この状況を打破できるのは、お前だけなのだろう？行って、未来を手にしてこい！」

「はい、了解です！」

そう返事をしたユウリは、敬礼するとケイジへと駆け出した。

　

　

発令所のメインスクリーンには、量産機が映っていた。

弐号機と参号機を倒した量産機は、何かを待っているかのように周囲を見回している。

絶望感に包まれるスタッフの耳に、マヤの報告が飛び込んだ。

「初号機が起動しています！」

「何ですって！？パイロットは、パイロットはどうなってるの！？」

「ユウリちゃんです、ユウリちゃんが乗ってます！」

叫ぶミサトにマヤが答える。

そこへ、初号機からの通信が入った。

「心配かけてゴメンナサイ。エヴァ初号機、発進します！！」

初号機は、空間転移して量産機の前に立ちはだかった。

その手には、オリジナルのロンギヌスの槍が握られている。

そして、壮絶な戦いが始まった。

ロンギヌスの槍とＡＴフィールドを駆使する初号機の強さは、圧倒的だった。

しかし、先の戦いで学習した量産機も、簡単にはやられない。

倒される時には巧妙に急所を外し、攻撃の際も一斉に飛びかかるのではなく、微妙にタイミングをずらして波状攻撃を仕掛けたのだ。

それ故に、初号機は量産機を１体も殲滅する事が出来なかった。

何せ、例え１体を倒しても、止めを刺す前に次が襲いかかってくるのだ。

加えて、倒された機体も、他の機体が戦っている間に再生を済ませ、戦列に復帰する。

その為、ユウリは全く休む間も無く戦い続けねばならなかった。

しかも、加粒子砲などの大技は、使う隙を与えて貰えない。

そうして初号機の参戦から一時間程経った頃、戦況に変化が訪れる。

３００を超える高いシンクロ率を維持して戦い続けたユウリは、もはや体力気力ともに限界に達していたのだ。

そこに、大きな隙が生じた。

ある１体をＡＴフィールドで切り捨て、それに背を向けた瞬間。

倒した筈のそれがニヤリと笑い、槍を投げつけたのだ。

投げつけられた槍は、初号機の背中から胸へと貫通した。

「！！…うそ……」

呟くユウリ。

そして、動きの止まった初号機に量産機が一斉に飛びかかった。

あっという間に取り押さえられる初号機。

量産機達は、初号機の手にしていたオリジナルの槍を初号機に突き立て、レプリカの槍で両手に傷をつけた。

その瞬間、ユウリの手にも同じ傷が刻まれる。

さらに量産機達は、初号機を牽引して宙へと舞い上がってセフィロトの図形を形成し、自分達も槍のレプリカを胸に突き立てた。

その瞬間、解放されたＳ２機関から凄まじいエネルギーがセフィロトの中心たる初号機へと流れ込み、ユウリの心を破壊しようとする。

「うあぁぁーーーーーーー！！」

ユウリが叫ぶと同時に強力なアンチＡＴフィールドが発生、どんどん出力を増していく。

全ての生命が持つ、心の壁を破壊する為に。

その様子を、発令所のスタッフ達はなす術も無く見詰めていた。

　

　

その頃、レイはセントラルドグマに居た。

「ユウリさんが呼んでる…行かなきゃ…」

白い巨人を見上げながら、レイが呟く。

レイは今、全てを思い出していた。

ユウリの言葉が、流した涙が、失われた筈の記憶を呼び覚ましたのだ。

そしてレイは、ユウリを救う為に白い巨人と一つになった。

磔から逃れた巨人は、自らの足で地面に立つ。

天を見上げる巨人。

仮面が落ちて晒された素顔は、綾波レイそのものだった。

「ユウリさん、あなたは私が守るわ…」

巨人となったレイは、そう呟くと宙へ舞う。

その様子は、発令所でも観測されていた。

「セントラルドグマにＡＴフィールド発生！パターン青、使徒です！こ、これは…第２使徒！？」

青葉の言葉と同時に、ドグマから白い巨人が現れた。

レイの姿をした巨人は、強力なアンチＡＴフィールドをものともせずに初号機へと接近、同化した。

初号機と同化したレイは、ユウリへと呼びかける。

「ユウリさん…負けては駄目…。大丈夫、私がついているわ…」

「レイ…！？レイなの！」

「ええ、そうよ。ユウリさん、しっかりして。このままエネルギーを解放したら、全てが無に返ってしまうわ。それは、あなたの望む事ではないでしょう？」

「私、どうしたらいいの？」

「強く願うの。この力をどうするか、それを決めるのは依り代となったあなた」

「願う？」

「そう。そしてその力をあなたの願い通りに導くのが、私とリリスの役目」

突然横から割って入った声に、ユウリは振り向いた。

そこには、白銀の髪と真紅の瞳を持つ少女の姿。

「カヲルさん、どうして…」

「言ったでしょう？私は、あなたに会う為に生まれてきたって。リリスの魂が彼女の中にあるように、アダムの魂は今、私の中にある。アダムとなった私の役目は、新たな『主』となったあなたの手助けをする事」

「そうよ、だからユウリさん、願って。私達が力を導くわ…」

「よく解らないけど、その前に一つ訊かせて。ねえカヲルさん、どうして私達が戦わなきゃいけなかったの？一緒には、いられなかったの？」

「全ては、造物主の創りたもうた運命。アダムとリリスから生まれし私達兄弟は、戦わねばならない運命なのよ」

「どうして！？どうして戦わなきゃいけないの！？」

「戦いに勝利し、生き残った者が次の王国の『主』となるから」

「ど、どういう事なの！？」

「『主』となった者は、旧き王国を消し去り己の王国を創造するわ。次の戦いまでの間だけ存続を許される王国を、ね。その創造こそが、リリンがサードインパクトと呼ぶモノの正体」

「それじゃ、今の世界は私達の祖先が勝って創造したモノなの？」

「そう、かつての戦いにはリリンが勝利したわ。『知恵の実』の力で、『生命の実』の力を封じて。そして私達は眠りについた…次なる戦いに備えて」

「そして目覚めて…この街へ来たのよね？でも、どうしてゼーレの言いなりになっていたの？」

「リリンの事を知りたかったから、かな。彼等の元には、様々な情報が流れてくる。それを眺めるのは、とても有意義な事だったわ。勿論、彼等を眺めるのも面白かったけれど」

「それで…どう思ったの？」

「よく解らなかったわ。だから、ここへ来たのよ。そして、あなたに出会った。我等の『希望』たるあなたに」

「私？…私がどうしたっていうの？『希望』って…何？」

「あなたなら、『運命』という名の牢獄を打ち破り、私達を解き放ってくれると思ったの。だから、あなたに全てを託したのよ。『死』を選ぶ事は、私にとって唯一絶対の自由だから」

「解らない…解らないよ！私なんかに何が出来るっていうの！？」

「リリンが勝利した事によって、今の王国が存続する筈だった。でも、老人達のせいで創造の為の力が暴走しているわ。その力に道を指し示すのが、今のあなたのなすべき事」

「そうしたら…どうなるの？」

「王国を創造する為の莫大な力を、他の事に使う。そうする事で、何かが変るかもしれない。私だけでなく、全ての兄弟達が牢獄がら解き放たれるかもしれないわ」

「解った…私、やってみるよ！」

友の為に、ユウリは願った。

セカンドインパクトによって傷ついた世界が、癒される事を。

そして何より、全ての命に未来が訪れる事を。

その瞬間、世界は光に包まれた。

ユウリの願いは力と一つになり、レイとカヲルの導きによって世界中に広がっていく。

「これでもう大丈夫ね。私達の役目も終わり…もう行かなきゃ」

「そうね…名残惜しいけれど、それが運命…」

レイとカヲルが、それぞれに呟いた。

「駄目だよ！行っちゃヤダ！！私と一緒に居て、私を置いてかないで！！」

ユウリの言葉に、二対の真紅の瞳は困惑した。

「いいでしょ？一緒に居ようよ！だからおいでよ、私の中へ…」

差し伸べられた手を暫し見詰めると、レイとカヲルは頷き合ってユウリの中へと入り、そしてユウリの胎内の新たな命へと宿る。

満足げな笑みを浮かべたユウリは、そのまま眠りについた。

呪縛から解かれた初号機は、１２枚の翼を広げてゆっくりと舞い降りる。

その姿はあまりに神々しく、まさに天使そのものだったという。

　

　

全ては終わった。

ＮＥＲＶが公開した情報によって存在が明るみに出たゼーレは、国連や世界各国の尽力でその力を奪われ、断罪された。

それに伴い、各国政財界の要人達が幾人も逮捕され、国際法廷へ。

当然、ＮＥＲＶへの侵攻という失態を犯した戦略自衛隊には、特に厳しい裁きが下される事となる。

戦自は解体、完全に国連の下位組織となり、幹部連と日本国政府の首脳陣は国際法廷で問答無用の有罪となった。

但し、ＮＥＲＶに協力した６６６師団に関してはお咎め無しとなり、そのままＮＥＲＶへと編入。

また、ゼーレに協力したＮＥＲＶの各支部に関しても厳しい裁きが下され、幹部は全て本部の息がかかった者へ。

そして、ＮＥＲＶ本部にも大きな変化があった。

まず、国連色を強める為なのか、階級制が自衛隊式から通常の軍隊と同様のものへ変更。

そして、司令代行であった冬月が正式に司令に就任。

本人は引退して罪を償うつもりだったのだが、周囲の『世界の復興に尽力する事で償うべき』という意見により、結局司令に就任させられる事に。

以後、彼はその生涯を世界の復興に費やした。

空いた副司令の席には、なんと東郷が就任。

彼の部下達も、要職に就いた。

余談ではあるが、新体制の人事が固まりつつある中、葛城ミサトは退職を願い出ている。

『私の戦いは、終わったわ』とは本人の弁。

その左手の薬指に指輪がはまっていたので、誰もその言葉を本気にしてはいなかったが。

しかし、なんと言っても一番の変化はチルドレンの情報が公開された事だろう。

マスコミに対して公開された内容は、以下の通りである。

『ファーストチルドレン：綾波レイ。

世界初のチルドレン。

幼少の頃より様々な実験に参加し、エヴァ関連技術の確立に貢献したテストパイロット。

常に冷静沈着で、射撃技能に長じていた。

機体の事故等により、実戦への参加は第５使徒戦から。

第１６使徒戦において使徒と共に自爆、戦死した』

『セカンドチルドレン：惣流・アスカ・ラングレー。

幼少の頃より戦闘訓練を受けて育つ。

その他にも、１３歳で大学を卒業するなど多彩な才能を発揮。

実戦への参加は第６使徒戦より。

以後、最終決戦まで戦い抜いた』

『サードチルドレン：碇ユウリ。

ずば抜けて高い戦闘力を誇る、エースパイロット。

第３使徒襲来直前に選抜され、それ以後全ての戦闘に参加。

最終決戦において、一時サードインパクトの依り代となる。

しかし、それを跳ね除け世界を救った』

『フォースチルドレン：鈴原トウジ。

第７使徒戦後に選抜、第９使徒戦より実戦に参加。

後発故、実力的には他のチルドレンには劣った。

しかし、チルドレンの潤滑油的な役割を果たす。

以後、最終決戦まで戦い抜いた』

『フィフスチルドレン：洞木ヒカリ。

第１２使徒戦後に選抜、第１３使徒戦から実戦に参加した。

が、その戦いで乗機を失い、リタイア』

もう一人のフィフスチルドレン、渚カヲルに関しては存在そのものが抹消され、最高機密扱いに。

チルドレンの情報は、ＮＥＲＶにとっては暗部を誤魔化す為の隠れ蓑的な扱いだったのだが、マスコミはこれに飛び付いた。

世界を救った英雄が１４歳の少年少女達だったという事実、それはゼーレやそれに組する行動をとった者達の立場を、さらに悪くする。

結果、世論は親ＮＥＲＶ一色となり、世界中から第三新東京市復興の為に、支援の手が差し伸べられる事となった。

勿論、様々な政治的思惑が絡んでいた事も事実であるが。

ＮＥＲＶは、その資金を使ってエヴァの修理を進める。

弐号機と参号機に、量産機から回収・修復したＳ２機関と飛行ユニットを搭載。

量産機自体も、使用可能な部品を組み合わせて４体が修復され、そのパイロットとして、洞木ヒカリがチルドレンに復帰。

また、新規に霧島マナ、山岸マユミ、相田ケンスケが選抜される事となる。

そうした急激な変化の中、サードインパクトの依り代となったユウリは、いまだに目覚めなかった。

　

　

最終決戦から２ヶ月、アスカとトウジの二人にある事実が告げられた。

「ユウリが、妊娠！？」

「そ、２ヶ月よ。あなた達、心当たりが無いかしら？」

にこやかに問うミサト。

だが、その目は『てめぇら、ヤッちまったんじゃねぇだろな？とっとと吐かねぇと痛ぇメ見るぜ！』と言っている。

「少なくとも、俺にはねぇな。彼女持ちのトウジにある訳もねぇし…フィフス、いや渚カヲルじゃねぇのか？」

「どうしてそう思うの？渚カヲルは女のコだったわよ？」

「以前、聞いた事がある。レイのヤツ、いわゆる『半陰陽』だったんだよな？その渚ってヤツも、レイと同じだったんだろ？」

「そう…そうかもしれないわね……」

アスカの答えに、ミサトは複雑な表情をした。

「じゃぁ俺、これから見舞いに行くから」

そう断って、アスカはその場を去った。

「ミサトはん…アスカの奴、変わったと思いまへんか？」

「ええ、確かに変わったわ。自分以外を認め、受け入れる余裕が出来たのね」

トウジの問いに答えたミサトの顔は、とても優しげだった。

　

ユウリの眠る病室へと入ったアスカは、いつもの通り椅子に座った。

「なあユウリ…お前、母親になるんだとさ。だからさ、子供の為にも早く目を覚ませよ」

ユウリの頬を撫でるアスカの顔は、慈愛に満ちていた。

サードインパクトが発生したあの時、アスカは知った。

ユウリの過去を、その心を。

そして何より、自分という存在が、ユウリの中では特別な位置に居たという事を。

アスカは悔いた。

つまらない虚栄心からユウリを拒絶し、全てをぶち壊してしまった事を。

そして、気付いてしまった。

己の心の奥底に封じ込めた、ユウリへの想いを。

「目を覚ましたらさ…もう一度、最初からやりなおそうぜ。そして、今度こそ本当の家族になろう」

アスカは、眠るユウリの唇に自分の唇を重ね、ゆっくりと離した。

「じゃあな、また来るよ」

そう言って病室を出たアスカは、本部内にあてがわれた自室に向かった。

そのアスカの脇を、既に顔見知りとなった医師と看護婦が駆け抜けて行く。

振り返って行き先を確認しようとしたアスカの耳に、ミサトの声が聞こえた。

「アスカ！ユウリちゃんが、ユウリちゃんが目覚めたのよ！」

それを聞いたアスカは、ユウリの病室へと駆け出した。

病室へと辿り着いたアスカの目に映ったのは、先ほどすれ違った医師と看護婦に診察されるユウリの姿。

そのアスカを押しのけるようにして、ミサトも病室に現れる。

二人の姿を確認したユウリは、少し照れくさそうに微笑んで言った。

「アスカ、ミサトさん、ただいま！」

　

　

目覚めてから２週間、アスカやトウジ、そして新たにチルドレンとなった親友達に支えられたユウリは、どんどん回復していった。

妊娠している事は、内緒にしていたが。

そんなある日、ユウリとアスカは司令室へと呼び出された。

「二人とも、よく来てくれたね」

二人を出迎える冬月の顔は、とてもにこやかだった。

「お話とは、何でしょう？」

ユウリが問う。

「うむ、これからの君達の事なのだがね。もし良ければ、アメリカにでも留学してみないかね？」

「「留学？」」

ユニゾンで問い返す二人。

互いを認め合った為か、かつての特訓の成果が復活を遂げたようだ。

「うむ。君達二人は、使徒との戦いにおいて心身ともに傷ついた。その君達に、暫くの間戦いを忘れて休養して欲しいのだ」

「「しかし…」」

「こちらの事は、何も気にしなくてもいい。アメリカでの住居はＮＥＲＶで用意するし、学費などもＮＥＲＶで全て負担する。期限も特にもうけないので、好きなだけ休養してきてくれたまえ」

二人は、暫く顔を見合わせると、冬月に向き直った。

「お心遣いは大変ありがたいのですが、本当によろしいのですか？」

「ああ、構わんよ。それに、子供を産むつもりなら、あちらの方がよけいな波風もたたんだろう？」

申し訳なさそうに問うユウリに、冬月はあくまでもにこやかに答える。

もう一度顔を見合わせた二人は、またしてもユニゾンで言った。

「「よろしくお願いします！！」」

そして二人は、アメリカへと旅立った。

　

　

　

　

　

＜後書き＞

ようやくここまでこぎつけました。

文章も、今までで一番長いです。

１話と比べると…実に３倍くらいになりますね。

分割すればよかったのでしょうが、何となく中途半端な気がしたもので。

読みにくくなかったですか？

それにしても、今回は『お約束』、あるいは『王道』な展開の連続でした。

トウジ、２話連続で目立ちすぎ（笑）。

まるで、少年マンガの主人公みたい。

アスカよりも目立ってますね。

あと、東郷に関しては色々考えてみたんですが、結局こんな使い方になりました。

ご都合主義と言われればそれまでですが、他にいいアイデアが…。

『哀しみの師弟対決！

真実を訴えるユウリに対し、あくまでも軍人であろうとする東郷。

二人は再び手を取り合う事ができるのか！？』

などというパターンも考えてはみたんですが、止めました。

この話は、次回のエピローグでお終いです。

本当はユウリの「ただいま！」で終わってもよかったんですけどね。

残りあと１話、私の自己満足にお付き合い頂ければ幸いです。

それでは、次回も広い心でお読み下さい。

感謝の言葉

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