悪魔に等しい存在　−第３話「まわりだす舞台」−

・ ・ゥ・・クゥ・・

大きな白い犬が鼻をならしている。



「ん」



どうやら目を覚ましたようだ。

上半身を起こす。

犬・・・・ではない。狼が甘えるように身体を寄せる。いや、実際に甘えている。

「今日はどうなることやら」

顔を舐める。

「そうだね。相手次第。けど、面倒は避けたいね」

とある病室

ベットの中、蒼銀の髪に赤い瞳の少女は少年を見る。



「起きてたんだね」

少年が柔らかく微笑む。

「あなただれ？」

だが少女は無機質に尋ねる。

　「ちょっと待って　―不快だな」

　壁を見て眉を顰めると影からグノースが現れる。

　グノースが片手を薙ぐように動かすと闇が広がり彼等を包む。



「これでいい」



突然の異変に驚いている少女に対し少年は落ち着いていた。

「さて、実際に会うのは初めてだから“はじめまして”だね。」

少年が微笑みながら話しかける。

「もしかしてわからない？」

警戒している少女の様子にがっかりしたように言う。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　：

「わたしの名は　　　　　　　　君の名は？」

「綾波レイ」

「以前聞いたね。返答して欲しい。綾波レイ、わたしたちの家族にならないか？」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　：

　　　　　　　　　　　　　　　　　　：

　　　　　　　　　我が印を君に　今この時より汝我が家族

　　　　　　　　　　　　わたしは君を全力で守ろう

闇が晴れる。

　何も変わった様子はない。

　そこにリツコが入ってくる。



　「どうしたんですか？慌てた顔して」



　「なぜここにいるの」

　泊まっていたはずの部屋へ行ったが誰もいなかったので探したのだ。



　≪この子に会うと言うたはずじゃが≫



　グノースが答える。



　「なにをしていたの！」



　≪免疫系など弱っていたからの、勝手に治してもよいかわからんからきいただけじゃ。いや、それと治したの≫



　おちょくられている。

　悟り、とにかく心を落ち着ける。

　目の前で起こっている事は受け入れる。それから考えなければならない。現実を否定しても何も進まない。

　こんな事も忘れてるなんて、かなり頭に血が上っていたらしいと反省する。



　「赤木博士どうかしたんですか」



　レイが声を掛ける。



　「いえ。レイなにがあったの」



　嘘をつかないとわかっている相手に確認する。



　「定期的な投薬を必要としているようだが治していいかと問われました。」



　この言葉が与えた衝撃は大きかった。

　リツコには思い当たりが、それも知られてはならない大きな思い当たりがあるのだから。



　「治してほしいというと。その人が手を向けて、身体があたたかくなりました。」



　≪治しただけじゃよ≫



　レイは話を続け、グノースが補足？する。



　「他になにか言ってたかしら」



　「いいえ。赤木博士が来ました。」



　「そう。あとでもう一度検査するわ。もうしばらくここにいなさい。」



　「はい」



　レイの答えに安心したようだ。ここまでホッとするとは衝撃はかなり大きかったのだろう。



　≪わしは戻るぞ≫



　「もうですか？」



　≪いつでも呼ぶがよい。呼ばんでも来るがの≫



　「わかりました」



　シンジの返事に頷くと影の中に落ちるように消える。



　「シンジ君一緒に来てくれないかしら」



　その光景に呆然としていたがすぐに自分を取り戻す。



　「いいですよ。―また」



　狼にだけ向けていた笑顔をレイに向けるとリツコに半歩遅れ並ぶように歩き出す。これはシンジが追い着いたというより、リツコが意図したためだ。



「レイが気に入ったのかしら」



　歩きながら話しかける。

「なぜです？」

「あなたが笑い掛けたの初めて見たわ」

「ご想像にお任せします。話ってそれですか？」

「いえ。ただの興味よ」

リツコとシンジ、狼が向かったのはリツコの部屋だった。

　腰掛けたシンジの足元には狼がうずくまっている。

　コーヒーを渡しリツコも腰掛ける。

　短い時間だが、礼儀をもって接すれば無視されたりしないとリツコは気付いていた。



　「質問してもいいかしら？」



　「答えたくないことには答えませんよ。」



　辛うじて無表情ではない表情。

　だが好かれているとは思っていないので気にはしない。



　「あなたは本当にシンジ君なの？」



　リツコだけではなく、ゲンドウや冬月も最も気になっていた事を問う。

　最も、プラグから採取した毛髪によるDNA検査の結果は既に出ている。目の前の少年は間違いなく碇シンジだ。



　「どういう意味です？」



　意味がよくわからなかったらしい。まあ、突然「あなたは本人なの？」と聞かれて驚かない人間はいないだろう。



　「あなたの性格が報告にあったシンジ君とは全然違うのよ」



　請われるままシンジの報告書を渡す。

読みながらシンジは唇の端を吊り上げる。

「こんな風に見えてたんですか」

浮かべているのは嘲笑。

「友達がいないのはあってますよ。全然違うわけでもありませんね」

返しながら言う。嘲笑は消えていない。



「これを読むと、あなたは優柔不断」

　「決めなきゃいけないことなんて無かったですからね。必要無いですし。」

　「気が弱く言われたことに逆らわない」

　「逆らいませんでしたけど、それが気弱になるんですかね？」

　「自己主張をしない」

　「口ききませんでしたからね」

　　　　　　　　：

　報告書にある性格について読む度に考察が(当人から)入る。



　「なぜそんな風にしていたのかしら」

報告にある性格の大部分がいい加減な対応のせいと当たりをつけたリツコが尋ねる。

　「そんなの決まってるじゃないですか」

　そんな事もわからないのか。と目が言っている。

　「なにかしら？」

　「面倒臭いからですよ」

　「は？」

　さすがのリツコも聞き返す。



「だから。面倒臭いからですよ。わざわざ相手にしてたら面倒じゃないですか。わざわざ口なんてききたくないし。なら従ってたほうが面倒臭くないんですよ。早く終わるし。」



　「そ、そう。次は、他人の顔色をうかがう」



　その理屈にあいそうにないものをあげる。



　「昔はそうだったかな」

　初めて肯定が返る。

　「昔っていつかしら」

　「我が師と会う前ですよ。」

計画とは違った性格はやはりグノースが関わっていた。

　予想が１つ証明される。

「いつ会ったのかきいてもいいかしら？」



「１２歳の時ですよ」



あっさりと答えられる。

が、

「そんなに最近なの？」

もっと幼い頃だと思っていただけに驚く。



「ええ。１２歳の時に会って教えを受けはじめました。」



「あなたも同じ事が出来るのかしら」

気になっていたことだ。



「できません。比べるのは師への侮辱です。僕は師の足元にも及びませんから。」



きっぱりと言い切った声には苛立ちがこもっていた。

「ごめんなさい」

きつくなった目線に謝罪しする。

「それは会ったのが最近だからかしら」



「偉大な方だからです。」



本心から言っているのが良くわかる。それだけ尊敬しているのだろう。



「昨日の事を聞いてもいいかしら」

あの怪人物について、未知の存在であり知りたいと思うが、これほど尊敬する相手について根掘り葉掘り聞くのはまずいと思い留まる。気分を害して話さなくなっては本末転倒だ。

今はこの少年を知るのが先である。



「逆らわないでいたのに司令に反抗したのはなぜかしら」

「司令？」

「あなたのお父さんよ」

「ああ、あの髭面ですか。あいつがなんです？」

シンジの中では父というより髭面で定着したようだ。

「従わなかった理由よ」



「大人しくしてた方が面倒になりそうだったからです。」



簡単だ。

「どうしてそう思ったのかしら」

納得できつつも尋ねる。

「黙ってたらなんかつけあがってたじゃないですか。あんな幼稚園児以下の手紙ともいえない物を寄越した分際で。」

確かにあの“手紙”は酷かった。

さすがにフォローのしようもない。



「シンジ君これからもEVAに乗って欲しいんだけど」

話を変えることにしたようだ。

「EVA？」

「昨日あなたが乗ったものよ」

「お断りします」

考える素振りも見せずに即答

「なぜかしら」

「面倒臭いからに決まってるでしょう。ここの人間も気にくわないですし」



前半が最も大きいに違いない。



なぜかリツコはそう思った。

「なにが気に入らないのかしら？」

だがここで下がる訳にはいかない。

「愚か者ばかりじゃないですか」

当然。といった様子だ。

「そう思う根拠はなにかしら」

問いながら昨日も言われた気がした。

「まともな会話すら出来ない人間しかいなかったじゃないですか」

反論出来ない。

「愚か者も礼儀知らずも嫌いなんですよ。わざわざ関わるのは御免です」

間違い無く本心だろう。



「もし強制徴兵されたらどうするのかしら？」

最終手段だが好奇心が働いた。

「昨日みたいに目の前に出されても何もしません。あれで逃げるというのも手ですね。もしくは、先生に助けてもらいますかね」

最後だけはどうなるかわからないが、他は有り得そうだ。

無理矢理乗せても思い通りにはならない。それをはっきりと悟る。

「昨日乗ってくれたのはなぜかしら？」

面倒なはずなのに自分から乗り込んでいた。

「契約したからですよ」

確かにそんなことを言っていた。

「あなたにとって契約はそんなに大事なことなの？」

納得できずに尋ねる。



「当然でしょう。

　契約を破る時　死より辛い煉獄を覚悟せよ　其は当然の報いなり」



歌うように言葉を綴る。

「それは？」

「師に教えられた1つです。契約とはそれだけの効力を持つものですから」

“契約”の捉え方が全く違う。

だがそれほどのことなら手はある。



「なら、NERVとも契約してくれないかしら？」



「“誰”とです？」



提案に返ってきたのは呑み込まれそうな目と重い言葉だった。



「あなたが僕と契約を交わすのですか？ここの人間の誰か、1人でも、違反すれば、あなたがすべての罰と責を負うんですよ？それだけの資格と、覚悟がありますか？」



言葉が頭の中をまわる。



この交渉は自分の領分ではない。

というより手に余る。

それだけははっきりしていた。



「大丈夫ですか？」



掛けられた声にはっとする。

ここは自分の部屋だ。

さっきまで夢でも見ていたかのように目の前の少年はただ座っている。



その後第三新東京市に移り住む承諾をとり、住居と学校について説明して終わった。

少年が出て行くと椅子の背に体重を預ける。

とてつもなく疲労していた。

だが報告に行かなくてはならない。



司令室へ向かいながら、リツコは、これで少なくともあの少年とこれ以上交渉しなくて済むことに、自分が安堵しているのに気付いていた。

　綾波嬢、リツコさんのお世話にならなくても生きられるようになりました！

　リツコさん、契約から手をひきましたね〜

　あの司令がちゃんと交渉できるんでしょうか？

　次回は副指令の受難ですかね？

　ミサトさんがいなかった理由は・・・邪魔になりそうなのでリツコさんが排除していたからです！

　いい加減話を進めたいですね。申し訳ありません。見捨てないでやってください〜

グノースはなんとも怪しさ爆発状態（弟子のためにせこせこと働く師匠…）とか、
元とかなり性格が違うシンジ君とか、謎は深まるばかり♪
どんな展開になるのか楽しみですね。

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