シローは一人窓のほうを見る。
電車を降りたシローの前にはいつもの顔があり、二人で長い帰り道を歩いてかえる。
「なあ……」
「ん？」
「何でいつも待ってるんだ？」
しばしの沈黙。
答えが出ているのだが答えられない。
そんなリンの顔を見ながら、少し野暮だったかな、シローはそう思った。
シローとてそこまで鈍感ではない。リンの気持ちにうすうす気はついている。
ただ、その気持ちにこたえられるほど大人ではなかった。
彼女は沈黙を守るだろう。
そして、その沈黙を破れるのは自分のみ。
だが、シローにはそれがどうしても出来なかった。
（こういうのを臆病って言うんだろうな……）
結局、リンはその日、沈黙を守ったままだった。
アデル＝クランツは、その時、何かしらの予感に刈られた。
普段は決してなることのない携帯電話。
今まで、あの男との情報交換のみに使っているそれは、こちらから一方的に掛けるだけの代物だった。
それが、今鳴っている
いままでに無い事例。
それは何かいやなことの前触れではないのかと彼にはどうしても思えてしまった
「俺だ……」
いつもの声、あの男からだ。
「やあ、珍しいな。君の方から電話してくるなんて……いや、もちろん、してくれてもかまわない。うれしいよ。ただ、少し驚いただけさ。」
ビル街の中、一人立ち止まる。無機質な足音の群れが整然としながら騒がしい、まるで、人間までもそうなのかと思わせるほどだ。
「ところで、何か用があるんじゃないのか……プライベートな私用でも歓迎だが……君に限ってそれはないだろう……」
騒がしい街中の自分だけの沈黙の時間……
そして、電話ごしに男が話す。それは、男の最後を伝える電話だった。その言葉に、彼はその場のすべてを奪われたような錯覚を覚えた。
あれだけ騒がしかった足音も、人の群れも、ビルから差し込む夕日も、すべて感じれなくなった気がした。
それでもなんとか言葉を搾り出す。
「……どうゆうことだ。」
冷静を装っていったつもりのその言葉は、情けないことに震えていた。
「そうか、わかった……なに、覚悟はしてたさ。別れはいつかくる、そんなもんだろ……ああ、東京支部の葛城三佐だな。折をみてコンタクトを取ってみる……」
話をすることで、少しだが冷静になっていける自分を感じていた。
しかし、冷静になることで、事実に向かわなくてはならないことがつらい。冷静に時の流れを感じるのがつらい。
しかし、時はどのようにしても進む。
「最後に、あんたのこと、好きだったぜ。一緒に仕事が出来たことを誇りに思う。じゃあな。」
携帯が切れ、用のなくなったそれをポケットにしまう
これが自分にとって言わなければならない言葉だったのかわからなかったが、この言葉が、自分を奮い立たせてくれるような気がした。
「必ず、真実を導き出してみせる……」
それが、彼の願いでもあるのだから
―――白は嫌い―――
―――あまりにも純粋すぎて、何者にも交わることが出来なかった臆病な色―――
―――それは、まるで私のよう―――
その夜、ニナはベットから飛び起きた。
下着姿の体にじっとりと汗をかいており、やや息も荒い。
覚えてないが悪い夢でもみていたのか、どんな夢だったか少し考えたが、すぐにやめる
どうせ思い出せるわけもない。そして、思い出したからといってどうなるわけでもない
所詮は夢だ。
そんなことを思いながら、ふと、横目で隣の男に目をやる。
自分のすぐ横で静かに眠っている。
自分との接点など何もない。どこの誰とも知らぬ男、そういえば、抱かれる前に自分の仕事のことを誇らしげに話していたようだが、あまり興味の無い事だったせいか覚えていない。
その男の事情など関係ない。重要なのは温もりがもらえるか……
寝ていた途中で起きたためか、いささか気だるい。もう一度寝に入ろうとベットに入った時、ケリーの言葉が頭をよぎった。
『今は俺がいるし……』
「うそよ……そんなの……」
彼女は布団をかぶりながら、悲壮じみた声でそう言った。
(愛してだなんて言ったりしない、それでも、誰かにいて欲しいの、一人にだけはしないで……)
孤独であることが何よりも怖い。
彼女は、寝ている男を強く抱きしめる。
温もりはあった、だが、言い表せない空虚感が彼女を苦しめていた。
司令室に一人、彼女は受話器を相手に話をしていた。
いや、話というにはおかしいのかもしれない。
それは、あまりにも淡々と、事実だけを黙々と語っている。
「以上が四号機の試験結果です。チルドレンの方は……はい、ダミーのほうはもう実戦レベルに入っています。」
喋りながら、机の上にあったワイングラスの口を指でなぞり、その指を目で追う。
言葉に心は入っていない、入れる必要もない。
相手もそんなことは気にしていないはずだ、必要なことは真実のみ。
「それでは新たな事実が判明し次第連絡を入れます。」
受話器をおき、ワイングラスをなぞっていた指で軽くはじく。
チンと音を鳴らし、中の液体に小さな波紋を呼んだ。
「教授、あの男は何を考えておられるのでしょう？」
答えてくれるものなど当然いない。知っているものも知らない。
しばらくして、未だに小さく波打っているワイングラスに目が行った。
不思議と心が安らいでいく。
ふっと、自分がいったい何を望んでいるのかわからなくなる。
少なくともあの男のためではない。
ならば、教授のためだろうか、昔の恩師、自らの研究の成果と共に朽ち果てた、過去の女性のためだというのか。
「そして、私は何を考えているのでしょうね？」
「プロフェッサー・赤城……」
夕刻の中、リンは一人帰路につく。
「なんで待ってるのか……か……」
ワカッテルクセシテサ
「意気地ないよ。アイツ……」
そして……
「あたしも……かな……」
歯がゆくも、居心地のいい今の自分が彼女は嫌いではなかった。
日が変わり、ネルフ司令室。
『シロー、聞こえているな……』
エントリープラグの中、アデルの声が流れてくる。
「はい」
『今日は通常のメニューを変更して、実戦訓練を行う。』
「え……」
『相手は、エヴァンゲリオン八号機、あくまで実戦を想定した戦闘を行う。いいな……』
開始された実戦訓練。
戸惑いを見せるシロー。
そして、エヴァ同士の戦闘の結末は……？
次回『見えない自分、揺れて』
次回も fair des gentillisses aupres de
【あとがき】
大人：ええっと……更新出来なくてごめんなさい
アシ：今回のあとがき、これだけっすか？
大人：うん、一年経っちゃいましたが、やっとこ再開です。今までの続き待ってた方いらしたらごめんなさい。
アシ：なんか、すごく豪華なページになってるっすね。エリスの部屋……
大人：そうだなー……ごめんなさい
アシ：いや、別に謝るなくてもいいんじゃないっすか？
大人：そうか？……ごめんなさい
アシ：そこまで卑屈になんなくてもっす
大人：ごめんなさい
アシ：………
大人：……ごめんなさい
シンリ 「大人さん、お久しぶりです。
リンちゃんとシローくん、相変わらずですね。」
ＹＯＫＯ「一つの言葉が、居心地のいい時の終わりを告げる、と。」
シンリ 「これからの関係に期待・・・してますよ、シローくん。」
ＹＯＫＯ「けど、なんだかきな臭くなってきてるなぁ。
無精髭の謎の男（＾＾；）は殉職しちゃったようだし・・・。」
シンリ 「誰です、それ？ ボクの知らない人ですよね？」
ＹＯＫＯ「・・・。（＾＾；）」
シンリ 「えっと、ストーカーな人はとりあえず、ポイッ、てことで。
量産機との実戦を想定した訓練・・・危ない気がするけど、
シローくん、ファイト♪」
ＹＯＫＯ「時の流れは止まらない〜、後編、どうなるのか楽しみ。
さ、続きが読みたい人はメールを送って催促しましょー。」