「番組をごらんの皆さん、お待たせしました。アリーナバトルの時間です。
　前回は、標準人型ＡＣの登龍門とも言われるラフネックスさん相手に
　まさかのストレート勝ち♪　ＡＰを９割以上失ったところからの
　逆転勝利は、多くの視聴者の予想をいい意味で裏切った、と
　巷で評判のエルシィでーす♪」

　エルシィがカメラに向かって笑顔でポーズを決めると、派手な
　ファンファーレが響き、”祝　ランキング２８位”の文字が踊る。

「祝福のメッセージがたくさん届いているぞ。
　”これからもギリギリの戦いをがんばってください”って奴もあるし、
　”オレのところまで昇ってこい”って差出人不明な奴まで、な。」

「うーん、ちょっと謎だけど、なにはともあれ、これからも
　応援してくださいね。　そういえば、何かを忘れていたような気が・・・
　あっ、こんなところに週刊雑誌販売数のランキング表が！？」

　素人でもやらないような棒読み口調で、席の横に置いてあった
　表示パネルを取り出す。そこには、アリーナについて扱っている
　雑誌の売り上げが折れ線グラフで表示されている。

「各紙ともそれほど変動はないみたいだけど・・・あれ？
　ほら、アルフ、こんなところに、急降下してる雑誌があるわ。」

　他の線と別の派手で太い線が、急激に下降していることを
　表しているのだが・・・。

「・・・そーだな。」

　アルフの口調もどこか投げやりである。

「どこかで聞いたことがある雑誌名だと思ったら、あの”日刊レイヴン”
　じゃない♪　あらあら、こーんなに売り上げが減っちゃって可哀想〜。
　やっぱり、レイヴンを見る目がないのが、響いちゃったのかな♪
　ふっ、ふっ、ふっ、お・気・の・毒・さ・ま。」

　表面だけ取り繕っても、こぼれ落ちる喜びはどーにも隠せない、
　いや、そもそも隠すつもりなどないっ、と言わんばかりの
　晴れやかな笑顔で、手まで振ってる。

「まぁ、市場は価値のある物しか欲しない、ということだ。
　さ、そろそろ次の対戦相手について話をしようか、な。」

「はーい。」

　　なぜか、人目でゴミ箱と判る大きな入れ物に、エルシィはこれまで
　集めさせていた日刊レイヴンをぜーんぶ纏めて、ばさばさと無造作に
　放り込んでから、今回の対戦相手であるエンターブルーについて
　表示されているディスプレイのほうへと歩み寄る。

「今回の相手は初めての重武装タンク型だ。
　グレネードランチャー、３連ミサイル、１２０ｍｍライフル砲の武器腕。
　どれも当たると、結構なダメージを受けることになるぞ。」

「ＡＣと言えば、グレネードランチャー、というくらい有名な武器でしょ。
　初めてだけど大丈夫かな？　着弾すると爆発するから避けにくい
　って噂は聞くんだけど。」

「グレネードランチャーの弾頭は発射した時点で、爆発位置は決定している。
　だから、ＦＣＳの予測と違う機動ができれば、爆炎の範囲から
　逃れることも可能だ。もっとも、それが出来れば苦労はない。
　特に近距離から撃たれたら、どんなＡＣも回避はほぼ不可能だ。」

「避けられないってこと？」

「遠距離戦なら対処できる。」

「うーん、強敵ってことね。」

ＲＡＮＫ　２７ ＰＩＬＯＴ：エンター・ブルー　 Ａ．Ｃ．；シュタートゥエ

ＲＡＮＫ　２８ ＰＩＬＯＴ：エルシィ　　　　 Ａ．Ｃ．ジェーン�U

機体はこのクラスの代表的な 戦車型で、長距離砲を主体にバ ランス良く組まれている。これ といった特徴はない。

一般公募で選ばれた異色の レイブン。収支状態が凹むまで 戦い続けると公約しており、現在 賭けの対象としても注目度Ｎｏ１。

	エンター・ブルー		エルシィ
ヘッド	ＨＤ−０８−ＤＩＳＨ		ＨＤ−０１−ＳＲＶＴ
コア	ＸＣＨ−０１		ＸＣＡ−００
アーム	ＡＷ−ＲＦ１２０		ＡＮ−２０１
レッグ	ＬＣ−ＭＯＳ１８		ＬＮ−１００１Ｂ
ブースター	なし		Ｂ−ＶＲ−３３
ジェネレーター	ＧＲＤ−ＲＸ７		ＧＢＧ−ＸＲ
ＦＣＳ	ＴＲＹＸ−ＱＵＡＤ		ＦＢＭＢ−１８Ｘ
右腕武器	なし		ＷＧ−RＦＭ１１８
左腕武器	なし		ＬＳ−２００Ｇ
右肩武器	ＷＭ−ＰＳ−２		ＲＺＴ−３３３
左肩武器	ＷＣ−ＧＮ２３０		ＷＭ−Ｓ６０／６
備考	なし		ＳＰ−ＪＡＭ ＳＰ−ＡＸＬ ＳＰ−Ｓ／ＳＣＲ ＳＰ−Ｅ／ＳＣＲ




	エンター・ブルー		エルシィ
ＥＰ	３１１０／６８１０		５１２１／８２０７
ＬＥＧＳ　ＷＰ	６０６５／８０００		４６２６／４６３０
ＣＯＲＥ　ＷＰ	１８２７／３６００		１７４７／２７７０
攻撃力	６４７０		２１２０
防御力	２９５５		３６２４
安定性	４２４５		１３２０
機動性能	１９６０		５８４０
移動性能	１０５０		２７２０
旋回性能	９１０		１１２０
上昇性能	０		２０００
レーダー性能	９９４		２１１５
レーダー有効範囲	０		１１７０
ＦＣＳの機能性能	９９４		９４５
総合ポイント	１６６２４		１５０１９
評価	ＦＩＮＥ		ＦＩＮＥ
ＡＰ	９２３３		８５４４
ＷＥＩＧＨＴ	１０２４７		６９３１
ＰＲＩＣＥ	４３２０００		６７２３００


「威力の大きなライフル砲の武器腕はまぁ、弾速度が遅いから
　それほど痛くないとしても、ＷＭ−ＰＳ２って３発同時にミサイルが
　発射されるんでしょ？　しかも１ロックで。」

「その通り。だから、ＳＰ−ＪＡＭの恩恵も今回は薄いといえる。」

「このミサイルは要注意ってことね。
　そして、グレネードランチャー。１撃で１０００近いダメージでしょ？
　ちょっと痛いかも・・・って・・・？
　シュタトゥーエってレーダーを搭載してないけど？」

「よく気がついたな。多分、武装に資金をつぎ込んだ結果、
　レーダーまで手が回らなかったんだろう。
　もっともタンク型だ。ライフル弾の２発や３発被弾しても
　それほど痛いわけじゃない。
　相手から攻撃を受ければ方角も判る、それくらいの
　覚悟で組んでいるのかもしれんぞ。」

「慎重に行ったほうがよさそう・・・。」

「そうだな。」

マップはランダムに選出され・・・浮島マップとなった。



巨大な島サイズの岩が浮遊する不思議な 地形。立体的な動きのできる機動型ＡＣに とって有利といえる。想像以上にミサイル 戦闘にとって浮島は邪魔である。


「立体的な戦いができる分、私のほうが有利かも。」

「ミサイルを効果的に使うのは難しいが、な。
　エンターブルーのＷＭ−ＰＳ２は水平発射型だ。
　ミサイルの撃ちあいだけは避けたほうがいいだろう。」

「そうね・・・ライフル射撃を主体にしてみる。」

　いつものように背後のディスプレイにリプレイ映像が表示されている。
　開始と飛翔し、エルシィがライフル弾を叩き込み始めると、
　エンターブルーは応戦もそこそこに浮島から地上へと移動する。

　エルシィ　　　　　７８１２　ライフル１５４／２００　ミサイル６０／６０
　エンターブルー　６１６９　キャノン５０／５０　ミサイル９０／９０　グレネード１３／１５

「撃ち合った感じで、思った以上にライフルで削れたから、
　このまま、ライフル一本で行こうって決めたの。」

「それ自体は悪くない。悪くないんだが・・・。」

「なーに？」

「この後の戦い方は随分、杜撰だったぞ。特に回避が。」

「・・・だって、引き金を引けば当たるって状況なせいで、どうしても
　緊張感が持てなくって。」

　エルシィが言うように、この後、エルシィは浮島の上で、エンターブルーは
　地上からの撃ちあいとなったのだが、果敢に下から昇ってきてグレネード
　ランチャーを撃ちこむエンターブルーに対し、浮島からブースターで
　飛翔してしばらく空中からライフル射撃を続けては着地する、という
　戦術を繰り返すエルシィは、どうにも回避がおざなりに見える。

　上昇してくるエンターブルーを覗き込んだ瞬間に、グレネードランチャーを
　叩き込まれたのも１度ならまだしも、３回もあれば、どれだけ回避行動が
　杜撰か判るというものである。

　途中、ＷＭ−ＰＳ２の３連ミサイルを全て被弾するというシーンもあり、
　ジェネレータの出力回復をまって立っているだけ、という状況も多く、
　緊迫感に欠ける展開となった。

　エルシィ　　　　　４２９０　ライフル７２／２００　ミサイル６０／６０
　エンターブルー　７３３　キャノン４６／５０　ミサイル８７／９０　グレネード５／１５

「ここまで、かなり有利に戦えてたのと、互いの距離が近くなってたこともあって
　ブレード攻撃に切り替えたの。ちゃーんと５回振って、２回当たったんだし、
　それほど悪くなかったでしょ？」

「接近時とブレード攻撃を外した時に武器腕の攻撃を受けたのを
　除けば、な。ＡＰに余裕があるせいか、回避も少し雑だったぞ。」

「だって、だって、だって、撃てば当たるんだもん。」

「・・・確かに、ライフル弾のＨＩＴ率は８６％を超えてたからな。」

「そうでしょ、うん、やっぱりね。かなりＨＩＴしてた気はしたの。」

　その後、キャノンで応戦するエンターブルーに対して、接近し
　エルシィの振り回し続けたブレードが２回ＨＩＴし、ＡＰを削りきった。

　エルシィ　　　　　３２６６　ライフル７２／２００　ミサイル６０／６０
　エンターブルー　　　０　キャノン４２／５０　ミサイル８７／９０　グレネード５／１５

「終了時のデータだけをみると、そこそこの戦いだったようにも見えるが、
　ぼ〜っと覗き見て、カウンターでグレネードランチャーの直撃を受ける
　シーンが３度もあったり、何もせずに立っている状態が目立ったせいか、
　視聴者への受けもイマイチだったようだ。」

「でも、でも、立っていたのって、ジェネレータの回復を図るためだもん。
　ちゃんと意味があってやってた行動なのに、文句を言うなんて
　ぷんぷん、なの。」

　どうも精神的に余裕があるときに怒ってるぞ、という態度をしても、
　口調からもそんな雰囲気は微塵も感じられない。

「ＯＫ、ＯＫ。次はもう少し気を引き締めて戦おうな。」

「はーい。」

「収入は３６０００Ｃ、残金合計は　３９９６００Ｃだ。
　前回の収入３４０００Ｃはもちろん加算してある。」

「預金でいいわ。」

「今回もか？」

「だって、今のままでも十分、戦えてるもん。」

「・・・ま、それもそうだな。」

次回予告

ラフネックス戦で緊張感が途切れたのか、それでも勝てたせいか
同じ機体のまま、上位への挑戦を続ける〜、と宣言。

増長とも取れる態度に反感を持った者達は次の対戦相手となる
ヘル･マスターに希望を託したのだが・・・。

次回「第２４話ヘル･マスターの駆るエグゼキューター」
こうご期待♪