「番組をごらんの皆さん、お待たせしました。アリーナバトルの時間です。
　前回は、苦手なＡＷ−ＭＧ２５／２装備、しかも武装ポイントを全部使っている
　フィアークラウンさんに勝利♪　奇跡の大進撃を続けるエルシィでーす。」

　喜色満面、これでもか、ってくらい嬉しそうに笑顔を振り撒くエルシィ。
　やはり、本人も強敵だった、ということでプレッシャーを受けていた
　ようである。

「夜間市街地でのミサイル戦とは、ほとんど誰も予想していなかったようだ。
　多くの雑誌でも、今回の勝利は特筆すべきものとして、大きく取り上げて
　いるぞ。」

　アルフの手元には、いつものように多くのアリーナ関連雑誌が置かれている。
　その中でも、大きく、マーキングされている雑誌が一冊、目に付く。

「日刊レイヴンも、今回はMAPの選択が私のほうに有利だった、って書いてる
　程度で、なんだか腰砕けな感じがするわ。
　・・・あと一勝。
　ラフネックスさんに勝てば、この勝負、私の勝ちよ！」

　　エルシィがビシィィィィと日刊レイヴンを握り締めて、カメラにポーズを決める。
　　・・・負けた時のことを考えてない行動である。

「そこ！　いちいち人のやる気に水を注さない！」

　　はぁ・・・後悔だけはしないでくださいね。

「エルシィ、そろそろ番組に戻らないか。」

「あ、はいはい。えっと、それじゃ、次はベーコン・フライへのコメントです。」

	ラフネックス		エルシィ
ヘッド	ＨＤ−ＲＥＤＥＹＥ		ＨＤ−０１−ＳＲＶＴ
コア	ＸＣＬ−０１		ＸＣＡ−００
アーム	ＡＷ−ＧＴ２０００		ＡＮ−２０１
レッグ	ＬＮ−５０２		ＬＮ−１００１Ｂ
ブースター	Ｂ−Ｔ２		Ｂ−ＶＲ−３３
ジェネレーター	ＧＲＤ−ＲＸ７		ＧＢＧ−ＸＲ
ＦＣＳ	ＴＲＹＸ−ＱＵＡＤ		ＦＢＭＢ−１８Ｘ
右腕武器	なし		ＷＧ−RＦＭ１１８
左腕武器	なし		ＬＳ−２００Ｇ
右肩武器	ＷＭ−Ｓ４０／２		ＲＺＴ−３３３
左肩武器	ＷＣ−ＬＮ３５０		ＷＭ−Ｓ６０／６
備考	なし		ＳＰ−ＪＡＭ ＳＰ−ＡＸＬ ＳＰ−Ｓ／ＳＣＲ ＳＰ−Ｅ／ＳＣＲ

	ラフネックス		エルシィ
ＥＰ	４８７２／６８１０		５１２１／８２０７
ＬＥＧＳ　ＷＰ	３７２３／３８００		４６２６／４６３０
ＣＯＲＥ　ＷＰ	１４１５／２４５０		１７４７／２７７０
攻撃力	１８２５		２１２０
防御力	２５３1		３６２４
安定性	８４３		１３２０
機動性能	６９４０		５８４０
移動性能	２７５０		２７２０
旋回性能	１１９０		１１２０
上昇性能	３０００		２０００
レーダー性能	１５９２		２１１５
レーダー有効範囲	５９８		１１７０
ＦＣＳの機能性能	９９４		９４５
総合ポイント	１３７３１		１５０１９
評価	ＯＫ		ＦＩＮＥ
ＡＰ	７６９５		８５４４
ＷＥＩＧＨＴ	５５１３		６９３１
ＰＲＩＣＥ	４１４０００		６７２３００

「軽量ACに限界ギリギリまで武装を満載しているのね。
　しかも、ちゃんとレーダーも装備しているし・・・もしかして
　かなり強かったりして・・・。」

「超重装甲AC以外はかならず粉砕する攻撃力と、ほとんどの
　ミサイル攻撃、遠距離攻撃を回避する回避力と、飛び続ける
　ことができる滞空性能はどれもTOPレベルだ。
　エルシィが感じたように、どこから見ても強敵だな。」

「あの、弱点はないのかなぁ・・・なんて。」

　苦笑混じりに質問するエルシィ。さすがにこれだけのACともなると
　不安な気持ちになるようである。

「強いて言うなら、ＷＣ−ＬＮ３５０、つまりリニアガンを構えた時が
　攻撃チャンスだ。膠着姿勢になるからな。
　だが、至近距離で撃たれ始めたら、今のジェーン２だと、
　衝撃が回復するころには次弾がＨＩＴするせいで、
　脱出できずに削り倒される可能性すらある。

　あとは、ＷＭ−Ｓ４０／２が、ＳＰ−ＪＡＭに邪魔されることで、
　一度に２発、発射されることはまずない、というのは
　唯一、明るい材料だろう。」

「うーん・・・強敵なのね。」

「そういうことさ。」

マップはランダムに選出され・・・廃港マップとなった。

海水面の変動により、海底が露出し 乾ききった廃港。うち捨てられた船 が点在しており、その周囲での ミサイル戦闘は効果が薄い。広い ので遠距離戦を行うことは可能。

「互いに空中機動は自由自在、邪魔される地形も少ない、と。
　・・・全力を出し切るしかないのね。」

「着地硬直するな、常に機動回避を心掛けろ、ミサイルは
　遠距離から発射しろ・・・といったところだな。」

「ＡＰ、残ってればいいんだけど・・・。」

　いつものように背後のディスプレイにリプレイ映像が表示されている。
　開始と同時に火を噴き始めたラフネックスのガトリングガンが、
　鬼のようなロックオンで機動回避に比重を置いて距離をとる
　エルシィに対して叩き込まれていく。
　エルシィはそれでもミサイルで応戦するが、空中で機動回避を
　続けるラフネックスは、それを軽々と回避していき、ほとんど被弾しない。

　エルシィ　　　１３６２　ライフル２００／２００　ミサイル４２／６０
　ラフネックス　７００６　ガトリングガン０／４００　ミサイル４０／４０　リニアガン１２０／１２０

「当たったのは１発だけ〜。もうお先真っ暗。
　ぜんぜん、勝負にならないって感じだったの。」

　あまりに大量に撃たれ続ける自分の愛機を見て、ちょっとだけ
　元気がなくなる。

「こっちは−６０００以上、相手は−３００以下。
　・・・寒いな。
　視聴者も、ここまで不利な状況になるとは予想していなかった人が多かったようだ。
　今までで最高の視聴率を稼ぎ出した瞬間だったんだ。
　実は。」

「もぅ、私が苦戦しているところを見て、視聴者が増えるなんて。
　・・・なんだか複雑な気分。」

「だが、その分、この後のエルシィの奮戦はなかなかだったぞ。」

「そう？　そうよね、うん、そうだと思ったの、私も。」

　嬉しそうにディスプレイに視線を戻すエルシィ。

　ディスプレイでは、エルシィが距離を取り、ラフネックスとミサイル戦を
　始めていた。
　エルシィは山形弾道の６発斉射の小型ミサイル、ラフネックスは
　２発斉射の小型ミサイル・・・のはずだがＳＰ−ＪＡＭに邪魔されて
　一度に１発ずつしか撃てない、という状況になる。
　単発で放たれるミサイルを、２８発中２４発をエルシィは回避し、
　逆に距離をとって合計４２発のミサイルをラフネックスに発射する。
　連続発射される小型ミサイルが次々に襲い掛かり、ラフネックスも
　全てを回避することはできず、ＡＰを大きく削ることに成功した。

　エルシィ　　　　９６６　ライフル１８１／２００　ミサイル４２／６０
　ラフネックス　３４９０　ガトリングガン０／４００　ミサイル１２／４０　リニアガン１２０／１２０

「よく２４発もミサイルを回避できたな。
　単発発射とはいえ、努力が実ったといってもいい。」

「半分以上は、迎撃用機関銃が落としてくれたんだけど、ね」

　少し、照れてエルシィが頬を染める。

「ここからエルシィはライフル射撃に切り替えたわけか。
　もっと早めに、ライフル主体にしようとは思わなかったのかい？」

「ちょっとだけ。でも、せっかく有利に戦えてたからそのままミサイル戦を
　続けることにしたの。」

「ふむ。まぁ、有利な時にその戦術を続けるのは良いことだ。
　うまくいかなかったら、その時は、戦術を見直せばいい。」

「そういうこと。」

　ミサイルを撃ちきったエルシィは、ライフル射撃に切り替えて、近、中距離の
　高機動射撃戦術を始める。
　ラフネックスも、接触距離までくると斬撃を一方的に受けるためか、距離を
　とってミサイルで攻撃をしようとする。
　だが、高速機動を続けるエルシィをロックオンしきれず、ミサイルを撃てない
　ままライフル攻撃を被弾する、という状態が続く。

「ここで、ラフネックスさんが賭けに出たのよね。」

「あぁ・・・距離を離してリニアガンの射撃に切り替えたわけだ。
　確かにあのまま続けても、ミサイルをロックオンできずに
　負けていただろうから、悪い判断とは言えなかっただろう。」

「でも膠着姿勢だもんね〜♪」

「引き金を引けば当たる・・・か。」

「うん♪」

　ラフネックスはこのままではジリ貧とみて、距離を大きく離して
　肩のリニアガンを構えた。膠着姿勢になり機動運動が完全に停止する。

「ここで、戦闘前のアルフの助言を思い出したのよ。
　近距離で被弾したら、連続被弾しちゃうかもしれないってことを。
　だから、できるだけ遠距離から射撃するようにしたの。」

　エルシィはできるだけラフネックスから離れて空中機動をしつつ
　ライフル攻撃を間断なく続けていく。

　結局、合計１２発のリニアガンが発射されたがそのうち１発が被弾しただけで、
　ロックオンに手間取った時間も含めて常にライフル攻撃を
　受け続けることになったラフネックスが遂に炎上した。

　エルシィ　　　ＡＰ　８０２　ライフル　　９５／２００　０／６０
　ラフネックス　ＡＰ　　　０　ミサイル　１２／４０　リニアガン　１０８／１２０

「今回は、ずいぶんギャラリーが賑わっていたぞ。
　前半で７５％近いＡＰを削られ、逆に相手のＡＰは９０％以上、
　残ってる状態からの逆転勝利だったからな。
　まぁ、観客が沸くのも無理ないってことだろう。」

「好きで苦戦したわけじゃないのにぃ」

　ちょっと不機嫌そうだが勝利の喜びのほうが大きいようで
　表情も柔らかい。

「視聴者なんてそんなもんさ。」

「むぅ。」

「さて、エルシィ。
　賞金は３４０００、残金合計は３６３６００だがどうする？」

「あ、今回はこのままでいいわ。
　ほら、アルフも準備して。」

　エルシィがスタッフに指示して撤収作業を急がせている。

「おいおい、どうしたんだ？」

「んっとね、ラフネックスさんがお食事、奢ってくれるって言うの。
　”俺を超えていく若きレイヴンの門出を祝わせてくれ”って。」

　・・・彼は何人、誘うつもりだったのだろうか。

「俺も行くのか？」

「もっちろん♪　お世話になった人も呼んでいい？って
　聞いたら、ちゃんとＯＫしてくれたもん。
　さー、みんな、急いでねー。
　あ、視聴者の皆さん、ごめんなさい。
　これからパーティに行ってきまーす♪」

　エルシィは、他の人を誘っていいか、と聞かれた時の
　ラフネックスの苦笑はすっかり記憶から削除したようである。
　そのまま、異例の速さで片付けを終えたスタッフ達と一緒に
　飲食街へと消えていったのだが、それは別の話。

勝てたことがよほど嬉しかったのか、豪気に奢ってくれた
ラフネックスの開き直った暴走が楽しかったのか、
すっかり機体調整をホッポリ出したエルシィ。

・・・こんなことでいいのだろうか。
次の敵はグレネードランチャーを装備しているタンク型ＡＣなんだが。

次回「第２３話エンター・ブルーの駆るシュタートゥエ」
こうご期待♪