前回の依頼で、戦った改造作業機械と、作業用ＭＴだが、かなり出回っている
タイプで、戦闘用改造キットも裏では流通していることを、リプトンが教えてくれた。

・・・情報収集は大切だな。

ちなみに、レイヴンズネストでは、こう呼ばれているそうだ。
　　・CW-283（改造クレーン車）
　　・WK-750R（作業用ＭＴ）

全然、情報収集なんてやってなかったせいで、俺の愛機”ダークボイス”のヘッド
パーツは高級コンピュータを搭載していても、ターゲットの情報はよほど、有名な
機体以外、説明もしやしない。
とりあえず、当分の間は、ナーヴネットでＣＭＴ、ＡＣ関連の情報収集だな。

　・・・そんなの常識だろうって？　だから、前回もいったろ。俺は志は高いが、
　新米のレイヴンなんだ。まさか、ＡＣのデータバンクがほとんど役に立たない古い
　データで埋まっているなんて夢にも思わなかったんだ。
　なにせ、ガードの時は、常に最新情報に更新されていたからなぁ。
　つくづく、組織のありがたみがわかったぜ。
　これからは、自分で情報収集、入力をする必要があるが、ま、個人事業主
　扱いだからな。ま、これも自分の選んだ道だ。仕方がない。

依頼の選択

依頼内容	報酬
不法占拠者排除	１４０００Ｃ
所属不明MT掃討	１２０００C
採掘施設奪回	１８０００C


「新たに追加された依頼は２つ・・・どれもＰＯＯＲレイヴン専用か。」

　思わず、笑みがこぼれる。
　思ったよりも、依頼が多いことを素直に喜んだだけだ。
　俺が”排除”するターゲットは多いに越したことはないからな。

で、３つの依頼を見比べてみたが、”所属不明ＭＴ掃討”はＣＭＴ×８機の殲滅。
敵の数の多さが気になる。まだ、そこまでの相手と戦う自信はない。
”採掘施設奪回”は飛行兵器×２、ホバーマシーン×５。
飛行兵器の動きについていけるか、これも不安が残る。なにせ、武装を変更した
ばかりだ。冒険はしたくない。
その点、”不法占領者排除”は、前回の依頼同様、WK-750R（作業用ＭＴ）×４
を主力として、ビショップ（二足歩行ＣＭＴ）×２が追加されているだけだ。
この中なら、一番、撃破しやすいターゲットと言えるだろう。
俺はそう判断して、「反抗組織排除」のほうを引き受けることにした。
ちなみに依頼内容はこうだ。



依頼	不法占領者排除		依頼主	ザムシティ・ガード
前払報酬	０Ｃ		成功報酬	１４０００C

当シティ東地区の廃工場を不法占拠している連中の排除を頼みたい。 一応、地区の再開発に反対する過激派を名乗っているのだが、すでに この計画は関係住民とも和解に達しており、奴らは暴れる名目が欲しい だけの無法者だ。 ただ、一応は市民だからな。ガードという立場上、力づくでという訳にも いかん。このまま、放置しておくと、計画の進行に影響する怖れがある。 一切の遠慮はいらん。キッチリと社会のルールを教えてやってくれ。

作戦領域	ザムシティ東地区 旧第３工場施設
敵戦力	改造作業機械×４機 中古MT　　　　×２機

成功条件	不法占領者の全排除
作戦参加条件	ＡＣの機体の評価が”ＰＯＯＲ”であること


「敵戦力の言い方が気に入らんな。中古だろうと新品だろうと、戦闘力に
　そう違いがあるわけじゃないだろうに。」

　そういって、映像に映るビショップ（二足歩行ＣＭＴ）を見た。
　薄い装甲、弱い火力、そのかわり安価、というだけの機体だ。
　俺もあれに乗っていたかと思うと、少しだけ相手に同情したく
　なったぜ。
　あれで凶悪なテロリストと対決、なんて知性のある人間なら
　絶対にやらないだろうからな。
　まぁ、テロリスト側から言わせれば、せめてガードと互角に戦える
　武装がなければ、戦おうとはしない、というだろうが。

　・・・だが、”奴ら”の目的はなんだ？
　依頼主の「ザムシティ・ガード」は、暴れる名目が欲しい無法者といっているが、
　すでに大義名分が失われている以上、あんな地区の武装占領をしていても
　意味がないことぐらいわかっているだろう・・・それとも別の目的があるのか？
　ただの無法者が意味もなく戦闘用ＭＴを転がせるほど、景気は狂っちゃいない。
　それに、「ザムシティ・ガード」の依頼ってのも気になる。わざわざＰＯＯＲレイヴン
　を指名していることからして、”排除”して欲しいが簡単にやられると、自分たちの
　存在意義を疑われる・・・といったところだろうか・・・？

戦闘開始

俺の駆るAC”ダークボイス”は「ザムシティ東地区　旧第３工場施設」つまり、
作戦領域に入る前に、通信傍受を試みてみる。
今回の作戦領域は広い。事前に奴らの位置や、目的、現在の待機状態なんかを
把握しておいたほうが有利、そう判断してのことだった。

「兄貴ぃ、本当に俺達でも倒せるレイヴンなんてくるんですかい？」
「あぁ、奴がそういってるんだ。問題なし、だぜ。だいたい、ガードご用達の
　ビショップを二機も用意しているだ。あっけなく粉砕しちまって、
　楽しめそうにないけど、な。はーっはははははは。」

　・・・なるほど、事前に情報は漏れていたというわけか。ま、ビショップを
　もっている程度で、慢心しているような奴らだ。確かに、世間の常識を
　教えてやる必要はあるな・・・。

　俺はＦＣＳを使って敵機体反応をチェックする・・・しかし帰ってきた反応は１機。
　がっかりだ。こいつら、戦術なんて考えてもいない。互いに支援できない
　距離に機体を分散配置してやがる。

　俺は、奴らの使用している周波数に割り込みをかけた。

「”ザムシティ東地区　旧第３工場施設”を武装占領している市民に告ぐ。
　武装解除して、投降しろ。住民との和解は成立している。
　お前達がそこを占領する理由は既に存在していないんだ。
　・・・１分だけ待つ・・・が、機体を稼動させた時点で、投降の意思なし、と
　みなして排除する・・・以上だ。」

　・・・俺はじっと、奴らの出方を待った。・・・が、すぐにＣＭＴ独特の駆動音が
　響き渡る。

「相手の力量もわからず、噛み付こうとする野良犬ども。
　交渉は決裂だな。これから、貴様らを”排除”する。」

　予定通りの成り行きに、苦笑しながら、俺はＦＣＳを左右に振りつつ、
　ブースター移動を開始する。

　・・・なぜかって？　ダークボイスにはレーダーは搭載されていない。
　もう陽も落ちて、周囲は暗い。視認するのも重要だが、ＦＣＳで
　相手を発見するほうがより確実だからだ。

　すぐに１機、ロックオン表示される。

「さっそく、ビショップ１機目か。」

　操縦している奴が素人なのか、明らかに障害物に当たる状態で、
　マシンガンを乱射している。

　・・・馬鹿が。

　俺は、機体を横にスライド移動させながら、パルスライフルの弾を
　ちょうど、10発、叩き込んだ。　炎上するビショップ。

「兄貴、ビショップがやられちまったぜ。話が違うじゃねーか。」
「今のは、たまたま、先制攻撃を食らっちまっただけだ。
　お前のCW-283（改造クレーン車）で、蜂の巣にしちまえ。」
「わ、わかった。」

　・・・CW-283（改造クレーン車）だと？　ザムシティ・ガードの連中も
　気に食わんことをしてくれるな。正確さに欠ける情報は、なまじ
　真実を含んでいるだけに始末が悪い。
　とりあえず、そいつから先に潰す・・・か？

ダークボイスを道なりに移動させていく（当然、左右にＦＣＳを振りながら）
と、再び、左側に１機、ロックオン表示された。WK-750R（作業用ＭＴ）だ。
・・・さてと、この位置関係からすると、右手奥に、いるな？

　俺がＦＣＳで右手奥をチェックすると、やはりそこにCW-283（改造クレーン車）が
　いた。・・・だが、操縦になれてないのか、武装アームの稼動に手間取っている
　ようだ。

「恨むなら、段取りの悪い相棒のほうにしてくれ。」

　そう通信してから、WK-750R（作業用ＭＴ）にパルスライフルを叩き込む。
　１発、ロケット弾を撃ってきたが、ろくにロックオンもせずに撃っても、
　当たるわけもない。すぐに、WK-750R（作業用ＭＴ）は炎上してしまう。

　ふと、右側を見ると、まだアーム起動に手間取っている。
　・・・同情する気もおきんな。

　ダークボイスをブースター移動で、CW-283（改造クレーン車）の背後に
　寄せると、操縦席にパルスライフルを向けた。

「や、やめてくれ、頼む・・・」

　いまさら命乞いか・・・無駄なことを。

「相手を殺そうという時には、当然、自分が死ぬ可能性がある、ということを
　考慮すべきだ・・・高い授業料だったな。」

　パルスライフルから放たれたエネルギー弾がCW-283（改造クレーン車）を
　紙のように貫通し、炎上させる。

「おい、リッツ、ガーヴェ、返事をしろ！　まさか、やられちまったわけないよな。」

　・・・仲間の死すら、理解できないのか・・・それともしたくないのか。

「残りはお前達だけだ。今のうちに覚悟しておけ！」

　・・・前情報では、ビショップは2機。そーすると、次に現れた奴が恐らく、
　奴らのリーダー、ということになるだろうな。

　ダークボイスを戦闘領域の残り半分の地点に移動させていく。
　・・・また、１機、反応があった。ビショップだ。

「き、きやがったな。糞ぉ、仲間の仇だ！！！　死にやがれ！！！」

　ビショップがろくにロックオンもせずにマシンガンを乱射し始める。
　俺は慌てずに、軽く、ダークボイスのブースターを使って、右方向に
　ジャンプしながら、パルスライフルを正確に撃ちこんでいく。
　ビショップは1発とて命中させることもできずに、炎上していった。

「お、おいレイヴン、俺達の負けだ。と、投降する。」

　・・・また、通信が入る。

　ＦＣＳで確認すると、左右に１機ずつWK-750R（作業用ＭＴ）が隠れている。
　俺は、左側のＭＴに対して、移動しながら、通信をする。

「戦力の分散配置・・・」

　ダークボイスのＦＣＳがWK-750R（作業用ＭＴ）をロックオンする。

「な、なんだよ！！？」

「錬度の低い仲間とのムリな連携攻撃・・・」

　そのまま、機体を横にスライド移動させながら、パルスライフルを連射して
　いく。至近距離のために、ロケット弾を１発食らうが、この程度はまったく
　問題ない。目の前にいたWK-750R（作業用ＭＴ）が炎上する。

　残り１機。

「劣勢になった途端に、降伏しようという意思の弱さ・・・」

　残り壱機に対して最短距離で移動し、ＦＣＳで相手を捕らえる。

「だ、だから、何がいいたいんだよ、お前は！！！？」

　一瞬だけ、動きを止めて、奴の問いに答えてやった。

「戦術も知らない指揮官に率いられた哀れな野良犬・・・お前たちは
　なんの意味を見出すこともなく消えていく・・・無駄死にということだ。
　今回、お前達が圧倒的に負けたのは、俺が強かったからじゃない。
　お前達があまりにも、無能だったから・・・ただそれだけの話だ。
　・・・未練はないな。」

　そういって、俺は障害物の陰からスライド移動し、パルスライフルを
　最後の壱機に叩き込んでいった。炎上する寸前に、奴が放った
　1発のロケット弾が、ダークボイスの表面装甲に少し、傷をつけた。
　・・・だがそれで、全てが終わった。

「作戦目標クリア、システム通常モードに移行します」

　　シャドウボイスのコンピュータが律儀に戦闘終了を告げる。

　なんとも後味の悪い依頼だった。結局、おもちゃを与えられた
　だけの世間知らずの馬鹿共を掃除しただけ、か。

　残ＡＰ　８１７８／８３９６　パルスライフル　９７／１８０

収支決算

俺はＡＣをガレージに戻して、”シャドウボイス”から降りる。
前回と違って、多少、装甲版が凹んだ程度だ。
・・・楽な仕事だった・・・か。

「もう帰ってきたのか？　偉く不機嫌な顔をしてるな。もしかして
　ミッション失敗しちまったのか？」
「いや、ミッションは成功した・・・機体の修理をしてくれ。」
「・・・、ずいぶん、うまく戦ったんだな。ほとんど定期メンテナンス
　で済んじまう程度の傷じゃねーか。は、後で、少し、酒でも
　おごってくれるかい？」
「なんで、俺がお前に奢ってやるんだ？」
「普段、世話になっている人には、懐があったかい時にこそ、
　感謝の気持ちを表しておくってものさ。」

　無駄話をしながら、リプトンが調査して、機体修理費を
　含めた明細書を寄越してきた。

	詳細	金額
収入金額	成功報酬	１４０００
	特別加算	０
支出金額	弾薬清算	０
	機体修理	−２６５
	特別減算	０
合計		１３７３５
口座残金		１９２６８


「偉く、安く済んだな。」

　・・・前回の１／１０程度の修理費じゃないか。

「こうやって毎回、うまく戦ってくれれば、修理するほうも楽で済む。
　お互い、楽しくできるってことだな。」

　リプトンめ、すっかり奢ってもらえるものと思ってやがる。

「忘れないうちに依頼しておくぞ。ＦＣＳをＱＸ−２１に交換してくれ。」

「どーした、ＦＣＳのサイズが小さくて苦労したのか？」

「ロックオン速度を早くすること、それとＦＣＳのサイズを大きくする
　ことが目的だな。より早く相手を捕らえ、先に攻撃できれば、
　そのほうが有利だろ？」

「そのかわり、ＦＣＳのロックオン距離は短くなる。注意が必要だぞ？」

「ＯＫ。それぐらいは俺でも知ってる。換装作業をしてくれ。」

ＦＣＳ


更新前	ＣＯＭＤＥＸ−Ｃ７	１１１００　Ｃ
更新後	ＱＸ−２１	２０３００　Ｃ（＋９２００）


口座残金は１００６８Ｃに減っちまったが、サイトも広くなったからな。
これで、相手をＦＣＳでロックオンするのも少しは楽になるだろう。

当然だが、機体評価は９５９１、”ＰＯＯＲ”のまま、維持できてるぜ。
簡単な依頼だったが、次はもう少し、”排除”しがいのある奴らで
あって欲しいところだな。

後日談

「こいつは悪いことをしちまったかな。」

　俺は言葉と裏腹に、ニヤついた笑みを堪えられず、リアルタイムで
　中継されている記者会見の模様を見ている。

「ラッド！？　どーした、なんか面白い話か？」

　リプトンが整備を終えてあがってきた。俺は無言で、画面を
　指差す。

”ですから、強力な武装をした市民に対して、ガードとしての立場上、
　強制排除に及ぶわけにはいかず・・・”

　懸命に記者達に説明している署長が映っている・・・が、
　明らかに、自分の説明が不充分だとわかっているのだろう。
　言葉に覇気がない。

”彼らを排除したＡＣはほとんど無傷だったという情報がありますが、
　本当に強力な武装をしていたのですか？”
”今回の件で、危険の少ない事件までレイヴンに依頼することに
　対する批判が強まってきていますが、それについて、どう
　お考えですか！？”
”ガードの戦力でも十分、排除できたというシミュレーション結果が
　提示されていますが？”

　そんな署長に対して、記者達は事前に入手していた情報を
　元に、執拗に弁明を求める。

”この件については・・・”

　俺は、記者達の容赦ない攻撃に懸命に自分の行いの正当性を
　主張しようと苦慮しているザムシティー・ガードの署長の主張も
　聞けたので、画面を消した。

「・・・？なんだ、ザムシティ−･ガードで不法占拠してた馬鹿共を
　レイヴンが排除した件の報道番組じゃないか。もしかして、
　ラッドが排除したのか？」

「・・・さて、な。」

　俺は苦笑して、話をはぐらかした。

　ミッション終了後に、周囲で包囲していたガードの連中に、作戦の
　終了を告げたときの、署長の顔は見物だった。
　明らかに、予想外の結果だったようで、俺の報告を上の空で
　聞いていたぐらいだからな。部下から注意されて、やっと俺と
　話をしていたことを思い出したかのようだった。・・・いったい、
　何を考えていたんだろうな・・・記者会見対策・・・といったところか？

次回予告

予想を遥かに上回る結果を出し、依頼主を狼狽させたラッド。
相手のその姿を見て、彼は、笑みを浮かべる。


「Ｒ」から、新たな依頼が１つ追加されたが、ラッドの選んだ依頼は
「所属不明MT撃破・・・１２０００Ｃ」だった。

次回、第０３話「所属不明MT撃破」、こうご期待♪