第０１話「使徒、襲来」Ｅパート

　　くらっ

　使徒発見の報告後、上陸時間までできるだけ訓練を行うって話だったけど、
　休憩時間になってエントリープラグから降りた途端に眩暈がして、
　座り込んでしまった。

「マヤ、シンリくんに合わせて初号機の設定変更を指揮して」

「先輩はどちらへ？」

「容態を確認次第、合流するわ」

「わかりました」

　ボクを抱えたまま、リツコさんがマヤさんと話をしている。
　そう認識し続けるだけでもかなりの努力が必要。
　なんだか考えるのが辛い…。

「シンリくん、すぐ医務室にいくから辛抱してね」

　リツコさんの声が聞こえる。

「リツコさんもいてくれる？」

「えぇ。だから安心なさい」

　その言葉を聞いたとたん、意識が薄れていく。
　手を握り締めてくれる感触だけがやけにハッキリと感じられた。

　　カタカタカタカタ

　軽快なリズムでキーボードを叩く音が聞こえる。
　身体が鉛のように重くて、頭もなんだかボンヤリしてる。
　左手だけが温かい。感触を確かめてみる。

　　ふにふに

　やわらかい手。誰の手？

「シンリくん、気が付いた？」

　薄目を開けて、声のしたほうを見てみる。
　ベットの隣にある椅子に腰掛けて、ボクのほうを見てくれている。

　右手だけで携帯端末のキーボードを入力しているみたい。
　視線をずらしてみると、リツコさんの左手をボクがしっかりと握ってた。

「はい」

「気分はどう？」

「さっきよりはいいみたいです」

「身体、動かせそう？」

　力をいれてみると、関節が悲鳴をあげてる感じはするけど
　動けないほどじゃない。ゆっくり身体を起こす。

　嬉しかったけど、握っていた手を離す。
　あ…赤く跡がついちゃってる。

　　ごめんなさい、リツコさん。

「あの…手、握っていてくれたんですね」

「気にしなくていいわ」

　優しく微笑んでくれる。やっぱりこのほうがリツコさんらしい。
　金髪はちょっと似合わないかもしれない。
　前のリツコさんのほうが綺麗だった気がする。

　ちょっとリツコさんの携帯端末を見ると、目まぐるしく画面が切り替わり、
　流れるようにキー入力がされていく。
　ショートカットとマクロを組み合わせて指示が行われて、
　その方針に従って処理が行われているみたい。

「リツコさん…それ、ＭＡＧＩですか？」

　指摘されたのが嬉しいのか、リツコさんがボクの頭を撫でてくれる。
　もー、ボクだって小学生じゃないのに。

「よくわかったわね。そう、これはただの携帯端末だけど
　システムはＭＡＧＩと繋がっているのよ」

　前に聞いた話だと、ＭＡＧＩは賢いコンピュータらしい。
　普通、コンピュータは言われたことしかできないけど、
　ＭＡＧＩは概略だけ指示されたことでもちゃんと自分で
　判断して作業しちゃうんだって。
　しかも３基あって、共同作業だってできちゃう。
　特に得意なのは量子演算。よくわからなかったんだけど、

　「たくさんのことを知ってる専門家の人って、ちょっとした
　　情報をもらうだけで驚くほど正確に物事を分析したりするでしょう？　
　　そういった大量の知識、情報に裏付けされた直感のような処理ができるのよ」

　…ってことらしい。
　とっても便利って思ったけど、高価すぎてパソコンみたいに
　家におくわけにはいかないんだって。ちょっと残念。

「お仕事、邪魔しちゃったみたいで、ごめんなさい」

　ボクが手を離さなかったから、リツコさん、多分、隣で
　手を握ったまま、右手だけで仕事をしてたんだと思う。

「気にしなくていいの。それにここでやってても
　今、やってる作業なら、それほど問題はないから。
　…ところでお腹空いてない？」

　言われてみて、お昼からずっと何も食べてないことに気が付いた。

「えっと、少しだけ」

「それじゃ、いまから食事にしましょう。
　お腹が空いてちゃ力もでないわ。
　外で待っているから着替えて」

　そういってリツコさんは部屋の外に出て行った。
　自分の服装をみてみる…プラグスーツを着てたんだっけ。
　
　リツコさんが部屋の外に出たのを確認してから、
　ボクはベットの隣に置いてあった自分の服に着替えた。

　部屋から出てみると、見覚えのある廊下にでる。
　ここ、綾波さんがいた病院だ。
　離れたところでリツコさんが携帯端末を見ている。
　ちょっと目が真剣。

　　何をみているのかな…？

「リツコさん、お待たせしました」

　建物の中だから帽子は被ってない。
　やっぱりプラグスーツより普通の服のほうがいい。

「あら、早かったわね。ちょっとこの時間だとランチタイムから
　ズレちゃってるけど、それは仕方ないわね」

　そういってリツコさんは携帯端末を白衣の中にしまうと率先して歩き出した。
　やっぱりＮＥＲＶの建物は広い。食事をするだけなのに１０分近くも歩くんだもん。
　到着したのは、ピラミッドのようなビルのてっぺんにある見晴らしのいいレストラン。
　すでに予約がしてあったらしく、到着したらすぐに窓際の席に案内された。

　ボクはスパゲッティを、リツコさんはサンドイッチを注文。

「ところで、シンリくん。とりあえず、この映像を見ておいて欲しいの」

　そういってリツコさんが携帯端末を取り出して机の上に置いた。
　画面はちっちゃいけど、とっても綺麗な表示で写真みたい。
　どこかの海を表示しているみたいだけど…

「海…ですか？」

「そろそろ出てくるわ、見てて」

　それは、怪獣映画の１シーンのように見えた。
　突然、海水を滴らせて現れた巨大な存在。首のない人。
　胸のあたりにお面がついてて、お腹のあたりに赤い珠がついてる。
　それを被うように肋骨のようなものが左右から取り囲んでる。
　黒尽くめのボディ。
　海岸線を埋め尽くす戦車の群れは、まるでミニチュアの玩具。
　それの周囲でホバリングしている飛行機。
　どれもが小さくってそれと比較すると羽虫のよう。

「あの、これって」

「そう、使徒よ。今後、”サキエル”って呼ばれることになったわ。
　名前がないと呼びにくいでしょう？」

　サキエル…誰のネーミング？

「そのサキエル、ですけど、軍隊が囲んで何をするつもりなんですか？」

　愚問かもしれない。軍隊がすることなんて破壊以外にないのに。

「サキエルの実力を調査してくれてるのよ」

　そういってリツコさんが笑う。ちょっと目が怖い。

　海岸線の戦車が一斉に砲撃を始め、サキエルが爆炎に包まれる。
　同時に空中の飛行機も攻撃を始めて、一瞬、サキエルが煙に
　包まれて見えなくなるほど。

　音がなくてよかったかもしれない。
　その光景はレストランの静かな雰囲気には合わないから。


　料理が運ばれてきた。ちょっとお行儀が悪いけど、ボクも
　リツコさんも食べながら、携帯端末に表示される映像を見てる。

　　パクパク

　ひっきりなしに撃ち込まれる砲撃の雨からサキエルが姿を表す。

　　あっ、踏んでる。

　砲撃を続ける戦車の群れに対して、サキエルは１台ずつ踏みつけて壊していく。
　空中の飛行機に対しても時折、手を伸ばして捕まえると山に投げつけて壊す。

　　パクパク

「なんだか、効いてないみたいですね」

「そうね」

「あの、これ、Ａ．Ｔ．フィールドって使ってるんでしょうか？」

「…多分、意識して展開してはいないわね。でも、サキエルの
　ボディはおそらくＡ．Ｔ．フィールドの影響下にあるはず」

「？　どうしてです？」

「普通の物質でできてるなら、少しは壊れてもいいはずでしょう？
　でも、傷一つついてないわよね？」

　言われてみると、確かにサキエルは傷一つついてない。
　ちょっと煤汚れている感じがするだけ。

「税金、もったいないですね」

「ほんとね。軍隊なんて壊すしか能がないっていうのに。
　…？　あら、少しはやる気になったのかしら？」

　画面には大きな飛行機が自分と同じくらいある大きなミサイルを
　発射し、サキエルの右手に命中、大爆発を起こす。

「ミサイルを掴むなんて反射神経がいいかも」

「役に立たないわね、ＵＮ軍も」

　盛大に爆発したけど、サキエルはさっきより汚れただけ。
　ゆっくり歩き始めた。

　ゆっくりって言ったけど、それはサキエルのサイズから見ての話。
　あっという間に山を乗り越えて、歩き出しちゃったから、海岸線に
　残った戦車は、もう遥か後方に取り残されちゃった。

　　パクパク

　ここのスパゲッティ、けっこう美味しい。

　…あれ？　飛行機が一斉に逃げ出しちゃった。

「リツコさん、もう軍隊の攻撃、おしまいですか？」

「…多分、切り札を使うつもりね」

「切り札？」

「見てればわかるわ」

　じっと注目。一緒についてきた紅茶を飲む。

　突然、画面が白くなったと思ったら、真っ暗になってしまう。

　　故障？

　そう思ったけど、すぐに別の角度からの映像に切り替わる。
　大きな、大きなキノコ雲。赤黒くって嫌な色。
　それしか表示されてない。

　歴史の授業で習った忌まわしき爆弾の炸裂した姿。

「…これ、ｎ２爆弾ですよね」

　　※ｎ２（No-Nuclear）爆弾。核分裂反応を使わない純粋な水素爆弾のこと。
　　　威力は数キロトンの戦術核レベル。ほとんど放射能汚染を残さないのが利点。

「そう。ＵＮ軍の切り札。旧東京を一瞬で消滅させたもの」

　画面が小さいせいか現実味がない。
　おかげで、のんびり紅茶を飲んでいられるけど。

　リツコさんはコーヒーを飲んでる。
　苦いからボクは好きじゃない。


　爆発の煙が晴れてくると、胸元で手をクロスさせている
　サキエルが見える。全身まっくろけ。
　胸元の仮面が壊れちゃってるけど、下から別の仮面が
　でてきてる。…ちょっとシュールかも。

「元気ですね」

「ＵＮ軍の切り札も効果は薄いようね」

　リツコさんは淡々と答える。
　ほんとに壊れるのかな、サキエルって。

「リツコさん、エヴァが叩いたら効くと思います？」

　叩いたことがないからわからないってマヤさんは言ってたけど
　とりあえず聞いてみる。

「多分、効くわ」

　あれ？　答えが違う。

「どうしてです？」

「胸元の仮面、割れてたでしょう？　つまり一定以上の衝撃が
　加われば壊れるってこと」

「じゃ、勢いよく叩いたら壊れるってことですか？」

「そーね。やさしく叩いたって効かないと思うわ」

　画面に写っていたサキエルが右手を突き出すと、肘から
　突き出してた槍が輝いて、掌から突き出される。
　あっという間に串刺しにされて爆発する飛行機。
　それはまるで光の槍。

　上を見上げたと思ったら目が光って、光の線が別の飛行機を貫通し、爆発させる。
　同じことが繰り返されて、画面が光った瞬間、ブラックアウトする。
　すぐに別のアングルからの映像に切り替わったけど。

「目、目からビーム？」

　ちっちゃい頃にみた再放送のアニメでそんなのをやってた気がする。

「それに手から繰り出す槍も要注意ね。正面からいくのは
　なんとか避けたいところだわ」

　うんうん。目からビームも、光の槍も早すぎてぜんぜん見えない。
　多分、正面から撃たれたら気が付いた時には当たってる。

「あの…リツコさん」

「何かしら？」

「サキエルって、Ａ．Ｔ．フィールドを使ってました？」

「見えなかったわね」

　…やっぱり。

「ずいぶん頑丈ですね」

「そうね」

　リツコさんの目からみてもやっぱりそうなんだ。更に不安ＵＰ。

「強そうですね」

「遠距離兵器の目からの光線と、手から伸びる槍。
　どっちも当たったらただじゃすまないでしょうね」

　子供騙しの言葉は言わない。リツコさんなりの優しさ。
　だけど突き付けられた事実がナイフのように胸に突き刺さる。

「勝てる気がしないんですけど」

「勝てる作戦はミサトが考えてくれるわ。シンリくんはそれを
　ミスをしないようにやってちょうだい」

「…」

　なんだかため息がでる。あんなの相手にどーやったら
　勝てる作戦が立てられるの？
　どう答えていいかわからなくて沈黙が訪れる。

「それじゃ、私は発令所にいくわ。シンリくんはミーティングルームで待ってて。
　プラグスーツに着替えておくのを忘れないように」

　そういってリツコさんは席を立つ。

「あの、ここの払い…」

「子供がそういうこと気にしちゃ駄目よ。私の奢り。
　久しぶりに会ったんだから、それくらいは遠慮しなくていいわ」

　そういってリツコさんがカードで払いを済ませる。

「ご馳走様でした」

「どう致しまして」

　レストランの前で別れる。

　これから戦う相手のことを知ったのに、ちょっとリラックスしている感じ。
　戦うって初めて自覚したときの寒さがなくなったみたい。

ゲンドウ「気に入らんな」
ＹＯＫＯ「いきなり、なに言うんです？　しっかも後書きに割り込んで」
冬月　　「私も同意見だな。発令所でＵＮ軍高官との会話のシーンが
　　　　　　すっかり抜けているではないか？
　　　　　　我々の高度且つ、見る者の尊敬を集めずにおかない重要な場面だ。
　　　　　　この失態、ただでは済まんと思いたまえ」
ＹＯＫＯ「そのセリフ、キャラが違いますよ、冬月先生」
ゲンドウ「…理由を言え」

　　　　　　だっから、その上から見下ろすゲンドウ睨みはやめて〜

ＹＯＫＯ「シンリはそんなシーンに携わってないからカットしただけ」
冬月　　「それに、赤木博士の行動に対する我々の配慮についても言及が
　　　　　　ないのはマズイのではないか？　読者が誤解しかねないぞ」
ＹＯＫＯ「リツコさんってばやさしいな〜。…なんて単純に考える読者は
　　　　　それほど多くないと思いますが？」
冬月　　「ほのめかすだけの描写、置かれている状況からそこまで類推する
　　　　　ことなど誰もやらん。基本的に言葉が足りないのだよ」
ゲンドウ「…その通りだ」

　　　　　あんたに言われたくないって。（＾＾；）

ＹＯＫＯ「とりあえず、次回はちゃんとサキエルくんが第３新東京市に
　　　　　　乗りこみますから。　あ、これ、次回の台本ね」

　　　　　　ぺらぺらの冊子を渡すＹＯＫＯ。

ＹＯＫＯ「それじゃ、冬月先生、後は頼みます」

　　　　　うぃーんと音を立てて沈んでいくＹＯＫＯの椅子。

冬月　　「我々の台本はこれだけか？」
ゲンドウ「…ＹＯＫＯ、お前には失望した」


はぁぁぁ、やっと逃げられた。
まったくあの二人、発令所でちゃんと働いていればいいのに。
それにしてもキャラが勝手に動き出す…動くもんですね。
リツコさんの登場シーンがまた増えてしまった。
マヤさんもちゃんと登場しているから、まぁいいかな。
ただでさえ少ない発令所のシーンなのにごめんなさい、シゲルさん、マコトさん。
…いずれオペレータＡ、Ｂとかの表記になったりして。（嘘です。）
次回はちょっとシンリちゃんは痛い目に合わされることになります。
素人だし、サキエル君、ちょっと強いし。

…それにしてもこの話、誰か読んでいる人、いるのかな？