第０１話「使徒、襲来」Ｆパート

　ミーティングルームに到着すると、ミサトさんが誰かと電話している。
　とりあえずリツコさんの隣に座った。
　広い部屋にミサトさんとリツコさんとボクの３人だけ。
　ミサトさんの声だけがあたりに響く。

「ＵＮ軍に地殻破壊ミサイル搭載機の支援を依頼して。
　時間は最優先、機数はできるだけ。交渉はまかせるわ。
　あと、戦自が貫通ミサイルもってたわよね？
　そう、マッハ６オーバーでるやつ。
　イメージホーミング、調整かけてサキエルの加粒子砲、
　攻撃できるようにしといて。

　え？

　イメージホーミングにサキエルのデータがない？
　そんなのＭＡＧＩのデータを渡しちゃいなさい。

　ばっかね。
　出し惜しみしてちゃ勝てるもんも勝てないわよ。

　それにサキエルの画像なんて、時間はかかるだろうけど、
　ＵＮ軍だって戦略自衛隊だって解析できるんだから、
　秘匿しとく意味なんてないわよ。

　それと回収ポイントに硬化ベークライトの準備をお願い。

　とにかく、サキエル到着までには準備を済ませて。
　私が戻るまでの間、作戦部の指揮権は日向君に委譲するから
　好きなようにやっちゃっていいわ。

　じゃ、よろしく」

　おちゃらけた斡旋業のお姉さんって思ってたのは間違い？
　言ってる内容はあんまりわからなかったけど、作戦の指示を
　していたみたい。ちょっと期待してもいいかも。

「シンちゃん、時間がないからチャッチャと説明するからね」

「はい」

「サキエルの動き、ちょっと言ってみて」

「歩くこと、掴むこと、踏むこと、目からビーム、手から槍。
　こんなところですよね？」

「最新情報だけど、空も飛ぶから」

「…え。空、飛んじゃうんですか？」

「といっても、ちょっと飛距離のあるジャンプだけどね」

　ミサトさんの操作で、大型ディスプレイにサキエルの
　飛行シーンが映し出される。
　胴体にスリットが空いて、そこから勢いよく空気が吹き出て
　ふわっと浮いて、離れたところに着地。
　これくらいの距離なら普通にジャンプしたほうがよくない？

「気が付いた？　どーもサキエルって膝の関節が固いのかは
　わからないけど脚については歩行機能くらいしかないみたいなのよ。
　それにジャンプするまでの時間もけっこう、かかるでしょ？」

「そうですね」

「で、目からビームは身体と同じ方向にしか撃てない。
　手からの槍は光ってから撃ち出されるまで時間差があって
　構えた姿勢はその間、維持している必要があるみたいね」

「はい」

　手を突き出して、ちょっとしてから撃ち出される槍の映像が
　表示される。言われてみれば、テレフォン攻撃かもしれない。

「あと、これが大きな特徴だけど、サキエルは一度に一つの
　行動しか取れない。結構、重要なポイントなのよ、これって」

　言われてみれば、踏む、掴む、目からビーム、手から槍。
　どれもやっていたのは一度に一つだけ。
　ミサトさんってこういう分野の専門家だったんだ。
　ちょっと意外な感じ。


「そこで私たち作戦部が立案した作戦がこれよ」

　ディスプレイには、”必殺とりもち作戦”って表示されてる。
　だ、誰のセンスですか？

　ボクの表情をみて掴みはＯＫって思ったみたい。
　嬉しそうにミサトさんが説明を始める。
　隣のリツコさんがちょっとだけ呆れた表情をしている。
　…一瞬、引いちゃいましたよ、ボクも。

「シンちゃんはまだ戦闘訓練は受けてないから、そんなに
　複雑な行動は取れないわよね？
　だから、基本戦術はとっても簡単。
　身動きの取れなくなったサキエルの胸にある光球を
　サッカーの要領で思いっきり蹴っ飛ばしてちょうだい」

　蹴る？　確かにそれなら簡単だけど。

「動けなくするって、どうやるんですか？」

「エヴァの射出口の上にサキエルがきた時に合わせてゲートをＯＰＥＮ。
　直上から大型ミサイルで穴に押しこむわ。
　で、穴に落ちたところを硬化ベークライト…ま、速乾セメント
　みたいなものを流し込んで固めちゃう。
　これなら、シンちゃんでも蹴られるでしょ？」

　ディスプレイにデフォルメされたサキエルが穴に落ちて
　固められてジタバタしている映像が表示される。

「でも、目からビームと手からの槍はどーするんですか？
　避けろ、なんて言わないですよね？」

　ボクがそう言うことは予想していたんだと思う。
　ニカッと笑顔で説明を続けるミサトさん。

「そこはＵＮ軍の貴重な調査の結果を利用するわ。
　サキエルの反応のよさを逆手に取るわけ。
　さっき、大型ミサイルをサキエルが手で掴んだの見たでしょ？」

「はい」

「穴に落ちたサキエルに対して大型ミサイルを投げて、キャッチしてもらうわけよ。
　これぞ、必殺シリーズの極意。
　相手の注意を他に向けて無防備にするわけよん♪」

　あ、ボク、元ネタわかりましたよ。
　再放送でみたことあります。時代劇でしょ、確か。

「で、手で受け止めた瞬間に走りこんで、光球を蹴る！
　光球を破壊されたサキエルは活動停止。
　ね、なんとかなりそーでしょう」

　ミサトさんは、得意満面の笑みを浮かべた。

「サキエルは一度に複数の動きはできないから、ミサイルを
　キャッチしたら、目からビームはでないってことですよね？」

「そうそう。だから安心して全速力で走って蹴っ飛ばしてね」

「はい。あの、ところでなんで攻撃は光球ってところに
　決めたんですか？　それにそこを破壊されると
　止まるっていうのはどうして？」

　その発言を聞いて、今度はリツコさんが目を輝かせる。
　なんだか二人とも雰囲気が似てる〜。

「観測の結果、光球部分でＳ２機関の活動を意味する
　空間歪曲と微量の素粒子崩壊が確認され…

　…つまりあそこはサキエルの心臓なのよ。
　だからあそこを壊されたら止まるわけ」

　ボクの表情から、途中で説明を切り替える。
　外国語かと思っちゃった…。

「質問はいいわね？　ミーティングはこれでお終い。
　エヴァのディスプレイに３Ｄ映像で進路とか表示するし、
　タイミングはこっちで合図するから」

「わかりました」

　なんとかなるかもしれない。
　ボクは、そう自分に言い聞かせるとケイジへ向かった。

　部屋にはリツコとミサトの二人だけが残っている。

「それにしても大胆な作戦を立てたものね、葛城一尉」

「なによ、文句あるわけ？　現状で取れる最も勝率の高い作戦よ。
　勝率１４．２％だとしても、ね」

「…一撃で破壊できるかしら」

「できなければ勝率は計算できないほど低くなるわ。
　同じ作戦は二度目は通用しないと思ったほうがいいだろうし。
　サキエルが人類の攻撃を脅威と感じていない今がチャンスなのよ」

「武器は持たせなくてよかったの？　指示通り、シンリくんには
　開発中で武器はないって、マヤに説明させたけど」

「リツコ、あんた、人を撃ったことある？　刺したことは？」

「…そんなの、あるわけないじゃない」

「素人じゃ５ｍ先の牛にだって拳銃はＨＩＴしない。
　ナイフで刺したら相手は死ぬ…そういう理性の抑制があるから、
　最初は誰でも…常識があるなら躊躇しちゃうものなのよ」

「相手は使徒よ。人間じゃないわ」

「二本の手と二本の足をもってて顔があれば立派に人間に見えるわ。
　…それに、銃やナイフを見たって、サキエルは萎縮してはくれないしね。
　だから、武器は持たせないのがベストの選択なのよ。
　あとはさっき、初号機が訓練で見せた蹴りの威力が予想以上だった
　こともあるわね」

「兵装ビルの外壁だったのにね、あれ」

「この分だと、装甲ビルだってサキエルの攻撃には長時間、
　耐えることなんて期待しないほうがよさそうだわ。
　…まったく、なんであんなに強いのかしらね、使徒って」

「…ほんと、目の前で見なければ納得できないところだわ」

　二人の部長は顔を見合わせて、溜息をついた。
　とにかくやるしかない。失敗したら全てＯＵＴ。
　…なんとも気が重くなる初陣だった。

　エントリーを済ませると、やっぱりサキエルの意思を感じた。

　怒

　凄く心が刺々しい。
　叩いたり爆弾で炙ったりしたから…。

『司令、よろしいですね』

『使徒を倒さないかぎり人類に未来はない。やりたまえ』

『初号機、発進！』

　発令所から通信が入り、いきなり上方に射出された。
　リニアカタパルトが時速１００ｋｍを超える速度で初号機を
　ジオフロントから第三新東京市まで一瞬で到着させる。

　惑

　…やっぱりサキエル、ボクのほうがわかるんだ。

　　見てるもん。

　射出された初号機の位置はサキエルから見えないはずなのに
　まっすぐこっちを向いてる。

『まんまと燻り出されたってところね』

　既に外は夜。処理された映像のおかげで、昼間のように視界は広い。
　ディスプレイに３次元ＭＡＰが表示される。
　サキエルの位置、遠方にいる攻撃機。

　サキエルが身体を一回、左右に振ったあと、道なりに歩き始めた。

『フォーメーションパターンＢ、２０秒後にサキエルの固定！
　全軍作戦開始！』

　ミサトさんの指示の元、遠距離に位置していた攻撃機が位置を変更し始める。
　既に遠くにあるＵＮ軍の基地から弾道弾が発射されていたみたい。
　すごい速度で光点が移動してくる。

『シンちゃん。ＭＡＰに表示されてる赤いゲートで
　サキエルを固定するから、合図したらダッシュして』

”はい。”

　そうしている間にもサキエルがゆっくり歩いていく。

　ドシーン

　　あと３歩

　ドシーン

　　あと２歩

　ドシーン

　　あと１歩

『ゲートＯＰＥＮ！』

　ミサトさんの指示がでた瞬間、サキエルが踏み出した先の道路が開き、足元が消える！

　落下の勢いを止められず、サキエルは胸元近くまで落下した。


　　ドゴォォォォン、ドゴォォォォン

　その瞬間、直上から落下してきた弾道弾が這い上がろうと
　ホバリングを開始していたサキエルをその場に釘付けにする。

『硬化ベークライト、急いで！』

　ゲートの四方から噴出する硬化ベークライト。
　エヴァの暴走すら固定するそれがどんどん流し込まれ、
　サキエルの足元を固めていく。

『地殻破壊ミサイル、撃ちこんで！』

　交差点の中心にいたサキエルの左側から大型ミサイルが飛んできた。
　先ほどと同じようにサキエルは左手を上げてキャッチする！

『今よ！』

　瞬間、全力で踏み込んだ脚力が１ｋｍ以上離れていた
　初号機を僅か数秒でサキエルの至近に移動させた！

　ドグシャァァァァァァァ

　全力疾走の勢いのまま蹴り出された左脚がサキエルの
　光球にめり込み光球にヒビが入る。

　ピシ

『シンちゃん、もう一回蹴って！』

　ミサトさんの声が聞こえる。

　睨

　サキエルの気配が変わる。
　嫌な予感がして急いで装甲ビルの陰に隠れた。

　　カッ

　一瞬、目の前が真っ白になってしまう。
　さっきまでいた位置をサキエルの目からビームが通過し、
　先にあったビルが一瞬にして爆発、炎上してしまった。

　　ドク…ドク…

　心臓の鼓動が早くなるのがわかる…
　あと少し遅れたら、やられてたんだ。

『シンちゃん。左右から地殻破壊ミサイルを撃ちこむから
　もう一回、光球を蹴って！』

”…”

『返事をして！』

”は、はい”

　怖い…。でも…やらなくちゃ。
　大丈夫、さっきはできたんだから。
　ボクはできる…そう…大丈夫。

　ディスプレイ上で左右から光点がサキエルに移動する。
　さっきと同じ大型ミサイル。今度は左右同時。

『シンちゃん、今よ！』

　ミサトさんの合図と同時にボクは全力で走りだした。

　　大丈夫、このタイミングなら蹴ることはできる…



　拒

　　え…？


　違和感を感じるけど、そのまま勢いよく蹴り込む！

　　左右からきたミサイルとの連携は大丈夫！


　初号機の足が光球を蹴ろうとした瞬間…全身を激しい衝撃が襲った。

　　……痛…い。

　何…何が起きたの？
　蹴りにいったはずなのに、身体中が痛くて、
　ボクは今、空を見上げている。

　　…空？

　そう、初号機はサキエルから遥かに離れたところで、
　仰向けの状態で転がっていた。


　痛いけど、我慢して起き上がる。


　　何、あれ…


　前方にはサキエルがいた。
　擂鉢上に淡い光の膜で地面を削り取り、その中心に悠然と構えて。
　サキエルの周囲に存在した全てのものが光の膜にはじき出されたかのよう。
　足元を固めていたはずのベークライトも胸元まで落ち込んでいたゲートも
　すべてがサキエルの周囲から消えてしまっている。
　周囲のビルが倒壊して煙が舞い、上空に飛ばされた破片が落ちてくる。
　それらがサキエルの周囲に展開されている光の膜に触れるたびに
　干渉光が発生し、光の膜に赤い波紋が広がる。


　　あれは何？


『Ａ．Ｔ．フィールド…』

　リツコさんの声が聞こえる。
　あれが…Ａ．Ｔ．フィールド…全てを防ぐ…全てを退ける絶対の壁。


　排

　
　サキエルの気配が変わる！
　ボクしか見てない…嫌…この感じ…怖い…嫌…ぁ
　身体がいうことをきかない…駄目…避け…

　Ａ．Ｔ．フィールドが消えた瞬間、閃光が初号機を襲った。

『シンリちゃん！』

　　く…ぅ…

　突然、腹部を襲った衝撃に初号機が弾き飛ばされ背後の
　装甲ビルに叩きつけられる。

　…初号機を狙った加粒子砲による攻撃。
　それは人類に対してサキエルが始めて放った反撃の一手。
　紫色の巨人を自己を脅かす存在と認識した証であった。

ミサトさん、がんばったんですけどね。
ちゃんと光球にもヒビ入れたし。
…その代償は、初号機をサキエルが脅威と認めたこと。
人類は再びＡ．Ｔ．フィールドを目撃することとなりました。
勝機、残ってるんでしょうか。
次回、サキエル猛攻…です。

えっと、感想をくださった皆様、ありがとうございます。
感想、ご意見はＹＯＫＯの活力、輸入燃料みたいなものなのです。
自国算出燃料が微量であるため、皆様からの輸入はとても助かります。
これからも応援してくださいね。