痛い…痛いですぅ。
なんだか目のあたりがズキズキと。
ひとまずサキエル戦はこれでお終いです。
え？ 続きをちゃんと書けって？
理由があって第三使徒戦に関するデータは封印されます。
なぜ、封印されているのかはおいおい説明されて
いくことになります。
記述はシンリから見た描写となりますので、当分の間は
真実は闇の中なのです。
次回からは、第２話「見知らぬ天井」です。
”う…ぅ…”
装甲ビルとサキエルの目からビームの衝撃の板挟みになり一瞬、息が詰まる。
く…はぉ…はぁ…はぁ…
息と整えるだけで精一杯。なんだか休憩時間に
立ち眩みを起こした時のような嫌な気分。
でも…前を見なくちゃ
少しでも気を抜くとそのまま気を失いそう。
前を見なく…
３本指を大きく開いて、サキエルが右手を突き出してる！
”イヤ！！！”
『シンちゃん、避けて！』
初号機を回避させようとしたけど、鉛のように身体が重くて動かない。
咄嗟に左手で顔を庇う。
ぐしゃぁ
”キャァァァァァァァァァァ”
サキエルの放った光槍が初号機の左腕装甲を貫通して内側を抉る。
あまりの激痛に自分の左腕を見ると、押さえつけた右手が赤く染まっていく。
ＬＣＬに漂い出した赤い血。
どんどんボクの手が真っ赤に染まっていく。
『シンちゃん、早く避けて！』
懸命なミサトさんの声。他の人達も何か言ってるみたいだけど
よく聞えない。
傷口を押さえつけて前を見ると、再びサキエルの
掌が輝き始めている！
ぐ…
立ち上がるのをやめて、そのまま横に転がる。
途中、左腕がぶつかって血がでてしまう。
左手の激痛のおかげで目を開けるのも辛い状態なのに
意識だけは無理やりハッキリさせられてる。
痛みに耐えるために強く噛み締めてる口元に鉄っぽい味が広がる。
さっきまで初号機のいた位置をサキエルの光槍が貫く。
兵装ビルの装甲版がまるで紙のように打ち抜かれた。
『貫通ミサイル、全弾撃ちこんで。
シンちゃん！ 横のビルに隠れて』
よ…こ…
隣の装甲ビルに倒れこむように機体を滑り込ませる。
バランスを崩してしまい、つい左手で支えようとしてしまう。
声にならない痛みに歯を噛み締める。
初号機もボクも左腕を右手で押さえるけど、溢れ出す血が止まらない。
『初号機の撤退時間を稼ぐわ。ＵＮ軍は一斉攻撃。
弾道弾、２秒間隔で連続発射。
１秒でも長くサキエルを足止めするのよ！』
『撤退は駄目だ。シンリ、ミサイル攻撃と同時に攻撃しろ』
父さん？
『余力のある今しか撤退のチャンスはないんです。
それに今のあの子に戦闘行動は無理です！』
『この戦いに次はない。…シンリ、これがラストチャンスだ。
全力で攻撃しろ。それ以外に生き残る術はない』
『…勝てる見込みはありません。碇司令、命令の
撤回をしてください』
『シンリ、攻撃しろ』
”…はい”
やらなくちゃ。父さんと約束したもの…戦うって。
――＊――
弾道弾が降り注ぎ、地面を穿ち、サキエルをその場に釘付けにする。
これがラストチャンス。
Ａ．Ｔ．フィールドを展開せずにボクの出方を伺っているサキエル。
降り注ぐミサイルなど気にも止めてない。
サキエルの気配が変わった。
睨
今しかない！
サキエルの正面に飛び出し、前傾姿勢のまま踏み込んで、
怪我をしていない右腕でコアに掌打を打ち込む！
目からビームなら耐えられる。
ボゴォァォォォォ
初号機の捨て身の掌打がコアの脇を守る肋骨状の部分を吹き飛ばす！
外した！？
立ち止まることを考えていなかった初号機は掌打を放ったことで
バランスを崩して、そのまま転倒してしまう。
カッ
サキエルの目から放たれた光が初号機の背中を掠り、
アンビリカルケーブルを撃ち抜く。
え？
３次元表示されていた地図も、夜間視界を補正していた映像も
断線と同時に消えてしまい、夜の闇だけが視界を被う。
”…父…さん…”
無意識のうちに言葉となった問いかけにも答える者はない。
なんとか周囲を見るが、覆い被さるように上から見下ろす
サキエルの威圧的な姿しか見えない。
…誰も助けてくれない。
ここにいては危険だとわかっても身体が動かない。
…誰も助けてくれない。
サキエルが手で初号機を掴もうとする。
やだ
手が近づいてくる。
こっちにこないで
初号機の肩をサキエルが掴む。
いや
誰も助けてくれない
いやなのに
誰も助けてくれない
キライ
誰も助けてくれない
イヤ
誰も助けてくれない
”イヤァァァァァァァァァァ”
――＊――
「アンビリカルケーブル断線！ 無線リンクに切り換えます。
駄目です、切り替えられません。
サキエルのジャミングで短距離通信も妨害されています！」
青葉が叫ぶ！
それは発令所が無力と化したということ。
シンリに対して指示を出すことすらできないということ。
「外部スピーカーに切り換えて」
使徒のジャミング能力の高さゆえに想定していたこと。
一方通行の指示だが無いよりはマシ。
「切り換えます…通信システム途絶！
先ほどの攻撃でＡ２３兵装ビル、機能喪失しています」
「他の兵装ビルでサキエルを攻撃して！」
「だ、駄目です、現在位置、攻撃できません！」
飛び交った攻撃が兵装ビルを破壊し、第三新東京市には
多くの死角が生じていた。
そして、今、初号機とサキエルはその死角に位置している。
発令所の誰も何もできない。
懸命に通信を続ける青葉や初号機とのリンクを試みるリツコとマヤ。
だが、サキエルの行動は止められない。
「そんな…」
サキエルが初号機の肩を掴む。
皆が見ているなか、ゆっくりとサキエルは初号機の
顔を覗き込むように屈み………弾き飛ばされた。
――＊――
サキエルが初号機の顔を覗き込んだ瞬間、淡い光の膜が
初号機を中心に広がり、サキエルを、装甲ビルを、地面を…
周囲の全てを弾き飛ばした。
サキエルは近くの装甲ビルに身体を半分めり込ませて
体勢を崩している。
「まさか、初号機がＡ．Ｔ．フィールドを使っているというの！？」
リツコが呆然と呟いた。
人類が行使した初めてのＡ．Ｔ．フィールド。
カッ ゴォォォォン
サキエルが身体をめり込ませたまま、目からビームを乱射し、
それらが悉くＡ．Ｔ．フィールドに命中して、
赤い干渉光を纏った波紋を浮かび上がらせる。
「サキエルの攻撃を完全に防御している…」
兵装ビル貫き、装甲ビルを削り取る使徒の加粒子砲を防ぐ。
日向くんの声にはある種の賞賛が含まれていた。
しかし…
「…駄目だわ、早く助けないと」
死人のようなリツコの声が発令所に響いた。
リツコの手元にあるディスプレイには初号機の展開しているＡ．Ｔ．フィールドの強度が
サキエルのそれと比較して２０％の強度しかもたないことを示している。
サキエルが腕から光槍を放つがＡ．Ｔ．フィールドはそれも防ぐ。
赤い波紋が広がるだけで光の膜は微動だにしない。
撤退させるなら今しかない！
「ＵＮ軍にＮ２弾頭ミサイルを撃ちこませて！」
「駄目だ。初号機まで巻き込まれる」
碇司令の制止が通信の手を止めた。
「初号機はＡ．Ｔ．フィールドを展開しています。
破られてからじゃ遅いんです！」
素人が戦闘に口を挟むなんて！
私は抗議の声をあげた。不信感も露に。
まるで初号機を助けるつもりがないようだ、と思いつつ。
「…今は初号機に賭ける以外に方法はない」
なんだっていうの…初号機には私が知らない機能でもあるっていうわけ？
拒
動きを止めたサキエルが再びＡ．Ｔ．フィールドを身に纏う。
大波の前の細波のように、一方的に初号機のＡ．Ｔ．フィールドを消滅させて、
淡い光の膜が初号機を装甲化されているはずの道路に押し付けめり込ませていく。
「…シンリくん！」
リツコの声だけが静まり返った発令所に響いた。
――＊――
パキーーーーン
音が聞えた。…ボクの心が割れて壊れていく音が。
身体中の感覚が鈍くて、気持ち悪い…。
ギリ、ギリ、ギリ、ギリ
初号機の…ボクの…顔を掴んで吊り上げられる…
首が悲鳴をあげているのに…痛いのに…
…指先ひとつ動かないなんて。
ズガァァァァァン！ ズガァァァァァン！ ズガァァァァァン！
目に打ち込まれる光の槍。切っ先が目の前に突き刺さるたびに痛みが走る…
『シンクロカット、早く止めて！』
リツコさんの声が聞こえる…でも、目の奥まで届くような痛みを感じるたびに
その声も遠くなっていく…遠く…
ズガァァァァァン！ ズガァァァァァン！ ズガァァァァァン！
『駄目です、ジャミング、突破できません！』
モニターがよく見えない。
ズガァァァァァン！ ズガァァァァァン！ ズガァァァァァン！
何度も、何度も割れそうなほどの痛みが頭の芯まで響く…
何度も…
『駄目！ 装甲がもう持たない！』
最後に見えたのは、モニターを埋め尽くす光の槍………
そして…ボクの意識はそこで途切れた。
Ver2.00 2004/4/5 YOKO
痛い…痛いですぅ。
なんだか目のあたりがズキズキと。
ひとまずサキエル戦はこれでお終いです。
え？ 続きをちゃんと書けって？
理由があって第三使徒戦に関するデータは封印されます。
なぜ、封印されているのかはおいおい説明されて
いくことになります。
記述はシンリから見た描写となりますので、当分の間は
真実は闇の中なのです。
次回からは、第２話「見知らぬ天井」です。