第０３話「鳴らない電話」Ｅパート
ＧＥＯ－ＳＨＥＬＴＥＲ ３３４
第３３４地下避難所 第３新東京市 防災課
総床面積２０００㎡ 最大収容人数 ２５０名
中学校の生徒、教師、周囲の住人達が非難しているシェルター。
地下２０ｍに位置する巨大なシェルターは、内部が複数のブロックに分割されている。
最悪の場合でも被害を最小限に抑えるための設計である。
「始まったな」
そういって、ケンスケがデジタルカメラのディスプレイを見せる。
放送受信モードに変更された画面には次のように表示されている。
東海地方を中心とした関東中部地方全域に特別非常事態宣言が
発令されました。詳しい情報は入り次第お知らせ致します。
「なんや、止め絵やないか」
落胆したトウジが興味をなくしてそのまま横を向く。
「…なぁ、あそこにいたおっさん、２０分前に席を立ったのに
まだ戻って来てないな」
「なんや…便所に決まっとるやろ？」
「大型バックを持ってか？」
「よー見とるな、そんなところを」
「トイレに行くにしては人目を気にしている感じがしたし、シェルターは一度、
封鎖されたら別ブロックとの交流もできない…なのに大荷物を抱えて席を立った。
不自然だったんで、覚えていたんだ」
「なら、便所に言ってみればええやないか。行けばはっきりすることや」
「トウジならそう言ってくれると思ったよ」
「あ、委員長、僕達、ちょっとトイレね」
「もー、ちゃんと済ませておきなさいよ」
そう答えた委員長…ヒカリは、クラスメイト達から、ぜんぜんまともな受け答えを
したことがなかったはずの綾波レイが、碇シンリと一緒にいることで、口数は
少ないまでもまともな受け答えをしていたことについて、質問攻めに合っていた。
「綾波さんと碇さんって同じパイロットなんでしょ？ 前から友達だったのかな～？」
「碇さんって中性でしょ？ 案外、恋人同士だったりして？」
「ねぇ、ねぇ、ヒカリ～、何か知らないの？」
「…だから、私は何も知らないんだってば」
いい加減、うんざりしてきたヒカリが不満の声をあげるが、クラスメイト達の
想像力は豊かなようで、次々に仮説をうち立てては、それをネタにして
話合っていた。
ケンスケとトウジがトイレに入ってみると、なぜか窓が空いている。
そこから流れ込んでくる風を頬に感じる。
風？
密閉されているシェルター内では空気の対流はエアコンが起こすものだけのはずであり、
それはとても緩やかなもので、これほどはっきりとわかるものではないはずである。
密閉されているはずのシェルター内に風が起きる状況…
開け放たれた窓…荷物を抱え消えた男…
ケンスケは携帯端末を取り出し、シェルターの見取り図を表示させる。
以前、脱出して出現した謎の巨大生物を見ようと計画したことがあり、
入手したもので、一般に公開されていないデータも表示されている。
「ちょっと肩、貸してくれ」
「何をするんや」
「窓の外で、確認したいことがあるんだ」
「乗れ」
トウジの肩を借りて、ケンスケがトイレの上の方に設置されていて今は
開け放たれている窓から、顔をだして外を確認してみる。
前には外部脱出口を封鎖する装甲扉が見える…。
だが、扉脇の操作パネルを見ると、自動制御から手動制御に変更されており、
そして…装甲扉は開け放たれたままになっている。
顔を出したことで先ほどよりもはっきりと判る風の流れ。
「…おい、トウジ…マズイぞ、この状況は！」
「何かマズイんか？」
「開けっ放しの窓、装甲扉…この状況からして、
ここから外に出ていった馬鹿がいるのは間違いない。
しかも、そいつ、途中の扉を閉めていってないんだ」
「閉めとけばいいやないか」
何をいっとるんや？ といわんばかりのトウジ。
「…。いいか？ 外までの通路はストローみたいなもんなんだ。
外から衝撃波が来たら、通路を通ってシェルターの中はめちゃくちゃだ。
途中の室内用装甲扉をいくら閉めたって、吹き込んでくる衝撃波を食らえば、
紙みたいに突破される。
通路は閉鎖空間だろ？ だから一番弱い場所…つまり扉が壊れるのさ」
「なら、一番外側の装甲扉を閉めればいいんやな？」
「…何を言っているのかわかっているのか？」
「ケンスケ、わいだって、さっき碇に言ったのが八つ当たりだってことは自覚しとる。
どうしても押さえがきかんかったが悪かったと思っとる。
だから、今できることはやっておきたいんや」
「…わかった。俺達だってクラスメイトの一員だ。
全員揃って碇と綾波を迎えてやらなくちゃいけない。…急ごう」
「おう」
ケンスケとトウジは、開け放たれた装甲扉の外側に立つと
開閉システムを操作し、扉を閉ざしていく。
重合金製の扉は開閉が始まっても閉じるまでに時間がかかる。
閉じ始めたのを確認して、二人は次の扉へと急いだ。
『現時点より ガリバー作戦 を開始。トラップ発動は初号機の上空への飛翔を合図とします』
”…了解。”
観
ボクはキミを殺そうとしているんだよ？
なぜなんだろうね…望む者は誰もいないのに。
…行くよ
アンビリカルケーブルをパージ
ガシュゥゥゥゥゥゥゥゥン
装甲化されているはずの第３新東京市の道路に初号機は足跡を残して跳躍！
ゴォォゴォォォン
そのまま、装甲ビルの側面を蹴り飛ばして倒壊させつつ更に別の装甲ビル上へ跳躍！
巨大な装甲ビルの上まで一気に飛び上がる。
待機していた兵装ビル群が一斉に単分子ワイヤーを撃ち出し、
周囲から、シャムシエルに絡み付き、そのまま固定する。
惑
移動が阻害されることに気がついたのか、シャムシエルが身体をくねらせ、
そのたびに無数のワイヤーが風切りの咆哮をあげ、周囲の兵装ビルが軋む。
ボクは、一気に装甲ビルの屋上部分を蹴り飛ばして、シャムシエルの頭上から
ソニックグレイブを構えて、襲い掛かった。
そこ！
ズブゥゥゥゥ
振動を繰り返すシャムシエルのマーキング位置めがけて初号機が
ソニックグレイブを落下の勢いを利用してそのまま突き刺す。
やった？
ソニックグレイブは狙い通り、マーキング位置に深く突き刺さり刃は完全に埋没している。
けれど、身をくねらせていたシャムシエルの身体を斜めに貫く結果となり、
ソニックグレイブの刃は僅かにコアを外してしまっていた。
パキィーン
シャムシエルが身体を動かした瞬間、ソニックグレイブの刃が
横方向からの圧力に耐え切れず割れてしまう。
急いで柄を手放して、そのままシャムシエルの身体を蹴って距離を離そうとした。
斬
”な、何？”
シャムシエルの気配が変化した瞬間、シャムシエルの側腕部から光り輝く
鞭が２本伸びて、残光を残して初号機に襲い掛かってきた。
ザシュゥゥゥ ザシュゥゥゥゥ ザシュゥゥゥゥ
初号機がシャムシエルの身体を蹴って空に身を移す間に、
光鞭が３撃を叩き付け、間一髪、その攻撃をシールドで防御する。
”く…”
一撃、一撃の衝撃がシールド越しに伝わる。
目に見えないほどの速度で襲い掛かってくる鞭がエヴァの蹴りのような衝撃を
叩き付けてくるために、ボクは耐えるのが精一杯。
投
…え？
下方から襲い掛かった光鞭が途中から急にしなり、瞬時に初号機の足首を
捕まえると、初号機をそのまま遠方に放り投げる。
”きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ”
移動のベクトルを急激に変えられた初号機は高く放り投げ上げられて
市街地の外にある小山に落下した。
「ケンスケ、これが一番外の扉やな？」
「そうだ…あいつか！ あんなところにいやがる！」
小さな丘の上で、携帯カメラを使って、撮影をしている男がいる。
撮影しているのは、かなりの距離を置いて対峙している初号機とシャムシエル。
服装、背格好からしてシェルターから出た男に間違いない。
抱えているのは業務用カメラのようだった。
「中に入れ！ 死ぬぞ！」
ケンスケが叫ぶが、撮影している男は撮影行為に熱中していて、
こちらを向きもしない。
「トウジ…」
「まかしとき」
トウジは小振りな石を拾うと、振りかぶって勢いよく投げ付けた。
絶妙なコントロールで投げられた石が男の背に当たり、ようやく振り向いた。
「早く、こっちにこい！」
ケンスケとトウジが身振り手振りを交えて戻ってくるように伝える。
…だが男は追い払う仕草をすると、撮影を再開した。
「…馬鹿な奴…中に入ろう」
「…そやな」
ケンスケとトウジがシェルターの扉を閉めようとした時、
突然、不気味な風斬り音と地鳴りのような低い音が響いた。
シャムシエルに絡みついた単分子ワイヤーが奏でる風切り音と、揺さぶられる
兵装ビルが軋み揺れる音なのだが、もちろん、二人にはそれはわからない。
「な、なんや？」
「！」
先ほどまで距離を置いて対峙していたはずの初号機が装甲ビルを踏み台にして、
上空からシャムシエルに襲い掛かり、刺さった武器を手放して飛び上がった瞬間、
輝く鞭が残光を残して乱舞し、上空の初号機を何度も打ち据える。
そして、シールドを構えた初号機が唯一、防御できていない部位である足首に
シャムシエルの光の鞭が巻き付き、高く放り投げたのを二人はどこか他人事のように
呆然と見ていた。
何キロも離れていたはずの初号機が、そんな二人の至近に
落下してきたのはそれから２秒後だった。
後書き
シャムシエル戦も遂に中盤を越えました。
結局、外に出た二人。
戦況をのんびり眺めている暇もなく、気がつけば視界一杯に迫ってくる初号機。
終わったね、二人とも。（＾＾；）
リツコ 「ＹＯＫＯ、まさか二人が生き残るなんてご都合主義にはならないでしょうね？」
ＹＯＫＯ「え？ な、なんの話です？」
リツコ 「数千トンの重量物がたった２秒で何キロもの距離を移動する…
どれだけの衝撃が生まれるか、わかっているの？」
ＹＯＫＯ「速度の二乗×重量ですよね？ それはもちろん」
リツコ 「シナリオの修正が必要ね…参号機は誰が乗るのかしら？」
ＹＯＫＯ「原作じゃ二人は助かってますしぃ…」
リツコ 「助かる要因は？ 二人は実は使徒でＡ．Ｔ．フィールドが張れるとか、
落下の直前に現れた謎の人物が助けた、とか言うのは論外よ！？」
ＹＯＫＯ「…ふ、問題ありませんよ、リツコさん」
そういって、分厚いシナリオを渡すＹＯＫＯ。
リツコ 「何、この資料は」
ＹＯＫＯ「第４話のシナリオですって。ほら、ここのリツコさんのセリフを見て
くださいよ」
パラ、パラ
リツコ 「…そう、そういうこと。私にこんなに長い説明を言わせようというの」
ＹＯＫＯ「…好きでしょ？」
リツコ 「…ま、いいわ。状況分析をここまでこなせる人物はＮＥＲＶ広しと言えども
この私、赤木リツコ以外はいないのだから」
ＹＯＫＯ「そんなわけで、全てはシナリオ通り♪」
リツコ 「…よかったわね、破綻しなくて」
ＹＯＫＯ「さてと、そろそろ第３話Ｆパートの執筆をしなくちゃ」
リツコ 「…ちょっと待ちなさい。…第４話…私とゲンドウさんのシーンはどこ？」
ＹＯＫＯ「な、なんのはなしでしょう？」
リツコ 「第２話であれだけ準備したのに、全ては闇の中とでも言うつもりかしら？」
ＹＯＫＯ「だ、大丈夫ですよぇ…ほら、第５話のシナリオでは出てるでしょ？
それに、ほら、外伝”セカンドインプレッション”では、こんなシーンも
準備しているんですから」
そういって、ＹＯＫＯは作りかけのシナリオを見せる。
リツコ 「…（ポッ）」
ＹＯＫＯ「じゃ、そういうことで」
リツコ 「…何を着ていけば一番、効果的かしら…」
ジッとシナリオを見ているリツコ。現実世界に帰って来るのはしらばく先の
ようである。
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