シャムシエル戦、終了。
断線しちゃって通信が途絶した状態なので、発令所との
やりとりは一切なし。
やってることは同じなんですけど、原作とは随分違う話になりました。
営倉入りにはなりませんけど、病院送りということで学校は休むことになりました。
シンリが学校に慣れるのはいつのことか…。
次回はオリジナルのお話…第４話「知る権利」です。
第３新東京市にいないのにとても重要な役を担うことになるアスカ。
彼女のがんばりにも期待したいところです。
ドシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
撒き起こる土煙に叩き付けられた二人が背後の壁に手をついて
立ち上がり周囲を確認する。
壁と思えたのは、巨大な初号機の右手…そして二人はちょうど、
人差し指と中指の間に挟まれていた。
「…ト…トウ…ジ…生きてるか…？」
「…っ痛…大丈夫や…」
先ほど、二人が見ていた丘…撮影をしていた男が立っていた場所には、
衝撃波で薙ぎ払われたのか何も残っていない。
自分達が出てきた通路も完全に潰れてしまっている。
だが、シェルターは地下２０ｍに位置している。
途中の装甲扉は全部、閉ざしておいたから中まで衝撃波が入ることは防げたはずだ…。
二人は土煙が収まってきて視界が晴れてくると、
自分達の状態をそうやって客観的に判断した。
…そして遠くから浮遊してくるシャムシエルを見て固まった。
――＊――
シンリは山腹に叩きつけられた衝撃で、一瞬、意識を失い欠けたが、
土煙が収まるころまでには、状況確認ができる程度には落ち着きを取り戻していた。
現在位置は…Ａ３シェルター群の直上！ 第２外部通路入り口に乗り上げてる！
「そ…そんな…」
急いで、第二外部通路入り口だった部分をモニターに表示し…
右手の指の間に人影を発見した。
慌てて拡大処理を行う。
相田ケンスケ：第一中学校 ２年Ａ組
鈴原トウジ ：第一中学校 ２年Ａ組
ディスプレイに情報が表示される。
第三新東京市中心を見ると、乱舞する光鞭が残光を残し、シャムシエルの
周囲に繭のような光の膜を出現させている。
斬
よほど、動きを阻害されたことが気に入らなかったのか、身体を引き起こし、
鞭の届く範囲にある兵装ビルも装甲ビルも、飛来してくるミサイルも、
叩き斬られた衝撃で舞い上がった破片の類までも両断し続けている。
時間がない…
二人…シェルターには入れない…入り口が壊れている
二人が逃げるまでここで防御…できない。
内蔵電源の残り時間はあと８分…人が走って移動できる距離なんて
ほとんど意味がない。
どうすれば二人は助かるの…
”エヴァのエントリープラグは世界で一番、安全なところなのよ”
そのとき、以前、エヴァの訓練中にミサトから聞いた言葉を思い出した。
…ここなら、どう？
今、初号機は斜面に寝そべっている状態にある。
プラグの挿入深度を調整すれば、外から乗り込むことはできる。
シンリは迷わず、外部スピーカーのスイッチを入れると叫んだ。
『そこの二人！ 首筋のハッチからエヴァに乗り込んで！』
斬り刻むものがなくなったせいか、更地と化した第３新東京市中心地区から
ゆっくりと浮遊し、初号機のほうに向かってシャムシエルが移動を開始し始めた。
――＊――
ゴボゴボゴボ
”なんや、水やないか！？”
”デジカメが…１０ｍ防水タイプにしとくんだった…”
”お願いだから余計なこと、考えないで！”
”碇！”
”て、転校生！？”
”感じたことを否定せずにそのまま受け入れて”
二人は、真剣な表情に思わず頷いた。
”再接続スタート”
痛！
エヴァと自分の心に刺を差し込まれたよう。
混乱している二人のせいで、思うように集中できない。
”Ａ１０神経、接続”
それでも強引にエヴァと意志を繋げる。
”シンクロスタート”
目の前の光景変化に、ノイズが入る。
”否定しないで！ 受け入れて…お願いだから”
シンリの真剣で切羽詰った思考が直接、響く。
”シンクロ、再スタート”
霞がかかった状態だが何とかシンクロに成功。
”シンクロ率２５％、ハーモニクス誤差４８％…か”
シンリの心を通じて、異質の存在エヴァンゲリオンの心を
トウジとケンスケは感じ取ってしまう。
痛！
”否定しないで。怖くないから。ちょっと違うだけだから。
心は同じだから。エヴァを怖がっちゃダメ！”
シンリの懸命な思考が再び、響く。
ケンスケとトウジのエヴァンゲリオンを恐れる感情、
目の前に映る使徒”シャムシエル”の圧倒的な存在が発する威圧感に脅える感情。
それらがノイズとなってシンリと初号機のシンクロを邪魔する。
内蔵電源は…あと５分。
ゆっくりと浮遊しながら接近してくるシャムシエル。
途中にある建造物はすべて乱舞する光鞭に薙ぎ払われている。
アンビリカルケーブルのポイントは…見えてる限りは全滅…。
下がるわけにはいかない…直下のシェルターに鞭が当たったら
避難している人達…クラスメイト…洞木さんが死んじゃう。
それはイヤだから。
戦わなくちゃダメ…
盾からプログレッシブナイフを取り出し、高周波震動を開始させる。
…不思議。
危険なことをしようとしているのに、怖くない。
エヴァも使徒も、まるで動物と触れているよう。
仮面をつけていない純粋な心。
人といるより安心する…。
”…”
”何？”
後ろを振り返ると、ケンスケがシンリを見ている。
”どうしてそんなに落ち着いているんだ？”
”…どうしてだろうね。…そう、今から使徒に攻撃をかけるけど、
…痛い目に合うけど、二人を降ろしている余裕はないの。
だから、痛いけど…我慢して”
”…好きにしてくれ。できるだけ邪魔しないようにする”
落ち着いたシンリの心に触れて、ケンスケがどこか納得した
表情ではっきりと答える。その瞳に迷いはない。
”わいもそや。…すまん”
トウジも同じように答える。恐怖と戦い退かない、退けない、それでも立ち向かう
シンリの心に触れて自分が酷く身勝手なことを言っていたと後悔する。
だが心が触れ合ってる状態であれば言葉を重ねる必要はない。
だから詫びる言葉は一言だけ。
バラバラだった心は、やっと…一つになった。
――＊――
”その気持ちだけで嬉しい…。ありがと。
それじゃ…行くよ！”
さっきまで怖がってた二人の心が落ち着いてる。
エヴァの心との繋がりがさっきよりスムーズにできる。
これなら…いける！
シャムシエルの光鞭がしなり、衝撃波を伴って恐るべき速度で２本とも乱舞する。
あまりの速度にシャムシエルの周囲に光の残像が繭のように残る。
シャムシエルの後面から飛来するミサイルもことごとく両断されていく。
斬
残光を残して乱舞する光鞭の動きを感じる…。
なぜか、光鞭の動きがわかる…意志を持った鞭。
あの鞭はシャムシエルの心だから。
斬
乱舞する光鞭が交差する一瞬を逃さず、瞬時に間合いを詰めて
光鞭を左腕の盾で跳ね上げ、そのまま勢いを殺さず間合いを詰める！
跳ね上げた光鞭が左右から迫る。
貫
左からきた光鞭を盾で弾き、そのまま右腕を突き出して、コアに突き刺す。
ゴボ…
”あぅ…ぐ…”
右の光鞭を回避するより突き刺すことを優先した…。
結果、光鞭は初号機の腹部を貫通する。
貫通した光鞭がのたうち、そのたびに激痛が走る。
ギィシィィィ
シャムシエルのコアに突き刺したプログレッシブナイフの周囲に火花が激しく飛び散る。
排
”駄…目…ぇ…”
腹の中を抉られる痛み、傷口を焼かれる痛み。
だけど、目の前のシャムシエルのコアが流す痛みのように思えてくる。
…ごめん…ごめんね。
惑
ゴボッ
口の中に鉄の味が広がる。
目の前が赤い…。
口から溢れた血がＬＣＬ内に漂う。
ギィシィィィィィ
深くプログレッシブナイフを刺す。踏み出した分だけ初号機の腹部を光鞭が抉る。
悔
”…な…ぜ…？”
互いを刺し滅ぼそうとする行為。
だが、シンリの心に使徒に対する恐怖も拒絶も敵意もなく、
シャムシエルの意志にも悪意は感じられない。
…だが、時は止まらない。
ギィィィィィン
刀身全てがコアに飲み込まれ、ひび割れがコア全体に及んでいく。
別
使徒の意志が遠くなっていく…。
シャムシエルの意識が遠く離れていき…触れ合っていた意識が離れ…感じられなくなった。
腹部を抉る光鞭の動きがいつのまにか止まっている。
今はただ、貫通された傷が意識を削り取っていくだけ。
傷口を焼かれる痛みも…今はない。
モニターを見ると、コアから出ていた火花も出ていない。
全てが…止まっている。
終わったんだ…。
”さよなら”
使徒のジャミングが停止したことで通信回線が復活し、
ミサトさんの声が聞える。何か言ってるみたい…
あれ…暗い…いつ夜になったんだろ…
声が遠い…
…
――＊――
ケンスケとトウジは教室で誰も入ってこない教壇横の扉を見ている。
外は雨…、今日でシャムシエルとの戦闘後３日目だが、シンリは
まだ、学校にこない。
「…三日目だな」
「さよか」
シャムシエル撃破後に糸が切れたようにシンリが倒れるのを見た。
口から血を流し、蒼いプラグスーツの腹部が血で赤く染まっていた。
二人は駆けつけた医師団がシンリを運んでいくのを…ただ…
傍観しているしかなかった。
シャムシエルに抉られた腹の痛みにほとんど食事もできてない。
食べても、気持ち悪くて吐き出してしまうから。
だが、そんなことはどうでもよかった。
綾波レイもあれから登校してこない。
「どうしてるのかわからんのか？」
「父さんのデータベースにアクセスしてみたけど、さっぱり」
「連絡取る方法はないんか？」
「緊急連絡用の電話番号なら、学校のデータベースに登録されてる。
…どうする…かけてみるか？」
「…そうするわ」
職員室近くの公衆電話からかけてみる。
カチャ
『おかけになった電話番号は携帯の電源が入っていないか、
電波の届かない場所にいるためかかりません。
発信音の後にメッセージをお話ください。…ピー』
外は未だに雨が降っている。
街中で破壊された施設の復旧工事が続いているが、
その音も今日はあまり聞えない。
全てが雨音にかき消され、静けさだけが残る。
結局、今日もシンリとレイから学校への連絡はなかった。
Ver2.00 2004/04/18 YOKO
シャムシエル戦、終了。
断線しちゃって通信が途絶した状態なので、発令所との
やりとりは一切なし。
やってることは同じなんですけど、原作とは随分違う話になりました。
営倉入りにはなりませんけど、病院送りということで学校は休むことになりました。
シンリが学校に慣れるのはいつのことか…。
次回はオリジナルのお話…第４話「知る権利」です。
第３新東京市にいないのにとても重要な役を担うことになるアスカ。
彼女のがんばりにも期待したいところです。