第０４話「知る権利」Ａパート

『…作戦の合図を…してください』

　碇くんの声が聞こえる。

　…いつもと違う硬く冷たい声。

　エントリープラグ内で待機を初めて３０分が経過し、
　葛城一尉がコンタクト中止を宣言。
　シャムシエル殲滅の作戦を行うことになった。

『現時点より　ガリバー作戦　を開始。トラップ発動は初号機の上空への
　飛翔を合図とします』

　　私への指示はない。

　初号機が戦闘不能状態に陥った場合、零号機の起動を行う。
　…以前、零号機の起動が失敗してから、再起動実験は
　未だなされていない。
　再起動が成功する可能性は低く、最悪の場合の選択肢として
　私は待機している。

　　だから、私への指示がないのは良いこと

　そう、結論付けてレイはいつもと同じように、モニターに表示される
　戦闘状況の監視映像をジッと見つめる。
　　一見するといつもと同じ仕草。だが、僅かに落ち着きがなくなって
　いることに気がついたものはいない。

『初号機、移動開始！』

　一瞬のうちに、初号機が距離を詰めて、装甲ビルを使って跳躍。
　跳躍を合図にワイヤーが使徒を固定し、初号機がソニックグレイブを刺す。
　使徒が体を捻った瞬間、ソニックグレイブが破損し、初号機は
　使徒を蹴って、距離を離そうとする。
　そこを、体から光輝く鞭を２本、発生させて使徒が追撃し、
　初号機を掴むと、遠くへと放り投げた。
　
　−この間、約３秒。
　投げられた初号機が落下するまで含めても５秒。

　無数のワイヤー射出装置を制御し、初号機の動きに合わせて
　使徒を拘束する作業はすべてＭＡＧＩが事前の作戦立案に
　合わせて実行しているため、発令所からの指示は何もない。
　…というより指示をする時間がない。
　あまりにも早く変化する状況の中では、分析すら終わらない。

『シャムシエル、健在』

　オペレーターの短い報告が行われる。
　その発言が終わるまでの間に、光鞭が乱舞し、使徒の周囲に存在
　していた兵装ビル、装甲ビルをことごとく両断していき、
　サブモニターの一つに表示されていた第三新東京市の稼働状況表示が
　機能消失のマークに次々と変化していった。

『兵装ビル、装甲ビル、アンビリカルケーブルポイント、シャムシエルを
　中心に半径１ｋｍ以内の設備は全滅です』

　悲痛な声の報告が響く。その報告の間に、両断されたビル群が傾き、
　内部機構や兵器類が破損することによる爆発が連鎖的に発生し始める。
　爆発で飛散する破片すら使徒の光鞭が両断していくために、使徒の
　周囲だけが、残光の膜に覆われて別世界のように映る。

『Ａ．Ｔ．フィールドの展開を確認！　使徒の光鞭はＡ．Ｔ．フィールドに
　包まれているものと思われます』
『Ａ．Ｔ．フィールドの新しい使い方ね…』

　切れ味の異常さからある程度、推測していたリツコが淡々と答える。
　だが、状況がわかったからといって対策があるわけではない。

『…初号機の状況は！？』

　葛城一尉の問い掛ける声が聞こえる。現象をただ受け止めるのが
　精一杯の事態の中、初号機と使徒の距離が空くことで、状況を
　確認する間が生まれた。

『光学観測では障害は確認できません』

　サブモニターに小山に落下した初号機が土煙に包まれている姿が表示されている。
　シールドにミミズ腫れのように焼かれた跡が３カ所あるだけで、他に損傷は認められない。

『初号機の起動に合わせて、撤退信号を発射して』
『了解』

　初号機の周囲にあった土煙が晴れても、初号機は動かない。
　時間だけが過ぎていき、発令所のメンバーに焦りの表情が浮かぶ。

『シャムシエル、浮上開始！　初号機へ接近を始めています』
『何ですって！？』

　グリップを握るレイの手に力が入る。

　　まだ…指示は出ていない。

　モニターをみつめるレイが僅かに焦りの表情を浮かべたのだが
　誰もレイのことなど見ている余裕などあるわけもなく、その変化に
　気がついた者はいなかった。

『シンちゃん、早く起きて！　ちょっと青葉君、通信機、改良したんじゃ
　なかったの！？』

『兵装ビル群の崩壊影響で、現在、システムが混乱しています。
　最寄りの通信装置が使用できません。
　飛散している破片が電波攪乱を引き起こしているものと思われます。
　通信状態が安定するまであと３０秒程度、必要です』

『それじゃ間に合わないわ！　日向君、兵装ビルの生き残りで
　初号機を攻撃できるのはある？』
『可能ですが…』
『それじゃ、合図をしたら初号機のシールドに攻撃をして。
　気絶しているなら、それで起きるはずよ！』
『…了解』

『そこの二人！　首筋のハッチからエヴァに乗り込んで！』

　初号機を探っていた集音センサーが初号機が発した音を拾った。
　同時に、発令所内が一瞬、静まりかえる。

『マヤ、初号機の周囲をスキャン。人影を見つけて！』
『了解…発見しました。第１中学校の生徒二人です』

　サブモニター上に二人のパーソナルデータが表示される。

”赤木博士”
『何？』

　苛ついた声が答える。

”発進します”
『…まだ、そのときじゃないわ』

”…。”

　なぜ、私はここにいるの。

　初号機の首筋からエントリープラグが排出され、走り込んだ
　二人がその中に慌てて飛び込んでいく。

『シャムシエル後背に向けてミサイルを発射可能な兵装ビル、
　一斉攻撃！　１秒でもいいから気を引いて！』
『了解！』

　シャムシエルの後側に位置する兵装ビルはもちろんのこと、
　側面に位置する兵装ビルも弾道を強引にねじ曲げて、
　次々にミサイルをシャムシエルの後背から撃ち込んでいく。

　だが、シャムシエルの移動速度は全く変わらず、乱舞する
　光鞭が後背から襲い掛かるミサイルをことごとく両断して
　いき、合わせて届く範囲内の兵装ビル群も切り刻んでいく。

　浮遊して移動するシャムシエルの動きが非常にゆっくりと
　したものであったため、まだ初号機はシャムシエルの光鞭の
　攻撃範囲内には捉えられていない。

『撤退信号発射！』
『撤退信号発射します』

　ミサトの声に答えて、信号弾が打ち上げられるが、兵装ビル群が
　爆発して黒煙があがり、無数の破片が降り注ぐ状況下では、見えたか
　どうか疑問である。

『初号機、プログレッシブナイフを装備！』

　報告の声が発令所内に響き、騒然とした雰囲気に変わる。

『…日向君、ＵＮ軍にＮ２弾道弾発射準備を指示！』
『葛城さん！？』

　第３新東京市でのＮ２兵器使用は最後の手段。
　日向が慌てるのも無理はない。

『それと、リツコ、零号機のシンクロスタート準備しておいて』

　押し殺したミサトの声が通信機越しに聞こえる。

『…わかったわ。…レイ』
”はい”
『シンクロ準備。心を落ち着けて。このシンクロに２度目はないわ』
”…はい”

　初号機がシャムシエルに向かって走り込み、光鞭をシールドで
　弾いて隙をつくり、一気にコアにプログレッシブナイフを
　突き立てる。
　だが、同時にシャムシエルの光鞭も初号機を貫き、シャムシエルの
　コアからは火花が、初号機の貫通された腹部からは赤黒い液体が
　噴出する。

　サブモニターから視線を戻し、メインモニターを見る。
　零号機起動の指示を待つたくさんのスタッフが忙しそうに
　作業を行っているのが見える。だが、それ以外はいつものケイジの光景。
　地上では初号機とシャムシエルが戦っているが、その騒ぎも
　ここまでは時折、衝撃が伝わってくるだけ。

　…。

　なぜ、私はここにいるの。


　発令所の全員がモニターを凝視する中、互いに貫いたままの状態が
　続き…３０秒ほどして、シャムシエルのコアからでていた火花が
　なくなった。
　輝きを放っていた鞭も、その光を失い、ただの紐にしか見えない。
　初号機を貫いた鞭を伝って初号機から出た液体がしたたり落ちる。

『通信状態回復！シャムシエル、エネルギー反応消失』
『シンちゃん、返事をして！　シンちゃん！』

　復活したモニター上に表示された初号機のエントリープラグ内映像が
　映し出され、同時にシンリの身体状況データが表示される。
　倒れ込んだシンリの口元と腹部から血がにじみ出てＬＣＬ内に漂い始めている。
　既に生命維持装置が全力で稼働しているが、内臓が損傷を受けて、
　危険な状態にあることを示している。

『医療班、サードチルドレンの救出に向かって！
　日向君、迎撃システムの状況は？』

『現在、鎮火作業を実施中。あと１０分で作業終了します。
　現時点で、稼働可能な兵装ビル群は全体の５％です』

『二次災害に注意して。ＵＮ軍の待機状態は解除。
　現時点で対シャムシエル戦を終了、事後処理を開始してちょうだい』
『了解』

　事前の計画に現在の状況を加味して、作戦部メンバー達が次々に
　指示を下していき、破損し倒壊したビル群の影響を受けている地区へ
　救出要員が派遣されていく。

　広報部は戦闘終了後の関係各所への連絡通知に奔走し、技術部は
　初号機と使徒の残骸と兵装ビル群の処理を行うためにチームを
　組んで行動を開始していた。

　混乱に乗じておきる問題を解決するために、保安諜報部も動く。


　たった５分程度の戦闘で、崩壊した第三新東京市。
　一通り、指示を行って手が空いたミサトがやっと、レイに気がついた。

『レイ、お疲れさま。戦闘待機状態に戻っていいわ』
”…わかりました。”

　次々に舞い込む報告に、発令所のメンバーが忙殺され、エントリープラグ
　から出たレイが更衣室に戻るまで、気にとめた者はいなかった。
　誰もが状況の変化に追い立てられ、静かに歩いているレイに
　注意を向ける余裕がなかったのだろう。

　　なぜ、私はここにいるの…

　シャワーを浴びてＬＣＬを洗い流した後、制服に着替えたレイは
　答えのでない疑問を思い浮かべる自分のことがわからなくなっていた。

　　なぜ、私は指示に疑問を持ったの…？

　論理的に考えて、発令所がレイに下した命令は特に問題はない。
　レイが現時点でやるべきことがあるわけでもない。
　現在の混乱が収束するまで、レイが待機していることも保安面から
　考えても妥当な判断のはずである。

　　落ち着かないのは…なぜ？

　更衣室の扉をみたまま、考えに沈みこむ…。


　そんなレイに、ミサトから待機解除と、帰宅の指示がされたのは
　それから４時間後のことであった。

ＹＯＫＯ「っというわけで、シャムシエル戦、おっしまい」
アスカ　「…私の出番はどこ」

　コソ、コソ

アスカ　「そこ、逃げるんじゃない！」
ＹＯＫＯ「は、あ、はははは、は…はぁ。
　　　　　…なんです、アスカさん」
アスカ　「だから、私の出番は？」
ＹＯＫＯ「Ｂパートからになっちゃいました。（＾＾；）」
アスカ　「なんで第３話の時に聞いたプロットと変わってんのよ！？」
ＹＯＫＯ「第４話はレイが自宅に一人で戻るってシーンから
　　　　　スタートだったんですけど…いきなり自宅に
　　　　　戻ると、説明が足りないかな〜と」
アスカ　「Ｂパートはちゃんと私は出演できるんでしょーね！
　　　　　今度、無駄足踏ませた日には明日の朝日が拝めるなんて
　　　　　思うんじゃないわよ！」
ＹＯＫＯ「それはもう、重々承知していますです、はい。
　　　　　次回はセリフ、長いからちゃんと読んでおいて下さいよ」

　そういってシナリオ集を渡す。

アスカ　「…ちょっと、これちゃんとルビ振っておきなさいよ！
　　　　　まったく気が利かないんだから」
ＹＯＫＯ「漢字、ダメでしたっけ、そーいえば」
アスカ　「うっるさーい！　この私に不可能なんて無いのよ。
　　　　　見てなさい、第３新東京市につくまでに漢字くらい
　　　　　パーフェクトにこなして見せるわ」
ＹＯＫＯ「まぁ、がんばってみてください」
アスカ　「…なんか気になる言い方ね」