今回はシンリの心に触れてみました。
使徒の心を感じ取ってしまうシンリにとってはとても大切なこと。
なんとかリツコがフォローしてくれてよかったです。
エヴァや使徒の非常識な丈夫さに関する考察もちょこっと追加。
次回以降、テストの結果を踏まえてリツコさんがもう少し詳細な
説明をする予定です。
さて、やっと「起承転結」の「起」がお終い。次回からは登校再開、「承」に
あたる部分です。
感想をくださった皆様、ありがとーです。
これからも応援してくださいね〜。
突き刺さるナイフ
なぜ刺したの？
迸る火花
あの子、驚いていた…
貫かれ焼かれる痛み
自分だけが痛かったつもり？
自らの意思で命を奪った事実
しかたなかった…本当にそう？
消えていった心
ボクだけが避ける道を選べる可能性があったのに
時が停まった骸
なぜ、涙がでないの
何も映さない漆黒だけが存在するトコロ…問い掛ける声だけが心に響く
「…碇くん」
誰？
何も見えない闇の遠くから声が聞こえる。
ボクを呼ぶ声
「…碇くん」
ひんやりとした感触が頬に触れる。心地よさが伝わってくる…
前にも感じた感触…あれはいつのことだったかな…
「…碇くん」
さっきよりハッキリと聞こえる声。周りが明るい…
今、何時？
目を開けると、ボクの頬に手をあててジッと覗きこむ赤い瞳と目が合った。
「…どうしたの？」
いつのまに部屋に入って来たのかな？ 襖を開ける音は聞こえなかったけど。
「…おはよう、碇くん」
「おはよう…」
なんだか綾波さん、ホッとしたような不思議な表情をしてる。
今まで森にいたのかな？ 木々の香りが微かに匂う。
左側の窓にはブラインドが降ろされていて、天井には見覚えのある照明灯。
微かに聞こえる医療機器の作動音。
ここ…ボクの部屋じゃない。
…いつもの病室…
「綾波さん…シャムシエルが死んでからどれくらい経ったの？」
「４３時間と５３分」
律儀に携帯端末の時刻を確認して答える綾波さん。
「…二日も寝てたんだ…」
「…えぇ」
「そういえば、鈴原君と相田君は怪我はしなかったの？」
「…？」
「ボクと一緒にエントリープラグ内にいた中学生の男の子達。
…知らない？」
「釈放されていたと思う…」
「釈放？ 退院じゃないの？」
「外出禁止令に違反した件で事情聴取を実施。入院の必要なしと
判断されたため事情聴取後に釈放した、と葛城一尉が言っていたわ」
「…そっか…」
「…」
ボクをジッとみつめる綾波さん。
「なに？」
「…怪我…具合はどう？」
怪我？ そういえばシャムシエル戦のとき、とっても痛かった…
でも今は痛くない…っていうか感覚がない。
「お腹の辺り、なんだか感覚がないんだけど…どうしてかな？
麻酔でもかかってるとか？」
ボクの問いに、綾波さんが周囲に林立する医療機器を見まわす。
「…痛み止めが定期投薬されているわ」
ふーん、ボクは見ても全然わからないけど、綾波さんって医療に
詳しいんだ。将来、お医者さんになりたいとか…？
「じゃ、薬が切れたら…痛い…んだろうね、やっぱり」
「…多分」
それからかなりの間、ボクと綾波さんはいろんな話をして過ごした。
お見舞いってことで綾波さんが撮ってくれた動物の写真を
二人で見ながら、撮影のときのことを少しずつ話してくれる綾波さん。
一生懸命、撮ってくれたんだね…ありがと。
綾波さんの話の中で何回もアスカのことが出て来た。
仲良くお話しているみたいで安心。
午後から綾波さんは訓練、入れ替わりにリツコさんが来てくれた。
「思ったより気分は良さそうね」
「はい。…あの、リツコさん…」
「何かしら？」
「…涙が出ないんです。悲しいはずなのに」
そう。起きてから気になっていたこと。
心が切り取られたように欠けた感じがするのに、辛いのに…
悲しいのに…なぜ涙が出ないのか…
ボク、涙腺強いほうじゃないと思ってたんだけど。
「詳しく聞かせてくれるかしら…」
「…はい」
ボクはシャムシエル戦で感じたこと、今日、起きてから考えたこと、
今の気持ち、感覚を話し続けた。
自分の心…自分のことのはずなのに、どこか客観的に見ている
自分がもう一人いる感じ…。
リツコさんはボクの話をずっと聞いてくれた。
時折、質問を交えながらできるだけ理解しようとしてくれてる。
リツコさんと話をしていると、あやふやだった部分がなくなって
いくのがわかる。
「…ボク、どうしちゃったんでしょう…」
「…人は余りにもショックなことがあると、現実感を喪失してしまって
どこか他人事のように感じる場合があるわ」
「…」
「でも、シャムシエルとのことは多分、別のことが理由ね」
「別のこと？」
「シャムシエルの意志が消えていったとき、”別れる”、”去る”、”帰る”って
感じがしたのよね？」
「はい」
「普通、生物なら生存本能があるはずなのよ。使徒は外部からの攻撃に
対して自己防衛的行動をとることからしても自己保存、生存の本能も
備えていると考えるのが自然よ」
「…はい」
「いくら意志の繋がりがあってある程度、相手に対して好感を持っていたとしても、
自分自身が死んでしまうその瞬間に、生きようとする意志、
滅びを回避しようとする意志、自らを滅ぼそうとする相手に対する恨み、
憎しみといった拒絶の意志がまったく感じられないのは余りにも不自然だわ」
「…はい」
「そうなると考えられることは絞られてくるわ。
まず、使徒が滅びることを望んでいる場合。
だけど自己防衛行動をとったことからしても可能性は低い。
次に使徒にとって生と死が単なる状態の差に過ぎない場合。
突然、出現する非常識さから言ってこの可能性は捨てきれない。
だけどシャムシエルを構成していたボディが第三新東京市に残っていることからすると、
出現前と現在の状況は異なるからこの説の可能性も低いわね。
そうなると後は、使徒の出現時に感じられた感覚…この世界に降りてくる、
つまり、使徒は別の世界、次元、いろいろな言い方はあるけど、３次元空間の
通常の移動方法では辿りつくことのできないトコロから、この世界に
現れるともとれる独特の出現パターンに注目するべきね」
「…？」
「つまり、使徒は元の世界に帰っていったと考えるの。
…そう…例えるなら、使徒にとってボディはこの世界に降りてくるために
必要なオモリのようなモノ、と思えばいいのかもしれない。
つまり、この世界に降りてくるために、オモリを持って降りてくるけど、
オモリとの接続が切れると、この場に留まれずに元の世界に戻ってしまう。
…どうかしら？ シンリくんの受けた感じからしてそう考えられないかしら？」
水に浮かぶピンポン玉。オモリを付けると沈むけど、外すと浮かぶ。
ピンポン玉は位置は変わっても、ピンポン玉。
そんな感じかな…
「そうですね…そんな感じ…かもしれません。
…えっと、そうすると あの子は死んでないかもしれないってことですか？」
「そもそも死ぬ、という概念が通用するかどうかもわからないわ」
「…よかった」
ボクの呟きにリツコさんが苦笑する。
「シンリくん？ あくまでもさっき話したのは仮説であって真実とは限らないわ。
それに、一度倒したはずの使徒がまた現れる可能性がある、なんて話は
人類にとってはあまり嬉しい話じゃないことはわかるわね？」
「…あ…あの、ごめんなさい」
「否定する要素もないんだから、押し掛けたお客さんに帰ってもらう、くらいに
考えていてもいいと思うわ。 もし、使徒が恨み言を言ったりしたら、
その時点で、もう一度、考えても遅くはないでしょう？」
リツコさんが優しく微笑んでボクの頭を撫でてくれる。
「…はい」
なんだか心が軽くなった感じ。
今度、シンクロ試験の時にでもシャムシエルの意志を捜してみようっと。
プシュー
「やっほー、リツコ♪」
リツコが自室に戻るのを待っていたかのようにミサトが乱入してきた。
「やけに元気ね」
「ん、さっきシンちゃんのお見舞いに行って来たけど、シャムシエル戦の
こともあんまり引きずってる感じもないし、思ったより元気そうだったから」
「そうね」
「…で、リツコ。さっきシンちゃんに話していたこと…あれ、マジ？」
ＮＥＲＶ施設内にプライバシーは存在しないようである。
「嘘は言ってないし、否定する要素もない、ということであって
それが事実とは限らないわ」
「最悪、倒したはずのサキエル、シャムシエルが再出現する可能性も
あるということかしら？」
「その可能性を否定する根拠は何もないわ。ただ、過去の記録から見ると
使徒が例えボディを再構成するとしても、それは何万年も先の話だわ。
…それにシャムシエルはともかく、サキエルの再出現の可能性は低いと
思うわ」
「そうね…心臓を刺された死んだのと、身体を消滅させられたのじゃ、
再構成の時間も違うって考えるのが自然だものね」
対サキエル戦のラストを思い出して、ウゲッと顔を顰めるミサト。
「そういうこと。もっとも、それがわかるのは使徒が再出現した時よ」
「私達が気にする話じゃないわね。…そうそう、聞いておきたいことがあったのよ」
「何かしら？」
「使徒もエヴァもＡ．Ｔ．フィールドを行使するということで、物凄く大雑把だけど
同じモノとして話をするけど、もしかして恒常的に展開されてるＡ．Ｔ．フィールドって
周囲の物、ボディに対して、なんか影響を与えてない？
兵装ビルを瞬断するシャムシエルの光鞭がエヴァのシールドに対して当たったとき、
多少、傷を付けただけだったでしょ。いくらなんでも差がありすぎると思うのよね」
「それについてはシンリくんの体調が安定した時点でテストをしてみるつもりよ。
ミサトの予想はたぶん当たり。Ａ．Ｔ．フィールドは周囲の物質・空間に対して
間違いなく影響を与えているわ…恐らく自己保存に有利な方向に物理法則を
捻じ曲げているはずね」
「ずいぶん、便利な話ね…それってシンちゃんのクラスメイトが生き残ったのと
関係があるの？」
「本来なら二人が生きていることさえ、物理法則に対する冒涜なのよ。
それが打撲、切り傷、擦り傷はあっても、入院の必要がないほどの軽傷。
二人の周囲だけ、衝撃が大幅に緩和されたとしか思えないわ。
状況から見て、至近距離にいたエヴァから何らかの影響を受けていたと見るのが自然ね」
「…興味深い話ね…もしそうなら、エヴァに装甲を持ち歩いてもらうって戦術は
思ったより効果的ということになる。それにエヴァによる近接戦闘が使徒に
予想より効果的なのも頷けるわね。
使徒のＡ．Ｔ．フィールドの影響力をエヴァのＡ．Ｔ．フィールドの影響力が邪魔することで
結果としてただの攻撃よりも、エヴァの攻撃のほうが威力がでる…と」
「あくまでも恒常的に展開されているＡ．Ｔ．フィールドの場合は、よ。
外部展開されているＡ．Ｔ．フィールドの強度は恒常的なそれとは比較にならない。
エヴァの恒常的に展開されているＡ．Ｔ．フィールドでは影響力が小さ過ぎる。
Ａ．Ｔ．フィールドが突破不可能な壁であることに違いはないわ」
「未来に希望が持てるだけでもマシよ」
「相変わらず楽天的ね」
「あら、希望的観測は人が生きていくための必需品よ？」
「あなたのそういうところ、助かるわ」
リツコの素直な物言いに虚を突かれるミサト。
「そ、そう？ 私、仕事あっから…じゃ、またね」
どことなく不自然な振るまいのまま、そそくさと去って行く。
リツコも自分の発言を思い出して考え込む。
「私…変わったわね…」
今回はシンリの心に触れてみました。
使徒の心を感じ取ってしまうシンリにとってはとても大切なこと。
なんとかリツコがフォローしてくれてよかったです。
エヴァや使徒の非常識な丈夫さに関する考察もちょこっと追加。
次回以降、テストの結果を踏まえてリツコさんがもう少し詳細な
説明をする予定です。
さて、やっと「起承転結」の「起」がお終い。次回からは登校再開、「承」に
あたる部分です。
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