今回は疲れました。
何がか、というとナツミちゃんの登場、ということで。
なにせ事前にほとんど決めてなかったから、さて書こう、という段階で
焦りました。
さて、イベントもこれで残り１つ。
次回Ｉパートで、第４話もお終い。
遂に判明した男女の正体♪
次回はちょっち書くのが辛いシーンが多くなりそう…。
感情を露にするシンリって、普段は見ませんからね。
二人はポツンと病室の前に立っていた。
少し俯いて、閉じられた病室の扉を時折見るシンリ。
シンリの隣で腕を組んで扉を睨み付けているトウジ。
先ほど、トウジが先に入って、シンリが見舞いに来たことを告げた途端に、
「お兄ちゃん、そういうことは先に言ってよ。 もー、気が利かないんだから！！！！！」
等々、文句の嵐を食らって、外に叩き出されたのである。
最後に「碇さん、少しだけ待っててくださいね」と愛想のよい声がかかり、
それから５分ほど経過している。
「あら、鈴原君、またナツミちゃんと喧嘩してるの？」
通りかかった看護婦が話し掛ける。
「わいは気が利かん、ちゅー話らしいです」
「あらあら大変ねぇ〜。早く仲直りしちゃいなさい」
「わかっとります」
トウジの答えに苦笑しながら看護婦が去っていく。
しばらく、蝉の声だけが廊下に響いていたが、室内から
シンリだけを呼ぶ声が聞こえた。
「ナツミ、わいは入っちゃあかんのか？」
「お兄ちゃんは後で呼ぶから、それまで廊下で待ってて」
「なんや、わいは仲間外れか？」
「男は黙って言うこと聞くの！」
「…。碇、済まんがそういうことや」
一瞬、反論しかけたが、さすがに毎日のように口論しては看護婦に
注意されたことを思い出し、この場は引き下がる。
「…うん」
少し緊張した面持ちのまま、シンリが室内に入る。
もう、お兄ちゃんったら気が効かないんだからぁ。
なんで昨日、言ってくれないのよ。
今日着てるパジャマも、お気に入りの奴じゃないし、寝癖も上手く直ってないのに。
あーん、とにかく、寝癖だけでも直すのよ。
手鏡を取り出し、懸命にぴょこん、と撥ねてる寝癖を直して襟元を正す。
「碇さん…どうぞ」
どんな人なのかな…お兄ちゃんの話を聞いても全然、イメージが湧かない。
「ナツミ、わいは入っちゃあかんのか？」
「お兄ちゃんは後で呼ぶから、それまで廊下で待ってて」
少しは遠慮してよぉ。私を守ってくれた人に遭えるっていうのに。
「なんや、わいは仲間外れか？」
「男は黙って言うこと聞くの！」
「…。碇、済まんがそういうことや」
「…うん」
ノックの音が響いた後、軽い足音と共に静かに一人、室内に入って来た。
白人より白い肌、光を受けて淡い輝きをみせる肩で揃えられた白金の髪。
一度、目を合わせるとそのまま吸い込まれそうになる紅い瞳。
中学校の女の子の制服に似た服装。
薄手のジャケット、膝上まであるニーソックスでほとんど肌が見えないのに
どこか涼しげな感じがする。
この人が碇シンリ…さん…
「始めまして。ナツミちゃん」
静かな声が室内に響く。
「あ、はい。あの、お見舞いに来てくれて、とっても嬉しいです」
「これ、後で食べてくれる？ 好みに合うといいんだけど」
そっとアップルパイの入った包みを差し出してくる。
「わー、これ好きなんです。後で戴きます」
包みをベット脇にあるテーブルに置く。
座る気配を見せないから、椅子に座ってもらった。
奇妙な静けさが病室内に染み渡る。
「…あの…シンリさんって、紫色のロボットのパイロットなんですよね？」
私の言葉にピクッと体を震わせる。
…どうして？ 皆を守って戦ってるんだから、そのことを
言われれば嬉しい、って思ったのに。
「…うん」
シンリさんの視線が私の脚に向く。
腰からつま先まで、ほとんど隙間無く、骨折した箇所をギブスで覆われて
器具で吊るされている。
シェルターの中にいたとき、大きく揺れて、崩れ落ちて来た天井の
下敷きになって、両足はそれから、ずっとギブスに覆われたまま。
それでも私は運が良かったほうだ、って知ってる。
だって、脚は残っているんだから。
「今日はいい天気だね」
「そうですね。こういう洗濯日和な天気って私、大好きです」
「もし…外を歩きたくなった時、傷が痛む時、誰かを恨みたくなったら…
ボクのことを恨んで…ね」
謝るわけじゃなくって、泣くわけでもなくって、ただ、お腹が空いたら
ご飯を食べて…と言うかのように、静かに告げる。
私を捕らえて離さない紅い瞳が、本心からそう言っていることを告げている。
「私、どうして自分が怪我をしたのか知ってます。
皆が使徒って呼んでる大きな怪獣が暴れたから、そうなったって。
シンリさんは私達を護ってくれたって知ってます。
だから、助けれくれて…生き残れて本当に、私、嬉しいんです。
もし…恨むとしたら使徒のほうでしょう？」
私は思っていたことを一生懸命、伝えようとする。
どうして私とシンリさんの想いがこんなに違うの？
「…ナツミちゃんが怪獣って呼んだ存在…使徒はね、
何も悪いことはしてなかったんだ。
存在していると人が死んでしまうから、言葉が通じないから、
傷つけないで止める方法がなかったから、
…だから、人は一方的に敵と決めつけてたんだよ。
ボクはそんな勝手な理由で、あの子達を殺したんだ。
行為が罪であることを知りながら犯した者こそが恨まれるべきだと思わない？」
コロシタ
テレビで「使徒を倒した」って言ってた、その時の感じと
シンリさんが「使徒を殺した」と言った時の感じの違い。
同じことを言ったはずなのに、シンリさんの言葉を聞いて
心が凍る感じがした。
「あの…シンリさん…言葉が通じないって…
使徒とお話、したんですか？」
「…うん。使徒とエヴァは心を触れ合わせることができるから。
使徒は言葉を知らないから、会話は通じないけど、心は通じたんだ…。
ナツミちゃん、犬とか猫と一緒にいると、なんとなくだけど相手の
考えていることって判るでしょ？それと同じ」
なんとなく嬉しそうな表情に変わってる。
「シンリさんにとっては、大きな使徒も、犬や猫と一緒なんですね」
「…ペットって感じとは違うよ。体も大きいし、ね」
この話題はここでお終い。
まだまだ、聞きたいことはたーくさんあるんだから。
「ところで、シンリさん、お兄ちゃんのこと、どう思ってます？」
「どうって？」
きょとん、とした表情を見せるシンリさん。
「シンリさんがお兄ちゃんのどこを気に入ったのかと思って」
私の質問を聞いて、静かに目を閉じる。
心の声に耳を澄ませているような感じがして、
私も静かに答えを待つ。
「嘘がないところ…だと思う」
しばらくして聞いた答えは、ちょっとわかりにくかった。
「嘘がない？」
「鈴原君が言ったことは信じていい…偽りのない想いだから…
そんな気持ちを自分に向けてくれる態度が嬉しい」
やっぱりよくわからない。
「それって、お兄ちゃんが単純ってことでしょう？」
私の問いには答えずに、少しの間を置いて質問された。
「ナツミちゃんはお兄ちゃんが好き？」
私とシンリさんの間にあった小さな想いを全部突き抜けて
いきなり、心の奥を見られた感じがして、とっても慌てた。
「無神経だし、汚れても気にしないし、食べ方が雑だし、家事の手伝いなんて
してくれないし、食い意地が張ってるし、考えるより先に手が出るし、
スケベだし、乱暴だし、不器用だし、勉強できないし…」
心を落ちつかせようと、お兄ちゃんの嫌なところ、直して欲しいところを
思いつくままにどんどん言ってみる。
シンリさんは、そんな私を静かに紅い瞳で見つめているだけ。
「…よく見てるね」
私が思いつくことがなくなって言葉が途切れたとき、ポツリと呟いた。
「だって…家族だもん」
その言葉にシンリさんが笑みを浮かべる。
お兄ちゃんの一緒に大笑いしたくなるような笑顔とは違う、
なんだか、一緒に静けさを楽しみたくなるような笑顔。
しばらくして、怪訝そうな表情をしたシンリさんに、無遠慮にずっと
見つめ続けていたことに気がついた。
「で、でも、お兄ちゃんに言っちゃ駄目ですよ。誉めたり、感謝したりすると
すぐにつけあがるんだから」
「…そうだね」
なにか思い当たることがあったのか、少し可笑しそうに答えたシンリさん。
なんだか嬉しくなって、私も久しぶりに笑っていた。
「でも、こうしてお話してても、お兄ちゃんに女友達が出来たっていうの
信じられないです」
女心の欠片もわかってないお兄ちゃんが、どーしてシンリさんみたいな
人と仲良くなってるのか、ものすごーく不思議。
「女の子？ 鈴原君と仲のいい子…委員長…洞木さんのこと？」
委員長？ お兄ちゃんがシンリさんの次に話題にする同級生。
会った事はないけど、料理が得意って話。
って違う違う。
「シンリさんのことですよ」
「ボク？」
無言で頷く。
「ボクは中性だから、女の子じゃないよ。同級生に中性の子っていない？」
見た感じ、女の子にしか見えないから、改めてそう言われても
よくわからない。
「いるけど、よくわかんないです」
私のクラスにいる子は、男の子っぽいもん。
「保健体育の授業で習うよ」
「先生と同じことを言うんですね」
「簡単に一言で説明することができないことだから。
…できれば、ちゃんと理解できるまでは自分とは違う性別だ、って
くらいで考えるだけにして欲しい」
「…？」
「意味を知らないまま口にする言葉は、場合によってはとても相手を
傷つけることがある、ということ…言葉は心を傷つける刃になるって
ことを忘れないで」
静けさの中に寂しさを含ませてシンリさんが淡々と告げる。
「…」
ピ、ピ、ピ
シンリさんが携帯端末を取り出して見て、ちょっと驚いてる。
「え？ もうこんな時間？」
「どうしたんですか？」
「そろそろＮＥＲＶに行かなくちゃいけない時間になっちゃってる」
「あの…」
「何？」
「また…来てくれますか？」
「うん。約束するよ」
シンリさんが笑顔で答えてくれた。
また、来てくれるんだ♪
嬉しくて、シンリさんが病室を出て行った後も、閉じた扉を眺めていた。
見渡す限り青い海。
雲一つない青空。
日陰にいても汗がでてくるほどの強烈な日差し。
空母オーバー・ザ・レインボウは今日も一路、日本を目指して
航行中である。
長さ５ｍ近くある釣り竿をぼぉ〜っと眺めているアスカ。
非番の海兵達に交じって、今日もトローリングをしている。
「加持さん…今日、シンリが友人の妹の見舞いに行くんだって」
「ほう。…使徒戦の時に怪我をした子かい？」
「そうなのよ。怪我で済んだことは喜ぶべきだとは思うけど、
いちいち怪我した人達を見舞ってたら時間がいくらあっても足りないわ。
訓練してもっとうまく戦えるようにしたほうが建設的でしょ？」
「誰もがそう割り切れるわけじゃないんだよ、アスカ。
それが大切な人の妹なら、なおさら、ね」
「…友達…か」
少し羨まそうな口調を滲ませて呟く。
「大丈夫、アスカならすぐに友達はできるさ」
優しくアスカの頭を撫でる加持。
「もう、子供扱いしないでよ、加持さん。
…本当にそう思う？」
「ああ。俺が保証する。アスカは魅力的な女の子だから、
みんな、友人になりたがるさ」
「…加持さん…」
不機嫌そうな表情をするアスカ。
「見た目や肩書きだけを見るような奴もいるだろうが、そうでない人もちゃんといる。
だけど、心を閉ざしていたら友達になるのは難しい。
何を考えているのかわからない相手に対しては誰もが警戒するからだ」
「…」
「心を触れ合わせるのは勇気がいる…だがアスカならそれができるはずだ。
大丈夫、アスカはまだ１４歳だろ？ これからゆっくり学んで行けばいい。
時間がたっぷりあるんだから」
「…大丈夫よ、加持さん。私は今までうまくやってきたんだもの。
…これからだってうまくやれるわ」
「そっか。もし成功したらコツを教えてくれるか？」
「どうして？ 加持さん、そういうの得意でしょう？」
「いや…。俺は今でも不器用さ」
加持が浮かべた笑みにどこか寂しさが含まれていることには気がついたが
その理由は、アスカにはわからなかった。
ガクン
突然、竿が勢い良くしなる。
「アスカ！」
「まかせておいて！ 今晩はサーモンステーキで決まりよ。！」
アスカがリールを撒きながら、強烈な引きを巧みに裁いていく。
周囲にいた海兵達の声援が起きる。
今晩も、賑やかな宴が行われることになりそうである。
シンリがナツミのいる病院を出て歩いていると、前から地図を見ながら談笑している
男女が、シンリを見つけると、近付いてくるのを待って声をかけてきた。
「やぁ。エヴァンゲリオンパイロットの碇シンリちゃんだね？」
地図を片手に笑顔で話し掛ける男女は遠くからは道に迷った旅行者にしか見えない。
「あの、どなたですか？ お会いしたことはなかったと思うんですけど」
シンリの返答に満足げに頷いた二人は、持っていた地図を
開いて、上に留めてある名刺を指し示しながら、自己紹介をする。
「俺はＴＯＫＹＯ−２ネットワークニュース の利根カズアキ。
こっちは相棒の秋月シズカ」
「よろしく。碇シンリちゃん」
会話の内容は工事の音に紛れて遠くまでは聞こえない。
二人はさりげなく、ざっ、と周囲を見まわして確認する。
事前に指示した通りに、仲間が配置についている。
彼らはシンリにも二人にも、その更に遠くで監視をしているＮＥＲＶの保安部員にも
注意を払っていない。
持っている携帯端末の無線通信モードをＯＮにしているだけである。
そして、カズアキとシズカの二人が着ているジャケットの裏でも、
通信モードをＯＮにした携帯端末が稼動している。
シンリとの会話は、カズアキとシズカ、それに仲間６人が記録しているのである。
「でしたら、広報部の方に聞いていただければ…」
シンリが硬い声で告げる。
「そう言え、と大人に言われたのね？
安心して。私たちは貴女の味方よ」
カズアキとシズカは笑顔を張り付かせたまま、予定通りに会話を始めた。
Ver1.01 2000/07/30 YOKO
今回は疲れました。
何がか、というとナツミちゃんの登場、ということで。
なにせ事前にほとんど決めてなかったから、さて書こう、という段階で
焦りました。
さて、イベントもこれで残り１つ。
次回Ｉパートで、第４話もお終い。
遂に判明した男女の正体♪
次回はちょっち書くのが辛いシーンが多くなりそう…。
感情を露にするシンリって、普段は見ませんからね。