医師の皆さんが帰ってしばらくしてリツコさんがお見舞いにきてくれた。
リツコさんの話だと、綾波さんの零号機の起動実験が終わり次第、
初号機を使ったＡ．Ｔ．フィールドの展開実験をする、ということ。
「Ａ．Ｔ．フィールドの展開原理が不明で、複数パターンのテストを
行う時間的余裕がないから、今、私たちが唯一知っている展開事例を
再現する方法でテストを行うわ…ここまではいい？」
”ハ・イ”
まだボクを必要としてくれている…
首が折れてるせいで話すことができないから、リツコさんの手を
指でトントン、と叩いて意志を伝える。
「第３使徒戦で初号機は何度もＡ．Ｔ．フィールドを展開しているけど、
その中で、エントリープラグ内の記録が残っている最初の展開について
状況を完全に再現することで、同様の現象を引き起こすことを
狙ったテストだから、かなり危険な試みであることは間違いないわ。
…シンリくん…今から言うことはとても重要だから決して忘れないで
欲しいの…」
”ナ・ン・デ・ス・カ”
不思議…リツコさんが言い淀むなんて初めて。
「私も含めて、テストが開始されたら、誰もシンリくんを助けることはできない。
つまり、物理的な救助はもちろん、通信も一切不可能になるの。
テスト開始時には、一番近いところにいる職員でも何キロも
離れたシェルターの中にいることになるから。
だから、覚えておいて。
誰も、シンリくんを助けることはできない、ということを。
それともう一つ…初号機はシンリくんの心をずっと見ているわ。
何が起きても必ず初号機は…初号機だけはシンリくんの言葉を
聞いてくれる…助けてくれる…
そのことを忘れないで」
リツコさんが真剣な表情でボクの瞳から目を逸らさずに…
瞬きすらせずに、ボクの心を読み取ろうとするかのように見ている。
”ハ・イ”
初号機がボクの心を包み込んでくれるのはいつも感じていること。
みんなと違ってボクを拒絶しないで見てくれる純粋な想い。
…なんで、念を押してそんなことをリツコさんは言うの？
「…準備が整ったらまた来るわ。
何か聞きたいことはある？」
聞きたいことは色々あるけど…
”ア・ト・ナ・ン・ジ・カ・ン・モ・ツ・カ”
色々、引き継いでおかないといけないこともあるし、残りの時間が
どのくらいあるのか、知っておかないと。
ボクの指の動きが終わった一瞬、リツコさんの表情が凍り付いた。
すぐに穏やかな表情に戻ったけど…どうしたのかな？
「…今度のテストが終われば、怪我もちゃんと治るわ。
だから…今は…そんなことは気にしないでいいのよ」
”ハ・イ”
永くは保たない、という漠然とした予感。
だけど、それは口にしてはいけないことだ、と何となく感じた。
「また後でね、シンリくん。コールボタンが有るからなにかあったら
それを押してちょうだい」
”ハ・イ”
空気の流れを乱すことすら抑えようとするかのように、静かに
席を離れてリツコさんが去り、病室内には、医療機器の動く
僅かな稼働音だけが響くだけとなった。
『零号機、内蔵電源フルチャージ完了』
『動作誤差修正プログラム準備よし』
『第１〜第１７拘束具、各部問題なし』
『エントリー準備完了』
ケージ脇に存在する起動実験施設では、零号機の再起動実験のための
準備が着々と行われている。
そして、ケージでは、日向が陣頭指揮を行い、出撃のための用意を
終えつつあった。
「葛城さん、指示通り対初号機用捕縛装備の準備はほぼ完了です」
日向の前には、エヴァサイズのグレネードランチャー、シールドが
置かれている。グレネードランチャーは今回は弾種は冷凍弾。
シールドは巨大なかぎ爪を展開できる捕縛専用のものである。
『悪いわね全部任せちゃって。トラップポイントの準備のほうは？』
「廃棄骨格を使ったダミーの設置に手間取っていますが、
予定時間までには完了します」
『私とレイはちょっち、シンちゃんの病室に寄っていくわ。
リツコのほうの準備はどうなってるか知ってる？』
「既にコアの調整を終えて、起動実験待ちの状態、とのことです」
『結構。零号機の起動成功に合わせて、非常警報発令するから
部署間の連絡は密にね』
「了解しました」
『それじゃ、またね。
クェ、クェェェ』
ミサトの声と一緒に聞こえた奇声に一瞬、返事が遅れた。
「…？ 何の声だったんだ？」
さっきはリツコさん。その後、青葉さんが第一発令所メンバーの
代表ってことで来てくれた。
目が覚めた時は綾波さんとたくさんのお医者様達がいたけど。
…どうして来てくれるの？
今は、プラグスーツに着替えた綾波さんがベットの脇にいる。
”シ・ト・ガ・キ・タ・ノ”
「…いいえ。２０分後に零号機の起動実験をするから」
前回は、起動実験が失敗したって冬月先生が言ってた。
”ガ・ン・バ・ッ・テ”
コクンと綾波さんが頷く。
そういえば、事故の後、何日経ったのかな？
ちゃんとご飯は食べてるのかな…ミサトさんと綾波さんは
自分で料理するとして…ペンペンは？
”ペ・ン・ペ・ン・ハ・ゲ・ン・キ”
ボクの指の動きが終わっても綾波さんは何も応えてくれない。
顔色が悪くなった気がするけど…。
なんだかイケナイことが知られてしまった子供みたいな表情。
「…私…私…」
震える声で、それでも懸命に言葉を続けようとしてる。
どうしたの…？
ガチャ
扉の開く音がして、誰かが入ってきた。
「…ミ・サト・・さん…ペンペン…」
綾波さんの掠れた声が聞こえる。
「…どうしたの、レイ？」
ペンペンを抱えて入ってきたミサトさんが綾波さんの様子が
おかしいことに気がついて、軟らかな口調で話し掛けた。
「…私…ペン・ペン…」
言葉が途切れてよく聞こえない。
「ん、ちょっちペンペンを抱いててくれない？
ずっと抱えてたせいで手が疲れちゃったのよね」
ミサトさんがペンペンを手渡そうと、躊躇している
綾波さんの前にひょい、と差し出す。
「クェ？」
首を傾げて小さな声で鳴いて綾波さんを見ているペンペン。
なぜか、焼けた鉄を掴もうとするかのように、綾波さんの
差し出した手はぎこちない。
バタバタバタバタ
なかなか抱き留めてくれないのに我慢がならなかったのか
ペンペンが羽をばたつかせて、綾波さんの手の中に飛び込んだ。
「・ペンペン…」
「クゥゥゥゥ」
綾波さんとペンペンがバランスを崩してドタバタしているうちに
ミサトさんがボクの手を握って小声で話し掛けてきた。
「シンちゃんも会いたいだろうと思ってペンペンを
連れてきたんだけど…レイ…何があったの？」
”ペ・ン・ペ・ン・ゲ・ン・キ・ト・キ・イ・タ”
「それで、そのあと、様子が変なのかしら？」
”ハ・イ”
「そういうこと、ね…」
後ろでは、綾波さんが掠れた声で「ごめんなさい」と謝ったまま、
ペンペンが身動きできないほどしっかりと両手で抱き締めている。
抱えられてるペンペンは、なんとなく困っている感じがする…。
「…レイ、ペンペンは別に怒ってないし、嫌ってもいないわ」
涙に濡れた顔をあげて不安げな表情でそっと見る。
「…嫌って…ない？」
「嫌な人に抱かれて大人しくしてるほどペンペンは愛想良くはないわよ？
ペンペンは気にしてない、レイは反省している、それなら
これから気を付ければいいことよ、ね」
「…は…い」
「それじゃ泣くのはこれでお終い。せっかく家族が揃ったんだから
笑顔じゃなくちゃ」
涙が止まらない綾波さんの涙をそっとハンカチで拭きとって
いくミサトさん…なんだかお母さんって感じがする…。
「シンちゃん…
私もレイもペンペンもシンちゃんが帰ってくるのを待ってるわ。
家っていうのは、ただの場所じゃないの。
家族がいて、でもそれが当たり前のことで空気があるかのように
普段は気にすることではなくて、でもいないととても寂しい、そんな場所。
家族は一人でも欠けちゃ駄目なのよ…だから、
シンちゃんを待っている人がいる、帰る場所があるってことを
覚えておいて」
ミサトさんが軟らかい口調で…でも真剣な眼差しで
ボクに語りかけてくる。
家族…
最初の家族…お父さんとユイさんとボクで暮らしてたって
いうけど記憶にない。
覚えているのは、叔父の家にボクを置いて去っていく父さんの
後ろ姿だけ。ボクはあの時、居場所を失った。
次の家族…叔父夫妻との生活。だけどあれは家族とは違うと思う。
ボクを憎むことで辛うじて心の調和を保ってた叔母。
そんな妻のように、憎しみの対象としてボクを見ることができず、
妻の心も周囲の目も変えられず苦しみ鬱ぎ込んでいた叔父。
ボクは叔父夫妻と一緒にいてはいけなかった。
ミサトさんの言う家族…綾波さん、ペンペン、ミサトさんと
暮らしていると、心が暖かくなる…ボクのことを必要だ、と
言ってくれる人がいる、それはとても嬉しい。
”ケ・ガ・ナ・オ・ル・カ”
疑問に思ったこと。
リツコさんもミサトさんもどう治療するのか言ってくれない。
でも、治る、と言っている。
どういうこと？
「詳しいことは悪影響を与える可能性があって説明できないけど、これだけは言えるわ。
Ａ．Ｔ．フィールド展開実験の成否で全てが決まると。
だから辛いことだけど、がんばってちょうだい」
”ガ・ン・バ・リ・マ・ス”
今言える精一杯の言葉。
以前、Ａ．Ｔ．フィールドの行使は心の負担になると聞いた。
いつ消えてもおかしくないボクの心、そして壊れつつあるボクの身体。
必ず、とは言えない。
でも、できない、とは言いたくない。
ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ
携帯端末の呼び出し音が室内に響き渡った。
実験開始に会わせて、通信管制が一部、解除されたせいだろう。
でも、こんなタイミングで誰が？
受信処理の操作を行うと、画面を覗き込むようにしている
アスカが表示された。
『遅い、遅い、遅ーい！
私が連絡してんのに、なんですぐに出ないのよ！？？？
…って、なんでシンリの携帯にミサトがでてるの？』
無理矢理ハイテンションにしている声が静かな室内に
響き渡る。
「今、シンちゃん、怪我で動けないから私が代わりにとったのよ」
『じゃ、シンリと話するから、外部マイクを操作して』
一瞬の間もおかずに交替しろ、か。
なんだかお姉さん、悲しくなっちゃったわ。
「シンちゃん、アスカが話がしたいっていうんだけど…
カメラ、どうする？」
シンちゃんの答えは判っているけど、一応、聞いてみる。
”キ・ッ・テ”
少しだけ間をおいて、シンちゃんの指が意志を伝える。
その答えを聞いてカメラを機能停止し、携帯端末の画面には
ＳＯＵＮＤ ＯＮＬＹとだけ表示される。
「アスカ、シンちゃんは声がだせないから私が言葉を伝えるわ。
声は聞こえるから普通に話してくれてかまわないわよ」
『…』
あちゃ…ちょっちハッキリ言い過ぎちゃったか
『…怪我、大変そうね。そっちにはリツコもいるから大丈夫なんでしょ？
なんで怪我なんかしたわけ？ 訓練中に事故にでもあったの？
ここ何日かずっと通信できなかったけど、何か関係ある？』
”ガ・ン・バ・ル”
シンちゃんも少し困ったような表情をしている。
「”がんばる”って。
あと、明日には判ることだから言っておくわ。
無線封鎖していたのは、チルドレン暗殺を企てた者達を殲滅
していたから。
シンちゃんが怪我をしているのは、彼らに狙われたからなのよ」
嘘は言ってない。
『暗殺！？ ミサト、あんた達、何やってたのよ！！！！！
シンリもファーストもどっか抜けてるとこがある分、
ミサト達がカバーすんのが当然、それが出来なくてどーすんのよ！？』
掴みかからんばかりの勢いで捲し立てられて、思わず引いてしまう。
「それについては言い訳はしないわ。
私達のミスで、現在の事態を招いたのは事実だから」
『…それで、何で”がんばる”なのよ！？
怪我、治るんでしょ！？ ミサト！？』
…言いにくいことをズケズケと遠慮なく聞くわね…
「シンちゃんも含めて、全員、ベストを尽くしているわ。
結果がどうなるのかは…たぶん、神でも予想できない」
この部屋にくる前にリツコに言われたこと。
それは、予定通り初号機が暴走したとしても、シンちゃんの怪我が
治るとは限らない、ということ。
そして、最大の問題は…暴走した初号機を人類の手で止めなくては
ならない、ということ。
ＭＡＧＩに計算させても、人類側が停止させられる確率は計算不可能。
行動原理が不明であるため、予測できないのである。
『シンリ…何か私に頼みたいことある？』
アスカの言葉に少し思案していたようだったが、トントンと
指がシンちゃんの意志を伝える。
”ミ・ン・ナ・ヲ・タ・ス・ケ・テ・ア・ゲ・テ”
「…”みんなを助けてあげて”ですって」
『大怪我してるのに、それでも人のこと心配してんの？
少しは自分のことを考えなさいよ…』
少しだけ声に悲しみの音色が混じる。
”イ・マ・シ・ア・ワ・セ”
「…”今、幸せ”…だ、そうよ」
『…まさかとは思うけど、治らないかもしれないなんて
考えているんじゃないでしょうね…？』
”ス・コ・シ”
「…”少しだけ”…」
満身創痍としか言いようのないシンちゃんの状態。
これで必ず治る、なんて言えるのは偽善者だけに違いない。
ここに来た者達がどれだけの精神力を費やして、シンちゃんの
前で平静さを装っているのか…。
それでもシンちゃんは、私達の言葉を信じてくれる、信じようと
努力してくれている。
私はシンちゃんの心に触れて、言葉をそのまま口にするのが精一杯だった。
けれど通信回線の向こう側にはそんなことは関係なかった。
『治らないかもしれない、私は今、幸せ。
みんなを助けてあげて…ですってぇ？
こ…この…この
馬鹿シンリ！！！！！』
突然の罵声に私も隣で静かに聞いていたレイもペンペンも
一瞬、我が耳を疑った。
シンちゃんも目を大きく見開いて携帯端末を見ている。
『シンリは幸せかもしれないけど、残された私はどーすんのよ！？
たくさん約束しといて、全部パーになっちゃったら、楽しみに
してた私の気持ちは誰がフォローしてくれるって言うの！？
だいたい、シンリがそのまま治らないなんてことになったら
私の日本デビューは雰囲気、真っ暗、全然、盛り上がらないじゃない！？
いい？
シンリは治る、それしか許されてないのよ！
傷だらけになりながらも懸命に生き延びたみんなの前に
颯爽と登場する人類史上、最強の弐号機を操るこの私！
惣流・アスカ・ラングレーを誰一人欠けることなく出迎えて
心からの祝福と共に歓迎する義務があんのよ！
それを、怪我がちょっとばかり酷いからって、治らないかもしれない
なんて考えること自体、懲罰の対象になる行為だわ。
もし…仮にどーしても治らない、助からないっていうなら
仕方がないから大幅に譲歩して、１回は死んでもいいわ。
でも、当然だけどそのあと、すぐに復活すんのよ！
できるわけない？ 馬鹿言ってんじゃないわ。
私達チルドレンは起動確率０．００００００００１％って言われてる
エヴァを起動してんのよ！？
非常識って言うなら、シンリがダントツ一位なんだからね。
起動するだけで奇跡な初号機を、たった数時間の訓練を受けただけで
そのまま実戦に投入して、サキエルに勝ったんだから。
その次のシャムシエルにだって勝ってんのよ？
もはや確率論なんて笑い飛ばす領域にシンリはいるんだからね。
生き返りくらい、前例はあるんだからできないとは言わせないわ』
マシンガンのように休むことなく言葉の嵐を叩き付け終わり、
荒くなった呼吸を整えるために深呼吸している。
…言いたい放題、言ってくれるじゃないの…
でも…今回だけは感謝するわ…
私じゃ…ＮＥＲＶの誰も…シンちゃんの姿を見ながら
そんな台詞なんて…言えないから
『それから、ファースト！！
あんた何年、零号機に乗ってんのよ！
エヴァンゲリオンは対使徒戦の最終決戦兵器なのよ？
動いて当たり前、強い戦闘能力を発揮しなくちゃいけない。
だいたい、零号機が起動できなかったら次の使徒が来たとき
どうなると思ってんの？』
またまた、痛いところを言ってくれるわ…
「…わからない」
少し思案した後、レイがポツリと呟いた。
『初号機が出撃するのよ！ エヴァ以外に使徒を倒せる手段はないんだから。
例え、パイロットが死にそうでも、勝てる見込みがほとんどなくても、
Ｎ２兵器をいくら叩き込んだって使徒を足止めするくらいしかできないから。
…わかる！？
シンリのこと、家族だと思ってるなら、今まで護ってもらった分、
今度はファーストがみんなを護るのよ！
今は、ファーストと零号機しかいないんだから』
「…碇くんが出撃する？」
レイが信じられない、という表情で私を見てる。
大怪我をしてても命令に従うレイがシンちゃんが同様に扱われると
予想していなかった…？ 変ね。
「エヴァが出撃しなければシンちゃんも含めて人類は全滅する。
だから、僅かでも生き残る可能性がある以上、そのときは
出撃させるわ」
非情に聞こえるかもしれない。だがそれが事実。
「…碇くんに出撃して欲しくない。
でも…碇くんを傷付けた人は護りたくない」
ほとんど変わらない表情…だが揺れる瞳が内心の動揺を語っている。
『そんなの当たり前じゃない。そんなの護る義務も義理もないわ。
ファーストはファーストが護りたい人を護る、それで十分よ』
「…私は…大切な人を…私の手で護る」
シンちゃんを、ペンペンを、私を見て静かに告げた。
強い決意。
レイに欠けていたもの、それは目的であり成し遂げようとする明確な意志。
この時、私は零号機の起動成功を確信した。
『いい返事ね。
…で、最後にミサト！』
「な〜に？」
…嫌な予感がするわ。
『全員生き残って私を出迎えるのは当然として、ファーストまで
大怪我するようなヘボな作戦なんか立てるんじゃないわよ！？』
ヘ、ヘボ？ この私を捕まえてそんなこと言う！？
私が手塩にかけて育てた作戦部はどこにも負けない実力があるわ！
…と、ここは自重しなくちゃ。
「安心なさい。私が指揮する以上、それ以上の作戦なんか
存在しないんだから」
内心の葛藤を隠して努めて平静に告げる。
無理やり普通にしようとしたせいで頬が引きつったが、
幸い、SOUND ONLYなのでアスカは見ていない。
…ペンペン、別に逃げなくたっていいじゃないの。
『期待してる。
じゃ、あんまり長話をして邪魔しても悪いし、終わりにするわ。
…またね』
ヒートアップしたまま、言いたいことだけ言って
通信回線は切れた。
ん、シンちゃん…
「シンちゃん、どうしたの、どこか痛い？」
シンちゃんの紅い瞳から涙が零れ落ちる。
”バ・カ・ト・イ・ワ・レ・タ・ノ・ニ・ウ・レ・シ・イ”
「そうね。シンちゃんもアスカの想いに応えなくちゃ、ね」
”ハ・イ”
大人しく私に涙を拭われるシンちゃんと、ペンペンを抱えたレイ。
言葉は何も交わさなかったけど、私達は不思議な一体感を
誰もが感じていた。
今回はちと、苦しみました。
アスカの登場シーン、誰の視点にしようか、ということで
シンリ、レイ、アスカバージョンを作ったんですが
どーもうまく行かず、ミサト版にしてやっと掲載の運びとなりました。
死が間近に迫っても焦燥感も悲壮感もないシンリに
今回はアスカの怒りが爆発しました。
ミサトも言っていますが、今回、シンリに強く感情をぶつけられる
人って実は通信回線越しに接することしかできないアスカだけでした。
さすがに、瀕死の重傷者を前に、アスカのように言葉を紡ぐことが
できる人はいませんから、ね。
アスカに感謝、感謝です。
次回は零号機の起動実験と、初号機のA.T.フィールド展開実験（前半）です。