いろいろ難航しましたが、やっとＢパート公開です。
タンデム実験の末に捉えた謎の意志。
それが何を意味するのか。
Ｂパートで穏やかな時は終わり、次パート以降、激しく場が動きだす…。
次回…かなり痛い展開になります…。うー…胃の辺りが痛い…。
アスカちゃんのがんばりに期待しましょう。
輸送艦に移動したシンリとアスカに実験に対する簡単な説明を行った後、
ドイツ支部から随伴している技術者達が、最新の二人の生体情報に基づいた
弐号機の微調整を行っており、狭い室内を無言のまま慌しく作業する者達の
熱気で、エアコンが効いているはずなのに、なぜか息苦しさを感じる。
殊更、感情を排除して静かに仕事を進める彼らの態度に、なぜか生理的な
嫌悪感を覚えてしまうが、リツコが自分のことを信じて送り出してくれた、という
ことを思い出して、マヤはなんとか平静を保っていた。
「それにしても、今回は随分、欲張った実験ですわね。
弐号機を使ったタンデム起動、同時シンクロによるサードからセカンドへの
経験のフィードバック、ジオフロント外からの使徒の探索、それと
第三、四、五使徒と、３体続けて出現した太平洋の地理的特性の調査…
必要だ、という意見には同意しますが、高いレベルで安定している
セカンドへの悪影響の危険を犯してまで行う、というのは些か
疑問を持つ者もいるんですよ」
技術者のリーダーが、口調だけは丁寧に不満を口にする。
「３体の使徒との戦闘で第三新東京市は残念ですが現時点で機能喪失状態です。
今回の実験は、ＭＡＧＩも賛成１、条件付き賛成２と高い支持をしています。
少ない実験でできる限りの効果を狙う…確かに危険はありますが、
私達にそれ以外の道を選択する余裕がないのはご存知でしょう？
それに、今回のタンデム起動は、綾波レイ、惣流・アスカ・ラングレー、碇シンリの
３人が別々の方法でシンクロしている可能性がある、という理論の確認を
するためには必要不可欠なんです」
「赤木リツコ博士がこのあいだ、発表された理論でしたね、確か。
ファーストが同化、セカンドが支配、サードが親和という、３者３様の方法で
エヴァとアクセスするがゆえに、起動時の３体のエヴァが発揮する性能にも
違いがでる…でしたか」
「そうです。レイちゃんが中和を、シンリちゃんが意志疎通を、アスカちゃんが
超レベルの機動を行える理由を現時点で問題なく説明できる唯一の理論です。
今後の他のチルドレンの教育方針を考える上でも、証明するに足るだけの
データをできるだけ速やかに集める必要があるんです」
リツコの理論を説明しているせいか、いつになくマヤが熱弁を振るっている。
「…我々が問題視しているのは、今回の実験があらゆる意味で、サードの特性に
頼ったものである、という事実です。特に使徒との意思疎通でしたか？
それが本当にできているのか、証明する方法も何一つない。
出現前の使徒と接触した、とサードが発言してもそれを立証する手段が
存在しない以上、実験するのは無意味ではないか、という反論も根強いのです。
今回は、ＮＥＲＶ本部からの強い要請があり、これまでの使徒撃退の実績を
考慮した上で、実験に協力しますが、セカンドに悪影響が見られる、と
思われる事態に陥った場合は、実験は即座に中断します。
その点は、お忘れなく」
はじめからその一言が言いたかった、といわんばかりに、慇懃に
実験の主体は自分達にある、と宣言し、スタッフへの指示をするために
マヤのもとから技術者は去っていった。
表情だけは穏やかに、だが内心は、べぇっ、と舌を出して、嫌な奴ぅ、という
気持ちを露にしてみて、マヤはちょっとだけ違和感を覚えた。
なぜ、あの人達は子供達をコードネームで呼び、感情を隠して接するのか？
余りにも静かに作業を行っているがゆえに、その態度はどこか、
不自然な気がしていた。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、加持さんが、ストーカー！？」
どーしても、戻ってきたあと、３馬鹿の二人にミサトと一緒にいるように頼んでたり、
加持さんを見る目が剣呑な雰囲気があったりして変だ、変だと思って、
なんとかシンリから聞きだしてみた話に思わず、大声を出してしまう。
…どーしてそういう結論になるのよぉ
爽やかな気分にさせてくれるはずの青空を見上げて、溜息が零れる。
「だって…ミサトさん、嫌がってるし…」
シンリは言いにくそうな感じだけど、そう結論付けているのは間違いない。
アスカ、考えるのよ！
いつものように、心の中で、自分を叱咤する。
「ミサトが嫌がってる態度を見せてるのは…」
「見せてるのは？」
「…ええぇと…つまり、”私は軽い女じゃないのよ”って言いたかったのよ。
だから、ほら、昔、ミサトと加持さんは付き合ってたわけでしょ？
それが何らかの理由で別れた、ここまではいいわね？」
「うん」
「で、久しぶりに会ってみれば、加持さんが脈が残ってるか、探ってきた。
ミサトからしてみれば、もし、万が一、もう一度、付き合うことがあるとしても、
ミサトから”もう一度、やり直してみましょう”って言い出すのと、加持さんから
乞われて”仕方ないわね、じゃ付き合ってあげるわ”って言うのじゃ、
気分的に全然、違うってことよ」
「…ミサトさんが加持さんのこと、好きってこと？」
シンリの澄んだ紅い瞳が疑惑の色に染まるのが、ものすごーくはっきり判る。
「その可能性もある、ってことよ。一度、付き合ってたってことは、加持さんのこと、
魅力的だって想ってたわけじゃない。 だから、久しぶりに会って、
内心、ドキドキしたけど、素直になれないってことも十分に考えられるわ。
加持さん、とっても素敵だもん」
そうよ、加持さんに限って、人の弱みに付け込むようなことなんて
するわけがない！
「じゃ、加持さんはミサトさんが好きで、真面目に付き合いたいって
思っている…？ あんまりそうは見えないけど」
「ミサトくらいの年齢になってくると、ストレートに攻めるだけじゃなくって
いろいろ、駆け引きが必要になってくるのよ」
…多分。
口を開けば開いただけ、加持さんとミサトの仲を肯定するようなことばかり言う
自分のことを、誰かに止めて欲しい、と心の中で半分、泣きながら、それでも
できるだけ、平静に話を続ける。
「…ね、アスカ、無理してない？」
ポツリ、とシンリが小さな声で紡いだ言葉が、グサッと音を立てて心に突き刺さる。
刹那の間、妙な静けさが場に漂う。
「…してない」
ほんとは、ミサトと縁りを戻そうとする加持さんなんて見たくない…。
「まさかあの人、アスカにまで手を出して…」
「いい加減、そこから離れなさいよ！
加持さんは信用できる人なの！ 私が３年間、見てきて言うんだから間違いないわ。
確かに私はまだ１４歳だし、加持さんも妹くらいにしか見てくれてないけど、
いつか恋人同士になるって、私が決めてるくらいなんだから、
シンリが考えているようなことなんて、絶対、絶っっっっ対にないの！
いいわね！」
シンリが勢いに押されてコク、コクと頷くのを見て、自分があらん限りの声で
怒鳴り散らしていたのを急に自覚してしまい、慌てて距離を離して息を整える。
「…ごめんね、アスカの大切な人なのに」
「わかればいいのよ、わかれば」
「…でも付き合う前に、ミサトさんに加持さんのこと、よーく聞いたほうがいいと思う。
結局、別れたわけで、アスカの知らないことも多いと思うから」
「はん、大方、ミサトの致命的な家事能力のなさに、加持さんが呆れたってとこよ」
「もしそうなら、アスカもがんばらなくちゃ、ね？」
ビジフォンで前に私が家事が苦手だ、って話したのをしっかり覚えていたらしい。
でも…もし、ほんとにそうなら、確かにマズイかも…。
「いーのよ、私はまだ若いんだから。 これから勉強すればいいのよ」
「…今のセリフ、ミサトさんもよく言うんだよ」
「 ･･･マ、マジ？」
「うん」
部屋の片付けはできるし、掃除もしてるし、規則正しい生活をしてるし、
私はあんなのになんないんだから！ と心の中で叫んでみるが、
軍隊生活を続けて専門バカになった結果がミサトだ、と知ってるだけに
垂れ込めた暗雲は簡単に晴れそうになかった。
なにせ、自分の今の生活は、エヴァ一色。
今のままで行けば、「軍人」部分をとったら何も残らないミサトと似たようなモノ。
今後のためにも、何で別れたのか聞いてみよう…
妙なところで決意を固めるアスカと、その態度を不思議そうに眺めるシンリ。
実験前だというのに、子供達はどこまでもマイペースだった。
厳格な雰囲気で始まったアスカとシンリ、二人による弐号機のタンデム起動で
あったが、関係者が拍子抜けするほどに、呆気なく弐号機は起動してしまった。
『実験は第二ステージへ移行』
初号機とは違う、だけど全てを包み込んでくれるような温かさを
弐号機から感じて、ちょっとだけ頬が笑みで緩んでくる。
”シンリ、弐号機はどう？”
”初号機とは違うけど、いい子だと思う。第三新東京市から感じたときより
心がよく感じ取れるから。”
『セカンド、一人の時とシンクロの感覚に違いは無いか』
”普段と何も変わりません。”
『そうか。サードはどうか』
”ボクも近くにアスカを感じる以外に違いはありません。”
『セカンドとサードのシンクロは影響を与え合うことはない…。
ここまでは理論通り…。では周囲を探ってみなさい』
”はい。”
指示に従って、周囲に意識を向けてみる。
遠くに感じるボンヤリした圧倒的な静けさ。その奥に零号機の心を感じる。
今回の実験に合わせて、綾波さんが零号機を同時に起動だけさせているせいか、
一緒にラミエル戦の時に行動した時と違って、少し感じ取りにくい。
ジオフロントが地下のアダムの気配を封じている…リツコさんがそう言って
いたけど、このボンヤリとした感じが、そうなのかもしれない。
”…？”
とても近くに微かに意志を感じてそこに意識を集中してみる。
”…。”
…余りにも微かなせいか、寝ているのか、エヴァや使徒のような強い心の動きが
全然、感じ取れなくてほとんど、ソレが何かわからない。
『あの、もう少し待ったほうが…』
『もう１０分間経過してる、こちらからの問いかけにも返答しない！』
『シンリちゃんは、集中していると通信は聞こえにくいんです』
『サード、状況を報告しろ！！！』
急に入った通信のせいで、集中力が途切れると、その気配も感じ取れなくなってしまった。
”…あの、何を慌ててるんですか？”
『こちらからの問い掛けにも気がつかない…。
やはり、実戦では役に立たない能力だ。
で、何かわかったのか？』
…この人、なんでこんなに無理してるんだろ？
なんとなくモニターに映る技術者の女の人を見てそう思う。
仕事用の態度なのかな？ リツコさんみたいに。
”起動中の零号機を感じました。あと、今は感じ取れませんが微かに弱い心を
捉えました。距離は近いんですがエヴァや使徒のようにハッキリした意志が
ないので、それが何かはわかりません。”
『…伊吹ニ尉、どう思う』
『使徒の残留思念のようなモノかもしれません。この世界に来た際の影響が
まだ空間に残っているのかも』
『…センサーは？』
『何も検出していません』
『そうか…第三ステージに移行する。向こう側を探ってみろ』
”…はい。”
隣を見ると、少しアスカが心配そうな顔をしている。
”？”
”ほんと、集中してると他のことは気にならないのね。”
”そうみたい。”
”…無理するんじゃないわよ。”
”うん。”
言葉と共に感じる穏やかな雰囲気に笑顔で応えて、再び、周囲に意識を向ける。
静かに…言葉では表現しにくいけど…向こう側…そうとしか言えない
ところへと意識を向けていく。
遠くへ…遠くへ…。
触
しばらくして、一つの意志と心が触れた。相手も気付いたみたい。
戸惑い、驚き…そんなこれまで感じた使徒から感じた想いとは明らかに
質の異なる動きを感じて、背筋に寒気が走る。
捉
それは遠くにいるのに、こっちをしっかりと見て、じわじわと
ボクの心の表面を確認するかのように触れ続けた。
そして…ボクのことを自分とは別の意志だ、と認識した上で、
ソレは鮮烈な闇の気配を纏った歓喜と呼べるほど激しい意志を向けた。
すなわち…
喰
…と。
いろいろ難航しましたが、やっとＢパート公開です。
タンデム実験の末に捉えた謎の意志。
それが何を意味するのか。
Ｂパートで穏やかな時は終わり、次パート以降、激しく場が動きだす…。
次回…かなり痛い展開になります…。うー…胃の辺りが痛い…。
アスカちゃんのがんばりに期待しましょう。