ふぅ…やっとＤパート更新です。
今回はちょいと苦戦しました。
ごめんなさい、アスカファンの皆様。
次回、やっと使徒、降臨です。
アスカ＆シンリ、そしてミサト達の活躍をさせますのでお楽しみに。
『…弐号機ならびにチルドレンの状況は以上です』
マヤから、状況報告が行われ、船体を軋ませて輸送艦が大きく揺れていた理由が
わかったことで、空母オーバー・ザ・レインボウの艦橋では、ミサトが艦長達に
合図を送り、同時に艦載機群の緊急発進作業が開始される。
「わかったわ。マヤちゃん達はシンちゃんの意識が戻り次第、
こっちに移動できるように、今のうちに準備しといて」
『え？ エヴァの制御はこちらの設備のほうが…』
「状況から考えられることから導かれる結論はただ一つ。
第６使徒が出現するわ…私達が入港する…たぶん、その前に」
『…でしたら尚更、私達が弐号機をバックアップしなくちゃ駄目です！
葛城さんだってＭ型装備といっても気休め程度の意味しかないのは
ご存知でしょう！？』
Ｍ型装備。海上輸送中の弐号機が使徒と戦闘する可能性を考慮し、
背面に２基のウォータージェット推進機、両腕にはそれぞれ
射出させることも可能なパイルバンカーを装備している。
これは遠距離攻撃ができない水中での戦闘、ということで
至近距離における攻撃能力を付与することを考慮したものである。
だが、当然だが相手が近付いてきてくれるとは限らない上に、
ウォータージェットの推進力をもってしても、せいぜい潜水艦程度の
機動力しか発揮できないのでは、気休めと言われても仕方がない。
「そりゃーね。だから、あくまでも水中に落ちないで行動できるように
輸送艦３隻を足場に、弐号機には空母オーバー・ザ・レインボウのリアクターと
アンビリカルケーブルで直結して電源を供給するわ。
使徒がきたら通信は有線以外は使えない。
だから、全スタッフはここにいなくちゃ駄目なのよ…いいわね」
『…わかりました』
プツッ
雑音混じりの通信が終わりミサトが甲板を眺めると、そこでは既に
慌しく、最大塔裁量まで爆装した艦載機がカタパルトの強引な
加速力を受けて、次々に飛び立っていくのが見えた。
「素早い対応、感謝します、艦長」
「船倉に入れたままでいても何の役にもたたんから、な。
…葛城君、キミはどの程度、余裕がある、と見ている…？」
「何も情報がないので、あくまでも勘ですが…
１５分以上、1時間以内、と考えてます」
「根拠は何かあるのですか？」
「サードチルドレンが探索を始めてから異常が発生するまでの時間は
約１５分でした。今、使徒がいる空間に距離感があるのかどうかは
わかりませんが、それなりに出現までの時間がある、と見てもよいと
思いました。これまでの使徒との交信状況から考えると彼我の距離は
ある程度あると見てもよいでしょう」
「…ふむ…副長、レーザー通信の中継機を全機、発進させておけ」
「全機ですか？」
「そうだ。道具は使える状態になくては意味がない」
「…諒解」
副長の指示で、無人観測機が優先的に発艦していく。
それらは低速で艦隊の周囲を囲むように飛行を始めて万一の場合に備える。
そんな大人達のやり取りを見ていたトウジとケンスケだったが、
他への指示や会話が途切れたのを見て、ミサトに声をかけた。
「ミサトさん、俺達は何もできることはないんですか？」
「わしら、何でもやります。！」
ミサトが行けといえば、そのまま海にでも飛び込みそうな勢いで二人が
口を開くのを見て、ミサトはのんびりと間延びした答えを返した。
「なーんにもないわ、ま、のんびり見学してなさい。
自分達がエヴァに乗っているとしたら、どう行動するのか？
それを考えながら見てるだけでも、十分、意味はあるわ」
「「…」」
ミサトの言葉に、何か応えようとして結局、言葉が出ずに
二人はそのまま窓際まで行って、遠くに見える輸送艦を眺め、
ケンスケは手に持ったデジカメで時折、撮影を始めた。
「…そう…私達は目を叛けちゃ駄目なのよ…」
ミサトが呟く。小さく紡がれた言葉が、深く艦橋に立つ者達の肩に
圧し掛かっていた。
強く話し掛ければいい…マヤが言ったとおりにアスカは
必死に、何度も、何度も、シンリの名を呼んでいた。
”シンリ！”
何も映さない紅い瞳が揺れることもなく、言葉が吸い込まれ消える。
…どうして応えてくれないの…
”シンリ！！！ 応えて！”
怖
思わず頭を抱えたくなるほどの強い感情が響く。
シンリの表情が一瞬、凍りつくが、その目は何も映していない。
「あなた、どこの子かしら？ 一人でいるとお母さんが
心配するわよ」
人形を笑顔で撫でながら、話し掛けるガラスの瞳。
逆光で表情は見えないはずなのに、はっきりとわかる。
何も映していない蒼い瞳。
心を過るどこかの風景。
”…！！！ 私、がんばったもん！
今度は声が届くんだもん！ ねぇ、そうでしょ！？
応えてよ！…”
気付いて欲しくて手にしがみ付いた…
人形が落ちそうになって、突き飛ばされた。
必死に人形を抱えて同じ言葉を繰り返してた。
「ごめんなさい、アスカ…ごめんなさい…」
人形の表情は変わることはなかった。
” 一人はイヤなの…応えて…ょ…！”
目の前にいるのに…怖がってるのがわかるのに…
触れられるところにいるのに…私は…孤独だった。
その頃…士官用の個室の一つで、無精髭を生やした男が
椅子を逆向きにして腰掛けながら、携帯電話をかけていた。
「非情警報発令…こんなところで使徒の襲撃とは
ちょっと話が違うんじゃありませんか？」
『そのための弐号機だ…予備のパイロットも追加してある。
最悪の場合、君だけでも脱出したまえ』
「…わかってます」
彼は足元においてある耐爆、耐熱の特殊トランクを見て
表情を引き締めた。
「アスカにゃ悪いが…コイツは危険過ぎる…」
Ｐｉ、Ｐｉ、Ｐｉ
『…加持か…』
「よ、済まんが運転手を頼む。出れるように準備しておいてくれ」
『…第三格納庫に来い。フォージャー改だ』
「ＯＫ。最悪、格納庫から発進することになるが…」
『誰にモノを言ってる…？』
「ＯＫ、ＯＫ、あんたの腕は信頼してるよ」
『途中のセンサーは自分で何とかしろ。手は貸せん』
「ご忠告、感謝するよ、じゃ、また後でな」
ブツッ
無愛想に突然切れた携帯を見て苦笑を浮かべる。
「…さてと…途中下車の準備と行くか」
特殊トランクを持つと、片付いた室内に別れを告げて
廊下へ出る。
「…」
一瞬だけ、遠くに見える輸送艦を一瞥し、格納庫へと向かう。
その表情はどこか寂しげに見えた。
”私、がんばったの…”
泣きながら呟く。
”みんなが褒めてくれるの。”
でも、みんなに褒めてもらいたかったわけじゃないの。
”だから…私を･･･捨てないで…”
ぴくっ
強張っていたシンリの指が、少しだけ動いた。
一人はイヤなの
”お願い…”
そう…たった一つの願い。
”私を見て！！！”
あの時、叫んだ言葉。
私のたった一つの願い。
それは小さな女の子が精一杯、叫んだ想い。
リン
澄んだ音色がそっと響いた。
”…ア・ス・・カ？”
シンリの瞳に僅かに戻った光がアスカの姿を映し出す。
”シンリ！？ 私がわかるのね！？ そうよ！ アスカよ！”
心の動くままに必死に、二度と離さない想いを込めて叫ぶ。
”…アスカ”
ぎこちない表情のまま、身を震わせるのを見て、
そっ、と…赤子を抱きしめるように、柔らかく包み込む。
”もう大丈夫、私が護るから。絶対、護るから。”
シンリが瞬きを忘れたかのように私を見るのが嬉しくて、
何度も、何度も、繰り返し、繰り返し、囁いた。
紅い瞳に泣きながら笑ってる私が映っているのが見える。
なぜか、それがとても誇らしいことのように思えて、
幸せな気持ちで一杯になる。
”私が護るから、だから安心して。”
”…アスカ…”
”…何？”
静かに、息をするのさえ邪魔になるかも、と遠慮して次の言葉を待つ。
”…ありがと。”
まだ怖いのに、逃げ出したくなるほど恐ろしいのに、
それでも感謝の心を伝えるために、懸命に笑みを
浮かべるシンリを、その時、私は素直に綺麗だと感じた。
時の流れが止まったかのような穏やかな感覚。
けれど、そんな至福の時は、無粋な呼び出し音で終わりを告げた。
Ｐｉ，Ｐｉ，Ｐｉ，Ｐｉ
『アスカちゃん！ もう大丈夫ね！？ シンリちゃん、話はできる！？』
マヤのヤケに興奮気味な声で、私達は自分達がどこにいるのか、
何をしているのかを驚異的な速度で思い出していった。
シンリを抱き締めてる状況を自覚して瞬時に沸騰するほどに。
ポン
私が顔を赤くしたのを見て、シンリもやや遅れて同様に
ポン、と頬を赤く染めて、どちらからともなく、静かに、
少しだけ名残惜しそうに、ゆっくり、身体を離した。
”…え…あ…あの…はい。”
『辛いでしょうけど、教えて。
…使徒は…くるの…？』
マヤの言葉にシンリの表情が固くなるのを見て、手を握り締めて
私のことを思い出させる。
”…き…来ます…まっすぐ…あんまり時間がない…”
私の手を遠慮がちに握り返すのを感じて、安心するのと同時に
まだ見ぬ使徒に対する怒りが沸々と湧き上がってくる。
シンリの言葉が終わるのと同時に、別ウィンドウが開き、
バツが悪そうな表情をしたミサトが現れる。
『アスカ！ 弐号機を起動したら、アンビリカルケーブルを接続して。
輸送艦３隻、足場にして戦ってちょうだい』
”りょーかい。作戦は？”
『出現と同時にソニックグレイヴで攻撃して。
攻撃方法、タイミングはぜんぶアスカに任せるわ。
好きにやっていいわよ』
”上等！ シンリ、弐号機と私が使徒なんてあっという間に
殲滅してみせるから安心なさい！
エヴァンゲリオン弐号機！ 発進！”
ゆっくりと、４つの眼に光を宿した弐号機が輸送艦から身を起こす。
荒れ狂う猛獣のような力強さを内に秘めて。
アンビリカルケーブルを接続し、別の輸送艦との間に張られていた
単分子ワイヤーを引っ張り、結わえられていたソニックグレイヴが
轟音を立てて手元に飛んでくるのをキャッチし、虚空を見据える。
「このカリは１０倍にして返してやるわ！」
ソニックグレイヴを両手で構え、気勢をあげた時、
シンリの切羽詰った思考が伝わった。
喰
”アスカ、跳んで！！！”
考えるよりも前に、輸送艦を蹴って天空に舞い上がった瞬間、
先ほどまで弐号機のいた空間が沈黙の悲鳴と共に砕け散った。
ふぅ…やっとＤパート更新です。
今回はちょいと苦戦しました。
ごめんなさい、アスカファンの皆様。
次回、やっと使徒、降臨です。
アスカ＆シンリ、そしてミサト達の活躍をさせますのでお楽しみに。