☆スポンサーにも訪れてくださいね☆
地下を走るリニアトレインに乗って、零号機、初号機、弐号機が
太平洋岸へと到着し、後続車両に満載された武器類を
浜辺の手の届く範囲に並べる。
全機ともに左腕側（補助アーム）に大型シールド、ウェポンラックには増設バッテリーを装備。
零号機用として強化型バズーカ１門、パレットガン２門、スナイパーライフル１門。
弐号機は大型シールドの裏にアクティブソードと携帯型Ｎ２弾を１発。
右手にはソニックグレイブを持っている。
初号機は武器は持たず、全身の拘束具の上に更に追加装甲を被せて超重装化している。
ラミエルに撃たれたダメージで、生体部品を大幅に換装し直しているために、
信号誤差が激しく、制御が安定しないことから戦闘はおろか機動回避すら不可能と
判断されたための措置であった。
『先の戦闘によって、第三新東京市の迎撃システムは大きなダメージを受け、
現在までの復旧率は２６％。 実戦における稼働率はゼロといっていいわ。
従って今回は、上陸直前の目標を水際で迎撃します。
３人とも、いいわね』
大きな指揮車両の中から、ミサトさんや、第一発令所の人達が指示をする。
エヴァにアンビリカルケーブルを接続するだけでも、パワーショベルより大きな
専用の車両がエヴァの近くまで運んできてくれたりして、多くの人たちが
今回の水際迎撃のために一緒にきてくれているのがわかる。
作戦名「ゲンコウ」。今回は、日向さんのネーミングらしい。
遥かに強大な「元」の軍勢を九州北部で水際迎撃して見事、撃退した故事に
基づく…と思うんだけど。
たしか、勝ったのは稀にみる暴風雨で相手の船が沈んだおかげで、
しかも勝った鎌倉幕府もそれが元で衰退したような…。
作戦部のネーミングセンスにちょっと…疑問が浮かんでくる。
『了解』『…了解』 ”了解。”
『…あーあ、せっかく迎撃都市があるのに、上陸時を狙って、
なーんにもない浜辺から迎撃をする、なんて、最低』
”仕方ないよ、まだラミエルの撤去、終わってないんだから。”
そう。第三新東京市の中心地に墜落した巨大なラミエルの屍は未だ解体処理中。
徐々に強度を失っていくとはいっても、かなり頑丈で、削るにしても壊すにしても、
とても大変なんだ、と冬月先生が言ってた。
『だいたいなんで初号機まで出撃すんのよ。
ここは私とファーストだけで迎撃するべきだわ』
『…』
モニターに映る綾波さんが僅かに頷く。
『私達はできるだけ戦闘は回避しなくちゃいけないの。
そのために手段を選択する余裕は人類には無いのよ』
『わかってるって。愚痴を言いたかっただけよ』
通信機越しの会話が途切れるとすぐに、今度は初号機のほうの
サブモニターにミサトさんが映る。
『で、シンちゃん、今度の奴はどんな感じかしら？』
『『…』』
モニターに映る綾波さんとアスカの表情が引き締まる。
…でも、二人ともモニター越しにボクのほうを伺ってる…どうして？
とりあえず、使徒に意識を集中するために、モニターの表示を切って、
そっと目を閉じて使徒の意思を感じ取るために心を開く…。
謡
”…え…えっとぉ…なんだか気分よさそうに鼻歌を歌ってる…感じです…多分。”
そう。独特のリズムに乗って、心が弾んでいるかのよう。
『え゛…』
『目標、海上に姿を現します！』
ざばー
海面を突き破って異形の巨大物体が姿を表す。
それは、手足の生えたヤジロベェとでも言ったらいいのだろうか。
頭部はなく、腕と肩が一体化したような上半身、胸のあたりに仮面が見える。
両足も滑らかな線で繋がった短いものが２つあり、歩行は可能なようだ。
両手を上げて万歳のポーズをとっているようにも見える態度は
酷く滑稽に映る。
『何あれ？ 出来そこないの玩具みたいな変なかたちぃ』
『…弐号機パイロット、黙って』
『わかってるって！』
プツン、と通信が切断される。
『とりあえず、交渉してみて。その場に留まってくれるだけでもＯＫだから』
”はい。”
とりあえず、これまでの使徒と同じように心を触れ合わせてみる。
できるだけ、そぉっと、刺激しないように。
眺
ボクに意識を向けてくれたのを感じて、これまでのように、帰ってほしい、と
アダムに接触されると困る、という心を送ってみる。
…あれ？ 反応が返ってこない……？
憐
”えっ？ あ、ま、まって…”
伝わってきたのは、どこか労りの気配すら感じるそっけない感覚。
それは…そう…背伸びして会話に入ろうとする子供を穏便な
態度でその場から追い出そう、とするかのような…。
向
『イスラフェル、侵攻を再開しました』
『シンちゃん、どうしたの！？』
”あ、あの、相手にして貰えないんです、対等の相手として扱って
くれてないような、そんな感じで…。”
『目標、防衛ラインに突入』
『ちぃ、仕方ないわ！ レイはパレットガンで直接支援！
アスカは近接攻撃！』
『『了解』』
バババババババババババババババ
軽快な発射音とともに零号機が両手に持った２丁のパレットガンを腰溜めに撃ち、
１２８ｍｍAPFSDS弾が秒間５００発という凄まじい連射速度でイスラフェルに叩き込まれる。
今回は日本近海ということもあり、弾種は劣化ウラン弾ではなくタングステンカーバイト弾に
変更されているため、放射能汚染の心配はない。
煩
イスラフェルは着弾の衝撃でその場に留まり、僅かに方向を変えて
零号機のほうに向き直す。
『チャーンス！』
アスカの掛け声とともに、弐号機が軽やかに駆け出し、海に水没し、
一部を露出させているビル群を足場に、あっという間に接近していく。
ドゴォン、ゴゴォン、ズッゴォォォォォォン
弐号機が踏み台にしたビルが衝撃で崩壊するよりも早く、弐号機が
次々に飛び移り、右手に持っていたソニックグレイブを振りかぶると
落下の勢いを上乗せし、イスラフェルに叩き込み…
その身を一刀のもとに両断してしまった。
ズル…バシャッ
ゆっくりと左右に分かれた使徒の体が全員が見守る中、力なく倒れる。
『…あっけないわね？』
左腕に大型シールド、右腕にソニックグレイブを構えた弐号機が滑るように距離を離し、
油断なく、両断した使徒を見据える。
『…葛城一尉、武器の交換は…？』
『両機、そのまま待機！ シンちゃん、どう？ 青葉君、S2機関は？』
奮
この感じ…なんだかとっても嬉しそう…っ！！！
駄目でもともと、もう一度、使徒に心を触れ合わせてみるけど、
全然、ボクのほうなんか”見て”いない。
気を引こうと懸命に足元で縋り付く幼子になっているような気分。
どうしてもボクのほうに向いてくれない、興奮と喜びに満ちた強い意志。
その心は零号機と弐号機だけを見据えている。
”ミサトさん！！！ この子、まだ消えてない！！！
綾波さん、アスカ、気をつけて！！！”
『S2機関の反応が二つ、両断された使徒の体の両方から出ています！！！』
グッ…グググググググゥゥゥ、ギュッッッポォォォン
両断されたはずの使徒の体が震え初めたかと思うとそのまま、ソニックグレイブで
割られたはずのコアが体にめり込み、それぞれの真中から丸くて一回り小さい
新しいコアが飛び出てきた。同時に脱皮するかのように体表を突き破って、
最初の時より小振りな使徒がぽん、と現れた…２体に増えて。
『ぬ、ぬぁんてインチキ！！！』
ヘッドマイクを握り締めたミサトがモニターに映し出された非常識な光景に
突っ込みを入れる。 使徒は１種１形態の独立完結存在。
そう。 ”独立”、つまり１体。 なのにイスラフェルは増えてしまった。
あまりにも、あっけなく。
作戦部はもちろん、エヴァ関連の技術を操る技術部でさえ、その非常識さに
ミサトに対して心の中で合いの手を打っていた。
映写室に関係者が集まり、戦闘結果の報告書を眺めるという試みは今回が始めてであり、
大型スクリーンには戦闘時の記録映像等が鮮やかに映し出されている。
ちなみに、ここには冬月、青葉、マヤ、加持、シンリ、アスカ、レイが出席している。
一週間以上、連絡の取れなかった加持さんに、アスカが問い詰める一幕もあったけど、
戦闘報告前ということもあって、加持さんの「出張してて連絡は取れなかったんだ」という
説明に引き下がる、ってことがあった。
精悍さを増しているようにも見える加持さんのどこか疲れた表情は、なぜか、それ以上、
聞いてはいけない、という雰囲気を感じさせた。
その後は、マヤさんが戦闘報告をしてくれているのをみんなで聞いてる。
「…腕部の色が黄色い側を”甲”、白い側を”乙”として報告を続けます」
「使徒”イスラフェルの分裂後、目標”甲”に対して、弐号機が再度、近接攻撃を敢行。
しかし切断後、０．５秒で完全復元されました。
この際、目標”乙”のＳ２機関出力が増大したことから、分離した使徒が互いを
補完していること、２体以上に分裂することがないことが判明しました」
「シンリくん、分裂後の使徒の思考はどう感じられたのかね？」
節目、節目で冬月が出席者に語りかけて、状況を確認している。
やはりこういった話し合いの場の進行は得意なようである。
「えっと…スピーカーは２つだけど、音源は一つ…モノラル放送をステレオで
聞いているような感じ…です。あと、驚き、喜び、楽しみ、といった感じの
思考がずっとリズムを取っているように思えました」
「ふむ。 ２体に別れてもあくまでも１つの存在、ということか」
「そう…だと思います」
「なお、この確認時に目標”乙”を牽制するため、零号機が支援射撃を行い、
パレットガンを全弾、撃ちきりました」
零号機がパレットガンを捨てて、左腕にバズーカ、右腕にスナイパーライフルを
構えなおす。
「この後、作戦部の指示により、目標”甲”、”乙”のコアを同時破壊するよう指示。
戦術についてはセカンドチルドレンに一任しました」
「白兵戦の戦術である以上、一任するのは当然だな」
「そうっすね」
「目標”甲”、”乙”への零号機による牽制攻撃中に、左手に小型Ｎ２弾、
右手にアクティブソードをもった弐号機が２体の間に突入。
目標”甲”、”乙”の同時攻撃に対して最小限の体捌きで目標”甲”の背後に移動後、
目標”甲”を左腕で貫通、更に目標”乙”の体内に小型Ｎ２弾を埋没させました」
「これに対するＥ計画責任者のコメント」
『アスカらしいわ』
「小型Ｎ２弾のタイマー起爆に合わせて、目標”甲”をアクティブソードで両断。
同時刻、小型Ｎ２弾が起爆し、目標”乙”、ならびに周囲５００メートルを
焼却しました」
「やった…と思ったんだけど」
「残念だったな。だが君達はよくやったよ」
「目標”乙”の構成物質の５２％、目標”甲”の構成物質の３％の焼却に成功。
さらに、目標”甲”はコアを両断され、復元能力は発動しているものの、
修復速度は極めて遅いことが確認されました。
速やかに零号機、弐号機による追撃が行われましたが、目標”甲”、”乙”の
全周囲を覆うＡ．Ｔ．フィールドが外部展開され、攻撃は失敗。
エヴァ２機による監視を継続したものの、展開が解除されることなく1時間が経過。
途中、サードチルドレンのシンクロ限界がきたことから初号機は撤収しました。
展開され続けるＡ．Ｔ．フィールドを突破可能な武装が存在しないことから、
同時刻をもって使徒撃破を断念。監視を国連第二方面軍に引継ぎ、撤収しました」
報告を読み終えたマヤが操作し、室内に明かりが戻る。
「さて、シンリくん。使徒はＡ．Ｔ．フィールドを現在も展開し続けているんだが、
何を考えているか、わかったかね？」
「ボクが感じた印象でよければ」
「無論、それで構わんよ」
「えっと…山篭りして特訓して強くなって、リターンマッチで勝利を掴もうとするボクサー…
そんな感じだと思います」
「ふむ…アダムに対する意識はどうかね？」
「感じられませんでした。考えてることって射撃をしていた零号機のこと、
武器を振るう弐号機のことだけでしたから」
「それで、先ほどの話になるのはなぜかな」
「その…なんだか楽しくて踊りたいって気分で、イメージトレーニングをしているような
感じなんです。斬れる刃、遠い相手を叩く銃を…こう…技みたいに捉えて、それを
自分のモノにしようとしているような…ごめんなさい、うまく言えなくて」
「こう考えてもいいかね？ 次の侵攻時には今回の零号機、弐号機に勝てる自信を持ち、
それを裏付けるだけの実力を身に付けているだろう、と？」
「はい。ボクはそう思います」
「…ふむ。難問だな。レイとアスカ君は今の話、どう思うかね？」
「射撃武器は決定打にならない…と思います」
「私もファーストの意見に賛成。あと、さっきの小型Ｎ２弾を使った同時攻撃も
次は効くか疑問があるし、２体同時に斬るのも無理。
それに、両方一度に倒さないと、またＡ．Ｔ．フィールドを張って修復されちゃうわ。
ファースト、あのＡ．Ｔ．フィールド、中和できないの？」
「…できない気がする。どう説得すればいいのかわからないから」
「そりゃ、そーね。
あれないの！？ ほら、ラミエルを撃ちぬくのに使ったライフルとミサイル」
「超高速貫通ミサイル、通称”グングニルの槍”は現在、新たに４発を建造中ですが、
今、使用できるものはありません。
また、スナイパーポジトロンライフルは、大出力射撃の影響で、分解、整備中であり、
交換用部品も不足していることから、こちらも現時点では使用不能です」
青葉が関係部署から集まってくる情報を元にそれに答える。
「使徒の自己修復が終わるのはいつかね？」
「一週間後と推測されます。修復速度が遅い分をＡ．Ｔ．フィールドの外部展開と
機能強化に割り当てていることが考えられます」
「今のところ、打つ手なし…か」
「ごめんなさい…説得できなくて…」
「シンリは悪くないわ！ まともに会話しようとしない使徒が悪いんだから」
「…そう、碇くんはがんばった、と思う」
「でも…」
「シンリくん、その話は今回は終わり、としよう。アスカ君の言うとおり、交渉とは
互いに同じテーブルについて札を出し合うものだ。
今回はたまたま縁が無かった、と思えばいい。 いいかな？」
「…はい」
「とりあえず、パイロットは全員、指示があるまで自宅にて休息を命ずる」
「「「はい」」」
「では、加持くん、ガードはよろしく頼むぞ」
「わかってます」
冬月が手元のコンソールを操作すると、一人用のエレベーターが沈んでいき、
足元の床下に消え、蓋が閉じられた。
加持を見たシンリはふ、と同居人の一人の顔を思い出して青葉に問い掛ける。
「あの…ミサトさんは？」
「葛城さん？ 作戦部でずっと会議中。 今は戦争状態だから声はかけないほうが
いいと思うよ。 作戦部は使徒撃退の知恵を出すのが仕事だから、ね」
青葉が手振りを加えて、しっちゃかめっちゃかな状態であることを
オーバーに伝えてみせた。
「さ、家に戻ることとしよう。
車で送るから、用意してくれ」
加持が立ち上がって、解散することを態度で示すと、マヤと青葉も片付けを始める。
「後で駐車場に行きますね」
シンリが短くそう告げて退室し、慌ててレイとアスカも後を追っていった。
退室するときに、アスカがすまなそうに「すぐ行くから」とフォローを入れてから
出て行ったから、加持が長時間待たされるようなことはなさそうだが…。
「…こりゃまた、ずいぶん嫌われたもんだ」
自動車のキーを指で回しながら、軽くおどけてみせる。
話を振られたものの、珍しく、シンリがはっきりわかるほどそっけない態度をとっていること、
その理由が、加持の女癖が悪いのを嫌っているためだ、という噂を聞いているだけに、
マヤと青葉は、なんともあやふやな苦笑を浮かべるしかなかった。
加持はシンリ達を葛城家のあるコンフォマートマンションまで送ると、
中には寄らずにそのまま帰ったために、今、葛城家には子供達しかいない。
「ちょっと、ファースト、こっちにきて」
「何？」
「着替えたいの。手伝って」
「どうしたの？」
シンリが不思議そうな表情を浮かべる。
そういえば、さっき加持さんの車に乗り降りするときも、アスカがなぜか
綾波さんの手を借りていた。
「弐号機パイロットは手から痺れが取れなくて、ボタンを外すこともできない。
だから、私が手伝うの」
「はーやーくー」
「わかったわ」
どことなく、嬉しそうな雰囲気を漂わせて綾波さんは廊下を渡って隣の家に
あるアスカの部屋へと入っていった。
ただ着替えるだけのはずなのに、なぜか中からはどたばたと荷物を
動かす音と、最近、よく耳にする「あんたってほんとっ、何も知らないわねぇ」
から始まるアスカの長〜い話が聞こえてくる。
…ほんとは簡潔に説明するつもりみたいだけど、「知らない可能性のある事は
大概の場合、ファーストは知らない」というどっかで聞いたようなアスカ理論が
適用されるから、いつも話は長くなるんだって。
まぁ、アスカも、綾波さんに教えるのを楽しそうにしているけど。
時間はあっという間に過ぎて晩御飯のお時間。
「ぅ…この状況は予想して然るべきだったわ…」
目の前に並ぶのは小鉢に入った和え物、冷奴、焼き魚、御浸し…といった
最近、お気に入りと言ってくれてる定番の料理。
「どうしたの？」
「…ほら、イスラフェルのＡ．Ｔ．フィールド、アクティブソードで叩いちゃったでしょ？
で、手が痺れてうまく動かないのよ。ま、明日には動くっていうから、今は
我慢するしかないのよね」
「ふーん、壊れない武器もいいことばっかりじゃないんだ」
「そういうこと。…あっ」
食卓に座ったアスカがさっそくご飯を食べようと箸を掴んだけど、そのまま、
手からポロッ、と箸が落ちてしまう。
「ぁぅ…」
指が動かない。 落ちた箸、料理と視線を移したアスカが、困り果てて、
余りにも落胆した表情を見せる。
うーん、指が動かないってことは、スプーンを縛り付ければＯＫかな？
ボクはスプーンを用意しようと思って席を立とうとしたけど、
いつのまにか移動してた綾波さんを見て動きが止まっちゃった。
「…口を開けて」
綾波さんが小鉢を手に持って箸で一口分を摘むと、アスカの口元へと持っていき、
ポツリと告げた。
「は？」
「開けて」
反射的に開けた口にそっ、と箸で料理を入れる。
もぐ、もぐ、もぐ、ごっくん
「ってぇぇぇぇぇぇ、な、な、な、何してんのよぉ！！！」
「弐号機パイロットは自分で食事を摂ることができない。
だから、他者の手を借りて食事をしなくてはいけない」
さも当然、といわんばかりに告げると、もう一口分、箸で摘む。
「き、気持ちはありがたいけど、同じものばっかり食べ続けるのはイヤ」
自分のされていることを自覚したせいか、頬を赤く染めたまま、
ぷぃっ、と横を向いて食べたくないっ、と態度で示す。
「…そう。次はどれ？」
「…」
綾波さんの促しにも、どこか心の中で葛藤があるみたいで、なかなか
アスカは応えようとしない。
「どれ？」
僅かに綾波さんの表情が曇る。
「…焼き魚が食べたい！ 食べたいからそんな顔しない！」
「…はい」
もぐ、もぐ、もぐ、ごっくん
「あーら、さっそく仲良くやってるじゃない♪」
アスカが綾波さんに食べさせてもらっていることに注意が向いていたせいで
気が付かなかったけど、いつのまにか、キッチンにミサトさんがきていた。
手にはラジカセをもっている。
「なにが？」
「今度の作戦準備♪ ま、いいわ。シンちゃん、私もご飯ちょーだい。
もー、お腹ぺっこぺこなのよ、私」
「はい、はい」
そのあと、満面の笑みを浮かべたミサトさんがアスカのことをからかうせいで、
夕食の時間は普段の３倍以上もかかったけど、アスカは赤くったり青くなったり
していたし、綾波さんまで頬を赤らめることがあったりして、とっても賑やかな
雰囲気で楽しい一時だった。
カシュッ んぐ、んぐ、んぐっ、ぷふぁ〜
「…ってわけでぇ、今度の使徒に有効なのは分離中のコアに対する
二点同時荷重攻撃だけ！ これしかないわ。
つまり、エヴァ二体のタイミングを完璧に合わせた攻撃よ。
そのためには、二人の協調、完璧なユニゾンが必要不可欠なの」
タンッ
ミサトさんが置いた「えびちゅビール」の空き缶が小気味いい音を立てる。
「そんな無茶なぁ」
「そこで、その無茶を可能にするために、二人にはこれから一週間、
二人で一緒に生活してもらうわ。
使徒の自己修復が完了するのは一週間後、時間がないの」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ、二人だけって…ご飯は？」
アスカって、すっかりボクの料理を気に入ってくれたようで、最近は
ご飯の時間になるとニコニコと料理を手伝ってくれたりしている。
「食事は今まで通り、シンちゃんと二人が一緒に作るってことでいいわ。
あと、寝るのはリビングで全員一緒。
昼間はこの曲に合わせた攻撃パターンを頭に叩き込んでもらう。
いいわね？」
「質問」
「なにかしら？」
「この訓練で二者の動きを合わせる…で、どっちがどっちに合わせるの？」
「シンちゃんの感触からすると、イスラフェルは再侵攻時には前回の零号機、弐号機を
上回る戦闘能力を発揮する可能性があるわ。もっとも、現在、稼動しているＳ２機関の
出力から想定すると、能力は高まるものの、２体合わせて、能力強化をした上で
やっと弐号機１機を圧倒する、と想定される程度だけど。
…だから、当然、レイがアスカに合わせることになるわ」
「…それは可能ですか？」
ポツリと綾波さんが質問を呟く。どこか表情が固い気がする。
「正直、ちょっち厳しいんだけど、こればっかりは仕方ないわ。
出来る限り、レイはアスカに追いつく。
アスカはレイに合わせて、動きの微調整をする。
作戦部は二人の動きで可能な撃破パターンを考えて実現するための準備をする。
技術部は二者の動きを合わせるために零号機のチューニングを行う。
ギリギリ一週間で、なんとか間に合わせるわ。
だから、あなたたちもがんばってちょうだい」
「あの、ミサトさん、ボクは？」
「今回、シンちゃんは初号機が壊れているから出番はなしよ。
だから、昼間は普通に学校に行ってね」
「あの…わかりました」
何かボクもやりたかったけど、ミサトさんの表情を見て引き下がった。
ない、って言う以上、多分、本当に何もできないんだと思ったから。
「二人も良いわね？」
「それしかないんでしょ？ やるわよ」
「…はい」
綾波さんは渡された資料を見たまま、僅かに遅れて応える。
やっぱり表情が硬い。 …アスカと弐号機の動きに合わせての同時攻撃…。
ボクが聞いても無理があり過ぎるように思える作戦内容。
普段の訓練を思い出してみても、機動運動では零号機も初号機も、ぜんぜん
弐号機には追いつけてないのだから。
それに、この作戦、なにか欠けてる気がする…。
今はわからないけど何か…。
そんなわけで、インチキ使徒イスラフェルとの第１回戦はお終いです。
エヴァ２体の完全な同調からの２つの離れたコアに対する
二点同時過重攻撃…なんだか不安になりません？
なにせ、今回の使徒の進化基準、近接戦闘はアスカの弐号機、
遠距離射撃戦はレイの零号機なんですから。（笑）
次回は学校から帰宅するシーンから描写スタートです♪
お楽しみに〜。
☆スポンサーにも訪れてくださいね☆