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ズシィィィィィン、ズシィィィィィン、ズシィィィィン
「イスラフェル、再侵攻開始！」
「強羅絶対防衛線突破まで、あと１０分」
自己修復を終えたイスラフェル２体は、N２爆弾の焼却跡もなくなり、外見上は
元通りに修復しただけのように見える。
２体は、並んで歩き、途中の山々を短い脚を器用に使って登ってくる。
やはり両手を上に万歳っとあげているかのような形状、ひょこひょこと
身を揺らしながら歩く動きは、どこかユーモラスである。
もっとも、歩くだけで地響きを立てる巨体はそれだけで恐怖を喚起するが…。
捜
『シンちゃん、イスラフェルはどんな感じ？』
”えっと…やる気満々の挑戦者、チャンピオンを待つ、って感じ…です。”
そう。A．T．フィールドを解いて、周囲を探った後、その時は初号機しか
起動していなかったせいか、とってもがっかりしているように感じられた。
触れ合わせているだけで、どんよりしちゃう消沈した意志。
だけど、その後、第３新東京市のほうにゆっくり歩き始めて、
１歩、１歩、歩くたびに周囲を探り始めた。見た目には普通に歩いているようにしか
感じられないけど、零号機と弐号機がくるのを心待ちにしているみたい。
心が賑やかに踊ってる。
『やる気満々ねぇ…どーせならシンちゃんとの交流に燃えてくれたほうが
こっちとしちゃー嬉しいところだけど、仕方ないわね。
レイ、アスカ、準備はいい！？』
『…大丈夫です』
『当ったり前よ！ 気力充実、なーんか今日は目覚めスッキリ、
もー、誰でも掛かってきなさい、って気分なのよねー』
寝不足が祟ってか懸命に集中することで気力・体力を奮い立たせてるレイと違い、
まるで、レイの分まで元気を吸い取ったかのように、アスカは元気一杯である。
『さ、今から人類史上、最も騒々しいコンサートの始まり。
レイ、アスカ、アンコールはないから気を引き締めていくのよ！』
『『了解』』
二人の返事を聞いて、ミサトが静かに開始の合図を告げた。
『発進』
リニアカタパルトに重装備のままスタンバイしていた２機のエヴァが
イスラフェルの出現位置から死角になる位置にルートを変更して
地上へと送り出す。
試
離れた距離に現れた零号機のほうにイスラフェル甲・乙が向きなおすと
仮面に穿たれた穴が閃光を放ち、４条の粒子ビームが、それまで
零号機がいた個所を、兵装ビルごと貫く。
『…碇くんより反応が鈍い』
しかし、レイは、兵装ビルが貫通されるコンマ何秒、という僅かな間に
高速機動を開始し、その場から離れたところから、巧みに強化型バズーカを
撃ちこみ、放たれたHEAT弾が着弾するたびに、イスラフェルのボディに
大穴が空き、僅かな間に次々に修復されていく。
『甘い！！！』
遠距離から放たれる大型砲弾に穿たれる大穴を修復し続けるために、
動きが鈍くなったところを見逃すアスカではない。
一気に距離を縮め、イスラフェル乙の背面から一気にコアを貫こうとする。
斬
イスラフェル甲が飛びあがって、上方から光に包まれた爪で襲いかかり、
同時に、イスラフェル乙は背面に向かってベアハッグするように、
振り上げた腕で両隣の兵装ビルごと弐号機を切り裂こうと襲いかかる。
人に似た形態はしていても、骨格というものを感じさせない攻撃。
背面を取った、という認識のせいで、回避できないタイミングで
３方向から完全に同期した攻撃が弐号機に迫る！
バババババババババババババ
上空から撃ち込まれる無数の弾丸が２体のイスラフェルを貫き、身体中を
穴だらけにしてしまい、それによってスピードが鈍り、タイミングが崩れる。
フリーになった零号機が途中で持ち替えたパレットガンを弐号機に当たらないように
兵装ビルの上から撃ちこみ、痛烈な支援攻撃を叩き込んだのだ。
『ふっ、やっぱ、こいつ、シンリより腕が落ちるわ』
左右と上方からの完全同時攻撃だったがタイミングのズレによって、
ただの連続攻撃に変わってしまう。その僅かな隙をついて、イスラフェル乙の
コアを切り裂き、紙一重の差で爪の攻撃も全て回避する。
焦
ガンガラーン、ガチャッ
着地と同時に撃ちきったパレットガンを手放し、兵装ビルからスナイパーライフル、
更に回収ポイントのリニアを利用して運ばれたパンツァーファストを担ぐと
滑るように距離を詰めつつ、ライフルでイスラフェル甲のコアの中心を
的確に撃ち抜き続ける。
※パンツァーファスト（対戦車用ロケットランチャー）
棒状の発射機の先端に取り付けられた大型ロケット弾を打ち出す
歩兵用装備のエヴァ版。直径８ｍ近い超大型弾頭の破壊力は
桁違いだが射程距離が短い、弾速が遅い、１発しか撃てない、と
問題が多いため量産されていない使い捨てタイプの試作武器である。
それは、イスラフェル乙が叩き割られた個所と重なる場所。
互いに補完するイスラフェルの超回復能力も、同じ個所を２体とも
損傷してしまうと、瞬時の修復はできない。
コアの破損修復が遅れることで、他の個所のダメージ修復まで
遅延が発生し始める。
『行けぇ！』
装甲ビルの影に隠れた弐号機が根元を両断し、そのまま全力で蹴り出して
イスラフェルに向かって弾き飛ばす。
自分に匹敵する巨大な装甲板の塊に反応して爪で切り裂くが、切り裂いても
勢いが止まるわけもなく、全身に超重量の激突の衝撃を食らってしまう。
驚
『…これで終わり』
２体の全身がほぼ同時に損傷したことで起きた甲、乙の同時修復による僅かな間隙。
自己修復を終えたイスラフェル甲のコアに、パンツァーファストの巨大な
弾頭を零距離で付きつけたレイが別れの言葉を口にする。
１発しか撃てないパンツァーファストだが、それはすなわち、必殺の意志が
込められた死の使いに他ならない。
放たれた弾丸に影響を与える零号機の特性が活かされる条件が整う。
『殺った！！！』
同じタイミングで至近距離に踏み込んだ弐号機が下方から
アクティブソードを振り上げ、イスラフェル乙を両断しようとする。
自己修復による絶望的な反応遅延。
誰もがコアの同時破壊攻撃成功を確信した。
しかし…それは、イスラフェルもまた、その未来を「見て」いた。
攻撃も回避も防御もできず避けようのない未来を。
拒
レイとアスカの完全に同期した攻撃が成功する前に
イスラフェル達を覆い尽くす紅く輝く結晶構造の壁が出現してしまう。
全てを拒絶する壁、Ａ．Ｔ．フィールド。
零号機が撃ち出したパンツァーファストは相転移空間に激突して
無駄に爆発してしまい、弐号機も直前で気がついて強引に
勢いを止め、空しく紅く透き通った壁面を叩くに留まった。
『…』
手元に残った発射機を捨てて、零号機が紅い宝石のように輝く壁へと
近づき始める。
『レイ！ どうするつもり！？』
ミサトさんの声が周囲の兵装ビルに備え付けられた外部スピーカーから響き渡る。
『説得してみます』
落ち着いた綾波さんの声がそれに応え、零号機の手がソッと
Ａ．Ｔ．フィールドに触れる。
キィィィィィン
始めて見た綾波さんの「中和」の行為。
直接、触れているわけでないから漠然としかわからないけど、
風一つない湖面のような静けさの綾波さんの心が、他を拒絶する
イスラフェルの心が触れて、少しずつ、落ち着かせていくのはわかる。
惑
心の変化に合わせて様々な虹彩をＡ．Ｔ．フィールドが放ってる。
とても、綺麗で、儚い、そんな輝きが乱れ飛んでる。
伺
乱れていた心が落ち着くのに合わせて、Ａ．Ｔ．フィールドの輝きも
徐々に、空気に溶け込むように薄くなっていく。
綾波さんの説得が成功したのかな？
そのままの状態がしばらく続いたんだけど、突然、イスラフェルの
意志が豹変してしまう。
制
怒り？ 反発？ 充足感に彩られた不思議な心。
あんなに落ち着いてたのにどうしちゃったの？
『…そう…闘うのね』
僅かに残ったＡ．Ｔ．フィールドを蹴って後方へと飛びあがって
そのまま遠い兵装ビルの裏手に着地する。
『レイ！ どうなったのか報告しなさい！』
リツコさんのちょっと緊迫した声が聞こえる。
零号機が離れた後、イスラフェルのＡ．Ｔ．フィールドは
完全に掻き消えたけど、攻撃はしてこない。
兵装ビルに触れることで可能になる接触通信のおかげで、
やっと、全員が会話可能な状態になった。
『イスラフェルは闘う気です』
『レイ、説得したって言ったわよね。どんな風にやったの？』
『勝負はついたのだから還るように、と伝えました』
これ以上ないってくらいに落ち着いた声が響く。
『『『『『え゛…』』』』』
え、えっとぉ、それって火に油とか言わない？
サブモニターを見ると、アスカが口をあんぐり開けちゃってるし、
第一発令所の人達も同じような雰囲気。
『…と、とにかく、闘うしかないってことはわかったわ。
レイ、アスカ、どのパターンで闘うか決めて』
額に手を当てるジェスチャーまで加えてミサトさんが
硬直した場を無理やり動かす。
『そうね、多分、ラストの時の奴がいいわ。レイはそれでいい？』
『えぇ』
『ＯＫ。レイ、強化型バズーカを出すわ。シミュレートの時と同じだから
覚悟を決めて』
『はい』
リニアカタパルトを使って運搬されてきた強化型バズーカを
零号機が手に持ち、弐号機と共にイスラフェルのほうに
神経を集中し始める。
観
互いに身動きせず対峙したままの時が過ぎる。
動き出す切っ掛けがないために起きる静寂の一時。
Ａ．Ｔ．フィールドの外部展開を止めたまま、イスラフェルは
どちらも微動だにせず、乙が弐号機を、甲が零号機のほうを向いている。
奇妙な音のない時間は、兵装ビル中のスピーカーが奏でたミサトの
指揮棒の一振りによって断ち切られ、再び全てが動き始めた。
『全兵装ビル、一斉攻撃！！！』
タイミングを合わせて直接攻撃兵器を搭載した全ての兵装ビルが
発射口を開き、同じタイミングで着弾するように調整して
次々に大型ミサイルを発射し、地響きを立てながら全てが
イスラフェル甲、乙の身へと降り注いでその場に釘付けにする。
睨
４条の加粒子砲が周囲を薙ぎ払って兵装ビル群を崩壊させる。
だがその間に、距離を詰めた弐号機が飛び上がって上空から
イスラフェル乙に斬りかかり、零号機は滑るように
走りこんで、至近距離から射撃を叩き込もうとする。
停
落下の勢い全てをアクティブソードに込めた弐号機の斬撃を、
斬られてから自己修復するのではなく、高周波振動を行う両腕の
先端に生えた爪を交差させて受け止める。
それは、損傷を受けずに次手に繋げる格闘術の基礎。
何度もその身を両断した攻撃…だが、攻撃後は僅かだが
動きが止まる、それを見切った、というのであろうか？
ガギィィィィィィィン
轟音と共に完全に受け止められられた剣の勢い。
墜
同時にタイミングを合わせて、零号機が至近距離から
強化型バズーカで撃ち出した大型弾頭も、イスラフェル甲が
接射で放った加粒子砲に撃ち抜かれ爆発四散してしまう。
決
弐号機の斬撃を受け止めたイスラフェル乙が全力で攻撃してきた
勢いのまま着地するタイミングに合わせて加粒子砲を放とうと
仮面に穿たれた眼下にエネルギーを収束していく。
イスラフェル甲は、零距離で後のない一撃を放つために
動きを止めた零号機を両断しようと左右から爪を振り被る。
イスラフェルがイメージした未来。
相手の攻撃をダメージを受けることなく耐え回避できない一撃を
叩き込んで、撃破される２機のエヴァの姿。
だが、そこにエヴァを操る少女達の憐憫の表情はない。
現実とは違って。
『アンタも即興にしちゃ良くやったわ』
全力の斬撃とイスラフェル乙の爪による防御が拮抗した瞬間、
弐号機は剣を手放し、落下の勢いを殺さずイスラフェル乙に
密着し、そのまま全身のバネをフルに使った拳撃を放つ。
それはイスラフェル乙の加粒子砲が放たれようとした、まさに
その時、紙一重のタイミングで打ち込む必殺のカウンターとなった。
『でもこれでフィナーレ』
放った大型弾頭が撃ち抜かれ爆炎が零号機とイスラフェル甲を包む。
だが、視界ゼロの状況など関係ない、といわんばかりに左右から
光に包まれた爪が動きの止まった零号機に届く…その一歩手前で
回避せずにコアをピタリと捉え続けていた強化型バズーカから
再び、最後の大型弾頭が叩き込まれた。
それは、初めから２発撃ちこむ気でなければ不可能なタイミング。
イスラフェル甲が発射された弾頭を撃ち落す、という離れ業を
やったことをまったく意に介さずに、無駄なく行われた攻撃。
やはりこれも、イスラフェル甲の一手より僅かに早く届いた
致命の一撃となった。
カッ…ゴゴォォォォォォォォォン
回避を捨てた弐号機の拳がイスラフェル乙のコアを微塵に砕いて打ち抜き、
全ての想いが込められた最後の大型弾頭が、コアに激突して
瞬時に反応したジェット噴流がコアを溶かしきって体に風穴を開けた。
２体のイスラフェルが、止めの一撃を放った零号機、弐号機を巻き込んで
閃光と轟音と共に全てを巻き込んで周囲を吹き飛ばす。
讃
透き通った風の音色を奏でながらイスラフェルの気配が消えていく。
笑っているようにも、奮えているようにも感じられる不思議な雰囲気。
爆発が収まり、イスラフェルを構成していたモノが
この世界から消え去ったのが見えるようになるまで、
小さく、弱く、遠くになっていきながらずっと感じられた想い。
…使徒って何なの？
疑問が頭をグルグルしちゃって、でもなぜか笑いたい気分。
そんな不思議な感覚は、イスラフェル消滅と同時に復旧した
通信回線から聞こえてきたアスカの元気な声で中断された。
「ちょっとレイ！ 決めポーズ、失敗しちゃったじゃない！？」
「…ごめんなさい。終わったと思ったら気が抜けてしまって…」
「そーいえば、今もそうだけどなんか寝不足っぽいわよね。
昨日の晩、夜遅くまで何で起きてたのよ？」
「…考え事をしてたの」
「何を考えてたのよ」
「アスカがキスをした後、抱きついたまま離してくれなかった訳」
何を思い出したのか、ちょっと口調も踊るような感じ。
「へ？ キ、キス！？」
「（こくん）」
「ど、ど、ど、どーしてぇぇぇぇ」
「…それは私の疑問。…どうして？」
「わ、私、覚えてないわよ、そんなのぉぉ。
いつ、いつしたのよぉ」
「昨日の晩。 私の布団に入ってきて体を摺り寄せてきた後…」
「ス、ス、ス、ストップ！！！ 待って、言わないで！
誤解、ご、誤解するじゃない！！！」
「なぜ、そんなことを言うの」
ほんとに不機嫌な時に見せる非難の色を瞳に湛えた表情。
なんとなく拗ねてるような印象があって、少し幼く見える。
『レ〜イ、気にすることないからどんどん言っちゃっていいわよぉ〜』
「はい。その後、…」
「だ、駄目ぇ！」
「…なぜ？ キス…初めてだったのに、
覚えてないなんて…」
ちょっと…言葉が足りないような…。
そっか、お父さんもそーだもんね。娘は父親に似るっていうし、うん。
『アスカちゃん、大胆…♪』
「あーん、もう、マヤも変なこと、言わないでぇぇぇ！
そ、そう、シンリ！ その…ほんとに私…した…の？」
「ごめんね。ボクもアスカがキスしたところまでしか覚えてない。
でも、ボク、何があってもアスカを応援するから」
どうしてかな…ボクはその時、ささやかな嘘を口にした。
”寝ぼけてたみたいだよ”と言ってあげればよかったはずなのに。
アスカが困ってるのに、もうちょっとこの時間を楽しんでいたい気分。
「え！？ え！？ えぇぇぇぇぇ！？？？？」
アスカ、ごめんね。
そう心の中だけで口にして、違う行動を取る自分の態度が不思議。
イケナイことだと思うのに、どうしてもそうしてみたい誘惑。
愉しい気分でその声を聞いたのはこれが初めてだった。
『レ〜イ、アスカに思い出してもらうためにも、
何があったか、詳しく話してあげたほうがいいわよん』
ニマ〜っと笑みを浮かべたミサトがそんな言葉を口にする。
隣では、なぜか目を輝かせたマヤがレイの言葉を聞き漏らすまい、と
熱心な面持でモニターを眺めていて、そんな同僚の態度に、
リツコはこめかみを抑えてたりする。
「はい。それまで浅い眠りに入っていたのですが…」
『やれやれ…これは最重要機密事項だな、青葉君』
冬月が好々爺の表情を浮かべて、もったいつけた口調で指示を出す。
言われた青葉も、和やかな表情のまま笑ってる。
『了解っす』
青葉の操作によって、零号機と弐号機の通信回線は、通常モードから
秘匿モードに強制的に切り替えられ、主モニターには「報道管制中」の文字が
申し訳なさそうに映し出された。
ふぅ、やっと、第９話もお終いです。（＾＾）
原作で最も賑やかなお話だったせいか、私も書いてて
愉しいシーンが多かったように思います。
原作にあったけど、エヴァISで使わなかったシーンは
別の箇所で使い回す予定ですのでご安心ください。
今、悩んでいるのはリツコに抱きついて口説く加持。
ここでガラスの向こうから二人を見るのがミサトじゃなくて
シンリだったらどーかな、と邪悪な誘惑につい乗ってしまおうか、と
考えちゃったりしているところです。（＾＾；）
破綻しない程度に注意しなくちゃ…。（笑）
次回は、第１０話「マグマダイバー」…ではなく、「宿、飲み過ぎた後で」と
題名が変わります。 その雰囲気でわかるように、原作とはかなり異なる
ストーリーになります。サンダルフォンLOVEな人、ごめんなさい。（＾＾）
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