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トライデント計画の技術者達がＬＣＬを手に入れて３日が経過し、彼らの分析は
早くも暗礁に乗り上げていた。
どう調査しても”生命のスープ”と呼ばれる、生命を成立させる物質が全て
溶け込んだ原初地球に存在したと考えられている水の一種、にしか思えないからだ。
マナの見た情報から、触媒等の添加は認められず、露出した頭部に直接触れ、
肺の中まで満たす以上、温度設定の幅も限られる。
後は、人が感知できない程度の微弱電流、磁力などを加えたり、
溶存酸素濃度を引き上げてみたり、添加する気体の種類を代えてみたりと
いろいろと試し、分子構造の調査までしてみたが、極めて微弱な電流を
流した状態で、一定以上の溶存酸素濃度を持つ時に、気体と液体の
中間状態に遷移し、ほぼ透明になること以外に特徴はなかった。
サンプル量が少ないため、脳波検出に役立つかどうかまでは
調査できなかったが、それは戦自の知りたい情報ではない。
そもそも、衝撃を緩和するためにはゲル状態のように粘性が高いことが望ましいが、
直接、肺に入れて呼吸する以上、溶存酸素濃度の高いＬＣＬを常に循環させる
ためにはできるだけ粘性は低くなくてはいけない。
両者を満たす解など本当に存在するのか？
これなら、”雷電”のコックピットを水で満たしても効果は大して変わらない。
技術者達の思考は出口の見えない迷宮の奥底へと落ち込んでしまう。
コペルニクス的転換とも思えるエヴァの特性…人類が独力でそれに辿り付くための
道筋は余りにも険しかった。
＊
「洋服？」
「普段、着る服ってあんまり持ってないから、今度、買おうと思って。
シンリくん達って、いつも制服だけど、他の服、買わないの？」
昼食タイム。私は少し疑問に思っていたことを口にした。
シンリくん達って、いつ見ても、外出するときは制服を着ていて、普段着でいるのは
家の中だけ。 特にシンリくんは暑くないのか心配になるくらい、服で体を覆っていて
肌はほとんど見えない。紫外線防止のため、と言っていたけど、自宅にいても、
ジャケットを脱いで手袋を外しているだけで、外にいるときとほとんど変わらなかった。
「うーん…ほら、ボクが今着てる制服ってちょっと特殊だから。
他のデザインの服を作ってもらうと、けっこうお金がかかるんだって。
１着分で、ガソリン式のスポーツカーが１０台くらい買えちゃうくらいって話で、
だから、新しいのをお願いするって訳にも…ね？」
それでも、制服、予備も含めて３着も作ってもらっちゃったし…とシンリくんは続けた。
先日、私が赤木博士から貰った制服を、ウチの技術者の人達が調べた結果は
とっても驚いた。だって、７．６２ｍｍ軽機関銃の直撃でも弾が貫通できないだけじゃなくて
着ていた実験体に加わった衝撃が全体に分散されることで、骨折すら免れる効果を
発揮したから。 それに火炎放射器でも燃やすのに１時間以上かかった。
分子構造まで調べたらしいけど、防弾のメカニズムはわかっても、なんでそんな
特殊な布が作れるのか、熱を防ぐ極薄・軽量シートが作れるのかわからなかったらしい。
「まったく、プラグスーツなんか、しょっちゅう作り直してるのに、
こーいうところはケチくさいのよね〜、ＮＥＲＶって」
惣流さんも、服のデザインが変わらないのは不満が多いみたいだった。
何度かシンリくん達のいる宿泊施設に行ったときも、会うたびに、別の服を
着ていたのは彼女だけだったから。
「ねぇ、惣流さん、そのガソリン式の車ってなんて名前なの？」
「フェラーリだったっけ？ イタリア地方で作ってる車らしいわ。
ま、よく知らないけど、いまどき、ガソリン車ってくらいだから、骨董品なんじゃない？」
「なんだか、高いのか安いのかよくわからないね。
例えならもっとわかりやすく言ってくれればいいのに」
この場にいる誰もが私の言葉に同意してくれた。もしかしたら、相田くんがいたら
何か違う話が聞けたかもしれないけど、彼は今、泊り込みで試験中だから
この場にはいない。
「わかりやすいって？」
「例えば、０６式戦車何台分とか」
「「「「…」」」」
私の言葉に、みんな、なんと言っていいのかわからないみたいだった。
「え？ あ、ほら、私、”雷電”のパイロットだから、装備品って、みんなとっても高くて
戦車何台分とか言うのが日常的で…ぇ…あはははははは」
説明するほど、ボロが出ていく感じがして、笑って誤魔化してしまう。
でも、パトリオット型ミサイルが一回に２〜３発撃って合計で約２億円、
格安スカッド型ミサイルが１０発撃っても２億円、ＦＳＸ戦闘機が１機１００億円とか
言われてもピンとこないし、私が撃墜する地上ターゲットって、戦車がメインだから…。
戦闘ヘリや戦車以外の車両ってレールガン式ＣＩＷＳで自動殲滅しちゃうし、
至近距離で撃たれると装甲が痛むから地上車両では戦車だけは、気を使うんだけどぉ…。
…呆れたようなみんなの視線がちょっと痛かった。
【CIWS（Close Ｉｎ Weapon System）】
相手の発見、敵味方識別、撃墜までを全自動でやってくれる独立型迎撃システムで、
ファランクス、ゲートキーパーの愛称で呼ばれているものです。
索敵レーダー、追尾レーダーとバルカン砲（２０ｍｍとか３５ｍｍとか）、コンピュータが
ユニット化されてて取り付ければＯＫというお手軽さがウリで、世界中の艦艇が
防衛ユニットとして採用している優れもの。
普通はバルカン砲で対象を蜂の巣にするんですが、遠距離の敵を自動迎撃する
こと目的としてお金持ちな軍隊だとミサイル式ＣＩＷＳを持ってたりします。
エヴァＩＳのジェット・アロンが装備していたアイアンシールド砲もこの一種です。
２０００年時のモノですら、５インチ砲の撃ちだした砲弾を迎撃できるほどの
性能を持ってます。（飛行速度１０００ｍ／ｓを撃墜…）
戦車用の７．６２ｍｍ弾を使った小型ＣＩＷＳなーんてモノもあります。
＊
パチーン
今日も応接セットに腰掛け、詰め将棋を興じる冬月の駒を置く音だけが
広過ぎる司令室の室内に響く。
司令席に座るゲンドウはと言えば、卓上に置かれた書類の確認を終えて
肉厚の大きな湯呑みに注がれた熱い茶を味わっている。
「赤木君の話では、彼らは予想以上に優秀なようだな」
「渡したサンプルの解析はどちらもほぼ完了したらしい。
戦自の上層部も技術格差に相当、焦ってるようだ」
「その情報、あの男からかね？」
「あぁ。内閣調査室との交渉は奴にやらせている。
今のところ、確証は掴めていないが、役には立ってる」
「そうか。裏でやられるくらいなら、表だって活動させる…確かに
そのほうが問題は少ないだろうな。
情報漏洩が発覚すれば、処罰もしやすい」
「老人達への牽制にもなる」
「イレギュラーだったが…トライデント計画…なんとか予定範囲内に
収まるか。…葛城君は随分、不満を零していたが、まぁそれは
仕方があるまい」
「あれも、武器輸送車程度には役立つだろう」
ずずずずずずず…
熱い茶を啜る音が続く。
「ところで、碇」
「なんだ」
「その茶、シンリくんが持ってきたモノかね？」
「…あぁ。土産の礼らしい」
応接セットの小棚に、粉茶の小さな筒が増えている。
小匙１杯、僅か１グラム程度で、一杯の茶が味わえるというものだ。
記載を見ると、１００ｇ入りらしい。
「この部屋も随分、生活感が溢れてきたな」
「…」
ずずずずずずず…
熱い茶を啜る音が続く。
ゲンドウの表情からは彼の心情はまるで伺い知ることはできない。
だが、冬月の座る応接セットの小棚には、電気ポットや冷蔵庫、茶菓子入れなどが
少しずつ増え始め、そんな品々が彼の態度を意味のないモノにしていた。
無闇やたらと広い司令室。
飲み物が欲しくても、注文してから届けられるまで、本部ピラミッドの最上階に
あるレストランが空いている時間帯でも、１０分以上は待たされる。
以前、冬月が、突然増えた小棚のことを聞いたとき、「待たされるのは性に合わん」と
ゲンドウが言葉少なげに答えたものだった。
そんな司令室の変わりゆく様を見て、冬月は感慨深げに増えていく品々を眺めた。
この司令室を作ったときに、こんな日々がくることなど
考えもしなかった…と思いながら。
＊
「ねぇ、綾波さん」
持ち前の前向きな思考だけを頼りに、マナは懸命にレイと話をしようと奮闘していた。
…というのも、今日は、シンリとアスカはそれぞれ別の試験に参加するために
早退しており、ケンスケもテストパイロットとして、泊り込みの日々が続き、学校を
休んでいる。それ以外のいつもの面々も久しぶりに、学校行事の準備を手伝うために
放課後にクラスに残って、打ち合わせや準備等をしていた。
そのため、ＮＥＲＶに向かうのはレイとマナの２人だけ。
…珍しい組み合わせだった。
「…何？」
「ジオフロントまでの道のり、ずいぶん、長くて大変じゃない？」
ＮＥＲＶから貸し出してもらっている携帯端末に今日のルートが表示されている。
学校までの登下校の際の道筋もそうだが、毎日、ランダムに変更されていて、
その日の気分で勝手にルートを変える、というのは避けなくてはならなかった。
また、エヴァ関連の実験に参加する、ということで、参加する人員も時間もバラバラに
行われているので、シンリ達、正規・予備パイロットの早退・遅刻は当たり前。
時間、人の組み合わせ、ルートの全てをランダムに変更することで
危険性を分散させ、子供達が遭う危険をできるだけ低くしようという
ための措置であることはマナにもわかっていたが、窮屈な印象を
持ったのも確かだった。
「あと、５分もあれば到着するわ」
地上とジオフロントを結ぶリニア式のエレベーターは、旧式のワイヤーで
牽引するタイプとは違い、移動速度は格段に速く振動も騒音もほとんどしない。
ジオフロントの構造自体がどこか、設計自体が異質で、巨大な構造に後から
人が住むための区画を入れ込んだように歪なところが多く、無闇に移動距離が
長くなり、複雑な構造になってしまっていた。
そのため、長く途中に人が利用する区画もないような通路は全て移動通路が
設置されており、2人が今、立っているのも、そんな通路の一つである。
「そうじゃなくて、移動距離のこと。
これじゃ、毎回、エヴァを出撃するのも大変なんでしょう？」
「リニアカタパルトで、地上まで射出されるから平気よ」
「そっか。でも、みんな電気仕掛けで、停電にでもなったら大変そう」
マナが来てから地上での破損区画の整備などを目にすることも多く、
何時から何時まで停電します、というようなアナウンスを聞くこともよくある。
自家発電装置があるから、”雷電”のある離れの仮施設が停電状態に陥ることはないが、
マナが住んでいる、湖の近くにある一軒家も、１回だけ、復旧工事の関係で、
停電になったことがあった。
食料品の買い入れなどもする子供達の間では、昼食時などに停電のことが
話題になることも多い。なにせ、冷蔵庫は電気が切れると、中の食材が
痛んでしまうのだから、切実な問題なのである。
「電源は正・副・予備の３系統があるから問題ないわ」
「３系統の電気配線なんて私の”雷電”みたい」
多少の被弾によるダメージでもその機能を失わないように、トライデント級軽巡は
あらゆるシステムが冗長性をもって作られているのである。ちなみに、３重の
セーフティをかけるのはコストもかかり、宇宙船のような特殊なもの以外は
普通は２重化までしかしない。
「…そうね」
そんな会話をしながら、二人はいつもの訓練施設へと向かう。
何をしても弾まない会話に、凹みそうになるのを、必死に奮い立たせて
場が沈まないように、とマナは努力していた。
問い掛けるたびに、レイが律儀に答えを返してくれる、ということ自体、
実はクラスメイトたちから見れば、驚くべきことだったのだが、シンリと
生活しているレイしか見ていないマナには、そんなことはわからなかった。
＊
その日も深夜になり、部下達との会話を思い出して苛立つ心を
隠そうともせず、憤慨したまま、大西は自分の安アパートに帰宅した。
苛々したまま、上着を脱ぎ、コンビニで買った弁当を
ビールを飲みながら掻き込む。
新聞を見ても、報道管制によって検閲済みの情報しか載っていない。
検閲する側である大西から見れば、どの記事も陳腐なものにしか見えない。
深夜のテレビ番組など、低予算のバラエティ番組、再放送、映画など
ばかりであり、見ていても時間の無駄としか思えない。
結局、クーラーもついていない室内で、扇風機の風に当たりながら、
食事をする音だけが空しく響き、ストレスを無闇やたらと増やしていた。
コン、コン
「大西ニ佐、こんな時刻に押しかけてすみません。
お話したことがあるのですが…よろしいでしょうか」
…俺の部下の一人、平賀だ。
旨い設計をするんだが、後先考えずに設計性能の高さを求める傾向があるのが
いまいちな奴だ。それにいいアイデアを思いつくと、時間など関係なく、纏めた
設計図を持って押しかけてくるのも、熱心さゆえだろうが、邪魔なことも多い。
トライデント級軽巡の基本設計は奴のアイデアが生きている。
量産化など元からそれほど考慮する必要がないだけに、とにかく性能を引き上げる
ことについて、最優先させたが、その結果、メンテナンス面はかなり不評を買う
設計になってしまった。 こいつともう一人、設計主任の堀越…主に重量オーバーしがちな
機体重量軽減を主担当にしてる奴がいるが、この２人が共同設計した基本プロットを
見たときには、正直、頭を抱えたモノだった。
ほとんど、動く芸術品と呼べるほど精緻な設計で、３隻も同じモノを作ると思うと頭が痛かった。
…だが、要求性能を満たせるのはその案だけだったこともあって、トライデント級は
彼らの設計をベースに建造された…。
「まぁ、入れ…で、今日は何の用だ？」
いつも、大量の書類を入れている鞄だったが、なぜかそれを開けることなく、
室中に入れると、平賀はなぜか妙な小箱を取り出してスイッチを入れた。
「…これで、ここでの会話は記録されません。
まぁ、１０分程度しかもたないのが難点ですが、今は
これで十分でしょう」
普段、聞いたことがない落ち着いた口調。
いつもは、もっと口数も少なく、要点だけ言って、話についていけない相手を
「無能」と決め付けるような態度が見え隠れするのに、今はそんな雰囲気など
欠片もない。
「…お前、何を言ってるんだ？」
「このような姿で失礼しますよ、Ｍｒ．大西。
帰りもあるので、変装したままで用件を済ませて戴きます」
「変装だと！？」
外見はまったくいつもの平賀と変わらない。
だが、確かに言われてみれば、外見以外のあらゆる雰囲気、仕草、態度が
別人だ、であることを肯定していた。
「最近、泊り込みが多いようですが、進展がなく困っている。
違いますか？ ＮＥＲＶが偽情報ばかり流すことに
かなり苛立っていらっしゃるようですね」
「な！ それがどうした！ だいたいお前は誰なんだ！」
先ほども、霧島がＮＥＲＶから入手した制服の防弾・防火・防刃性能の余りの高さ、
自分達との技術力の違いに焦る部下達を叱咤してきたばかりである。
ＮＥＲＶ技術者達との交流の中で、エヴァの装備品について情報もいくらか、入手したが
どれも、到底、納得できない異常な数値で埋まったモノばかり。
例え、冶金技術が我々の１０倍、高かろうとまともに稼動するものなど作れない。
そんなデータばかり出すようなＮＥＲＶへの不平、不満は日頃から高まっていた。
こいつも…外見からすれば平賀だが、その口から他人事のような口調で
言われると無性に腹が立つ。
「私は…そう、貴方のような才能をこのまま埋もれさせるのは惜しい、と
考える者の一人、とだけ覚えて戴ければ結構です。
別に何を要求するわけでもありませんからご安心を」
「そんな世迷い言を…」
平賀の外見をした男が１枚の折りたたまれた紙と鍵を大西に渡す。
いぶかしんだが、紙を見るように促され開き、驚愕した。
「これは…ジオフロントの地図…か？」
「一目見てこれをわかるとはさすがですね。
そう。今から１０年ほど前のジオフロントの地図です。
今はかなり変わってしまってますが、ここ…そう、
基礎構造部分だけは変えようがない。
つまり、このルートを移動すれば、目的地にたどり着けます」
「なんだ、この場所は？」
一箇所、紅く塗られた部屋がある。
「貴方が知りたがっている情報が保管されている部屋ですよ。
あぁ、心配はいりません。そこにあるのは紙の書類だけですから。
その鍵を使って室内に入ることができれば、読むのは簡単です」
「紙！？ いまどき紙など…」
紙だけでなく、鍵も驚くべきことにただのシリンダー錠用のモノだった。
電子鍵と併用していないただの金属片。 加工技術が高まり、
汚れで誤動作しない程度の荒い精度しか施せない、という物理鍵の
特性があるために、今では日常、使用できるレベルの鍵を作ると
簡単に複製されてしまう。近年では使われるはずもないモノである。
「確かにそこにあるのは今から８年ほど前までのＮＥＲＶの研究資料です。
まだ電子ペーパーが普及する以前の過去の遺物、といったところですね。
ですが、それだけにＮＥＲＶのガードは甘い…というよりここにある情報を
重要だと認識してないようです。
そう…例えるなら、二次大戦当時のプルトニウム抽出方法を過去の
技術だと言って一般公開していたアメリカのように。
その情報がどれだけの価値をもっているか、わかってないのです」
ゴクッ
溜まった唾を飲み込む音と同時に、それが何を意味しているのか、
その言葉のもつ意味が心の中に染み込んでいく。
「あらゆる技術は所詮、切っ掛けさえあれば、理解するのは容易いことです。
知っているか、知らないか。 Ｍｒ．大西と彼らの差はそれだけに過ぎない。
そこには、ＬＣＬの精製、運用技術の基礎データ、エヴァの特殊装甲の
分子構造式といったデータが収められています」
「だ、だが、こんな地図があっても、ＮＥＲＶのガードシステムが
ある以上、無意味だ。 それが無効化されるとでも言うなら
話は別だが、な！」
「おっしゃる通りです。…では、それが現実となるとしたら？
…貴方はどうしますか。
いえ…聞くまでもないことでしたね。
今のままでは、偽情報を出し続けるＮＥＲＶにいいように使われるだけ。
上層部から命じられた期間が過ぎれば、貴方は無能の烙印を押され…」
淡々と明かされていく事実。
事あるごとに、厭味と言われ、俺がＮＥＲＶに出向したのは単に情報収集の
足がかりが欲しいだけだ、もうトライデント計画は終わりだ、と罵倒されてきた。
任期が終われば、どうなるかも火を見るより明らかだった。
理由を作って更迭するか、自主的に除隊をするように勧告されるか。
あれほど、計画立案時には持て囃した奴らが、掌を返したように、非難する
側に回りやがった。 記憶が甦るのと同時に怒りもまた戻ってくる。
「そうだ！ だが、それがどうした！
は、そうだとも。 俺にとって今必要なのは、突破口だ。
そんな都合のいいことが起きれば、言われなくとも
やってやるとも。
だが、俺は俺のためにそれをやるんだ！
貴様のためでも、無論、戦自のためなんかでもない！！！
俺を無能呼ばわりした上層部の馬鹿どもめ！
絶対、後悔させてやる、させてやるとも！」
「…では、その時は躊躇なさらないように。
事故は二度起きることはありません」
「事故！？」
「えぇ、”事故”です。ＮＥＲＶ本部の全機能が停止する飛び切りの奴が、ね。
…では、私はこれで失礼します。
成功をお祈りしてますよ」
平賀の外見をした男は去っていこうとしている。
「まて！ 一つ、教えてくれ」
「まだ何か？」
「その”事故”はいつ起きるんだ！？」
「…近日中、とだけ言っておきましょう。 では」
そして、男は去っていった。
きた時と同じように、どこから見ても、外見と違和感のない
いつもの雰囲気を纏ってから。
…手に残った地図と鍵以外に何も変わらない室内。
「…」
何もない室内、コンビニ弁当しかないテーブル。
時田の作ったジェット・アロンと戦う以前、佐官クラスとしての裕福な生活と、
それ以降、完敗したことの責任を取らされ、減俸その他、数多くの仕打ちによって、
徹底的に落とすしかなくなった生活レベル…。
…薄汚れた自分。なにもかも屈辱的だった。
「…」
ＮＥＲＶへの出向を決めた会議の席での出席者達の
蔑んだ顔、露骨な厭味、遠まわしな非難を思い出して、
煮え滾るような怒りが体の奥底から湧いてくる。
「…そうさ…そんなことが起きるなら…やってやるとも」
大西の呟きはＮＥＲＶ諜報部の監視要員が捉えた。
だが、彼らは、いつもの不平不満による逃避発言、と考えた。
先ほど入った彼の部下とも、技術供与を渋るＮＥＲＶへの不満を
言いあっていたから。
彼らのセンサーが、室内の会話とは別の音を報告していた、とは
神ならぬ人の身ではわかるわけもなかった。
ふぅ。やっとDパートをアップできました。
今回って特番ってこともあって内容量が増えてますね、どのパートも。
Eパート、冬月先生が上の議会に出席するためにリニアトレインに
乗って移動するところから始まります。
謎の男が告げた「事故」が起きますのでお楽しみに♪
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