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トライデント級陸上軽巡洋艦”雷電”の格納庫。
慌ただしく発進準備が行われているが、なぜか寒い気配が漂う。
息を切らして走りこんできたマナをみる整備員たちの目。
そこにあるのは諦めと不甲斐なさを噛み締める悔しさだけ。
…熱意がなかった。
「みんな…何…してるの…」
マナの小さな呟き。それは騒音にかき消され彼らには届いていない。
だが、整備員たちの表情が、彼らの心情を物語っていた。
「霧島、すぐに発進準備をしろ。
速やかに”雷電”を第３新東京市の絶対防衛ライン外に待避し、
そこで別命あるまで待機、ただし、使徒との交戦が避けられない場合に限り、
武器の使用を許可する」
整備員たちに指示をしていた明石班長が歩み寄り、
マナに対して命令を告げる。
「…撤退？ 防衛戦闘を行うのではないのですか？」
「撤退だ。使徒のジオフロント侵入が不可避と判断された時点で
Ｎ２弾による攻撃を、航空部隊が行う。
万一の誤射を避けるため、リニアＣＩＷＳは停止させておけ。
”雷電”では使徒には損傷を与えることすらできん。
それがわかっている以上、無駄な行為で被害を増やすことを
避けるのは当然だ」
使徒のジオフロント侵入が明確になる…その時点で投下するということは、
それはすなわち、Ｎ２弾が第３新東京市の市内で起爆することを意味する。
「承服できません！ 死を強制する命令は拒否する権利があります！」
「今回の命令は撤退だ！ 戦闘行為すら―」
「明石班長！ 今、使徒から逃げても何の解決にもなりません！
Ｎ２弾で使徒を第３新東京市の中で迎撃して、街を壊滅させたら、
”次”は耐えられません、その命令は”今日”は護れても、”明日”は
護れないじゃないですか！？」
「…」
目の前に迫る使徒という名の未曾有の恐怖。
それを見てもなお、「未来」を見据えたマナの言葉…。
明日を護るために力を惜しみ、今日を護れなくては本末転倒。
だが、それを言うなら、使徒上陸時点でＮ２弾を叩きこむべきだった。
「私ですら考えられるのに、みんなが気がつかないわけない！
どうしてこんな命令に従おうとするんですか！？
人を殺すことしかできない私達が、皆を守るために戦えるのに！？
たしかに、”雷電”じゃ使徒を止められないかもしれない。
でも、止められるかもしれない！ でも出撃しなければ絶対、使徒は
止まらないんです！！！
明石さん！ 旭さん！ みんなも！
どうして何も言わないの！？」
マナの一人一人に話しかける言葉が心に突き刺さる。
誰もが内心わかっていたことだった。
彼らとて、人々を護るために死力を尽くせ、と命じられれば
躊躇することなく誇りを持って戦えただろう。
だが、彼らに届いたのはその場限りの保身一辺倒の命令。
Ｎ２弾を市内で使ってもいいなら、なぜ世界中から膨大な資金を集め、
壊れるたびに、鉄とコンクリートと兵器で第３新東京市を装飾し直すというのか。
…誰もが今回の命令がおかしいとは感じてはいたのだ。
マナの言葉は自分自身の良心の、理性の責めとなって心を苛む。
涙を浮かべた少女の懸命の訴えに応えられない自分の無力さが
彼らから、反論の言葉を奪う。
「…どうして…」
悲しみに満ちた呟きが音を消し去る。
いつのまにか、発進準備の作業は止まっていた。
「…我々は簡単に人を殺める力を手にしている。だからこそ軍人は自分達の
勝手な判断で動いてはならんのだ。 制御できない独善は容易に暴走する。
セカンドインパクトの悲劇…我々は二度と起こしてはならん」
明石の重い言葉が作業が停止した格納庫内に染み渡る。
各自が勝手に判断し、自らの「正義」を行使する…。
それはもはや組織ではなく、それは欲望に身を任せる暴徒と大差がない。
セカンドインパクト直後の混乱期…世界各地で治安を維持する、という
名目で軍隊が動き、生命維持に必要な量さえ供給できない食料事情と、簡単に
自らの欲望をかなえる暴力機械を携えた状況が、軍人達を暴走させるまで
それほどの時間はかからなかった。
セカンドインパクトの悲劇…それは直接死んだ５億人のことだけではなく、
その後、５年間に渡り続いた食料生産量の激減と国際流通機構の喪失に伴う
人類同士の凄惨な争いが生んだ２０億人の犠牲者も指しているのである。
重い沈黙がその場を支配し、遥か高空から届く微かな音すら
格納庫内で聞き取れるほどの静けさが訪れる。
ゴォォォォォー
微かに、戦闘爆撃機Ｆ３の編隊が奏でる爆音が響く。
聞きなれたジェットエンジン特有の抜けるような飛行音が聞こえたことで、
マナは発進準備作業が停止してしまっていることに気づき…溜息をつくと
明石に背を向けて耐Ｇスーツのある更衣室へと歩き出す。
澄み切った瞳、固い決意を示す強く閉じられた口元。
それは現実を知ってなお諦めない強さを持っていた。
何も告げずに”雷電”を発進させようとする態度が
悲しみに後押しされたものであっても。
「…霧島三尉！！！」
体を震わせる怒声。それが非難するものでなく、呼び止めるものと気づき、
僅かに歩みを止めて、マナは振り向いた。
＊
「第一小隊、第二小隊、第三小隊が各発電施設に到着しました。
途中経路の変電施設が２箇所、回線制御用回路が１０箇所破壊されており
３系統の電力供給経路が全て寸断状態とのことです」
保安部のメンバーがガードしながら、技術者達を第一発令所と
地下にあるジオフロント全域、第三新東京市に電力を供給する
ヘリカル型核融合炉３基へと到着させた。
途中経路の安全を確認しながらの作業のため手間がかかったが、
彼らは光ファイバーケーブルを引きながら移動していたため、
情報は第一発令所と常に共有できていた。
また、ゲンドウもケイジへと向かう際に保安部員たちと共に
同様にケーブルを引きながら移動させたので、ケイジ−発令所−発電所の
情報ラインは仮設ながらも復旧させたのである。
各発電施設に到着した保安部員は、発電機から電力供給されることで
独立稼動している発電施設内の保安システムを活用しながら、それぞれの
施設が破壊活動に曝されないように行動を始める。
保安部を束ねる扶桑は、第一発令所に陣取り、点在している部下達へと
指示を飛ばしていた。
「第一発令所への電力供給路を確保するまでの時間は！？」
「寸断個所の配線を入れ替えることで１系統復旧させるまで３０分です」
「わかった。このラインは開けておけ。
何かあったらすぐに報告するんだ」
「了解」
電力網、通信網の寸断によってＭＡＧＩはジオフロントから孤立した。
それは人間で例えるなら、脳と身体を繋ぐ神経、活力を供給する
血管が切断されたようなもの。
保安部が障害個所まで技術部員達を誘導し、彼らが破損個所を応急修理する。
それによって、ＭＡＧＩの制御が復活し、電力が吹き込まれた地区、設備は
活動を再開する。
その時点で、ＭＡＧＩのチェックによって新たな障害個所が特定される。
地道だが、そうして対使徒戦用設備までの経路を優先的にＭＡＧＩの制御下に
戻すために彼らは奮闘していた。
障害発生時にどう人が動き、機能が復旧していくのかを知れば、
その施設の全体を把握することが可能であり、優先されるポイントの特定、
破壊されると影響の大きい設備の位置まで容易に推測できる。
緊急時の移動経路など、侵入路としても使えるところも明らかになるし、
隔壁を開けるための手段、迂回して進む最短ルートなどもわかる。
それらは、この破壊行為を行った者達が知りたい情報に違いなかった。
…壊すのは簡単でも直すのは容易ではない。
時間に余裕がないときは特に。
彼らは懸命に「誰か」が破壊した設備の惨状を前に、破壊行為をした
「誰か」に対して激しい怒りを覚えながらも、こんな事態だからこそ
心を律して、粛々と復旧工事を行っていた。
＊
加持は諜報部のメンバーに指示するために、ミサトは最悪の場合に
エヴァを発進させるためにエレベータ前で分かれて、目的地へ
向かい始めていた。
非常灯が照らすだけの薄暗い通路を記憶を頼りに歩く。
シンリがきた時はまだ不慣れだったせいで道に迷い、問題視された。
そこで、ＭＡＧＩの使い方を学ぶか、歩いて覚えるかと、選択を迫られ、
「とーぜん歩いて覚えるわ」と答えたミサトの態度に、リツコ達は
かなり呆れたものだった。
が、ＭＡＧＩが停止している現状ではミサトの選択は正しかったと言えよう。
施設内は自分自身の目で確認して位置関係等を確認する、という
軍人としての基本姿勢は、非常時にこそ役立つのである。
…もっとも、しばらくの間、あちこちを徘徊しては迷子の呼び出しを
受けるという寒い出来事を招くことにもなり、周囲の苦笑を含んだ視線が
痛かったのも事実だった。
「いつもは５分でつくのに……ん？」
何気なく歩いていたミサトだったが、僅かに笑うと突然、横に向かって倒れた。
いや、倒れたというのは正しくない。 倒れこむように重心の移動と体の
向きの変更を同時にこなし、事前の挙動なしに壁面との間合いを
詰めたのである。
そして、何もない虚空に向かって掌底打ちを放ち、いつのまにか抜いた
ナイフを一閃する。
プシュゥゥゥゥゥゥゥ
何もない空間に血飛沫が舞い、鮮やかな赤が虚空に付着して人型を
浮き彫りにする。
苦しそうに首元を抑えた細身の人間が一人、身体を自身の血で彩り、
投影した背景映像が首を切断されたことでデータ更新されなくなって
背後に溶け込めなくなり、ズレた風景がそこに人間がいることを
明らかにする。
どさっ…ぴくっ…ぴくっ…
変化しなくなった液晶迷彩を着た人間が一人、足元に倒れた。
「なかなか、いい装備、持ってるじゃない。
こんな中枢まで入り込んでるってことは、ビンゴかしら。
…人ん家で好き勝手やる以上、覚悟はできてるわね？」
右手で無造作にナイフを持ったまま、ミサトは虚空に向かって話し掛ける。
背景に溶け込み、そこにいると言われても視認することが困難な液晶迷彩服を着て
闇に溶け込むように息を潜めていたにも関わらず…。
カシャッ ヴゥゥゥゥゥン
返事の変わりに、虚空から３つの短い刃が現れ、高周波振動特有の
微かなハウリング音が響き始める。
互いの距離は僅かに数ｍ。
これほどの近距離になると、銃器よりも刀剣類のほうが強さを発揮する。
それは、銃が点で相手を捉えるのに対して、刀は線で相手を捉えることによる。
至近距離で戦う場合、相手の急所を点の攻撃で捉えるのは実は難しい。
しかも、射撃という動作は静的であり体裁きに連続性がない。
弾数の制限という問題、動きの不連続性、点で相手の急所を捉えなくては
ならないこと…それらが銃を使う側に全て圧倒的に不利に働くためだ。
隙だらけに見えるはずのミサトから受けるプレッシャーに、
彼らが迷うことなく高周波ナイフを構えたのは当然だった。
しかし、彼らは気づいたかどうか。
…構えたのではなく、構えさせられたことに。
「やる気十分…ね」
ミサトの語りかけに答える者はなく、音もなく、刃だけが３方から襲い掛かる。
タンッ
緩やかな動きで真中の一つに近づくと、迫る刃に自分から近づき、
滑るように避けながら３人の間を通り抜けて、振り向き様に掌底打ちを放ち、
真中に位置していた者を弾いて、彼らが予測していたミサトの位置に
代わりの犠牲者として押し出す。
ザグッ ザグッ
左右から襲い掛かってきた刃が二つ、先ほどまでミサトがいた虚空に潜り込み、
ミサトが放った掌底の先にあった空間がズレて、血を滴らせながら倒れこんだ。
「これで、あと２人」
淡々とした口調が、周囲の気温を下げ、冷たい空気が流れる。
ミサトの動きが視界に捉えられないほど速いわけではない。
むしろ、彼らはしっかりとミサトの動きを捉えられる、と感じていた。
だが、遅いはずのミサトの動きが、彼らの攻撃を紙一重で擦りぬけて
舞うように掌撃を放ち、仲間の体に刃が埋めさせられたのだ。
…ミサトを刺し殺そうと突き出した勢いを止めようとする間もなく。
僅かに二つの刃が揺れる。
「心に迷いがあるようでは生き残れないわよ」
ポツリ、と告げると一方に向かって、軽く殺気を放ちながら距離を詰める。
反射的に横薙ぎにされた刃を、緩やかに避けつつ、足元を右足で薙ぎ払い、
虚空で動きが乱れた刃の右下に向かってナイフを放った。
ドサッ
虚空に刺さった刃から血が滴り落ち、再び空間がズレて
人間が倒れこむ音が静かに響く。
「キサマ、人間カ！？」
虚空から機械変調された声が響く。震えた口調が動揺していることを
雄弁に語っている。
倒れこんだ液晶迷彩服を着た死体をまったく苦にせず逆に利用して
相手の動きの混乱を誘い、空気の流れを捉えるが如く、無駄なく
舞う姿は、魂が凍りつくほどに美しく…闇に溶け込む動きは
恐怖そのものだった。
「失礼ね、当たり前じゃない。 ただの人間よ。
ちょっとした特技があるだけの、ね。
…で、続き、やるの？」
暇潰しの雑談を続けるか、問いかけるような軽い口調。
しかし交わされるのは言葉でなく刃。潰すのは余暇ではなく己の余命。
「…イヤ、勝テナイ戦イハ、シナイ主義ダ」
声は幾分、冷静さを取り戻しているようだった。
それは自分の仕事が、目前に立つ『闇姫』の”死の舞踏”への誘いに
付き合う事ではないと思いだしたから、か。
「あっそ。なら、とっととこの場を去ることね。
別に侵入者を始末するのは私の仕事じゃない。
行きなさい…見逃してあげるから」
煩わしい新聞勧誘員を追い払うようなそっけない言葉。
「…」
刃が虚空に消え、気配が遠ざかり消えた。
銃を使う気配を見せれば撃ち込むつもりで握っていた愛銃のグリップから手を離す。
「加持の奴、いい加減な仕事して…。
危険手当くらい貰わなくちゃ割に合わないわね」
彼らは自らの数の優位性、高周波ナイフ、液晶迷彩服という装備の優位性、
そして、自分の近接戦闘技術に対して自分の命を賭けた。
それに応え、自分も持てる技量に対して命を賭け、互いに勝負にでた。
だから、人を殺めたといっても軍人としてのミサトに後悔の念は湧かない。
それに自分を殺そうとする相手に手加減できるほど、自惚れてもいない。
家族がいるのに、自分の命を無意味に差し出す無抵抗主義に流れるはずもなかった。
突き刺さっていたナイフを抜き取って、丁寧に血塗りを拭いてしまいこむと
転がっている侵入者達の遺体など気にもせずに、第一発令所へと道を急ぐ。
一見、無造作に歩く姿だが、音を立てず、空気を乱さない動きは
無駄な力が抜けた自然体だった。
＊
「”雷電”発進準備が整い次第、接近中の使徒からの退避を命じる。
ただし、使徒との交戦が止むを得ない場合は、自衛戦闘を許可する。
旭、”雷電”の兵装変更を指揮しろ」
吼えるように、明石はそれぞれに指示を飛ばす。
それは先ほどの命令と代わらないように聞こえるかもしれない。
マナは、「なぜこの人はまた同じ命令を言うのだろう？」という
不審を含んだ表情のまま、明石の姿を見た。
だが、その言葉を聞いた副班長の任を務める男、旭はその命令の意図するところを
理解して表情を崩した。今、装備変更する理由など、そう多くはない。
「しかし、班長。今から殲滅戦用フル装備に変更すると、撤退の判断が
微妙になりますが」
だから、わざわざ一番手間がかかり、普通なら行わないであろう超重装備を
行う場合についてしか、言及しない。
「そうだな。そのときどうするかは、霧島が判断することだ。
…霧島三尉、命令の復唱はどうした」
言外に行われた意志疎通に２人は目だけで会話を終えると、
わざわざわかりやすく、マナにも理解できるように、一歩、
踏み込んだ言い回しを選び、その言葉を理解したのを
認識してから、”復唱”を促した。
「…班長、それ…は…」
ポツリ、ポツリとマナは確証が欲しくて、そうあって欲しい、と思って言葉を求めた。
明石にも、その瞳が困惑と期待に揺れているのがはっきりとわかる。
「初号機との戦いは覚えているか。
万一、使徒と戦闘になったとしても、生き残れば我々の勝ちだ。
いいか？ 勝つための戦いと、負けないための戦いの違いを
決して忘れるな」
明石は立場上、はっきりとは言えない。
だから、慎重に言葉を選んで、言い聞かせる。
「は、はい！！！
霧島特務三尉、撤退行動の任務につきます！」
命令ギリギリの最大限の譲歩。
その心遣いを感じて、マナは身も心も正して敬礼で応えた。
涙が零れるが、そこに悲しみの色はもはやない。
「よし！…おら、貴様ら！ とっとと作業に取り掛かれ！
訓練の時より遅かったら、ただじゃおかねぇからな！！！」
「「「了解！」」」
言葉を叩きつけるように明石の怒鳴り声が格納庫内に響き渡り、
トライデントチームの男達は、その意気に大声で応える。
自らが動くに足る納得できる理由を与えられた者達。
彼らが発する熱意は、格納庫内の空気を一変させた。
「みんな、ありがとう…本当に、本当に、ありがとう…」
皆、軽く手を振って応え、巨大なミサイルポッド…対艦、対基地殲滅用大型ミサイル等、
設計上は行う場合もある、としながらも、メインエンジンのリミッターを解除した上でも
フル装備で３０分しか稼動できない、という制約から行われることのなかった超重装備を
取り付けるために、作業機械を熟達した手付きで操り始める。
自分も急いで耐Ｇスーツに着替えようと走り掛けたマナだったが
明石班長に呼び止められ、その前で立ち止まった。
「なんですか？」
「なぜ、そこまで必死にＮＥＲＶを護ろうと思ったのか…。
よかったら聞かせてくれねぇか？」
特に他意はないのだろう。明石の穏やかな口調に、マナも
自分の心を見詰め直して、静かにそれを伝えようと決める。
「私が…この街を護ろうと、護りたい、と思ったのは、
多分、シンリくん達に会ったからだと思います。
みんな、普通の、ごく普通の生活を護るために、それだけのために
一生懸命戦っているってこと、私にもわかりました。
私も、同じ戦いなら、そんな、身近なモノを護るために戦いたいです。
…変ですか？」
「ＮＥＲＶを」と聞かれたが、「街を」と言い換えて紡ぐ想い。
日本のために、国民のために、と言い聞かされてきただけに、
小さな、小さなスケールの話をしているように思えて、マナは
その疑問を聞いてみる。
「…いや。人が戦うための理由なんて、所詮、そんなもんだ。
手の届く範囲を護りたいから戦う、それも立派な理由だ。
呼び止めて悪かった。行っていいぞ」
明石が話が終わったことを態度で示し、マナも急いで更衣室へと向かっていった。
その姿を眺めながら、明石は一人、ここにいない２人の少年を思い出した。
「…いい顔してたな。
碇シンリ、か。 たった１０日程度でマナがこれほど変わるとは…」
明石が知っているマナは、自分達の境遇に疑問を抱え、命令があれば
仕事だから、自分の任務だから、と自分に言い聞かせることで、やっと
行動する…そんな少女だった。
だが、今のマナからは、そんな雰囲気など欠片も感じられない。
内から溢れる自分の意志で、やるべきことを考えて、命令をもぎ取ろうと
する勢いに満ちている。
若さゆえの純粋な輝きに、眩しささえ覚えるほどに。
「ケイタ…ムサシ、…いつまでも寝てる場合じゃねーぞ？
お前達のお姫様は自分で歩き出しちまった。
出遅れた分を取り返すのは、さぞかし大変だろうよ」
”シンリくん達”とマナが言ったのは無意識のうちだっただろう。
彼女自身、ＮＥＲＶの子供達と交流を深めることで様々な影響を受けた、
そのことを指して言った言葉だ。
だが、それは言外に「シンリ」と「その他の人達」と告げている。
その意味するところは恐らくは思いのほか深いに違いない。
マナと同じ、トライデント級軽巡のパイロットである２人の少年…ケイタとムサシ。
今は、ジェット・アロンとの戦いで負った怪我を治療するため、この場にはいない。
その２人が退院してきた後に起きるであろう騒動を想像し、仕事抜きで
楽しめそうな予感に、明石は久しぶりに腹の底から笑っていた。
使徒相手の、勝てないとわかっている戦いに、今からマナが身を投じるであろうことも
理解しているのに、マナは帰還する、という根拠のない確信を持つ自分に
違和感を覚えながら…。
ふぅ。マナちゃんｖｓマトリエルの準備完了です。（＾＾）
「グラシャラボラス」の活躍シーン、入れようと思ったんですが、
ミサトの戦闘シーンと印象が重なるような気がしたのでカットしました。
次回は、ちゃんと阿鼻叫喚の大活躍をしますので…。
レイ「…YOKO、これはどういうこと？」
だが、それは言外に「シンリ」と「その他の人達」と告げている。
その意味するところは恐らくは思いのほか深いに違いない。
YOKO「（ぎくぎくぎく）。いやぁ、なんだろーね、コレ、あはははははは…」
前回、A.T.フィールドでぺちゃんこにされた記憶が鮮明に残っているのか
哀れなほど、腰が引けてる。
レイ「ＳＡＬだけでも大変なのに、鋼鉄娘まで…」
そのまま近づいて、レイがＹＯＫＯの付けていた３つのセンサーを
奪うと、ぽん、と廊下に放り出した。
ＹＯＫＯ「おーいレイちゃん、なんのつもりなんだい！？」
レイ「今日は停電の日。だから、グラシャラボラスの活躍シーンは
これで問題なしなの。（クスクス）」
懐から取り出した赤いスイッチをぽちっ、と押すと
呆気なく廊下の電気が全て遮断されてしまった。
ＹＯＫＯ「ま、まさか…」
ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン
「この地区はぁ、ＭＡＧＩの管理下を離れましたんでぇ、以下省略♪」
毎度のことながら、開いた扉からわらわらとグラシャラボラスの
機動ユニット達が這い出てくる。
しかし、いつもと違うのは、廊下にいる唯一の人間であるＹＯＫＯから
５ｍほど離れたところで取り囲むように距離を置いている。
しかも、中央に位置する４．７２ｍｍミニガンの発射口は正確に
ＹＯＫＯを捉えている。
カチャカチャ
レイ「停電でもノートパソコンを使うのは問題ないの」
誰も聞いてないだろうに、書きかけのＨパートに対して
都合のいい話を書き加え始める。
ＹＯＫＯ「は、はぁぁぁぁぁｌ、時田の馬鹿ぁぁぁぁ、こんなもん創るなぁぁぁぁ！！！」
ズガガガガガガガガガガン
廊下に精肉作業の音が響き渡った。
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