☆スポンサーにも訪れてくださいね☆
”ソレ”は突然、第三新東京市上空に出現した。
なんの前触れもなく、大きな音を立てるでもなく。
直径１００ｍ近くにも達する巨大なゼブラ模様の球体。
表面の模様は緩やかに変化しており、液体の如き雰囲気すら
感じさせている。
…しかし、”ソレ”が出現してもなお、人類が構築した
対使徒用広域監視システムは、まったく反応を示さなかった。
＊
第一発令所は、突然、出現した謎の物体を前に軽度の
パニックに陥りかけていた。
『西区の住民移動は、あと１０分必要です』
『全システムを非常体制に移行しろ！
通信システムを…』
『全無線システム、現在、正常動作中です。
交通システム、移動中の車両は全て停車させました』
『現在、パイロットは直通エレベーターで移動中。
あと５分で、ケージに到着します』
青葉はもちろん、ジオフロント内の技術部員への指示にはマヤが、
作戦部への指示は日向が行なっているが、なまじ連絡網が
完全稼動しているせいで、無駄に通信量が増大している。
そんな中、ミサトは悠然と入ってくると、
懐から取り出した愛銃の弾倉を交換し、サイレンサーを外すと、
天井に向けて、引き金を引いた。
ダーン、ダーン、ダーン、ダーン！！！
予期しない銃撃音に発令所内が一瞬、静寂に包まれた。
やはり、元軍人達の悲しい性か、銃声を聞くと身体が反応してしまう。
「…これだから軍人は…」
リツコが呆れ顔のまま、小声で文句を言うが、ミサトは一瞥をくれただけで、
階下の部下達にも聞こえるように指示を告げた。
「第一種電子戦防御に移行しなさい」
「了解」
青葉がすぐに意図を察して、全通信システムに対して、ＭＡＧＩによる
フィルタリング処理を追加した。
これによって、あらゆる情報が一度、ＭＡＧＩによって整理され、
簡潔な形式に加工されてから入るようになった。
大型ディスプレイに表示される多くの情報を眺めると、
その内容の異常さに顔を顰めた。
「出現までに要した時間はたった２秒、滲み出すように
空間から出現した割には、使徒特有の反応は一切なし、か」
Ｓ２機関の動作反応もない、重力震もない、温度変化もない、音すら発してない。
広域ジャミングも起きてない、出現しただけで動く素振もない。
…異例尽くしの状態だった。
自分の総括に、誰も反論ないことを確認すると、
ミサトは、親友に対して意見を求める。
「それで、赤木リツコ博士はコレはなんだと思う？」
「…使徒が関与しているのは間違いないわ。
自然現象ではないのは確か。
でも、アレが使徒そのものかどうかは不明よ」
リツコは慎重に言葉を選んで応えた。
これ以上の調査には、現在の最高責任者――ゲンドウと冬月は、
あいにく、出張中のためミサトがそれにあたる――の許可を
得てからでないとできない、と暗に告げている。
「総員、第一種戦闘準備に入って。
ただし、エヴァ３機は逃走ルートの確保を最優先で。
技術部は…謎解きのプランを出してちょうだい」
「…逃走…ですか？」
日向は、ちょっとだけ呆れ気味な雰囲気を装って問い掛けた。
ミサトが返事を返しやすいように。
「最悪の事態に備えて、よ。
無駄に、戦力を失う訳にはいかないわ」
明確な方針を打ち立てて、部下に目標を与える。
それは、組織を束ねる者が行なわなくてはならない義務。
だが、危機的状況下にあってそれができる者は少ない。
特に今回のように判断すべき情報すらない時には。
…だが、ミサトは凛とした態度を崩さずに、
じっとメインモニターに映る謎の物体を見据えて、
確固たる意志を示した。
その落ち着いた姿は、発令所のメンバーに冷静さを取り戻させた。
＊
謎の球体出現から、１時間後。
その間に、技術部主導の元で行なわれた調査活動結果を
説明するために、会議室に子供達は集められた。
「直径８０ｍ、位置の移動はなし。
影響といえば、下の都市部が日陰になる程度。
簡単に言って訳判んない奴ってところね」
「はぁ？ あんなの使徒に決まってんじゃん」
「それがそうとも言い切れないのよ。
使徒特有のジャミングも起きてないし、Ｓ２機関の反応もない。
重力震も起きてない。で、レーダー波を飛ばしてみた結果がこれ」
画面には、放たれたレーダー波が球体に当ると、一端、飲み込まれて、
まったく別の部分から、放射された、という模式図が表示された。
「ステルス機に似てますね」
マナの発言に、リツコは満足そうに頷いた。
でも、シンリ、レイ、トウジは話の展開についていけてない。
リツコは噛み砕いて簡単に説明をすることにした。
「シンリくん、レーダーで相手の位置を知る原理は知ってる？」
「えっと………蝙蝠が音波を飛ばして跳ね返ってきた音を聴いて、
位置関係を知る…ようなものだったと思います」
「そうね。飛ばすものがレーダー波か、音波か、という違いがあるだけで
基本的には同じ。 ステルス機は、自分に照射されたレーダー波を
反射しないように…実際には別方向に偏向させることで、探知
されにくくする、というものなの」
「じゃ、人工物なんですか？」
ボクの問いに、リツコさんの目がキラリーンと輝いた。
「性質は似ているけれど、それはないわね。
偏向されたレーダー波の角度、強度から、球体表面にステルス特性が
あるわけではないことは間違いない。
でも、内部に、偏向させる形状のものが隠れている…として、
ＭＡＧＩに推測させても、答えがでないのよ。
データを矛盾なく説明する形状の物体はない、と言い直してもいいわ」
メインディスプレイに、表面で偏向された場合のレーダー波の到達可能エリアと、
実際の測定結果があわせて表示され、実測値から推測すると、内部で、レーダー波の
方向が変えられたのだろう、という結論に到達することがわかる。
「表面の模様が変わっているように、内部にある形状も
変化しているだけじゃないの？」
「―その疑問を解消するために、球体上空でチャフを炸裂させて、
アルミ箔片の落下状態を観測してみたけれど、方向のズレは
あるものの、地面に落ちた総量と、ばら撒いたアルミ箔片の
量には、測定誤差以上のズレは見られなかった」
「…中は空…？」
綾波さんの言葉に、ミサトさんはニマッと笑った。
「そ。中になにかあるなら、降り積もる分だけ、地面に届く
チャフの量は減るはずだけど、そうはならない。
降り積もり方も、空中散布した場合と変わらないから、
内部では、位置のズレは起きても、加減速は起きないようね。
だから、恒常展開型Ａ．Ｔ．フィールドの線も消えるの」
ケーキの上から粉砂糖を振り掛けたかのように、謎の球体の上から
ばら撒かれたアルミ箔片は、５分ほどかけて地面に降り注いだ。
その分布は、風の流れなどを計算した結果、特に異常はない。
球体があっても、なくても、結果に変化なし…というのだ。
…もっとも、次にミサトが見せた映像には子供達は驚いた。
最初のものは、降り積もったアルミ箔片が、捻れていたり、
切れていたりしていた、というもの。
次の映像は、ラジコンヘリが球体内に侵入を試みたところ、
突入の瞬間に捻じ切られて爆散したものだった。
「…表面が固かった…んじゃなさそうですね」
ボクの問いに、リツコさんが嬉しそうな表情をした。
「これが、スロー再生した映像――」
リツコさんが再表示した映像はラジコンヘリが接触する瞬間を
１／１００秒レベルでゆっくりと写したもの。
球体内に入った部分と、残った部分が別方向にズレたように
見えた後、爆発してしまっていた。
「――恐らく、先に入った部分の位置が変わることで、瞬間的に
切断されてしまい、破壊されたものと予想されるわ。
ただ、先ほどのアルミ箔片の切断状況と考えると、それほど
位置変更は急激に起きるものではないようね。
それに一様に起きるのでもない。
瞬時に両断されたものもあれば、伸びてるだけのものもある。
細切れのものもあれば、原型のままのものもある。
つまり、あの球体内は空間が歪んでいる、或いは捻れていると考えられるの」
なんとなく判るけど、いまいち判らない…そんな感じ。
みんな、そんな表情をしてる。
「空間を曲げるなら、重力…って答えになるんだけど、
特に異常な値を示しているわけでもないし、球体周囲で、
重力レンズ効果が発生しているわけでもない、と」
ミサトさんが、調査結果の最後を締め括った。
その様子を見て、アスカが怪訝そうな顔をする。
「で、結局、あそこに使徒はいるの？ いないの！？」
アスカがちょっとイラついた声をあげた。
確かに、ボク達にとって、それが一番、重要な問題。
「それが判れば苦労しないわ。
結局、ずっと説明した通り、これが今、判っている全て。
使徒がいる、という明白な証拠は何もないのよ。
でも、自然現象でないのは確実。
ここから導き出せる推論は全部で３つ。
１．検出できないほど微弱な力を持つ使徒
２．使徒は別の場所にいる（この世界）
３．使徒は別の場所にいる（向こう側の世界）
だから、どれが正解かは、調べなくちゃいけないわ」
それって…
ボクを見て、ミサトさんが表情を引き締めた。
「そ。シンちゃんに使徒の心を捜索してもらうしかないの」
「使徒を相手に、試しに攻撃してみる、というのは論外。
そもそも、どこにいるのか、絞り込めてないのに、
”攻撃”が可能かどうか、という根本的な問題があるわ。
非破壊スキャンでは、これ以上わからない。
それに、使徒だったら放置しておくわけにはいかない。
二正面作戦をするだけの余裕は人類にはないの。
…その上での結論。なにか、意見がある？」
「う………わ、わかったわよ」
アスカも、反論は思いつかなかったようで、
不満っぽい表情だけど同意した。
ボクも、それしかないかな、と思う。
いきなりＮ２爆弾で燃やして怒らせちゃったサキエルみたいな
ことになっても、困るから…。
誰も反対意見を言わなかったので、ミィーティングは終わり、
ケイジから使徒を探すことになった。
＊
子供達がいなくなった会議室。
ミサトは、先ほどとはうって変わった険しい表情を見せた。
「実はどれでも大変なのよねぇ…困ったことに」
「あら、検出できないほど弱い使徒なら殲滅は簡単じゃなくて？」
「あの球体が使徒本体であって、Ｎ２弾で焼却処理して死んでくれるなら、でしょ？
だいたい、”使徒はこの世界の別の場所にいる”だったら大変よ。
中にいるにしても、外にいるにしても、発見できてない、って事実は変わらないんだから。
それに、あの球体…空間歪曲を好き勝手に操れるなら、
消しゴムで消すみたいに、この第三新東京市だって、チャラ、よ？」
「そして、使徒がもし”向こう側”にいるなら、お手上げね」
リツコが学者らしいサッパリした口調で断言した。
「そういうこと。こっちの手足が届くなら作戦の立てようはある。
どれだけ困難だろうと。でも、届かなくちゃ、話になんないわ。
…今までの使徒みたいに空間破壊…エヴァでもできる？
Ａ．Ｔ．フィールドの応用で…」
ミサトは答えは予想がつくものの、一応、親友の意見を伺うことにした。
「そうね…世界自体を拒絶する心を持つなら…それも可能かもしれない。
でも、それは良い結果は生まないでしょうね」
リツコの答えは簡潔で…そして救いのないものだった。
それは破滅しか生まない。人類が世界の一部である限りは…。
「言えてる。今回はよくても、後は駄目だわ。
ま、悩んでいても答えはでない。
私達は、できるだけの事をするだけよ」
ミサトが話はここで終わり、と締め括った。
結局、何も判らないから情報を集めよう、という結論に違いはない。
…これまでの使徒はなんとか撃退できた。その自負はある。
だが、今回は？
心に浮かぶ自問自答の言葉。
…その言葉の持つ意味はとても重い。
それだけに、２人の表情は冴えなかった。
＊
それから３０分後。
ケイジから、シンリと初号機による使徒の捜索が行なわれたが、
発見することはできなかった。
「ミサトさん、外から探してみてもいいですか…？
ジオフロントの中からだと、少しボヤけちゃうから」
シンリの発言を受けて、作戦部…そしてミサトは、事態が望まない方向へと、
ズレ始めていることを感じていた。
微弱な意志は探しにくい…最初からわかっていたことだ。
ジオフロントは、第一使徒アダムの意志を隠蔽する特性を持っている。
その中から外を見る、というのは大都市で夜空の星を探すようなもの。
対象が強い輝きを持たなくては見ることはできない。
例えば、これまでの使徒やエヴァのように。
そして、シンリがこう提案することも予想の範疇に入っていた。
状況がわからないときに、進むか、退くか、と判断を求められたら、
シンリは間違いなく、進むほうを選ぶ。
わかっていたことだ。
そして、人類…作戦部の答えも決まっている。
進むしかない。選択の余地なく。
新たに現れる使徒は戦闘能力の上昇が著しい。
既に人類は、使徒１体相手に総力戦を挑む状況に陥っている。
…絶対に、複数の使徒との同時戦闘は避けなくてはならない。
１体ですら、手に負えなくなろうとしているのだから。
…放置することが事態の好転を意味する可能性は低い。
なにより、判断材料が乏し過ぎる。
だから、ミサトは予定通りの指示を出すしかなかった。
「エヴァ全機、地上に配置。
残存している２本のアンビリカルケーブルは零号機、弐号機が使用。
トライデント級陸上軽巡３隻は兵装ビル死角エリアのカバーにまわして。
…１５分後に、第二次捜索を始めます」
「「「了解」」」『『『『了解』』』』
ギリ…
歯を食い縛る音が鈍く響く。
その音は、隣に立つリツコにしか聞こえない。
使徒はいる
それは推測というよりは、確信に近い。
しかし、その形状、強さはおろか、位置すらわからないのに、
切り札たるエヴァを出さざるを得ない状況。
第一発令所にいる誰もが、漠然とした強い不安に
胸を潰されるような気分に陥っていた。
…嫌な勘というのは…よく当る。
誰もが、第二次捜索の開始を固唾を飲んで見守るしかなかった。
通信システムが生きているため、ゼーレの老人達も、他支部の
者達も、出張先のゲンドウ、冬月も。
ＮＥＲＶ本部以上の妙案など…あるわけもなかった。
＊
急造シールドに増設バッテリーを装備した初号機を中心に、
サハクィエル戦の後遺症で運動能力に制限のついている弐号機と、
零号機は、稼働時間を伸ばすため、アンビリカルケーブルを
接続した状態で、２００ｍほど離れた位置についた。
いつものように初号機は武器は持たず、弐号機はアクティブソードと、
予備にスマッシュホークを、 零号機は、スナイパーライフルを装備していた。
弐号機の近接攻撃と、零号機の遠距離攻撃ならば、あの程度の空間の歪みなど、
影響を無視して攻撃を内部に行える、ということから選択されたものである。
もっとも、使徒が中にいなければ意味がないし、あの球体内にいたとしても、
どの程度のサイズなのか、位置も不明では、意味は薄い。
ミサトからも、攻撃は最後の手段として言い聞かされていた。
また、残存する兵装ビルの死角をカバーするために、移動武器庫として
改造、修理された３隻のトライデント級陸上軽巡が郊外に配備されている。
移動は巡航速度以上では行えず、積載量も５０％といったところ。
それでも、好きな位置に予備武装が配備できる点を買われてのことだった。
トライデント級独特のガスタービンエンジン音が響く中で、
シンリと初号機による第二次使徒捜索が始まった。
『…その球体からは何も感じません』
５分ほど経過して、シンリが報告をしてきた。
『了解。次は”こちら側”を捜して』
『はい』
作戦部から指示が飛び、広域監視システムの感度が、
限界ギリギリまであげられる。
あらゆる監視網が、この世界…地球上か、或いは軌道上にいるかもしれない、
姿の見えない使徒を捉えようと、耳を澄ませた。
そして、１０分ほど経過し、再び、通信が入った。
『…気配が見つからないです』
『了解。…”向こう側”の捜索をしてみて。
でも…注意を怠らないで』
『はい』
最悪の事態…。
シンリと初号機にすら見つけられないほどのステルス特性を持つ使徒か…。
或いは、虚数空間…”向こう側”から”こちら側”に力を行使できるのか。
この状況を見ている全ての者が…
先細る人類の命運を見た気がした。
それから８分後――
『そんな……まさか…これが全部…使徒！？』
――シンリの驚愕に満ちた呟きが零れた。
同時に世界中に響く微かではあるが明確な心。
招
シンリの声に呼応したかのように、謎の球体の姿が掻き消え、
初号機の直上へと、瞬間的に位置を変える。
その場の空気を乱すことなく。
まるで、最初からそこにいたかのように…。
光源たる太陽の位置に関係なく生じた謎の球体の影。
それが、初号機の足元から爆発的なスピードで面積を広げ始めた。
『Ｓ２機関の活動を確認！！！
し、下の影からです！』
上空の謎の球体ではなく、地面に映る影こそが使徒！？
『逃げて！！！』
ミサトの悲鳴のような声が第一発令所に響いた。
…遂にレリエルがその姿を現しました。
エヴァＩＳ風に描写していくと…なんか、ほんと、手に負えない
相手って気がしてくるんですけど。（＾＾；）
次パートも、お楽しみに（＾＾）
☆スポンサーにも訪れてくださいね☆