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『エヴァンゲリオン零号機、弐号機起動！』
『二人とも掴まって！』
ミサトの言葉に、２機のエヴァがリニアカタパルトに掴まった。
ヒュン
２機のエヴァが放つ気配に呼応して、虚空からゼルエルの巨体が出現する。
同時に跳ね上がるＳ２機関の出力！
『Ａｕｔｏモード作動、リニアカタパルトをＢ２経路で射出』
ＭＡＧＩの音声が響き、リニアカパタルトが勢いよく打ち出されるのと、
ゼルエルの仮面に穿たれた目から加粒子砲が放たれるのは同時だった。
ドゴォォォォン、ドゴォォォォン、ドゴォォォォン
それはミサトの告げた予測通り、２２層の装甲をいともたやすく貫通し、
先ほどまで、２機のエヴァがいたケイジを貫いた。
「きゃぁぁぁぁ！！！」
「っ、使徒は！！！」
激しい揺れが第一発令所を襲い、椅子から投げ出されるものが続出した。
いくつかのディスプレイにも亀裂が走り、表示されていた画面が消える。
Ｓ２Ｄｒｉｖｅ ＰｏｗｅｒＤｏｗｎ
潜伏状態からＳ２機関の出力を高めたものの、加粒子砲の３連射と共に
再び、虚空へと溶け込むように消える。
狙撃に失敗し、相手が急速接近してくるにも関わらず、また潜伏…？
自分の隠蔽能力に圧倒的な自負があり姿を現した相手（エヴァ）を
今度こそ必中のタイミング、距離で狙撃…？？
そこでミサトの直感がＮｏ！と告げた。
エヴァは２機いる。しかし、あの３連射は１点への貫通集中攻撃であって
２体同時には倒せないと、ゼルエルとて判断するはず。
閃いた一つの可能性。
潜伏からの狙撃後は、望まずともＳ２機関の出力が低下する…？
『レイ！ 意識を広げて同一化を拒むところに攻撃して！』
『了解！』
新たな追撃もなく地上へとたどり着いた零号機と弐号機。
レイが意識を切り替え、心を全方位へと解き放つ。
サハクィエル迎撃時には半径３００ｋｍにまで広げたのである。
そして、今回は２度目。
せいぜい１０ｋｍと離れていない地点から潜伏を開始した相手を
零号機の広域化した意識が飲みこむまで５秒とかからなかった。
『！』
ズババババババババババババン
意識で捉えた相手に心を集中してパレットガンを全力射撃！
無数の弾丸が姿を消したまま緩やかに移動しているゼルエルへと殺到し、
干渉され、歪んだ空間を撃ち破って、体表へと身をめり込ませた。
驚
ヴォン
周辺空間への干渉が突然止まり、ゼルエルがその姿を現した。
そして、爆発的に高まるＳ２機関の出力に呼応するように、
大気が揺れ、地鳴りが響き渡る。
キン、キン、キン、キン、キン、キン
同時に、それまで体表を撃ち抜いていたパレットガンの砲弾が
傷すらつけずに表面に弾かれて落ちた。
ザザザザザ…ザ…ザザ…
『地球全域への電波妨害を確認、隠れんぼは止めのようね』
周囲を飛行する無人観測機が、外輪山防衛群跡地の外、
第三新東京市からは死角になる低地にいるゼルエルを捉え、
その硬質な身体の作りと、パレットガンがつけた傷が急速に
修復されていく様子を伝えた。
＊
『あの腕っぽいペラペラな部分、なんか怪しいわ』
アスカは、尾根を超えるように発砲されたパレットガンの弾丸が
消えていった方向を見て、そう呟く。
直接、視認はできなくとも、ＭＡＧＩが透過表示するため、
死角にいるゼルエルの形状、位置はよくわかる。
シャムシェルは一瞬で、体長の数倍に及ぶ鞭を体側から展開し、
その表面にＡ．Ｔ．フィールドをコーティングし、切断、捕捉、投げと
多彩な技を駆使した。
そのため、日常訓練でも、それに類する行動を仮想使徒は行っている。
…外見形状から怪しい部分を見抜く…日常訓練の成果だった。
『修復速度はマトリエル並、浮遊形態のこれまでの使徒と同様、
身体に柔軟性はないようね。ラミエルのような射撃戦特化とは思えない。
近接武器として、シャムシェルのようにＡ．Ｔ．フィールドを
利用した切断武器を想定しなさい』
リツコが手早く、その外見的特長から能力を推測する。
浮遊形態を取った使徒は、シャムシェル、ラミエル。
運動による移動を選択した使徒は、サキエル、ガギエル、イスラフェル、マトリエル。
例外は、サンダルフォン、イロウル、サハクィエル、レリエル。
このうち、運動能力を行使したタイプは、柔軟な身体か、関節を保有していた。
使徒の形状は意味無く決まっているのではない。
その形状には必ずなんらかの意味がある…それがＮＥＲＶの結論だった。
ＭＡＧＩが補足として、ゼルエルの恒常展開フィールドは、
マトリエルのように広域化している特殊なものではなく、体表を覆う
通常タイプだが、ボディは堅牢であり強度はシャムシェルを
上回るものであることが表示した。
ハンドガンなど、威力の弱い兵装は無効とされて選択肢から消える。
Ｓ２機関の出力からすると、浮遊、加粒子砲、防御に割り振っているとした場合、
まだ、＋αが存在すると予想されるとも。
零号機が、遠い位置に残存するリニアカタパルトのルートに運ばれたＮ２バズーカを
器用に補助アームでしょい上げて持ってきた陸上軽巡から受け取った。
２隻の陸上軽巡は、予想射撃範囲から逃れつつ、予備武装の運搬に戻る。
『Ｎ２弾は合計３発…使徒の加粒子砲は３連射。
ちょうどいい…私は移動しながら攻撃するわ』
両手でバズーカを構えて零号機が前に出るように促す。
『こっちは射界範囲外に回り込むように近接攻撃、ね。
やだな、シンリみたいに串刺しにされるのは』
アスカもそれに軽口で応え、ゼルエルの側面側へと慎重に歩き始めた。
しかし口調とは裏腹にその表情に余裕はない。
イスラフェルの鞭は、鞭の形状ではあったが腕の延長…のようなものだった。
つまり…鞭と違って任意の位置から望みの方向へと曲がり、
変幻自在に襲い掛かったのである。
それに類似する近接兵装があるとなれば、極限まで集中せねばならない。
弐号機は、できたばかりのシールドを左手に構えて、裏に取り付けてあった
２つの武器のうち、スマッシュホークを取り出す。
仮面の目から放たれる加粒子砲の射撃可能範囲は胴体の
向いている方向から、上下左右に１５°程度。
※サキエル、イスラフェルとゼルエルの先ほどの砲撃から予想。
２機のエヴァは１方を狙うと一方が撃てないように
左右へと動きつつ、突撃のタイミングを計り始めた。
＊
ゼルエルの防御能力が明らかになったため、用意中だった弾道弾、
打撃艦隊、攻撃衛星ＳＯＬが効果なし、としてグレー表示された。
ただし、何かあるかわからないため、念のため攻撃準備については
継続させる。
近隣の航空基地から航空用Ｎ２弾を装備した爆撃機が次々と
飛び立ち始めるが、まだ戦闘空域侵入までには時間がかかる。
ケイジまで貫く砲撃で、また更に損害箇所が増えた。
辛うじて、ポジトロンスナイパーライフルへの電力供給網は生きているが
それとていつまで持つかわからない。
『葛城三佐、初号機はダミープラグで起動の準備を進めたまえ』
サブモニター越しにミサトとリツコだけに見えるように
ゲンドウの姿が表示された。
ミサトは一瞬だけ視線を移し、リツコに判断の基準となる
情報を簡潔に言うよう促す。
「前のミーティングの時以降、進展はないわ。
…制御は不完全、起動できたとしても高度な戦闘は不可能。
本能に任せて敵に襲い掛かる…獣のような動きが精一杯。
その代わり、理性のリミッターがない分、運動能力は
通常時の１５０％相当にはなるでしょうね」
メインモニターでは、零号機と弐号機が左右に回り込もうと
移動するのに合わせて、ゼルエルがゆっくり後退することで
常に２機のエヴァを加粒子砲射界内に捉えられている状況が
表示されている。
「…起動準備だけはしておいて。
どちらを使うかは、その時、判断します」
一瞬とて目を逸らすことはできない。
ミサトは、メインモニター越しに使徒を睨みながら
砂を噛むように苦々しく吐き捨てた。
＊
構
『使徒のＳ２機関、出力更に増大！
エヴァの移動に合わせた微速後退は継続中』
モニターにその出力がラミエルが加粒子砲の砲撃を始める時を
上回って更にジリジリと高まる状況が表示されている。
『あっちもやる気満々か…』
連射数が増えるというのだろうか？
１発毎の威力を高めるつもりだろうか？
射界内に捉える動きを止めないところから考えると
加粒子砲を使わないことはなさそうだが………？
ミサトの呟きに、発令所の人々も固唾を呑んで見守るしかない。
…使徒相手には１撃で殲滅しなければ勝利はない。
そうでなければ学習して、機能強化してしまう。
緊張が一気に高まった。
＊
チャキ…
零号機がＮ２弾の装填されたバズーカを構え、発砲と同時に
横方向へと移動を始めたのが戦闘開始の合図となった。
ドゴォォォォォォォン、ドゴォォォォォォォン
『…ぁ…っ！！！』
放たれたＮ２弾がほとんど飛翔できずに空中で撃ち抜かれ、
更に横方向に移動を始めた零号機が次弾を放った瞬間、
零号機の胸部装甲に加粒子砲が直撃、大型車両に撥ねられた人間のように
後方へと吹き飛ばされて何度も身を打ち付けて激しく転倒した。
ドゴォォォォォォォン
ゼルエルの３連射目が正確に２発目のＮ２弾を撃ち抜いて無力化する。
ギ、ギグググググ…ドシューーーーン
捻じ曲がった胸部装甲が軋む中、零号機が転倒したまま、
最後のＮ２弾を撃ちだす。
カシャン
耐
ゼルエルのコアを完全に覆うように内側からシャッターが出てきた。
しかし、それ以上の動きはない。
カッ、ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォォン
弧を描いて迫る弐号機より早く、Ｎ２弾が指定距離に到達し起爆、
高度６０ｍを基点として中心部１００万℃にも達する火球が出現した。
凄まじい勢いでゼルエルを包み込んだ炎が急激に膨れ上がり、
音速突撃をする弐号機に迫る。
『行けぇぇぇぇ！！！』
前傾姿勢になり、シールドを全面に掲げた弐号機が勢いを殺さずに
炎の壁に激突し、そのまま、高温、高圧の極限空間を走り続ける。
音を伝える空気すらなく…
周囲は未だ１万℃を超える超高温状態
あと数歩で、スマッシュホークを叩き込める
…近づいたその時…
Ｎ２弾の爆発前とまったく変わらず、その中に浮遊しているゼルエルの姿を捉えた。
崩
ピキィィィィィィィィィィン
周囲の全てを拒絶する赤い絶対防御の壁――Ａ．Ｔ．フィールド――が
攻撃をするその瞬間に合わせて弐号機の眼前に出現し、全力突撃の勢いのまま、
途中の姿勢でいきなり激突してしまった。
グワッシャーーーーーーーン
『くっ！！！』
左腕の盾では勢いを相殺し切れず、胴体が、足が、腕が赤い壁に叩きつけられ
全身を意識が途切れそうになるような打撃が襲ったが、アスカはゼルエルから
目を離さなかった。
パタ、パタ、パタ、パタ、パタ、パタ
腕と予想したペラペラの板状部位が、折りたたんであった布地を広げるように
足元まで伸ばされていくのをＡ．Ｔ．フィールド越しに捉えたからである。
断
ヒュン
Ａ．Ｔ．フィールドの展開を終えるのと同時に、まるで糸で操る人形の手足のように、
伸びた板状腕の先端が引きあがり、先端を赤い意志の刃で包んで弐号機に迫る。
シュパーーーーン
先端が触れただけで身を捻って回避した弐号機の腹部装甲側面と盾を貫通！
しかし、それはまだ片腕分。 もう一方の腕が、避けた弐号機に更なる
追撃を放つ。
グッ、ズガガガガガガガガン
『…！！！』
一瞬の判断が生死を分けた。
アスカは前進しながらの回避は不可能と判断し、後方へと転がり逃げたのである。
スパーン
弐号機がいた地点の強化装甲の地盤を、豆腐でも刺すように
大幅に伸びたゼルエルの腕が貫いた。
ズゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォォォォン
膨大な大気が、排斥された際の勢いと中心部に生じた真空との圧力差バランスが逆転し、
中心部に向かって戻り始めて、巨大な茸雲が吹き上がる。
胸部を撃たれて最早、戦闘継続すら危うい零号機が外輪山に横たわり、
ゼルエルから離れた場所では、シールドを断ち切られた弐号機が
やっと、起き上がろうとしていた。
しかし、倒れている２機のエヴァに対して悠然と浮遊するゼルエルは全くの無傷。
それどころか、まったくその位置を変えてもいなかった。
＊
零号機がＮ２弾を発射してから２０秒と経過していないにも関わらず、
バルディエル戦を再現するかのように、人類最後の護り手たるエヴァは
地に倒れてしまった。
第三新東京市、ジオフロントの機能を表示するモニターに、機能停止を示す
赤い警告マークが冗談のように増え広がっていった。
加粒子砲３発の着弾と、Ｎ２弾の爆発、そして弐号機の音速機動がボロボロの設備に
カバーしきれない損害を与えたのである。
ザザザザザ…ザ…ザザ…
Ｎ２弾の衝撃波が周回飛行して監視していた観測機を叩き落し、
第三新東京市のセンサーの機能をも一時的に麻痺させる。
都市表面の積雪も、激しい爆風と熱線によって消え去った。
『零号機大破、運動機能を損傷！
射撃行動以外はできません』
マヤの悲痛な報告が発令所に響く。
零号機の機能表示画面に多くの被害を示す赤い文字が現れる。
『弐号機、腹部損傷するも機動戦闘に支障なし！』
日向が確認するが、弐号機の持つ盾はほんの少しだけ役立ったらしい。
僅かに身を捻って避ける時間を稼ぐことはできたのだから。
そうでなければ、弐号機は今頃、胴体部分から真っ二つにされていた。
シャムシェルと違い、腕の先端部分のみに集中させたＡ．Ｔ．フィールド。
その切れ味はあまりにも異常過ぎた。
『センサー機能、回復しました』
『使徒…未だ健在…損傷は確認できず』
青葉の報告が人々の心に絶望を受け付ける。
バルディエルの時と違い、攻撃に無意識下においても躊躇はなかったはずだった。
第三新東京市において禁じ手とも言えるＮ２弾すら投入したのである。
なのに、傷一つすら与えられなかったとは…。
だが…ショックを受けていた者も次に飛び込んだ命令に
冷水を浴びせられたかのように冷静さを取り戻した。
「アスカ、レイ、もう一度よ。
管理下の全ミサイルをゼルエルに向けて発射、タイミングは合わせないでいい。
陸上軽巡は超伝導ケーブルとスナイパーポジトロンライフルを零号機まで運搬。
アスカは、体制を立て直して――」
ミサトの澱みない指示が作戦に携わる者の心を叩き直す。
人類最後の防衛を担う者として、常に死を覚悟してきたはずだ、と。
歩くことすら困難な零号機、避けられなければ両断される斬撃を
受けた弐号機に再び、戦え、と命じる。
その発言はゲンドウではなくミサトがしているのだ。
ミサトが非情の人でないことは誰もが知っている。
それでも命じるのだ…その胸のうちを察し、迷いの心を封じ込めた。
『…斬り込めって言うんでしょ。………わかってるわよ。
マヤ、弐号機のウェポンラック、バッテリー、外せるものは全部捨てて』
ジャキッ
盾から、もう一つの武器であるアクティブソードを抜き、
アスカは斬られて大きさが３／４に減っている盾を捨てた。
「！？」
『守りや、次手を考えていちゃ勝てそうにないのよ…口惜しいけど。
レイが撃たれたから、逃がしたらもう勝機はない。
次の一撃に全てを賭ける…それしかないわ。
弐号機の機動を妨げる装備は全部、外して…早く』
会話しながらも、僅かとてゼルエルから注意を逸らさない。
いや…逸らせない。
「りょ、了解」
鋭さを増したアスカの声に急かされるようにコンソールを操作する。
ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン
肩のウェポンラックが、増設されたバッテリーが、関節を覆う追加装甲が
次々に外されていき、必要最小限…エヴァを制御するために必須な
拘束具を除いて全てが捨てられた。
「レイ」
『…大…丈夫…やります』
青白い顔をしたレイが胸の痛みに耐えて、ゆっくりと零号機を起動させた。
胸部に叩き込まれた砲撃の損傷は、レイの身体にもフィードバックで
肋骨を何本も折る傷を与えていたのである…。
まるで自分が大怪我をしたかのように硬い表情をしているマナも
２隻の陸上軽巡を操って、ミサトの言う通りにケーブルとライフルの
運搬を始めさせる。
いちいち説明する時間も惜しい。
ミサトの鋼の意志が発令所の人々を貫いていた。
管理下に置かれたＵＮ軍、打撃艦隊、爆撃機編隊に対して
日向の指示を受けたＭＡＧＩが、次々に攻撃の命令を発する。
大型モニターに、続々と各方面からＭＡＧＩの指示した座標に向けて
ミサイル攻撃が出来る限りの速度で始まったことを示すマークが
表示され始めた。
…着弾開始までにはあと数分はある。
『さっきと同じ連携攻撃、ただし手順を一つ早めます。
ミサイルの波状攻撃、スナイパーポジトロンライフル、弐号機の近接攻撃よ』
殊更、落ち着いたミサトの声が、最後の賭けと告げる。
先ほどと同様に追撃を受ければ零号機はもはや戦闘不能は必至。
回避を捨てる以上、弐号機も反撃を受ければ戦闘不能となるのだ。
作戦部は誰一人、ミサトの出した指示に異論を出さなかった。
零号機が潜伏状態に対して射撃をＨＩＴさせることは既に認識されてしまった。
今、退こうとすれば、追撃で零号機は形も残らず撃ち壊されるだろう。
脅威となる相手を見逃す理由などない。
ゼルエルを相手に撤退命令はあり得ない。
誰もが心の奥底でそれを痛感していた。
２機の連携攻撃がある、と思わせるからこそ、ゼルエルは今もその場に留まっている。
脅威と感じるからこそ加粒子砲の射界に捉えたまま、隙を見せないのだ。
必中にして最強の攻撃力を持つ加粒子砲の３連射。
如何なるものも防ぐ絶対防御――Ａ．Ｔ．フィールド――。
防御を許さない布のように極薄の伸縮腕による２連続切断攻撃。
どれをとってもこれまでの使徒が見せた最強クラスの行為なのに
それを休むことなく、１０秒に満たない間に繰り出してきた…。
先ほどの連続行動を分析したＭＡＧＩが、最後の連続切断攻撃の後に
極限まで高めていたＳ２機関の出力が大きく低下した事実を表示した。
ゼルエルとて余裕で回避したわけではないのだ…と。
しかし、当然だが、分の悪い勝負だった。
人類側は、次の一撃でどう転んでも戦闘継続能力を失う。
ゼルエルは大技を連発で繰り出して少し疲弊したがすぐ回復する。
一瞬だけ、ミサトはリツコのほうを見た。
「「………」」
言葉にならない想いが交わされる。
なにも伝えるべきことはない、と互いの目が語る。
もう二人とも財布の中身は空っぽだった。
逆さにしても何も出てくるはずもない。
使徒を目の前にして、出せるのは事前に準備したものだけなのだ。
…それでも勝負に出るしかなかった。
こちらに余裕がないことを悟られてはいけない。
一瞬でも気を抜いてはいけない。
ゼルエルが隙を見せれば、２機のエヴァが襲い掛かると思わせなくてはいけない。
そして………どれだけ困難であろうとも…今の手札で挑むしかなかった。
＊
AUTO EJECTION START!
『駄目です！ ダミープラグの挿入ができません！』
ケイジ内で、ダミープラグを初号機に近づけると、
自動排出機構が動作してしまい、どうしてもセットできない。
イロウルが恒常展開フィールド内に入った完全独立型ロボットを
意のままに制御したが、それと同じ原理によるものだろう。
誰も予想しなかったわけではない。
しかし、初号機が能動的に拒絶の意志を行動で示したのははじめてだった。
「ユイ…私を拒むというのか…！！！？」
白くなるほど拳を握り締めて、ゲンドウは足早に司令席背後の
開放式エレベーターに移り、ケイジへと降りていった。
「…お前が行ってどうにかなるものでもないだろうに。
とはいえ…独立した存在として初号機と接するあの子が
シンクロし続けていれば、こうなる日は予想し得た…か」
冬月は、去っていったゲンドウを、サブモニターに映る初号機を、
正面大型スクリーンに映る戦場を見て、誰とはなしに呟いた。
人に制することのできない存在…それが自我を持つ…
比類なき強さを持つ使徒の襲来。
しかし、それは単なるきっかけに過ぎまい。
レイと意識を一つとする零号機では自意識は芽生えない。
アスカの命に従う弐号機では自主行動は起こさないだろう。
シンリと心触れ合わせる初号機だからこそ、己を自覚する。
正面の大型スクリーンにはミサトの指示に従い、
可能な範囲のミサイル保有基地、艦船から、
到着順も弾道も飛行ルートも関係なしに、次々に
兵器が空へと放たれていく様子が表示されている。
大気圏外まで打ち出され、秒速数キロにも達する速度で落下してくる弾道弾。
高度２万ｍの高空をマッハ３の速度で超高速移動し迫る艦対艦ミサイル。
地形を縫うように亜音速で飛行する巡航ミサイル。
そのいずれもがゼルエルのいるエリアを目指していた。
真空チャンバーに入れられた陽電子の弾丸も、スナイパーポジトロンライフルに装填され、
陸上軽巡の手で零号機の元へと運ばれた。後から牽引されてきた超伝導ケーブルを接続して、
いつでも電力供給を開始できる体制で使徒と対峙している。
弐号機は可能な限り、限界ぎりぎりまで拘束具を排除し、
ウェポンラックも、増設バッテリーも捨てて、アクティブソードだけを
両手で構え、次の一撃に全てを賭けようとしている。
人の手で行える、これが最後の一撃…。
冬月には、人の手を離れつつある初号機の姿が、その結果を
暗示しているという妄想を払うことができなかった。
ゼルエル戦その２終了です…。
…次パートも、お楽しみに。
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