Ｍｉｓｓｉｏｎ：８　「Ｉｄｏｌ」
　
久々のアリーナの試合を行ったのだが、どーも調子が出なくて、散々だった。別にランカーになりたい訳じゃないから、勝敗自体にこだわらないけど負けは負け、やっぱし悔しい。うーむ、このモヤモヤはどこへもってきゃいいの………
ン？控室の外が妙に騒がしいなぁ……………
　
「アーもう何なのよ、いったい！」
　
くっそー、こっちはいらついてるってのに五月蝿いなぁ。もーっ、何なのよぉ！
気になるし、文句の一つも言ってやろうかと思い、控室の外を覗いてみる。そこには…………
　
「こっち、写真お願いします！」
　
「今度はこっち向いて下さい！」
　
「こっちにポーズ頂けますか！」
　
あーん？写真会みたいになってるねぇ。何やってるのかな、いったい？とりあえず中にいる連中に訊いてみる。
　
「………ねぇ、誰かさぁ、アレ、何なのか知ってる？」
　
顔を戻すと、ほとんどの連中が顔を突き合わせて、首を捻っている。あれ？一人考えてるのがいるな。訊いてみよう。
　
「ねぇ、あれ何だか知ってるの？フリッパー。」
　
「ん、ああ、この間アンバー＝クラウンで仕事した時に聞いたんだが、今向こうのアリーナで活躍中の『一般人(しろうと)』さ。名前は………確か………」
　
「「何ッ！？エルシィちゃんが来てるのかっ！」」
　
うぁ、この中も騒がしくなってきた。何なのよ………その『エルシィ』ってさ。
　
「俺、ファンなんだよなぁ、あの娘のさぁ。」
　
「あ、俺も俺も！」
　
そんなヤツばっかりかい。まぁ、そんなミーちゃんハーちゃんはほっといて…………
　
「そんで、フリッパー、そんなアイドルもどきがな…………」
　
言葉の途中で、周囲からもの凄い殺気を感じる………見回すと、みんなして私を睨んでるような………
何よ、アンタ達は……………
　
「マリィ、あの娘は本物だぞ！本当のアイドルなんだー！」
　
「「「そうだ、そうだ！」」」
　
まとまって口を開くな、ハモってるぞアンタら。
　
「あー、やかましい！悪かったわよ、言い直せばいいんでしょ！」
　
まったく、お前ら何なんだよ………
　
「……で、そのアイドル様がこの、アイザック＝シティのアリーナで、どーしたってぇの？」
　
「ん、あ、ああ、そっちのネット局の特別番組でな、こっちのアリーナでやってる、アリーナ専門の連中を集めた、『マスターアリーナ』に挑戦するんだと………で、その栄えある１回戦目を今日これからやるんで、３冊目の写真集の発表と合わせた記者会見前の騒ぎってとこじゃないか？」
　
「………アンタさぁ、随分詳しくない？」
　
お、汗が見えるね。まさかアンタもか、オイ…………
　
「ま、まあな……情報なんてのは何処からでも手に入るのさ。」
　
「そー言いつつ、後ろ手に見えてるのな・ぁ・に？」
　
下手くそ、本が丸見えじゃんよ。バレバレなのよ、アンタってば。
　
「こ、これは、何でもない！何でもないんだ！」
　
慌てて隠しても遅いのよ……………サッと手を伸ばして奪い取る。えーと、写真集ね………サイン入りだよ、これ。
　
「わ、ちょ、ちょっと待て、マリィ、それを持ってくなぁ〜！」
　
「んーと、『限られた時間（とき）の中で』か、ありきたりなタイトルねぇ。中身は、っと………ふーん、こんな子なんだぁ、そのアイドルちゃんって。」
　
追いかけてくるフリッパーを無視して、部屋の中を歩きながら写真集を捲る。とりあえずは見てみようか。
表紙を見る。変わったスーツに身を包んでるね。多分特別な品物なんだろう。金髪碧眼、典型的なカワイコちゃんって感じ。背景とかコクピットパーツのサイズからすると、身長は１６０ってとこかな？スタイル的に見ても体重は、うーん、４０から４３くらいと見た。いやぁ、スレンダーな女の子だ。ま、男共が夢中になるのもなんとなく分からなくもないね。パラパラっと全体に目を通してからフリッパーに本を放り返すと、『エルシィ・ファンクラブの集い』となった控室からさっさと退却することにした。あー鬱陶しい。
　
　
静かになった廊下を、人気の薄い方へ歩く。ようやく帰れそうだ。騒がしいのは苦手だよ、私はね。
まったく、少しはその情熱とか気合いとか、他の方面に回せんモンかねぇ。まぁ、私みたいに無趣味って言うか、無味乾燥な人間よりはマシかもね。
　
　
珍しく早い時間に帰ってきた。たまにはニュースとネスト以外も見ておくかな？時代に遅れちゃうもんね。
しっかし、ろくな物やってないなぁ。ん？アリーナチャンネルか。私はあまり見ないからなぁ………レイヴンはアリーナの付属施設で自由に試合のＶＴＲを見れるから、わざわざネット放送を見る必要は感じてなかったよなぁ。ま、後学の為に今夜は見てみようかね………
　
　
………ウ……ン………あふ……少し眠ってたみたいね………んと、あ〜、２時間くらい寝てたんか。あ、端末付けっぱなしだった。ん？………と、『頂点を目指せ！』？ふーん、アリーナチャンネルの番組にこのタイトルってのは、ちょいと興味をそそられるね。これ見よっと…………お、丁度始まった。
　
『番組をごらんの皆さん、お待たせしました。アリーナバトルの時間です。前回は、苦手なＡＷ−ＭＧ２５／２装備、しかも武装ポイントを全部使っているフィアークラウンさんに勝利♪　奇跡の大進撃を続けるエルシィでーす。』
　
へぇ、喋りも結構、と言うか思ってたより達者だね。それに、割とハキハキした声だ。ふむ、人気が出るのも分からなくもないねぇ。
しかし、何か妙にハイテンションでない？憑き物が落ちたって感じだよ。
　
『夜間市街地でのミサイル戦とは、ほとんど誰も予想していなかったようだ。多くの雑誌でも、今回の勝利は特筆すべきものとして、大きく取り上げているぞ。』
　
おや、この銀髪はどっかで見覚えが………ああ、あの人か。いやぁ、丸くなったねぇ、こんな人前に出てくるなんてね。昔は絶対に人前に出るなんて考えられなかったけどね。直接口きいたことは無いけどさ。
おや？彼の手元に、沢山のアリーナ関連雑誌が置かれている。なるほど、雑誌などの評論もチェックするのか、結構細かいとこまでやるんだね。まともな番組なんだ。てっきり見せ物的なモンだと想像したんだけどね。
その中でも、大きくマーキングされている雑誌が一冊。何々、『日刊レイヴン』？あっち（アンバークラウン）の雑誌か。この手の雑誌って、結構テキトーほざく事多いのよね。だから、あんまし読まないんだけどね。
　
『日刊レイヴンも、今回はＭＡＰの選択が私のほうに有利だった、って書いてる程度で、なんだか腰砕けな感じがするわ。………あと一勝、ラフネックスさんに勝てば……この勝負、私の勝ちよ！』
　
エルシィが、ギュウゥッと日刊レイヴン誌を握り締めながらカメラにポーズを決めてる。
………負けた時のことを考えてない行動よね、これって。まあ、大抵のレイヴンってこんなヤツばっかだけどね。そーゆー意味では、彼女もいっぱしの『レイヴン』だって事かしらね。
　
『そこ！　いちいち人のやる気に水を注さない！』
　
おや、まるでこっちの考えを読んだような……って、そっか、スタッフの一人が私と同じ事を口にしたな。愚かなヤツ…………
　
『エルシィ、そろそろ番組に戻らないか。』
　
おお、軌道修正してるよ。人間、時間が経つと変わるのかしらね。
さて、機体紹介か、どんな機体かね。
ふぅん、彼女の機体、標準型なのね。武装・機体構成ともにまあ、可もなく不可もなくって感じね。しかし、資金不足なのか、趣味なのか、頭部とコアはもうちょっといいモノでも使えそうな気がするけどね。
威力の低いライフル（ＷＧ−ＲＭＦ１１８）と、カバーするように装備してるミサイル（ＷＭ−Ｓ６０／６）か、仕事でも充分な組み合わせだこと。ジェネレータやブースターも性能がいいわね。まさか、敢えて基本的な外見を保とうっての？アルフの噂が本物なら、彼ならやりそうだけどね。
それに対して、こっちの機体は見るからに軽量級。脚部が標準の軽量型で腕がガトリング砲（ＡＷ−ＧＴ２０００）か、それにミサイル（ＷＭ−Ｓ４０／２）とリニアガン（ＷＣ−ＬＮ３５０）ねぇ。でも、今一つ足りないような気がする。私の目で見るからかな？
　
『軽量ＡＣに限界ギリギリまで武装を満載しているのね。しかも、ちゃんとレーダーも装備しているし………もしかして……かなり強かったりして………』
　
『超重装甲ＡＣ以外はかならず粉砕する攻撃力と、ほとんどのミサイル攻撃・遠距離攻撃を回避する回避力と、飛び続けることができる滞空性能はどれもトップレベルだ。エルシィが感じたように、どこから見ても強敵だな。』
　
うん、確かに彼女の機体じゃつらいかも。しかも、初めて１年未満の人間じゃあねぇ。上手い対策はそうは見つからないでしょうね。
　
『あの、弱点はないのかなぁ………なんて。』
　
『強いて言うなら……ＷＣ−ＬＮ３５０、つまりリニアガンを構えた時が攻撃チャンスだ。膠着姿勢になるからな。だが、至近距離で撃たれ始めたら今のジェーン�Uだと、衝撃が回復するころには次弾がヒットするせいで、脱出できずに削り倒される可能性すらある。あとは、ＷＭ−Ｓ４０／２がＳＰ−ＪＡＭに邪魔されることで、一度に２発発射されることはまずない、というのは唯一明るい材料だろう。』
　
『うーん………強敵なのね。』
　
ま、５年以上荒事を経験すれば、手も幾らでも思いつくでしょうけど。おっと、戦闘マップの決定、だって？ランダム選出されるの？場合によっては瞬殺されるんじゃないかしらね。
決まった………廃港か。うち捨てられた船が点在しているから、それを利用しないと苦労するんじゃないかな。ま、あの船、気化した腐食性ガスが結構引火し易いんだけどね。
　
ピンポーン。
　
あれ、誰か来たみたい。どうせ録画してるから後で見ることにして、とっとと出よう……
　
「はーい、どちら様？」
　
ドアを開けると、おーお、いつもの顔だよ。今夜は何しに来たの、アンタ。
　
「今晩わ、マリィさん。え…と、申し訳無いんですけど、今晩泊めていただけますか？」
　
「別に今更断る理由も無いけどさ………でも、どうしたのよ、ユーリ。」
　
「はぁ、その、今日ちょっと用があって資料の作成に時間が掛かりすぎてしまってですねぇ、それで、帰るの面倒になっちゃって……ここ、試験場に近いから、つい来ちゃいまして、あの、よろしくお願いします。」
　
なんだかなぁ……………
　
「ま、いいから上がりなさいよ。」
　
「お邪魔します。」
　
そう言うと、ユーリも部屋に入る。しかし、これじゃ同居人と変わんないよね。
　
　
「それで、遅くなった理由って何？」
　
軽く食事を作ってあげて、ついでにビールを空けながら話をする。
　
「はぁ、その、わ、笑わないで聞いてくれますか？」
　
何じゃそりゃ？笑うようなことなのかい、アンタの理由ってさ。
　
「いいけど、なぁに？」
　
「実はですね、あの、アイドルのサイン会に行ってまして、それで、今日中に作らないといけない資料があるの、すっかり忘れてて、急いで作ってたんですが………」
　
「こんな時間になった、と。」
　
「ハイ…………………」
　
最後は消え入りそうな声になるユーリ。別に笑うような事じゃないじゃん。つまらん。しかし、気になるのは…………
　
「で、アイドルのサインって誰の？」
　
「あ、ハイ！これなんです。今日写真集の発売日で、しかもこっちでお仕事があるとかでいらしてたんですよぉ。それで、握手とかもして貰っちゃいましたぁ！」
　
とか言いつつ、荷物の中からゴソゴソと本を取り出す。………どっかで見たぞ、ソレ。
　
「じゃあーん、エルシィさんの最新の写真集です！サイン入りですよぉ。いーでしょー。」
　
ここにもいたか、今日はこんなのばっかし相手にせにゃあかんのか………
　
「ところでマリィさん、今日は早かったんですか？」
　
「なして？」
　
「いえ、今日は脱ぎ散らかしてないなぁ、と思いまして。それで、早めに帰ってきて、着替えて片付けたのかなぁ、と……」
　
妙に鋭いわね、アンタ。ま、いつもは一緒に来るからなぁ。そん時は大抵着てた物はポーンと放ってるし、間違っちゃいないけどね。
　
「そーよ、悪い？」
　
「い、いえ、悪いんじゃなくて、珍しいなぁ、と思っただけで………」
　
口から身を滅ぼすね、この子は。私が保証するよ、うん。
　
　
しばらく、ユーリから延々とエルシィちゃんの『いいところ』を聞かされ続けた。興味の無い人間にとっては、一種の拷問だよ、これはさ。
と、ユーリが何かに気付いたように慌て始める。
　
「どーしたの、ユーリ？」
　
「あ、あの、マリィさん、端末借りていいですか！？」
　
「いいけど、何？」
　
しかし、ユーリは答えるより早く、端末を動かした。アドレスを合わせて、何かを探してる様だけど…………
　
「あ、あったぁ……良かったぁ。録画し忘れたかと思いましたぁ。」
　
「何の番組？」
　
興味があったんで訊いてみた。
　
「あ、はい……『頂点をめざせ！』です。エルシィさんの番組なんですよ。」
　
「ああ、アンタが来るまで見てたヤツね。でも、あれ確か再放送ってなってたけど……本放送見逃したの？」
　
「いいえ、ちゃんと録画して見ましたよ。ただ、その録画媒体が壊れちゃったんで、総集編が出るまで待てなくて………」
　
ファン心理ってヤツか。しかし、そこまでするかねぇ、普通？
　
「でも、マリィさんも見てたんですね。」
　
「うんにゃ、今日が初めて。………そうだ、続き見よ。」
　
端末のコントロールを奪い返すと、さっきの録画をチェック。うん、終わってる。最初に戻してもしょうがないし、さっきのとこからでいいや。んじゃ、スイッチ・オン。
　
　
『互いに空中機動は自由自在、邪魔される地形も少ない、と。………全力を出し切るしかないのね。』
　
『着地硬直するな、常に機動回避を心掛けろ、ミサイルは遠距離から発射しろ………といったところだな。』
　
「マリィさんはどうですか？」
　
「んー？ありきたりだけど、あの機体での戦闘なら…………私も同じアドバイスするわね、きっと。」
　
「そうですかぁ。やっぱりそうなんですねぇ。」
　
おい、ユーリちゃん、アンタの言語中枢に異常を感じるぞ、私は。大丈夫かねぇ、まるで夢見る乙女って感じだよ。ん、番組の様子が変わった。これは………戦闘シーンのリプレイ、か。なるほど、ここからはこれを見ながら解説風に進める、と。
　

「ここからが楽しいんですよ。」

　

「掛け合い漫才が？」

　

「……掛け合い漫才………言い得て妙ですね。」

　

納得するなよ。おっと、画面見よ。

開始と同時に火を噴き始めたベーコン・フライの両腕ガトリングが、距離をとろうとするジェーン�Uに対して叩き込まれていく。あれって、サイトもだけど、実際の攻撃範囲も広いからね。慣れてないと逃げるの難しいのよね。

ジェーン�Uはミサイルで応戦してるけど、空中を飛び回るベーコン・フライはそれを軽々と回避していく。あれじゃ、ミサイルはほとんど喰らわないね。イヤなプレッシャーくるんだよね、あれやられるとさ。

　

『当たったのは１発だけ〜。もうお先真っ暗。ぜんぜん、勝負にならないって感じだったの。』

　

あまりに大量に撃たれ続ける自分の機体を見て、ちょっと落ち込んだ感じのエルシィ。まあ、そうだろうな。ついでに、私の隣にいる女も悔しそうな顔してる。そこまで感情移入しなくてもいいよ、アンタは。

　

『こっちは−６０００以上、相手は−３００以下………寒いな。視聴者もここまで不利な状況になるとは予想していなかった人が多かったようだ。今までで最高の視聴率を稼ぎ出した瞬間だったんだ。実は。』

　

『もぅ、私が苦戦しているところを見て視聴者が増えるなんて………なんだか複雑な気分。』

　

いや、観客の心理ってそんなもんだぞ、普通。ピンチってヤツは、そのまま潰れるか、一発逆転するかってのを楽しむのよ、当事者以外はね。

　

『だが、その分、この後のエルシィの奮戦はなかなかだったぞ。』

　

『そう？　そうよね、うん、そうだと思ったの、私も。』

　

嬉しそうにディスプレイに視線を戻すエルシィ嬢。ふむ、状況が変わったね。

ディスプレイでは、ジェーン�Uが距離を取り、ベーコン・フライとミサイル戦を始めていた。ジェーン�Uは６斉射、ベーコン・フライは２斉射、ちょっと考えれば不利が分かるはずなのに、敢えて同レベルで戦闘するとはねぇ、このラフネックスってレイヴンも何やってるんだか？わざと？

放たれるミサイルをジェーン�Uは次々と回避し、逆に距離をとってミサイルをベーコン・フライに連続で叩き込む。ま、分かり切った展開だ。

連続発射される小型ミサイルが次々に襲い掛かる。ベーコン・フライは耐久ポイントを大きく削られるだけだ。とは言っても、ジャマーが無いんじゃ当たり前か。

　

『よく２４発もミサイルを回避できたな。単発発射とはいえ、努力が実ったといってもいい。』

　

『半分以上は、迎撃用機関銃が落としてくれたんだけど、ね』

　

少し照れて、エルシィが頬を染める。確かに、こういう所は可愛らしいけどね。隣は画面をジーッと見てる……結構気持ち悪い。少しは声出せよ。

しかし、空中の機動は合格点だね。特にミサイルに機銃を合わせるのは結構上手かったんじゃない？

　

『ここからエルシィはライフル射撃に切り替えたわけか。もっと早めにライフル主体にしようとは思わなかったのかい？』

　

『ちょっとだけ……でも、せっかく有利に戦えてたから、そのままミサイル戦を続けることにしたの。』

　

『ふむ。まぁ、有利な時にその戦術を続けるのは良いことだ。上手くいかなかったら、その時は戦術を見直せばいい。』

　

『そういうこと。』

　

うーん、それはそうなんだけど、教科書的って言うか、優等生な答えなんだよね、それ。アリーナなら確かに通用するんだよ、その考え方はさ。彼女はアリーナのみのレイヴンだから、それでいいのかも知れないけど、本当の『レイヴン』にとっては危険な考えだ。実戦では、自分が有利な内に、次の次の手を考える必要があるんだから。そこまで考えるのは穿ち過ぎかな？

画面の方では、ミサイルを撃ちきったジェーン�Uが、ライフル射撃に切り替えて近・中距離での高機動攻撃を始めた。ベーコン・フライも接近戦を警戒して、距離をとって体勢を立て直そうとするが、高速機動を続けるジェーン�Uを捉えきれずに被弾し続けてる。

　

『ここで、ラフネックスさんが賭けに出たのよね。』

　

『ああ………距離を離してリニアガンの射撃に切り替えたわけだ。確かにあのまま続けても、ミサイルをロックオンできずに負けていただろうから、悪い判断とは言えなかっただろう。』

　

って言うか、最初の段階で削りきれないんじゃラフネックスには手が無くなるって。そして、彼はそれが出来なかったんだから……勝負は付いてるよ。

ベーコン・フライは距離を大きく離して肩のリニアガンを構えた。膠着姿勢になり機動運動が完全に停止する。リニアガンに限らず、キャノン系を二脚で使うというのは、よほどの実力がない限りは、アリーナでは自殺行為だ。

　

『ここで、戦闘前のアルフの助言を思い出したのよ。近距離で被弾したら、連続被弾しちゃうかもしれないってことを。だから、できるだけ遠距離から射撃するようにしたの。』

　

ジェーン�Uは射撃を間断なく続けてる。結局、ロックオン時間も含めて、常に攻撃を受け続けることになったベーコン・フライが炎上した。ま、アリーナだから、こんなモンかな？大抵の”腕”のあるＡＣは、ここで斬って止めをさすからね。

　

『今回は、ずいぶんギャラリーが賑わっていたぞ。前半で７５％近いＡＰを削られ、逆に相手のＡＰは９０％以上、残ってる状態からの逆転勝利だったからな。まぁ、観客が沸くのも無理ないってことだろう。』

　

『好きで苦戦したわけじゃないのにぃ。』

　

ちょっと不機嫌そうだが、勝利の喜びのほうが大きいようで表情も柔らかいエルシィ。ユーリの顔も似たようなモンだ。いわゆる、ヒロイン的な『勝ち』だからね。そりゃ、受けるだろう。『理想的』だもんね、この勝ち方なら。

後は、精算と次回の予告か………たまには他人（ひと）の戦闘でも見ようと思ったけど、今回のは参考にはならないや。………楽しむ分にはいいけどねぇ。

　

「ふわぁぁぁあ。凄かったですねぇ。」

　

まだ壊れてるのか、ユーリちゃん。まぁ、一般視聴者の反応はこんなんかな………っておい、アンタはまがりなりにも専門家でしょうが！

やだよぉ、こいつイッちゃってるよ。

　

「マリィさん、どうでしたかぁ？」

　

「別に、よくある戦闘じゃないの？アリーナなんて一発逆転し易いもの。」

　

「うーっ。そんなこと言うマリィさんなんて嫌いですっ！」

　

膨れた。引っ張りたくなるな、このほっぺた。ま、放っておこう。こんなのは相手にせずに寝てしまうに限る。

　

「んじゃ、お休み。」

　

しかし、私には関係ない話だと思っていたのにねぇ………まさか、あんなことになるとは、ね。

　

今回からちょっとウチのエルシィが登場することになってニコニコです。
こういうのって、なんだか新鮮な感じがして、いいですよね〜。
さて、エルシィとマリィ、今後、どう関係していくんでしょ？

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