Ｍｉｓｓｉｏｎ：９　「Ｉｄｌｅ」
　
「ふぅん、それなりに健闘してるんじゃないの。」

　

素人に毛の生えた程度かと思っていたけど、初めて戦うマップに早速順応してるようだ。パイプラインは飛び回る機体向きとは言え、よく飛ぶねぇ。しかし、あの機体ではブースターを小刻みに噴かしても直に鳴っちゃうよ、警告音が、さ。

しかし、さすがはＥＸ３００………いつもながらにイヤらしい手だねぇ。６連のスローな追尾ミサイルと、両腕の連射式キャノンで、立体的な戦闘をするんだからね。結構鬱陶しいのよね、あれ。

使ってるパーツも、まだ市販されてないヤツばっかだし、対策も今までの資料からしか立てられないんじゃ、そろそろ………あ〜あ、やっぱり喰らった。ん？攻撃が止まった。勝敗着いたね。おつかれさん、アイドルちゃん。

　

「「「「「あーあ。」」」」」

　

……………こ、こいつらぁ………

　

「あー、鬱陶しい。何でみんな帰んないのよ！」

　

「そう言われてもな、出来るだけ近いとこで見たいんだよ。」

　

代表でノープロブレムが答える。控室のディスプレイの前に数人のレイヴン達が陣取って座り込んでいる。ここで見るなって言いたいのよ、私は。

　

「もうすぐインタビューが始まるぞ、行こう。」

　

…………嵐のように去っていった。変な連中。ま、いいや、こっちはスキアープロクス戦だ。さっさと準備して行こう。

　

　

くっそー、加減無しに焼きやがって、おかげで汗だくじゃないのよ。うぁー気持ち悪い。………むかつくから思いっ切り叩っ斬ってやったけどさ。あーあ、シャワーでも浴びてから帰ろっと。でも、明るい内に帰るのは、流石に久しぶりね。昨日までは、帰れるのは暗くなってからだったしなぁ。久々ついでに、あちこち顔出しとこうかな？

　

　

「こんちわー。誰か居るー？」

　

「あ、マリィ師範代、お久しぶりです。」

　

昔通ってた、って言うか、教えてたことのある、護身術の道場に来た。ホント、自分でも久しぶりと思うね。何人か顔見知りがいる。軽い調子で昔話なぞしてたところで………

　

「師範代、少し手合わせしませんか？」

　

「なぁにぃ、また私に投げられたいの？」

　

仕方ない、かる〜く揉んでやろうか。着替えるのも面倒だし、私は今着てるツナギのまま、靴だけ脱いだ。むくつけき野郎共を軽くいなす。うん、腕はまだ落ちてないね。とりあえず１５人ほど相手して、一息付かせてもらった。

　

「ふー。」

　

「お疲れさまです。あ、お茶どうぞ。」

　

見学してた、門下生らしき女の子が淹れたてのお茶を持ってきてくれた。い〜香り、日本茶だね。熱いのがいいのよね。和食も、他のものは知らなかったけど、お茶だけは好きなんだ。

　

「あ、あの〜、質問してよろしいでしょうか？」

　

「ん、何？」

　

気分がいいので、答えてあげやう。

　

「マリィ先生は、どこで護身術を教わったんですか？」

　

え、そりはちょっと。ど−しよ。周りの門下生達も興味津々って顔してるよぉ。

　

「うーん、私のって、正式な護身術じゃないから。…………いわゆる、我流ってとこかな？だから、どこでってのは無いのよね。」

　

嘘。私のは………総合軍隊格闘術。ありとあらゆる状況下で相手を”完全に無力化”するための……技術。完全に無力化、とは……すなわち、殺すこと………その技術を応用したのが、私が教えてる護身術だ。だから、我流なのは間違いないけど、本当のことは言いにくいよ。

その後も適当に誤魔化して、そこを後にした。

　

　

街をぶらついて、気に入った小物などを買い、やっぱり、日も暮れる頃に家に着いた。いつものように、端末のチェックをすると、依頼打診のメールがあった。ちょっと気になったので、目を通してみようか。

『護衛依頼』……アイザック＝シティ・ガード、かぁ。アイザック＝シティからアンバー＝クラウンへの、輸送隊の護衛を依頼したい。輸送物資の詳細を明かすわけにはいかないが、長期契約であり、高報酬を約束する、ねぇ。拘束期間は３週間で出発は１０日後、出発すると、その間は武装の換装は不可能、か。

報酬は基本３００００Ｃで、問題が発生した場合、内容によって追加報酬が出る。

そうだなぁ、あまり悪くない条件だとは思うけど、弾薬補給が心配だなぁ。他に条件とかあるかな？とりあえず保留。もう４・５日待って、残ってたら受けようかな？

　

　

『マリィさん、どうですか調子は？』

　

「機体はだいじょぶよ、ジェフ。」

　

あれから２日……昨日から泊まり込みでテスト中なのだが…………

　

「でもさ、ジェフ………この脚、使えないよ。」

　

今回は、前のテスト同様に、追加の脚部パーツを使用しているのだが、逆間接と軽量二脚じゃ大差ないって。利点も欠点も無い。これは没！

　

『うーん、駄目ですか。企画段階では良さそうだなと思ったんですがね。』

　

思いつきだけじゃダメだって。これなら、今テスト運用されている新型の逆間接パーツ（ＬＢ−Ｈ２３０）の方が何倍も優れてるって。あれは凄いやね。標準二脚を上回る積載限界に逆間接特有の旋回速度と安定性の高さ、欠点らしい欠点は対エネルギー防御だけだもんね。

　

「ねー、ジェフぅ、逆間接と重装二脚とか四脚とかの方が良かったんでない？」

　

『そうですね、考えておきましょう。』

　

まー、どーしょうもないパーツのテストも、テストの内だからさ、試すこと自体には文句無いけどね。その代わり、歯に衣着せぬ感想になるのは当然のことよね。テストパイロットの権利と義務、ってヤツだもんね。

　

　

「ご苦労様でした、マリィさん。」

　

おんや、ユーリ君、スマイル浮かべて何の用かな？ま、持ってきたタオルと冷えた飲み物はありがたく受け取りますがね。

　

「サンクス、ユーリ。ところで何か用？」

　

「マリィさん、２・３日中にアリーナとか行きます？」

　

「へ？うん、まあ、………明日、一応出場予定だけど。」

　

おや？何か、懸賞にでも当たったような顔しちゃって、どうしたんかなぁ。

　

「それでしたら、明日見に行ってもいいですか？」

　

「いいけど、どーゆー風の吹き回し？」

　

「え？あ、そ、それは………ちょっとした研究意欲の現れと言うか、知的好奇心を満たしたいと言うか………ま、まあ、そういう事です。」

　

ふーん、そう…………まぁ、どーせお目当てはアレでしょうけど、ね。

　

　

「よ、お疲れさん。また派手に叩いたなぁ、おい。」

　

「別に………二度目なんだから、当然でしょう。」

　

今日の試合は、アンファングとの再戦だった。ただ、私の特技の一つに、戦闘パターンを記憶するってのがあるんで、二度目ともなるとあっさりと倒してしまえる。ま、予想に反して、今回はブレード光波なんてモンを使ってきたけど、前回使わずに負けてたからね、意趣返しってヤツ？でも、アレは欠点もあるからねぇ。悪いけど、私には通用しないよ。ってなわけで、今日は勝ち試合だった。

　

「いつもながら、同じ相手には手加減ないな、アンタ。」

　

「同じ手で、同じ戦い方したら、普通は負けて当然じゃない。」

　

「それはアンタだけだぜ、マリィ。アンタさあ、時々精密機械みたいなやり方するしな。あれじゃ、同じ手は取れねぇよな。」

　

「人の事言えた義理？相手に何もさせないやり方をするでしょう、そっちは。」

　

今話している相手は、イプノティスモ。ハンドガン（ＷＧ−ＨＧ１）とリニアガン（ＷＣ−ＬＮ３５０）で相手の動きを止めて、ムーンライト（ＬＳ−９９−ＭＯＯＮＬＩＧＨＴ）で斬り刻むのが得意なレイヴンだ。かく言う私も、前にやった時は結構苦戦したんだけどね。

　

「言うねぇ、でもな、リニアもＨＧ１もろくに使わせなかったのは数える程しかいなかったぜ。アンタはその中でも一番イヤな相手だったけどな。何せこっちがやりたいことさせてもらえなかったからな。」

　

「そうだっけ？結構苛められた気がしたんだけどな。」

　

「そうだよ、途中から気持ち悪くなっちまってよ。ミリ単位で弾をよけるとか、正確に駆動系を斬るとか、普通のヤツはもちろん、プラスでもあんな真似できねえって。」

　

プラス………強化人間。医療目的以外の、人工化処置などを施して何らかの目的専用に肉体を強化した人間のこと。神経・知覚系・筋肉・骨格・心肺機能を強化して、極端な急制動や衝撃に耐え、センサーなどの情報を的確且つ高速に処理して、エネルギー伝達すらも思いのままにコントロールすることが出来る。

瞬間的にブレードのリミッタを外してエネルギーを最大値で射出するブレード光波や、オートバランサーを操作して空中で充分な安定性を生み出し、飛行やジャンプ中にキャノン系を射撃する、など。普通のレイヴンでは出来ないことをやれるようになる訳だ。まともじゃないねぇ。ま、人格までは変わらないのが救いかな？

ただ、このことはレイヴン仲間なら知ってる人は多いが、一般にはあまり知られていない。その意味での隠語が『プラス』なのだ。通常の人間にプラスαする、って意味で付けたらしい。気が利いてるね。

しかし、それより気持ち悪いってのはどーゆー事？慣れれば出来るって、あのくらいは。ま、一部では『舞い』だの『ミラージュ』だの言ってるらしいけどさ。自分の機体と、全ての武器の距離感や射撃速度、連射性なんかを把握していれば不可能じゃないよ、あんなこと。

ま、出来る機体と出来ないって言うかやりにくい機体はあるけどね。基本は標準もしくは軽量の二脚型を使うとやりやすいのだから、移動速度の遅いタンクや幅の広い四脚ではちょいとつらいかね。少なくとも私には、ね。

あ、苦笑してる。いーわよ、もう。

　

　

控室を出て、端末室に向かう。今日の他の試合を見るためだ。アリーナチャンネルのような、気の利いたと言うか偏った見方の解説は無いので、全部自分の主観で見られるのが特徴。誰かいるかねぇ？………静かだ、今日は貸し切りかな？ま、いいか、さっさと見よう。

　

　

うーん、今日の試合はここまでか。そろそろ帰るかな？

　

「あ、まだいらっしゃいましたか？」

　

へ？誰？後ろから声をかけられ、振り返ると警備員だ。

　

「何のよう？」

　

「はい、ミス・マリィ、アリーナ事務局で探してましたので………」

　

「事務局で？ふーん、分かったわ、ありがと。」

　

礼を言うと、端末室に戻る。空き端末から事務局へ繋ぐ。

　

「マリィだけど、何ですか？」

　

『ミス・マリィ……明日、特別に一試合お願いできますか？』

　

「別に異存はないけど。で、相手は誰？」

　

『はい、明日の相手は……………』

　

　

「……………眠い………」

　

いつもの試合場とは違い、今日は特別シミュレータ室にいる。ここを使うのは滅多にない。基本的に、距離の離れた都市のアリーナのレイヴンと対戦するために使うからだ。もちろん、普通に対戦するのも可能だけど……って訳で、ここに来ている。しかし、昨夜は徹夜して………むっちゃ眠いよぉ。こんなんでシミュレータなんか使ったら寝ちゃいそうだなぁ。

　

「大丈夫ですか？ミス・マリィ。」

　

「………ン…………だいじょ……ぶ………」

　

実はやばいかも………さっさと初めて欲しいな、んで、終わったらゆーっくり寝るんだ。気持ちいーだろーなぁ。……………ハッ！うとうとしてしまった。

　

「お待たせしました。」

　

「待ったわよ、目一杯………お陰で眠気吹っ飛んだわ。」

　

「………そう、ですか………」

　

まったく、私にやらせるんじゃないわよ、こんな面倒な事……ま、頼まれた以上はキチンとやるけどさ。

ふっふっふ……いわゆるナチュラル・ハイってヤツ？元気よぉ、今はね。やる気満々だからねぇ。

　

「こちらも、準備完了しています。はい、はい、システムスタートします。」

　

システム担当の係員の兄ちゃんが準備を終えたことを、もう一つのシミュレータのスタッフと連絡してた。やっとか、んじゃやりましょっか。

　

　

やっぱり、いつもとは若干違う感じだ。この仮想空間ってステージ、言い換えれば対戦専用のシミュレータだからなぁ。機体情報はデータでしか存在しないから損失無し、ある意味一番楽な試合になる、んだけどねぇ。機体の微妙な癖が無くなるので、普段より敏感だし、いつも通りに動かすと、予定外の動き幅を持ってしまう。少し注意が必要なんだよね、ここではさ。

　

　

今日の編成は１０００発マシンガン（ＷＧ−ＡＲ１０００）に最強ブレード・ムーンライト、右肩にエネルギースラッグガン（ＷＣ−ＳＰＧＵＮ）、左肩にはプラズマ爆雷（ＷＭ−Ｗ１５−ＥＸ）を付け、頭部をレーダー内蔵型のＨＤ−ＯＮＥにする。腕（ＡＮ−２５）とＦＣＳ（ＦＢＭＦ−１８Ｘ）は変更無し。コア、脚部、ジェネレータにブースターは、フォート・テクニカ社からの提供データに即して設定されているので、いつもと変わらずに使えるそうだ。

対しては、白系統のカラーリングの機体・ジェーン�U………あのアイドル嬢の機体だ。構成は昨夜見た、昨日の試合のまま、標準型の機体にライフル（ＷＧ−ＲＭＦ１１８）・レーダー（ＲＺＴ−３３３）・小型ミサイル（ＷＭ−Ｓ６０／６）。重量的に考えると、ブレードはよくてＬＳ−３３０３………だけど、わざわざ私を相手に換えるとも思えないので、ＬＳ−２００Ｇだろう。何せこちらはランカーじゃないからね。こっちをなめてる……とまでは行かなくとも、多少の油断はあるでしょうね。ま、こっちに有利なハンデ戦だね。情報の面ではね………おっと？始まりか………

　

　

「ふぅ、こんなモンでよかったかな？」

　

「概ね、よろしいかと………ただ、床……壊し過ぎじゃないですかね………」

　

「そーかなー、ここでは常套手段でしょ？」

　

『仮想空間』では、床を壊せるのだ。二段構造で出来たＭＡＰなので、床を壊して下に落とせるのだが、これがダメージゾーン。『高原』の地雷と一緒で、痛いんだこれが。あえて床を壊して、相手を落とすってのもここでのテクなんだけど………半分以上壊すのはやっぱしダメかな？

　

「いや、相手はここのレイヴンじゃないんですから。」

　

「でもねぇ、手を抜くのも失礼じゃない？」

　

うん、全力を持って、とまでは言わないけど、その時点で取れる最良の手段を取るのはレイヴンとしては当然だと思うけどね。ま、勝敗を気にせずに戦ったんで、楽しませてはもらった。人から見てどうか、ってのは別だけどね。

　

「失礼とは思うんですが………限度って知ってますか？」

　

「……ホントに失礼ね、そのくらい知ってるわよ………忘れてただけで。」

　

とりあえず、シミュレータから出て、控室に向かう………やだなぁ、五月蝿いんだろうな、アイツらさぁ。

　

　

「「「「「「「「「「ブー！」」」」」」」」」」

　

やかましいわ、ボケぇ！しかも、結構人数多いし。

　

「何で、お前なんだよ！」

　

「そうだぜ、俺でもいいんじゃねえかよ。」

　

「私に言ってどーすんのよ。選んだのは事務局なんだから、文句あるならそっちに言いなさいよ！」

　

「まあ、それは済んだことだからいい。決定は決定だったんだからな。」

　

まとめるねぇ、フリッパー。

　

「俺が許せんのは、マリィの、あの戦い方だ。何だ、あの陰険な戦法は？あんなことしていいと思ってるのか。」

　

「ほっときなさいよ、私の自由でしょう、そんなの。それに、別に勝った訳じゃないしさ。」

　

そう、特別に組まれた試合であることと、シミュレータの使用順番などの関係で３０分の制限があったので、決着が付かなかったのだ。いや、付かせなかったって言い方が正しいか。

まぁ、研究してから戦ったからね。勝つためならそれなりの組み合わせをすればいいんだもの。こっちは仮想空間だって分かってたからね、時間切れになる組み合わせくらい作れるわよ。勝敗は問わず、長引かせてくれって頼みじゃね。本気じゃないってのはあのお嬢さんには悪いけどね。

………今は本気じゃ相手できないけどさ、将来はどうだろうね。

　

「「「「「「「「「「ゆるせーん！」」」」」」」」」」

　

もういい、馬鹿共は相手にしないで帰ろう。疲れるだけだ。

　

　

「あ、そこの人、ちょっと待って！」

　

ん？何だ？女の子の声だねぇ、とりあえず振り返ってみようか。後ろから一人の女の子が走ってくる。あれ？もしかして、エルシィ嬢？何だろうね。

そこで立ち止まってると、私の前まで来て、肩で息してる。

　

「何の用？」

　

「あ、ハイ、えーと、さっき仮想空間で戦闘したレイヴンの人、居ますか？」

　

「教えるのは構わないけど、用件は何かしら？」

　

「一言、言いたいことがあるんです！」

　

ふーん、何だろうね、しかし、今この中に連れてくのは危険だ。飢えた野獣の群れの中に仔兎を放り込むようなモンだよね。うーむ、どうしようかね。

　

「おい、エルシィ。何してるんだ、こんなところで。」

　

あれ、誰か来た。

　

「あ、アルフ、ちょっと待ってて。話が済んだらすぐ行くから。」

　

うーん、マネージャーその他諸々のアルフさんね。ご苦労様。

　

「話って誰にだ？アイザック＝シティにエルシィの知り合いなんていないだろ。」

　

「決まってるじゃない！さっきの人に文句付けるのよ！」

　

「………何が不満だったんだい。」

　

あ、それ、私も興味ある。でも、ここではまずいよねぇ。しょーがない。

　

「お話はいいんだけど、ここじゃ良くないと思わない？時間があるならカフェテリアでも行った方がいいと思うけど………」

　

「でもぉ、さっきの人は………」

　

「多分いると思うけどね。」

　

「そうですか、じゃ、アルフ、行きましょ。」

　

「あ、ああ、それじゃそこへ行こうか………と言っても、俺は場所を知らないがな。」

　

「え………じゃ、じゃあ、あの、お姉さん、教えてくれませんか？」

　

「私も行こうと思ってたから構わないわよ。じゃあ、こっちだから付いてきてね。」

　

二人を案内して、内部のカフェテリアに向かう。この手の大型娯楽施設には、必須の場所だけど、ここのはレイヴン・関係者用と一般客用に別れているので、ある程度以上の混乱は避けられるだろう。相談用の個室スペースもあるしね。

　

　

「じゃ、どうぞごゆっくり。」

　

二人がどんな話をするかは聞いてみたいけど、秘密もあるだろうし、カウンターで待ってようかな。しかし、元気な娘だねぇ。

　

　

「さっきは済まなかったな。」

　

ん？ああ、アルフさんか。

　

「お話は済んだの？」

　

「一応な。ただ、エルシィに直接話をさせる気は起きないんで、俺が話そうと思ってな。」

　

「それで、お姫様は？」

　

「とりあえず、専用の控室に戻すんで、ここで待っててくれるか。」

　

「ＯＫ、じゃ、お待ちしましょう。」

　

　

しばらくして、アルフが戻ってきた。あれから、結構かかってるけど………何してたのかな？

　

「済まない、結構待たせたな。」

　

「そうね、１時間かしら？」

　

「なかなか納得してくれなくてな。」

　

「でしょうね。あくまでも自分で行動しないと納得しないタイプみたいだったし。」

　

「初めて会ったのに、分かるモンか？…………いや、エルシィは別か。有名人だし、な。」

　

いや、ちょっと話せば分かると思うよ。真っ直ぐな瞳とか、見た目でもね。

　

「それより、彼女の用件は何かしら？私に用があったみたいだったけどね。」

　

「アンタに………って、そうか、あのＡＣはアンタのか。」

　

「そう、騙したみたいだけどね。」

　

「………いや、確認しなかったのはこっちの落ち度だからな。気にしないでくれ。それより、エルシィからの伝言だ。『今度会った時は、絶対負けないから』………だとさ。」

　

「………それだけじゃ無いみたいね、原文は。」

　

「まあ、な。とても本人には言えんよ。」

　

「まるで、日刊レイヴンを握りつぶす時みたいな形相で言ってたの？」

　

「………その通りさ。」

　

「そうか………じゃ、こう言っといて。『再戦はすぐには受けられないから、ゴメンね。』って。」

　

「…………それで納得するかは分からんがな。一応、原文のままで伝えよう。」

　

「ええ、お願い。後、ここの払いは済ませておいたから。」

　

そう言うと、私はカウンターのスツールを下りて、カフェテリアの出口に向かった。その背中に、アルフの声がかかる。

　

「ところで、アンタはエルシィのことをどう思った？」

　

「………それ、対戦した相手全部に訊いてるの？」

　

「いや、気になったから訊いたまでだ。答えたくなければ、別に構わない。」

　

「そうね、それじゃ、こっちの質問にも答えてくれるなら、いいわ。」

　

「…………俺が分かることなら、だ。」

　

「ＯＫ、それでいいわ。」

　

カウンターに戻り、答える。

　

「で、どうだ、あの子は。」

　

「………真面目で真っ直ぐで、いいんじゃない。アイドルとしてもレイヴンとしても素質はあるわ。ちゃんと育てば、ね。」

　

「そうか………それで、アンタの質問は？」

　

「何で、私にあんなこと訊いたか、よ。」

　

「…………何となく、アンタの眼が気になったからさ。エルシィと話していても渇いて凍てついた眼をしてたのは、今まで一人もいなかったからな。」

　

「そ………じゃ、もう行くわね。」

　

「ああ………」

　

別に特別な眼をしてた訳じゃない。希望に溢れた瞳なぞ見飽きただけだから…………どんな相手だって、私には一緒だから。

　

バーチャル空間での初手合わせ。
なんとも、二人の性格が滲み出るようなファイトになってましたね。
百戦錬磨なマリィさんも、どうも周囲の雰囲気には疲れ気味のご様子。
『遊んでる時間』になっているといいですね。（＾＾；）

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