Ｍｉｓｓｉｏｎ：１０　「Ｇｏｉｎｇ」
　
「もう……いい加減、機嫌直しなさいよね。」
　
目の前で、不機嫌な顔され続けられると、鬱陶しいやら腹立つやら。
　
「マリィさんがあんな人だなんて思いませんでした。もっと正々堂々と戦う人だと思っていたのに………」
　
あのね、ユーリ、レイヴンとしては一つのやり方なのよ、あれは。まあ、つまらない戦いしたのは悪いと思うけどさ、まさか、オフレコだと思ってたのに、放送されちゃうとはねぇ………参考試合だって聞いてたんだけどね。
　
「あーんな、えげつないって言うかイヤらしいって言うか………兎に角、相手にとって失礼だと思わなかったんですか！？」
　
「あのさぁ、その事はおいといて、仕事してくんない？」
　
文句はいいからさぁ、自分の仕事はキッチリこなしてくんないと、お互いに困るんだけどねぇ……………
　
「それは分かってます。だから、こうして空き時間に話してるじゃ無いですか。」
　
そーなの？その割りには、なんかゆっくりしてない？ずーっと空き時間なのかい、君はさぁ。
　
　
「ジェフぅ、この脚って…………普通の標準二脚じゃないの？」
　
ブラッドウィドウに今回付けた脚部パーツは……標準二脚だ。うーん、全然理由が分からない。この脚部にはどんな仕掛けがあるんかな？
　
『基本はそうですね。ただ、性能はかなり違いますよ。説明しますと………………』
　
ジェフ……………長いよ。２０分も聞いているの、つらいって。
えーと、つまり……脚部パーツ自体の重さが２２００，耐久値（ＡＰ）も約３５００と、標準としてはやや重め。
防御値は実弾・エネルギー共に６３０、最大荷重なんと５０００………ホントに標準型か、これ？
この性能で、移動速度が２７５、安定性が９８０，旋回速度が１２１………って軽量か逆間接なみに速いんだけどさ、何をどうしたら、こんなの出来るの？
　
「何かまともじゃないね、これ。どうやって達成したのよ、このレベルって………」
　
『それは、いくらマリィさんでも教えられないですよ。企業秘密ですね。』
　
………まぁ、しょうがないやね。それじゃ、テストを初めようか。
　
　
『調子はどうですか、マリィさん。』
　
「結構いい感じよ、でも、今回は仕掛け無しなのね。」
　
基本性能と重量とで思わぬバランスが取れて、普通の機体になってる様な………上昇性能もブースターとの組み合わせがいいのか、結構いい感じ。しかし、この専用ブースターって、性能の割りに燃費がよすぎるような。ま、いいか。性能が高い分には文句無しよね。しかし、５０００も積んで標準二脚の性能をキープするってのは………凄いね、これ。
　
『まあ、この調整は元々の思案として有りましたからね。』
　
ふーん、そう。でも、やっぱりいつものレバーが気になるね。動くかな、これ。
　
「ところでさぁ、ジェフ。このレバー………また使うの？」
　
『当然ですね。この機体は可変システムを利用することで最大の性能を発揮するように考えてますから、必ず、機能変化を組み込んでいますよ。』
　
へぇ…………そうなんだ。それじゃ…………………
　
「これはどう変化するの？」
　
『今日はテストしません。本番で使って欲しい……と言うのも酷ですから、シミュレート用のデータをお貸ししますので、２・３日試してみて下さい。』
　
あっそ、そんじゃありがたくお借りしてきま〜す。
　
　
家に付くと、まずは端末チェック。あれ、あの依頼………まだ残ってるんだ。どうやら、拘束期間の長さが問題みたいね。出発まで残り４日か………状況次第では受けてもよかったんだけどな。悪いけど、私はパス。他には……っと個人メール？誰だろ？
え？カサイって…………あ、そうか、何の用だろ？んっと……明日昼を御馳走するから会社まで来いって？こっちの都合を考えてないんじゃないの？ま、明日は特に用もないし、奢られましょうかね。
　
　
「いやー、またお待たせしちゃいましたね。」
　
「それ程じゃ無いけど。」
　
何か今日は軽いわねぇ。ま、こっちもその方が楽だからね。
　
「それで、今日は何の御用かしら？」
　
「いや、ですから、構えないで下さいよ。この間の所でどうです？もちろん、前とは違う物を御馳走しますから。」
　
「………ＯＫ、行きましょ。」
　
二人でムラクモ本社近くのオフィス街を歩く。こないだのお店に入り、同じ座敷に案内される。
　
「今日は、鰻（うなぎ）なんていかがですか。ここのは結構いけますよ。」
　
「それじゃ、お願いします。」
　
お店の人が注文を聞いて、下がっていった。さて…………
　
「何をさせたいの？」
　
「そんな無粋な話は後にしましょうよ。それより、一昨日の放送見ましたよ。いやー、強烈な映像でしたね。『仮想空間』とは言え、あれ程の破壊をするなんてね。驚きましたよ。」
　
「その話なら、もう聞き飽きたから止めて欲しいわ。私と、私の機体を知ってる人しか分からないんだから、大声で吹聴されるのは勘弁よ。」
　
「ハハハハ、そうなんですか。」
　
もう、ホント止めて欲しい。
　
　
料理が届いた。『鰻重（うなじゅう）』と言うのだそうだが、四角い綺麗な黒塗りの箱に入っている。同じ色合いのカップ……『お椀』も付いている。両方とも蓋を開ける。湯気に混じっていい匂いが漂う。う〜ん、美味しそう…………
　
「『特上』ですから、きっと気に入っていただけますよ。」
　
何か、粉末状の香辛料をかけてる。さらに香りが良くなった………そんじゃ、食べましょうか。
　
　
うむ、満足した。本当に美味しかったねぇ。
　
「お気に召した様で、僕も嬉しいですよ。」
　
にやけたままで、カサイ氏は宣う。真実味の「し」の字も無いね、全く。それはさておき、本題に行こうか。
　
「で、用件は何？」
　
「ええ、一つ仕事をお願いします。なぁに、あれだけの事が出来る人なんですから、簡単なモンでしょうがね。どうです？」
　
ま、内容次第よね。そう告げると、簡単に内容を教えてくれた。あの、『護衛依頼』らしいね、どうも。何でも、引き受けるレイヴンが全然いないらしくて、シティを代表して、ムラクモで一人斡旋したいらしい。内容が不明瞭な点が、引き受けるレイヴンを遠ざけているようだ。それを私にやれ、と？全く、言うのは簡単でしょうけどね。しかし…………
　
「ムラクモで雇うとなると、クロームの邪魔が入るんじゃない？」
　
「それは心配ないですよ。それをやると、クロームの社名が地に落ちますからね。何せ、ネット界のアイドルを襲うなんて事は、世論が赦しませんよ。」
　
？……何それ？アイドルって、もしかして………………あの、エルシィの事？
　
「本来は部外秘ってヤツなんですがね。引き受けてくれそうですし、特別に教えましょう。彼女を護衛して欲しいんですよ。」
　
「…………向こうから来た時はどうだったのよ。」
　
「バラクーダを使いましたよ。それも、護衛の航空兵団付きで。クロームもなかなか洒落た人がいるみたいですねぇ。」
　
クックッと笑いながら語ってるけど、行きがそれで帰りが陸路ってのはどーゆー訳？
　
「ところが、今、バラクーダは全部使用できないそうなんですよ。それで、大型車輌による輸送部隊を組んでガードからも人員を廻すんですがね、やっぱり実力のあるレイヴンが一緒に居て下さると助かるんですよ。そう言うわけで、お願いしますね、マリィさん。」
　
ありゃ、これは………このままなし崩し的にやらされそう………でも、仕事自体はやってもいいんだけどねぇ。うーん、そうだなぁ、それじゃ……………
　
「こっちから一つ、条件出していい？」
　
「よほど無理な話じゃない限りは構わないですけどね。」
　
そうか、そんじゃ…………………
　
　
「緊急の依頼なんで、そっこーで組んでね。」
　
「それは…………構いませんが、シミュレートの方はいかがですか？」
　
「それなりに楽しめたわよ。出来のいいゲームみたいでさ。」
　
「いや、楽しまれても………で、実際に使う自信は？」
　
「ま、任せなさいって。」
　
結構なるようになるモンよ、そんなのさ。こっちもプロだもんね。しかし、ホントに面白いモンでしたがね、アレは。
　
「でしたら、脚部はＤパーツでいきましょう。それ以外はどうしますか？」
　
「うーん、そうだなぁ…………」
　
ジェフに頼んだのは以下の構成。
頭部パーツは試験用パーツのＨＤ−Ｈ１０。重くて、センサー系も無くて、コンピュータの性能も旧式だけど、硬い。それだけが売りのパーツだけど、とにかく硬い。特殊センサーの必要が無くレーダーが使えれば、制限重量以内ならこれは使えるパーツですねぇ、うん。多分…………
腕は最軽量のＡＮ−２５。頭がアレなので、ここで少し重量を削っておこう。
右肩にＲＺＴ−３３３を装備。どーも、これがお気に入りでね。距離感とかが一番しっくりくるんだよね。
左肩は垂直ミサイル（ＷＭ−ＳＭＳＳ２４）を装備。ルート上に遺跡などの上部の障害はなさそうだし、これで対処できそうだしね。
右手にＷＧ−ＸＰ２０００、軽いパルスライフルだ。弾数・射程ともに問題無し。威力は気になるけど、ま、いざとなったら左手のムーンライト（ＬＳ−９９−ＭＯＯＮＬＩＧＨＴ）で叩き斬るのみ。
ＦＣＳの変更は無し、ＦＢＭＢ−１８Ｘに固定。エネルギー系のライフルは本来のサイトが特殊で結構狭いから、広げてちょうどよしってとこ。
　
「また、随分と軽めの装備ですね。」
　
「ま、ね。一般的な標準二脚の装備としてはこのくらいでしょ。」
　
「そうですね………まあ、人前ではバランスのとれた編成の方がいいでしょうね。」
　
「そーゆーこと。」
　
「ついでと言っては何ですが、可変機構に関してもチェックお願いします。」
　
可変………ねぇ。ま、いいけどさ。
　
「あ、そうそう、ちょっと頼みあんだけどさ…………」
　
　
さぁて、明日はいよいよ出発かぁ。必要なものは纏めとかないとね。しばらく留守にするし、キチンと片付けてくか………しかし、まるで夜逃げみたいだね。ま、いいか、さっさと始めよう。
えーっと、折角だし、部屋の掃除までしちゃおうかな。よおっし、気合い入れてこう。
それに、持っていく物も選んでおかないとなぁ。アレも一応持ってくか………
　
　
うーむ、とりあえずこんなモンかな？ゴミも今の内に捨てておくかね。………なんか、ちょっと所帯じみてる心配だなぁ……でも、長く家を空ける以上は当然だよね。さて、帰ってくるのは何時のことやら。ま、いい、もう夜中の１時だ。明日のこともあるし………そろそろ寝ようかな？
　
　
ピンポーン。
　
んあ？こんな朝っぱらから何よぉ…………仕方ない、起きるか。しかし、まだ朝の５時じゃない………寝たのが……えーと、２時だったかな？………ってことはまだ３時間しか寝てないのか……………くーっ、眠いよぉ………
瞼を擦りながら、ドアを開ける。…………やっぱりね、見慣れた顔だ………
　
「おはようございます、マリィさん。準備終わってますから、さあ、出発しましょう。」
　
「……オハヨ、ユーリ……随分早いわね。」
　
「ええ、昨夜は完徹でしたから。」
　
おーい、寝てないのか？んじゃ、こいつのテンション高めなのは、ハイになってるってこと？大丈夫かな、こいつに操縦なんかさせても…………
　
「さ、行きましょ。」
　
「あのね………出発はお昼過ぎなのよ？まだ５時じゃない。今から行っても意味無いわよ？」
　
「えーっ、そうなんですか？」
　
ダメだ、この女………完璧に舞い上がってるよ。しょーがないなぁ。
　
「ま、そーゆー事だから、少しここで寝てきなさい。私ももう１回寝るから。」
　
「そんなぁ、今更眠れないですよ………」
　
「睡眠薬くらいあるわよ。それも、即効性のヤツが。効果も６時間程度だし、丁度いいんじゃない？」
　
「はぁ、そうですか…………そう、ですよね、この後リグの操縦もあるし………それじゃ、親切に甘えていいですか？」
　
「いいわよ、そんじゃ上がってて。薬、今探すからさ………」
　
えーっと、携帯用の医療キットの中に入れといたハズなんだけど…………あったあった、これこれ、とりあえず１回分出してっと………残りはちゃんとしまっとこうね。必要になるかも知んないし…………
　
「ユーリ、これ。」
　
そう言って、彼女の方に軽く放り投げる。
　
「あ、は、はい………っとと………」
　
あれ、お手玉してる。何やってんだか、どんくさいねぇこの娘は………落とすなよぉ、高いんだぞ、その薬。
　
「水、ここに置いとくからね。飲んだらベッド使いなさい。」
　
コップをテーブルに置いて、ソファで寝る準備を整える。さ、もう一度お休みなさい。
　
　
「おーい、起きなさい。そろそろ出るよ。」
　
「ふぁ、今何時ですかぁ………」
　
「ン…………と、１２時前かな。さ、起きて。しっかり眼を覚ましておきなさい。」
　
ユーリを起こすと、もう一度荷物を確認する。うん、大丈夫、全部揃ってるね。
彼女も洗面所で身支度を整えてる。あ、そうだ、タオル用意してあげないとね。
　
「ほら、これで顔拭きなさい。」
　
頭の上に載せてやる。ま、いいかげん慣れたパターンだ。さて、軽くお腹を膨らませておくか。
　
「支度できたら、何か食べに行くよ。」
　
「はぁい。」
　
うーん、どこにしようかな？あ、そうだ、あそこにしようっと。じゃ、ちょいと連絡をば………
　
　
「うわぁ…………マリィさん……凄いとこ知ってますね。」
　
「ま……ね。」
　
家を出る前に、カサイ氏に頼んで予約して貰った。ま、たまには人を誘って来るのもいいでしょ。
予約の旨をお店の人に告げると、いつもとは違った、庭の見える部屋に案内された。友達と一緒に行くって言っておいたから、景観も考慮してくれたのかな？カサイ氏って、そーゆーとこに気が回りそうだもんね。
　
「えーと、蕎麦（そば）御膳二つお願いします。」
　
注文を済ませると、ユーリと一緒に、庭の景色でも眺めていようか。人工とは言え、とっても綺麗な景色だね。紅葉が舞う様子は風情がある。
　
　
「美味しかったですね。」
　
「そうね、それより、そろそろ行かないと遅刻になるわよ。出ましょ。」
　
食事が済んだ後、少しのんびりと外を見ていたので、思ったより時間が過ぎていた。こんなことで遅れたら、プロ失格じゃんね。
　
　
「ああ、マリィさん。お待ちしてましたよ。」
　
「どうも、さっきはありがとうございました。予約取っておいて貰って助かりました。」
　
カサイ氏にお礼方々、到着の挨拶をする。一応、今回の仕事の依頼主であるわけだしね。ユーリにも簡単に紹介して、彼女には出発の用意でもさせておきますか。
　
「ところで、例の人はどこ？」
　
「うーん、少し遅れてるみたいなんですよ。何でも、『是非、会って話がしたい』人がいるそうなんでしてね。」
　
うーむ、何となく予想が付く。しかし、あまり遅くなられても予定もあるんだし、ね。大丈夫かね。
　
ピピピピピッ！
　
あや？何の音？カサイ氏はスーツから携帯端末を取り出す。そうか、その音か。彼は何か話してる。何かあったのかな？表情からは全く分からないけど。
　
「いや、失礼しました。部下からの報告でね、そろそろ到着するそうです。」
　
いつもの様に楽しそうに笑いながら話す。
　
「そう、じゃ、機体で待機してるわ。」
　
それだけ言うと、私は機体に乗り込む。ジェネレータを暖気しておくか、何があってもいいようにね。
　
　
『それでは、護衛の皆さん、よろしくお願いします。』
　
ムラクモのオペレーター嬢の声だ。何人もいるらしいけど、私はいつも彼女に当たるようだね。一緒に行動する指揮車に乗ってる様だ。今、ブラッドウィドウのモニターにはリグの外部カメラの映像が映っている。ちょっと周りの様子を見ておこうか………
ガードの機体が何機か………ガードウォーカーを改良した機体の様だ。装甲を厚くして、武装も重ガトリング砲に換装してある。
それに、東雲が６機か。ムラクモとしては結構本気みたいだね。無人戦闘機の疾風も何機か使うらしいし、私の出番なんてないかな？
それらの整備用コンテナ車輌が５台に、『お客さん』用の、特に豪華で大型のコンテナが１台。それに私達のコンバットリグとコンテナ………か、大規模な部隊になったモンだ。これじゃ、そこらの野盗程度が襲っては来ないだろうな。
うーん、逆に、これで襲ってくるとしたら、かなり腕の立つ………レイヴンか。ま、そうなったらお仕事しましょう。
　
『出しますよ、マリィさん。』
　
「ん、いいよ。仮眠しておくからね。」
　
『分かりました。行きます。』
　
軽い震動が伝わってくる……発進したようだ。リグに接続していたセンサーとモニターを止めると、コアの中は静かな闇に包まれる。出番が無いことを祈りつつ、眠らせて貰おうか。休めるときに休んでおくのは、『戦士の義務』だしね。じゃ、お休み………………
　

ありゃりゃ、熱心なファンの前にマリィさんもお疲れ様。
しかも、護衛ミッションをやることになるなんて・・・。
さて、誰がどんな目的で攻撃しようというのか、興味津々。

さ、続きが読みたいと思った人は感想メールで催促しましょう♪