Ｍｉｓｓｉｏｎ：１３　「Ｉｎｔｅｒｖａｌ」

アンバー＝クラウンに来て、はや６日…………さすがにヒマな気がしてきた。
やっぱ、私って現場主義って言うか、実戦向きって言うか……何かしてないとダメなのよねぇ。
それでも、あんまりする事が無いんでパブに入り浸っているしか無いのよね……何せ、ここは地元じゃないしねぇ。

「……マリィさん、完全にだれきってますね。」

「放っといてちょーだい。」

小うるさいユーリが余計な事を言う。

「それよりアンタ、修理終わったの？」

「部品無しに修理なんて出来ませんよ。明日には届くそうですから、そうしたら３日くらいで直りますよ。」

……今一つ、この子の言う事に信頼が置けない。コンバット・リグが故障したのだって、彼女の不注意だったんじゃないかって思う。
普段、結構生真面目なくせして、どっか抜けてるんだもんねぇ。
とは言え、私は流石に専門外なんで、信じるしかないってこと……ちょっとしたジレンマよね。

「何か言いました？」

「いんやぁ何も……さぁって、と。帰るかね。」

「そうですね。ホテルに帰って、シャワー浴びて寝ましょう。」

ユーリがサッと席を立つ。元気だねぇ。お姉さん、感心しちゃうわ。
私もゆっくりと席を立つと、支払いを済ませて外へ出た。
夜気が冷たく、心地よい。うーん、ちょっとばかし火照った体には最高だわね。
さっきから感じる視線が鬱陶しいけど。
とりあえず、急に出てくる気は無いみたいだし……誘ってみるか？

「どうしたんです？マリィさん、何か忘れ物ですか？」

「んーん、何でもない……ラウンジでもう一杯引っかけていくから、先に部屋に戻ってて。」

ホテルについて、ユーリを部屋に追い立てると、私は地下のバーに足を向けた。
気配は……うん、着いてきてる。
カウンターの席に座り、カクテルを注文する。
頼んだのは割と定番なギムレット（Ｇｉｍｌｅｔ）。錐と言う意味だ。聞いた話では、飲み口が舌と喉を突き抜ける様だからってことらしいけど……それが真実かどうかなんて、今では誰にも分かんないだろうね。
……しかし、いいモノって廃れないのねぇ……

「あなたも飲む？」

後ろに近付いてきた人物に声をかけてみる。

「……気付いていたのか。」

予想通り、男の声だ。割と低めの声……３０代後半ってとこかな？

「普通の人には分からないでしょうね。ただ、外に出た時に少しだけ気配がハッキリしたわ。見失う事を恐れて焦ったのかしら？」

「……まあ、そんなところとしておこう。隣、いいかね？」

「どーぞ。イヤだって言ったって座るんでしょうから。」

その男は、私の隣のスツールに腰掛けると、同じ物を注文した。
チラッと眼を向けると、見事な金髪の男だ。
綺麗にセットされたその髪型からも、神経質そうだなぁって感じ。あんまり好きなタイプじゃないね。
夜なのにサングラスで眼を隠してるのもマイナス３０点ってとこ。
ちなみに、こんな事絶対に言わない……本人にはね。

「何の御用？意味もなくつけてきた訳じゃ無いでしょ。」

「……そうだな、話はさっさと済まそう。一つ依頼したい件がある。引き受けて貰えるな、ミズ．マリィ」

「こっちの事はご承知ってワケね。」

「大したことじゃない、手は幾らでもある……そう言う事だ。」

「受けるか受けないかは聞かないと何とも言えないわね。こっちの今置かれてる状況ってのも御存知でしょ。」

「もちろん分かっている。だが、それ以上に君の腕を買っていると思っていただきたい。」

褒められて悪い気はしないけど、その分怪しさが増してくる。
さて、どんな依頼なんだろうね。

「とりあえず聞きましょ。どーぞ。」

「明後日、ある機関の実働部隊が市街地に集結する。それに対し、対抗組織がその場所に襲撃を掛ける事になっている。」

「それを邪魔しろって？」

「そうではない。」

全く表情を変えない。まるで仮面の様なその顔は、淡々と話を続ける。

「君にして貰いたいのは、その襲撃のバックアップだ。物量に任せて支援部隊を投入してくるだろうが、襲撃側は腕利きのレイヴンがいるとは言え、たった２人……結果は見えているとは思わないか？」

「数にもよるし、そのレイヴンの腕も絡んでくるわね。一概には言えないんじゃない？」

って言ってみたけど、所詮は立前。現実はそれほど甘くない。
問題になるのは数が多いだけじゃなくて、機体や乗り手の質の方だからね。

「それでも、普通のＡＣで相手出来る数には限度がある。違うかね？」

「……その通りよ。でも、それは……私だって同じだわ。」

「私のスポンサーはそのレイヴン達に成功して貰いたがっている。その為のバックアップだ。それを当事者達に分からない様に、お願いしたい。」

…………企業同士の潰し合いか？いや、違う。
この依頼内容なら、足切りだな。その『組織』ってのがミスったのか、肥大し過ぎて手に負えなくなったのか…………
どっちにせよ……

「で、私にはＹｅｓ／Ｎｏの選択肢は無しって感じね。ま、やるのは構わないけど、その代わり、詳細な情報と装備面の支援はしてくれるんでしょうね？」

「無論だ。明日の正午、ここに来てくれ。」

男はポケットから出したメモをコースターの下に敷くと、カクテルを一息に飲んで出ていった。
マナーがなってないなぁ。カクテルってのは一気飲みするもんじゃないでしょうに。
さりげなく、それを手にして広げると、ふむ、なるほど……住所だけ書いてある。
自分で捜して、来い、と。ケチくさいなぁ。
とりあえず、今日は帰るかな。


「時間通り……流石だな。」

「約束ってのは、基本的には守るべきモノよ。時と場合に寄るけど、ね。」

そう、時と場合に寄るものだ。今回は、相手がよく分かんないんで、守ってみましたけどね。

「良い心がけだ。詳細はこのディスクに、それに必要な装備はこのコンテナの中に用意した。作戦終了後に廃棄してくれ。報酬は、このカードに入っている。無記名で、４００００クレジット……では、頼む。」

そう言って、男は私の方にディスクとカードを投げて寄越す。って、危ないなぁ、落としたらどーすんのよ。

「……はいはい、なんとかしましょ。」

溜息しか出ない……引き受けた以上、やるけどさぁ……
カードを日に透かしてみる……見える訳無いか。でも、ついやりたくなるのよねぇ…………
ってなことやってる間にいなくなってるし………ま、いいか。多分、また会う事になるでしょ。
ま、ディスクを見ないと、何したらいいかも分かんないし、まずはコレが見れるとこに行きましょうかね。


私の足は、気が付くと工場に向いていた。
どーせ装備変えるんだし、ま、いいか。
コンテナの中身も気になるんで、ユーリにリフトで取りに行かせてる。
では、ちょいと見せていただきましょーかね。
…………なるほど、狙撃依頼ねぇ…………低高度で侵攻してくる大型輸送機の撃墜か。
用意された武器はＷＧ−ＲＦ／Ｅ。現在はまだ試作レベルのレーザースナイパーライフルだ。
それに併せて、超遠距離用のレーダー・ＲＺ−Ｆｗ２と追加弾倉のＭ１１８−ＴＤ、ＮＡＲＲＯＷ＆ＤＥＥＰタイプのＦＳＣ・ＲＡＴＯＲも一緒か……念の入った事で。
今の装備と交換しても、重量的には問題無し……代用出来そうな物も無いし、完全に組み替えるか……

「マリィさーん」

お？帰ってきたね。早速やって貰おうかねぇ。

「おっかえりぃ。早速で何だけどさ、その中身で機体編成、組み替えといて。」

「えぇ〜っ?マリィさん人使い荒いですよぉ。」

「急ぎの仕事なんだから、しょーがないでしょ？んじゃ、よろしく。」

「急ぎって……仕事、受けたんですか？」

「そ。暇してるよかマシでしょ。ほぉら、急いでちょーだい。」

こんな時は下手に隠したっていずれはバレる。だったら、最初から話した方がマシだからね…………全部じゃないけど。
「黙っているのは嘘を付く事にならない」って言うしね。
勘繰られるのも鬱陶しいし、仕事でもさせときゃ、忘れちゃうでしょ。

「じゃ、私は仮眠室で寝てるんで」

「マリィさんの鬼、外道、人否人！人を働かせて置いて寝るなぁ！」

「お〜っほっほっほっほ。悔しかったら人を使う立場になったんさい。」

片手を上げてヒラヒラ振りながら、私はジャケットを肩に引っかけつつ足早に作業所を後にした。
しかし……まだ騒いでるよ、あの子……疲れないのかしらね？


「ユーリ、聞こえる？」

通信機のスイッチを入れ、リグの中で待機しているユーリに呼びかける。

『はい、感度良好です。でも…………本当にサポート無しでいいんですか？』

「大した内容じゃないし、構わないわ。んじゃ、そろそろポイントに着くんで切るね。」

『あ、マリィさん………』

「何？」

『……無事に帰ってきて下さいね。』

「りょーかい。」

心配してくれるのは嬉しいけんどねぇ………そんなに信頼無いんかねぇ？私って。
さて……アンバー＝クラウン郊外の指定ポイント……目の前にはアンバー＝クラウンへの侵入口…………輸送機がここに到達する前に全機撃墜すること、か。
お客さんが狙撃ポイントに到達するまで、予定ではあと１時間……意識を切り替えないとね。
数回深呼吸して、私はＡＣにライフルを構えさせる。
眼をレーダーに据え、後はただ待つだけ…………


レーダーに反応……予定より７、８分程早いか………まあいい、撃ち落とす事に変わり無い。
弾数は追加弾倉の分を含めても１２発……レーダーに写る機数は３機…………あれは大型ＳＴＯＬ輸送機か。
１機当たり３発………外す可能性も考えるとギリギリね。実質、１５０００くらいまでは撃ってもちゃんと当たるかどうか…………とはいえ、向こうもレーダーを積んでるはずだし……警戒される前に撃つしかないか。
サイトの中心に、一番後ろを飛ぶ輸送機を据える。表示がロック・オンに変わった瞬間、私はトリガーを引く。
薄紅色の光条が宙を切り裂くのを確認……そのままリロードが終わると同時にもう１発、２発……前の２機が回避運動に入り始める頃には、火を噴くだろう。
さって、と。待ってる余裕は無くなった。ブースターに点火、一気に相手の方に飛び出すのが無難かな？
護衛機を付けなかったのは自信の現れかも知れないけど、ちょっとばかし甘かったね。
おかげで、楽に距離を詰めさせて貰った私は、そのまま２機目の獲物に、スナイパーライフルのビームの牙を突き立てる。

「……思ってたより楽ね。助かるわぁ。」

そんな言葉を口にしながら、やや後方にあるエンジンに向けて撃ち込んだ光が煙を上げるのを眺める。
っと、もう１機いたんだったっけね。
レーダーはしっかりと捉えている。夜闇は機影を隠すけど……エンジンの炎だけは隠しようがないもんね。
機体をしっかりと輸送機に向け、ライフルの弾を叩き込む。
１発、２発、３発…………手応えは間違いない。
レーダーから光点が消えた。サイト内に機体を捉えてるにも拘わらず、だ。
それはつまり、機体として認識する必要がない……墜ちたってこと。
周囲に他の反応もない。良し、終わり！
帰るとしましょうかね。


私とユーリが、工場にＡＣを置いてホテルに帰り着いたのがだいたい１０時頃。
んで、部屋でシャワーを浴びてから窓の外を見る。
市街地から少し外れた所で時折光が見える。どーやら戦闘中みたいだね。

「マリィさ〜ん、何か見えるんですかぁ？」

「ん？ううん、別に大したものは無いわ……代わり映えしないなって思ってただけ」

「そうですか？何か難しい顔してましたけど……」

……顔に出てたかな？気にならないと言えば嘘になるもんねぇ。
でも、それは私達とは関係のない事だからね。

「いいじゃない、別に………それより、アンタももうちょっと飲みなさい。」

「はぁい、いただいてま〜す。」

そう言って陽気にグラスを掲げるユーリ。
…………明日は大変そうだなぁ…………


後ろで安らかな寝息を立てるユーリ。
振り返るまでもなく、幸せそうな顔してるんだろうな…………
もう、戦いの火は消えている……どっちが勝ったのか……直接関係ないとはいえ、やっぱり気にはなる。
ま、朝一のニュースでも聞けば分かるんだろうけど………

「あー、止め止め！」

シャワーでも浴びて、スッパリ忘れよう。


「マリィさん、お早うございます……起きてますか？」

「…………起きてるわよ………何？」

ユーリに揺すり起こされて眼を開ける……あー………もう明るくなってるわ。

「昨夜、市街地で戦闘があったみたいです…………物騒ですね。」

……何も知らないって幸せねぇ……

「そう？別に大したこと無いんじゃない？ここじゃあまり無いみたいだけど。」

そう、こっち（アンバー＝クラウン）に来て、それが最初に思ったことだ。
アイザック・シティでは、市街での戦闘は割とよくある……小競り合い程度なら、それこそ日常茶飯事だ。
それが、こっちでは意外と少ない。もちろん、居住者数も違うし、血の気が多いのは、それこそアリーナにでも出場すればいい。レイヴンになれさえすればだが。
アリーナの観戦が容易なのも、ストレスの発散に役立っているんだろうしね。
ま、憶測だけど。

「そうなんですか？」

「そーゆーこと。さ、朝食、朝食。今日は何かな〜。」

話をすり替えて着替え始める。
………勝手な感傷かも知れないけど、ユーリの前でそんな話はしてたくないから……

「はぁ……」

今一つ納得してない顔してるけど、ほっとこうかね。


「ところで、帰りの目途は立った？」

大きな口を開けてトーストを囓るユーリに声をかける。

「ふぇ？………えっと……そうですねぇ……後、３日くらいですね。」

慌てて呑み込んでからの割には、しっかりと答えるユーリ。
そっか……後３日かぁ…………

「そんじゃ、残りはゆっくりと観光でもする？」

「……わざと言ってませんか？私、修理があるんですけど……」

「あ、そーだったわねー。じゃ、私だけでノンビリさせて貰うからよろしく。」

頬を膨らませるユーリに、私は軽い調子で言う。
今日の予定は決まり。街をブラつこうっと。

「先行くわね。あ、支払いは済ませて置くから。」

レシートを手にそれだけ言って、私は席を立った。
カードで精算して、ラウンジからフロントを通って外に出る。
今日も地下世界はいい天気……飾り物の天空だけど、少なくとも気分はいいわね。両手を思いっ切り伸ばして深呼吸してから、私は街中へと歩き出した。

お久しぶりです、ＡＢＣです。
なんか、コレ（ＣｒｏｓｓＧａｍｅ）書くのも久しぶりかな？
で、今回はアンバー＝クラウンのお仕事なんぞをやってみております。
今回のタイトル、「Ｇｉｍｌｅｔ」ですが、プロジェクト・ファンタズマのミッションタイトルの一つでもあります。
意味は、「錐」。作中でマリィさんも言ってますね。
実は、分かる人は分かってるでしょうが、プロジェクト・ファンタズマのミッションタイトルには、幾つかのカクテルの名前が含まれています。
ＫｉｒＲｏｙａｌ（Ｍｉｓｓｉｏｎ５）、ＨｏｔＢｕｔｔｅｒｅｄＲｕｍ（Ｍｉｓｓｉｏｎ１４）、Ｓｃｒｅｗｄｒｉｖｅｒ（Ｍｉｓｓｉｏｎ１５）……選択ミッションばかりですね。
まぁ、それはさておき、今回の話は、こんなことが裏であったのではないかと思って書きました。現実にそんな設定があったとは聞いた事はありませんが。
マリィの立場は、表舞台にはあまり出ない、プレイヤーのレイヴンの周りにいる、その他大勢のレイヴンでなければなりませんしね。そんな彼女には、ちょっと地味目なこんな仕事なんかが似合いそうです。
今後も、どっちかというと厄介で目立たない仕事が舞い込んでくるでしょうが、彼女は元気に生きていきます。
では、またいずれ（出来れば近い内に……）

掲載が一ヶ月以上、遅延してしまいごめんなさい。（T_T）

裏方で仕事を済ませて、何事もなかったかのように去っていくレイヴン。
こういうのもいいですね〜。多分、レイヴンの仕事なんて、
公表できないもんがほとんどだろうし…。（＾＾；）

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