Ｍｉｓｓｉｏｎ：１９　「Ｂｒｅａｋｄｏｗｎ」

「先日はお疲れ様でした。」
　
「………大したことじゃ無いわ。」
　
もう何回目か忘れたけど、例の如く呼び出されて、お昼を奢ってもらってる。
でも、その件はあんまし触れて欲しくないなぁ。
　
「そうでもありませんよ。あちらさんは優秀な手駒を一つ失ったんですからね。」
　
「まぁ、そうかもね。」
　
面倒なんで気の無い返事を返す。
と、鼻孔を擽るいい匂いが漂ってくる…………お店の人が、黒く塗られた箱を持ってきた………ようやくご到着ですねぇ。
　
「鰻重、お気に召したようですね。」
　
「そりゃね。美味しい物に罪は無いもの。」
　
そう、それが私の持論……って程でも無いけどね。
蓋を開けると、先程までは仄かな香りだったのが、一気に広がる。タレを塗られて艶やかに輝く身に“山椒”をかけて、うーん、更にいい香り。
　
「いただきます。」
　
箸で鰻の身を解しながら、下にある御飯と一緒に口に運ぶ。ホント、柔らかくて美味しいわ。
　
「今日のはかなりの上物が入ったそうですからね。」
　
そう言いながら、カサイさんもゆっくり食べている。
まぁ、食事中くらいは静かな方がいいよね。
　
　
「……ああ、いい葉を使ってますね。」
　
うん、そうね。ホント、お茶の香りって好きだわぁ。
　
「本当に、いい気分ですね。これで、いやらしい鼠の群れが消えれば、更にいい気分なんですがね。」
　
「向こうのも潰せって事？」
　
急に切り出してきたものの、何となく予測済みの話に、私も直ぐに聞き返す。
　
「世の中のためにも、取り除くべきでしょう。お願いできますか？」
　
そう来たか………まあ確かに間違ってはいないけどねぇ。
ストラグルとイミネント・ストーム………知る人ぞ知るテロ組織なんだけど、お互い、ムラクモとクロームの後援を受けている。
そのうち、ストラグルは先日壊滅的な打撃を受けた…………私と、もう１人の手で。
　
「悪いけど………直接受けるわけにはいかないわ。」
　
「正式な手順は踏むつもりですよ。」
　
ふぅん、義理は通すってか。
　
「じゃあ、正式にネストに上がったら引き受ければいいのね。」
　
「はい。宜しくお願いします。」
　
まったく笑みを崩さず……ホント、喰えない狸だわ………ま、今の関係を崩すよりはマシか。
厄介そうな依頼だけど、大人しく受けときましょうか。
　
　
昼の話、まさか直ぐになんて出てこないわよねぇ………メール見よ。
うぅむ、最近、近況報告多いわねぇ。しかも、ロクでもないの多いし……さて、依頼はっと………『基地強襲』………イミネント・ストームの本拠と思われる廃棄ブロック内の工場跡へ強襲をかけろ？嘘、もう出てる。
注意文まであるよ……「この依頼は、依頼者の意向により、一部の信頼出来るレイヴンにのみ提示されております。」か。
つまり、どっちかっていうとムラクモよりのレイヴンってことよね。
他にも受けるヤツいるだろうけど、まぁ、約束は約束か。
取り敢えず、オッケーって事で返信しときましょうかね。
　
　
「ジェフって凄いよねぇ。」
　
「どうしたんです、マリィさん。」
　
一生懸命にデータを解析するジェフを見て、ポツリと漏らしたのを聞かれた様だ………ちょっと恥ずかしい。
　
「ん？ちょっとね………私達レイヴンってさ……所詮、何かを壊してないと生きていけないんだよね。」
　
「…………」
　
何も言わないね、ジェフ。
ついでだし、もうちょっと愚痴に付き合って貰おうかな。
　
「それと較べると、ジェフやユーリって偉いよね。何かを作るって、私達には出来ない事だもんね。」
　
ハァと溜息をつく。
ダメだぁ……ここんとこ、滅入るようなことばっかからなぁ………思考がめり込んでいく。
　
「そうでもありませんよ。」
　
「へ？」
　
「少なくとも、レイヴンに助けて貰った人は感謝していますし、私にしても、マリィさんのお陰で、研究が進みました。あながち、壊すだけとは言えないでしょう？」
　
「……慰めてくれるの？ありがとう………」
　
ちょっとだけ気分が戻ってきたんで、軽く笑顔を返してみる。
　
「………話は変わるんですけど………マリィさん、今の調整だと甘くありませんか？」
　
顔を背けながら言うジェフ。ふふっ照れてるなぁ。
にしても、甘い………かぁ。
　
「そうね………ちょっと物足りないなぁ。反応も鈍い気がする時あるし………でも、アレを甘いって言うのはかなり乗り慣れてるベテラン中のベテランくらいよね。」
　
「でも、マリィさんには、甘いんですよね。」
　
「ま、ね。市販するにはいい具合だけどねぇ。」
　
「そうですよね。」
　
我が意を得たりとばかりにニヤリと笑みを浮かべるジェフ……マッドっぽい。
　
「感度、あれ以上高いとアクチュエーターとかサスとかに負担大きすぎない？それに、プラス専用機作ってる訳じゃないし、超高機動戦闘なんて出来ないっていうかしないでしょう、普通。」
　
私は出来るけど…………それに耐えられる様に生み出された体なんだしね。
　
「それに………私は戦闘機の訓練は受けた事無いわよ。普通の飛行機くらいは飛ばせる自信有るけど。」

そう、訓練は受けてない………乗ったことはあるけどさ、戦闘機の１機や２機くらいは。
　
「はは、そこまでは期待してませんよ。」
　
怪しい…………ジェフ、その笑顔アヤシすぎるよ。
　
「………何隠してるの？」
　
「秘密です。そのうち、ビックリさせてあげますよ。」
　
「そう？じゃ、期待してる。」
　
何気なく、私はそう答えた…………
　
　
「………何やってるんだろ、私………」
　
『マリィさん、気を付けて下さい。間違って撃ったりしたら…………』
　
ユーリの声が異常なほど緊張してる。
そりゃそうだろう。毒ガスの効果が公称通りなら付近一帯は死の世界だ。
ったく、よりによって、とんでもない切り札を用意してくれたものね。
　
「で、危険なのは分かったから、地図見間違えないでね。次はどっち？」
　
『あ、はい………次の角を左に行って下さい。』
　
「左ね？りょーかい。」
　
指示に従って機体を走らせる。
目の前には………自動制御のガードロボットの残骸。
　
「派手にやってるわね、お客さん。」
　
『でも、プロから見て、ガードロボットなんて相手じゃないんですよね。』
　
「モノ次第よ……ここのは、それ程単純じゃ無さそうだしね………」
　
目の前の残骸を見て、私は気分が滅入る。
転がってるのは自動制御されているとは言え、ＭＴだ。
それも、動力部を正確に破壊している………相手もかなりの腕だ。
　
「そんなヤツが毒ガス抱えて何してるんだか。」
　
『………マリィさん…………』
　
「まぁいいわ。相手の乗機、分かった？」
　
『はい、データ、回します。』
　
ディスプレイを見る……何だとぉ？
　
「これ、信用していいのね？」
　
『………偽装じゃなければ、ですけど………』
　
ユーリは自信無さそうに言う。
事実なら、かなりマズい……普通のヤツなら、ね。
ＣＨＡＯＳ３機を連れたスパイトフル……クロームの戦闘部隊そのものじゃん。
　
「しゃーない、で、他のエリアはどうなってる？」
　
『どのエリアも、複雑な作りに苦戦してます。』
　
「それと、無人機に、か。」
　
『はい。』
　
「そんじゃ、一番乗りになりそうね。」
　
『………マリィさんって、緊張しないんですか？』
　
は？
　
「何で？」
　
『だって……いつも軽い調子で仕事をこなしてるし、全然悩んだりしてないように思ったんですけど…………』
　
「ちょっと待て……あんた、私をなんだと思ってる？」
　
『え？……えーと……』
　
……即答出来ないか……しょうがないわね。
　
「宿題。」
　
『はい？』
　
「帰ったら答え聞くからね。ちゃんと考えておく事。」
　
『えぇ〜っ！？』
　
「じゃ、一旦切るからね。」
　
何か言おうとしたみたいだけど、もう聞きません。
通信機のスイッチを切って、レーダーに眼をやる………周囲に反応は無し。
さて…………どこまで追えばいいか………って、最後までに決まってるじゃんねぇ。
　
「さて、行きますか。」
　
言って、静かなのに首を捻る…………当たり前か。通信切ったのは私だよね。
いつもの五月蝿いのが聞こえないと、違和感有るけど、たまにはいいよね。
　
「……とっとと終わらせて帰るか。」
　
今日の装備はＡパーツ基本形……ＨＤ−１２−ＲＡＤＡＲ、ＡＮ−Ｋ１、ＴＲＹＸ−ＱＵＡＤの探索系では御馴染みのパターン。
右手はＷＧ−ＸＭ１１で左手にＭＯＯＮＬＩＧＨＴ、肩はＷＣ−ＣＮ３５チェーンガンとＷＣ−ＬＮ３５０リニアガン。
ほぼギリギリだけど、割かし普通っぽいかな？
さて、メンドくさがってユーリに地図見させてたけど、そろそろ自分でも見るか………ＲＡＤＡＲのコンピュータに落としておいたＭＡＰ情報を呼び出して……っと。

「……ふぅん、そろそろ単純になるのか………ついてるわね、少しくらいは。」

軽口を叩いてから、軽く速度を上げつつ通路を進む。
相変わらずレーダーに反応無し………何処まで行った？連中…………
　
「しょーがない、こうなりゃトコトン付き合ってやるわよ。」

ってな訳で、ウィドウちゃん、頑張ってね。　
　

しかし、こうまで何も無いと、むしろ怪しいわよねぇ。
ＭＡＰでは後２フロアくらいしか残ってない。
最後の部屋で罠張って待ってるんだろうなぁ……最っ低！

「いい加減、覚悟して出てきて欲しいわねぇ。」

『………ほぅ、一人か……いや、当然か。』

ん？聞こえてた？

『一度に来れない様に此処を選んだのだからな。』

「ありゃま、せこい事で。」

『これが戦略というものだよ………納得していただいたところで、退散してもらおうか。』

「ご冗談。ケリは着けさせて貰うわよ！」

ウィドウを一気に部屋の中に飛び込ませる。

ガガガガガガッ！

クッ！予想通り待ち伏せされてたか……でも、ね！
一番近いＣＨＡＯＳにブレードを叩きつける！
ポイントは……アンテナ！
斬り飛ばしたアンテナが落ちる間に、そいつの後ろに回りこむ。

「……やっぱり、撃ってくるのね。」

『此処まで来た以上、それなりには出来るな。』
　
チィッ！全く姿を見せない……厭なヤツね！

「ＣＨＡＯＳだけじゃ、私は止められないわよ。」

『そうなってからでも遅くは無いさ。』

あら、ま、随分と自信タップリな事で…………絶対、後悔させてやるからね！
タイミングを計って別のＣＨＡＯＳに今抱えてる残骸をぶつける。
そのまま、ブレードで貫き！切り捨てる！

「後１機！」

ライフルを向け、連射………６、８、１０発！
火を噴いて動かなくなったところでレーダーに視線を移す………光点は無し。
ステルスタイプの強化型スパイトフル。

『自分で手を下さねばならんとはな………仕方ない。』

ダメだ……レーダーは役に立たない。
なら、手段は一つ………ロックオン・サイトのみ。
機体を少しずつ動かす……奥へと。
タイミングは不明…………勘でやるしかない！

「………いくよ！」

ブースターを利用し、サイドとバックを混ぜて部屋の角を背負うように向き直る！
捉えた！

「Ｇｏｏｄ−Ｂｙｅ！」

『な？まさか！』

ライフルの残弾を全部叩き出す！

『う、く、うぉぉぉぉぉぉぉっ！』

「機体性能を過信し過ぎよ。完璧な戦法なんて無いんだから。」

と教訓めいた事を言ってやるけど、聞こえちゃいないでしょうね。
バイバイ、お兄さん。
いつか行くまで、待っててね。


完全に沈黙した機体を見下ろし、ようやく終わりを感じる。
通信機のスイッチを入れる……と、

『マリィさ〜ん、また切りましたねぇ。』

うひゃあ、もの凄い恨みがましい声だね、ユーリちゃん。

「い、いやぁねぇ、終わったから戻るわよ。」

『待ってますからね。』

「りょーかい。」

ふぅ……おっかないおっかない。
後で宥めとかないとね。


「マリィさん。」

「ん？何、ユーリ。」

コクピットから降りたとこで、急に声をかけられた。

「お疲れ様です。これ、いつも同じので悪いんですけど。」

そう言って手渡してきたのは缶コーヒー………うぁ、ホントにいつものヤツだ。
ま、不味くないからいいんだけどね。

「サンクス。」

プルタプを押し込んで、乾いた喉に流し込む……ふぅ、生き返った。

「それでですねぇ……さっきの話なんですけど……」

「何の事？…………やぁねぇ、ちょっとした冗談でしょ。覚えてるわよ。で、答えは？」

だから、からかったのは悪いわよ。だからってそんな恨めしそうな目で見なくても。

「……私にとって、マリィさんはマリィさんで………多分、ほかにどう言えと言われても、それ以外には…………」

「３０点。」

「え〜っ！厳しいですよぅ。」

「論旨が不明確。しかも質問に対する答えになってない。点数がついただけ良しとしなさい。」

なんて、ちょっと気取って言ってみる。
ふふっ、顎に手を当てて考えてるよ……うん、いい子だね。

「じゃ、帰るよ。」

「あ、私も行きます。」

踵を返して歩き始めた私の後を追うように、ユーリも軽く走って追ってくる。
うん、平和だねぇ。
これが続けばいいんだけど…………

お久しぶりです、ＡＢＣです。
嵐の前の静けさ……いよいよ、最終章の開始です。
そろそろお別れとなると、ちょっと寂しいものもありますが……

「Ｂｒｅａｋｄｏｗｎ」…………崩壊・破損・没落………悪いイメージしかありませんね、この言葉。
でも、破壊の後には再生が待つ………と良いんですが。

次回、あのＡＣがいよいよ登場。
さて、どうなる事やら。
気を長くしてお待ちあれ。

マリィさん強いですね〜。
無人機、私が戦った時は苦戦したものでした。（最初は、ね）
でも、これでまた一つ、世界が傾いてしまいましたね。
…後書きも、不安を煽るのですが（＾＾；）

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