Ｍｉｓｓｉｏｎ：２０　「Attack」

「んんむ……」

何となく変な、というか嫌な感じがする。
壁に凭れ掛かり整備の様子を見ているが、どうしても嫌な空気が付きまとう。
そんなことを気にしてたせいか、どうもかなり怖い顔になっていたらしい。
何せ、さっき言われるまで気付かなかった程だから。

「ずっと難しい顔してますね。何を考えてるんですか？」

「ん？いえ……別に大したことじゃ無いわ。」

「そうですか……いよいよですね、試験モデル。」

「まぁね。」

正直、戸惑ってる。
彼の発想は、門外漢の私でも凄いと思う。
２機分の出力を持つジェネレータ、現行のパーツと接続可能なコア、状況に応じて性能を変えられる可変脚部……試験モデルではエネルギー効率を最良にするための専用の頭部と腕部も付いてくるだろう。
『彼等』から得た知識が、『まだ早い』と告げる。
『彼等』はこう判断するだろう……『まだ、今の人類には早過ぎる知識であり技術である』と。
『彼等』の考え方が分かる……『イレギュラー』は、消去する。
思えば、今日まで見逃されていたのが不思議なくらいだ。
まぁ、先日まで別の相手とトラブってたみたいだけどね………でも、それももう限界だろう。
いずれ、『彼等』はこっちに手を出してくる。
やっぱり、それが気になってるんだろうな。

「何か元気無いですね。」

「ん……」

「また、アリーナ見物に連れてってくれますか？」

「ん……」

「……今日、泊まりに行っていいですよね？」

「ダメ。」

………気まずい沈黙が漂う。

「……ちゃんと聞いてるじゃないですか。」

「聞いてないとは言ってないけど？」

「はぁ………組替えパターン、決まりました？」

「まだ……って言うか、もう試験項目無いでしょ？」

そう、３日ほど前、彼から「試作機での試験項目は埋まりました」と言われてる。
それ以上、何が必要だって言うのかね？この子は………

「専用の頭部パーツ及び腕部パーツの状態を確認して欲しいんです。昨夜、ようやく試作機用が出来たんです。」

「ちょっと遅くない？もう次の段階に進むってのに。」

「もともと、頭部と腕部は試験モデルからのテスト予定だったんです。でも、折角なんだから作っちゃえって事で、現場スタッフで設計図を元に作ったんです。」

「……ヒマねぇ。」

呆れかえって、思わず溜息付いちゃうわよ、私は。

「それで、良ければテストしてもらいたいなぁなんて……」

「え〜っ、めんどくさいなぁ……」

「じゃあ、何でいるんですか？」

うっ、痛いところを突いてくるわね。
えーそ−よ、どーせ私も暇人よ。

「分かったわよ……やりゃいいんでしょ、やれば。」

「さっすがぁ。それじゃ、急いで決めてくださいね。」

「へぇへぇ……」

さて、どうしようかね…………っと、あれ？これって………

「警報？」

「何で……」

そりゃ、あんた………関係者以外が近付いてきてるからでしょう？
手近の端末から警備室に連絡してみる。

「何？今の警報は！」

『所属不明のＡＣを確認！こっちに近付いて来ている！』

「機数は？」

『１機……いや、２機だ。』

２機、か………ちょっとやっかいかな？
まぁ、相手を見ないと判断し切れないけどね。

「映像、廻せる？」

『出てくれるのか？』

「黙ってやられるのは性に合わないからね。」

『助かる。すぐに送る。』

さて、どんなやつだ？………
１機は………かなりの重装型だね。そしてもう１機………赤と黒に彩られた機体………

『……俺が見てるのは、現実か？』

「う、嘘…………」

一緒に映像を見てたユーリが黙り込む。
無理も無い……この世界に関わってる者なら誰でも知ってる名前、アリーナのトップにして、最高のレイヴンと噂され、もはや生きた伝説とさえ囁かれる……ハスラー・ワンの乗機、ナインボールそのものだから。

「やっぱり来たか………脚部Ｂ、試験用のＫＡＲＡＳＡＷＡとＭＯＯＮＬＩＧＨＴに右肩はＲＺ−３３３、左はＣＮ３５で組んで。急いでね。」

「って、マリィさん、戦うんですか？」

何でビックリ顔してるかね？当然でしょうが？

「言ったでしょ？黙ってやられるのは性に合わないって。大丈夫、負けやしないから。」

「だ、だって……あ、そ、そうか、あれ、偽者なんですよね。」

ようやく綻んで笑顔になるユーリ。だけど、ねぇ………

「ううん、９割方本物。まぁ、間違い無いわね。」

「何で、そんなこと言えるんですか！本物なら、勝てるわけ無いじゃないですか！」

……一般的な反応アリガト。でもね………

「本物だから、勝てるのよ。むしろヤバいのは………いや、いいわ。早く組んで頂戴。時間が勝負なんだから。」

そう言って、手を止めていた整備員達を急かす。
そう、時間が勝負…………胸元まで降ろしてたパイロットスーツのジッパーを上げ、インカムを手にコアへ向かう。

「マリィさん！」

………ユーリの切羽詰まった呼び声に振り向くと、今にも泣きそうな顔が眼に飛び込んでくる。

「……死なないで下さい………」

「………大丈夫よ。戻ったら飲むコーヒーでも用意しといて。」

精一杯明るい声で答える………これで少しは安心してくれるといいんだけどね。


ハッチを閉めると、計器が点灯する。
んーっと、エネルギーゲージ異常無し。レーダーもクリア。弾倉チェック……問題無し。ＦＣＳも…………うん、オッケー。全武装、機能共にオール・グリーン。
よっしゃ、サクッと行きましょうかね！

「シャッター開けて！ブラッドウィドウ、出るよ！」

『了解………頼むぜ、マリィさん。』

「任せなさいって。さぁ、行くよ！」

ジェネレータに火が入った………起動！
キャタピラの音を響かせて、ブラッドウィドウが戦場に出向く。
視界には………ナインボールのみ、か………まぁ、対処が難しい相手じゃないからなぁ。軽く捻ってやるか。


「さて、どう片付けようかしらね。」

そう言いつつ、ＡＣを一気に前進させる。とは言ったって、タンクじゃたかが知れてるけどね。

『イレギュラー………排除する。』

おーおー、お定まりの台詞だ事で。
って言うか、懐かしいなぁ、そのフレーズ…………でもね、それを受け入れるわけにはいかないのよ。

「よく言った、道化人形！確実に壊してやるからね。」

どうせ聞いちゃいないんだから、好き放題言ってやる。

『お前には無理だ。』

「あら、まぁ、ボキャブラリィが増えたことで。」

『……何を知っている？レイヴン、お前も排除しなければならないようだな。』

「もとからそのつもりでしょ？」

そう……こいつの思考パターンなんて、よく解ってる。昔の私と同じ……目的の為に手段は問わない。
合理的で確実性が高いが、今では一番嫌いな考え方だ。
クソッ、見てるだけでムカツくね！

「さて、もう一人はどうした？臆病風に吹かれるとは思えなかったけどねぇ。」

『ふむ、儂と戦うと申すか……ならば、お相手致そう。』

その声とほぼ同時に、レーダー範囲にもう１機が入ってくる。
しかし、妙に時代がかった物言いだねぇ。

「さぁ、２体纏めて掛かって来な！」

私の言葉を合図に、戦闘が始まった。
ナインボールのライフルが光のリングをばら撒き、もう１機の２連ライフルが宙を切り裂く。
正直、この脚部で避けるなんて無駄は考えてない。
肩のチェーンガンを撃ちながら、やりやすい方を潰す事にしよう。

『ほぅ、その機体にしてはなかなかやるのぉ。』

「まぁね。自分に一番フィットする機体を組むのもプロでしょうけど、道具に拘らないのもプロだからねぇ。」

私の目は、モニターとレーダーとを行ったり来たりしている。
よし、そろそろ………肩から右腕に火器管制を切り替える。

「気をつけなさいよ。敵は正面とは限らないから。」

『何を………』

重装型の背中から真っ赤な火の玉が上がる。
その衝撃で科白が止まったみたいだけど…………続きは言えないだろう、グレネードの直撃じゃあねぇ。

『何？援軍か？』

「さぁね。ついでだからコレもあげるわ！」

レーダーを見ながら、ＫＡＲＡＳＡＷＡ撃ちつつ後退。
ふふふ………うん、上手くいった。
こっちの予想通り、もう一発、グレネードの炎が重装型のボディを焼く。

『何故に味方が………』

『どけ。邪魔をするな。』

『何をぬかすか、この大虚けが！』

おや？ナインボールの欠点、知らなかったみたいね。

「お気の毒。適度に耐久値が減ってくれて助かるわぁ。」

『……お主、謀ったか！』

「そんなに大したことじゃ無いわ。そのポンコツの癖を知ってるだけよ。」

そう………私は、『ナインボール』を、『ハスラーワン』を、嫌って云うほどよく知っている。

『何を？ナインボールがポンコツだと？』

「ええ、そう………これが、答えよ！」

ＫＡＲＡＳＡＷＡを正確にナインボールに叩き込む。
よく知ってる動きを更に単調にしたものだけに、動く先に弾速の遅い弾を置いておけるってわけ。
こっちの狙った所に吸い寄せられるように動いて、右腕の付け根に連続で３発食らってくれる。

「少しは学習しなさいよね。」

『おぉぉ………あのナインボールにヒットさせるだと?』

「次は、コアよ。」

腕を失いつつも肩のグレネードで反撃を試みるつもりだろうけど、ちょいと遅い。
モードをＴｒｕｍｐｌｅｒからＦｌｏａｔｅｒへと切り替え、全力疾走！
とっくに切り替えたチェーンガンの弾幕を浴びせ掛けながら、デカいのを通り過ぎて機体ごとナインボールにぶつかる。

「所詮お前は……粗悪品だ。模写（デッドコピー）に過ぎないものに、本物（オリジナル）が負けるか！」

あまりにも正確に昔の私をなぞった動き……滑ったギャグよりも寒すぎて、嘲笑しか浮かばないね。
肩の上に並んだ部品をなぞるように、左手を水平に滑らせる。
青白い輝きが、ナイフで小枝でも払うかのように、ミサイル、グレネード、そして、頭部パーツを宙に飛ばした。

「肩慣らしにもなりゃしない。」

ＫＡＲＡＳＡＷＡの銃口をコアに向けて撃つ。
淡い青の光が、黒いカバーを吹き飛ばした。
その衝撃で、ようやくナインボールは膝を着き、動きを止める。

『そこまでするのか?』

「いいのよ。誰か乗ってるわけじゃないし。」

ハッチの飛んだコアの中身には、人の姿はおろか、そのいるべき空間すらも無い。
無人制御の攻撃機械………他のレイヴンを畏敬をもって操作するのに用意された偶像………私に言わせれば、まさしく道化人形。

「こんな玩具がトップランカーだなんて、笑えないわよね。」

『ぬぅ………お主、楽しませてくれる。』

おや？これだけ派手にやっても………

「まだやる気？」

『うむ。経緯や状況はともかく、受けた依頼は果たすべく努力するものであろう？』

「そうだけどね………」

『何より、強い相手と戦えることこそ、わが本分なり。』

…………ヤバい。この手の奴は厄介極まりない。
ナインボールの攻撃も、この重装甲じゃそれ程でもなかったみたいだし。
こうなりゃ、全力でやるしかない、か。

「それじゃ、本気でやるわよ。」

『おおぅ！』

Ｆｌｏａｔｅｒ−Ｍｏｄｅでショートブーストと慣性を利用して突っ込んだのはいいけど、おかげでジェネレータはかなりへたってる様子。
あのゴツいのを相手に、どれだけ削れるか………

「………らしくない。やるしかないんだ。」

機体を回頭させ、相手と向き合わせる。
さて、ここで、妙な違和感を感じた………そう言えば――――

「これから戦うってのになんだけど……お互い、名乗らない？」

『ふむ、良かろう……我が名はエルダー・ナイト。無論、通り名である。我が乗機はフル・プレート。』

「ふぅん、『全身鎧』か……まさに名は体を現す、ね。私はマリィ。この子はブラッドウィドウ。」

早速の名乗りに、私も素直に答える。

『………大破壊の折、縁者が参戦しておったか？』

「何故？」

『そのエンブレム、そして、あの悪名高き特殊部隊に連なると思われる機体名………貴殿の縁者が所属しておったのかと思ってな。』

イヤなこと思い出させてくれる、まったく………今日は厄日か？

「気が向いたら教えてあげるわ。」

『……なれば………力づくでも聞きだしてくれようぞ！』

やる気出してくれちゃって……でも、こういうの……嫌いじゃない！

「負けないわよ、おじいちゃん！」


取る必要の無い命まで取るほど、私は冷酷でも残忍でもないつもりだ。
動きを止めたフル・プレートのコアを抉じ開けながら、自己満足でしかないと思いつつも、乗り手を引きずり出して助けようとしている自分を、冷めた目で見てる自分がいる。

「大丈夫？生きてる？」

『……すまんのぅ。本当なら儂がこうするはずだったんじゃが。』

「言ってなさい。」

地面に下ろした相手は、言葉通りに結構なお年だった。

「さて、と……こっちも終わりね。残弾も無いし。」

データをチェック………本気で空じゃん。
ま、いいか。
戦闘終了！


「あちこち傷めちゃったけど、よろしくね。」

「おぅ、任せろ！」

スタッフが意気込んでウィドウのチェックにかかる。
そして…………

「マリィさん！」

なんて叫びながらユーリが………っておい。

「やめれぇ！」

抱きつくなぁ！

「だって………本気で心配したんですよ！全然会話聞こえないようにしてるし！」

まぁ、ねぇ………だって、聞かれたくない事言いそうだったからねぇ。

「いつも……危ないのにヘラヘラ笑ってるし、緊迫感ゼロだし……」

「悪かったわね、不真面目で。」

ちょっとムッと来たので、そう言ってやる。
ようやく顔を上げたユーリは………泣いていた。

「………いなくなっちゃイヤです、ずっと、一緒にいたいです。」

…………苦手なんだけどな、こういうの。
と、正直、どこかで予想していた知らせが飛び込んできた。

「大変だ！本社と第１工場も襲われた！」

どうも、ＡＢＣです。
ちょっと「引き」の最終章の前編です。
『彼等』、ナインボール、『イレギュラー』…………クリアした人なら一度は耳にした言葉だと思います。
それに加えて、『粗悪品』、『模写（デッドコピー）』、『本物（オリジナル）』………
色々と考えてきた事を、やっと形にしました。

ナインボールは、単機で任務をこなすのが本来の役割であり、複数でこなす事はまずありえないでしょう。
その為のＡＩは、僚機の存在など考えません。
だから、射線上に味方がいても平気で撃つのです。
知ってると楽なミッション、あります。

タイトルは「Ａｔｔａｃｋ」、攻撃なんですが、今回は「強襲」。
ナインボールの攻撃です。
まぁ、返り討ちなんですが………

次回、「Ｒｅｌｉｃ」でお会いしましょう。

やはり、管理者はそう甘くはなかったようですね…。
本社…第一工場…どうなってしまうのでしょう…？

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