まえがき
　
外伝は、本編（『想いを受け継ぐ者』）の途中に入る、番外編です。
今回の外伝：第弐話は、本編の第拾参話と第拾四話の間に入ります。
まずは、その事を踏まえてお読み下さい。
　

　
「何よ、コレ……何なのよぉ?」
　
アスカは、過去の戦闘資料に目を通していた。
作戦部、資料閲覧室のモニターに映されるのは、初号機の戦闘記録だった。
第３新東京市に現れた使徒は、アスカが来るまでに３体出現している。
その様子を見たアスカの感想が、その一言だったのだ。
　
　
初号機は、最初の戦闘において、使徒を完全に殲滅していた。
光線を打ち払い、使徒をＡＴフィールドで包み込む。
圧倒的な力を見せつけていた。
次の戦闘では、使徒の攻撃を利用しての身軽な行動……本人以上に優れた動きを見せる。
さらに、『ヤシマ作戦』では、使徒の加粒子砲を避けて接近し、ＡＴフィールドを粉砕、直接打撃で行動不能に追い込んでいた。
　
「普通じゃ出来ないわよ……こんなこと」
　
アスカは、驚愕の思いを込めて呟いた。
彼女にとって、受け容れがたい事象であった。
それまでは、自分が一番優れているという自負があったのに、ユウカは、それを凌駕する才能を発揮しているのだ。
アスカは、モノも言わずモニターに眼を向けた。
　
　
アスカは、弐号機のケイジの前で考え込む。
碇ユウカ……サード・チルドレン。
ネルフ本部、碇司令の娘……気が利いて、料理が上手で、お節介焼きで、そのくせどこか抜けてて、お人好しで、いつも陽気で、思い詰めるとトコトン落ち込んで、いつでも他人の事を優先して……そんな少女……
現在最高のシンクロ率２５０％を叩き出し、ＡＴフィールドを使徒並に自由に扱う、ＥＶＡのパイロット……サード・チルドレン……
仲の良い友達であり、面倒を見てやりたいと思わせる少女……
自分の地位を脅かす、最強のライバル……
　
「一度、ハッキリさせないとね……」
　
アスカは、決意を秘めた眼で、ポツリと呟いた。
　
外伝：第弐話　戦士の憂鬱


　
赤木研究室。
アスカは、リツコのところに来ていた。
　
「赤木博士……ユウカのこと、調べたの？」
　
「ユウカさん？調べたけど……普通よ、チルドレンとしては」
　
「どこがどう普通なのよ？」
　
不満げなアスカ。
　
「シンクロ率は大体５０から７０％程度。時々異常な数値を叩き出すけど、後遺症とかは無し……それを除けばね」
　
「……何で、そこを無視するのよ?」
　
「作戦遂行上、プラスにこそなれ、マイナス要素たりえないもの……黙認するしかないわ」
　
リツコはサバサバした顔で言う。
　
「そう……それは、いいわ。それより頼みがあるんですけど、いいですよね」
　
「余程無理なことじゃなければね」
　
アスカは、自分の案をうち明けた。
　
　
数日後、シミュレーション施設。
テスト用のエントリープラグが見える。
チェックボードを持つリツコの前に、ユウカとレイがいた。
　
「あのぉ、リツコさん、何をするんですか？」
　
「戦闘シミュレーション、模擬戦闘よ」
　
「どうしてですか？」
　
「深い意味は無いわ。新しい武器とか、使い慣れない武器について、習得してくれればいいの」
　
「はぁ、分かりました」
　
ユウカは、渋々納得した。
　
「私はいいの？」
　
レイがリツコに尋ねる。
　
「貴女はいいわ、レイ」
　
「はい……」
　
不満げながらも、レイは大人しく従った。
　
　
『感じはどう？ユウカさん』
　
「あ、はい……いつもと変わらないです」
　
『そう……相手は準備出来てるけど、初めていいわね？』
　
「相手？」
　
『場所は……第３新東京市。武装交換はビルにある物で自由に換えて頂戴』
　
「リツコさん、相手って……」
　
『来るわよ』
　
そして、攻撃がユウカを襲った。
　
　
初号機は銃弾の軌道を読み、回避する。
　
「やるわね……まだまだいくわよ！」
　
アスカは弐号機の手持ちをポジトロンライフルからソニックグレイブへと交換する。
ビルの屋上から屋上へ飛び移り、初号機の位置を確認しながら移動する。
　
「ユウカ……どっちが上か、ハッキリさせてあげるわ！」
　
『アスカ?』
　
「ドォリャァァァァァァァァァッ！」
　
ソニックグレイブを翳し、弐号機が初号機の真上から襲いかかる。
咄嗟に横転し、回避する初号機。
　
『止めてよ、アスカ！』
　
「これは、訓練よ！本気でやりなさい！」
　
『本気って……そんな?』
　
「問答無用ッ！」
　
アスカはグレイブを連続で振り回す。
力強く、それでいて華麗な動きだが、それを受けるユウカに見ている余裕は無かった。
（何で……どうして一回も当たらないの！……これが、ユウカの実力？）
アスカは、ある種の畏怖を感じずにはいられなかった。
　
　
「２人とも、それ以上は無理よ……止めなさい」
　
リツコが２人に声をかける。
だが、アスカは攻撃の手を緩めようとしない。
リツコは、マヤに言いつける。
　
「強制停止信号を送って」
　
「はい」
　
弐号機の動きが止まり、シミュレーターがようやく止まる。
　
『何で止めるの?』
　
「それ以上乗っていると、感覚がおかしくなるわ……少し休憩しなさい」
　
『……りょーかい』
　
渋々従うアスカ。
戦闘は、アスカの優勢で終わった……ユウカからは、全く攻撃が無かったからだ。
晴れない思いを胸に、アスカは休憩コーナーへ行くと、ジュースを口にした。
　
「アタシ……何してんだろ……」
　
呟くアスカ。
そこへ、ユウカとレイがやってくる。
　
「あ、アスカ」
　
「……アンタ達……そっちも休憩？」
　
アスカが尋ねる。
　
「ねぇ、アスカ……何で、いきなりこんなこと始めたの？」
　
「……別に大した意味なんて無いわ。お互いの実力を把握しておきたいって思っただけよ」
　
「そうなんだ……」
　
感心するユウカ。
アスカは苛立ったように言い放つ。
　
「いい、ユウカ！この後は、攻撃しないなんて手抜きしたら、絶対に許さないからね！」
　
そう言い残すと、アスカはジュースの缶を投げ捨てて去っていった。
　
「アスカ……どうしたんだろ……」
　
「ユウカさんが気にすること無いわ」
　
「でも……」
　
冷静に応えるレイ。
ユウカは、不安そうにアスカの背中を見ていた。
　
ＥＰＩＳＯＤＥ：ＥＸ２　Ｌｉｏｎ　Ｈｅａｒｔ

『シミュレーションを再開するわ。２人ともいいわね』
　
リツコの声が通信機から聞こえる。
　
『いつでもいいわよ』
　
「……はい」
　
アスカとユウカが返事をする。
ユウカの目の前、モニターに第３新東京市の風景が浮かび上がる。
　
「私、アスカとなんて戦えないよ……」
　
シミュレーション用のコックピットの中で、ユウカが呟く。
先程と同じように、弐号機の攻撃に対し、回避と防御だけを行う初号機。
　
『ユウカ、手抜きするなって言ったでしょ！』
　
「出来ないよ……」
　
アスカの怒声に、ユウカが泣きそうな声を出す。
　
　
アスカは、我慢の限界に達した。
（何で……何で攻撃してこないのよ！）
　
「いい加減にしてよっ！アタシは、本気でやれって言ったのよ！これじゃ、まるでアタシがアンタのこと苛めてるみたいじゃないよ！」
　
『アスカ……』
　
「それとも何?アタシじゃアンタの相手になんかならないって事?馬鹿にしないでよ！」
　
ユウカは、絶句してしまう……
　
　
２人の会話を訊いていたリツコが、ユウカに意見する。
　
『ユウカさん、ちょっと聞いて欲しいんだけど、いいかしら』
　
「え？……はい」
　
『貴女がアスカのことを本当の友達だと思うなら、全力で戦いなさい。アスカのことを思って戦わない、なんて、アスカにとっては失礼なことよ』
　
「リツコさん……」
　
『本当の友達って言うのはね……一度はぶつかり合うくらいでいいの。分かった？』
　
「……はい。リツコさん……」
　
『何かしら？』
　
「ありがとうございます……」
　
『お礼を言われるような事してないけど？』
　
サラリと言ってのけるリツコ。
　
「とにかく、やってみます！」
　
ユウカは気合いを入れ直した。
　
　
モニターには、２人の戦闘の様子が映し出されている。
単純に見て、戦闘技量はアスカの方が圧倒的に上である。
しかし、ＡＴフィールドの使い方や、回避能力はユウカの方が優れている。
結果、一進一退の攻防が繰り広げられた。
　
「赤木博士……さっきの話は？」
　
レイが、リツコに尋ねる。
　
「さっきの？アレがどうかした？」
　
「赤木博士と葛城一尉のことですか」
　
「……そうよ。私とミサトの事……」
　
（今は、違うけどね……）
リツコの本音は、決して口に出されることはなかった。
その間にも、２人の戦闘は続いていた。
　
　
アスカは、初号機の真横から攻撃を仕掛ける。
バズーカの攻撃をＡＴフィールドで受け止めるユウカ。
　
『フン、やれば出来るじゃない！』
　
「今度はこっちからいくよ！」
　
ユウカはパレットライフルを撃つ。
弐号機はＡＴフィールドで銃弾を止める。
その間に、初号機はアスカの前から姿を隠した。
（やっぱり、アスカ……強い……なら、これではどうかな？）
初号機が、弐号機の真後ろに現れる。
予測していたかのように向き直りバズーカを撃つ弐号機。
そこには、投げられたパレットライフルだけがあった。
　
『なっ、フェイント?』
　
「違うよっ！」
　
アスカが視線を上に向けると、宙から舞い降りてくる初号機の姿があった。
　
『面白い手だけど、甘いわねっ！』
　
バズーカを手放し、プログナイフを抜く弐号機。
初号機に向かって突き出されたナイフは、振られた初号機の左腕……その軌跡に展開されたＡＴフィールドに弾かれる。
　
『何よ、それ?』
　
「いっけぇぇぇぇぇっ！」
　
そして、初号機の右拳が、弐号機の顔面を捉えた……
　
「やった！……って、アレ？」
　
ユウカの見ている景色は、回転していた……
　
　
「あうぅぅぅぅぅぅ……痛い」
　
「アンタって、詰めが甘いわねぇ」
　
休憩室で、ユウカは後頭部をさすっていた。
初号機が拳を決める直前、アスカはその手を取って、頭から投げ付けたのだった。
当然、接続された神経は、痛みをユウカにフィードバックしていた。
　
「痛い」
　
「……何よ。しつこいわねぇ」
　
「痛い」
　
恨めしそうな眼を向けるユウカ。
アスカは、とうとう音を上げて溜息をついた。
　
「はいはい、悪かったわよ。ゴメンね。これでいい？」
　
「ん……ねぇ、アスカぁ。瘤出来てないか見てくんない？」
　
「そうねぇ……別になんともないけど……」
　
「いったぁい！」
　
アスカがソッと触れると、ユウカがいきなり騒ぎ出す。
　
「うぁぁぁぁ……もの凄く痛い……」
　
「ゴ、ゴメン……ホントに大丈夫？」
　
「ううぅっ……クラクラするよぅ」
　
泣きそうなユウカ。
アスカは、苦笑を浮かべると、右手を差し出す。
　
「何？アスカ」
　
「本気で受けてくれてアリガト……アンタが強いって事はよく分かったわ。もう一つ解った事あるけどね……」
　
アスカの手を握り返すユウカ。
アスカは、ユウカを引っ張り起こした。
　
「ねぇ、何が解ったの？」
　
「内緒よ。さ、帰ろ……今夜も美味しいモン期待してるわよ」
　
（ユウカは、アタシとは違う強さを持ってる……アタシは、どうしてもそれが知りたかったんだ）
アスカは、そんなことを思いながら、ユウカの手を引いて歩いた。
そして、アスカは、このまま上手くやっていきたいと、心から願っていた。

あとがき

感謝の言葉：

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第１４話「静止した闇の中で」に進む。
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読者からの反響は作者のやる気を湧き出させます。
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