ここはボルボデックと連合企業軍の戦争の最前線。そこに配備されている兵力の
詳しい内訳については後で説明するとして、前線には、連合企業軍側、ボルボデック側ともに
が４機で構成されている小隊が８、ほかＭＴや戦闘車両、飛行兵器などが多数存在している。
しかしいざ戦闘となると実質主導権に握るのはＡＣであった。こう聞くと前線の戦闘状況は
均衡しているかのように思えるが、ゼセーナン率いるエリートＡＣ小隊「スクリーマー」が
前線に現れたときは話が別になる。強化人間部隊である「スクリーマー」がでてくると
圧倒的にボルボデック側の優勢となってしまうのであった。
その力はゼセーナン機「エンドレス」だけで連合企業軍側ＭＴ「デヴァステイター
（旧クローム超巨大ＭＴ、アーマードコアを参照）」を一度に４機も相手をしてしまうほどだった。
そしてその前線から１００メートルほど離れたところで今まさに８機のＡＣが交雑しようとしている。
「１０時の方向にＡＣ４機確認。２分で接触する。注意されたし」
本部オペレーターから通信が入る。本部からの敵発見の知らせだ。
大多数対大多数の戦いに対応するＦＣＳは今だ開発されておらず、というより
開発者がろくにいないため、レイブン達は旧世代パーツを運用せざるをえなかった。
よって敵発見などは全て本部のオペレーターにまかされていた。
「聞いただろ、お前ら！お客さんがやってきたそうだ、各機歓迎準備！」
小隊長ザックスが部下に冗談交じりの指令をだす。他３機のＡＣもそれに応じる。
「２番コロナ少尉機、了解した。中距離支援及び近距離戦闘態勢に入る」
彼の名はシーマット・コロナ、彼のＡＣ「フリーズ・サンズ」は逆間接で
レーザーグレネードキャノン、ライフルを装備している。
なお連合企業軍所属ＡＣのカラーリングは「白貴重」で統一されている
（隊長機、わがままなどで若干の違いあり）。
「３番ケルビム少尉機、前衛担当のため接近戦モードに入ります」
この小隊の中でも一番の若さをもつロイド・ケルビム少尉が駆るＡＣは
前衛担当中二足ＡＣ「スラスケント」だ。
サブマシンガン、チェーンガン、ブレードを装備している。
「４番桃季中尉機了解しました。後方支援態勢に入ります」
彼女は武器をショットガンから大型ミサイルランチャーへと変えた。
当小隊の中で紅一点のプリューヌ・桃季の駆る機体は「倒福号」である。
倒福号のカラーリングは定例に反して赤、黄でペイントされている。
全隊員の戦闘可能状態を確認した小隊長ザックス・ザムレイド大尉は
愛機「ジャッジナイト」に搭乗し、前衛を務めることになっていた。
ジャッジナイトは白銀でペイントされた機体で、武装はエネルギーマシンガンと
ブレードのみと近接戦闘重視な機体である。
「全機異常無しだな！それでは１番ザムレイド機前衛モードに移行する」
すぐにオペレーターの声が乱入してくる。
「敵ＡＣ小隊機種判別完了。スパイトフル・改（旧クロームＡＣの改造型、
全体的に能力が上がっている。スパイトフルについてはアーマードコアを参照）が２、
他正体不明重量型が２機だ。接触まで２０秒、健闘を祈る」
機種判別のかなわなかった機体が２機要るものの、スパイトフル・改と
聞いたからかザックスは安心した。
「ということだ、軽くひねってやれや！」
「了解！」
小隊は３機を前衛にプリューヌ機が後方支援に回る、といった形で
フォーメーションを組んだ。今流行のインファイティングフォーメーションである。
「２番機、グレネードを発射。戦闘開始ののろしがわりだ」
シーマットは瞬時に片武器レーザーグレネードを発射態勢まで持ちこみ、
勢いよく発射した。もちろんこんな遠距離からのグレネードなど
あたりもしないのであるが、遠距離グレネード射出は一種の威嚇として
使われていた。シーマット機であるフリーズ・サンズは反動緩和装置を
つけているものの、衝撃で後ろへのけぞってしまう。
「ロイド、行くぞ！」
グレネードが着弾するか否や、前衛のロイドとザックスが敵の中へ踊りでた。
敵前衛のスパイトフル・改２機に対して、それぞれが１対１で斬りかかる。
「スパイトフルごときがぁ！時代遅れなんだよ！」
ザックスは一気にＬＳ‐９９‐ＭＯＯＮＬＩＧＨＴを振りかぶった。
ロイドもほぼ同じ状態でもう一機のスパイトフルに斬りかかっている。
ロイド側のスパイトフル・改は、後方ダッシュでかろうじてその鬼のような斬撃を
避けたのだが、ザックス側のスパイトフル・改はグレネードの威嚇がきいたのか
ブーストをふかそうとしたところに直撃を受け、開戦直後にして右腕をライフルごと
失ってしまった。
「後方より敵ミサイルきます！数は８、垂直射出型です！」
後方支援担当のプリューヌから通信が入った。敵の後方支援期からの攻撃だ。
同時にロイド側のスパイトフル・改が前方へ急ダッシュしてきて、
ロイドに斬撃を加えようとした。
「おっと、あたるかっての」
ロイドは余裕のジャンプでその攻撃をかわした。攻撃したいところであるが、
敵ミサイルがせまっている。スパイトフル・改も巻き混まれないように後退する。
「ロイド！ミサイル迎撃システム全開だ！緊急回避モード！」
ザックスはミサイルに向けてマシンガンを乱射した。同時に迎撃システムも作動し、
計３発のミサイルが落ちた。
しかし残りの５発は全てロイドに向かって突き進んでいった。
「なんでっ・・・・・・！」
不平を言っている暇がないと見たロイドは、ライフル乱射で２発落とすものの、
迎撃システムは間に合わず、自力で左にひきつけ、急転回で右に猛ダッシュする。
しかし１発のみ被弾してしまった。
「大丈夫か！？」
ザックスが即座にスパイトフル・改にマシンガンを連射しながらロイドに声をかける。
戦闘中にも話し掛ける余裕があるほど、ザックスは卓越したパイロットだった。
「大丈夫です。各部異常ありません」
ロイドが無事を伝えた。
「よしっ、こっちもおかえしだ！プリューヌ、撃て！、ロイドと俺はスパイトフルを固めとく！
シーマットは弾幕！」
ザックスは指示を出しながら自分もスパイトフル・改に突進して行った。
スパイトフル・改もライフルで応戦しようとするが、シーマットのはなつ無数の銃弾に
道を阻まれる。ロイドも遅れまいとライフルの標準を合わせた。ショットガンストップだ。
「プリューヌ機、マルチミサイル２秒で行く！２、１、ファイヤー！」
倒福号の両肩にまたがる巨大ミサイルから１発のミサイルが発射される。
そしてそのミサイルは空中で三つに別れて、スパイトフル・改めがけて獰猛に突進していく。
「ロイド、シーマット！！弾幕をはりつつ後退だ！ミサイルに巻き込まれるな！
敵後方機にも注意しろ！」
ミサイルにまきこまれないためにロイドとザックスは後退する。スパイトフル・改は即座に
ミサイル回避行動に移ろうとするが、弾幕のため満足に動けていない。
そこへ計７つのミサイルが飛んできた。避けようもなく、数発がスパイトフル・改に命中した。
右腕を失っていたスパイトフル・改は戦闘続行不可能状態に陥った。
歩くだけで精一杯だろう。
「なんだっ、もうおしまいか？後方のやつらはなにしてやがる」
ミサイルを撃ってきてからまだ何もしてきていない敵後方支援ＡＣが気になるようだ。
しかし今は目と鼻の先の敵を倒すことが重要である。
そうこうしているうちに接近戦が始まった。しかし１対３ではまったく勝負が見えており、
スパイトフル・改はあっけなくシーマットのサーベルにやられてしまった。
「ブリューニュ！あいつらに撃て！」
ザックスのいうあいつらとはもちろん敵後方支援の２機である。
まるでスパイトフルを見殺したかのようだ。
「プリューヌ機、第２波ミサイル発っ・・・」
プリューヌが再びマルチミサイルを発射しようとしたとき敵の方でなにかが光った。
「グレネー・・・」
ロイドが言い終わる前に４つの光は４機のＡＣを飲み込んだ。実弾系グレネードの
４発発射である。グレネードはレーダーに映らない分避けるのは容易なはずなのだが、
今回のグレネードは弾速の桁が違った。まるで発射された瞬間に被弾したかのようである。
「なっ、何だとぉぉ！」
ザックスが悲鳴にも近い叫びをあげた。グレネードをほぼまともにうけた４機は、
その衝撃で地面に転げ倒れた。
「これは普通のグレネードじゃないっ・・・威力が違いすぎる・・・」
そんなことは他の３人も十分承知していた。
「そんなことよりっ、敵は！？」
ザックスがすぐさま敵を探す。しかしレーダーには自機と他３機の反応しか無かった。
「逃げたようですね、いや逃げたというのでしょうか」
プリューヌが敵の行動に疑問を持ってるかのように言った。敵はグレネードで
圧倒的有利にたったはずだ、しかし彼我兵力差１：２ではやはりかなわないと見たのだろうか。
「か、勝ったのか・・・」
なんとか転倒した機体を立てなおしながらロイドが言った。
「おそらくあの後方支援機は普通のＡＣじゃなかったんだろう。
とにかく各機、被害を報告しな。救援要請をするからよ」
ザックスが被害報告を要求した。彼も心の中ではあの２機のＡＣの正体が知りたいに違いないが、
部下を無事本部に返すのが彼の仕事だ。
「コロナ機、ＦＣＳが衝撃で故障した。まったく戦闘続行不可能だね」
フリーズ・サンズは目立った外傷はないものの内部に大きなダメージをおった。
ＡＣ戦闘の核ともいえるＦＣＳがやられたとなってはどんな名パイロットでも
ビショップ（雑魚敵で有名なＭＴ）にさえ勝てないだろう。
「ＦＣＳがやられちまったか、次」
「ロイド機です。弾倉に誘爆してライフルもろとも右腕中破、あと左ブースターが大破」
弾装とはライフルの弾装である。内部で爆発したのだろうかスラスケンスのライフルが
えぐれて原型を留めていなかった。
「倒福号はどうだ」
「３番プリューヌ機、同じく右腕がショットガンごと跡形も無くなりましたわ」
彼女は、年は２５歳を越えているのだが、昔はランカーとして恐れられていた。
その彼女をここまでおいつめた敵の力は本物なのだろう。
「みんなひでえな、とにかく各員よく健闘した。俺の愛機は見ての通り頭がねぇ、
おぃ本部！聞いてたろ、ザックス第５小隊帰還するぞ」
前線から２００メートルほど離れていたので通常回線は開くことができた。
戦闘時は盗聴を防ぐため別の回線で通信している。本部からも返答が入った。
「了解、ザックス小隊帰還を許可する。気をつけて帰還されたし」
当然、本部から帰還命令が入る。ここで帰還じゃなかったらどこで帰還だという感じであるが、
ＡＣ乗りであっても、軍隊である以上は仕方の無いことなのである。
「みんな、やっと帰還命令入ったぜ、これでやっと酒が飲める、しかしＡＣ搭乗半日前から
飲酒禁止なんて誰が決めたんだろうな」
ザックスが軍隊方式に不平を言う。しかしこれでもアルコール急分解システムが
発明されてからは、規定は甘くなったのだが。
「飲酒運転は昔から禁止なんです。遠い昔からね」
シーマットが答えるが、ザックスはそれに答えないで話を進めた。
「さぁ行くぞ！フォーメーショントライアングルで救援ポイントまで移動する。
中央はブースターのいかれたロイドだ、いいな」
「了解」