トレイディシティの作戦司令室に前線で勤務中であるＡＣ部隊長ルイス、ハイデッカーを
除くほとんどの部隊長が呼集されたのは１０月６日の１２時だった。
もちろんＡＣ部隊だけではなく空軍海軍などの高官も集められたが戦闘中の何人かは
来ていない。
そんな中は話しているのは「エンフォッジ・ジルバッツ」と言い、連合企業軍軍務局長である。
「諸君、いそがしい中よく集まってもらった。今回集まってもらったのはまもなく行われるであろう、
我々が秘密裏に進めてきた大規模作戦のことである」
「ええっ！？」
いままで静かだった会議室がにわかにやかましくなった。信じられないようと言った顔をする者、
ああその話かと得意げになっている者さまざまだ。
「はやこの戦争は４年も続いているが、敵攻撃部隊の一斉殲滅を目的とし、１年前に行われた
『名も無き河作戦』は失敗に終わった。我々もボルボテックを甘く見すぎていたようだ」
「っけ、いまさらなに言ってやがるっ」
「何か言ったかね？ザムレイド少佐」
「いえ、何も」
「とにかく今回の作戦には陸海空軍の８５％と宇宙軍の８０％、他余剰戦力を全て投入する
予定である。最大目標は敵地本部の直接占拠だ。その作戦説明のため君達に集まってもらった」
「直接占拠！？それじゃあ敵の最奥地へ攻め込むのですか！？」
マシューが口を開いた。確かに前線さえ均衡した状況であるのに敵中央施設の特設占拠とは
少々むちゃな作戦だ、みなも驚きの顔を隠せない。
「そうだ。いままでは敵攻撃部隊の殲滅を第一に攻撃してきたが、今回は違う。敵もその戦力を
前線に大きく裂き、本拠地の防御はさほど硬くは無いということがわかっている。そこで一気に
敵本拠地を占拠してしまおうという考えだ」
「確かにそうですが・・・それでは一時的に我らの前線の防御力が低下しすぎてしまうのでは
ありませんか？そこを突かれたりしたら・・・敵本拠地を落とせたとしてもトレイディシティが
敵の手に落ちたりしては意味が無いではありませんか？」
慎重派のリリィが代表に一般論を言う。
「もちろんその点は考慮しておる、前線付近には１時間おきに核ミサイルを発射する。
トレイディシティからの地上発射核ミサイルだから迎撃される可能性もない。
前線の地形が変わってしまうだろうがそれはしかたがないだろう」
その場に居合わせていたものはみな「あっ！」という表情をした。まさか核ミサイルで前線に
防壁をつくるとは・・・、というような表情だ。それにしても大胆な、いや大胆すぎる作戦である。
「理解してくれたかな、諸君。では詳しいことを説明しよう。今回は３つのルートから敵地へ攻め込む。
まず地上前線正面ルート、これは陽動兼前線防御部隊である。核ミサイル発射は１時間間隔で
発射されるわけだが、この１時間敵の攻撃を防ぎきってもらいたい。
移動時間も考慮すると一回の戦闘時間せいぜい３０分間というところだ。同時にこの部隊の役目は
スクリーマーをおびき寄せることにある。次に東海上ルート、この部隊は敵レパノス基地方面からの
上陸、そして敵本拠地へ侵攻してもらう。３つ目は宇宙ルートだ。この部隊を本隊とするわけだが、
大気圏降下可能な艦艇を４隻使用し、それぞれを敵本拠地へと降下させる、
４方向からの一斉降下だ」
「なるほど、悪くは無い作戦だな・・・情報が漏れない限りはねぇ」
「それはどういうことかね？ランパオ少佐」
ランパオは大破壊以前の世界で言う東洋系の顔つきで、目はするどく、どこ裏がある人物だ。
「いえ、危険性を述べただけです」
「・・・・・・みなに理解してもらったところで今回の会議は終了する。２４時間後に再呼集を
かけるのでそのときに部隊振り分けなど詳しいことを決定しよう。作戦名は『メティオ作戦』だ。
では解散」
連合企業軍のエンブレムをかたどった胸バッジについている呼集ランプが消え、
各部隊長達はそれぞれの場所へと帰っていった。
「『メティオ作戦』か・・・シグルド、どう思う？」
ザックスはシグルドといっしょに会議室を出た後話しかけた。
「これほど大きな作戦だ、どこまで情報をガードできるかが鍵だろう。
裏切る輩がでてもおかしくはない」
「あぁ、そうだろうな、それを防ぐのは諜報部の仕事だがな」
「ちがいないな、まぁ命令が下った以上忠実にそれをこなすしかあるまい」
「・・・やっぱ前線防御部隊を希望するか？」
何気なくザックスが聞いた。
「まぁそうなるといいけどな、もしかしたらこれがスクリーマーとの最後の戦いになるかもしれ
ないんだから・・・・・・」
シグルドは戦闘には私情を持ちこまないタイプの人間だったが、今回の彼にはどこか
復讐の炎がちらついていると感じとれた。
「そうなってもらわにゃこまるさ、これで決めてやろうや」
「・・・・・・もちろんだ」
前線から西へ２００ｋｍほどのところにボルボテック第２１ＡＣ中隊（９機構成）駐屯地
「レパノス基地」がある。ここはいわゆる問題兵ばかりが集まる「左遷地」で、
海に面しているも、戦略上においてはまったく無意味な位置に存在する基地であった、
いや、はずだった。
つい数分前に連合企業側ではこの基地が作戦上超重要ポイントと変わったのだ。
この基地で不運にも問題兵ばかりを統率することとなった人物は「シュナイダー・
ハイデンベルグ少佐」といった。彼はパイロット養成学校を主席で卒業したものの、
赴任後半年もしないうちに「性格に問題あり」とされてレパノス基地に左遷された。
「この基地にとばされてはや１年か・・・あれからろくに実戦もなく腕は落ちる一方だな。
・・・・・・チェチェン少尉、今日のニュースは」
「っは、前線にて小規模な戦闘が何回かあったとのことです。被害はスパイトフル改が
２機大破、パイロットは両名とも死亡」
チェチェンと呼ばれたこの男、赴任直後からのシュナイダーの部下で左遷時も
同時に飛ばされてきた。
「そうか・・・また訓練したての兵が死んだのか、ふんっ、そんなことなら私を前線に
もどせばいいのだ！それなら一瞬にして優勢にもちこめるものを！だいたい
スクリーマーは何をしているんだ、奴らさえ出れば一機に勝負は決まるんじゃないのか？
どうも好かん」
「っは、小官にはまったくわかりません」
「そうだろうよ、俺にわからなくてお前にわかってたまるか、
まあいいガレージを見にいくぞ」
「了解しました」
彼の駆るＡＣ「ヘルバーツ」は逆間接タイプ、まだ開発したての新機能「ステルス機能」を
つけており、武装はエネルギースナイパーライフルとレーザーブレードだ。
自称「命中率１００％」である。
完全に一対一専用ＡＣで、対多数戦闘は弾数敵に不可能な機体である、もし相手が
多数の場合、武器を変えて出撃する。とにかくステルスを持って離さない男だ。
「整備班長、いつでも出られるようにして置けよ！」
「了解しております、少佐。（ばぁ〜か、ここに敵が来るとでも思っているのかねぇ）」
シュナイダーは整備班長にそう確認すると、チェチェンと共にガレージを出ていった。
「シュナイダー行ったようだな、お〜い、みんなぁ！今日はこのくらいにしておこうぜ、
どうせ敵なんてきやしないんだからよ」
どうやらいつもこの調子らしく、シュナイダーの定時巡回の後すぐに整備班は解散した。
しかしこの整備班長の行動が後の運命を大きく変えることになるとは誰が予想できた
であろうか・・・・・・。
その後シュナイダーは本部へ定時報告をして、定時就寝に至った。おそらく明日も
また定時起床だろう。
１２月９日の１２時、ザックス第５小隊はトレイディシティから南に１０ｋｍほどに位置する
スペースポートに集まっていた。二日前に全部隊の配置が決定し、宇宙へ飛び出すのは
ハイデッカー第３小隊、ザックス第５小隊、カムラス第７小隊、そして地上部隊配属を
強く希望していたがかなわなかったシグルド第１２小隊とされた。情報漏れを警戒して
４小隊はそれぞれ違ったスペースポートから宇宙へ飛び出すことになっていた。
「私が今回君立ちの護衛を担当することになった戦艦ドレッドノートの艦長ブリザード・
ラブラニカ大将だ」
この男ブリザード・ラブラニカは４２歳と中年だが、その艦艇運用能力と戦術は卓越している。
この艦の艦長となる前はとある企業の海上警備隊総監を任されていたほどの人物だ。
上層部からの信頼もあつければ、兵士からの信頼も厚い。
連合企業側の中でも優秀人物の一人だ。
「もう作戦内容についてはチェック済みだとは思うが、念のためにもう一度説明しておこう。
今回の作戦ではザックス第５小隊を乗せた本艦とその他のＡＣ小隊を乗せた降下艇が３隻、
それに宇宙巡洋艦８隻に宇宙駆逐艦を１６隻が投入される。まず本艦は１２３０大気圏脱出、
１３００チェインルーブル衛星基地にて補給後１４００出発、１４２５他の３小隊を乗せた艦隊
と合流、１５００大気圏降下となるわけだが、敵の索敵可能範囲から考えると敵との
推定接触時刻は１４４０だ。１４５０に本艦と３隻の大型降下艇以外の艦艇は撤退、
我々は大気圏降下となる。護衛艦隊が撤退して降下までの１０分間、
なんとか敵の攻撃に耐えなければならない」
「ま、その点はこの「超弩級戦艦」の力に期待してますわ」
桃季が言う「超弩級」とはほかの艦艇に比べてはるかに大きいこと、強力なことを言う。
超弩級戦艦「ドレッドノート」、今回使用するのはその３番艦である。１及び２番艦は
それぞれ大破壊以前の艦艇で地上戦艦と通常海上戦艦の２艦となっていて、
現在両方とも連合企業側の装備である。この３番艦は１、２番艦を元に建造されたもので、
その武装はすさまじく主砲には「ジャスティス２」を搭載している。
（ジャスティスはアーマードコアに出てくる超巨大砲、人類を地上に住めなくした張本人。
２はその強力すぎたジャスティスの出力を抑え、ムラクモ・ミレニアムが密かに開発していた
戦艦搭載用砲塔である。）その威力はすさまじく、一発で小惑星を木っ端微塵に
してしまうほどだ。しかしさすがにこれは公表されてはいない。いくら出力を下げたとはいえ、
地上を崩壊まで追いやった「ジャスティス」を搭載されているなどということは
味方にさえ知られるとまずいのだ。
「まぁこの船の性能を信じて欲しい。これ１艦あれば通常戦艦６隻と渡り合えるからな、
それに実弾・エネルギー防御強化フィールドがあればある程度の攻撃には耐えられるよ。
それにだな、この艦の武装は・・・・・・」
ラブラニカは確かに優秀人物であったが、ドレッドノートについてだけは例外で、
彼が船について語り出したらとまらないというのは有名な話しであった。
「いやはやものすごい装備だぜ、それだけあれば敵も歯が立たないだろう、なぁ？ロイド」
無理矢理話しを止めたかと思うとすぐにロイドにふるザックス。
横で桃季がクスクスと笑っている。
「いやはやまったく同感です。それにラブラニカ大将の手腕が加わればまさに鬼に金棒です」
ロイドもロイドで、まるでふられるのを待っていたかのように返答する。さすがロイドも
４年間ザックスと付き合ってきただけのことはあった。ザックス、ロイド、桃季、シーマットが
初めてか顔をあわせたのは４年前のことで、まずザックスがＡＣ小隊長に任命された後
それぞれが拝命された。その後すぐに前線へ配備され、同時期配備された前線の小隊が
次々に壊滅、再編成されるなかザックス第５小隊は一人も脱落することなく４年間を前線で
過ごしてきた。いわば連合企業側の古参メンバーであり、途中幾度も昇進チャンスがあった。
しかしザックスの性格がいままでの昇進チャンスをおじゃんにしてきた。彼は昇格というものを
あまり好まない人間だったので、昇進ギリギリのところでわざと小さなミスをおかすなどして
そのチャンスを棒にふるってきた。そしてその被害はロイド達にまで及んでいった。
しかし誰もザックスには文句を言わず、彼らもまた昇進チャンスをおじゃんにしていった。
みんながみんな昇進を嫌うと言うことは無いが、ロイド、桃季、シーマットさえもザックスのことを
心のそこから敬愛し、尊敬していたからのことであった。
「ふんっ、まぁいい、とにかくこの船を信頼してもらえば良い。・・・・・・そろそろ出航時間だな。
これよりこの艦はチェインルーブル衛星基地に向けて出航する。ではチェインルーブルで会おう」
ラブラニカは不服そうに話しを終えると、ブリッジへと戻って行った。
ザックス達は少しの間笑いこけていたが、すぐにまじめな顔になりお互いの顔を見合わせた。
「・・・出航・・・とうとうね」
「とうとうですね」
桃季とシーマットそろって言う。
「そうだ、とうとうだ」
ロイドが軽くうなずき、ザックスもまた覚悟を決めたように言う。
「いいな？お前ら、もしかするとこれで俺達は死ぬかもしれない、いやこんなむちゃな作戦だ、
死ぬ確率の方がはるかに多いだろう。１：９といったところか？シーマット」
苦笑するシーマット。
「シーマットも言う通り、死ぬ確立はかなり高い。一応聞いとくが誰か降りる奴いるか？」
ザックスが３人に問う。３人はとっくに覚悟を決めていたように何も言葉を発さない。
「よし、それでこそお前らだ、ザックス第５小隊だな」
「艦内に通達、これより本艦はチェインルーブル衛星基地へ向けて出航する。
『メティオ作戦』の発動は出航時刻と同時刻とするそうだ。
最終チェックは済んでいるな・・・・・・では全メインエンジン点火！」
ラブラニカの艦内放送が終了するとドレッドノートは６つのメインエンジンを始動、
護衛の巡洋艦２隻、駆逐艦４隻と共にけたたましい爆音と爆風をあげながら上昇を始める。
「さて・・・どうなるかな・・・」
ロイドが他人には聞こえないくらいの声でつぶやいた。
艦内の振動もすさまじく誰にも気付かれなかったようだ。
ザックスら４人を乗せたドレッドノートが大空へ羽ばたいたと同じに他の３つの
スペースポートからも３機の大気圏降下艇と護衛艦隊が出航した。
宇宙へ飛び出ることになった１６人のレイブン達と何千人ものクルー達にとって最も激しく、
そして最も悲しい出来事となってしまった『メティオ作戦』の火蓋が
切って落とされたのだった――――。