「敵襲！敵しゅ・・・うわぁぁぁ！」
ザックス達降下部隊が宇宙へでたのが１２３０、レパノス基地に敵発見の知らせが
入ったのはその１０分後、１２４０のことだった。
「何だと！？・・・・・・・・・ふっ・・・ふふっ・・・はっはっはぁ！この時をどれほど待ち望んことかっ！
いまこそ我が実力を世に知らしめるとき！いくぞっ！チェチェン！」
１２時４０分に世界で一番戦い待ち望んでいたのは文句無しにシュナイダーだっただろう。
レパノス基地に飛ばされて１年、とうとう彼にも戦闘の機会が与えられたのだ。
「イエッサー！シュナイダー少佐！」
すぐさま二人は作戦指令室へ向かった。
『メティオ作戦』における最初の戦闘がいままさに開始されようとしていたのであった。
今回レパノス基地方面から出撃することとなったのはマシュー第１ＡＣ小隊、
ランパオ第２ＡＣ小隊、リリィ第１１ＡＣ小隊の３個小隊で、この３小隊の指揮を
とることになったのは陸軍中将ガリレオ・デモンスカとされた。
「全軍に告ぐ、これより正面総攻撃を開始する。レパノス基地の第２１ＡＣ中隊は
寄せ集めの集団だと聞く。そのような雑魚どもなどひねりつぶしてやるのだ！全軍突撃ぃ！」
ガリレオの突撃命令と同じに第一陣である数十機のＭＴ、戦車が地響きを立てて
レパノス基地正面ゲートへ突撃を開始した。
「敵ＭＴ及び戦闘車両多数きます！」
「第一陣だなっ！少佐、ＡＣで！？」
オペレーターの通達を受けたチェチェンが叫ぶ。彼もまたかなり興奮している様子である。
このあたりはシュナイダーとチェチェンの共通点でもあった。
「いや、おそらく敵はＡＣ部隊が本陣だろう、それまでは我々も
ＡＣ以外の武装で応戦するのだ！要塞砲一斉発射！」
シュナイダーが一斉発射命令を出すとそれはすぐさまオペレーターから各砲台へと伝えられる。
「主砲、ってぇ！！」
レパノス基地の全砲門が開かれた。次々に発射される火球は連合企業側ＭＴを
次々に吹き飛ばして行く・・・かと思われたが、なんともまずい射撃であった。
コンピューターまかせであるはずが、どうも設定がまずかったらしく、いまいち
命中しなかった。それでも戦車に至っては機動力上避けようがなかったりしたので、
一瞬にしてＭＴ、戦闘車両の４０％がただの鉄の塊となってしまった。
まるで捨て駒だった。
「まぁこんなところだな、無人兵器部隊を後退させよ！敵砲台の数は判明したか！？」
数分立った後デモンスカが命令をだすと、すぐさま戦闘計算結果が報告された。
「ふむ・・・みなよく聞け！敵要塞砲の数が判明した。左と右の塔にそれぞれ
３００ｍｍカノン砲が２門づつ、中央の施設に４５０mmカノン砲が２門、
ほか全体数十箇所にガトリング砲が多数すえつけられているようだ」
敵の攻撃状況からコンピューターが瞬時に判別した砲台数だ。普通砲台数等は
作戦前に判明することなのだが、レパノス基地は場所があまりに辺境の地なので
いままでに調べられたことが無かった。今回の作戦は最高機密なので、余計な刺激を
与えないよう事前調査も行われなかった。
「さすがデモンスカ中将、相手に第一陣と思わせられるほどの部隊を投入し、
それで敵要塞能力を計算する、か」
「でも、消費しすぎじゃないかしら？いくら無人兵器だからといって・・・」
ＡＣ小隊長であるマシューとリリィが会話を交わす中、ランパオは横になって仮眠をとっていた。
「それにしてもこいつも無駄がないよな、仮眠ってわけか」
「っし！聞こえるわよ！」
「・・・余裕で聞こえてるさ」
リリィの制止もかなわずランパオのそれほど大きくもない体が立ちあがった。
「おっと、聞こえてたかい。そりゃすまなかったな」
「まぁ・・・いいさ。・・・・・・・・・呼集か」
胸バッジのランプが呼集を知らせた。ランパオは無言のまま部屋を立ち去った。
「・・・なんか気にかかるやつだぜ、あいつは」
「まぁ同僚なんだからさ、気にしないことね」
そう言うと椅子に腰掛けていたリリィとマシューも作戦室へと急いだ。
「整備班長！ヘルバーツの整備は完璧なんだろうな！？」
「いえ・・・それがっ・・・・・・」
まさか整備班長も敵が攻めてくるとは思ってなかったわけで、ここ数日ＡＣの整備は
からっきしであった。武器の照準チェックやＦＣＳ冷却チェックなど細かな作業は
全然していなかった。しかし残念なことに整備班長はここで素直に謝れるほど
できた人間では無かったのである。彼は真実を告げず嘘をついてしまった。
「っも、もちろん完璧であります！少佐、いつでも出撃できます！」
「うむ、ようやく今までの苦労が役に立つときがきたのだ、もっと良い顔をしろ、整備班長」
「っは！少佐のご活躍を期待しております。（もうこうなったら後は野となれ山となれだ！）」
もうやけくそな整備班長、徹底的に嘘をつき通してしまった。
「チェチェン！第２１ＡＣ中隊の初陣だ！」
「了解！」
第２１ＡＣ中隊は６機で構成されている。俗に「落ちこぼれ中隊」と呼ばれているのも
納得できる話しだった。シュナイダーとチェチェン以外のパイロット技術は
それなりにあるものの、ほとんどシュナイダーの命令をきかず統率もまるで無い部隊であった。
「ヘルバーツ、でるぞ！」
「敵ＡＣ及びＭＴ多数確認！」
「とうとう来たか、我々もＡＣで応戦する！マシュー、ランパオ隊は出撃！
リリィ隊は本部の守備にあたれ！」
「よし！ランパオ、行くぞ！」
それぞれ６機づつのＡＣが戦闘を開始したのは１２時５０分のことであった。
連合企業にとってシュナイダーは無名の存在だったわけだが、
この戦いにて彼の実力は証明された。そう天才なのである、彼は。
「っはぁ！！！」
シュナイダーはチェチェンとともにいきなり敵ＡＣ中心部へと突撃した。
「我が中隊に作戦は無用！頼れるのは己の力のみ！」
シュナイダーのとった行動は、各々が自分自身を最強と思っているメンバーを
一つにまとめるのは無理だと踏んでの行動だった。ここでの彼の判断は正しかった。
「まずはＭＴだ！」
そう言うとシュナイダーはＭＴ部隊に踊りかかった。ボルボテック側の優秀な
パイロットはみな剣技を極めている。それは強化人間のスクリーマーしても
普通の人間のシュナイダーにしても同じことであった。
「・・・・・・！？」
その一部始終をＡＣの中から見ていたマシューは絶句した。シュナイダーが右に、
左にとサーベルを振った瞬間、彼の横にいたＭＴは次々と機能を停止していったのだ。
それは合計４回続き、合計８機のＭＴが一瞬にして破壊された。
「っば、ばかな！この基地にこれほどの奴がいるなんて聞いてないぞ！」
マシューは言い放ったが、次の瞬間彼にそんなことを言う暇は無くなった。
「そこの隊長機！私が相手だ！」
マシューに勝負を仕掛けたのはチェチェンであった。連合企業側陣営は予想外の
敵の突撃によりてんてこまいしていた。すでに乱戦状態に陥っており、
マシューの護衛ＭＴも自分の命を守るので精一杯だ。
「私も連合企業軍の兵士だ！相手が誰であろうと戦うのみ！」
チェチェンの駆るＡＣは赤白カラーの「コレニコフ」と言い、特に秀でているところもなく
劣っているところも無い平均的ＡＣである。逆にマシューの乗るＡＣ「ルールメーカー」は
４脚に武器腕とかなり特異で、カラーリングは連合企業正規カラーである。
「っく！しかしっ！」
コレニコフのライフルがルールメーカーに肩に数発命中するが、バランス一つ崩さず
マシンガンで応戦する。さすがバランス重視の４脚と言うだけはあった。
「マシンガンをくらえ！」
ルールメイカーは空高くジャンプすると、そのままホバリングをしつつ腕武器である
４連マシンガンを発射した。すさまじい数の弾丸がコレニコフに向かって発射されるが、
コレニコフは弾丸を避けもせず、弾をくらいながら直線的な動きで空中のルールメイカーに
向かって飛び上がる。そして距離およそ７００のところで、チェチェンはひっきりなしに
撃ち続けられるマシンガンの中、追尾機能無しの大型ロケット弾をルールメイカーの
正面に向かって撃ちこんだ。そして同時に空中サーベル突きへと持っていく。
「！！！！」
辺りに爆炎と金属の破片が飛び散った。しかしそれはルールメイカーのものでは無かった。
護衛有人ＭＴがマシューをかばってチェチェンのロケット弾とサーベルを全て食らったのだ。
ＭＴの装甲がそれに耐えられるはずもなく、中に乗っていたパイロットは最後の言葉を
発することもなく爆発と共に散った。
「くそぉ・・・俺をかばってくれたのか・・・・・・ぐはぁ！」
マシューに部下の死を悲しんでいられるほど余裕は無かった。
着陸後すぐさまチェチェンのライフル弾の直撃をうける。
「戦場では人の死を悲しんでる余裕なんてありゃしないんだ！
そんなのが小隊長をやっているなんて笑わせてくれるな！」
チェチェンはすぐさまルールメイカーと距離を置くと、大型ロケット弾の発射に持ちこむ。
「当たるかっ！」
マシューは我に帰り、間一髪でロケット弾を回避する。すぐさまブーストダッシュで
得意の中距離まで距離をとると肩のチェインガンの発射態勢に持ちこんだ。
「来るのかっ！」
チェチェンはチェインガンの攻撃を読み射程範囲から逃れようとバックダッシュをした。
しかしルールメイカーから発射されたのはチェインガンの弾丸では無く大型ミサイルだった。
このミサイルは弾速の遅い分攻撃力の高い一撃重視のミサイルだ。
「ロック完了、いけっ！」
「しまった！ダミーか！」
マシューはチェインガンを撃つと見せかけて大型ミサイルの発射をカムフラージュしたのだ。
「いかん！間に合わない！」
大型ミサイルがコレニコフの胸部に直撃する、胸部へのダメージは大きいものの
まだまだ戦える程度だ。こんどは逆にマシューが攻撃の手を緩めること無く
チェインガンを連射しながらコレニコフに高速接近する。
「なんのっ！」
チェチェンもすぐさま高速移動態勢に入りチェインガンの８０％の回避に成功する。
ライフルで牽制しつつルールメイカーの周りを回り始める。
「よし、軌道に乗ったな、今日は特別に私の得意な戦法とお見せするとしよう。」
そう言うとチェチェンはまるでルールメイカーの周りを衛星のように周り続ける。
「なんだ・・・！？」
マシューもコレニコフの動きを追うようにマシンガンを連射するが、
回頭の速度よりもコレニコフが旋回するスピードの方が速い。
「くそっ！捉えきれない！」
「・・・・・・・・・もうそろそろいいだろう・・・いくぞ！衛星が惑星に落ちる時！サテライトアタック！」
チェチェンはまるで必殺技のようにそう叫ぶと、ルールメイカーの周りを旋回するのを止め、
いきなりコレニコフを緊急回頭させルールメイカーに向けて突進する。旋回のペースに
完全にはまっていたマシューは急なコレニコフの回頭に反応できず、
そのままコレニコフに横部をさらけだしてしまった。
「しまったぁ！」
「！！！！そこだっ！！！！」
次の瞬間ルールメイカーの横腹にコレニコフの青色のサーベルが深々と突き刺さった。
「勝負ついたな」
ルールメイカーは機能を停止したかのように見えた。
しかしマシューはあきらめてはいなかった。
「・・・このままじゃ俺は無能で人生を終えてしまうじゃないか・・・・・・、
そんななるわけにはいかない！リリィ！先に言ってるぞぉぉ！！！！！！」
サーベルはコクピットにまで深々と突き刺さっていた。しかしマシューは最後の力を
振り絞って武器腕の方向をコレニコフに向ける。
「何っ！」
「いっしょに死んでもらうぜ・・・・・・・・・・・・零距離射撃だ」
マシンガンから残存する弾丸がコレニコフの胸部へと撃ちこまれる。
大型ミサイルで脆くなっていたコレニコフの胸部はマシンガンの零距離射撃には
とうてい耐えられなかった。
「あばばばばばばぁ！ぐふっ、そん、な、ば、か、な・・・」
「ぐふっ・・・私としたことがここまで完敗だったとは・・・名前を聞かせてもらえるか・・・」
マシューもまたサーベルによって破壊されたコクピット横部の破片で致命傷を負っていた。
「ふんっ・・・・・・名前なんて・・・・・・教えられるかよ・・・・・・」
「そうか・・・ならばもう思い残すことは無いな・・・」
「あぁ・・・・・・そうだな・・・・・・」
マシューは最後に数発残っている大型ミサイルをランチャー内で爆発させた。
それはすべてのミサイルを誘爆させ、マシューとチェチェンは二度と戻らぬ人となった。
マシューの訃報が連合企業陣営に知らされた頃にはほとんどの戦闘が終了していた。
もはや第２１ＡＣ中隊はシュナイダー以外はほぼ全滅し、ＭＴ、要塞砲もその大半が破壊されていた。
「もはやそちらの敗北は決定的だ！無駄な抵抗は止めて投降しなさい！
悪いようには扱わんことを約束する！」
「くそぉ、なんてことだ、チェチェン！チェチェンはどうした！」
ヘルバーツ内でシュナイダーが部下にチェチェンの所在を確認した。
しかしその時すでにチェチェンは帰らぬ人となっていた。
「チェチェンは死んだぜ、どうだい、こんどは俺を副長にしないか？」
その報告を聞き、シュナイダーはこの部下を一発殴り飛ばすした。
その時シュナイダーはそのプライドによって涙をこらえることができた。
おそらくシュナイダーを少しでも知っている人物なら、彼が人の、
それもいつもこきつかってきたチェチェンの死によって涙を流すなどと
いうことは予想できなかったであろう。
「そうか、チェチェンが死んだか。チェチェンが死んだか、死んだが、死んだか、死んだか・・・・・・」
シュナイダーは狂ったようにそのセリフを繰り返した。そしてすぐにヘルバーツを起動させた。
「死んだか、死んだのか・・・・・・！！！」
彼の最後の一言は言葉にならなかった。それが怒りだったのか、悲しみだったのか、
それとも他の感情だったのかはわからない。しかしシュナイダーはヘルバーツに乗ると
単身で連合企業陣営へ突っ込んで行った。
その後のレパノス基地での戦闘は記録には残ってはいない。というのも
この後ランパオ率いる一派が連合企業側を裏切ったのだ。
しかしシュナイダーは奇怪なことにランパオの裏切りを許さず、
ランパオも当初はシュナイダーを仲間になるよう説得していたのだが、
あまりに説得に応じないのでＡＣでの戦闘にもつれこんだ、ということまで
はわかっている。
また、レパノス基地の整備班長がヘルバーツの整備を怠っていたことが
わかったことにより、シュナイダーは敗北したとされる説がこの戦争から
何年もの先の軍事評論家達の有力説となった。
とにかくこの後はランパオの裏切りにより状況はパニックに陥り、
マシュー隊を失った連合企業側はリリィ隊が勇敢に戦ったものの、
そのリリィもランパオとの戦闘の末戦死、事実上連合企業レパノス基地派遣軍は
壊滅した。
一連の戦闘が終了したのは１４時２０分のことであった。すぐさまランパオは
ボルボテック会長ことゼセーナンに今回のメティオ作戦を説明し、
ボルボテック宇宙軍の出撃が決まったのが１４時２５分、
そしてザックス達を乗せた艦隊と戦闘が開始されたのは１４時３０分のことであった。
連合企業にとって作戦は大幅に狂いだしたのであった。