第５話　戦艦を愛した男

「Ｘ４宙域に４３個のエネルギー反応を確認、・・・・・・敵艦隊と思われます。接触まで２分」

「何だと！？まだ予定接触時間まで１０分はあるぞ！」

ラブラニカが敵艦隊の知らせに驚愕したのは１４時３０分のことであった。そしてその原因と思われるものがすぐさま地上本部から伝えられた。

「ラブラニカ大将へ本部から入電、レパノス基地によりランパオ少佐指揮する一派が反乱、マシュー少佐、リリィ少佐は戦死、デモンスカ中将の消息は不明とのことです」

「ランパオ少佐が裏切った！？なんてことだ・・・レパノス方面軍は全滅か！！それにデモンスカ中
将までとは・・・」

中年の大きな体が床に沈んだ。デモンスカはラブラニカの古くからの友人であったのだ。戦死の知らせではなかっただけ随分ましというものであった。

「デモンスカ・・・なんてことだ・・・」

ラブラニカは床にひざをつきながら大きなため息をついたが、すぐさまオペレーターが次の知らせをラブラニカに伝える。

「前方から多数のエネルギー反応、敵ミサイルです！」

「っく！回避運動はとるな！ミサイルを迎撃しつつ全速前進！」

回避運動はをとらないのは他の艦艇の防御力は皆無であるからである。あたればおしまいということだ。そしてドレッドノートのありとあらゆる所についている無数の対ミサイル迎撃機銃がミサイルに向けて火を吹いた。次々にドレッドノート周辺で巨大な爆発が起こる。ミサイルの爆発はさらに多くのミサイルを誘爆させていく。

「ミサイルによる弾幕を展開！防御フィールドは出力９４％を維持！小型戦闘艇は出撃準備！」

次々に命令がとび、部下はそれらを着実にこなしてく。将校、兵士ともよく鍛錬された者達ばかりだった。


「どうやら戦闘がはじまったようだな、予定より早いようだが」

すでに降下艇に収納されたＡＣ・フリーズサンズの中でシーマットが言った。他の３人もそれぞれＡＣに搭乗している。おそらく他の降下艇のレイブン達もすでに降下準備は完了していることだろう。

「そうらしいな、まぁあとはラブラニカ大将にまかせるしかねぇ」

ザックスが計器の最終チェックをしながら言う。しばらくして宇宙方面の全部隊にレパノス基地での一部始終を伝える通信が入った。それを聞いたレイブン達は驚愕の色を隠せなかった。

「うそでしょ！マシュー少佐とリリィ少佐が戦死！そんな！」

「そんな・・・・・・、リリィ少佐はランパオ少佐に殺されたなんて！」
桃季もロイドも小さなコクピット内で仲間の死に大きく嘆いた。ザックスは涙こそみせないが、そのショックは大きいようであった。ザックスがどう部下に激励の言葉をかけようか迷っていたとき、艦内が大きく揺れた。


「弾幕を突破したミサイル郡がフィールドに被弾、フィールド出力は８６％に低下、本艦への直
接ダメージはありません」

ドレッドノートには超大型のエネルギー防御フィールドが貼られている。小型ミサイルクラスであれば、ほぼノーダメージにすることができる代物だ。

「よし、レーザー８門開け！小型ミサイルは５秒間隔で発射！」

護衛艦隊は既に砲撃を始めていた。ドレッドノートもラブラニカの命令が下ると、ジャスティス２以外のミサイルやレーザー砲が幾十にも発射された。通常級の宇宙戦艦１隻に乗る乗務員はコンピュータ化もあってか約４００人と少ない（ドレッドノートには倍の８００人が乗りこんでいる）。よってこの一撃で数百の人間が死んだことであろう。

「敵艦との距離がもうありません。艦長、戦闘機発進命令を」

「うむ。戦闘機全機出撃、同時に全艦航行速度を６００ノットに抑えろ！」

両軍の距離がある程度知縮まると、人が一人ぎりぎり入れるくらいの大きさの小型戦闘機による格闘戦にもつれこんだ。両軍合わせて２００機ほどの戦闘機が入り交じって格闘戦を始めた。まだ宇宙における小型戦闘機技術は発達しておらず、そのほとんどがウェルキン４で（ウェルキンはアーマード・コアに出てくる小型戦闘機。４はその宇宙対応型である。）あった。

ボルボテック側はランパオからの情報により連合企業側の正確な装備を把握しており、ドレッドノートに匹敵するだけの艦艇を出撃させたことにより戦局は圧倒的にボルボテック側に傾いていた。１４時４８分、ドレッドノート艦隊はまだ予定降下ポイントまで辿り着けずにいた。

「艦長！そろそろ護衛艦隊撤退時刻です。しかしいま護衛艦隊が撤退すれば全滅は間違いありません」

「うぬぬ・・・まだ予定降下ポイントに辿り着けないとは・・・・・・何！？」
突如ドレッドノートの横で大爆発が起こった。護衛艦が１隻爆発したのだ。

「護衛艦クロニクル撃沈！」

「駆逐艦ラザートからＳＯＳ通信！」

「巡洋艦ミネルバ３撃沈！」

次々に護衛艦撃沈の知らせがドレッドノートに入ってくる。それを聞くたびにラブラニカの顔は怒りにまみれてくるのであった。

「くそっ、こんなに早く最終手段を使うことになるとは！」

「艦長、最終手段なるものがあるのでありますか！？」
ラブラニカはオペレータに向かって深くうなずくと、全艦隊に指令を出した。

「全艦に告ぐ。これより最終作戦に入る。このドレッドノートには最終手段として超巨大砲が仕
込まれている。実はすでに発射準備は整っている。その名はジャスティス２と言う」

その名前を聞いた瞬間、その場に居合わせたものは声すら出なかった。そんな中ラブラニカはどこか悲しい顔で話しつづけた。

「１４時５４分、ジャスティス２を敵艦隊左翼に向けて照射する。照射後ドレッドノート及び全
降下艇は敵左翼に突撃する。突撃後、護衛艦隊は撤退、以上だ」


「なんてことだ、この艦にジャスティスが搭載されてるって！？もう信じられないことばっかりだ！」

ランパオの裏切りのことと言い、ジャスティスのことと言い堅物なシーマットにとってはわけのわからないことばかりであった。

「戦争とはこんなもんなんだぜ」
ザックスの言ったこの短い言葉に対してシーマットは何も言えなかった。

「全員ＡＣのショック緩和システムは立ち上げておけよ」


「エネルギー充填７５％」

「敵戦闘機多数接近、ミサイルもきます」

ジャスティス発射には相当のエネルギーが必要とされる。しかし今回はあらかじめラブラニカの命令で密かにエネルギーが充填されていたので、必要な時間は３分というところであった。

「防御フィールドを８０％であと２分間耐えろ！防御フィールド以外のエネルギーは全てジャス
ティスにまわせ！」

「敵戦闘機にとりつかれました！振りきれません！」

ドレッドノートはエネルギー充填をしている中、外部からの攻撃は防御フィールドで防ぎきれるが、フィールド内からの攻撃への防御力は０に等しいのが特徴でもあった。ドレッドノートが敵に奪取されたことを考えて開発者が作った意図的な弱点であった。時間的にもドレッドノートは戦闘機を出せないので、対ミサイル迎撃機銃で応戦するしかなかったが、しょせんそんなものは役に立ちもしなかった。

ボルボテックのウェルキン４はドレッドノートのメインエンジン部分に正確にピンポイント攻撃を仕掛けていった。それに呼応して主砲やミサイルの攻撃もメインエンジン部分に集中された。

「エネルギー充填８２％」

「だめです！フィールド持ちません！」

敵全軍のピンポイント攻撃は見事にドレッドノートの防御フィールドにダメージを与えて行った。
そして間もなく、今でドレッドノートを覆っていた緑色のヴェールがとれた。

「防御フィールド消滅！再貼不可能！」

「艦長！メインエンジンに攻撃が集中、もちません！ジャスティス２のエネルギー量は７８％に低下しました！」

ジャスティス２はドレッドノートの４つのメインエンジンからエネルギーを供給している。よってエンジンの出力はそのままジャスティスのエネルギー充填に反映される。

「第２メインエンジンに中破！だめです、このままでは持ちません！消火班は全班メインエンジンに急行！」

ドレッドノートのエンジンからは次々に火の手が上がっていた。決死の消火活動もむなしく火は激しくなるばかりであった。

「っく、しかたがない。第４メインエンジン焼ききってもかまわん。その全てをジャスティスに注げ！出力９２％で発射する！」

ラブラニカは最後の決断を下した。エンジンを破壊してしまえばもはやドレッドノートはフィールドを張りなおせない。艦長は艦を棄てる覚悟であった。

「・・・・・・・・・了解しました。第４メインエンジン全エネルギーをジャスティス２にまわします」
ドレッドノート第４メインエンジン部分で大爆発が起こった。出力の上げすぎで爆発したのだ。宇宙空間で火炎と白煙に包まれていたドレッドノートだったが、ジャスティス２だけは必至の防御活動により無傷を保っていた。


「すまんな、俺の読みが浅かったまでにお前らまで道連れにしてしまって」

ここにきて誰一人も、少なくともブリッジ内では誰一人艦長の命令に背くものはいなかった。みなドレッドノートと、そして艦長と運命を共にする勇気を持っていた。

「ドレッドノートあっての我々です！艦長には一生ついていく覚悟であります！そうだろ、みんな！」

副長がそう言うと乗組員達は一斉に歓声を上げた。


「エネルギー充填９２％！照射できます！」


「・・・よし、ジャスティス２、撃てぇ！！！！！」




艦首にあるジャスティス２の先にエネルギーが収縮していく。




そして、光は放たれた。



一本の太い光の柱がボルボテック艦隊に向けて突き進んでいったかと思うと、それに触れた艦艇は一瞬にして分子レベルにまで破壊されていった。あまりの威力のためそこに存在する空間が一瞬ねじれ、それに引き込まれた艦艇もあった。一瞬にしてボルボテック艦隊左翼に大きな穴が開いた。

ドレッドノート内では誰もが言葉を出せなかった。その圧倒的な威力に恐怖さえ覚えたのだ。

「こ、こんなものが・・・これはもう兵器なんてものじゃない・・・」
オペレーターの一人がモニターに目をくぎ付けにしながら言った。

「ぐずぐずはしていられんぞ！全艦敵左翼に突撃！」
ラブラニカがすぐにその沈黙を断ち切り、命令を下した。ドレッドノートの動きに呼応して他の３機の降下艇も動き出した。同時に護衛艦隊は最後のミサイルを発射しながら撤退して行く。

「これで何とかなってくれ！」

ラブラニカは祈るように言った。そしてすぐさまプライベート通信をザックスにのみ送った。

「ザックス少佐、今少佐だけと通信している。現在の時刻は１４時５９分だな。３分後降下シャトルを分離、私が最も信頼できる人物、ラザード大尉の操縦でボルボテック本拠地へ向かうようになっている。降下艇分離から大気圏内に入るまでは我々が援護する」
ラブラニカが、モニター通信回路を通してザックスに呼びかけた。

「おい、もう援護なんてできる状態じゃないだろう、どうするんだ」
ノイズがひどい中ザックスが言った。

「・・・・・・回りは敵だらけだ。だがボルボテックとて人間だ。降伏者は暖かく迎えてくれるだろう」
ザックスはモニターに映るラブラニカの顔にどこか固い決意があることを感じた。

「そうか、あんたはどうするんだ？」
またミサイルの直撃をうけたのか艦内がひどく揺れた。

「私はドレッドノートの艦長だ。我が人生はドレッドノートとともにありだよ」

「そうか・・・・・・止める気はねぇぞ」

「この事はあんたの部下には言うな、あんたの部下はデリケートだからな。あとデモンスカにもよろしく言っておいてくれ」

「まかされた、他になんかあるか？・・・・・・・・・おっと・・・通信が途絶えたようだな」
先ほどのミサイル直撃で艦内の通信システムのほとんどが不通となってしまったようであった。


「通信が途絶えたか・・・・・・・・・よし！降下艇発進！」
ラブラニカの命令と共に降下艇がドレッドノート底部から射出された。ミサイルの飛び交う中、４機の降下艇が一斉に高度を下げて行く。

「ラザード大尉、頼んだぞ」


「艦内の予備通信システムで緊急退避命令をだせ」


激しい振動の中、艦内に緊急退避を知らせる放送と、エマージェンシーコールが鳴り響いた。脱出用ポッドがドレッドノートのいたるところから次々に射出されていく。ドレッドノートにもなると２０メートル間隔にポッドが配備されているため、特に混乱することも無く脱出することができるのであった。一瞬にして艦内に人の姿は無くなった。

「ボルボテックも鬼ではあるまい、降伏者は暖かく迎えてくれるだろう」

ラブラニカ達のいるブリッジ部分にも脱出用ポッドは装備されていた。

「艦長、乗組員の９６％の脱出を確認、順調です。我々も脱出しましょう」

「・・・・・・・・・うむ、そうだな」

ブリッジにいる３０人ほどのオペレーター達は１５人づつそれぞれ２つのポッドに乗りこんだ。

「乗組員の１００％の脱出を確認」

「よし、お前も乗るんだ」

「っは、艦長も早く！」
ラブラニカは先に最後のオペレーターをポッドに乗せると、自分は中に入らずにポッドにドアを閉めた。

「！！！！！！！！」
ポッドは完全機密性なので中の声はラブラニカには届かなかった。

「すまない・・・・・・私はここでドレッドノートと共に死を選ぶよ」

「！！！！！！！！」

ポッド内で泣け叫んでいるオペレーターを見ながら、ラブラニカは脱出ポッド発射ボタンを押した。最後のポッドが発射される。数十の脱出ポッドが燃え盛るドレッドノートから発射される様はまるでドレッドノートの涙のようだったと脱出した一人が後に語ったと言う。

「脱出ポッドは無事保護されたようだな」

脱出ポッドが発射され始めた時から攻撃は止み、艦長が一人艦内に残ったことを知ったボルボテ
ック側の総司令官が最後通告のための通信をドレッドノートに行った。

「私はボルボテック宇宙艦隊総司令官ハムダットである。ラブラニカ大将か」

通信スクリーンを通してハムダットと名のる人物がドレッドノート内のラブラニカに問いかけた。

「いかにも、ドレッドノート艦長ラブラニカである」

「もはやドレッドノートの攻撃・防御能力は皆無である。我々の艦隊をここまで壊滅に追いやったのだ。生かしておくわけにはいかない。だがあと３分間だけ待とう、全ボルボテック艦艇内のそなたの仲間がいるポッドにつないでやるからな」

ドレッドノートのブリッジ内ではラブラニカがたった一人、いつもの椅子に、いつものポーズで腰掛けていた。

「この４年間、あっという間だったか・・・・・・ドレッドノートが完成した時から私達はずっといっしょだったな」


「この声は、艦長！」
回収された乗組員達がスピーカーにかじりついた。


「処女航宙では偶然敵と出会い、いきなりの戦闘だったが辛くも勝利した」


「あと２分だ」


「この時からドレッドノートと私とおまえたち乗組員は常にセットで戦闘に配備されていったな」ブリッジ正面にある巨大スクリーンの前でラブラニカは足を止めた。

「その後着々と勝利していき、気がついた頃には全世界で文句無しに最強の船だとまで言われるようになった」

ブリッジを歩くラブラニカ。

「あと１分」


「戦闘で始まり、戦闘で終わる、私にふさわしい人生だ」

ゆっくりと言葉を発していくラブラニカ。


「３０秒前」


「いままでありがとう、ドレッドノートとその乗組員達よ！」


「１０秒前」


「ラブラニカ大将に感謝の念を込めて！敬礼！」

オペレーターの一人が涙をこぼしながら敬礼をした。このオペレーターの言葉は全ドレッドノート乗組員には届いていなかったはずだが、ラブラニカの通信をボルボテック艦内で聞いていたドレッドノート乗組員達は全員、涙で顔をくしゃくしゃにしながら今までで最高の敬礼を行っていた。

「時間だな」

ハムダット総司令官が右手を上にあげ、勢い良く下ろした。全艦艇のレーザー砲が一斉にドレッドノートに向かって発射された。

全レーザーはドレッドノートに命中、光はドレッドノートの船体を貫き、そのうちの一本がメインエンジンをつらぬいた瞬間、ドレッドノートはまばゆいほどの光を発したかと思うと、いままでにない規模の爆発と共に、宇宙の藻屑となった。その爆発はボルボテック艦艇を大きく揺るがし、まるで誘爆するかの規模であった。


『メティオ作戦』の第２幕、ＡＣ降下作戦は予定時刻にＡＣ降下に成功したのだから一応成功となったわけだが、ドレッドノートを含む連合企業側の大半の艦艇が沈んだことによりこれは失敗だったのではないかという者もいる。

ザックス達を乗せた４隻の降下艇が敵の対空砲火の中地上に着陸したのが１５時８分のことであった。

味方の犠牲の上に成り立つ戦略。
最強の戦艦と謳われたドレッドノートも狂気の兵器「ジャスティス２」を放って轟沈。
艦と共に死を選んだラブラニカ大将、何を想っていたんでしょうね。

さ、読まれた方は、気力をＳＡＬさんに送って執筆活動をがんばってもらいましょう。