第６話　ライオネック＆ゲシュペント

ドレッドノートが撃沈したころ、すでにザックス達を乗せた降下艇は大気圏内へと突入していた。

「駄目だ！気付かれるたのが早すぎた！敵の対空砲火が激しすぎて着陸は不可能だ！」
ラザート大尉は必至に敵のミサイルを回避しながらコクピットの通信機器にどなりちらす。

「どうするんだ！エネルギーはもうないんだろ！？」
降下艇のエネルギーはすでに底を突きかけており、これ以上飛行しているわけにはいかなかった。まだ敵の戦闘機部隊が出撃していなかったのが彼らの寿命を延ばしていた。

「じきにウェルキンが飛んでくる、それまでになんとかしなくては」
ウェルキンとは戦闘機のことで、宇宙戦闘機ウェルキン４のベースとなった機体である。

「空中でＡＣを発進させてはどうかしら？」
桃季が提案する。降下艇による地上出撃はもはや不可能であった。

「そうだな、それしかなさそうだ。空中でＡＣを全機出撃、その後ラザート大尉脱出のための安全区域を確保する。これでいこう」

「でも降下艇の燃料が切れるまで５分もないんじゃ？」
ロイドは軍人魂というものを理解する年頃ではなかった。与えられた職務を全うするためには死をも恐れない、兵士は入隊した時からそう教えられるものであった。

「いや、いいんだ、少尉・・・こちらラザート大尉。全降下艇に伝達、全ＡＣを空中で出撃する。各小隊は降下艇乗組員脱出のための安全区域を確保せよ」

「２番艦了解」

「３番艦了解」

「４番艦了解」

それぞれの操舵士が答えた。

「よし、カウントダウン開始５、４、３、２、１、ＧＯ！」
ラザートの怒号と共に総勢１６機のＡＣが高度１００００から踊り出た。空中でミサイルを回避しつつブーストを全開にして全機着地に成功する。地上で彼らを出迎えてくれたのは百機近い機のＭＴの群れであった。

「２時の方向の駐車場を乗組員脱出用として確保する。ハイデッカー隊は右から、俺とカムラス隊は中央、シグルド隊は左から行くぞ」

「了解！」
中隊長のザックスが指示を送る。それぞれ４機づつ、４組みの小隊が陣形を組み、すばやく駐車場に向かって右、中央、左に展開していく。

「ＭＴごときに！」
最初にハイデッカー隊が怒涛の攻めで突撃して行った。ガンの牽制とサーベル斬撃の見事な連携プレーで、次々にＭＴを地に沈めていく。

「ハイデッカー隊はまるで鬼だな、しかしＡＣがいないのはどういうことだ？あまりにもろすぎる」
敵を撃破しながらつぶやくザックスだったかが、その疑問はすぐさま解決されることとなってしまった。

「右４５度よりグレネード発射を確認！これはっ！」
桃季の通信で全機ぎりぎりのところで回避に成功するが、ザックス小隊全員の脳裏にあの記憶がよぎったことは言うまでも無い。そう、このグレネードはザックス隊が一度経験済みの、あのグレネードだった。

「ザックス、駐車場の制圧はもうすぐ完了する！何やってんだ！」
ハイデッカー隊とシグルド隊が駐車場を制圧していた時、ザックス隊とカムラス隊は強敵に遭遇していた。

「２機のＡＣを確認！識別不能！」

「カムラス！気をつけろ！こいつらはハンパじゃねぇ！」
桃季の通信を受けたと同時にザックスが直感で言い放った。

「おいおい、たった２機だろう？　まわりのＭＴもほぼ全滅させたんだ・・・・・・」
カムラスの部下の一人はそう言ったが、１秒後にはこの世から消えることとなってしまった。

「おっ、おい！回避を・・・！」
カムラスが部下にそう呼びかけたとき、幾十の光条がカムラスの部下のＡＣを貫いた。口は災いの元と言うが、彼はそれを自らの命をもって証明することとなってしまった。１機のカムラス隊ＡＣがコクピット部分を貫かれ、爆発を起こすことなく地面に倒れこんだ。

「くそっ！トライアングルフォーメーション！守りを固めろ！」
カムラスが部下にそう命令を下すと、三機が全方向に対応できるように三角形状にフォーメーションを組んだ。カムラスが部下の死にそれほど動揺しなかったのはカムラス自身の性格によった。そして２機の謎のＡＣはその目標をザックス小隊へと変換していた。

「敵装備はグレネード及びカラサワレーザーライフルと思われますが、出力がまるで違います。おそらく改造型だと思われます」
桃季が言うように、２機のＡＣが規格から大きく改造された機体であることに疑いの余地が無かった。２機のＡＣはカムラス隊とザックス隊から３０００ほど離れた所で立ち止まった。

「前方２機のＡＣからのコンタクトを確認、通信回線開きます」
桃季の元へ２機のＡＣからの通信が入った。

「ザ・・・ザザ・・・・・・帰・・・れ・・・ザザザ・・・ザ」
ノイズのひどい中、謎のＡＣは忠告をする。

「『帰れ』と言っているようです」
桃季がザックスに伝える。

「『くそったれ』って伝えてやりな」
無線でザックスが桃季に言った。

「当方の返事は『くそったれ』です」
桃季がそのまま伝える。これも桃季の性格の一つであった。

「ザザ・・・・・・ザ・・・・・・ザ・・・・・・っち、せっかくノイズの演出までしたのに効果無しか、我々はスクリーマーが内の二人、私の名はライオネック、そして隣はゲシュペントだ」

急にノイズが晴れた中、ライオネック、ゲシュペントと名乗る二人はスクリーマーに所属するもの達であった。スクリーマーは何人で構成されているか不明で、現在わかっている人物はゼセーナン、シグルドが戦ったヒルダ、ザックスが戦闘経験のあるヴァーミリオン、そして今回のライオネック、ゲシュペントの５人である。

「おいおい、スクリーマーだってよ。どうりで強いわけだ。だがこれで安心したぜ」
今回のザックスに恐怖の色は見られなかった。

「なぜですか？　隊長」
ロイドが聞く。

「あいつらが少なくとも人間であることにだ、いくぞっ！」
カムラス隊３機とザックス隊４機が一斉に攻撃と仕掛けた。ライオネックの乗る機体は「テスピアイ」、ゲシュペントの乗る機体は「グリュプス」と言い、武装は２機とも高出力グレネードと超高出力カラサワ、あとはＬＳ−９９−ＭＯＯＮＬＩＧＨＴと同じで、違うのはカラーリングだけであった。別に兄弟でもなんでもないはずなのだが。

「まったく、嫌な役を請け負ったもんだな、ゲシュペント」

「・・・・・・・」

ライオネックとゲシュペントは軽く会話を交わすと左右に散った。

「俺達は紫をやる！」
カムラスはザックスにそう通信を入れるとゲシュペントの方へジグザグステップで攻撃を仕掛けた。カムラスの機体は中二足にバズーカ搭載と一撃必殺型のＡＣであったが、中二足の鈍さを感じさせない動きでカムラスは、相手に先読みされないようにこまめにパターンを変えながら３０００ほどの距離を一気に縮めていく。しかしゲシュペントは１歩も動くこともなくただ立っているだけだった。

「正面で受けてみろぉぉ！」
カムラスはサーベルの出力を最大にして最大スピードで、仁王立ちしているグリュプスに突きかかった。しかしグリュプスはやはりＡＣとは思えない動きでしゃがみ、相手の突きを頭上でかわしつつそのまま超高出力カラサワの銃口をＡＣの頭部へ密着させる。

「っしゃ、しゃがんだっ！？」
カムラスがそう思った瞬間メインカメラにレーザーが直撃し、一瞬にしてカムラスの視界は０に近くなってしまった。

「くそっ、どっ、どこだ！」
カムラスはパニックに陥り手持ちのバズーカを乱射させる。ゲシュペントはライフルを地面に捨て、両手でカムラスの機体を１８０度回転させた。すると乱射していたバズーカがやっとカムラスに追いついた２人の部下の１人に直撃してしまった。しかしカムラスはそれがわからず、部下をゲシュペントと勘違いしてしまう。

「っこ、これかぁ！一発当たればこっちのもんだ！」

カメラをやられたカムラスの機体は、味方にバズーカを連射する。

「たっ、隊長ぉ！レーダーを見てください！味方です！」
部下からの通信でやっと気がつくカムラスだったが、すでにゲシュペントが勝利するのには十分な時間であった。ゲシュペントはすぐさまライフルを地面から拾い上げ、カムラスを足場に２機のＡＣに斬りかかった。まずカムラスのバズーカで瀕死のダメージを負っているＡＣには着地するまでに一斬撃浴びせ、２体目のＡＣはバックダッシュで逃げようとするところにレーザーライフルを数射、ゲシュペントは武器をすぐにグレネードに変えるとバックダッシュ中のＡＣに直撃コースで撃ちこんだ。そして、グレネードを発射し終わった時にはグリュプスのサーベルはカムラスＡＣの胸部に深々と突き刺さっていた。

「所要時間４秒、消費弾数は腕５、肩１」
ゲシュペントが第一声を言い終わったと同時にカムラスのＡＣはコクピット部分で爆発が、サーベルを食らった部下のＡＣは上半身が斬り取られ、バックダッシュで逃げようとしたＡＣはグレネードで機体は胸部がえぐりとられるようになっていた。

「お、おい、嘘だろ・・・」
ザックス達がまだライオネックと睨み合っていたとき、横では一勝負負えてしまったのであった。

「これで４対１が４対２になったというわけだ」

ライオネックがそう言った時にはザックスの体はすでに動きだしていた。

「嘘だろぉ・・・４秒で３機かよぉ・・・なんなんだよぉ・・・・・・お前ら！！！！！」
ザックスの機体「ジャッジナイト」は流れるような動きで前方へ猛ダッシュした。

「やる気か、まぁいい、すこしは楽しませてくれよ」
テスピアイとグリュプスの共に重量級の機体が空高く飛びあがった。その時にはロイド、桃季、シーマットも動き始めていた。

「隊長！飛び出しすぎないでください！このままではみんな全滅ですよ！」
ロイドの忠告にザックスは耳も傾けず、１０００発マシンガンの照準を上空の２機に定め、思いっきりトリガーを引いた。

「っは！」
ライオネックは空中で左右に小刻みに機体を振り弾の弾道を狂わせると、上下移動で見事に弾を避けながらジャッジナイトの元へ急降下する。

「！！！！！！１」
ザックスは無言のうちにブースターをふかせ、全速で飛びあがる。空中で２機がすれ違いそうになった時、両者ともブレードを抜き放っていた。しかし互いにホーミング機能が働いたため、どちらとも空振りに終わる。ライオネックはその反動を利用して空中でブーストパワーを最大にし、すれ違ったザックスを追った。ザックスもすぐに空中で振り返り、ホバリングでライオネックを捉えるとマシンガンを連射する。

「おっと」
ライオネックは振り返ってマシンガンを確認すると、左右運動を繰り返しながら肩のグレネードを構えた。もちろん空中でだ。

「っちぃ！」
ザックスはホバリング運動を止めるといっきに急降下でグレネードのサイトから逃れようとする。しかしライオネックはその行動を読み、ちょうど落ちてくるあたりにグレネードを発射した。しかしザックスは落下途中で再びブーストを全開にし、グレネードを足元でやり過ごすことに成功した。

「っは！この爆炎からは逃れられんよ！」
グレネードはジャッジナイトの足元を通過した後、空中で大爆発を起こした。その爆発威力はまるでＷＭ−ＡＴ（核ミサイル）なみであった。

「っぬぉ！」
爆炎を背中からもろにくらったジャッジナイトは一気に地面に叩き伏せられた。ライオネックは急降下で、地面に倒れているジャッジナイトの上に全重量をかけ着地した。

「ぐはぁぁ！」
重量級のすさまじい重さがジャッジナイトのきゃしゃな胸部にのしかかる。

「おらおら、どうしたぁ！」
テスピアイは再び軽くジャンプをすると、ジャッジナイトの上に全重量着地でダメージを与え、カラサワを胸部に押しつけた。

「隊長！」
ロイドのスラスケント、桃季の倒福号、シーマットのフリーズ・サンズの３機はすでにゲシュペントのグリュプスと戦闘を開始していたが、ロイドがザックスの不利をいち早く感じ取り、すぐさまザックスの方へ駆け寄ろうとする。

「・・・・・・・・・！」
しかしゲシュペントはお前の敵は俺だと言わんばかりにカラサワの銃撃でスラスケントの足を止めると、猛然と斬りかかる。

「そうだっ、ミサイル！」
とっさにザックスは至近距離からのミサイル発射を思いつき、すぐさま行動に移した。が、それは失敗に終わった。

「おっと、ミサイル発射でも思いついたんじゃないか？　完璧なジャミングがあることを忘れるなよ」
ライオネックの言う通り強力なジャミングによりミサイルは撹乱されっぱなしであった。

「くそっ！こんなところで終わるのか！」
ザックスが一瞬あきらめかけたとき、ジャッジナイトの上、すなわちテスピアイにいくつもの銃弾が飛来した。

「応援に来たぞ！ザックス！」
シグルド隊全機の一斉射撃であった。駐車場の制圧を完了し、降下艇の乗組員達を無事着陸させたシグルド隊が応援に駆け付けたのであった。

「駐車場の守りはハイデッカーにまかせてある！乗組員達も全員無事だ！」
シグルドはそう言いながらテスピアイへの射撃を中断せず続ける。ライオネックはその射撃にたまらずジャッジナイトの上から上空へジャンプすると、カラサワライフルを撃ちながら距離を置くために後退した。ゲシュペントもロイドら３人の元から１度ライオネックの元へ後退する。

「これで８対２だ！いくらスクリーマーの隊員とは言え、この差を埋められるか！」

「いや、１６対２だな」
突然中年の男の通信が彼らの元へ入った。

「誰だ！まだ増えるのか！」
ライオネックもたまらず本音をだしてしまう。その声の主は連合企業軍第８ＡＣ小隊隊長レドルラック中佐であった。今回のミッションで前線に派遣されたＡＣ部隊の隊長である。今回ここに訪れたのはレドルラック中佐の部隊とルイス少佐の部隊の計８機だった。

「レドルラック中佐！それにルイス少佐も！」
ロイドがたまらず歓声を上げた。

「遅れてすまなかったな、ザックス。前線があらかた片付いたので残りはグリムゾン中佐とルーブルザント、それにハワードに任せてきたよ・・・・・・おっと、話しは後にした方がよさそうだな」

待ちくたびれていたライオネックとゲシュペントがやっと終わったかという表情で改めて自己紹介をした。ライオネックという人物像が少しはっきりしてきたようだった。

「改めまして、私はスクリーマーに所属しますライオネックと申します。隣にいるのはゲシュペ
ント、これはこれは連合企業のＡＣ部隊総隊長にお会いできるとは光栄な限りで」
レドルラックはライオネックの言う通り、連合企業軍ＡＣ部隊の総司令官を務め、同時にＡＣの腕も一流の人物であった。彼の配下には俗に「影の一隊」と呼ばれる部隊が存在し、これはスクリーマーを持っているボルボテックに１番恐れられていた。

「ちょうどよかった、君達に聞きたいことがある」
レドルラックが中年にして威厳を感じさせる太い声でライオネックに呼びかけた。

「まことに申し訳ありませんがそれはできませんねぇ。我々は敵からの質問には何一つ答えぬよう教育されていますので。いくらあなた様がゼセーナン閣下と唯一相打ちなさった御方でもその秘密だけは話すわけにはいきませんや」
ライオネックが下手に出ているのはレドルラックが唯一ゼセーナンと分けたことのある人物であったからであろう。

「そうか・・・・・・で、どうするのだ？引くのか、それとも戦うのか」

「まさか、あなたと戦うほど我々は無能者じゃありませんぜ。我々はここで引かせていただきますよ」

「うむ、命は大切に扱え」

「・・・」
ライオネックとゲシュペントはバックダッシュで地下への入り口から闇の中へと消えて行った。



「中佐、助かりました」

「いや、それよりも現状を聞こうか・・・・・・」

いきなり現れた『レドルラック』と言う人物に、ザックスは彼にカムラスのこと、宇宙でのこと等の一部始終を伝えた。

ザックスはレドルラックを良く思ってなかった。これほどの人物がなぜ中佐なのか、スクリーマーとも何かしら関係のありそうな会話、聞きたいことは山ほどあったが、今までにレドルラックの秘密を探ろうとした人間は全て謎の死をとげていることからザックスも聞けずにいた。
しばらくして補給部隊などが続々と到着し、すでにボルボテックの地下基地と思われる場所の周辺は連合企業の部隊で完全に固められていた。

レドルラック配下の『影の一隊』があらかた周辺の敵を一掃したとの報告が入ったのが１６：００のこと、すでにこの時ボルボテック側の戦力は、残存する宇宙軍、現在囲まれている地下基地、そしてレパノス基地のランパオ一派、だけとなっていた。多くのボルボテック側の企業が、『影の一隊』が動き出したと言う情報をうけて連合企業側に寝返り始めたからであった。そして・・・・・・・・・

「レドルラック中佐、『影の一隊』よりランパオ少佐を拘束したとの報告が入りました」

「そうか・・・・・・、抹殺しろと伝えろ」

一時はランパオの裏切りにより降下部隊までが全滅の危機にさらされたのだが、レドルラックの登場により奇妙なほど戦局は連合企業側に傾いてきたのであった――――。

スクリーマーのメンバー２人だけで、凄まじい強さですね。
ザックス達、普通のレイヴン達に勝ち目はあるんでしょうか？
レドルラック中佐も、強い味方・・・というには一癖ありそうですし・・・。

さ、読まれた方は、気力をＳＡＬさんに送って執筆活動をがんばってもらいましょう。