第７話　スクリーマー

「これより私、レドルラック中佐が『メティオ作戦』の総司令官となった。特将の辞任を受けたので、将官達も私の命令に従うように」
レドルラックの声がスピーカーを通して野営地のいたるところに鳴り響いた。特将とは緊急ミッション時などにおいて将官クラスの一番上にあたるもので、他に特佐、特尉なども存在する。

「おいおい、中佐からいきなり特将かよ、ますます謎だらけだな。大体レドルラックの姿を見たことのある奴はどれだけいるんだ？」
ザックスが赤々と燃える野営地の焚き火の前で丸太に腰掛けている。

「そう言えば、俺も見たことないな」
焚き火の周りにいるのはザックス、シグルド、ハイデッカー、護衛役のロイド（といってもザックスの方が格闘能力は上だが）の４人であった。

「おい、ハイデッカー、お前の親父から何か聞いてないのか」
ハイデッカー・ジルバッツ、彼は軍務局長エンフォッジ・ジルバッツの息子であった。ＡＣパイロットとしての技術もそう悪いものではなく、少なくとも親の七光りで小隊長の地位を得たのでは無いことだけは確かであった。

「いえ、軍務局長と言っても『影の一隊』は査察局の管理下ですからね」
その時全員の簡易通信システムに通信が入った。

「ん？　レドララック中・・・特将からですね、・・・・・・！？恐らく次の対戦相手になるであろうスクリーマーについわかったことがあると」

「何！？」
ザックスが急に目覚めたように目を光らせた。

「何々・・・今回発覚したのは隊員数とその情報・・・」

「まずスクリーマー総司令官であるアルフレート・ゼセーナン、搭乗機は「エンドレス」。両方についての情報は一切不明、強いて言うならエンドレス１機でデヴァステイター４機を５秒撃破したとの噂がある程度・・・」

「なんじゃそら、そんなの誰でも知ってるぜ」

「・・・・・・スクリーマーでも特に情報が少ないのがヴァーミリオンの「ケルベロス」とヒルダの「コカトリス」、この両者についてはゼセーナン並に情報なし」

シグルドとザックスの眉が一瞬ピクリと動く。

「さらにその下位に配置すると思われるのがルイという人物と搭乗機「キムメリオス」、ガーベラス、搭乗するのは「イクシオン」、ロキシズという人物と「シシュフォス」・・・か」

「そしてライオネックの「テスピアイ」とゲシュペントの「グリュプス」ですね」

「そうか、奴ら一番下っ端だったのか」

そこにいた全員が黙り込んでしまった。一番下っ端にさえ手も足も出なかったのだ。

「でも、すでに本拠地の回りは完全に連合企業軍で固めてあるんだ。いくらゼセーナンとは言えこんな無駄な戦いをするだろうかね」
シグルドが言う。

「さぁな、奴らは人間じゃねぇんだ。まだ宇宙軍も残っていることだしやるんじゃねぇのか」

「とにかく明日は決戦だ。本部からの応援も続々到着している。勝ち戦だといいのだが」
シグルドはそう言うと立ちあがり、ＡＣの方へ向かう。万が一に備えて就寝はＡＣの中だ。

「んじゃな、俺も寝る」

「ん、また明日」
夜中、ぞくぞくと連合企業軍勢がボルボテック地下基地に集結した。特にＡＣ隊については各地の制圧中のものを除き、生き残っているものは全て集結させられた。



恐らく最後の決戦になるだろう「スクリーマーVS連合企業全軍」の組み合わせが行われようとしていたのは朝早くのことだった。戦闘開始のゴングはとてつもなく激しい振動であった。

「なっ、なんだ！この振動は！」

突如大地がうなりを上げ始めたのだ。そして次第にボルボテック地下基地のある場所の地面が左右に開いていく。

「っけ、派手な演出だぜ」

左右に開いた地面から巨大なビルの頭が顔を出した。そしてそれはみるみる空高く伸びて行き、高度２００００にも達したかと思うとようやく停止した。それはまるで宇宙まで届いているかのようであった。


「・・・・・・スクリーマー、ゼセーナン以外全機出撃か・・・・・・なんてプレッシャーだ」
７機のギリシャ神話にちなんで命名されたＡＣがとてつもなく巨大なビルの屋上部分に集結している。地上からはそれが天使のようにも見えた。

「あくまでもやる気というわけか・・・・・・」

緊張のあまり微動だにできないハイデッカー。

「来るぞ！」
ザックスがそう叫んだと同時に、高度２００００より７体の天使、いや、悪魔が飛来したのであった。

いきなり空中から地面に向けて掃射されるカワサワの光、その光に次々と連合企業軍のＭＴが貫かれて行く。頭上から降り注ぐ光の雨があっという間にＭＴ郡を一掃していく。

「何っ！？全機緊急回避！」
一応の陣頭指揮をとっているザックスが叫んだ。光の雨はＡＣをも飲み込んでいく。カラサワを避けきれなかったＡＣが数機、撃破された。

「くそっ、奴らが地面まで到達したら一斉攻撃！ぬかるなよっ！」

７機のスクリーマーＡＣは円形状に展開すると、高度２００００から地上に着地した。その瞬間連合企業全火器が一斉に火を吹いた。７機のＡＣに向けてミサイルに、マシンガンやらが全て注ぎ込まれた。しかしそれは意味をなさなかった。地上に降り立った７機のＡＣはすぐさま再び空中に飛び上がると、７機全機が散り散りになった。

「全機索敵を怠るな！防御陣形！」
ザックスの指揮もむなしくすぐさま乱戦状態に陥ってしまう。スクリーマーはやはり目にもとまらぬスピードで次々とＡＣ、ＭＴ、戦闘車両を破壊していく。一騎当千とはまさにこのことだろうか・・・。そんな中、ヒルダとシグルドがいままさに戦闘を開始しようとしていた。

「やっとだ・・・やっとこの時がきた・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前を殺す！」
シグルドは弟への思いを心の中に、コカトリスに勝負を挑んだ。


「くらえっ！」
シグルドはマシンガンを連射しながらブーストを最大でコカトリスに飛びかかった。ヒルダはマシンガンの弾丸をなんとレーザーブレードで打ち払ってしまう。しかし、もうシグルドに驚いている暇は無かった。

「っは！もうどんなことが起きても驚かんぞ！もはや我が全力を持って戦うのみ！うぉぉぉぉぉ
！！！！！！」
マシンガンで弾幕を貼りつつ、ミサイルも同時発射するシグルド。その姿はもはや必死であった。

「ここで勝たなくては、ここで勝たなくては、どこで勝つんだっ！」
ヒルダにとってそれは格好の餌食であっただろう。あまりの復讐心の故、我を忘れているパイロットなどヒルダの敵ではなかった。マシンガンを打ち払いつつもヒルダは６連ミサイルとエネルギーサブマシンガンで応戦する。シグルドもまた左右の微妙な動きでミサイルとエネルギーサブマシンガンを避けながら接近のチャンスを窺う。

「シグルド！みんな！冷静になれ！このままだと全滅は時間の問題だぞ！」
ザックスがすでにパニック状態の味方陣営に必死に訴えかける。

「そうですよ！みなさん一度陣形をたてなおしましょう！」
すでにゲシュペントと戦闘態勢に入っていたロイドも叫んだ。しかしシグルドの耳にそんなものは入っていなかった。彼にはコカトリスしか映っていなかったのだ。シグルドとヒルダはその戦闘場所を空中に変え、ヒットアンドアウェイ戦法で、接近してはブレード、距離を置いてはマシンガンを繰り返していた。

「・・・・・・・・・！！！！そこだ！！！！」
シグルドはヒルダの空中での一瞬の隙をついて斜め上空から強烈な突きをはなった。しかし、それはヒルダの仕掛けた罠であった。
次の瞬間、強烈な突きを避けたコカトリスの左手が、サーベルごとシグルドのＡＣを貫いていた。シグルドとヒルダは空中で一つとなりヒルダの全開のブーストとシグルドのＡＣの重量が相殺し合って、高度６０００あたりでホバリング状態となる。

「そんな・・・リコース・・・すま・・・ねぇな・・・・・・、仇は・・・うてなかったよ・・・・・・」
めり込むコカトリスのこぶしに押しつぶされたコクピット内でシグルドがつぶやいた。

「・・・・・・愛・・・仇・・・そんな感情で無限の力をだせると思っていたのかもしれない・・・」
二機はゆっくりと降下を始める。

「だが・・・・・・あながち・・・・・・嘘ではなかったようだな！」
シグルドはそう言うと、最後の力を振り絞って唯一生き残っている右手のマシンガンをコカトリスの背中に回りこませた。

「リコーーーーーーーーーース！！！！！！！！」
シグルドは思いっきりマシンガンのトリガーを引いた。弾丸はコカトリスの背中に何発も食いこんだ。

「そういえば・・・マシュー少佐もこういう死に方だったらしいな・・・・・・これが連合企業レイブンの運命か・・・」
コカトリスのブーストが切れ、二機は炎に包まれながら降下する。

「最後に・・・・・・ヒルダさんとやらの・・・お顔を拝んでみますか・・・・・・」
シグルドはコカトリスのこぶしで風穴のできたコクピットから最後の力を振り絞って乗り出した。すぐ手の届く範囲にコカトリスのコクピットハッチがあった。

シグルドはハッチの開閉スイッチを押した。


「！！！！！！！」
シグルドの声は爆発音でかき消され、誰のみ耳にも届くことは無かった。二機は炎に包まれながらしばらくして地面に叩きつけられた。その二機のＡＣは二度と動くことは無かった。


「ヒルダがやられた！？おいおい、嘘だろ！？」
ライオネックは信じられないといった表情で愕然とした。一度に五、六機なら軽く相手にできるヒルダがたった一機と引き分けたのだ。

「シグルドォォォォ！！！！」
また一人戦友を無くしたザックス、彼はこの数日で一生分の涙を流したことだろうか。しばらくしてザックスの元へと通信が入った。それはレドルラックからのものであった。

「ザックス少佐、これより我々『影』はゼセーナンのいると思われる地下へと侵入する。地上の指揮は君に任せよう」
レドルラックからの通信はシグルド達味方の死については一切語らず、ただ指令そのものだった。

「おい、まてよ、なんか言うことがあるんじゃないのか」

「・・・・・・地上の指揮は頼んだぞ」
そう言うとレドルラックと配下数機のＡＣが、はるか空高くまで聳え立っているビルの地上入り口に入っていった。

「レドルラック・・・・・・なんなんだ、あいつは・・・・・・」
次々と味方ＡＣがスクリーマーによって倒される中、残ったＡＣはザックス隊全機、ハイデッカー隊二機、ルイス機、ルーブルザント隊三機だった。ハワード隊や他のＡＣ部隊はすでに壊滅していた。

「ザックス隊！奴を追ってください！」
そう通信したのはハイデッカーだった。いや、その思いはルイスも、ルーブルザントも同じであった。

「奴には絶対裏がある、それを確かめてくれ！ザックス！」

「だが奴らはどうするんだ、あと６機もいるんだぞ！」

「・・・・・・どっちみち勝てやしないさ、どうせ勝てないんならせめて謎だけでも解こうぜ」
ルーブルザントも通信に割り込んでくる。

「ぐずぐずするな！スクリーマーは俺達にまかせてくれ！」

「・・・・・・・・・わかったっ！まかせたぞ！ザックス隊！地下へ侵入する！」

「了解！」
ロイド、シーマット、桃季が声をそろえて言った。ザックス隊は地下入り口へと向かおうとする。

「そっちで勝手に話しが進んでいるようだが・・・・・・・・・誰が地下へ言っていいと許可した？」

ライオネックが静かに言った。それを受けて、ハイデッカーはガンのトリガーに指をかけながら言い放った。

「それは・・・連合企業レイブン全員がだよ！ザックスたち！行ってください！！！！」
残存している連合企業ＡＣはザックス隊以外が、全機一丸となってスクリーマーに突撃した。それは、シグルドと同じで必死であった。しかし、ただ必死なのではなく、友のために、大切なもののために必死だったのは、彼らもシグルドもいっしょなのであった。

「うぉぉぉぉぉ！」
ザックス達は援護射撃をうけながら、なんとか地下入り口へと辿り着く。そこにはエレベーターが用意されていた。



「いくぞ、みんな」

「もちろんです。少佐」

「これは連合企業全員の意見ですよ」

「いきましょう、地下へ」
ロイド、シーマット、桃季に迷いの色は無かった。

「行くぞっ！」
４機は巨大なエレベーターに乗りこむと、その姿を闇の中へと消して行った。



「さて、行ったな」
ハイデッカー

「あぁ行った」
ルイス

「なら、そろそろか」
ルーブルザント

「そうだな、彼らには生きてもらわなければならなかった。そのためなら、俺達の命、捧げるさ」
ハイデッカー達は東の空を見上げた。そこには４つの光が見えた。


その四つの光は「核ミサイル」の光だった。

「父さん、ちゃんと約束守ってくれたんだ。４時きっかりにここへ核ミサイルを４発うちこんでくれっていう約束、ちゃんと守ってくれたんだ」

「ハイデッカー、あんたの父さんは偉いぜ、普通子供がいるところに核ミサイルなんてうちこめないぜ」

「これでこそ父さんだ。こんなところで情に駆られて迷ってしまうなんて父さんじゃない。これでこそ連合企業軍務局長エンフォッジ・ジルバッツだよ」


「あぁ、そうだな」
ハイデッカー達の動きをみてライオネックもようやく事態に気付く。

「何！？お前ら正気か！？あれは核ミサイルだぞ！？この辺一体吹き飛んでしまうんだぞ！？」
ライオネックが通信機に向かって叫びかける。

「もう遅いさ、完全ステルスのミサイル、バリア完備さ。絶対に落とせやしない」
ハイデッカーが答える。

「っけ・・・・・・そういうことか、だからあいつらをビル内に行かせたのか、確かにお前らの中じゃ、あいつらが一番まともだからな」

「一番強いか・・・・・・それもあるが、それだけじゃない」

「他に何があるんというんだ？」

「あんたらにはわかりゃしないさ、愛や、友情、信頼を知らないあんたらにはな」


核ミサイル着弾まであと２０秒


「愛、友情、信頼か、そりゃ無理な話だ」
ライオネックはＡＣの全システムを停止させた。

「なぜ無理なんだ？」
ハイデッカーの問いに、ライオネックは一つのスイッチを押した。するとスクリーマーＡＣの全システムが停止した。そしてハッチがゆっくりと開いた。


核ミサイル着弾まであと１０秒


「こっ、これは！？」
ハイデッカー達の目に飛び込んできたのは人間の姿が見られない、小さなコクピットだった。

「・・・・・・・・・・・・俺だけが機械人形じゃない、人間の友達が欲しかったな」


着弾―――


核ミサイルの光は当たり一面をすべて飲み込んだ。そこにいたＡＣは、スクリーマーであろうと連合企業軍であろうと、すべてが灰となった。しかし核ミサイルは地下にはさほどのダメージをあたえることはなかったのだった。

無人ＡＣであったスクリーマー、ライオネックはそれらを全て一人で管理していたのだ。

そう、シグルドが死ぬ直前に見たものは、「ＨＩＬＤＡ」と書かれた人気のないコクピットだった。

一騎当千の強さを誇ったスクリーマー・・・それが無人機だったなんて。
戦いに命を賭け、そして散っていった人々は何を思うのでしょうか？

さ、読まれた方は、気力をＳＡＬさんに送って執筆活動をがんばってもらいましょう。